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特開2023-119087光硬化性樹脂組成物、成形用ハードコートフィルム及びそれを用いた成形品、並びにインサート成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119087
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物、成形用ハードコートフィルム及びそれを用いた成形品、並びにインサート成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/06 20060101AFI20230821BHJP
   C08G 18/83 20060101ALI20230821BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20230821BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230821BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230821BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230821BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20230821BHJP
【FI】
C08F299/06
C08G18/83 010
C08F290/06
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
C08J5/18 CEY
C08J7/046 CFF
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021721
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正章
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F100
4J034
4J127
【Fターム(参考)】
4F006AA22
4F006AA35
4F006AA36
4F006AB37
4F006AB43
4F006AB64
4F006AB68
4F006BA02
4F006CA04
4F006DA04
4F006EA03
4F071AA33
4F071AA53
4F071AA53X
4F071AC07
4F071AC12
4F071AC15
4F071AC19
4F071AE02
4F071AE03
4F071AE05
4F071AF02
4F071AF21
4F071AF22
4F071AF30
4F071AF57
4F071AG02
4F071AG05
4F071AG15
4F071AH07
4F071BA02
4F071BA09
4F071BB01
4F071BB02
4F071BB12
4F071BC02
4F100AH06
4F100AH06A
4F100AK25
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK41
4F100AK41B
4F100AK45
4F100AK45B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02
4F100CA02A
4F100EH31
4F100EH36
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ54
4F100EJ54A
4F100EJ86
4F100GB31
4F100JA07
4F100JA07A
4F100JB14
4F100JB14A
4F100JK12
4F100JK12A
4J034BA02
4J034CA04
4J034CB03
4J034CC03
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA14
4J034JA32
4J034JA34
4J034LA13
4J034QD01
4J034RA13
4J127AA03
4J127AA04
4J127BB051
4J127BB111
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC061
4J127BC131
4J127BD441
4J127BE241
4J127BE24Y
4J127BF151
4J127BF15X
4J127BF621
4J127BF62X
4J127BG041
4J127BG04X
4J127BG04Y
4J127BG04Z
4J127BG121
4J127BG12X
4J127BG12Y
4J127BG12Z
4J127BG271
4J127BG27X
4J127BG27Y
4J127BG27Z
4J127CB37
4J127DA47
4J127EA13
4J127FA01
4J127FA21
