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特開2023-119154細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法
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  • 特開-細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119154
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20230821BHJP
   A61K 36/18 20060101ALI20230821BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20230821BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20230821BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A23L33/105 ZNA
A61K36/18
A61K35/74 G
A61K35/744
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021850
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】301042941
【氏名又は名称】株式会社栄電社
(71)【出願人】
【識別番号】516320311
【氏名又は名称】有限会社栄電エンジニアリング
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】坂口 研三
(72)【発明者】
【氏名】川路 博文
(72)【発明者】
【氏名】大塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】井尻 大地
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD86
4B018MD93
4B018ME08
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF03
4B018MF06
4B018MF13
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC55
4C087CA10
4C087MA44
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB26
4C088AB11
4C088BA08
4C088CA25
4C088MA44
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZB26
(57)【要約】
【課題】乳酸発酵させた焼酎粕を有効成分とし、悪性腫瘍の細胞増殖を効果的に抑制することができる細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】乳酸発酵した焼酎粕には、細胞増殖の抑制効果があることを見出した。この知見に基づいて、悪性腫瘍の細胞増殖を抑制することができる細胞増殖抑制剤をはじめとする医薬品、及び機能性食品への適用が期待できる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸発酵された焼酎粕を有効成分とする
細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
前記焼酎粕は、乳酸発酵後の焼酎粕を遠心分離により得られた上清である
請求項1に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
前記焼酎粕は、前記上清液を凍結乾燥により略8~10倍に濃縮された濃縮上清である、
請求項2に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
前記焼酎粕を0.2~0.4重量%含む
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
乳酸発酵された焼酎粕が配合された
食品組成物。
【請求項6】
焼酎粕を乳酸発酵する工程と、
乳酸発酵後の前記焼酎粕を遠心分離して沈殿物と上清とに分離する工程と、
前記上清を凍結乾燥させた後に液化して所定の濃度まで濃縮する工程と、
濃縮された濃縮上清を濾過して有効成分を抽出する工程と、を備える
