IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社オータマの特許一覧

<>
  • 特開-磁気シールド構造体 図1
  • 特開-磁気シールド構造体 図2
  • 特開-磁気シールド構造体 図3
  • 特開-磁気シールド構造体 図4
  • 特開-磁気シールド構造体 図5
  • 特開-磁気シールド構造体 図6
  • 特開-磁気シールド構造体 図7
  • 特開-磁気シールド構造体 図8
  • 特開-磁気シールド構造体 図9
  • 特開-磁気シールド構造体 図10
  • 特開-磁気シールド構造体 図11
  • 特開-磁気シールド構造体 図12
  • 特開-磁気シールド構造体 図13
  • 特開-磁気シールド構造体 図14
  • 特開-磁気シールド構造体 図15
  • 特開-磁気シールド構造体 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119090
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】磁気シールド構造体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20230821BHJP
   B23K 20/10 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
H05K9/00 J
B23K20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021727
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】595104574
【氏名又は名称】株式会社オータマ
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 淳司
(72)【発明者】
【氏名】小田原 峻也
(72)【発明者】
【氏名】▲榊▼原 満
【テーマコード(参考)】
4E167
5E321
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167DA04
5E321AA05
5E321BB53
5E321BB60
5E321CC11
5E321CC22
5E321GG01
5E321GG05
5E321GG07
(57)【要約】
【課題】接合する部材と部材との導電性を確保できるとともに、ヒューム発生のおそれがない磁気シールド構造体を提供すること。
【解決手段】本発明の磁気シールド構造体(1)は、第1接合対象(4)と、第1接合対象(4)に隣接して設けられる第2接合対象(4)と、第1接合対象(4)と第2接合対象(4)との接合部(5)と、を備える。第1接合対象(4)および第2接合対象(4)は、アルミニウムまたはアルミニウム合金、もしくは、銅または銅合金からなり、接合部(5)において、第1接合対象(4)と第2接合対象(4)とが超音波金属接合による接合層が設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接合対象と、
前記第1接合対象に隣接して設けられる第2接合対象と、
前記第1接合対象と前記第2接合対象との接合部と、を備え、
前記第1接合対象および前記第2接合対象は、
アルミニウムまたはアルミニウム合金、もしくは、銅または銅合金からなり、
前記接合部において、
前記第1接合対象と前記第2接合対象とが超音波金属接合による接合層が設けられる、
ことを特徴と磁気シールド構造体。
【請求項2】
前記接合層は、
前記第1接合対象の第1端縁と前記第2接合対象の第2端縁との対向領域の一部または全部に設けられる、
請求項1に記載の磁気シールド構造体。
【請求項3】
複数の前記接合層は、
前記対向領域に間欠的に設けられる、
請求項2に記載の磁気シールド構造体。
【請求項4】
前記接合部は、
前記第1接合対象の第1端縁と前記第2接合対象の第2端縁とが重ね合わされる前記対向領域に設けられるか、または、
前記第1端縁と前記第2端縁とが突き合わされる前記対向領域に設けられる、
請求項2または請求項3のいずれか一項に記載の磁気シールド構造体。
【請求項5】
前記重ね合わされる前記対向領域には、
超音波金属接合による前記接合層の外に、前記第1接合対象と前記第2接合対象を貫通する締結部材が設けられる、
