(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119081
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】MITOL産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/65 20060101AFI20230821BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230821BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20230821BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230821BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20230821BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230821BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K36/65
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61Q19/08
A61K8/9789
A61K36/28
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021701
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷 優治
(72)【発明者】
【氏名】新井 良平
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD27
4B018MD61
4B018ME10
4B018MF01
4B117LC04
4B117LG18
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083DD08
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE11
4C088AB26
4C088AB58
4C088AC03
4C088AC11
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA08
4C088MA13
4C088MA17
4C088MA28
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB22
4C088ZC52
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】
MITOL減少抑制又はMITOL産生促進剤を提供し、心機能低下などの心臓老化症状、白髪や脱毛といった皮膚老化症状、アルツハイマー病などの脳の老化症状を予防又は改善しうる医薬品、医薬部外品、化粧品又は飲食品を提供すること。
【解決手段】
シャクヤク抽出物、アルニカ抽出物、及びペオニフロリン又はその誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分とする、MITOL減少抑制又は産生促進剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャクヤク抽出物、アルニカ抽出物、及びペオニフロリン又はその誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分とする、MITOL減少抑制又は産生促進剤。
【請求項2】
請求項1に記載のMITOL減少抑制又は産生促進剤を含むことを特徴とする医薬品、医薬部外品、化粧品又は飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MITOL減少抑制又はMITOL産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは細胞内に存在する細胞内小器官の一つであり、主な機能としてエネルギーであるATPを産生することが挙げられる。従って、ミトコンドリア機能を維持することは、細胞ひいては体の機能を維持することに繋がる。ミトコンドリアの機能は、ミトコンドリアダイナミクスとも呼ばれるミトコンドリアの融合および分裂や、他の細胞内小器官との相互作用などにより制御されていることがわかってきている。ミトコンドリア外膜に局在するユビキチンリガーゼであるMITOLは、ミトコンドリアダイナミクスやミトコンドリアと小胞体との接着制御に関与していることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
心臓特異的にMITOLを欠損させたマウスは、心機能の低下が認められ、さらに、心臓老化を示す所見であるリポフスチンの沈着とSA-β-galの発現亢進が観察されている(非特許文献2)。また、皮膚表皮特異的にMITOLを欠損させたマウスは、白髪・脱毛といった皮膚老化様所見が(非特許文献3)、神経特異的にMITOLを欠損させたアルツハイマー病モデルマウスではアルツハイマー病の病態悪化が観察されている(非特許文献2)。
【0004】
これらのことから、MITOL低下が心臓老化、皮膚老化、脳の老化など広く老化症状の促進に関与していると考えられる。また、MITOLをノックダウンしたHELA細胞では老化マーカーであるSA-β-galの発現上昇がみられ、MITOLノックインによりレスキューされることが報告されている(非特許文献4)。このことから、MITOL低下により老化が促進され、低下したMITOLを元に戻すことで老化が回復することが示唆される。以上のことから、MITOL発現を上昇させるまたは活性化させるようなアプローチは抗老化に有用であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】長島駿 ほか(2014)生化学., 86(1):63-67
