(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118973
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】インサート焼結部品
(51)【国際特許分類】
B22F 5/00 20060101AFI20230818BHJP
【FI】
B22F5/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112363
(22)【出願日】2023-07-07
(62)【分割の表示】P 2020014473の分割
【原出願日】2020-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】竹添 真一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】坂井 秀男
(57)【要約】
【課題】焼結軸受等の焼結部品の高さにバラツキがある場合でも、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とをインサート成形により適切に一体化する。
【解決手段】第1端部121及び第2端部122を有する焼結部品10と、焼結部品10の外周部に一体に成形された外装部品20とを有し、外装部品20の外周面と第1端部121及び第2端部122のいずれか一方の端部側に位置する外装部品20の端面との交差部位に形成される稜線にパーティングラインが形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部及び第2端部を有する焼結部品と、該焼結部品の外周部に一体に成形された外装部品とを有し、前記外装部品の外周面と前記第1端部及び前記第2端部のいずれか一方の端部側に位置する前記外装部品の端面との交差部位に形成される稜線にパーティングラインが形成されていることを特徴とするインサート焼結部品。
【請求項2】
前記焼結部品の前記第1端部及び前記第2端部の少なくともいずれか一方の端部は、前記外装部品から突出しており、前記焼結部品の前記一方の端部の外周面に前記一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインサート焼結部品。
【請求項3】
前記焼結部品は、前記第1端部及び前記第2端部を貫通する1つの貫通孔を有し、該貫通孔に前記第1端部及び前記第2端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインサート焼結部品。
【請求項4】
前記焼結部品は、焼結軸受からなることを特徴とする請求項3に記載のインサート焼結部品。
【請求項5】
前記焼結部品は、前記第1端部及び前記第2端部を貫通する1つの貫通孔を有する焼結軸受からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のインサート焼結部品。
【請求項6】
前記焼結部品の外周部に溝又は突条が形成されていることを特徴とする請求項1、3及び4のいずれか一項に記載のインサート焼結部品。
【請求項7】
前記焼結部品の前記外周部に前記一方の端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、前記大径部には、該大径部の外周面に軸方向に沿う溝又は突条、及び前記大径部の端面に半径方向に沿う前記溝又は突条の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする請求項2に記載のインサート焼結部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結軸受等の焼結部品と外装部品とを一体化したインサート焼結部品に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結軸受は、焼結体の内部にあらかじめ潤滑油を含浸させておき、軸の回転によるポンプ作用と摩擦熱による熱膨張により油をしみ出させて摩擦面を潤滑することができ、無給油で長期間使用できることから、自動車や家電製品、音響機器等の回転軸の軸受として広く採用されている。
このような焼結軸受を自動車等の構造体に組み込むために、インサート成形により筐体等の外装部品と一体化することが行われる。この場合、焼結軸受にラジアル荷重とスラスト荷重が作用するため、外装部品に対する回転と軸方向の脱落との両方の移動を防止する必要がある。
【0003】
例えば特許文献1では、焼結軸受(焼結部品)の外周面において互いに軸方向に一致しない位置に、その両端面からそれぞれの端面にかかり軸方向に沿ってその途中まで延びる有底溝を形成したものが開示されている。この焼結軸受の外周部にインサート成形により樹脂部品(外装部品)を一体に成形すると、有底溝内に樹脂が入り込んだ状態となるため、回転止めと軸方向の脱落防止ができると記載されている。