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性や耐薬品性を有し、破断伸度が高く成形性が良好であると共に、屋外での使用にも耐えうる優れた耐候性を有する成形用途に適した光硬化性樹脂組成物、及びこれを塗工した成形用ハードコートフィルムと成形品、並びにインサート成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】エチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させたウレタンアクリレートと、シリコーン含有アクリル(メタ)アクリレートと、光安定剤と、光重合開始剤と、を含み、前記ウレタンアクリレートの重量平均分子量が2,000~12,000であり、前記シリコーン含有アクリル(メタ)アクリレートの配合量が前記ウレタンアクリレート100重量部に対し0.5~30重量部であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールとイソホロンジイソシアネートを反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレートを更に反応させたウレタンアクリレート(A)と、シリコーン含有アクリル(メタ)アクリレート(B)と、光安定剤(C)と、光重合開始剤(D)と、を含み、前記(A)の重量平均分子量が2,000~12,000であり、前記(B)の配合量が前記(A)100重量部に対し0.5~30重量部であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)が、アクリル主鎖にシリコーン側鎖を有するアクリル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
プラスチック基材上に請求項1又は2いずれか記載の光硬化性樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする成形用ハードコートフィルム。
【請求項4】
前記プラスチック基材がポリカーボネート基材、アクリル基材、ポリエステル基材、又はこれらの複合基材の群から選択される基材であることを特徴とする請求項3記載の成形用ハードコートフィルム。
【請求項5】
前記成形用ハードコートフィルムがインサート成形用又はアウトモールド成形用であることを特徴する請求項3又は4いずれか記載の成形用ハードコートフィルム。
【請求項6】
前記成形用ハードコートフィルムを、金型を用いて賦形後、光硬化性樹脂硬化層とは反対側から溶融樹脂を射出して樹脂成形品を形成することを特徴とする請求項3又は4いずれか記載のインサート成形品の製造方法。
【請求項7】
前記溶融樹脂が着色されていることを特徴とする請求項6記載のインサート成形品の製造方法。
【請求項8】
インサート成形品が車両外装用途であることを特徴とする請求項6又は7いずれか記載のインサート成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項3~5いずれか記載の成形用ハードコートフィルムを用いたインサート成形品又はアウトモールド成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形性に優れた光硬化性の樹脂組成物、及びその樹脂硬化層を有する成形用ハードコートフィルム、更にはそれを用いた成形品とインサート成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系の光硬化性樹脂は、プラスチックフィルムやプラスチック成形物表面に特別な性能を付与するために多くの分野で用いられており、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に塗布して高硬度を付与したハードコートフィルムは、タッチパネル用フィルムや成形用フィルムとして大量に使用されている。
【0003】
これらのなかで特に成形用としては、フィルム表面に絵柄を印刷後、加熱により軟化させた状態で3次元成形を行う成形用フィルムが良く知られているが、フィルムに塗布されたハードコート樹脂層を硬くすると、立体形状に加工する際に曲面においてマイクロクラックが入りやすくなり、加工形状には制約があった。そのため過去に出願人は、表面硬度と成形性を両立させるインサート成形用のハードコート樹脂として、トリアジン環含有(メタ)アクリレートプレポリマーと平均一次粒子径が80~500nmの有機微粒子を含むハードコート剤を発明した(特許文献1)。このハードコート剤は膜厚が1~10μmで十分な柔軟性と表面物性が両立可能な優れるものであった。
【0004】