【非特許文献2】長島駿 ほか(2017)日本薬理学雑誌., 149(6):254-259
【非特許文献3】柳茂(2016)コスメトロジー研究報告., 24:149-152
【非特許文献4】Park et al. J Cell Sci. 2010;123:619-26.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、MITOL減少抑制又はMITOL産生促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで発明者らは鋭意検討した結果、毛包ケラチノサイトを用いた試験により、シャクヤク抽出物、アルニカ抽出物及びペオニフロリン又はその誘導体がMITOL遺伝子発現促進作用を有することを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)シャクヤク抽出物、アルニカ抽出物、及びペオニフロリン又はその誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分とする、MITOL減少抑制又は産生促進剤、
(2)請求項1に記載のMITOL減少抑制又は産生促進剤を含むことを特徴とする医薬品、医薬部外品、化粧品又は飲食品、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシャクヤク抽出物、アルニカ抽出物、ペオニフロリン又はその誘導体は、MITOL減少を抑制又はMITOL産生を促進することより、例えば心機能低下などの心臓老化症状、白髪や脱毛といった皮膚老化症状、アルツハイマー病などの脳の老化症状の予防又は改善効果が期待できる。また、素材スクリーニング等に際してポジティブコントロールとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、試験例1における、シャクヤク抽出物及びアルニカ抽出物が毛包ケラチノサイトにおいてMITOL遺伝子発現促進作用を有することを示したグラフである。
【
図2】
図2は、試験例1における、ペオニフロリンが毛包ケラチノサイトにおいてMITOL遺伝子発現促進作用を有することを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に用いるシャクヤク抽出物は、ボタン科のシャクヤク(学名Paeonia lactiflora Pallas)又はその他近縁植物(Paeoniaceae)の根から得られる抽出物である。
【0012】
本発明に用いるシャクヤク抽出物は、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒又はこれらの混液により抽出したものを使用することができるが、1,3-ブチレングリコールで抽出することが最も好ましい。または、エタノールと水の混液、又は多価アルコールと水の混液、又はエタノールと多価アルコールと水の混液で抽出することが好ましく、多価アルコールは1,3-ブチレングリコールが好ましい。また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。また、種々の試薬原料メーカーから購入したものを用いることも可能である。このようなシャクヤク抽出物の市販品としては、シャクヤク抽出液‐J(丸善製薬製)、ファルコレックス シャクヤク B(一丸ファルコス製)、シャクヤク抽出液BG‐50(香栄興業製)等が挙げられる。
【0013】
本発明に用いるアルニカ抽出物は、キク科のアルニカ(学名Arnica montana)の花から得られる抽出物である。
【0014】
本発明に用いるアルニカ抽出物は、水、低級脂肪族アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)、多価アルコール(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコールなど)、低級脂肪族ケトン(アセトンなど)などの溶媒又はこれらの混液により抽出したものを使用することができるが、エタノールと水の混液、又は多価アルコールと水の混液、又はエタノールと多価アルコールと水の混液で抽出することが好ましく、多価アルコールはプロピレングリコール又は1,3-ブチレングリコール、又はプロピレングリコールと1,3-ブチレングリコールの混液が好ましい。さらに、1,3-ブチレングリコールと水の混液が最も好ましい。1,3-ブチレングリコールと水からなる溶媒で抽出する場合、溶媒中における1,3-ブチレングリコールの含有量は、30~70体積%が好ましい。また、エキスの形態は特に制限されるものではなく、加熱処理、凍結乾燥あるいは減圧乾燥などの処理により、乾燥エキス末、エキス末、軟エキス、流エキスなどにすることができる。また、種々の試薬原料メーカーから購入したものを用いることも可能である。このようなアルニカ抽出物の市販品としては、アルニカ抽出液BG(丸善製薬製)、アルニカ抽出液(香栄興業製)等が挙げられる。
【0015】
本発明におけるペオニフロリン(Paeoniflorin)とは、モノテルペン配糖体の一種であり、CAS番号23180-57-6で特定される化合物である。主に、ボタン科シャクヤク(Paeonia lactiflora)の根に含まれ、薬理作用としてラット生体位胃運動と子宮運動を軽度に抑制し、またカンゾウ成分グリチルリチンとの併用によりマウス横隔膜神経標本において相乗的に作用し、筋弛緩作用を示すことが報告されている。ペオニフロリンは、ペオニフロリンを含有する植物等から抽出することができ、各種試薬メーカーから市販品を購入することもできる。ペオニフロリンの市販品としてはペオニフロリン(富士フイルム和光純薬株式会社、東京化成工業株式会社等)が挙げられる。また、ペオニフロリン誘導体としては、オキシペオニフロリン(Oxypaeoniflorin)、ベンゾイルペオニフロリン(Benzoylpaeoniflorin)、ベンゾイルオキシペオニフロリン(Benzoyloxypaeoniflorin)、ガロイルペオニフロリン(Galloylpaeoniflorin)などが挙げられる。