また、特許文献2では、焼結軸受(焼結部品)の外周面に、軸方向に延びる溝部と、周方向に延びる拡径部とが形成され、溝部が拡径部の周方向の延びを分断している形態のものが開示されている。この焼結軸受の外周部にインサート成形により樹脂部品を一体に成形すると、溝部内に樹脂が入り込むことにより、樹脂部品に対して焼結軸受が回転止めされるとともに、拡径部が樹脂部分に食い込むように一体化されることにより、焼結軸受の軸方向へ抜け止めがなされるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-159720号公報
【特許文献2】特開2003-193113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような焼結軸受等の焼結部品を樹脂部品にインサート成形する場合、成形用金型内に配置した焼結部品の外周部に空間(キャビティ)を形成し、そのキャビティ内に溶融樹脂(溶融材料)を射出して充填する。このとき、樹脂部品により焼結部品の外周部が覆われるようにするために、焼結部品の両端面を成形用金型に当接させた状態でその外周面の周囲にキャビティが形成される。
しかしながら、焼結部品を同じ寸法で製造しても、高さのバラツキをなくすことは難しく、例えば、焼結部品の高さがあらかじめ設定された寸法よりも若干低い場合、焼結部品の一方の端面と成形用金型との間に隙間が生じるため、外装部品となる溶融材料が隙間内に入り込み焼結部品の端面に膜を形成する。一方、焼結部品の高さがあらかじめ設定された寸法よりも若干高い場合、焼結部品により成型用金型が押圧されて、成型用金型のパーティングラインに隙間が生じ、その隙間から溶融材料がはみ出してバリとなる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、焼結軸受等の焼結部品の高さにバラツキがある場合でも、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とをインサート成形により適切に一体化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインサート焼結部品の製造方法は、粉末成形により第1端部及び第2端部を有する焼結部品を形成する焼結部品形成工程と、前記焼結部品の外周部に外装部品を一体化したインサート焼結部品を形成するインサート成形工程と、を有し、
前記インサート成形工程に用いられる成形用金型は、固定型及び可動型を有し、前記固定型と前記可動型とのパーティング面は、前記可動型の移動方向に沿って形成されており、
前記インサート成形工程では、前記固定型と前記可動型との間に前記焼結部品を保持し、前記パーティング面に沿わせて前記可動型を移動させ、該可動型により前記焼結部品を前記固定型に向けて押圧することにより、前記焼結部品の第1端部における前記固定型に当接する部位、及び前記焼結部品の第2端部における前記可動型に当接する部位を除く領域の周囲を前記成形用金型により間隔をあけて覆って前記焼結部品の周囲にキャビティを形成する型組み工程と、該型組み工程の後に前記キャビティに前記外装部品となる溶融材料を充填する充填工程とを有する。
【0008】
本発明のインサート焼結部品は、第1端部及び第2端部を有する焼結部品と、該焼結部品の外周部に一体に成形された外装部品とを有し、前記外装部品の外周面と前記第1端部及び前記第2端部のいずれか一方の端部側に位置する前記外装部品の端面との交差部位に形成される稜線にパーティングラインが形成されている。
【0009】
本発明によれば、成形用金型のパーティング面に沿って可動型が移動する構成であるため、焼結部品の高さにバラツキが生じた場合でも、可動型により焼結部品を固定型に向けて押圧するので、固定型及び可動型を確実に焼結部品に当接させることができる。このため、固定型及び可動型の当接部位が外装部品の材料により膜状に覆われること、及びバリが生じることが防止される。また、外装部品の外周面や端面ではなく、稜線にパーティングラインが形成されるので、インサート焼結部品の外観を向上できる。さらに、焼結部品の外周部に溝又は突条が形成されている場合には、焼結部品及び外装部品が焼結部品の溝又は突条により回転止めされた状態で一体化される。
【0010】
インサート焼結部品の製造方法の一つの実施態様として、前記焼結部品形成工程では、前記第1端部及び前記第2端部の少なくともいずれか一方の端部の外周面に、該一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面を形成し、前記固定型及び前記可動型の少なくとも一方には、前記外側傾斜面に当接する第1テーパ面を有する凹部が形成されており、前記型組み工程では、前記第1テーパ面を前記外側傾斜面に当接させるとよい。