こうした成形用途に適したハードコート剤を選定することで、加工面での制約はある程度緩和されてはきたが、インサート成形品の用途が広がるにつれて、従来から求められる成形性や耐摩耗性に加え、様々な特性が求められるようになってきている。例えば自動車の外装や屋外保管される機器の外装のように、常時屋外で使用される用途では、新たに紫外線や気温の寒暖差に耐えうる十分な耐候性や耐久性が求められるようになってきた。そのため、従来からの要求特性である十分な成形性や耐摩耗性、耐薬品性等に加えて、屋外での使用に耐えうる十分な耐候性を持たせるためには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4848200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐摩耗性や耐薬品性を有し、破断伸度が高く成形性が良好であると共に、屋外での使用にも耐えうる優れた耐候性を有する成形用途に適した光硬化性樹脂組成物、及びこれを塗工した成形用ハードコートフィルムと、それを用いた成形品、並びにインサート成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、エチレングリコールとイソホロンジイソシアネート(以下IPDIという)を反応させたジイソシアネートに、ペンタエリスリトールトリアクリレート(以下PETAという)を更に反応させたウレタンアクリレート(A)と、シリコーン含有アクリル(メタ)アクリレート(B)と、光安定剤(C)と、光重合開始剤(D)と、を含み、前記(A)の重量平均分子量が2,000~12,000であり、前記(B)の配合量が前記(A)100重量部に対し0.5~30重量部であることを特徴とする光硬化性樹脂組成物を提供する。
【0008】
請求項2の発明は、前記(B)が、アクリル主鎖にシリコーン側鎖を有するアクリル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1記載の光硬化性樹脂組成物を提供する。
【0009】
請求項3の発明は、プラスチック基材上に請求項1又は2いずれか記載の光硬化性樹脂組成物の硬化層を有することを特徴とする成形用ハードコートフィルムを提供する。
【0010】
請求項4の発明は、前記プラスチック基材がポリカーボネート基材、アクリル基材、ポリエステル基材、又はこれらの複合基材の群から選択される基材であることを特徴とする請求項3記載の成形用ハードコートフィルを提供する。
【0011】
請求項5の発明は、前記成形用ハードコートフィルムがインサート成形用又はアウトモールド成形用であることを特徴する請求項3又は4いずれか記載の成形用ハードコートフィルムを提供する。
【0012】
請求項6の発明は、前記成形用ハードコートフィルムを、金型を用いて賦形後、光硬化性樹脂硬化層とは反対側から溶融樹脂を射出して樹脂成形品を形成することを特徴とする請求項3又は4いずれか記載のインサート成形品の製造方法を提供する。
【0013】
請求項7の発明は、を前記溶融樹脂が着色されていることを特徴とする請求項6記載のインサート成形品の製造方法を提供する。
【0014】
請求項8の発明は、前記インサート成形品が車両外装用途であることを特徴とする請求項6又は7いずれか記載のインサート成形品の製造方法を提供する。
【0015】
請求項9の発明は、請求項3~5いずれか記載の成形用ハードコートフィルムを用いたインサート成形品又はアウトモールド成形品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光硬化性樹脂組成物及びこれを塗工したハードコートフィルム(以下HCフィルムという)は、耐摩耗性や耐薬品性を有し、破断伸度が高く成形性が良好であると共に優れた耐候性を有するため、屋外で使用するようなインサート成形品やアウトモールド成形品に用いる材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光硬化性樹脂組成物の構成は、エチレングリコールとIPDIを反応させたジイソシアネートに、PETAを更に反応させたウレタンアクリレート(A)と、シリコーン含有アクリル(メタ)アクリレート(B)と、光安定剤(C)と、光重合開始剤(D)である。なお、本明細書において(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0018】
前記(A)の合成で使用する脂環式ジイソシアネートのIPDIは、黄変が無く耐候安定性に優れると同時に剛性が高く、硬化物の硬度を上げることができる。炭素鎖が非常に短いエチレングリコールと反応させることで、分子内のウレタン結合濃度を高くすることが可能となり、耐薬品性に優れた剛性の高い直鎖構造の主骨格を形成できる。エチレングリコールの代わりにポリエチレングリコールを用いると、ウレタン結合の濃度が低くなり耐薬品性が低下する傾向がある。
【0019】
前記(A)の合成方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。反応は無溶媒下でも良いが、(A)の分子量が大きくなるにつれて攪拌が困難となる場合があるため、ブタノン等のケトン類、キシレン等の芳香族不活性溶媒などを用いても良い。またエチレングリコール及びPETAの水酸基と、イソシアネート基との反応には、触媒を用いることが好ましい。その場合の例としては、ジブチルスズジラウレート等の錫系、ナフテン酸コバルト等の金属アルコキシド系が挙げられる。反応温度は適宜設定可能であるが40~120℃が好ましく、60~100℃が更に好ましい。
【0020】
前記(A)の重量平均分子量(以下Mwという)は2,000~12,000であり、2,500~11,000が好ましく、3,000~10,000が更に好ましい。2,000未満では破断伸度が低くなるため十分な成形性を確保することが難しくなり、12,000超では耐摩耗性が低下し、また作業性の良い粘度に調整しにくくなる。(A)のMwは、反応させるエチレングリコールとIPDIのモル比により調整が可能で、エチレングリコールに対するIPDIのモル比を近づけると、Mwは大きくなる傾向がある。なおMwは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、スチレンジビニルベンゼン基材の充填剤を用いたカラムでテトラハイドロフラン溶離液を用いて、標準ポリスチレン換算の分子量を測定、算出した。
