(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119221
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】植物供給システム及び植物供給方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20230821BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20230821BHJP
【FI】
A01G7/00 601Z
A01G7/00 601C
A01G7/00 603
A01G31/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021964
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】518018986
【氏名又は名称】MHIエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】新居田 幸江
(72)【発明者】
【氏名】塩見 洋志
(72)【発明者】
【氏名】勝目 正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 香織
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022DA08
2B022DA15
2B022DA17
2B022DA19
2B022DA20
2B314MA12
2B314MA21
2B314MA38
2B314MA39
2B314MA40
2B314MA42
2B314PD43
2B314PD58
2B314PD61
2B314PD63
(57)【要約】
【課題】所望の二次代謝物等を含む成分を抽出可能な植物を、年間を通じて安定的に供給することができるシステムを提供する。
【解決手段】植物供給システムは、植物の生育環境を制御可能な栽培施設と、生育環境を制御する環境制御部と、栽培施設で植物を栽培および収穫を行う栽培収穫部と、収穫した植物から抽出した前記二次代謝物を含む抽出物の分析を行う分析部と、環境データと、植物の成長データと、植物のサイズ等を含む測定データと、抽出物の分析結果とを対応付けて記憶するデータベースと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の生育環境を制御可能な栽培施設と、
前記生育環境を制御する環境制御部と、
前記栽培施設で植物を栽培し、栽培した前記植物を収穫する栽培収穫部と、
収穫した前記植物から抽出した二次代謝物を含む抽出物の分析を行う分析部と、
前記生育環境の環境データと、前記植物の成長状況を記録した成長データと、収穫後の前記植物の高さや重量を含む測定データと、前記抽出物の分析結果とを対応付けて記憶するデータベースと、
を備え、
前記環境制御部は、前記データベースが記憶する前記分析結果を再現するような前記二次代謝物を含む成分を生成する前記植物を栽培するために、前記環境データに基づいて前記生育環境の制御を行う、
植物供給システム。
【請求項2】
前記環境制御部は、前記植物の前記生育環境について、当該植物から抽出する前記二次代謝物を含む抽出物、あるいは当該植物そのもの、あるいは前記二次代謝物を含む抽出物の提供先や用途に応じて、光強度、光質、明期、暗期、気温、湿度、水温、水質、pH、EC、二酸化炭素濃度のうちの1つ又は複数を制御し、これらの制御内容を前記環境データとして前記データベースへ記録する、
請求項1に記載の植物供給システム。
【請求項3】
前記データベースは、分株数、身長、茎径、株高、株幅、色、重量のうちの1つ又は複数を、前記成長データおよび/または前記測定データとして記憶し、前記植物の成長速度や前記二次代謝物の制御に用いられる、
請求項1又は請求項2に記載の植物供給システム。
【請求項4】
前記分析結果は、機器評価および/または官能評価を用いて取得する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の植物供給システム。
【請求項5】