この場合、焼結部品は、第1端部及び第2端部を貫通する1つの貫通孔を有する焼結軸受からなるとよい。
【0011】
インサート焼結部品の製造方法の他の一つの実施態様として、前記焼結部品形成工程では、前記第1端部及び前記第2端部を貫通する1つの貫通孔を形成するとともに、該貫通孔に前記第1端部及び前記第2端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面を形成し、前記固定型及び前記可動型の少なくとも一方には、前記内側傾斜面に当接する第2テーパ面を有する凸部が形成されており、前記型組み工程では、前記第2テーパ面を前記内側傾斜面に当接させるとよい。
この場合、焼結部品は、焼結軸受からなるとよい。
【0012】
上記各態様では、焼結部品の外周面に設けられた外側傾斜面が第1テーパ面に覆われる、もしくは、焼結部品の貫通孔に設けられた内側傾斜面が第2テーパ面により覆われるので、少なくとも第1端部及び第2端部のいずれか一方の端部が外装部品の材料により膜状に覆われることをより確実に防止できる。また、焼結部品が焼結軸受からなる場合には、貫通孔(軸受孔)が外装部品の材料により膜状に覆われることを防止できる。
【0013】
インサート焼結部品の一つの実施態様として、前記焼結部品の前記第1端部及び前記第2端部の少なくともいずれか一方の端部は、前記外装部品から突出しており、前記焼結部品の前記一方の端部の外周面に前記一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面が設けられているとよい。この場合、焼結部品は、前記第1端部及び前記第2端部を貫通する1つの貫通孔を有する焼結軸受からなるとよい。
【0014】
インサート焼結部品の他の一つの実施態様として、前記焼結部品は、前記第1端部及び前記第2端部を貫通する1つの貫通孔を有し、該貫通孔に前記第1端部及び前記第2端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面が設けられているとよい。この場合、焼結部品は、焼結軸受からなるとよい。
【0015】
インサート焼結部品の一つの実施態様として、前記焼結部品の外周部に溝又は突条が形成されているとよい。
【0016】
インサート焼結部品の他の一つの実施態様として、前記焼結部品の前記外周部に前記一方の端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、前記大径部には、該大径部の外周面に軸方向に沿う溝又は突条、及び前記大径部の端面に半径方向に沿う前記溝又は突条の少なくともいずれかが形成されているとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、焼結軸受等の焼結部品の高さにバラツキがある場合でも、焼結部品と樹脂部品等の外装部品とをインサート成形により適切に一体化できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態のインサート軸受を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のインサート軸受に用いられている焼結軸受の縦断面図である。
【
図3】
図2の焼結軸受を軸方向の第1端部側から視た端面図である。
【
図4】第1実施形態のインサート軸受の製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】成形工程で成形体を形成している状態を示す縦断面図である。
【
図6】矯正工程において、左半分が焼結体を矯正している状態、右半分が矯正金型から焼結体を取り出した状態を示す縦断面図である。
【
図7】射出成形工程において、型締め工程時の状態を示す縦断面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態の焼結軸受の縦断面図である。
【
図9】
図8の焼結軸受を軸方向の第1端部側から見た端面図である。
【
図10】
図8の焼結軸受の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。
【
図11】本発明の第3実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の縦断面図である。
【
図12】
図11の焼結軸受を軸方向の第1端部側から視た端面図である。
【
図13】本発明の第4実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。
【
