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特開2023-119118ディスクブレーキ用パッドスプリング、ディスクブレーキ装置及びその組立方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119118
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用パッドスプリング、ディスクブレーキ装置及びその組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/097 20060101AFI20230821BHJP
   F16D 55/228 20060101ALI20230821BHJP
   F16D 65/02 20060101ALI20230821BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
F16D65/097 B
F16D55/228
F16D65/097 C
F16D65/02 A
F16D65/092 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021789
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ショーン
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA66
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA77
3J058AA84
3J058AA87
3J058BA21
3J058BA64
3J058CA60
3J058CA63
3J058CA64
3J058CC22
3J058DD06
3J058FA01
(57)【要約】
【課題】非制動時におけるブレーキ鳴きの発生を抑制でき、かつ、前進制動時に、通孔とピンとの衝突に基づく異音が発生することを防止できるとともに、ディスクブレーキ装置の組立作業の作業性が低下するのを防止できる構造を実現する。
【解決手段】ディスクブレーキ装置に、1対の第1押圧部35a、35bと、1対の第2押圧部44a、44bと、1対の組付補助部45a、45bとを備えるパッドスプリング5を取り付ける。1対の組付補助部45a、45bは、1対の第2押圧部44a、44bのそれぞれから延在したもので、周方向片側を向いた外力を、ディスクブレーキ装置の組立時に付与するために利用する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを挟んで配置される1対のパッドをパッド支持部材に対し、前記1対のパッドのそれぞれの裏板の周方向片側部の径方向内側部に形成された通孔に前記パッド支持部材に備えられたピンをそれぞれ軸方向に挿通することで支持した、ディスクブレーキ装置に取り付けられ、前記1対のパッドを弾性的に押圧するディスクブレーキ用パッドスプリングであって、
1枚の金属板からなり、
前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧する1対の第1押圧部と、
前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧する1対の第2押圧部と、
前記1対の第2押圧部のそれぞれから延在し、前記ディスクブレーキ装置の組立時に、周方向片側を向いた外力を付与するための1対の組付補助部と、
を備えるディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項2】
前記組付補助部は、前記外力を付与した際に前記パッド支持部材に当接する、ストッパ機能をさらに有する、請求項1に記載したディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項3】
前記組付補助部は、前記第2押圧部から周方向片側に向けて伸長した延出板部と、前記延出板部の周方向片側の端部から径方向内側に向けて略直角に折れ曲がった本体板部とを有し、
前記第2押圧部を前記裏板の周方向片側面に当接させた状態で、前記本体板部は、前記裏板の周方向片側面に対して周方向片側にオフセットして配置される、
請求項1~2のうちのいずれか1項に記載したディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項4】
前記延出板部は、前記裏板の周方向片側面と前記本体板部との間に、手指の進入を可能とする周方向寸法を有する、請求項3に記載したディスクブレーキ用パッドスプリング。
【請求項5】
ライニングと該ライニングの裏面を支持した裏板とをそれぞれ有し、ロータを挟んで配置される1対のパッドと、
前記1対のパッドを軸方向に移動可能に支持するパッド支持部材と、
前記1対のパッドを弾性的に押圧するディスクブレーキ用パッドスプリングと、を備え、
前記1対のパッドを構成するそれぞれの前記裏板は、周方向片側部の径方向内側部に、通孔を有しており、
前記パッド支持部材は、前記通孔のそれぞれを軸方向に挿通した1対のピンを有している、
ディスクブレーキ装置であって、
前記ディスクブレーキ用パッドスプリングは、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載のディスクブレーキ用パッドスプリングである、ディスクブレーキ装置。
【請求項6】
前記パッド支持部材は、前記組付補助部に対して周方向片側を向いた外力を付与した際に、前記組付補助部と当接する、周方向他側を向いたストッパ面を有する、請求項5に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項7】
前記パッド支持部材は、前記組付補助部と軸方向に対向する部分又はその近傍部分に、前記組付補助部の周方向位置を確認するための確認部を有する、請求項5又は請求項6に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項8】
前記組付補助部の径方向内側の端部は、前記ピンの径方向内側の端部と同じ径方向位置、又は、前記ピンの径方向内側の端部よりも径方向内側に配置される、請求項5~7のうちのいずれか1項に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項9】
請求項5~8のうちのいずれか1項に記載したディスクブレーキ装置の組立方法であって、
前記ディスクブレーキ用パッドスプリングを、前記パッド支持部材に対して支持し、
次いで、前記組付補助部に対し周方向片側を向いた外力を付与し、前記第2押圧部を周方向片側に退避させた状態で、前記パッドを前記パッド支持部材の内側に挿入して、前記裏板の外周縁部の周方向片側部を前記第1押圧部に押し付けるとともに、前記裏板に備えられた前記通孔に前記ピンを挿通し、
その後、前記外力を解除して、前記第2押圧部を前記裏板の周方向片側面に弾性的に押し付ける、
ディスクブレーキ装置の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両の制動を行うために使用するディスクブレーキ装置に組み込まれるディスクブレーキ用パッドスプリング、並びに、ディスクブレーキ用パッドスプリングを備えたディスクブレーキ装置及びその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動に使用するディスクブレーキ装置は、車輪とともに回転するロータの両側に1対のパッドを配置して、制動時には、1対のパッドをロータの両側面に押し付ける。このようなディスクブレーキ装置は、制動時に、パッドと該パッドを移動可能に支持するパッド支持部材とが衝突して、クロンク音と呼ばれる異音を発生させる場合がある。クロンク音は、制動時にパッドに作用するモーメントの方向が、前進制動時と後進制動時とで逆向きになることが主な発生原因になる。
【0003】
このような事情に鑑みて、特開2020-51437号公報(特許文献1)には、クロンク音の発生を防止すべく、制動時にパッドに作用するモーメントの方向を、前進制動時と後進制動時とで一致させた、ディスクブレーキ装置の構造が開示されている。図20及び図21は、特開2020-51437号公報に記載された、ディスクブレーキ装置100を示している。
【0004】
ディスクブレーキ装置100は、パッド支持部材であるキャリパ101と、インナパッド102及びアウタパッド103とを備えている。
【0005】
キャリパ101は、インナパッド102及びアウタパッド103のそれぞれを、軸方向(図20の上下方向、図21の表裏方向)に移動可能に支持する。キャリパ101は、車輪とともに回転するロータ104(図20参照)の軸方向両側に配置されたインナボディ105及びアウタボディ106と、インナ、アウタ両ボディ105、106の周方向両側の端部同士を連結する回入側、回出側両連結部107、108と、インナ、アウタ両ボディ105、106の周方向中間部同士を連結するセンターブリッジ109a、109bとを備えている。
なお、軸方向、周方向及び径方向とは、特に断らない限り、ロータ104の軸方向、周方向及び径方向をいう。
【0006】