抽出した前記二次代謝物とともに、前記データベースが記憶する前記二次代謝物を含む抽出物の抽出元の前記植物の前記環境データと、前記成長データと、前記測定データと、前記分析結果とのうちの少なくとも1つを、前記二次代謝物を含む抽出物の提供先へ送信する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の植物供給システム。
【請求項6】
前記二次代謝物を含む抽出物は、香り、におい、色、呈味の各成分のうちの1つ又は複数に影響がある抽出物であり、前記生育環境を制御することにより調整できる、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の植物供給システム。
【請求項7】
植物の生育環境を制御可能な栽培施設において、
前記生育環境を制御しつつ植物を栽培し、
栽培した前記植物を収穫し、
収穫した前記植物から抽出した二次代謝物を含む抽出物の分析を行い、
前記生育環境の環境データと、前記植物の成長状況を記録した成長データと、収穫後の前記植物の高さや重量を含む測定データと、前記抽出物の分析結果とを対応付けてデータベースへ記録し、
前記データベースが記憶する前記分析結果を再現するような前記二次代謝物を含む成分を生成する前記植物を栽培するために、前記環境データに基づいて前記生育環境の制御を行う、
植物供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物の安定した通年供給を可能とする植物供給システム及び植物供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、一次代謝物と二次代謝物を生成する。一次代謝物とは、生体の維持に欠かせない物質群であり、二次代謝物とは、一次代謝物から派生した、必ずしも植物の生命活動には直接関与していない物質群である。特許文献1には、収穫後の花、葉及び茎を有する双子葉植物に、紫外線照射処理を行う工程、次いで、青色光及び赤色光のいずれか一以上の光を照射しながら乾燥を行う工程を含む、収穫後の双子葉植物の花に含まれる二次代謝物を増量する方法が開示されている。しかしながら、当該文献には、所望の二次代謝物を生成する植物を安定して栽培する方法については開示が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所望の二次代謝物を含む成分を生成する植物を、年間を通じて安定的に栽培できる技術が求められている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決することができる植物供給システム及び植物供給方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の植物供給システムは、植物の生育環境を制御可能な栽培施設と、前記生育環境を制御する環境制御部と、前記栽培施設で前記植物を栽培し、栽培した前記植物を収穫する栽培収穫部と、収穫した前記植物から抽出した二次代謝物を含む抽出物の分析を行う分析部と、前記生育環境の環境データと、前記植物の成長状況を記録した成長データと、収穫後の前記植物の高さや重量を含む測定データと、前記抽出物の分析結果と、を対応付けて記憶するデータベースと、を備え、前記環境制御部は、前記データベースが記憶する前記分析結果を再現する前記二次代謝物を含む成分を生成する植物を栽培する場合に、前記環境データに基づいて前記生育環境の制御を行う。
【0007】
本開示の植物供給方法によれば、植物の生育環境を制御可能な栽培施設において、前記生育環境を制御しつつ植物を栽培し、栽培した前記植物を収穫し、収穫した前記植物から抽出した二次代謝物を含む抽出物の分析を行い、前記生育環境の環境データと、前記植物の成長状況を記録した成長データと、収穫後の前記植物の高さや重量を含む測定データと、前記抽出物の分析結果とを対応付けてデータベースへ記録し、前記データベースが記憶する前記分析結果を再現する前記二次代謝物を含む成分を生成する前記植物を栽培する場合に、前記環境データに基づいて前記生育環境の制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
上述の植物供給システム及び植物供給方法によれば、所望の二次代謝物を含む成分を抽出可能な植物を、年間を通じて安定的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る植物供給システムの概要図である。