図14】本発明の変形例に係るインサート焼結部品に用いられる焼結部品の型締め工程時の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の各実施形態は、焼結軸受に樹脂部品を射出成形によって一体化する実施形態である。したがって、本発明の外装部品は各実施形態では樹脂部品であり、インサート成形工程は射出成形工程である。
なお、以下の各実施形態では、焼結部品として焼結軸受を例示し、インサート焼結部品としてインサート焼結軸受(インサート軸受)を例示して説明する。
【0020】
[第1実施形態]
まず、第1実施形態のインサート軸受について説明する。この実施形態では、インサート軸受に用いられる焼結軸受の外周部の一方の端部を除く領域に大径部が設けられ、この大径部が焼結軸受の一方の端部より外径が大きい例について説明する。
このインサート軸受1は、
図1に示すように、金属粉末の焼結体により形成された筒状の焼結軸受10と、この焼結軸受の外周部に一体に成形された樹脂部品20(本発明の外装部品に相当)とを有している。
焼結軸受10は、
図2及び
図3に示すように、中心に軸受孔11が貫通状態に形成され、軸受孔11の上端部側に位置する第1端部121と、軸受孔11の下端部側に位置する第2端部122とを備えている。つまり、軸受孔11は、第1端部121及び第2端部122を貫通する1つの貫通孔からなる。また、焼結軸受10は、第1端部121よりも軸方向中間部分の外径が大きい大径部13を有しており、この大径部13は、第2端部122まで延びている。つまり、大径部13の第2端部122側の端面と第2端部122の端面とは同一平面状に位置し、連続した状態となっている。
【0021】
また、焼結軸受10の第1端部121は、大径部13から第1端部121に向かうにしたがって漸次縮径するテーパ状に形成されている。このテーパ面(外側傾斜面123)の勾配は、例えば15°(テーパ角30°)に形成され、その一部が樹脂部品20から突出している。
また、軸受孔11の両端部は、第1端部121の端面及び第2端部122の端面に向かうにしたがって漸次外径を大きくしたテーパ状に形成されている。この軸受孔11のテーパ面111は、本発明の内側傾斜面に相当し、後述する成形工程時又は矯正工程時や、矯正工程後の機械加工(切削加工)等により形成される。
【0022】
また、大径部13の外周面には、軸方向に沿う複数(4本)の溝14が大径部13の両端面まで大径部13の全長にわたって形成されており、開放状態の両端は、それぞれテーパ面に形成されている。これら4本の溝14は、
図3に示すように、90°間隔で形成されている。これら溝14は、その最深部が凹円弧面に形成され、その両側が凸円弧面により大径部13の外周面に繋がる形状である。
なお、本実施形態では、溝14のみが形成されている例を示したが、例えば、大径部13に半径方向に突出する凸条が軸方向に沿って形成されていてもよい。
【0023】
一方、焼結軸受10は、
図1に示すように、第1端部121の先端部(第1端部121の端面に連続する側の端部)を除く領域の外周部が樹脂部品20により埋設されている。つまり、樹脂部品20は、焼結軸受10の外周部に、第1端部121の先端部を露出させ、第1端部121の基端部(付け根の部分)及び大径部13を埋設している。すなわち、樹脂部品20において、焼結軸受10の外周部に軸受保持部21が一体に固定され、該軸受保持部21は、焼結軸受10の全体高さと略同じ高さに形成され、焼結軸受10の第1端部121の軸方向の途中位置から大径部13の全体を埋設している。したがって、大径部13の両端面は軸受保持部21により覆われた状態である。なお、符号22は他の部分と連結されるブラケットを示す。
【0024】
このように形成されたインサート軸受1を製造する方法(インサート焼結部品の製造方法)について説明する。
このインサート軸受1を製造する場合、
図4のフローチャートに示すように、まず粉末成形により焼結軸受10を形成する焼結軸受形成工程(焼結部品形成工程)と、焼結軸受形成工程で形成された焼結軸受10を射出成形金型60(本発明の成形用金型に相当)内に配置し、射出成形により、焼結軸受10の外周部に一体に樹脂部品20を形成する射出成形工程(本発明のインサート成形工程に相当)とを経て、製造される。以下、工程順に詳述する。
【0025】
<焼結軸受形成工程>
焼結軸受形成工程は、焼結軸受10となる成形体10´を形成する成形工程、成形体10´を焼結して焼結体(図示略)を形成する焼結工程、その焼結体を矯正する矯正工程(サイジング工程)とを有する。
【0026】
(成形工程)
成形体10´を形成するための成形金型40は、
図5に示すように、円形の貫通孔41が形成されたダイ42と、その貫通孔41内に配置されるコアロッド43との間に、外側から第1上側パンチ44及び第2上側パンチ46が設けられ、これら第1上側パンチ44及び第2上側パンチ46に対向する第1下側パンチ45が設けられている。これらパンチ44~46はコアロッド43を中心とする同心円の筒状に形成される。
【0027】