インナボディ105は、インナパッド102を軸方向に移動可能に支持するために、周方向片側部にピン110を有し、周方向他側部に図示しないガイド凹溝を有している。同様に、アウタボディ106は、アウタパッド103を軸方向に移動可能に支持するために、軸方向片側部にピン110を有し、軸方向他側部に図示しないガイド凹溝を有している。1対のピン110は、それぞれの長手方向をロータ104の軸方向に向けて、互いに同軸に配置されている。ガイド凹溝は、インナボディ105及びアウタボディ106のそれぞれの周方向他側部分の軸方向内側面に備えられた、図示しないガイド壁部に設けられている。ガイド凹溝は、ガイド壁部の軸方向内側面及び周方向片側面に開口している。なお、図示の例では、周方向片側が車両前進時における回入側に相当し、周方向他側が車両前進時における回出側に相当する。
【0007】
インナパッド102及びアウタパッド103のそれぞれは、ライニング111と、ライニング111の裏面を支持した裏板112とを備えている。裏板112は、周方向片側部(回入側端部)の径方向内側部に通孔113を有し、周方向他側面(回出側側面)に周方向に突出した図示しない凸状の耳部を有している。また、裏板112は、周方向片側部の径方向外側の端部に、周方向片側を向いたトルク伝達面115を有している。
【0008】
インナパッド102及びアウタパッド103を、キャリパ101に対し軸方向に移動可能に支持するために、インナ、アウタ両パッド102、103に関して、裏板112に備えられた通孔113に、ピン110を軸方向に挿通している。これにより、インナパッド102の周方向片側部をインナボディ105に対して軸方向に移動可能に支持し、かつ、アウタパッド103の周方向片側部をアウタボディ106に対して軸方向に移動可能に支持している。そして、前進制動時に、インナ、アウタ両パッド102、103に作用するブレーキ接線力F1をピン110により支承するようにしている。また、インナ、アウタ両パッド102、103に関して、裏板112に備えられた耳部を、ガイド凹溝に対し軸方向に移動可能に係合させている。
【0009】
キャリパ101を構成する回入側連結部107には、センターブリッジ109aと周方向に対向する面に、トルク受面114が備えられている。トルク受面114は、後進制動時に、インナ、アウタ両パッド102、103に関して、裏板112に備えられたトルク伝達面115と当接して、インナ、アウタ両パッド102、103に作用するブレーキ接線力F2を支承する。
【0010】
ディスクブレーキ装置100には、非制動時の状態で、インナ、アウタ両パッド102、103にがたつきが生じることを防止するために、図22に示すような、パッドスプリング116が取り付けられている。
【0011】
パッドスプリング116は、金属板製で、径方向外側部に1対の第1押圧部117a、117bを有し、径方向内側部に1対の第2押圧部118a、118bを有している。パッドスプリング116の取付状態で、1対の第1押圧部117a、117bは、インナ、アウタ両パッド102、103のそれぞれの裏板112の外周縁部の周方向片側部を径方向内側に向けて押圧する。また、1対の第2押圧部118a、118bは、インナ、アウタ両パッド102、103のそれぞれの裏板112の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧する。なお、キャリパ101の周方向他側部分には、パッドスプリング116とは別の図示しないパッドスプリングが取り付けられる。
【0012】
ディスクブレーキ装置100は、インナ、アウタ両パッド102、103に対し、制動時にそれぞれ次のような方向のモーメントを生じさせる。
前進制動時には、インナ、アウタ両パッド102、103を構成するライニング111の摩擦面中心A点に、周方向他側(図21の左側、回出側)に向いたブレーキ接線力F1が作用する。そして、ブレーキ接線力F1の作用線よりも径方向内側に設けられた通孔113とピン110とが係合することで、ブレーキ接線力F1を支承する。このため、前進制動時には、インナ、アウタ両パッド102、103に、インナ、アウタ両パッド102、103を反時計回りに回動させようとする、モーメントM1が作用する。
【0013】
これに対し、後進制動時には、ライニング111の摩擦面中心A点に、周方向片側(図21の右側、回出側)に向いたブレーキ接線力F2が作用する。そして、ブレーキ接線力F2の作用線よりも径方向外側に設けられたトルク伝達面115を、トルク受面114に対して当接させることで、ブレーキ接線力F2を支承する。このため、後進制動時には、インナ、アウタ両パッド102、103に、インナ、アウタ両パッド102、103を反時計回りに回動させようとする、モーメントM1と同方向のモーメントM2が作用する。
【0014】
以上のように、特開2020-51437号公報に記載されたディスクブレーキ装置100は、前進制動時と後進制動時とで、インナ、アウタ両パッド102、103に作用するモーメントM1、M2の方向を一致させることができる。このため、前進制動と後進制動とを繰り返すような場合にも、インナ、アウタ両パッド102、103の姿勢を、反時計回りに回動させたままの状態に維持できる。したがって、インナ、アウタ両パッド102、103の姿勢を変化させずに済むため、クロンク音の発生を抑制できる。
【0015】
さらに、パッドスプリング116の第1押圧部117a、117bにより、裏板112の外周縁部の周方向片側部分を、径方向内側に押圧している。このため、非制動時の状態で、通孔113の内周面のうちの径方向外側面をピン110の外周面のうちの径方向外側の端部に当接させることができるとともに、耳部の径方向内側面をガイド凹溝の径方向内側面に当接させることができる。したがって、非制動時の状態においても、インナ、アウタ両パッド102、103の姿勢を安定させることができ、ブレーキ鳴きの発生を抑制できる。
【0016】
また、パッドスプリング116の第2押圧部118a、118bにより、裏板112の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧している。このため、非制動時の状態で、通孔113の内周面のうちの周方向片側面をピン110の外周面のうちの周方向片側の端部に当接させておくことができる。したがって、前進制動時に、ライニング111の摩擦面中心A点に周方向他側に向いたブレーキ接線力F1が作用した場合にも、インナ、アウタ両パッド102、103が周方向他側に移動することを防止でき、通孔113とピン110とが衝突することを防止できる。この結果、通孔113とピン110との衝突に基づく異音が発生することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2020-51437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特開2020-51437号公報に記載されたディスクブレーキ装置100は、組立作業の作業効率の向上を図る面で、未だ改良の余地がある。
【0019】
すなわち、ディスクブレーキ装置100に組み込まれるパッドスプリング116は、裏板112の周方向片側部分を径方向内側に向けて押圧するための1対の第1押圧部117a、117bと、裏板112の周方向片側面を周方向他側に向けて押圧するための1対の第2押圧部118a、118bとを有している。このため、このようなパッドスプリング116を予めキャリパ101に組み付けた状態で、インナパッド102又はアウタパッド103の組み付け作業を行うと、パッドスプリング116の存在により、パッドの組み付け作業の作業性が低下する可能性がある。
【0020】
具体的には、たとえば、図23の(A)に示すように、インナパッド102(又はアウタパッド103)を、周方向片側部が周方向他側部よりも径方向外側に位置するように傾けた状態で、キャリパ101の内側に組み込む場合、裏板112によって、押圧方向が異なる第1押圧部117a(117b)及び第2押圧部118a(118b)を同時に撓ませる必要がある。ただし、第1押圧部117a(117b)及び第2押圧部118a(118b)のそれぞれの軸方向幅は、裏板112の厚さに比べて特別に大きくないため、裏板112から第1押圧部117a(117b)及び第2押圧部118a(118b)が外れないように、第1押圧部117a(117b)及び第2押圧部118a(118b)を同時に撓ませる作業は困難である。この結果、インナパッド102及びアウタパッド103の組み付け作業の作業性が低下しやすくなる。
【0021】
これに対し、図23の(B)に示すように、インナパッド102(又はアウタパッド103)を、周方向他側部が周方向片側部よりも径方向外側に位置するように傾けた状態で、キャリパ101の内側に組み込む場合には、インナパッド102(又はアウタパッド103)の周方向片側部を径方向外側に移動させる際に、裏板112との干渉防止のために、第2押圧部118a(118b)を周方向片側に弾性的に押し拡げておく必要がある。ただし、第2押圧部118a(118b)と裏板112との間に、作業者の手指を挿入できるだけの隙間が存在しないため、第2押圧部118a(118b)を周方向片側に押し拡げるために、工具等を使用する必要がある。この結果、インナパッド102及びアウタパッド103の組み付け作業の作業性が低下しやすくなる。
【0022】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、非制動時におけるブレーキ鳴きの発生を抑制でき、かつ、前進制動時に、パッドの裏板に形成した通孔とパッド支持部材に備えられたピンとの衝突に基づく異音の発生を防止できるだけでなく、ディスクブレーキ装置の組立作業の作業性の向上を図れる、ディスクブレーキ用パッドスプリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ用パッドスプリングは、ディスクブレーキ装置に取り付けられ、1対のパッドを弾性的に押圧するものである。