請求項4に記載の磁気シールド構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波磁気ノイズを遮蔽できる磁気シールド構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の磁気シールド構造体は、磁性体とともに構成要素をなす複数の導電体としてのアルミニウムや銅などの板材を組み合わせて例えば筐体の形態を有する。この筐体において、板材と板材の継ぎ目における導電性を保つことにより、渦電流による遮蔽効果を向上できる。通常、板材の継ぎ目の接合には例えば特許文献1に記載されるように、ビス止めが用いられる。ビス止め以外として、板材の継ぎ目の接合に例えばアーク溶接のように板材を構成する金属を溶融させて接合する溶接が用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-105888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ビス止めではビスのない箇所での導電性の低下が生じる。また、上述の溶接では導電性は確保できるものの、接合にともなうヒューム、つまり金属蒸気が冷却されて生じる微細金属粒子が発生する問題がある。
そこで本発明は、接合する部材と部材との導電性を確保できるとともに、ヒューム発生のおそれがない磁気シールド構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の磁気シールド構造体は、第1接合対象と、第1接合対象に隣接して設けられる第2接合対象と、第1接合対象と第2接合対象との接合部と、を備える。
第1接合対象および第2接合対象は、アルミニウムまたはアルミニウム合金、もしくは、銅または銅合金からなる。
接合部において、第1接合対象と第2接合対象とが超音波金属接合による接合層が設けられる。
【0006】
本発明の磁気シールド構造体において、好ましくは、接合層は、第1接合対象の第1端縁と第2接合対象の第2端縁との対向領域の一部または全部に設けられる。
【0007】
本発明の磁気シールド構造体において、好ましくは、複数の接合層は、対向領域に間欠的に設けられる。
【0008】
本発明の磁気シールド構造体において、好ましくは、接合部は、第1接合対象の第1端縁と第2接合対象の第2端縁とが重ね合わされる対向領域に設けられるか、または、第1端縁と第2端縁とが突き合わされる対向領域に設けられる。
【0009】
本発明の磁気シールド構造体において、好ましくは、重ね合わされる対向領域には、超音波金属接合による接合層の外に、第1接合対象と第2接合対象を貫通する締結部材が設けられる。この締結部材が第1接合対象および第2接合対象と超音波金属接合されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接合する部材と部材との導電性を確保できるとともに、ヒューム発生のおそれがない磁気シールド構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る磁気シールド構造体の構成例を示す図である。
図2】本実施形態に係る磁気シールド構造体の接合の構成例を示す図である。
図3】本実施形態に係る磁気シールド構造体の他の接合の構成例を示す図である。
図4】本実施形態に係る磁気シールド構造体の他の接合の構成例を示す図である。
図5】本実施形態に係る磁気シールド構造体の他の接合の構成例を示す図である。
図6】本実施形態に係る磁気シールド構造体の他の接合の構成例を示す図である。
図7】本実施形態に係る磁気シールド構造体の他の接合の構成例を示す図である。
図8】事前検討における試験片の構成を示す平面図であり、(a)は部分溶接による試験片、(b)は全溶接による試験片、(c)はビス止めによる試験片を示す。
図9】事前検討における導電性の評価結果を示すグラフである。
図10】第1実施例および第2実施例に用いる試験構造体の構成例を示す図である。
図11】第1実施例および第2実施例に用いる試験構造体の仕様を示す表である。
図12】第1実施例における遮蔽性の周波数特性を示すグラフであり、(a)はアルミニウムの板厚が2mm(2t)の場合の周波数特性を示し、(b)はアルミニウムの板厚が3mm(3t)の場合の周波数特性を示している。
図13】第1実施例における遮蔽性能の上昇率を示すグラフである。
図14】第2実施例における遮蔽性の周波数特性を示すグラフであり、(a)はアルミニウムの板厚が2mm(2t)の場合の周波数特性を示し、(b)はアルミニウムの板厚が3mm(3t)の場合の周波数特性を示している。
図15】第2実施例における遮蔽性能の上昇率を示すグラフである。