細胞増殖抑制剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法に関する。詳しくは、乳酸発酵させた焼酎粕を有効成分とし、悪性腫瘍の細胞増殖を効果的に抑制することができる細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍の治療に於いては、薬物療法、栄養療法、化学療法、放射線療法、免疫療法等様々な治療法が確立されているが、未だ各治療法に抵抗性を示し、致死性の悪性腫瘍が存在する。現在、悪性腫瘍による死亡率は極めて高率である。従って、新たな悪性腫瘍の治療法が望まれている。
【0003】
このうち、薬物療法、或いは栄養療法近年では、悪性腫瘍の細胞の増殖を抑制する有効成分に着目をした薬物やサプリメントを服用することで、悪性腫瘍の細胞増殖を抑制することが知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、スフィンゴ脂質であるベータ-グルコシルセラミドが、生体内で腫瘍細胞の容積増加を抑制する効果が示されていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-328041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、安全に摂取でき、かつ悪性腫瘍に対して優れた細胞増殖抑制効果を発揮できる成分を見出すべく、研究を重ねた結果、焼酎粕に含まれる機能性成分(例えばアミノ酸、有機酸、糖分、ビタミン、麹菌や酵母菌等の菌体、たんぱく質、でん粉、繊維分等)が効果的に作用するとの一定の知見を得るに至った。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、乳酸発酵させた焼酎粕を有効成分とし、悪性腫瘍の細胞増殖を効果的に抑制することができる細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明の細胞増殖抑制剤は、乳酸発酵された焼酎粕を有効成分とするものである。
【0009】
ここで、乳酸発酵された焼酎粕が筋芽細胞に作用することで、筋芽細胞の総タンパク質を有意に減少させることがきる。即ち、焼酎粕は筋芽細胞の増殖と分化に対する抑制効果を示し、悪性腫瘍の細胞の増殖を抑制することができる。
【0010】
また、焼酎粕は、乳酸発酵後の焼酎粕を遠心分離により得られた上清である場合には、上清に含まれる主成分が筋芽細胞に有意に作用して、筋芽細胞の増殖と分化に対する抑制効果を高めることができる。
【0011】
また、焼酎粕は、上清液を凍結乾燥により略8~10倍に濃縮された濃縮上清である場合には、上清を濃縮することで適度な粘性にすることができる。
【0012】
また、焼酎粕を0.2~0.4重量%含む場合には、筋芽細胞の増殖と分化に対する抑制効果が最も高くなる。なお、焼酎粕が0.2%未満である場合には、筋芽細胞の増殖と分化の抑制効果を示さず、また焼酎粕が0.4重量%よりも多くなると細胞が酸化しやすくなる。
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明の食品組成物は、乳酸発酵された焼酎粕が配合されている。
【0014】
ここで、食品組成物が乳酸発酵された焼酎粕が配合されていることにより、前記した通り、乳酸発酵された焼酎粕が筋芽細胞に作用することで、筋芽細胞の総タンパク質を有意に減少させることがきる。即ち、食品組成物を定期的に経口することで、筋芽細胞の増殖と分化に対する抑制効果が有意に働き、悪性腫瘍の細胞の増殖を抑制することができる。
【0015】
前記の目的を達成するために、本発明の細胞増殖抑制剤の製造方法は、焼酎粕を乳酸発酵する工程と、乳酸発酵後の前記焼酎粕を遠心分離して沈殿物と上清に分離する工程と、前記上清を凍結乾燥させた後に液化して所定の濃度まで濃縮する工程と、濃縮された濃縮上清を濾過して有効成分を抽出する工程とを備える。
【0016】
ここで、焼酎粕を乳酸発酵する工程を備えることにより、焼酎粕に含まれる生理活性成分である炭水化物(糖類)の分泌を促進することができる。
【0017】
また、乳酸発酵後の焼酎粕を遠心分離して沈殿物と上清に分離する工程を備えることにより、焼酎粕に含まれる機能成分のうち、主に有機酸を含有する上清と、炭水化物(糖類)を含有す沈殿物とに分離したうえで、上清のみを抽出して細胞増殖抑制剤の有効成分として使用することができる。
【0018】
また、上清を凍結乾燥させた後に液化して所定の濃度まで濃縮する工程を備えることにより、上清の粘土が適度なものとなり、さらに上清に含まれる有効成分を濃縮することができる。
【0019】