取付対象となる前記ディスクブレーキ装置は、ロータを挟んで配置された1対のパッド(インナパッド及びアウタパッド)と、パッド支持部材とを備えている。
前記1対のパッドは、それぞれ裏板を備えており、該裏板は、前進時における回入側に相当する周方向片側部の径方向内側部に通孔を有している。
これに対し、前記パッド支持部材は、軸方向に配置されたピンを備えている。
前記ディスクブレーキ装置は、前記通孔に前記ピンを軸方向に挿通することにより、前記1対のパッドを前記パッド支持部材に対し支持している。
【0024】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ用パッドスプリングは、1枚の金属板からなり、1対の第1押圧部と、1対の第2押圧部と、1対の組付補助部とを備えている。
前記1対の第1押圧部は、前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧する。
前記1対の第2押圧部は、前記1対のパッドのそれぞれの前記裏板の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧する。
前記1対の組付補助部は、前記ディスクブレーキ装置の組立時に、周方向片側を向いた外力を付与するための部分であり、前記1対の第2押圧部のそれぞれから延在している。
【0025】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ用パッドスプリングでは、前記1対の組付補助部を、前記1対の第2押圧部のそれぞれから周方向片側に延在させることができる。
この場合には、前記1対の組付補助部のそれぞれを、前記1対の第2押圧部のそれぞれから周方向片側に延在(伸長)した延出板部と、該延出板部からの周方向片側の端部から径方向内側に延在した本体板部とから構成することができる。
あるいは、前記1対の組付補助部を、前記1対の第2押圧部のそれぞれから径方向内側に延在させることができる。
あるいは、前記1対の組付補助部を、前記1対の第2押圧部のそれぞれから周方向片側かつ径方向内側に斜めに延在させることもできる。
【0026】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ用パッドスプリングでは、前記組付補助部に、前記外力を付与した際に前記パッド支持部材に当接する、ストッパ機能を持たせることができる。
前記組付補助部にストッパ機能を持たせる場合には、前記組付補助部を、前記パッド支持部材に対して、面接触により当接させることもできる。
【0027】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ用パッドスプリングでは、前記組付補助部を、前記第2押圧部から周方向片側に向けて伸長した延出板部と、前記延出板部の周方向片側の端部から径方向内側に向けて略直角に折れ曲がった本体板部とを有するものとし、前記第2押圧部を前記裏板の周方向片側面に当接させた状態で、前記本体板部を、前記裏板の周方向片側面に対して周方向片側にオフセットして配置することができる。
この場合には、前記延出板部を、前記裏板の周方向片側面と前記本体板部との間に、手指の進入を可能とする周方向寸法を有するものとすることができる。
【0028】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置は、1対のパッドと、パッド支持部材と、ディスクブレーキ用パッドスプリングとを備える。
前記1対のパッドは、ライニングと、該ライニングの裏面を支持した裏板とをそれぞれ有しており、ロータを挟んで配置される。
前記パッド支持部材は、前記1対のパッドを、軸方向に移動可能に支持する。
前記ディスクブレーキ用パッドスプリングは、前記1対のパッドを弾性的に押圧する。
また、前記1対のパッドを構成するそれぞれの前記裏板は、周方向片側部の径方向内側部に、通孔を有している。
また、前記パッド支持部材は、前記通孔のそれぞれを軸方向に挿通した1対のピンを有している。
そして、本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置では、前記ディスクブレーキ用パッドスプリングとして、本発明の一態様にかかるディスクブレーキ用パッドスプリングを用いている。
【0029】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置では、前記パッド支持部材を、前記組付補助部に対して周方向片側を向いた外力を付与した際に前記組付補助部と当接する、周方向他側を向いたストッパ面を有するものとすることができる。
この場合には、前記ストッパ面を、平坦面状に構成することができる。
【0030】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置では、前記パッド支持部材を、前記組付補助部と軸方向に対向する部分又はその近傍部分に、前記組付補助部の周方向位置を確認するための確認部を有するものとすることができる。
前記確認部としては、凹部若しくは貫通孔又は凸部など、前記組付補助部と対比することで、前記組付補助部の周方向位置を確認可能な形状を採用することができる。
【0031】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置では、前記組付補助部の径方向内側の端部を、前記ピンの径方向内側の端部と同じ径方向位置、又は、前記ピンの径方向内側の端部よりも径方向内側に配置することができる。
【0032】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置の組立方法は、本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置の組立方法に適用される。
特に本発明の一態様にかかるディスクブレーキ装置の組立方法では、前記ディスクブレーキ用パッドスプリングを、前記パッド支持部材に対して支持する工程を行う。
次いで、前記組付補助部に対し周方向片側を向いた外力を付与し、前記第2押圧部を周方向片側に退避させた状態で、前記パッドを前記パッド支持部材の内側に挿入して、前記裏板の外周縁部の周方向片側部を前記第1押圧部に押し付けるとともに、前記裏板に備えられた前記通孔に前記ピンを挿通する工程を行う。
その後、前記外力を解除して、前記第2押圧部を前記裏板の周方向片側面に弾性的に押し付ける工程を行う。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一態様にかかるディスクブレーキ用パッドスプリングによれば、非制動時におけるブレーキ鳴きの発生を抑制でき、かつ、前進制動時に、パッドの裏板に形成した通孔とパッド支持部材に備えられたピンとの衝突に基づく異音の発生を防止できるだけでなく、ディスクブレーキ装置の組立作業の作業性の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを取り付けたディスクブレーキ装置を示す正面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを取り付けたディスクブレーキ装置を示す平面図である。
図3図3は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを取り付けたディスクブレーキ装置を、径方向外側から見た斜視図である。
図4図4は、図2のA-A線断面図である。
図5図5は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は平面図であり、(C)は右側面図であり、(D)は左側面図であり、(E)は底面図である。
図6図6は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを示す、斜視図である。
図7図7(A)-(E)は、実施の形態の第1例にかかるパッドスプリングを取り付けたディスクブレーキ装置の組立工程を工程順に示す、図2のB-B線断面に相当する図である。
図8図8は、実施の形態の第2例を示す、図1に相当する図である。
図9図9は、実施の形態の第2例にかかるディスクブレーキ装置を示す、底面図である。
図10図10は、実施の形態の第2例にかかるディスクブレーキ装置を、径方向内側から見た斜視図である。
図11図11は、図8のC部に相当する部分拡大図であり、(A)はパッドが摩耗する以前の状態を示す図であり、(B)はパッドが摩耗した後の状態を示す図である。
図12図12は、実施の形態の第3例を示す、図1に相当する図である。
図13図13は、実施の形態の第3例を示す、図9に相当する図である。
図14図14は、実施の形態の第3例を示す、図10に相当する図である。
図15図15は、図12のD部に相当する部分拡大図であり、(A)はパッドが摩耗する以前の状態を示す図であり、(B)はパッドが摩耗した後の状態を示す図である。
図16図16は、実施の形態の第4例を示す、図2に相当する図である。
図17図17は、実施の形態の第4例を示す、図4に相当する図である。
図18図18は、実施の形態の第4例を示す、図5に相当する図である。
図19図19は、実施の形態の第4例を示す、図6に相当する図である。
図20図20は、従来構造のディスクブレーキ装置を示す平面図である。
図21図21は、図20のE-E線断面図である。