【
図2】実施形態に係る植物供給方法の手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の植物供給システムについて、
図1~
図2を参照して説明する。以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0011】
(システム構成)
図1は、実施形態に係る植物供給システムの概要図である。植物供給システム10は、所望の二次代謝物を含む成分を抽出できるような植物を安定して栽培し、栽培した植物から抽出した二次代謝物を含む抽出物や、当該抽出物を抽出可能な植物そのものを、ユーザへ提供するシステムである。以下の説明では、二次代謝物を含む抽出物は、香り、におい、色、呈味の各成分のうちの1つ又は複数に影響がある抽出物であるとしているが、影響を与える対象は、ここで例示した香り、におい、色、呈味に限定されない。また、二次代謝物を含む成分や二次代謝物を含む抽出物とは、これらには、二次代謝物の他、ビタミン、ミネラル、タンパク質、水などが含まれ得ることを示す。図示するように植物供給システム10は、栽培施設11と、環境制御部12と、栽培収穫部13と、抽出分析部14と、記録装置15と、を備える。
【0012】
栽培施設11は、LED波長(光質)、光強度、明期、暗期、気温、湿度、CO2濃度、養液濃度、水温、水質、pH、EC(電気伝導度)等などの生育環境を制御して植物の栽培を行うための室内栽培施設、例えば、植物工場である。栽培施設11には、生育環境のモニタリングに必要な各種センサ、例えば、温度計、湿度計、CO2濃度計、照度計、水温計、養液成分センサ、pH計、EC計(伝導率計)、カメラ等が備えられている。栽培施設11には、生育環境の制御に必要な機器や設備、例えば、赤色、青色、緑色、白色の各色のLED(light emitting diode)光源ユニット、空調機、養液タンク、揚水ポンプ、CO2施用機等が備えられている。栽培施設11には、植物の種を発芽させる育苗棚と、苗を定植して成長させるための栽培棚(例えば、多段式の水耕栽培棚)とが備えられている。育苗棚と栽培棚には、それぞれ育苗棚IDと栽培棚IDが付され、それぞれの識別および個別管理が可能となっている。LED光源ユニットを制御することにより、赤色、青色、緑色、白色のLEDの比率(光質)、光強度、明期(LEDをオンにする時間帯)、暗期(LEDをオフにする時間帯)を、二次代謝物を含む成分がより多く生成されるように制御することができる。LED光源ユニットは、栽培棚ごとに設けられ、栽培棚ごとに光に関する異なる条件を設定できてもよい。空調機の制御によって室内を定温に制御することができ、CO2施用機を制御することにより施設内のCO2濃度を所定の濃度に制御することができる。さらに、栽培施設11では、水耕栽培棚によって土壌環境と比べて質的な変動を小さくして植物を栽培することができ、湛液式栽培によって灌水量を安定させることができ、養液栽培によって施肥量を精密に制御することができる。
【0013】
一般に植物は、露地栽培されることも多いが、露地栽培の場合、栽培できる植物の量や質は、気象条件、季節、土壌など自然環境の影響を強く受ける。二次代謝物は、一次代謝物を原料として、外部環境に対する応答として生成される。換言すると、生育環境を制御して植物に適切なストレスを与えることができれば、植物は所望の質や量の二次代謝物を生成するようになる。植物供給システム10は、植物に与えるストレスと生成される二次代謝物の関係性を紐づけて記録し、解析することにより、所望の二次代謝物が生成されるような植物の生育環境(例えば、光質や養液(肥料)の組成など)を導き出し、導き出した生育環境を再現することにより、所望の二次代謝物を含む成分を抽出可能な植物を安定して栽培することを可能とする。二次代謝物の生成に適した生育環境の条件を導き出すためには、再現性の高い試験環境が必要である。また、導き出した生育環境にて植物を安定して栽培するためには、所望の生育環境を再現できる必要がある。栽培施設11(植物工場)によれば、生育環境の再現性を実現することができる。
【0014】