また、濃縮された濃縮上清を濾過して有効成分を抽出する工程を備えることにより、濃縮上清から、さらに有効成分を抽出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法は、乳酸発酵させた焼酎粕を有効成分とし、悪性腫瘍の細胞増殖を効果的に抑制することができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実験1におけるタンパク質含量を示すグラフであり、(a)はケース1、(b)はケース2を示す。
図2】PCR反応に用いたプライマーとその配列を示す図である。
図3】実験2におけるタンパク質含量を示すグラフであり、(a)は実施例1、(b)は実施例2を示す。
図4】実験2の実施例3におけるMTTアッセイ評価の結果を示すグラフである。
図5】実験2の実施例4におけるMTTアッセイ評価の結果を示すグラフである。
図6】実験2の実施例5におけるMTTアッセイ評価の結果を示すグラフである。
図7】実験2における遺伝子発現の変化を示すグラフであり、(a)はp53mRNA遺伝子、(b)はBcl-2mRNA遺伝子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法に関する本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0023】
[実験1]
実験1は焼酎粕液(以下、「SPL」という。)のマウス骨格筋由来C2C12細胞筋の成長に及ぼす影響について確認した。
【0024】
1.事前準備
(1) 焼酎粕液(SPL)の調整
本発明の実施形態において用いた焼酎粕は、焼酎蒸留所で得られた発酵残渣の粘度を取り除いた後、固液分離により微粒の懸濁物質を含有する濾過液と、比較的大きな懸濁物質からなる固形物に分離される。このうち濾過液について市販の乳酸菌株(畜産用ラクトヒロックス 株式会社廣商)と所定量の糖類を混合させながら発酵させた。
【0025】
焼酎粕の乳酸菌による発酵条件は、公知の乳酸発酵の発酵条件に従い、略25~30℃の温度条件における嫌気性雰囲気のもとで、一定期間(約14日間)発酵させた。このとき、所定時間(例えば略12~24時間)毎にゆっくりと数十秒間撹拌し、pHが4程度を発酵完了の目安とした。
【0026】
乳酸発酵後の焼酎粕を10分間遠心分離し、上清と沈殿物に分離し、このうち上清のみを抽出した。抽出した上清は、凍結乾燥したうえで再液化して濃縮した後に、0.45μmと0.22μmのフィルターを用いてろ過減菌した。これをSPLとして実験に用いた。なお、実験に用いたSPLは10倍濃縮液で乾物22%である。
【0027】
(2)細胞の培養
<凍結細胞の移植>
実験に用いる凍結細胞は以下の手順で移植した。
手順1 10cm dishに10%FBS+DMEMを10mL入れ、37℃で前もってインキュベートしておいた。
手順2 ―80℃で凍結しているC2C12筋芽細胞を37℃で急速解凍し、dishの端に1000μLピペットマンで静かに注入した。
手順3 細胞を注入した反対側から培地を適量取り、培地をマイクロチューブに入れて回収し、再度dishに注入した。
手順4 dishを縦・横によく傾け、細胞と培地をよく混合し、顕微鏡で細胞を確認した後、37℃でインキュベートした。
手順5 細胞が均一に接着するように、10分毎にdishをよく振盪した。
手順6 細胞が接着したことを確認した後、培地交換を行った。
手順7 培養は、37℃、95%空気、5%CO条件のもとで行い、2~3日おきに培地交換行った。
【0028】
<培地交換>
培地交換の手順は以下の通りである。
手順1 dish内の培地をアスピレーターで吸いとる。このとき、アスピレーターの先端を直接細胞に接触させないように、dishの側壁面を伝わせる。
手順2 37℃で温めておいたPBS約10mLをdishに注いで洗浄する。このときも細胞に直接接触しないように、dishの側壁面を伝わせてPBSを注ぐ。
手順3 手順2を繰り返す。
手順4 37℃で温めておいた培地をdishに10mL注ぐ。
【0029】
<継代培養>
細胞が75%コンフルエントの状態になったら、以下の方法で継代培養した。
手順1 必要量を10cm dishに10%FBS+DMEMを分注しておき、予め37℃でインキュベートしておいた。
手順2 マウス骨格筋由来C2C12筋細胞を播種した10cm dishの培地を除き、約10mLのPBSで2回洗浄を行った後、1mLのTrypsinを添加しdishにまんべんなく行き渡らせた。余分なTrypsinをアスピレーターで吸引し、dishを叩いて物理的刺激を与えて細胞を剥がした。顕微鏡で細胞が剥がれていることを確認した。
手順3 必要量の10%FBS+DMEMを添加してTrypsinの反応を止め、緩やかにピペッティングして細胞凝集塊を破壊し懸濁液にした。