【0021】
前記(A)の配合量は、固形分全量に対し55~95重量%が好ましく、60~90重量%が更に好ましく、65~88重量%が特に好ましい。55重量%以上とすることで十分な破断強度と耐薬品性を確保することができ、95重量%以下とすることで十分な耐候性を確保することができる。
【0022】
本発明に使用されるシリコーン含有アクリル(メタ)アクリレート(B)は、硬化物表面の滑り性を良好にして耐摩耗性を向上させると共に、耐久性に優れた塗膜を形成させる目的で添加され、例えばアクリル主鎖にシリコーン側鎖を有するアクリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。反応性を有する(メタ)アクリロイル基を分子内に有することで(A)と強固に結合し、経時的なブリードアウト発生を抑制して、長期間にわたり硬化物表面に良好な滑り性や耐摩耗性を付与することができる。
【0023】
前記(B)の配合量は、(A)100重量部に対し0.5~30重量部であり、0.8~28重量部が好ましく、3~20重量部が更に好ましく、5~15重量部が特に好ましい。0.5重量部未満では十分な耐摩耗性が確保しにくくなり、30重量部超ではヘイズが上昇し外観が低下する傾向が有る。固形分全量に対しては0.4~21重量%が好ましく、0.6~20重量%が更に好ましい。(B)の市販品としてはGL-02R(商品名:共栄社化学社製)等が挙げられる。
【0024】
本発明に使用される光安定剤(C)は、屋外で使用した場合の紫外線暴露や、輻射熱による硬化膜の劣化防止を目的に配合する。例えば、紫外線により光劣化したポリマーから生ずるアルキルラジカルやパーオキシラジカルを効率よくトラップするラジカル補足剤(c1)や、吸収した紫外線のエネルギーを熱エネルギーなどに変換することにより、ポリマーの分解を抑制する紫外線吸収剤(c2)などが挙げられる。
【0025】
本発明に使用されるラジカル補足剤(c1)としては、例えばヒンダードアミン系(以下HALS系と言う)やヒンダードフェノール系、芳香族アミン系等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、低濃度でもラジカル補足効率が高いHALS系が好ましい。
【0026】
前記(c1)の配合量は、固形分全量に対し1~10重量%が好ましく、2~8重量%が更に好ましく、3~6重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、十分な光安定性を確保することが出来る。HALS系の市販品としてはTinuvin123及びTinuvin249(商品名:BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0027】
本発明に使用される紫外線吸収剤(c2)は、エネルギーが高い有害な紫外線領域に吸収帯域を持つラジカル連鎖開始阻止剤であり、前記(c1)との併用により、耐候性をより向上及び安定させることが可能となる。例えばベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では紫外線の長波長部を強く吸収することが可能なヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましい。
【0028】
前記(c2)の配合量は、固形分全量に対し0.5~5重量%が好ましく、0.8~3.0重量%が更に好ましく、1.0~2.0重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、十分な紫外線吸収特性を確保することが出来る。市販品としてはTinuvin460及び477(商品名:BASFジャパン社製)等が挙げられる。また前記(c1)と(c2)を合計した(C)の配合量は、固形分全量に対し1.0~12重量%が好ましく、1.5~10重量%が更に好ましく、4.0~8.0重量%が特に好ましい。1.0重量%以上とすることで耐候性の向上が期待でき、12重量%以下とすることで過剰配合とならず、基材との十分な密着性を確保できる。
【0029】
本発明に使用される光重合開始剤(D)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、市販品としてはOmnirad127D、184及び2959(商品名:IGM Resins社製)などがある。前記(D)のラジカル重合性分100重量部に対する配合は2~12重量部が好ましく、3~10重量部が更に好ましい。
【0031】
本発明の光硬化性樹脂組成物(以下本組成物という)には、性能を損なわない範囲で必要に応じて、架橋剤、密着促進剤、酸化防止剤、ブルーイング剤、顔料、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈澱防止剤、帯電防止剤、防曇剤、抗菌剤、ワックス、つや消し剤、親水剤、撥水剤、無機フィラー、有機微粒子等を添加してもよい。