図22図22は、従来構造のディスクブレーキ装置からパッドスプリングを取り出して示す斜視図である。
図23図23は、従来構造のディスクブレーキ装置の組立工程の2例を示す、断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図7を用いて説明する。
【0036】
〔ディスクブレーキ装置の全体構造〕
本例のディスクブレーキ装置1は、自動車の制動を行うために使用する対向ピストン型のディスクブレーキ装置であり、パッド支持部材に相当するキャリパ2と、1対のパッドに相当するインナパッド3及びアウタパッド4と、インナ、アウタ両パッド3、4を弾性的に押圧するパッドスプリング5とを備える。
【0037】
本例において、軸方向、周方向及び径方向とは、特に断らない限り、車輪とともに回転する円板状のロータ6(図2参照)の軸方向、周方向及び径方向をいう。図1図4及び図7の表裏方向、図2の上下方向が、それぞれ軸方向に相当し、軸方向に関してロータ6に近い側を軸方向内側といい、軸方向に関してロータ6から遠い側を軸方向外側という。また、図1図2図4及び図7の左右方向が、それぞれ周方向に相当し、図1図2図4及び図7の右側を、それぞれ周方向片側といい、図1図2図4及び図7の左側を、それぞれ周方向他側という。本例では、周方向片側が車両前進時における回入側、車両後進時における回出側となり、周方向他側が車両前進時における回出側、車両後進時における回入側となる。また、図1図4及び図7の上下方向、図2の表裏方向が、それぞれ径方向に相当し、図1図4及び図7の上側、図2の表側が、それぞれ径方向外側であり、図1図4及び図7の下側、図2の裏側が、それぞれ径方向内側である。なお、回入側とは、キャリパ2に対してロータ6が入り込む側をいい、回出側とは、キャリパ2からロータ6が抜け出て行く側をいう。
【0038】
キャリパ2は、インナパッド3及びアウタパッド4のそれぞれを、軸方向に移動可能に支持する。キャリパ2は、アルミニウム合金などの軽合金や鉄系合金製の素材に、鋳造加工などを施すことにより造られている。キャリパ2は、ロータ6を挟むように配置されるインナボディ7及びアウタボディ8と、インナ、アウタ両ボディ7、8の周方向両側の端部同士を連結する回入側、回出側両連結部9、10と、インナ、アウタ両ボディ7、8の周方向中間部同士を連結するセンターブリッジ11とを備えている。また、キャリパ2は、回入側連結部9の軸方向中間部とセンターブリッジ11の軸方向中間部とを連結する、周方向に伸長した回入側周方向連結部12と、回出側連結部10の軸方向中間部とセンターブリッジ11の軸方向中間部とを連結する、周方向に伸長した回出側周方向連結部13とを備えている。
【0039】
インナボディ7は、周方向中間部に、複数(図示の例では3個)のインナシリンダ14を有する。インナシリンダ14の内側には、インナピストン31が、軸方向変位を可能に嵌装されている。インナボディ7は、周方向片側部及び周方向他側部のそれぞれに、径方向に貫通したボルト挿通孔16を有する。アウタボディ8は、周方向中間部に、複数(図示の例では3個)のアウタシリンダ15を有する。アウタシリンダ15の内側には、図示しないアウタピストンが、軸方向変位を可能に嵌装されている。
【0040】
キャリパ2は、インナパッド3及びアウタパッド4のそれぞれを軸方向に移動可能に支持するために、1対のピン18を有する。1対のピン18は、それぞれの長手方向をロータ6の軸方向に向けて配置され、インナ、アウタ両ボディ7、8の周方向片側部の径方向内側部に同軸に支持固定(固設)されている。ピン18の先端部は、インナ、アウタ両ボディ7、8のそれぞれの軸方向内側面から軸方向に突出しており、ロータ6の軸方向側面に隙間を介して対向している。ピン18の先端部は、略円柱形状を有し、円筒面状の外周面を有している。このようなピン18は、前進制動時に、インナ、アウタ両パッド3、4にそれぞれ備えられた後述する通孔27と係合することで、インナ、アウタ両パッド3、4に作用するブレーキ接線力F1を支承する。
【0041】
キャリパ2は、インナパッド3及びアウタパッド4のそれぞれを軸方向に移動可能に支持するために、回出側連結部10の周方向片側の端部に、1対のガイド部19を有する。1対のガイド部19は、回出側周方向連結部13の軸方向両外側に配置されている。1対のガイド部19のそれぞれは、径方向外側の端部に、軸方向に伸長した平坦面状のガイド面20を有している。
【0042】
回入側連結部9は、センターブリッジ11と周方向に対向する面に、平坦面状のトルク受面21を有する。トルク受面21は、ブレーキ接線力に対して直交する仮想平面上に存在する。トルク受面21は、後進制動時に、インナ、アウタ両パッド3、4にそれぞれ備えられた後述するトルク伝達面28と当接することで、インナ、アウタ両パッド3、4に作用するブレーキ接線力F2を支承する。
【0043】
インナボディ7及びアウタボディ8のそれぞれは、軸方向内側面の周方向片側部に、軸方向に張り出したストッパ壁部22を有する。ストッパ壁部22は、周方向他側を向いた平坦面状のストッパ面23を有している。ストッパ面23は、トルク受面21と略平行に配置されており、トルク受面21から周方向片側にオフセットして配置されている。
【0044】
キャリパ2は、ロータ6を径方向外側から覆う状態で、車体の懸架装置を構成するナックルに対し、ボルト挿通孔16を挿通した図示しないボルトにより、アダプタ17を介して固定される。なお、キャリパを、アダプタを介さずにナックルに対して直接固定することもできる。
【0045】
インナパッド3及びアウタパッド4は、ロータ6を挟んで、キャリパ2の内側に配置される。インナパッド3及びアウタパッド4のそれぞれは、ライニング(摩擦材)24と、ライニング24の裏面を支持した金属製の裏板(プレッシャプレート)25とを備えている。本例では、インナ、アウタ両パッド3、4に関して、裏板25の周方向両側の端部の形状を、周方向に関して非対称としている。
【0046】
具体的には、裏板25は、周方向片側の端部(車両前進時における回入側端部)の径方向内側部に、ライニング24から周方向に張り出した張出部26を有している。張出部26は、略三角板形状を有している。張出部26は、制動時に作用するブレーキ接線力の作用線(摩擦面中心A点)よりも径方向内側に位置する部分に、軸方向に貫通した略矩形状の通孔27を備えている。また、裏板25の周方向片側面には、制動時に作用するブレーキ接線力の作用線よりも径方向外側に位置する径方向外側の端部に、トルク受面21と周方向に対向する、平坦面状のトルク伝達面28が設けられている。裏板25の周方向片側面のうちで、トルク伝達面28と張出部26との間部分は、トルク伝達面28及び張出部26よりも周方向他側に凹んでいる。
【0047】
これに対し、裏板25は、周方向他側の端部(車両前進時における回出側端部)の径方向内側部に、ライニング24から周方向に張り出した張出部を有していない。裏板25の周方向他側の端部の径方向内側部は、ライニング24に沿った形状を有している。裏板25は、周方向他側の端部の径方向外側部に、周方向に突出した凸状の耳部29を有している。耳部29は、制動時(前進制動時及び後進制動時)に、径方向内側面をガイド面20に当接させることで、インナ、アウタ両パッド3、4に作用するモーメント(回転力)を支承する。
【0048】
インナパッド3及びアウタパッド4を、キャリパ2に対し軸方向に移動可能に支持するために、インナ、アウタ両パッド3、4に関して、裏板25に備えられた通孔27にピン18を軸方向に緩く挿通し、かつ、裏板25に備えられた耳部29をガイド面20に対し軸方向に移動可能に係合させている。このようにインナパッド3及びアウタパッド4をキャリパ2に組み付けた状態で、裏板25の周方向片側面に備えられたトルク伝達面28は、回入側連結部9に備えられたトルク受面21と周方向に対向する。
【0049】
本例のディスクブレーキ装置1は、制動時に、インナ、アウタ両パッド3、4に対し、前述した特開2020-51437号公報に記載された従来構造のディスクブレーキ装置と同様のモーメントを生じさせる。
具体的には、前進制動時には、図4に示すように、ライニング24の摩擦面中心A点に、周方向他側(図4の左側、回出側)を向いたブレーキ接線力F1が作用する。これにより、通孔27とピン18とが係合して、ブレーキ接線力F1を支承する(いわゆる引きアンカ構造となる)。このため、前進制動時には、インナ、アウタ両パッド3、4に、周方向他側部分を径方向内側に押し下げる方向のモーメントM1が作用する。なお、摩擦面中心A点とは、摩擦面の図心であり、ピストンの径や配置などによって定まる。
【0050】
これに対し、後進制動時には、ライニング24の摩擦面中心A点に、周方向片側(図4の右側、回出側)を向いたブレーキ接線力F2が作用する。これにより、トルク伝達面28をトルク受面21に当接させて、ブレーキ接線力F2を支承する(いわゆる押しアンカ構造となる)。このため、後進制動時には、インナ、アウタ両パッド3、4に、周方向他側部分を径方向内側に押し下げる方向(モーメントM1と同方向)のモーメントM2が作用する。
【0051】
したがって、本例のディスクブレーキ装置1によれば、前進制動時と後進制動時とで、インナ、アウタ両パッド3、4に作用するモーメントM1、M2の方向を一致させることができる。このため、たとえば車庫入れ時のように、前進制動と後進制動とを繰り返すような場合にも、インナ、アウタ両パッド3、4の姿勢を、反時計回りに回動させたままの状態に維持できる。したがって、インナ、アウタ両パッド3、4の姿勢を変化させずに済むため、クロンク音の発生を抑制できる。