環境制御部12は、栽培施設11における生育環境を監視し、制御を行う部門である。例えば、環境制御部12は、上述の各種センサが計測した計測データを参照し、生育環境の光質や気温等が理想的な状態となっているかどうかを監視するとともに、各種センサが計測したデータを記録装置15に入力し、環境データとして記録する。また、環境制御部12は、栽培施設11の生育環境を作り出す機器や設備(上記のLED光源ユニットや空調機等)の運転状態の設定や調整を行うことにより、栽培施設11の生育環境を目的とする状態に制御する。例えば、環境制御部12は、栽培施設11の生育環境が、実際に所望の二次代謝物を含む成分が抽出できた植物の生育環境と同様の環境になるように機器等の制御を行う。各種センサが計測したデータの記録装置15への入力作業や、機器や設備の設定作業等は、人が行ってもよいし、コンピュータ等により自動的に実行されてもよい。
【0015】
栽培収穫部13は、種の選定、種蒔き、苗づくり、苗の定植、栽培、収穫などを行う部門である。栽培収穫部13は、植物の栽培、収穫のほか、植物の成長状況を観察し、葉の数や大きさ、身長又は株高、根や葉の重量、色、茎径、株幅、分株数などを測定する。栽培収穫部13は、測定した結果を記録装置15に入力し、成長データとして記録する。例えば、栽培収穫部13は、抽出できる二次代謝物を含む成分が異なるため、収穫後の植物の地下部(根)と地上部(葉)の重量等を別々に測定する。
【0016】
抽出分析部14は、栽培収穫部13によって収穫された植物から二次代謝物を含む成分を抽出し、抽出された二次代謝物を含む抽出物の成分分析や評価を行う部門である。二次代謝物を含む成分の抽出方法としては、水蒸気蒸留法(減圧・高圧)、圧搾法、抽出法、超臨界抽出、溶媒抽出法、溶剤抽出法、マイクロ波抽出法、低温真空抽出法などがある。抽出方法は、これらの中から植物の種類や二次代謝物を含む成分の種類に応じて適切に選択される。また、抽出された二次代謝物を含む抽出物の評価方法には、ガスクロマトグラフィ、質量分析器、水素塩イオン化検出器、臭い識別センサ等の機器評価による方法、官能評価による方法がある。二次代謝物を含む抽出物の分析では、成分(種類や含有量・割合など)、色、呈味、香り、においなどが分析される。抽出分析部14は、二次代謝物を含む成分の抽出条件や分析結果を記録装置15に入力して記録する。
【0017】
なお、環境制御部12、栽培収穫部13、抽出分析部14は、栽培施設11を用いて所望の二次代謝物を含む成分を抽出可能な植物を通年栽培するために必要な役割を機能的側面から分類した場合における各役割を担う部門の一例である。部門の構成は、この例に限定されない。
【0018】
記録装置15は、内部にCPU(central processing unit)及び各種メモリやHDD(hard disk drive)などの記憶媒体、OS(operating system)、周辺機器等を含むコンピュータによって構成されている。記録装置15は、データベース16を備えている。データベース16は、1つのグル-プの植物について、そのグル-プの植物についての環境データ、成長データ、二次代謝物を含む成分の抽出条件および分析結果を対応付けて記憶する。1つのグル-プの植物とは、例えば、同時期に種蒔きや定植がなされ、同じ生育条件で栽培され、同時期に収穫され、同条件で二次代謝物を含む成分が抽出された植物(例えば、同じ栽培棚で栽培された植物群)である。あるいは、データベース16は、1つの植物ごと(1本、1株ごと)に、環境データ、成長データ、二次代謝物を含む成分の抽出条件および分析結果を対応付けて記憶してもよい。
【0019】
植物供給システム10は、抽出分析部14によって所望の分析結果が得られた場合の植物の生育環境を再現することにより、所望の二次代謝物を含む成分が抽出できるような植物を、年間を通じて安定的に栽培する。抽出分析部14によって分析・評価された二次代謝物を含む抽出物、又は、そのような抽出物を抽出することができる植物そのものは、ユーザへ供給され、二次代謝物を含む抽出物を活用した商品の製造などに用いられる。
【0020】
(方法)
次に、
図2を参照して、植物供給システム10による植物供給方法について説明する。
図2に示す手順は一例であって、後述するS1~S16の全てが実施されなくてもよい。植物の栽培に先立って、環境制御部12は、所定の設定(例えば、現在分かっている最適な生育環境の条件)に基づいてLED光源ユニット等の設定を行って、栽培施設11の育苗用エリアと栽培棚の光質、光強度、明期、暗期、気温、湿度、CO