【0016】
本発明におけるMITOL産生促進とは、MITOL mRNA又はMITOLタンパク質の発現促進作用のことである。MITOL減少抑制とはMITOL mRNA又はMITOLタンパク質の減少抑制作用のことである。MITOL産生促進又は減少抑制作用は、細胞や臓器におけるMITOL発現量を評価することで確認できるが、その方法は特に限定されるものではない。
【0017】
投与形態としては、特に限定されるものではないが、外用や内服が挙げられる。本発明を外用で適用する場合の剤形としては、例えば、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、スプレー剤、シャンプー、コンディショナー、石鹸等が挙げられ、内服で適用する場合の剤形としては、錠剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、液剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、ゼリー剤、液状食品、半固形食品、固形食品等が挙げられる。
【0018】
これらは、公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬に含有可能な種々の添加物を配合することができる。
【0019】
本発明のMITOL減少抑制又は産生促進剤は、特に限定されるものではないが例えば心機能低下などの心臓老化症状、白髪や脱毛といった皮膚老化症状、アルツハイマー病などの脳の老化症状を予防又は改善するため、あるいは、MITOL産生を促進するための試薬として用いることも可能であり、好適には素材スクリーニング等を行なうに際し陽性対照薬として利用可能である。
【0020】
また、本発明のMITOL減少抑制又はMITOL産生促進剤は、これを含む製品(医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品、又は試薬)又はその説明書に、MITOL減少抑制又はMITOL産生促進剤を促進するために用いられる旨の表示を付することができる。ここで、「製品またはその説明書に表示を付した」とは、製品の本体、容器、包装などに表示を付したこと、あるいは製品の情報を開示する説明書、添付文書、宣伝物、申請資料、その他の印刷物又は広告などに表示を付したことを意味する。また、これら表示においては、MITOL減少抑制又はMITOL産生促進に起因する疾患や症状の予防又は治療のために用いられることに関する情報を含むことができる。
【0021】
本発明におけるシャクヤク抽出物の配合量、アルニカ抽出物の配合量、或いはペオニフロリン又はその誘導体の配合量(ペオニフロリン又はその誘導体を複数含む場合はその合計量)は、化粧品、医薬部外品、医薬品、飲食品又は試薬で提供する場合、それぞれ、組成物全体に対して0.000001~10質量%、好ましくは0.0001~5質量%、より好ましくは0.001~1質量%である。
【実施例0022】
以下に実施例および試験例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0023】
(試験例1)
シャクヤク抽出物、アルニカ抽出物及びペオニフロリンのMITOL遺伝子発現促進作用の評価
ヒト毛包ケラチノサイト(コスモバイオ)を培養プレートに播種し、37℃、CO
2 5%にセットしたインキュベーター内で培養した。培地には、Humedia‐KG2(倉敷紡績)を用いた。培養後、被験物質(シャクヤク抽出物、アルニカ抽出物又はペオニフロリン)を添加してさらに2日間培養した。その後、ライセートバッファーを添加して細胞を溶解し、細胞溶解液を回収した。細胞溶解液より、RNeasy Mini Kit(キアゲン)又はMaxwell(登録商標)RSC simplyRNA Cells Kit(プロメガ)を用いて、添付のプロトコールに従いRNAを回収し、これを鋳型として、Prime Script RT Master mix(タカラバイオ)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。合成したcDNAから、リアルタイムPCRシステム(Step One Plus、サーモフィッシャーサイエンティフィック)により、RPLP2及びMITOLそれぞれのmRNAの発現量を測定し(SYBR Green法)、MITOLの発現量をRPLP2発現量により補正した。プライマーは、次の型番のものを用いた。RPLP2:HA067804(タカラバイオ)、MITOL:HA192576(タカラバイオ)。
被験物質であるシャクヤク抽出物、アルニカ抽出物は終濃度0.3v/v%で添加し、ペオニフロリンは終濃度5mMで添加した。
図1に記載のコントロールは、シャクヤク抽出物及びアルニカ抽出物群から当該エキスを除いたもの(溶媒等の他の条件は全てシャクヤク抽出物及びアルニカ抽出物と同一)とした。
図2に記載のコントロールは、1%DMSO添加群とした。
【0024】
<試験結果>
図1はシャクヤク抽出物及びアルニカ抽出物のMITOL産生促進作用を評価した結果である。コントロール群の発現量を1としたときの各群のMITOL相対発現量を示す。シャクヤク抽出物及びアルニカ抽出物は、MITOL発現量を有意に増加させた。
【0025】
図2はペオニフロリンのMITOL産生促進作用を評価した結果である。コントロール群の発現量を1としたときの各群のMITOL相対発現量を示す。ペオニフロリンは、MITOL発現量を有意に増加させた。
本発明のMITOL減少抑制又は産生促進剤は、例えば心機能低下などの心臓老化症状、白髪や脱毛といった皮膚老化症状、アルツハイマー病などの脳の老化症状を予防又は改善するための化粧品、医薬部外品、医薬品又は飲食品の分野に利用可能である。また、MITOL産生を促進する成分や、MITOL減少を抑制する成分のスクリーニングに際し、ポジティブコントロールとして用いることができる。