【0032】
上記架橋剤としては、低粘度で(A)及び(B)との相溶性に優れる点で、多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。例えば2官能では(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレートが、3官能ではトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが、4官能でジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレートが、5官能ではジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが、6官能ではジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、反応性が良好で成形性を低下させにくい点でジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(以下DPHAという)が好ましい。
【0033】
前記架橋剤の配合量としては、(A)100重量部に対し30重量部以下が好ましく、25重量部以下が更に好ましい。30重量部以下とすることで、十分な成形性を確保しつつ反応性を向上させることが出来る。また固形分全量に対する配合比率としては20重量%以下が好ましく、10重量%以下が更に好ましい。
【0034】
本組成物をプラスチック基材に塗工する際には、塗工特性を向上させるため溶剤で希釈してもよい。例えばエタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKという)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMという),ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒等があげられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。希釈する場合の固形分としては10~70%が例示されるが、特に指定は無く、塗工しやすい粘度となるように適宜設定可能である。
【0035】
本組成物が塗布されるプラスチック基材としては、ポリエステルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリカーボネート(以下PCという)フィルム、ポリスルフォンフィルム、ナイロンフィルム、シクロオレフィンフィルム、アクリル(以下PMMAという)フィルム、ポリイミドフィルム、ABSフィルム、ポリオレフィンフィルム、PVCフィルム、PVAフィルム等を挙げることができる。なかでも耐候性、加工性、寸法安定性などの点から二軸延伸処理されたポリエステルフィルムが好ましく用いられる。更に自動車内装加飾用ではPMMAフィルムやPCフィルムが好ましく用いられ、またそれらの積層フィルムでも良い。フィルムの厚みは概ね25μm~500μmであればよい。
【0036】
前記プラスチック基材は、本組成物との密着性を向上させる目的で、プライマー処理やサンドブラスト法、溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施すことができる。
【0037】
本組成物を塗布する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。塗工する膜厚は乾燥時で1μm~10μmが例示できるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本組成物を硬化させる際に用いる紫外線照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプなどがあり、また照射する雰囲気は空気中でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。また紫外線照射時にバックロールの加温や、IRヒーターなどにより塗膜を加熱することで、より硬化性を上げることができる。照射条件としては照射強度500mW/cm~3000mW/cm、露光量50~400mJ/cmが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0039】
本組成物をプラスチック基材に塗工し硬化させたHCフィルム(以下本HCフィルムという)は、130℃雰囲気下での破断伸度が50%以上であることが好ましく、100%以上であることが更に好ましく、200%以上が特に好ましい。破断伸度を80%以上とすることで、十分な成形性が期待できる。
【0040】
本HCフィルムには、必要に応じ加飾層を設けることができる。加飾する方法としては、例えば印刷や金属蒸着等が挙げられ、またこれら両方を用いて加飾しても良い。また更に射出成形樹脂との密着性を向上させるため、接着層やプライマー層を設けても良い。
【0041】
本HCフィルムには本組成物が塗布された面の保護のため、保護フィルムを貼り合わせても良い。保護フィルムを用いることで、インサート成形やアウトモールド成形プロセスでの傷つき防止ができ、歩留まり向上が期待できる。