そして、ダイ42とコアロッド43、及び第1下側パンチ45により形成した空間内に粉末を充填し、これを上下の各パンチ44~46で圧縮することにより、成形体10´を形成する。このとき、第1上側パンチ44の先端を
図5に示すような傾斜面を有する形状とし、第1下側パンチ45と第1上側パンチ44との距離よりも第1下側パンチ45と第2上側パンチ46間の距離を小さくすることにより、外周部に大径部13´を形成した成形体10´が形成される。また、コアロッド43により軸受孔11´が貫通状態に形成される。
【0028】
(焼結工程)
得られた成形体10´を加熱して粉末を焼結させ、焼結体を形成する。
【0029】
(矯正工程)
焼結体を矯正金型80により矯正(サイジング)する。この矯正工程は、外形を最終寸法に仕上げつつ、大径部13の外周部に溝14を形成する。
この矯正に用いられる矯正金型80は、
図6に示すように、円形の貫通孔81が形成されたダイ82と、その貫通孔81内に配置されるコアロッド83との間に、外側から第1上側パンチ84と第1下側パンチ85、第2上側パンチ86と第2下側パンチ87が、それぞれ上下組をなすように設けられている。この場合、ダイ82の貫通孔81の内周面に軸方向に沿って貫通する複数の凸条88が周方向に間隔をおいて形成されており、第1上側パンチ84及び第1下側パンチ85の外周部に、ダイ82の凸条88をスライド自在に嵌合する溝部89が周方向に間隔をおいて形成されている。
【0030】
そして、両第1パンチ84,85、両第2パンチ86,87により焼結体を軸方向に加圧しながらダイ82とコアロッド83との間に押し込むことにより、焼結体を矯正する。この矯正金型80に焼結体を配置して矯正することにより、大径部13の外周部に軸方向に沿う溝14が周方向に間隔をおいて形成される。
また、軸受孔11のテーパ面111は、矯正工程後の機械加工(切削加工)等により形成される。
【0031】
なお、焼結軸受形成工程の矯正工程において、溝14を形成することとしたが、これに限らず、成形工程において溝14を形成してもよい。また、軸受孔11のテーパ面111も成形工程又は矯正工程において形成してもよい。さらに、外側傾斜面123も、成形工程、矯正工程、矯正工程後の機械加工等のいずれで形成してもよい。
【0032】
<射出成形工程>
以上のようにして形成した焼結軸受10を射出成形工程により樹脂部品20と一体成形する。この射出成形工程は、焼結軸受10の外側にキャビティ61を形成した状態で射出成形金型60内に配置する型締め工程(本発明の型組み工程に相当)と、そのキャビティ61内に樹脂部品となる溶融樹脂(本発明の溶融材料に相当)を射出する射出工程(本発明の充填工程に相当)とを有する。
【0033】
(型締め工程)
射出成形金型60は、
図7に示すように、固定型62と可動型63とを有し、固定型62と可動型63とのパーティング面620は、可動型63の移動方向に沿って形成されている。これら固定型62と可動型63との間に焼結軸受10が保持され、その焼結軸受10の外周部に溶融樹脂が充填されるキャビティ61が形成される。この固定型62には、焼結軸受10の外側傾斜面123に当接する第1テーパ面641を有する凹部64が形成されており、この第1テーパ面641が外側傾斜面123に当接される。
【0034】
具体的には、焼結軸受10は、可動型63がパーティング面620に沿って移動することにより、可動型63により焼結軸受10が固定型62に向けて押圧される。このため、焼結軸受10の高さにバラツキが生じた場合でも、第1端部121の長さ方向の途中位置までが固定型62の凹部64内に嵌合状態に保持される。これにより、凹部64の第1テーパ面641を含む内周面が焼結軸受10の第1端部121の外側傾斜面123に全周にわたって当接する。また、第2端部122の端面には、可動型63の内面から突出する突出部65の端面が当接する。キャビティ61は、焼結軸受10の外周を囲むように形成された軸受保持空間66と、この軸受保持空間66に連通部67が連通している。キャビティ61の軸受保持空間66内には、焼結軸受10の大径部13の外周面及び端面、大径部13付近の第1端部121の基端部(付け根の部分)が露出している。そして、そのキャビティ61に、溶融樹脂が供給されるスプルー68がゲート69を介して接続され、スプルー68に溶融樹脂を射出するためのプランジャー(図示略)が接続される。
【0035】
(射出工程)
そして、型締めした射出成形金型60のキャビティ61内に溶融樹脂を射出する。このとき、キャビティ61内には射出圧が作用するが、固定型62の凹部64に焼結軸受10の第1端部121における先端部が嵌合状態に配置されるとともに、第2端部122が突出部65に当接している。このように第1端部121の先端部がキャビティ61内に露出していないので、射出圧は焼結軸受10の第1端部121における先端部を除く外面に作用する。このため、焼結軸受10の第1端部121の端面には溶融樹脂が漏れ出ることはない。また、射出圧が高まりパーティング面620から溶融樹脂が漏れ出すと、外装部品20の外周面にパーティングライン(図示省略)が形成される。この場合、金型60のパーティング面620は、