【0052】
〔パッドスプリング〕
次に、インナ、アウタ両パッド3、4を弾性的に押圧するパッドスプリング5について説明する。パッドスプリング5は、ディスクブレーキ用パッドスプリングに相当し、キャリパ2の周方向片側部に取り付けられている。キャリパ2の周方向他側部には、パッドスプリング5とは別の回出側パッドスプリング30が取り付けられている。回出側パッドスプリング30についての説明は、パッドスプリング5の説明の後に行う。なお、パッドスプリング5及び回出側パッドスプリング30に関して、軸方向、径方向及び周方向とは、パッドスプリング5及び回出側パッドスプリング30をディスクブレーキ装置1に組み付けた状態における、ロータ6の軸方向、径方向及び周方向をいう。
【0053】
パッドスプリング5は、ステンレス鋼板などの弾性及び耐食性を有する1枚の金属板を曲げ形成してなり、図5の(A)に示すように、軸方向視で全体が略逆L字状に構成されている。また、パッドスプリング5は、軸方向に関して対称形状を有する。パッドスプリング5をキャリパ2に取り付けた状態で径方向外側に位置する、パッドスプリング5の径方向外側半部は、回入側連結部9とセンターブリッジ11との周方向間部分に配置される。これに対し、パッドスプリング5をキャリパ2に取り付けた状態で径方向内側に位置する、パッドスプリング5の径方向内側半部は、インナ、アウタ両パッド3、4とストッパ面23との周方向間部分に配置される。
【0054】
本例のパッドスプリング5は、基板部33と、係止部34と、1対の第1押圧部35a、35bと、1対の被挟持部36a、36bと、二股部37(1対の第2押圧部44a、44b及び1対の組付補助部45a、45bを含む)とを備えており、全体が一体に構成されている。なお、以下の説明において、パッドスプリング5の各部の形状は、特に断らない限り、パッドスプリング5をキャリパ2に取り付ける以前の自由状態での形状を表している。
【0055】
パッドスプリング5の径方向外側半部は、基板部33と、係止部34と、1対の第1押圧部35a、35bと、1対の被挟持部36a、36bとから構成される。これに対し、パッドスプリング5の径方向内側半部は、二股部37から構成される。
【0056】
〈基板部〉
基板部33は、パッドスプリング5の径方向外側部に備えられている。基板部33は、平板状に構成されており、周方向に伸長している。基板部33は、パッドスプリング5の取付状態で、回入側周方向連結部12の径方向内側に、該回入側周方向連結部12に沿って配置される。
【0057】
〈係止部〉
係止部34は、パッドスプリング5の周方向他側の端部に備えられており、基板部33の周方向他側の端部につながっている。係止部34は、パッドスプリング5の取付状態で、センターブリッジ11の周方向片側の端部に弾性的に係止される。
【0058】
係止部34は、1対の係止片38を有する。1対の係止片38のそれぞれは、基板部33の周方向他側の端部から軸方向外側に向けて伸長した軸方向伸長部38aと、該軸方向伸長部38aの軸方向外側の端部から径方向外側かつ周方向他側に向けて伸長した係止片本体38bとからなる。係止片本体38bの先端部には、径方向内側に向けて折り返された、略逆U字状の折り返し部38cが設けられている。このため、係止片本体38bは、軸方向視で全体が略逆J字形状に構成されている。1対の係止片本体38bは、軸方向に離隔して、互いに略平行に配置されている。1対の係止片38は、パッドスプリング5の取付状態で、回入側周方向連結部12の軸方向両外側に配置され、センターブリッジ11の周方向片側の側面に係止される。
【0059】
〈第1押圧部〉
1対の第1押圧部35a、35bは、パッドスプリング5の周方向中間部に備えられており、基板部33の周方向中間部の軸方向両外側に配置されている。第1押圧部35a、35bのそれぞれは、基板部33の軸方向外側の端部につながっている。
【0060】
第1押圧部35a、35bのそれぞれは、基板部33の軸方向外側の端部から周方向他側に向けて伸長し、中間部を起点に径方向内側かつ周方向片側に向けて180度折り返してなる。このため、第1押圧部35a、35bのそれぞれは、軸方向視で全体が略横U字状に構成されている。第1押圧部35a、35bの径方向内側の端部(先端部)には、径方向内側が凸曲面になった第1返し部39a、39bが設けられている。
【0061】
第1返し部39a、39bの軸方向幅は、第1押圧部35a、35bのその他の部分の軸方向幅よりも大きい。また、第1返し部39a、39bは、軸方向に関して互いに近づく(ロータ6に近づく)ほど、径方向内側に向かう方向に傾斜している。
【0062】
第1押圧部35a、35bのそれぞれは、第1返し部39a、39bにより、インナ、アウタ両パッド3、4を構成するそれぞれの裏板25の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて弾性的に押圧するとともに、軸方向外側に向けて弾性的に押圧する。本例では、第1押圧部35a、35bは、裏板25の外周縁部のうち、ピン18と径方向に重なる部分を押圧する。
【0063】
〈被挟持部〉
1対の被挟持部36a、36bは、パッドスプリング5の周方向中間部に備えられており、基板部33の周方向片側部の軸方向両外側に配置されている。このため、1対の被挟持部36a、36bは、1対の第1押圧部35a、35bよりも周方向片側に配置されている。具体的には、1対の被挟持部36a、36bは、1対の第1押圧部35a、35bと二股部37との周方向間部分に配置されている。1対の被挟持部36a、36bのそれぞれは、基板部33の軸方向外側の端部につながっている。
【0064】
被挟持部36a、36bのそれぞれは、基板部33の軸方向外側の端部から軸方向外側に向けて伸長した軸方向基部40と、該軸方向基部40の軸方向外側部の周方向片側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった、平板状の起立板部41とからなる。
【0065】
被挟持部36a、36bを構成する起立板部41は、パッドスプリング5の取付状態で、回入側連結部9に設けられたトルク受面21に添設される。このため、起立板部41は、インナ、アウタ両パッド3、4を構成する裏板25のトルク伝達面28と、トルク受面21との間に配置される。
【0066】
〈二股部〉
二股部37は、パッドスプリング5の周方向片側の端部に備えられており、基板部33の周方向片側の端部につながっている。二股部37は、周方向視で略逆U字形状を有している。二股部37は、軸方向連結部42と、1対の脚部43a、43bとからなる。
【0067】
軸方向連結部42は、軸方向に伸長しており、軸方向中間部の径方向外側の端部が基板部33の周方向片側の端部につながっている。このため、軸方向連結部42の軸方向両外側部は、基板部33から軸方向外側に突出している。
【0068】
脚部43a、43bは、軸方向連結部42の軸方向両外側部の周方向片側の端部から径方向内側に延在している。脚部43a、43bのそれぞれは、径方向に伸長した帯板形状を有する。脚部43a、43bは、軸方向に離隔して、互いに略平行に配置されている。脚部43a、43bの長さ寸法(径方向寸法)は、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の周方向片側面における径方向寸法とほぼ同じである。脚部43a、43bのそれぞれは、パッドスプリング5の取付状態で、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の周方向片側に配置される。具体的には、脚部43a、43bのそれぞれは、裏板25の周方向片側面と周方向に対向する態様で配置される。
【0069】
脚部43a、43bのそれぞれは、第2押圧部44a、44bと、組付補助部45a、45bとからなる。第2押圧部44a、44bは、脚部43a、43bの径方向外側部を構成しており、組付補助部45a、45bは、脚部43a、43bの径方向内側部を構成している。
【0070】
《第2押圧部》
第2押圧部44a、44bは、脚部43a、43bの径方向外側の端部から径方向中間部にわたる範囲に備えられている。第2押圧部44a、44bは、軸方向連結部42の軸方向両外側部の周方向片側の端部から径方向内側に向けて伸長し、かつ、それぞれの周方向片側面を互いに対向させるように、わずかにねじれている。第2押圧部44a、44bの径方向内側の端部(先端部)には、周方向他側が凸曲面になった第2返し部46a、46bが設けられている。このため、第2返し部46a、46bは、脚部43a、43bの径方向中間部に備えられている。
【0071】
第2返し部46a、46bの軸方向幅は、第2押圧部44a、44bのその他の部分の軸方向幅よりも大きい。また、第2返し部46a、46bは、軸方向に関して互いに近づくほど、周方向他側に向かう方向に傾斜している。
【0072】
第2押圧部44a、44bのそれぞれは、第2返し部46a、46bにより、インナ、アウタ両パッド3、4を構成するそれぞれの裏板25の周方向片側面の径方向中間部を、周方向他側に向けて弾性的に押圧するとともに、軸方向外側に向けて弾性的に押圧する。
【0073】
《組付補助部》