手順4 37℃でインキュベートしておいた10cm dishに細胞懸濁液を1000μL添加し、dishを縦・横によく傾け、細胞と培地をよく混合した。
手順5 細胞が均一に接着するように、15分毎に培地をよく振盪した。
【0030】
2.タンパク質含量の測定
(1)ケース1(SPLの筋管細胞への影響確認)
ケース1は、分化終了後のSPLの筋管細胞への影響を確認した。具体的には、筋芽細胞がコンフルエントに達した時点で培地を2%ウマ血清+DME培地に交換して筋管への誘導を開始した。十分に筋管が形成された後、培地にSPLを添加(乾物として0%、0.1%、0.2%、0.4%、各n=4)した(表1参照)。48時間の培養を行った。
【0031】
【表1】
【0032】
(2)ケース2(SPLの筋芽細胞への影響)
ケース2は、SPLの筋芽細胞への影響を確認した。具体的には、筋芽細胞がコンフルエントに達した時点で培地を2%ウマケッセイ+DME 培地に交換すると同時に、培地に、表1の通りSPLを添加(乾物として0%、0.2%、0.2%、0.4%、各n=4)して4日間の培養を行った。
【0033】
ケース1、及びケース2ともに、培養を行った後に細胞を回収し、成長の指標として総タンパク質含量を測定した。総タンパク質含量の測定には、周知のLowry法で測定した。
【0034】
3.結果
ケース1、及びケース2の総タンパク質含量を図1に示す(図1(a)はケース1、図1(b)はケース2の結果をそれぞれ示す。)。図1に示す通り、ケース1ではSPL投与の有意な効果は認められなかった。一方、ケース2では、Control区と比べて全てのSPL投与区で総タンパク質含量が減少した。特にSPL0.4%投与区では顕著に減少した(P=0.006)。
【0035】
以上より、ケース1の筋管細胞ではSPLを添加することの有意性は確認できなかった。一方、ケース2の筋管形成中の細胞では、総タンパク質含量が有意に減少した。また細胞形態の観察ではSPL0.1%投与区でも筋管がほぼ形成されていないことが認められた。これらの結果より、SPLは筋芽細胞の成長と分化に対して、抑制効果を示すことが明らかとなった。SPL濃縮液の酸性度は強いが、0.1%投与程度であれば、10mLの培地の緩衝作用によって酸の効果は打ち消されると考えられ、培地の低pH化が細胞の成長に影響を及ぼしたとは考えにくい。ただし高濃度であるSPL濃縮液0.4%投与以上では培地が黄色化していたので酸性化の影響も加味されていると考えられる。
【0036】
[実験2]
実験1により、SPLには筋芽細胞の成長や分化を抑制する作用があることが確認された。そこで、実験2では癌細胞への細胞増殖抑制作用を検証するために、ヒト肝癌の純粋な細胞株であり癌細胞のモデルとして広く使用されている、ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞に対するSPLによる増殖抑制効果について確認した。
【0037】
1.実験準備
実験に際してのSPLの調整は実験1と同様である。また、細胞の培養方法(凍結細胞の移植、培地交換の手順、継代培養)については、凍結細胞としてヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞を使用した以外は実験1と同様である。
【0038】
2.タンパク質含量の測定
(1)実施例1(10cm dish培養)
まず、細胞がコンフルエントに達した時点で、10mLの培地に0mL、0.05mL、0.10mL、0.20mLのSPLを添加(乾物として0%、0.1%、0.2%、0.4%、各n=3)した(表2参照)。
【0039】
【表2】
【0040】
SPLの添加から48時間後に細胞の回収を行った。細胞の回収作業はクリーンベンチ外で行った。冷却したPBSで細胞の洗浄を2回行い、ディスペンサーを用いて細胞を剥がし、マイクロチューブに回収した。遠心分離によって細胞塊を沈殿させた後、余分なPBSをアスピレーターで吸引し、-30℃で保存した。
【0041】
(2)実施例2(6well plate培養)
実施例2は、基本的には実施例1の手順に従い行うが、細胞の増殖においては、6well plateに株分けを行った。コンフルエントに達した時点で培地にSPLを添加(0%、約0.06%、約0.11%、約0.27%、各n=6)した(表3参照)。添加から48時間後にPBSで細胞を洗浄した後、1mLの1N-NaOHを添加し全細胞を回収した。
【0042】
【表3】
(3)測定