図7に示すように、可動型63の移動方向に沿って形成されているため、外装部品20の外周面と第1端部121側に位置する外装部品の端面との交差部位に形成される稜線に形成される。このため、樹脂部品20の外観にほぼ影響を及ぼすことがない。
【0036】
したがって、パーティング面620に沿って可動型63が移動する構成であるため、焼結軸受10の高さにバラツキが生じた場合でも、焼結軸受10に固定型62及び可動型63を当接させることができるので、固定型62及び可動型63の当接部位が外装部品20の材料により膜状に覆われること及びバリが生じることが防止される。そして、このインサート軸受1は、
図1に示すように、焼結軸受10の両端部12における先端部を除く大径部13を含む中央部分が樹脂部品20により囲まれており、焼結軸受10と樹脂部品20とが溝14により回転止めされるとともに、大径部13により軸方向に抜け止めされた状態で一体化している。そして、従来技術で述べたような焼結軸受の両端面に樹脂膜が形成されず、パーティングラインが上記稜線に形成されるため、外観を損なうことがなく、また、他の部品と干渉することも抑制される。
【0037】
[第2実施形態]
図8及び
図9は第2実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受10Aを示す図であり、
図10は、第2実施形態のインサート軸受の製造工程における型締め工程時の状態を示す図である。この実施形態の焼結軸受10Aは、第1実施形態の焼結軸受10に設けられていた大径部13を有していない筒状の焼結軸受10Aからなる。なお、この第2実施形態以降の各実施形態において、第1実施形態と共通する要素には同一符号を付して説明を簡略化する。
焼結軸受10Aは、
図8及び
図9に示すように、中心に軸受孔11(貫通孔)が貫通状態に形成され、軸受孔11の上端部側に位置する第1端部121Aと、軸受孔11の下端部側に位置する第2端部122Aとを備えている。この軸受孔11の両端部は、第1端部121Aの端面及び第2端部122Aの端面に向かうにしたがって漸次外径を大きくしたテーパ状に形成されている。この軸受孔11のテーパ面111Aは、本発明の内側傾斜面に相当し、成形工程時又は矯正工程時や、矯正工程後の機械加工(切削加工)等により形成される。
【0038】
また、焼結軸受10Aの外周面には、軸方向に沿う複数(4本)の溝14Aが形成されている。具体的には、焼結軸受10Aの高さの半分より短い4本の溝14Aが上記外周面の第1端部121A側に形成されている。これら溝14Aは、その最深部が凹円弧面に形成され、その両側が焼結軸受10Aの外周面に繋がる形状である。これら4本の溝14Aは、
図9に示すように、90°間隔で形成されている。
【0039】
このようなインサート軸受の製造方法は、上記第1実施形態の焼結軸受10の製造方法と略同じであるが、型締め工程及び射出成形工程に用いられる射出成形金型の形状が一部異なっている。以下詳しく説明する。
【0040】
射出成形金型60Aは、
図10に示すように、固定型62Aと可動型63Aとを有し、これら固定型62Aと可動型63Aとの間に焼結軸受10Aが保持され、その焼結軸受10Aの外周部に溶融樹脂が充填されるキャビティ61が形成される。焼結軸受10Aは、軸受孔11の第2端部122側に可動型63Aの凸部65Aが嵌まり込むことにより、凸部65Aの第2テーパ面651が軸受孔11のテーパ面111Aに全周にわたって当接している。また、第1端部121Aの端面には、固定型62Aの内面から突出する突出部64Aの端面が当接している。キャビティ61は、焼結軸受10の外周を囲むように形成された軸受保持空間66と、この軸受保持空間66に連通部67が連通している。キャビティ61の軸受保持空間66内には、焼結軸受10Aの外周面及び端面の一部が露出している。そして、そのキャビティ61に、溶融樹脂が供給されるスプルー68がゲート69を介して接続され、スプルー68に溶融樹脂を射出するためのプランジャー(図示略)が接続される。
【0041】
そして、型締めした射出成形金型60Aのキャビティ61内に溶融樹脂を射出する。このとき、キャビティ61内には射出圧が作用するが、可動型63Aの凸部65Aが焼結軸受10Aの第2端部122A側の軸受孔11内に嵌まり込み、凸部65Aの先端部が嵌合状態に配置されるとともに、第1端部121Aが突出部64Aに当接している。このように第2端部122A側の軸受孔11のテーパ面111Aと凸部65Aの第2テーパ面651とが当接しており、当該部位がキャビティ61内に露出していないので、射出圧は焼結軸受10Aの軸受孔11の第2端部122A側を除く外面に作用する。このため、焼結軸受10Aの軸受孔11における第2端部122A側の部位には溶融樹脂が漏れ出ることはない。また、射出圧が高まりパーティング面620から溶融樹脂が漏れ出すと、外装部品の外周面にパーティングライン(図示省略)が形成されるが、金型60Aのパーティング面620は、