【0042】
本HCフィルムをインサート成形で用いる方法としては、例えば本組成物が塗布された面を金型の内壁面に向かうよう(本組成物硬化層の反対面が成形樹脂と接するよう)に配置し、必要に応じて本HCフィルムを金型形状に追従させ予備成形し、次に金型を閉じてキャビティ―内に溶融状態の成形樹脂を射出させ、樹脂を固化させることにより樹脂成形品を形成することができる。
【0043】
上記予備成形を行う方法としては、本HCフィルムを軟化点以上に予備加熱して金型に配置し、金型に設けられた吸引孔を通じて真空吸引する方法や、射出成形用金型とは別の成形用金型を用い、真空成形や圧空成形、プレス成形等の公知の成形方法を用いることができる。またこれらの予備成形を行わず、成形樹脂による射出圧により、成形と射出樹脂との一体成形を同時に行うことも可能である。
【0044】
上記射出成形する樹脂としては、射出成形が可能な公知の樹脂を用いることが可能である。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。自動車のボディーのようにサイズが大きい場合や、サイズが小さくても肉厚が薄い場合には、成形後の収縮率をHCフィルムのそれと近似させることで、反り等の不具合を回避することができる。
【0045】
また上記の射出成形用樹脂自体を着色することにより、HCフィルムの加飾層を無くしたり、加飾層と射出成形樹脂の色を融合させることでより深みのある外観を出すことが可能となる。更には外装を塗料により着色するような製品、例えば自動車のボディーなどをインサート成形に置き換える場合では、射出成形する樹脂を着色することにより、塗料による外形塗装を省略することが可能となる。この場合、外形塗装でしばしば発生するゆず肌やピット等の外観不良を無くすことができる。
【0046】
更に本HCフィルムは、アウトモールド成形にも用いることができる。例えば、TOM(Three-Dimensional Overlay Method)成形に用いても良い。TOM成形は、気密ボックス内にて予め成形された基材に、真空・圧空成形にて3次元表面加飾を行うフィルム成形方法であり、本HCフィルムを用いることで基材の材質を問わず、3次元の大型製品にも対応可能である。
【0047】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。また配合量は固形分換算とし重量部を示す。
【0048】
ウレアク1の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)825重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)438重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw6,200で6官能のウレアク1を得た。
【0049】
ウレアク2の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)930重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)886重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw3,200で6官能のウレアク2を得た。
【0050】
ウレアク3の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)895重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)743重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw3,800で6官能のウレアク3を得た。
【0051】
ウレアク4の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)808重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)371重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw7,800で6官能のウレアク4を得た。
【0052】
ウレアク5の調製
撹拌機、還流冷却器、滴下漏斗、及び温度計を取り付けた四つ口フラスコに、エチレングリコール200重量部とIPDI(NCO基37.5%)790重量部と触媒とMEKとを固形分50%になるように仕込み、80℃で6時間攪拌・反応させ、赤外吸収分析でイソシアネート基のピークが所定の量になった時点で反応を終了させた。次にPETA(水酸基価120mgKOH/g)295重量部を添加し、70℃で6時間攪拌・反応させた後、赤外吸収分析でイソシアネート基の消滅したことを確認し、MEKにより固形分を50%に調整して、Mw9,800で6官能のウレアク5を得た。
【0053】
上記製法に準じて、ウレアク1~5と同骨格でMw違いのウレアクA及びBと、エチレングリコールの代わりにポリエチレングリコールを用いたウレアクCを得た。
ウレアクA:PETA-IPDI-(エチレングリコール-IPDI)n-PETA骨格、
6官能、固形分50%、Mw 1,800
ウレアクB:PETA-IPDI-(エチレングリコール-IPDI)n-PETA骨格、