図16】第2実施例における遮蔽性の周波数特性を示すグラフであり、(a)は試験構造体の開口方向に磁界を印加したときの結果を示し、(b)は試験構造体の開口方向に磁界を印加したときの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
実施形態に係る磁気シールド構造体1は、図1に示されるように。シールド本体3と、シールド本体3の接合部5と、を備える。磁気シールド構造体1は、超音波金属接合による接合部5を備えている。
【0013】
[シールド本体3:図1参照]
シールド本体3の形状は任意であり、図1(a)に示される内部が閉じられている箱状の形態、図1(b)に示されるように対向する部位に開口3A,3Aが設けられている形態であってもよい。図1(a),(b)に示されるシールド本体3は、直方体状の外観を有しているが、これはあくまで一例であり、他の外観形状、例えば図1(c)に示される円筒状の形態であってもよい。さらに、横断面が三角形、五角形以上の多角形でもよいし、枡形の形態、さらには横断面がコ字状の形態であってもよい。
【0014】
シールド本体3は、複数のシールド材4を組み合わせて作製される。例えば、図1(a)の箱状の形態の場合には、6枚の板状のシールド材4が筐体をなすように配置されるとともに、隣接するシールド材4とシールド材4の突き合せ部分が接合部5を構成する。一方のシールド材4が本発明の第1接合対象を構成し、他方のシールド材4が本発明の第2接合対象を構成する。また、図1(c)の円筒状の磁気シールド構造体1は一枚の板材から構成されるが、接合部5に臨む一方の端縁4E1の側が本発明の第1接合対象を構成し、接合部5に臨む他方の端縁4E2の側が本発明の第2接合対象を構成する。このように、第1接合対象および第2接合対象は、それぞれ別体をなしている部材として構成されることもあれば、同一の部材に設けられることもある。なお、ここでは突き合せ部分を接合する例を示しているが、本発明はこれに限定されず、重ね合わせ部分を接合してもよい。
【0015】
シールド本体3を構成する材料としては、シールドをなし得る金属材料、例えばアルミニウムおよびアルミニウム合金、銅および銅合金を用いることができる。この中で、アルミニウムおよびアルミニウム合金を用いることにより、超音波金属接合による接合部5を設ける効果が顕著になる。詳しくは後述するが、アルミニウムおよびアルミニウム合金は、その表面に電気を通しにくい酸化膜が形成されるため、接合部5において電気的な接続が妨げられるからである。以下、アルミニウムおよびアルミニウム合金をアルミニウム合金等と総称する。
【0016】
[接合部5:図1参照]
接合部5は超音波金属接合により形成されるものである。
超音波金属接合は、接合対象である金属に超音波振動を印加することにより、接合界面に存在する酸化皮膜や付着物を破壊・分散させ、塑性変形により金属同士を密着させることで、原子間力が作用して接合する接合手法である。超音波金属接合によれば、ヒュームを発生させないのに加えて、迅速に接合を完了できる。
図1においては接合部5の存在を示しているにすぎず、具体的な接合部5の構成例は図2図7を参照して追って説明する。
【0017】
アルミニウム合金等の表面に形成される酸化膜は厚さが1nm(10Å)程度と薄いため、表面研磨で容易に除去できるが、Alは酸素との結合が速いため大気中で研磨しても即時に酸化膜が再生される。そこで、本実施形態においては、接合対象としてアルミニウム合金等を含む場合には、接合対象を密着させたうえで超音波金属接合することにより、酸化膜を破壊しつつ酸化膜が再生されるのを可能な限り阻止される接合部5が形成される。
なお、接合対象は、アルミニウム合金等同士の他に、アルミニウム合金等と他の金属材料、例えば銅合金等であってもよい。
【0018】
図1(a)~(c)に示される接合部5は、超音波金属接合によるものだけが図示されているが、他の接合手段、例えば締結部材としてのビスによる締結とともに超音波金属接合を用いることもできる。高い接合強度を得るうえでは、ビスなどの締結手段を併用することが好ましい。
【0019】
次に、接合部5は図2図7に示される多様な構成を備えることができる。
図2(a)は、全体が偏平なシールド材4と両端縁が直角に折れ曲がるフランジを備えるシールド材4との組み合わせからなる磁気シールド構造体1を示している。この磁気シールド構造体1は、偏平なシールド材4の端縁とフランジとが超音波金属結合による接合部5を構成する。
図2(b)は、偏平なシールド材4を円筒状に成形し、かつ、シールド材4の両端縁を重ね合わせて磁気シールド構造体1を構成する。この磁気シールド構造体1は、重ね合わされたシールド材4の両端縁が超音波金属結合による接合部5が構成される。