2濃度、養液濃度、水温、pH、EC等などを制御しておく。育苗用エリアには、育苗容器が設置されている。
【0021】
<種蒔き~発芽>
適切な生育環境が構築されると、栽培収穫部13が、種の選定を行い(S1)、選定した種を育苗容器に種蒔きして(S2)、苗づくりを行う(S3)。これにより、最適な生育環境にて発芽させることができる。また、発芽までは発芽専用の育苗容器にて苗づくりを行う。また、株分けを実施し、苗を増やしてもよい。
【0022】
苗づくりの間、環境制御部12は、定期的に各種センサが計測した環境データ(栽培施設11に設けられた、温度計、湿度計、CO2濃度計、照度計、水温計、養液成分センサ、pH計、EC計等が計測したデータ)を記録装置15に入力して記録する(S4)。記録装置15は、入力された環境データをデータベース16に書き込んで保存する。環境データの一例を以下に示す。
(1)環境データ
計測日時、育苗容器ID、光質(赤色の波長の比率、青色の波長の比率、緑色の波長の比率、白色の波長の比率)、光強度、明期、暗期、気温、湿度、CO2濃度、養液濃度、水温、水質、pH、EC。
【0023】
苗づくりの間、栽培収穫部13は、定期的に苗の成長状況を測定し、測定結果を成長データとして記録装置15に入力して記録する(S4)。記録装置15は、入力された成長データをデータベース16に書き込んで保存する。成長データの一例を以下に示す。
(2)成長データ
観察日時、育苗棚ID、種蒔きした日、発芽の有無、苗の高さ、分株数、苗を撮影した写真。
【0024】
種が発芽し、ある程度育つと、栽培収穫部13は、発芽し発育した苗を選定し、収穫する(S5)。栽培収穫部13は、設定した苗について記録した環境データと成長データを参照して、育苗に最適な環境条件を検討する。環境制御部12は、最適な環境条件を再現できるように育苗用エリアのLED光源ユニット等の制御を行う。そして、栽培収穫部13は、再び、S1からの工程を繰り返す。
【0025】
<定植・栽培>
栽培収穫部13は、S5にて選定・収穫した苗を栽培棚へ定植する(S6)。このとき、栽培収穫部13は、育苗容器IDと栽培棚IDを対応付けた情報を記録装置15に入力してもよい。これにより、ある植物について、種蒔きから収穫、その後の二次代謝物を含む成分の抽出・分析までをトレースすることができる。環境制御部12は、現在分かっている最適な生育環境の条件(所望の二次代謝物を含む成分が抽出可能な植物の生育環境条件)に基づいてLED光源ユニット等の設定を行って、育苗棚における光質、光強度、明期、暗期、気温、湿度、CO2濃度、養液濃度、水温、水質、pH、EC等などを制御する(S7)。
【0026】
定植から収穫までの間、環境制御部12は、定期的に各種センサが計測した環境データを記録装置15に入力して記録する(S9)。記録装置15は、入力された環境データをデータベース16に書き込んで保存する。環境データの一例を以下に示す。
(3)環境データ
計測日時、栽培棚ID、赤色の波長の比率、青色の波長の比率、緑色の波長の比率、強度、明期、暗期、気温、湿度、CO2濃度、養液濃度、水温、水質、pH、EC。
【0027】
定植から収穫までの間、栽培収穫部13は、定期的に植物の成長状況を観察する(S8)。栽培収穫部13は、観察結果を成長データとして記録装置15に入力して記録する(S9)。記録装置15は、入力された成長データをデータベース16に書き込んで保存する。成長データの一例を以下に示す。
(4)成長データ
観察日時、栽培棚ID、定植した日、植物の高さ(身長又は株高)、葉の数、葉の長さ、葉の幅、茎径、株幅、色の変化、栽植密度、植物を撮影した写真。
【0028】
植物が育つと、栽培収穫部13は、植物を収穫する(S10)。定植から収穫までの間、栽培収穫部13は、栽培した植物について記録した環境データと成長データを参照して、栽培に最適な環境条件を検討する。環境制御部12は、発育に最適な環境条件を再現できるように他の栽培種のLED光源ユニット等の制御を行う(S7)。例えば、収穫済みの植物から抽出した二次代謝物を含む成分に対する分析・評価結果(S14)において、所望の二次代謝物を含む成分を生成するような植物の生育環境が分析されている場合には、環境制御部12は、その分析の結果判明した、所望の二次代謝物を含む成分を生成するような植物の生育環境を再現するようにLED光源ユニット等の制御を行い(S7)、さらにその植物の栽培過程に記録した環境データと成長データを参照して、生育環境の調整を行い、植物の成長速度や植物が生成する二次代謝物を含む成分を制御する。