図8に示すように、可動型63Aの移動方向に沿って形成されているため、外装部品の外周面と第1端部121A側に位置する外装部品の端面との交差部位に形成される稜線に形成される。このため、樹脂部品の外観にほぼ影響を及ぼすことがない。
【0042】
[第3実施形態]
図11及び
図12は第3実施形態のインサート軸受に用いられる焼結軸受10Bを示している。
この実施形態の焼結軸受10Bは、
図11及び
図12に示すように、上記第2実施形態と同様に、中心に軸受孔11(貫通孔)が貫通状態に形成され、軸受孔11の上端部側に位置する第1端部121Bと、軸受孔11の下端部側に位置する第2端部122Bとを備えている。この軸受孔11の両端部には、テーパ面111Bが成形工程時又は矯正工程時や、矯正工程後の機械加工(切削加工)等により形成されている。
【0043】
この焼結軸受10Bに形成される溝14Bは、
図11及び
図12に示すように、第1端部121Bの端面に形成されている。この溝14Bは、90°間隔で4本形成され、第1端部121Bの端面の半径方向に延びる形状である。これら溝14Bは、その最深部が平面に形成され、最深部から上側に向かうにしたがって漸次拡径する傾斜面を有している。
この実施形態における焼結軸受10Bは、溝14Bの形状のみが第2実施形態と異なるため、上記第2実施形態と同一の射出成形金型60Aが用いられて、インサート軸受となる。このため、本実施形態においても、上記第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0044】
[第4実施形態]
図13は第4実施形態のインサート軸受の製造工程における型締め工程時の状態を示す図である。
この実施形態の焼結軸受10Cは、上記各実施形態とは異なり、中実状に形成されたピボット軸受からなる。この焼結軸受10Cは、
図13に示すように、第1端部121Cと、第2端部122Cとを備え、第1端部121Cよりも外径が大きい大径部13Cを有している。また、第1端部121Cは、大径部13Cから第1端部121Cに向かうにしたがって漸次外径を小さくしたテーパ状に形成されている。このテーパ面(外側傾斜面123C)の勾配は、例えば15°(テーパ角30°)に形成されている。
【0045】
この焼結軸受10Cは、射出成形金型60C内に収容されてインサート軸受とされる。具体的には、焼結軸受10Cは、可動型63がパーティング面620に沿って移動することにより、可動型63により焼結軸受10が固定型62Cに向けて押圧される。このため、焼結軸受10Cの高さにバラツキが生じた場合でも、第1端部121Cの長さ方向の途中位置までが固定型62Cの凹部64C内に嵌合状態に保持される。これにより、凹部64Cの第1テーパ面641Cを含む内周面が焼結軸受10Cの第1端部121Cの外側傾斜面123Cに全周にわたって当接する。また、第2端部122Cの端面には、可動型63の内面から突出する突出部65の端面が当接する。
【0046】
そして、型締めした射出成形金型60Cのキャビティ61内に溶融樹脂を射出する。このとき、キャビティ61内には射出圧が作用するが、固定型62Cの凹部64Cに焼結軸受10Cの第1端部121Cにおける先端部が嵌合状態に配置されるとともに、第2端部122Cが突出部65に当接している。このように第1端部121Cの先端部がキャビティ61内に露出していないので、射出圧は焼結軸受10Cの第1端部121Cにおける先端部を除く外面に作用する。また、金型60Cのパーティング面620は、
図13に示すように、可動型63の移動方向に沿って形成されているため、外装部品の外周面と第1端部121C側に位置する外装部品の端面との交差部位に形成される稜線に形成される。このため、樹脂部品の外観にほぼ影響を及ぼすことがない。
このため、焼結軸受10Cが軸受孔11を有していない場合でも、上記各実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0047】
その他、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記第1実施形態では、第1端部121の外側傾斜面123を固定型62の凹部64内に収容し、第2端部122には可動型63の突出部65を当接させる構成としたが、これに限らず、第2実施形態のように、第2端部122側の軸受孔11のテーパ面111に第2テーパ面651を当接させる構成としてもよい。この場合、第1端部121及び第2端部122の両側から軸受孔11内に樹脂材料が侵入することを確実に抑制できる。