組付補助部45a、45bは、脚部43a、43bの径方向内側の端部に備えられている。組付補助部45a、45bのそれぞれは、第2押圧部44a、44bのそれぞれから延在している。組付補助部45a、45bは、ディスクブレーキ装置1の組立時に、周方向片側を向いた外力を付与して、第2押圧部44a、44bを周方向片側に変位させるために備えられている。本例の組付補助部45a、45bは、ストッパ機能をさらに有しており、後述するように、前記外力を付与した際にキャリパ2に備えられたストッパ面23に当接する。ただし、組付補助部45a、45bは、パッドスプリング5の取付状態で、裏板25を弾性的に押圧する機能や、他の部分に対して係止される機能は有していない。
【0074】
本例では、組付補助部45a、45bのそれぞれは、軸方向視で略逆L字形状を有し、延出板部47a、47bと本体板部48a、48bとから構成されている。ただし、本発明を実施する場合に、組付補助部の形状は、軸方向視で、略C形状、略横J字形状、略S字形状など、その他の形状を採用することもできる。
【0075】
延出板部47a、47bのそれぞれは、平板状に構成されており、第2押圧部44a、44bの先端部に備えられた第2返し部46a、46bのそれぞれから周方向片側に向けて伸長している。延出板部47a、47bのそれぞれの周方向寸法(本体板部48a、48bのオフセット量)は、裏板25の周方向片側面に、第2押圧部44a、44bの第2返し部46a、46bを当接させた状態で、裏板25の周方向片側面と本体板部48a、48bとの間に、作業者の手指が進入可能となる大きさに規制されている。
【0076】
本体板部48a、48bは、平板状に構成されており、延出板部47a、47bの周方向片側の端部から径方向内側に向けて略直角に折れ曲がって配置されている。本体板部48a、48bのそれぞれは、図4に示すように、裏板25の周方向片側面に、第2押圧部44a、44bの第2返し部46a、46bを当接させた状態で、裏板25の周方向片側面から周方向片側にオフセットして配置される。別の言い方をすれば、本体板部48a、48bのそれぞれは、裏板25の周方向片側面に、第2押圧部44a、44bの第2返し部46a、46bを当接させた状態で、裏板25の周方向片側面と略平行に配置される。
【0077】
本体板部48a、48bの径方向内側の端部は、裏板25の周方向片側面に、第2押圧部44a、44bの第2返し部46a、46bを当接させた状態で、ピン18の径方向内側の端部よりも径方向内側に配置されている。本例では、本体板部48a、48bの径方向内側の端部は、裏板25を構成する張出部26の径方向内側面よりも少しだけ径方向内側、かつ、インナ、アウタ両ボディ7、8のうちで、本体板部48a、48bと軸方向に対向する部分における径方向内側の端部よりも径方向外側に配置されている。
【0078】
図示の例では、組付補助部45a、45bの軸方向幅寸法は、全長にわたり一定であり、第2押圧部44a、44bの先端部に備えられた第2返し部46a、46bの軸方向幅寸法と同じである。ただし、本発明を実施する場合には、組付補助部の軸方向幅寸法は、第2返し部(第2押圧部)の軸方向幅寸法よりも小さくしても良いし、第2返し部(第2押圧部)の軸方向幅寸法よりも大きくしても良い。また、延出板部47、47bの軸方向幅寸法と本体板部48a、48bの軸方向幅寸法とを、互いに異ならせることもできる。
【0079】
本例のパッドスプリング5は、第1押圧部35a、35bと、基板部33及び二股部37を構成する軸方向連結部42とが、裏板25の外周縁部と回入側周方向連結部12の径方向内側面との間で径方向に突っ張り、かつ、係止部34と二股部37を構成する軸方向連結部42とが、センターブリッジ11と回入側連結部9との間で周方向に突っ張ることで、ディスクブレーキ装置1に取り付けられる(弾性的に支持される)。
【0080】
そして、このような取付状態で、パッドスプリング5は、第1押圧部35a、35bにより、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧するとともに、軸方向外側に向けて押圧する。また、第2押圧部44a、44bにより、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧するとともに、軸方向外側に向けて押圧する。また、被挟持部36a、36bを構成する起立板部41を、トルク伝達面28とトルク受面21との間に位置させる。
【0081】
〈回出側パッドスプリング〉
回出側パッドスプリング30は、ステンレス鋼板などの弾性及び耐食性を有する1枚の金属板を曲げ形成してなり、軸方向に関して対称形状を有する。
【0082】
回出側パッドスプリング30は、基板部59と、係止部60と、1対の押圧部49a、49bと、1対の被挟持部50a、50bとを有する。
【0083】
基板部59は、平板状に構成されており、周方向に伸長している。基板部59は、回出側パッドスプリング30の取付状態で、回出側周方向連結部13の径方向内側に、該回出側周方向連結部13に沿って配置される。
【0084】
係止部60は、1対の係止片51を有する。1対の係止片51は、回出側パッドスプリング30の取付状態で、回出側周方向連結部13の軸方向両外側に配置され、センターブリッジ11の周方向他側の側面に係止される。
【0085】
1対の押圧部49a、49bは、基板部59の周方向中間部の軸方向両外側に配置されている。押圧部49a、49bのそれぞれは、基板部59の軸方向外側の端部につながっている。押圧部49a、49bのそれぞれは、軸方向視で全体が略横U字状に構成されている。押圧部49a、49bの径方向内側の端部(先端部)には、径方向内側が凸曲面になった返し部が設けられている。前記返し部は、軸方向に関して互いに互いに近づく(ロータ6に近づく)ほど、径方向内側に向かう方向に傾斜している。押圧部49a、49bのそれぞれは、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の外周縁部の周方向他側部を、径方向内側に向けて弾性的に押圧するとともに、軸方向外側に向けて弾性的に押圧する。
【0086】
被挟持部50a、50bは、基板部59の周方向他側部の軸方向両外側に配置されている。被挟持部50a、50bは、平板状に構成されており、回出側パッドスプリング30の取付状態で、回出側連結部10に備えられたガイド面20に添設される。このため、被挟持部50a、50bは、インナ、アウタ両パッド3、4を構成する裏板25の耳部29と、ガイド面20との間に配置される。
【0087】
本例の回出側パッドスプリング30は、取付状態で、押圧部49a、49bにより、インナ、アウタ両パッド3、4を構成するそれぞれの裏板25の外周縁部の周方向他側部を、径方向内側に向けて押圧するとともに、軸方向外側に向けて押圧する。
【0088】
〔ディスクブレーキ装置の組立方法〕
本例のディスクブレーキ装置1の組立方法について、図7を用いて説明する。
【0089】
本例のディスクブレーキ装置1を組み立てる際には、キャリパ2にインナパッド3及びアウタパッド4を組み付けるのに先立って、パッドスプリング5及び回出側パッドスプリング30を、キャリパ2に対して支持する。具体的には、パッドスプリング5を、回入側連結部9とセンターブリッジ11との間に弾性的に取り付ける。また、回出側パッドスプリング30を、回出側連結部10とセンターブリッジ11との間に弾性的に取り付ける。なお、パッドスプリング5と回出側パッドスプリング30の取付順序については、特に限定されない。また、インナボディ7及びアウタボディ8のそれぞれには、ピン18を予め支持固定しておく。
【0090】
次いで、図7の(A)に示すように、インナパッド3(アウタパッド4)を、周方向他側部が周方向片側部よりも径方向外側に位置するように傾けた状態で、キャリパ2の内側に組み込む。具体的には、インナパッド3(アウタパッド4)を構成する裏板25の外周縁部の周方向他側部により、回出側パッドスプリング30を構成する押圧部49a(49b)を弾性的に撓ませながら、裏板25に備えられた耳部29をガイド面20に係合させる。また、このようにインナパッド3(アウタパッド4)を組み込む際には、インナパッド3(アウタパッド4)を、周方向片側部が周方向他側部よりも軸方向内側(ロータ6側)に位置するように傾けておく。
【0091】
次に、図7の(A)→(B)に示すように、パッドスプリング5を構成する組付補助部45a(45b)に対して、組立作業者の図示しない手指により、周方向片側を向いた外力を付与する。具体的には、組立作業者の手指により、本体板部48a(48b)の周方向他側面を押圧する、あるいは、本体板部48a(48b)をつまんで周方向片側に移動させることにより、組付補助部45a(45b)に対して外力を付与する。これにより、脚部43a(43b)が径方向外側の端部を中心にスイングするように、脚部43a(43b)を周方向片側に弾性変形させて、第2押圧部44a(44b)を周方向片側に退避させる。この際、本体板部48a(48b)の周方向片側面がストッパ面23に突き当たるまで、組付補助部45a(45b)に外力を付与する。
【0092】
そして、図7の(B)→(C)に示すように、第2押圧部44a(44b)を周方向片側に退避させた状態で、インナパッド3(アウタパッド4)を、耳部29とガイド面20との係合部を中心として反時計回りに回動させる。これにより、裏板25の周方向片側部を径方向外側に向けて移動させて、インナパッド3(アウタパッド4)の周方向片側部を、キャリパ2の内側に挿入していく。
【0093】
また、図7の(C)→(D)に示すように、裏板25の周方向片側部を径方向外側に向けて移動させる際には、インナパッド3(アウタパッド4)の周方向片側部の軸方向位置が、インナパッド3(アウタパッド4)の周方向他側部の軸方向位置と同じになるように、インナパッド3(アウタパッド4)の周方向片側部を軸方向外側に移動させる。これにより、裏板25の外周縁部の周方向片側部を、パッドスプリング5の第1押圧部35a(35b)に押し付けて、第1押圧部35a(35b)を弾性的に撓ませつつ、裏板25に備えられた通孔27にピン18を軸方向に挿通させる。