【0029】
栽培収穫部13は、収穫した植物について、重量、株高、株幅、茎径などの測定を行う(S11)。このとき、栽培収穫部13は、用途に応じて、地下部(根)と地上部(葉)に分けて重量等の測定を行ってもよいし、何れか1つの重量等のみを測定してもよい。例えば、地下部(根)と地上部(葉)から異なる二次代謝物を含む成分が抽出されるような植物の場合、地下部(根)と地上部(葉)に分けて測定を行う。栽培収穫部13は、測定結果を成長データとして記録装置15に入力して記録する(S12)。記録装置15は、入力された成長データをデータベース16に書き込んで保存する。成長データの一例を以下に示す。
(5)成長データ
測定日時、栽培棚ID、収穫日、地下部の重量、地下部の長さ又は高さ、地下部の幅や径などの地下部の計測データや撮影した写真、地上部の重量、地上部の身長又は株高、地上部の株幅、地上部の茎径などの地上部の計測データや撮影した写真。
【0030】
<抽出・蒸留>
収穫した植物の測定が終わると、抽出分析部14が、収穫された植物から(例えば、地下部と地上部のそれぞれから)、二次代謝物を含む成分を抽出又は蒸留する(S13)。抽出・蒸留方法は、上記した通り、水蒸気蒸留法(減圧・高圧)、圧搾法などが存在する。抽出分析部14は、適切な方法により二次代謝物を含む成分の抽出又は蒸留を行う。二次代謝物を含む成分の抽出又は蒸留を行うと、精油、芳香蒸留水、エクストラクト、乾燥物のうちの何れか1つ又は複数が得られる。
【0031】
<分析・評価>
次に抽出分析部14が、抽出によって得られた精油、芳香蒸留水、エクストラクト、乾燥物等に対する分析・評価を行う(S14)。分析・評価は、上記した通り、ガスクロマトグラフィ等の機器評価や、人の官能評価によって行われる。抽出分析部14は、二次代謝物含む成分の抽出条件や分析結果を分析結果データとして記録装置15に入力して記録する(S15)。抽出条件とは、二次代謝物含む成分の抽出又は蒸留の方法や抽出温度、抽出又は蒸留を行った環境の環境データ(圧力、温度、時間等)である。分析結果とは、二次代謝物を含む成分を構成する物質の種類やその含有量、色、呈味、香り、におい等の各成分、分析を行った環境等である。記録装置15は、入力された分析結果データをデータベース16に書き込んで保存する。分析結果データの一例を以下に示す。
(6)分析結果データ
栽培棚ID、抽出日時、抽出条件、評価日時、分析結果。
【0032】
植物供給システム10では、所望の分析結果を再現できるように、その分析結果が得られた植物が育った環境データをこれから栽培する植物の生育環境にフィードバックする。これにより、所望の二次代謝物を含む成分が抽出できるような植物の栽培を実現する。具体的には、分析結果データに基づいて、所望の二次代謝物を含む成分が得られた場合に、これまでに記録されてきた成長データ、環境データ、測定データを参照して、二次代謝物の生成にとって最適な生育環境や成長状況を解析する。そして、その解析結果を環境制御部12が制御する生育環境にフィードバックすることで(S16)、今後収穫される植物から得られる二次代謝物を含む成分(香り、におい、色、呈味などに影響する成分)を調整することができる。また、分析結果データに含まれる二次代謝物を含む抽出物の量に基づいて、今後収穫される植物から得られる二次代謝物を含む抽出物の量を推定することができる。これらにより、所望の質および量の二次代謝物が含まれる成分を抽出可能な植物を栽培することができる。
【0033】
植物供給システム10は、二次代謝物が含まれる抽出物および/又は二次代謝物が含まれる抽出物が抽出可能な植物をユーザへ提供する。例えば、植物供給システム10は、ユーザが定める所定の基準をみたす抽出物等を提供する。
【0034】
(効果)