【0048】
上記各実施形態では、第1端部の端面や外周面の他、大径部に溝を形成する例を示したが、溝に代えて軸方向に沿う突条を形成してもよい。また、これら溝や突条は、周方向に間隔をおいて複数形成するのがよいが、1本のみ形成したものでもよい。
さらに、外装部品を樹脂部品により構成し、射出成形によってインサート成形する実施形態としたが、外装部品をアルミニウム合金等の金属部品とし、鋳造によってインサート成形するものにも本発明を適用することができる。その場合、鋳型(成形用金型)内に焼結部品を配置して型組みし(型組み工程)、その周囲のキャビティに金属部品となる溶融金属(溶融材料)を充填する(充填工程)ことにより、焼結軸受と金属部品の外装部品とが一体化する。
【0049】
上記実施形態では、焼結部品として焼結軸受を例示し、インサート焼結部品としてインサート軸受を例示したが、これに限らない。焼結部品は、バルブシートやブッシュ等であってもよい。つまり、本発明は、焼結軸受に限らず、焼結部品であれば適用でき、この焼結部品を外装部品で一体化した全ての製品に適用できる。
例えば、焼結部品は、
図14に示すような矩形板状の焼結部品10Dであってもよく、この場合、焼結部品10Dの第1端部121Dが固定型62Dの突出部64Dに当接し、第2端部122Dが可動型63の突出部65に当接する構成であればよい。つまり、焼結部品に外側傾斜面や内側傾斜面が形成されていないものも本発明の権利範囲である。
【符号の説明】
【0050】
1 インサート軸受(インサート焼結部品)
10,10A,10B,10C 焼結軸受(焼結部品)
10D 焼結部品
10´ 成形体
11 軸受孔(貫通孔)
111 テーパ面(内側傾斜面)
121,121A,121B,121C,121D 第1端部
122,122A,122B,122C,122D 第2端部
123,123C 外側傾斜面
13,13C 大径部
14,14A,14B 溝
20 樹脂部品(外装部品)
21 軸受保持部
40 成形金型
80 矯正金型
60,60A,60C 射出成形金型(成形用金型)
61 キャビティ
62,62A,62C,62D 固定型
63,63A 可動型
64,64C 凹部
641,641C 第1テーパ面
64A,64D,
65 突出部
65A 凸部
651 第2テーパ面
66 軸受保持空間
【手続補正書】
【提出日】2023-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部及び第2端部を有する焼結部品と、該焼結部品の外周部に一体に成形された外装部品とを有し、
前記焼結部品が焼結軸受からなり、
軸方向の端に設けられる前記第1端部が露出しており、
前記外装部品が樹脂又は金属からなり、
前記外装部品の外周面と前記第1端部及び前記第2端部のいずれか一方の端部側に位置する前記外装部品の端面との交差部位に形成される稜線にパーティングラインが形成されており、
前記パーティングラインには、前記樹脂又は前記金属が前記焼結軸受の軸方向に出ていることを特徴とするインサート焼結部品。
【請求項2】
前記焼結部品の前記第1端部は、前記外装部品から突出しており、前記第1端部の端面に向かうにしたがって漸次縮径する外側傾斜面が設けられていて、前記第1端部の先端部が露出していることを特徴とする請求項1に記載のインサート焼結部品。
【請求項3】
前記焼結部品は、前記第1端部及び前記第2端部を貫通する1つの貫通孔を有し、該貫通孔に前記第1端部及び前記第2端部の少なくともいずれか一方の端部の端面に向かうにしたがって漸次拡径する内側傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインサート焼結部品。
【請求項4】
前記焼結軸受が中実状に形成されたピボット軸受からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のインサート焼結部品。
【請求項5】
前記焼結部品は、前記第1端部及び前記第2端部を貫通する1つの貫通孔を有する前記焼結軸受からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のインサート焼結部品。
【請求項6】
前記焼結部品の外周部に溝又は突条が形成されていることを特徴とする請求項1、3~5のいずれか一項に記載のインサート焼結部品。
【請求項7】
前記焼結部品の前記外周部に前記第1端部よりも外径が大きい大径部が形成されるとともに、前記大径部には、該大径部の外周面に軸方向に沿う溝又は突条、及び前記大径部の端面に半径方向に沿う前記溝又は突条の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインサート焼結部品。