【0094】
そして最後に、図7の(E)に示すように、組付補助部45a(45b)に付与していた外力を解除する。これにより、脚部43a(43b)を弾性復元させて、第2押圧部44a(44b)の第2返し部46a(46b)を、裏板25の周方向片側面に弾性的に押し付ける。
【0095】
上述のようにして、インナパッド3(アウタパッド4)を組み付けた後には、残りのアウタパッド4(インナパッド3)を、同様の手順で組み付ける。
【0096】
本例のパッドスプリング5によれば、非制動時におけるブレーキ鳴きの発生を抑制でき、かつ、前進制動時に、裏板25に形成した通孔27とキャリパ2に支持されたピン18との衝突に基づく異音の発生を防止できるだけでなく、ディスクブレーキ装置1の組立作業の作業性の向上を図れる。
【0097】
すなわち、本例のパッドスプリング5は、第1押圧部35a、35b(第1返し部39a、39b)により、インナ、アウタ両パッド3、4に関して、裏板25の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて弾性的に押圧する。このため、非制動時には、通孔27の内周面のうちの径方向外側面をピン18の外周面のうちの径方向外側の端部に当接させるとともに、耳部29の径方向内側面をガイド面20に当接させることができる。しかも本例では、第1返し部39a、39bが、裏板25の外周縁部のうちで、ピン18と径方向に重なる部分を押圧するため、第1押圧部35a、35bによる押圧力により、通孔27の内周面をピン18の外周面に確実に押し付けることができる。したがって、非制動時の状態においても、インナ、アウタ両パッド3、4の姿勢を安定させることができて、ブレーキ鳴きの発生を抑制できる。
【0098】
また、本例のパッドスプリング5は、第2押圧部44a、44b(第2返し部46a、46b)により、インナ、アウタ両パッド3、4に関して、裏板25の周方向片側面を、周方向他側に向けて弾性的に押圧する。このため、非制動時の状態で、通孔27の内周面のうちの周方向片側面をピン18の外周面のうちの周方向片側の端部に当接させておくことができる。したがって、前進制動時に、ライニング24の摩擦面中心A点に周方向他側に向いたブレーキ接線力F1が作用した場合にも、インナ、アウタ両パッド3、4が周方向他側に移動することを防止でき、通孔27とピン18とが衝突することを防止できる。この結果、通孔27とピン18との衝突に基づく異音が発生することを防止できる。
【0099】
さらに、本例のパッドスプリング5は、第2押圧部44a、44bのそれぞれから延在した組付補助部45a、45bを備えている。このため、ディスクブレーキ装置1の組立作業時に、組立作業者は、自身の手指により、組付補助部45a、45bに対して周方向片側に向いた外力を付与することが可能になる。したがって、裏板25との干渉防止のために、第2押圧部44a、44bを周方向片側に退避させる作業を、工具等を使用せずに、容易に行うことができる。この結果、ディスクブレーキ装置1の組立作業の作業性の向上を図れる。
【0100】
また、本例では、組付補助部45a、45bを軸方向視で略逆L字状に構成しているため、図7の(A)に示すように、組付補助部45a(45b)に対して外力を付与する際に、本体板部48a(48b)の周方向他側面と裏板25の周方向片側面の径方向外側の端部との間に、作業者が手指を挿入するための隙間を確保できる。したがって、ディスクブレーキ装置1の組立作業の作業性のさらなる向上を図れる。
【0101】
さらに、延出板部47a、47bのそれぞれの周方向寸法を、裏板25の周方向片側面に、第2押圧部44a、44bを当接させた状態で、裏板25の周方向片側面と本体板部48a、48bとの間に、作業者の手指が進入可能となる大きさに規制している。このため、図7の(C)に示したように、本体板部48a(48b)の周方向他側面を手指で押圧した状態で、インナパッド3(アウタパッド4)を回動させる際に、当該手指がインナパッド3(アウタパッド4)と干渉することを防止できる。このため、この面からも、ディスクブレーキ装置1の組立作業の作業性の向上を図れる。
【0102】
また、本例では、裏板25の周方向片側面に第2押圧部44a、44bを当接させた状態で、本体板部48a、48bの径方向内側の端部が、ピン18の径方向内側の端部よりも径方向内側に位置するまで、脚部43a、43bの長さ寸法を十分に長くしている。このため、作業者は、手指をキャリパ2の奥部まで挿入しなくても、組付補助部45a(45b)に対して外力を付与することが可能になる。したがって、この面からも、ディスクブレーキ装置1の組立作業の作業性の向上を図れる。
【0103】
また、組付補助部45a、45bを、軸方向視で略逆L字状に構成し、本体板部48a、48bを裏板25の周方向片側面に対して周方向にオフセットして配置しているため、組付補助部45a、45bに外力を付与した際に、本体板部48a、48bの周方向片側面をキャリパ2に備えられたストッパ面23に当接させて、脚部43a、43bがそれ以上弾性変形することを防止できる。このため、組付補助部45a、45bに過大な外力が加わることで、パッドスプリング5が損傷することを防止できる。また、本例では、ストッパ面23に対して、本体板部48a、48bの周方向片側面を面接触させることができるため、パッドスプリング5に変形等の損傷が生じることを有効に防止できる。
【0104】
また、第1押圧部35a、35b(第1返し部39a、39b)及び第2押圧部44a、44b(第2返し部46a、46b)により、インナ、アウタ両パッド3、4に対し、軸方向に関して互いに離れる方向の弾力を付与している。このため、非制動時に、インナ、アウタ両パッド3、4を構成するそれぞれのライニング24の側面を、ロータ6の側面から離隔させることができ、これら両側面同士が擦れることを防止できる。したがって、インナ、アウタ両パッド3、4の引き摺りを防止できるとともに、ジャダーの発生を防止することができる。
【0105】
また、パッドスプリング5を構成する被挟持部36a、36bのそれぞれを、トルク伝達面28とトルク受面21との間に配置しているため、トルク伝達面28及びトルク受面21に錆びが発生することを防止できる。また、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25を、キャリパ2に対し、軸方向に円滑に変位させることが可能になる。
【0106】
本例ではさらに、回出側パッドスプリング30を備えており、押圧部49a、49bにより、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の外周縁部の周方向他側部を、径方向内側に向けて弾性的に押圧している。このため、非制動時における、インナ、アウタ両パッド3、4の姿勢を安定させることができ、ブレーキ鳴きの発生を抑制する上で有利になる。また、被挟持部50a、50bのそれぞれを、耳部29の径方向内側面とガイド面20との間に配置しているため、耳部29及びガイド面20に錆びが発生することを防止できる。また、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25を、キャリパ2に対し、軸方向に円滑に変位させることが可能になる。
【0107】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図8図11を用いて説明する。
【0108】
本例では、ディスクブレーキ装置1を構成するキャリパ2aの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0109】
すなわち、キャリパ2aを構成するアウタボディ8aのうちで、パッドスプリング5を構成する組付補助部45bの径方向内側の端部と軸方向に対向する部分に、確認部に相当する確認用凹部52を設けている。具体的には、確認用凹部52は、アウタボディ8aの周方向片側部の径方向内側の端部に備えられている。確認用凹部52は、軸方向に伸長しており、軸方向視で略矩形状を有している。
【0110】
本例では、アウタボディ8aに備えられた確認用凹部52を通じて、組付補助部45b(本体板部48b)の周方向位置を外部から視認することができる。これにより、インナ、アウタ両パッド3、4のライニング24の摩耗量を確認することができる。
【0111】
すなわち、ライニング24の摩耗が進行し、インナ、アウタ両パッド3、4を構成する裏板25が軸方向内側に移動すると、裏板25の周方向片側面に対する第2返し部46a、46bの当接部が、軸方向内側へと移動する。ここで、第2返し部46a、46bは、軸方向内側に向かうほど、周方向他側に向かう方向に傾斜しているため、ライニング24の摩耗が進行すると、裏板25の周方向片側面によって、脚部43a、43bが周方向片側へと押圧される。この結果、ライニング24の摩耗が進行すると、組付補助部45b(45a)の周方向位置が周方向片側へと移動する。
【0112】