図2(c)は、図2(b)と同様に円筒状の磁気シールド構造体1であるが、シールド材4の両端縁に径方向の外側に突き出るフランジを形成する。この磁気シールド構造体1は、フランジ同士を突き合わせて超音波金属結合による接合部5が構成される。
【0020】
次に、図3は偏平な2枚のシールド材4,4のそれぞれの端縁において超音波金属結合による接合部5を構成する四つの事例を示している。
図3(a)は、当該両端縁がクランク状(またはS字状)に形成されたシールド材4,4の両端縁を重ね合わせて超音波金属結合による接合部5が構成される。
図3(b)は、当該両端縁が傾斜するシールド材4,4の両端縁を重ね合わせて超音波金属結合による接合部5が構成される。
図3(c)は、当該両端縁が直角に折れ曲がるシールド材4,4の両端縁を重ね合わせて超音波金属結合による接合部5が構成される。
図3(d)は、偏平なシールド材4,4の対向する端面同士を突き合わせ、この突き合わせた部分に接合補助体6を積み重ねたシールド材4,4の両端縁を重ね合わせて超音波金属結合による接合部5が構成される。
【0021】
次に、図4も偏平な2枚のシールド材4,4を接合に関わる両端縁において超音波金属結合による接合部5を構成する二つの事例を示している。
図4(a)は、偏平なシールド材4,4の対向する端面同士を突き合わせ、この突き合わせた部分を超音波金属結合することにより接合部5が構成される。
図4(b)は、偏平なシールド材4,4の対向する端面を例えば傾斜状またはクランク状に形成して重ね合わせ、この重ね合わせた部分を超音波金属結合することにより接合部5が構成される。
【0022】
次に、図5は二つのシールド材4,4が直交する角部の接合に関わる超音波金属結合による接合部5を構成する三つの事例を示している。
図5(a)は、図2(a)にも示したが、全体が偏平なシールド材4と端縁が直角に曲がるシールド材4の端縁とが超音波金属結合による接合部5が構成される。
図5(b)は、互いに対向する端縁が所定の角度、例えば45度で傾く傾斜片を備える二つのシールド材4,4が、傾斜片同士を突き合わせて超音波金属結合による接合部5が構成される。
図5(c)は、互いに対向する端縁が所定の角度、例えば90度をなすように二つのシールド材4,4が交差して配置される。この交差部分の外側に第1接合補助体6Aを接するように配置するとともに、交差部分の内側に第2接合補助体6Bを接するように配置する。第1接合補助体6Aと第2接合補助体6Bはともに、L字状の横断面を有する。そして、第1接合補助体6Aと第2接合補助体6Bが二つのシールド材4,4のそれぞれの外周面および内周面と超音波金属結合されることにより接合部5が構成される。
【0023】
図6も二つのシールド材4,4が直交する角部の接合に関わる超音波金属結合による接合部5を構成する二つの事例を示している。
図6(a)は、端縁まで偏平なシールド材4と端縁に直角に曲がるコーナを有するシールド材4との例であり、一方のシールド材4の端縁が他方のシールド材4の直角に曲がる部分の内周面に接した状態で、超音波金属結合されることにより接合部5が構成される。
図6(b)は、端縁に直角に曲がるコーナを有する二つのシールド材4,4おいて、コーナ同士を重ね合わせた状態で超音波金属結合されることにより接合部5が構成される。
【0024】
次に、アルミニウム合金と銅合金とを接合する二つの例を、図7を参照して示す。
図7(a)は、アルミニウム合金からなるシールド材4Aと銅合金からなるシールド材4Bとがその端面で超音波金属結合による接合部5とされる二つのシールド本体3,3を用意し、互いのシールド本体3の銅合金からなるシールド材4B同士を突き合わせる。二つのシールド本体3の他に、銅合金からなる接合補助体6が用意される。
次に、接合補助体6を二つのシールド本体3,3の銅合金の部分に重ね、かつ、接合補助体6と二つのシールド本体3,3の銅合金の部分とを締結部材であるビスBにより結合する。
【0025】
図7(b)は、二つのシールド本体3,3が、アルミニウム合金からなるシールド材4Aに銅合金からなるシールド材4Bを重ねた状態で両者の界面を超音波金属結合による接合部5とする。その上で、二つのシールド本体3,3を、シールド材4Aとシールド材4Aを突き合わせ、かつ、シールド材4Bとシールド材4Bを突き合わせる。
次に、接合補助体6、二つのシールド本体3,3の銅合金からなるシールド材4Bおよびアルミニウム合金からなるシールド材4Aを貫通して締結部材であるビスBにより結合する。
【0026】