6官能、固形分50%、Mw 13,000
ウレアクC:PETA-IPDI-ポリエチレングリコール-IPDI-PETA骨格、 6官能、固形分50%、Mw6,000
【0054】
実施例1~11
前記(A)として上記で調整したウレアク1~5を、(B)としてGL―02R(商品名:共栄社化学社製、アクリル主鎖にシリコーン側鎖を有するアクリルアクリレート、固形分20%酢酸ブチル希釈品)を、(c1)としてTinuvin249(商品名:BASFジャパン社製)を、(c2)としてTinuvin477(商品名:BASFジャパン社製)を、(D)としてOmnirad2959及び127D(商品名:IGM Resins社製)を、架橋剤としてDPHAを、表1記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、実施例1~11の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0055】
比較例1~6
実施例で用いた材料の他、オリゴマーとして上記ウレアクA~Cを、表2記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、比較例1~6の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0056】
表1
【0057】
表2
【0058】
評価方法は以下の通りとした。
【0059】
HCフィルムの調製
実施例及び比較例で作成した光硬化性樹脂組成物を、ユーピロンフィルム(商品名:DF02UL、三菱ガス化学社製、厚み254μm、PMMA/PC積層フィルム)を用い、PMMA面側に乾燥膜厚で3μmとなるように光硬化性樹脂を塗布し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、高圧水銀ランプで出力1300mW/cm2、積算光量が200mJとなる様に紫外線照射し、評価用フィルムを調製した。
【0060】
射出成形品の調製
実施例1の光硬化性樹脂組成物を硬化させたHCフィルムを用い、射出成形の樹脂として黒色のABSを用いて実際にインサート成形を行った。
【0061】
硬化性:HCフィルムを用い、塗膜表面の指触でもタック感を確認し、タック無しを〇、タック有りを×とした。
【0062】
密着性:JIS K 5600-5-6のクロスカット法に準拠し、塗工面に1mm間隔で10×10にマス目を作成し、セロハンテープCT-24(商品名:ニチバン社製)を貼り、上方に引っ張り剥離状況を確認し、剥離無しを〇、剥離有りを×とした。
剥離無し:100/100、剥離有り:0/100~99/100
【0063】
ヘイズ:JIS K7361-1に準拠し、東洋精機製作所製のHaze-GARD2を用いて測定し、1.0%以下を○、1.0%超を×とした。
【0064】
耐摩耗性:スガ試験機製の摩擦試験機FR-IBSを用い、ハードコートフィルムの樹脂組成物塗布面を、試験用白綿布(カナキン3号)を取り付けた摩擦子(直径16mm)で9Nの荷重をかけて1往復/1秒の速さで100mm往復させ、1000往復後の傷の有無を確認し、傷無しを○、傷有りを×とした。
【0065】
耐薬品性:硬化皮膜にハンドクリーム、ニュートロジーナSPF45(商品名:ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)を塗布し、80℃6時間放置させ、その後室温に戻し、拭き取ったのち表面を観察した。塗布の跡なしを○、跡ありを×とした。
【0066】
耐候性:HCフィルムを用い、SAE規格J2527に準拠し、500kJ照射した際の外観を目視で確認し、外観変化なしを〇、外観変化あり(白化・ワレ・黄変)を×とした。
【0067】
破断伸度:HCフィルムを横25mm×縦50mmにカットし、Minebia製TechnoGraph TGI-1KNを用い、雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分で引っ張り試験を行い、目視で割れを確認し、伸び率が80%以上を○、200%以上を◎とした。
計算式:50mmを基準として何mm伸びたかで計算。
伸びた長さ(mm)/50mm×100=伸び率%
【0068】
外観:BYK製の塗装表面性状測定機ウエーブスキャン3デュアルを用い、射出成型品のフィルム表面と、塗装鋼板の塗装面を測定し、LW(long wave)とSW(short wave)データを測定し比較した。
【0069】
実施例評価結果
表3
【0070】
比較例評価結果
表4
【0071】
表5
【0072】
実施例は硬化性、密着性、ヘイズ、耐摩耗性、耐薬品性、耐候性、破断伸度全ての面で問題はなく良好であった。また着色した樹脂を用いて射出成形したインサート成形品の外観は、ゆず肌のような外観不具合が無かった。
【0073】
一方、(B)の配合量が下限未満の比較例1は耐摩耗性が低く、上限超の比較例2はヘイズが高かった。また(A)のMwが下限以下の比較例3は破断伸度が低く、Mwが上限以上の比較例4は耐摩耗性が劣り、ポリエチレングリコール骨格のオリゴマーを用いた比較例7は耐薬品性が劣り、更に(C)を配合していない比較例6は耐候性が劣り、いずれも本願発明に適さないものであった。