具体的には、図11の(A)に示すように、ライニング24が摩耗していない状態では、組付補助部45bの径方向内側の端部は、確認用凹部52の周方向他側部と重なる部分に位置している。これに対し、図11の(B)に示すように、ライニング24が摩耗した状態では、組付補助部45bの径方向内側の端部は、確認用凹部52の周方向片側の端部と重なる部分に位置している。したがって、本例では、確認用凹部52から視認できる組付補助部45bの周方向位置により、ライニング24の摩耗量を確認することができる。このため、ライニング24の摩耗量を検知するための専用の装置を省略することができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0113】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図12図15を用いて説明する。
【0114】
本例では、ディスクブレーキ装置1を構成するキャリパ2bの構造のみを、実施の形態の第1例及び第2例の構造から変更している。
【0115】
すなわち、キャリパ2bを構成するアウタボディ8bのうちで、パッドスプリング5を構成する組付補助部45bの径方向内側の端部と軸方向に対向する部分の近傍部分に、確認部に相当する確認用凸部53を設けている。具体的には、確認用凸部53は、アウタボディ8bの周方向片側部の径方向内側の端部に備えられている。確認用凸部53は、軸方向視で略三角形状を有している。
【0116】
本例のディスクブレーキ装置1によれば、アウタボディ8bに備えられた確認用凸部53を利用して、組付補助部45b(本体板部48b)の周方向位置を確認することで、インナ、アウタ両パッド3、4のライニング24の摩耗量を確認することができる。
【0117】
実施の形態の第2例において説明したように、ライニング24の摩耗が進行すると、組付補助部45b(45a)の周方向位置が周方向片側へと移動する。このため、組付補助部45bと確認用凸部53との周方向の位置関係を対比することで、ライニング24の摩耗量を確認することができる。
【0118】
具体的には、図15の(A)に示すように、ライニング24が摩耗していない状態では、組付補助部45bの径方向内側の端部は、確認用凸部53よりも周方向他側に位置しており、外部から視認できる。これに対し、図15の(B)に示すように、ライニング24が摩耗した状態では、組付補助部45bの径方向内側の端部は、確認用凸部53の背後に隠れ、外部から視認できなくなる。このように、本例の場合には、組付補助部45bの周方向位置を、確認用凸部53を利用して確認することができ、ライニング24の摩耗量を確認することができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第2例と同じである。
【0119】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図16図19を用いて説明する。
【0120】
本例のディスクブレーキ装置1aは、キャリパ2c及びパッドスプリング5aの構造が、実施の形態の第1例の構造とは異なる。
【0121】
すなわち、キャリパ2cは、インナボディ7の周方向中間部とアウタボディ8の周方向中間部とを、1対のセンターブリッジ11a、11bにより連結している。1対のセンターブリッジ11a、11bの軸方向中間部同士は、中央連結部54により、互いに連結されている。また、本例のキャリパ2cは、実施の形態の第1例のキャリパ2が備える、回入側周方向連結部及び回出側周方向連結部を備えていない。
【0122】
本例のパッドスプリング5aは、実施の形態の第1例のパッドスプリング5と同様に、基板部33aと、係止部34aと、1対の第1押圧部35a、35bと、1対の被挟持部36c、36dと、二股部37(1対の第2押圧部44a、44b及び1対の組付補助部45a、45bを含む)とを備えている。本例のパッドスプリング5aは、基板部33a、係止部34a及び1対の被挟持部36c、36dの構造が、実施の形態の第1例のパッドスプリング5の構造とは異なる。
【0123】
基板部33aは、軸方向視で略L字形状を有している。また、基板部33aは、周方向中間部に、剛性向上のために十字形状の突条部55を有している。
【0124】
係止部34aは、軸方向で略横L字形状を有しており、センターブリッジ11aの周方向片側部に弾性的に係止される。係止部34aは、センターブリッジ11aの径方向内側面に当接する矩形板状の押上板部56と、該押上板部56の周方向片側の端部から径方向外側に折れ曲がった起立板部57とを備えている。起立板部57の軸方向中間部には、略U字形状の切れ目の内側部分を周方向他側に曲げ起こしてなる、曲げ起こし部58が備えられている。押上板部56は、センターブリッジ11aの径方向内側面を、径方向外側に向けて弾性的に押圧する。曲げ起こし部58は、センターブリッジ11aの周方向片側面を、周方向他側に向けて弾性的に押圧する。
【0125】
1対の被挟持部36c、36dのそれぞれは、全体が平板状に構成されており、基板部33aの周方向片側の端部の軸方向両外側に配置されている。
【0126】
本例のパッドスプリング5aは、押上板部56と第1押圧部35a、35bとが、センターブリッジ11aの径方向内側面と裏板25の外周縁部との間で径方向に突っ張ることで、ディスクブレーキ装置1aに取り付けられる。そして、このような取り付け状態で、パッドスプリング5aは、第1押圧部35a、35bにより、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の外周縁部の周方向片側部を、径方向内側に向けて押圧するとともに、軸方向外側に向けて押圧する。また、第2押圧部44a、44bにより、インナ、アウタ両パッド3、4のそれぞれの裏板25の周方向片側面を、周方向他側に向けて押圧するとともに、軸方向外側に向けて押圧する。また、被挟持部36c、36dを、トルク伝達面28とトルク受面21との間に位置させる。
【0127】
以上のような構成を有する本例の場合にも、パッドスプリング5aに、1対の組付補助部45a、45bを備えているため、ディスクブレーキ装置1aの組立作業の作業性の向上を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0128】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0129】
実施の形態の各例では、パッドスプリングを構成する組付補助部を、軸方向視で略L字形状とした場合について説明したが、本発明を実施する場合には、組付補助部の形状は、軸方向視で、略C形状、略横J字形状、略S字形状など、その他の形状を採用することができる。また、組付補助部を、第2押圧部の径方向内側の端部(第2返し部)から、径方向内側に向かうほど軸方向片側に向かう方向に傾斜した傾斜板状に構成することもできるし、階段形状などに構成することもできる。
【0130】
また、本発明を実施する場合に、第1押圧部及び第2押圧部の形状についても、実施の形態の各例で説明した構造に限定されず、適宜変更することができる。
【0131】
本発明のディスクブレーキ用パッドスプリングは、実施の形態で説明したような、対向ピストン型のディスクブレーキ装置に限らず、フローティングキャリパ型のディスクブレーキ装置に適用することもできる。また、ディスクブレーキ装置の周方向他側部分における、パッド支持部材に対するパッドの支持構造については、実施の形態の各例で説明したような、凸状の耳部をガイド面に係合させる構造に限定されず、たとえば、凸部をガイド凹溝に係合させる構造を採用することもできるし、ピンを用いて支持する構造など、その他の支持構造を採用することもできる。
【符号の説明】
【0132】
1、1a ディスクブレーキ装置
2、2a、2b、2c キャリパ
3 インナパッド
4 アウタパッド
5、5a パッドスプリング
6 ロータ
7 インナボディ
8、8a、8b アウタボディ
9 回入側連結部
10 回出側連結部
11、11a、11b センターブリッジ
12 回入側周方向連結部
13 回出側周方向連結部
14 インナシリンダ
15 アウタシリンダ
16 ボルト挿通孔
17 アダプタ
18 ピン
19 ガイド部
20 ガイド面
21 トルク受面
22 ストッパ壁部
23 ストッパ面
24 ライニング
25 裏板
26 張出部
27 通孔
28 トルク伝達面
29 耳部
30 回出側パッドスプリング
31 インナピストン
33、33a 基板部
34、34a 係止部
35a、35b 第1押圧部
36a、36b、36c、36d 被挟持部
37 二股部
38 係止片
38a 軸方向伸長部
38b 係止片本体
38c 折り返し部
39a、39b 第1返し部
40 軸方向基部
41 起立板部
42 軸方向連結部
43a、43b 脚部
44a、44b 第2押圧部
45a、45b 組付補助部
46a、46b 第2返し部
47a、47b 延出板部
48a、48b 本体板部
49a、49b 押圧部
50a、50b 被挟持部
51 係止片
52 確認用凹部
53 確認用凸部
54 中央連結部
55 突条部
56 押上板部
57 起立板部
58 曲げ起こし部
59 基板部
60 係止部
100 ディスクブレーキ装置
101 キャリパ
102 インナパッド
103 アウタパッド
104 ロータ
105 インナボディ
106 アウタボディ
107 回入側連結部
108 回出側連結部
109a、109b センターブリッジ
110 ピン
111 ライニング
112 裏板
113 通孔
114 トルク受面
115 トルク伝達面
116 パッドスプリング
117a、117b 第1押圧部
118a、118b 第2押圧部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23