アルミニウム合金は表面に不働態膜が形成されやすく、この不働態膜は酸化物であるために導電性が劣る。図7(a),(b)に示される例は、銅合金からなるシールド材4Bを電極として用いることにより、磁気シールド構造体1としての導電性の向上を図る。
【0027】
超音波金属接合を行う装置および接合プロセスは公知であるため、ここでは簡単に説明する。
超音波発振機で高周波の交流電流を発生させ、電気エネルギとして振動子に供給し、機械振動(超音波エネルギ)に変換する。振動子の超音波エネルギがホーンを伝搬し、ホーン先端では加圧方向に対し垂直方向の振動(横振動)になる。接合対象にヘッド荷重と超音波振動を印加されると、接合対象である金属材料同士の境界面で局部接触が生じる。超音波振動とヘッド加圧により、局部接触箇所を起点として、金属材料の境界面が擦れ合い、酸化皮膜や付着物が破壊、分散し、清浄な金属面が露出する。表面の微細な凹凸の塑性変形が促進し、金属同士が近接することで金属原子間引力が作用して、固相状態、つまり接合対象の融点以下で接合が行われる。こうして、接合部5には超音波金属結合による接合層が設けられる。
【実施例0028】
次に、本実施形態による具体的な実施例を説明する。この実施例は、事前検討、第1実施例、第2実施例および第3実施例を含んでおり、以下、この順に説明する。
【0029】
[事前検討:図8および図9参照]
簡易な形状の試験片を用いて、導電性能を電気抵抗値から評価できるのかを事前検討した。
図8(a),(b),(c)に示すように、厚さ2mm、100mm角のアルミニウム合金からなる2枚の矩形板材11,13の端縁11E,13E同士を10mmの幅で重ね合わせて対向領域OAを設け、この対向領域OAを以下の3種類で接合部15を有する磁気シールド構造体10として試験片を得た。2枚の矩形板材11,13が、本発明の第1接合対象および第2接合対象に対応し、端縁11E,13Eが本発明の第1端縁および第2端縁に対応する。
接合は、対向領域OAの一部をアーク溶接(図8(a))、対向領域OAの全部をアーク溶接する全溶接(図8(b))および2箇所のビスBによる締結(図8(c))である。なお、用いたアルミニウム合金は、JIS A6000台、特にA6061である。以下の第2実施例および第3実施例も同様である。なお、本実施形態に用いることができるアルミニウム合金としては、アルミニウムの純度が99.00%以上の純アルミニウム材料を示す1000系のアルミニウム合金、例えばA1060,A1070,A1100を用いることができる。また、他のA6000系のA6062,A6063などを用いることもできる。
【0030】
超音波金属接合は、RINCO Ultrasonics AG社(スイス)製の超音波発振ユニット(35kHzタイプ)および超音波ハンドユニットを用いて行なった。ホーンと呼ばれる加振部と固定部とで重ね合わせ部分を挟み込んで接合する。加振圧力はハンドルを握る強さで調整し、またその加振時間で接合強度を調節することができる。これについても以下の第2実施例および第3実施例も同様である。
【0031】
図9に導電性の評価結果として、電気抵抗値Rが示されている。図9に示すように、全溶接による電気抵抗値Rが最も小さく、部分溶接がその約3倍、ビス止めについては全溶接の10倍を超える電気抵抗値Rとなった。これらの結果から導電性能を電気抵抗値から評価できることが確認された。
電気抵抗値は四端子抵抗計による電位差法から評価された。なお、測定位置Pは、図8(a)~(c)のそれぞれに示されるように、重ね合わせの中央とした。これについても以下の第2実施例および第3実施例も同様である。
【0032】
[第1実施例:図10図15参照]
次に、図10図15を参照して第1実施例を説明する。
第1実施例は、4種類の角筒状の磁気シールド構造体20としての試料を用いて超音波金属接合を施す前と後で磁界印加試験から遮蔽性能SFを評価する。
(1)~(4)の4種類の試料において、図10に仕様が示される通りであり、また、正面から視た形状は図11に示される通りである。つまり、L字状の4枚の板材21を図11に示すように角筒状に組み合わせ、隣接する板材21の重ね合わせ部分をビスBにより接合するのに加えて、ビスBとビスBの間の中間部分を超音波金属接合し、接合層を間欠的に設けた。なお、角筒状の試料(1)~(2)の長手方向(紙面の奥行き方向)の寸法は320mmであり、ビスBとビスBの間隔は50mmである。また、超音波金属接合を施す前とはビスBのみで接合されている試料(1)~(4)のことであり、超音波金属接合を施した後とはビスBに加えて超音波金属接合が施された試料(1)~(4)のことである。