実施例1、実施例2における総タンパク質含量の測定においては、実験1と同様に、Lоwryらの方法に従って行った。実施例1では、回収した細胞ペレットに1mLの1N-NaOHを添加して可溶化した後、約11倍に希釈(可溶化液0.1mLとHO 1.0mLを混合)して分析に用いた。実施例2では、マイクロチューブに回収した細胞液を超音波処理で溶解し、約2.5倍に希釈(可溶化液0.13mLとHO 0.20mLを混合)して分析に用いた。
【0043】
3.MTTアッセイ
(1)実施例3(48時間後)
実施例3では、MTTアッセイ法を用いて、SPLの細胞増殖に与える影響としての時間依存を確認した。まず、細胞の増殖は、実施例1の手順に準じた。なお、実施例3では、96well plateに株分けを行った。コンフルエントに達した時点で混合しておいたSPL入り10FBS+DMEM培地に交換した(0%、0.1%、0.2%、0.4%、各n=16)。実施例3で使用した培地とSPLの添加量の関係は表4の通りである。
【0044】
【表4】
【0045】
(2)実施例4(24時間後)
実施例3と同様の手順で行った。実施例4で使用した培地とSPLの添加量の関係は表5の通りである。
【0046】
【表5】
【0047】
(3)実施例5(時間依存性評価)
実施例4と同様の手順で行った。SPL濃縮液投与による時間依存性の影響を調べるために、wellに株分けを行った(n=8/区)。また、実施例5で使用した培地とSPLの添加量の関係は表6の通りである。
【0048】
【表6】
【0049】
(4)MTTアッセイ評価
HepG2細胞増殖は、MTTアッセイ評価を行った。MTTアッセイ評価には、MTTアッセイキット(コスモ・バイオ株式会社)を使用した。MTTは淡黄色の基質で、生細胞のミトコンドリアにより開裂し(死細胞では開裂しない)、晴青色のホルマザンを生成する。このホルマザンの生成量は生細胞数と相関し、細胞増殖能、生存率、及び毒性評価を行うことができる。
【0050】
MTTアッセイ手順は以下の通りである。
手順1 細胞がコンフルエントに達した時点で培地にSPLを添加した。
手順2 MTT溶液に沈殿物がある場合は、溶液を37℃に加熱し、澄んだ溶液が得られるまで静かに混合した。
手順3 各ウェルの100μLの培地に10μLのMTT溶液を加える。ウェルの側面をたたき混ぜた。
手順4 37℃で4時間インキュベートした。
手順5 各ウェルの培地に200μL DMSOを直接添加し、ピペットで数回ピペッティングし遠心分離した。
手順6 分光光度計で570nmのシグナル吸光度を測定し630nmでのブランク吸光度を測定後、シグナル吸光度からブランク吸光度を差し引き、吸光度値を得た。
【0051】
実施例3では、SPLを添加した24時間後に培地交換を行い、SPL添加から48時間後にMTT溶液を加えた。実施例4では、SPLを添加した24時間後に同様にMTT溶液を加え、遠心分離した。また、実施例5では、SPL添加後0、6、12、24、48時間培養を行った細胞に対して、MTTアッセイ評価を行った。
【0052】
4.遺伝子発現
SPL投与によるHepG2細胞増殖抑制効果の原因を解明するため、HepG2細胞における細胞増殖またはアポトーシス関連遺伝子のmRNA発現量を調べた。
【0053】
(1)RNA抽出
RNA抽出は以下の手順で行った。
手順1 スピンダウンを行 0.4mLのUltraPureWaterを加え、ボルテックス後、15分間放置した後に、5分間遠心分離した。
手順2 500μLのISOGENIIを加えた。
手順3 上清1mLをとり、5μLのp-Blomoanisoleを加え、ボルテックス後5分間放置した後に5分間遠心分離した。
手順4 上清0.7μLをとり、0.7μLのイソプロパノールを加え、転倒撹拌後、10分間放置した。
手順5 上清を除去し、白いペレットを確認した。
手順6 75%エタノールを500μL加え、1分間遠心分離した。
手順7 上清を吸引除去した。
手順8 30μLのUltraPureWaterを入れ、攪拌してRNAペレットを完全に溶解させ、スピンダウンを行った。その後、―80℃で保存した。
【0054】
(2)RNAの希釈
RNAの希釈は以下の手順で行った。
手順1 抽出したRNAの濃度を超微量紫外・可視分光光度計(NANO DROP LIFE Thermo Scientific、 Bremen、 Germany)で計測し、60ng/μLになるようにUltraPureWaterでサンプルごとに希釈した。
手順2 検量線用としてRNAサンプルをおおよそ120ng/μLになるように希釈した。
手順3 軽く攪拌、スピンダウンした。
【0055】
(3)cDNA合成
PrimeScript RT reagent kitを用いてcDNAを合成した。
【0056】
(4)PCR反応
PCR反応は以下の手順で行った。
手順1 プライマーの希釈を行った。プライマー20μLとddHO 180μLをチューブ中で混合しスピンダウンした。
手順2 8連チューブに20μLずつ分注した。
手順3 検量線用サンプルの希釈を行った。
手順4 以下の組成に従って、プレミックス液を調製した。
GAPDH、p53、Bcl-2
SYBR select MasterMix 10.0μL
ddHO 60.4μL
Primer F 0.8μL
Primer R 0.8μL
手順5 PCR用96ウェルプレートにプレミックスを18μL入れ、cDNAを2μLずつ入れた。
手順6 プレートシールを張り、5分間遠心分離した。
【0057】
PCR反応に用いたプライマーを図2に示す。mRNAの発現量は、7300Real-Time PCR system Applied Biosystems、 Foster City、 CAを用いて分析した。PCRの反応は、50℃で2分、95℃で2分間反応させた後、95℃で15秒、55℃で15秒、72℃で60秒の反応を50回行った。各mRNAの発現量は、GAPDHのmRNA発現量を内部標準として用いて補正した。
【0058】
5.結果
(1)タンパク質含量
実施例1の総タンパク質含量の結果では、分散分析でSPL投与の有意(P=0.021)な効果が確認できた(図3(a))。また、実施例2の総タンパク質含量の結果でも、分散分析でSPL投与の有意(P=0.047)な効果が確認できた(図3(b))。特に、Control区とSPL約0.06%投与区、さらにControl区とSPL約0.11%投与区では1%水準で有意な差が見られた。
【0059】
(2)MTTアッセイ
次に、実施例3~実施例5のMTTアッセイ評価の結果を図4乃至図6に示す。なお、各実験においては2反復の実験を行った。
【0060】
SPL投与後48時間でMTTアッセイを行った実施例3では、Control区と比較して、SPL投与区で濃度依存的にHepG2細胞の増殖が抑制された(図4)。分散分析では、2反復行った実験の両方でSPL投与の有意(p<0.0001)な効果が確認できた。また、多重検定比較でも両方の試験で、Control区とSPL0.4%添加区の間に1%水準の有意差が確認できた。
【0061】
SPLを投与後24時間でMTTアッセイを行った実施例4においても、Control区と比較してSPL投与区で濃度依存的にHepG2細胞の増殖が抑制され、分散分析では、2反復行った実験の両方でSPL投与の有意(p<0.0001)な効果が確認できた(図5)。また、多重検定比較でも両方の試験で、Control区とSPL0.4%添加区との間に1%水準の有意差が確認できた。
【0062】
実施例5では、SPL添加の時間依存的な効果を確認するために、SPL添加後0、6、12、24、48時間培養を行った細胞に対してMTTアッセイを行った。実施例5では、濃度要因、時間要因、濃度と時間の交互作用でもそれぞれ有意な(p<0.0001)効果が確認された。つまり、SPLは濃度依存的、時間依存的にHepG2細胞の増殖を抑制するとともに、その効果は濃度と時間に相乗して現れることが示された(図6)。
【0063】
(3)遺伝子発現
まず、細胞周期の停止やアポトーシス誘導に関与するp53のmRNA発現量はSPL投与によって有意に増加した(図7(a))。一方で、抗アポトーシスタンパク質のBcl-2のmRNA発現量はSPL投与によって有意に減少した(図7(b))。以上より、SPLによる細胞増殖の抑制はこれらの細胞シグナル伝達経路を介したアポトーシス誘導による可能性が示唆された。
【0064】
6.考察
実験2では、SPLの癌細胞への細胞成長抑制作用を検証するために、ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞の成長に及ぼすSPLの影響を調べた。その結果、実験1の結果と同様にHepG2細胞でも細胞成長の指標である総タンパク質含量が有意に低下することが確認できた。また、総タンパク質含量低下の結果から、SPLの細胞増殖抑制効果を確認するために培養細胞の増殖率や生存活性を評価するMTTアッセイを行った結果、濃度時間依存的に増殖を抑制することが明らかとなった。さらに、遺伝子の発現より、p53、及びBcl-2遺伝子の発現に有意な効果が見られ、アポトーシスを促進している可能性がある。このように、新たに発見されたSPLの作用機序は、癌予防・治療へ特化した新規の医療品、サプリメント(機能性食品)や食品添加物としての活用の可能性が示唆された。
【0065】
以上、本発明に係る細胞増殖抑制剤、食品組成物、及び細胞増殖抑制剤の製造方法は、乳酸発酵させた焼酎粕を有効成分とし、悪性腫瘍の細胞増殖を効果的に抑制することができるものとなっている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7