【0033】
以上の(1)~(4)の試料について磁界を印加した状態で、ビスBとビスBの中間部分を四端子抵抗計の端子で挟み込んだ状態で電気抵抗値を測定した。なお、白抜きの矢印で示される磁界は、図11(a)に示される幅方向に印加する場合と、図11(b)に示される長手方向に印加する場合とした。印加する磁界は、1μT(Peak-to-Peak)(0.1~1000Hz)である。
【0034】
<磁界を幅方向に印加する第1試験>
図12(a),(b)に磁界を幅方向に印加する第1試験における遮蔽性能SFの周波数特性を示す。同図にはミミ部Mで計測した平均抵抗値も示している。また、図13には周波数fが10,100,1000Hzにおける超音波金属接合することによる遮蔽性能SFの上昇率が示されている。
図12および図13より、(1)~(4)の4種類のすべての試料において、超音波金属接合後の遮蔽性能SFが向上し、その上昇率は1000Hzで1.5~2.5倍である。また、ミミ部Mでの平均抵抗値と遮蔽性能SFとについては、抵抗値が小さいほど遮蔽性能SFが高くなるという相関関係を有している。
【0035】
<磁界を長手方向に印加する第2試験>
図14(a),(b)に磁界を長手方向に印加する第2試験における遮蔽性能SFの周波数特性を示す。同図にはミミ部Mで計測した平均抵抗値も示している。また、図15には周波数fが10,100,1000Hzにおける超音波金属接合することによる遮蔽性能SFの上昇率が示されている。
図14および図15より、(2),(4)の両方の試料において、超音波金属接合後の遮蔽性能SFが向上し、その上昇率は1000Hzで4~7倍まで向上した。また、ミミ部Mでの平均抵抗値と遮蔽性能SFとについては、第1試験と同様に、抵抗値が小さいほど遮蔽性能SFが高くなるという相関関係を有している。
【0036】
[第2実施例:図16図11
次に、第2実施例における試料(2),(3)において、ステンレス鋼製のビスBとビスBの間の導電性の向上を図るため、図11に示した磁気シールド構造体20に加えてアルミニウム合金製のビスBを打ち込んだ試料を作製し、その遮蔽性能SFを評価した。アルミニウム合金製のビスBの打ち込みは、アルミニウム合金製の板材21の表面にできるアルミニウム酸化物からなる被膜を破り、アルミニウム合金製のビスBおよび孔あけ時のバリを通じて、渦電流が流れやすくなることを想定している。
【0037】
図16(a),(b)のそれぞれに、幅方向および長手方向の遮蔽性能SFの周波数特性を示す。図11より、アルミニウム合金製のビスBの打ち込みによって遮蔽性能SFは向上するが、超音波金属接合による遮蔽性能SFの向上効果が顕著であることが確認された。
【0038】
[第3実施例]
次に、銅合金からなる2枚の板材を積層し、2枚の板材の対向する面が接合するように、超音波金属接合を行った。用いた銅合金からなる板材はJIS C1100の組成を有し、板厚が0.3mmである。その結果、2枚の銅合金からなる板材は、容易に引きはがせない程度の力で接合していることが確認された。
なお、銅または銅合金としては、上記の他にJIS C1020,C1720,C1201,C1220などを用いることができる。
【0039】
以上、本発明の好ましい実施形態、実施例を説明したが、上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態および実施例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
実施例においては、接合対象が重ね合わされた部分を溶接する重ね接手の形態について説明したが、本発明は突合せ接手、当金接手、T接手などの他の溶接形態の構造体に適用される。
また、第1実施例および第2実施例においては、ビスBによる接合と超音波金属接合を併用しているが、本発明の構造体は、超音波金属接合だけで接合されてもよいし、ビスB以外の接合手段と超音波金属接合との併用によって接合されてもよい。また、ビスBなどの締結部材で接合した部位を超音波金属接合してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1,10,20 磁気シールド構造体
3 シールド本体
3A 開口
4,4A,4B シールド材
4E1,4E2 端縁
5 接合部
10 磁気シールド構造体
11,13 矩形板材
11E,13E 端縁
15 接合部
20 磁気シールド構造体
21 板材
B ビス
M ミミ部
OA 対向領域
P 測定位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16