以上、説明したように本実施形態の植物供給システム10によれば、植物の栽培・収穫から二次代謝物を含む成分の抽出及び分析を一気通貫して実施し、所望の分析結果を再現できるような植物が栽培できるように環境制御を行う。これにより、所望の二次代謝物を含む成分を抽出可能な植物を、年間を通じて安定的に供給することができる。より具体的には、植物供給システム10によって植物が栽培され、二次代謝物を含む成分が抽出されると、データベース16には上記で例示した(1)~(6)のデータが記録される。例えば、定植時に育苗容器IDと栽培棚IDを対応付けておけば、ある栽培棚で栽培した植物について、種まきから収穫までの間に定期的に採取された成長データおよび環境データと、収穫後に抽出された二次代謝物を含む成分の抽出条件および分析結果とが紐づけられ、所望の二次代謝物を含む成分が抽出可能な植物がどのような生育環境でどのような過程で成長したのかが分析可能となる。反対に、どのような生育環境で育つと(ストレスを与えると)、所望の二次代謝物を含む成分が抽出できないかが分析可能となる。植物供給システム10の各部門の担当者は、リンケージされた環境データ、成長データ、分析結果データを分析して、所望の二次代謝物を含む成分を安定的に得るために必要な生育環境の条件を、種蒔き~定植までのフェーズ、定植・栽培のフェーズごとに導き出す。そして、環境制御部12は、導き出された生育環境の条件となるように、各フェーズにおける栽培施設11の環境を制御する。地域や季節に関わらず、1年を通じて栽培施設11を導き出された生育環境に制御することで、所望の二次代謝物を含む成分が抽出可能な植物を安定して通年供給することができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、LED光源ユニットによって、光質、光強度、明期、暗期を制御することとしたが、栽培施設11は、完全人工光型又は太陽光併用型の植物工場であってもよいし、太陽光型の植物工場であってもよい。また、上記では、育苗容器IDと栽培棚IDで評価対象の植物を識別することとしたが、植物1株ごとにIDを付して、植物1株ごとにデータベース16にて、(1)~(6)のデータを記録してもよい。また、上記実施形態では、種蒔き~定植のフェーズ、定植・栽培のフェーズのそれぞれについて最適化された環境制御を行うこととしたが、種蒔き~定植のフェーズについては生育環境の制御を行わず、定植・栽培のフェーズのみ生育環境の制御を行うようにしてもよい。また、植物供給システム10からユーザへ二次代謝物を含む抽出物を供給する際には、その二次代謝物に関してデータベース16に記録された(1)~(6)のデータ(これら全てでなく一部でもよい。)および農薬使用の有無などの情報をユーザへ供給してもよい。例えば、植物供給システム10が使用するPC(personal computer)、サーバ、スマートフォン等のコンピュータで構成された端末装置αから(1)~(6)のデータ等を含む電子データを、ユーザの所有するコンピュータで構成された端末装置βへ送信してもよいし、端末装置α上でWebサーバを稼働して、(1)~(6)のデータ等をWeb画面で表示して、端末装置βからアクセスすることによってそれらのデータを閲覧できるようにしてもよい。あるいは、植物供給システム10から(1)~(6)のデータ等を紙媒体などに印刷してユーザへ提供してもよい。これにより、二次代謝物を含む抽出物の品質を証明(成分、無添加、無農薬、植物工場で栽培、国内生産など)することができる。また、上記実施例では、抽出分析部14の分析結果に基づいて、好ましい植物の生育環境を導き出すこととしたが、さらにユーザの意見を取り入れて、環境制御部12が生育環境を制御してもよい。
【0036】
これまでにも、野菜や果物などの生育環境を管理して栽培することは行われているが、これらの植物では一次代謝物の管理が目的とされている。これに対し、本実施形態の植物供給システム10では、システム内に抽出分析部14を設け、二次代謝物を含む成分に対する分析結果と生育環境との紐づけを行うので、抽出可能な二次代謝物を含む成分の管理を目的として植物を生産することができる。例えば、植物自体の生産量が抑制的になっても、より高品質な芳香成分が得られる等、一次代謝物よりも二次代謝物に重きを置いた栽培が可能になる。
【0037】
また、露地栽培される植物の場合、気候の影響などにより、収穫量や価格が変動したり、抽出できる二次代謝物を含む成分の品質が安定しなかったりといったリスクがある。植物供給システム10にて、植物を栽培することにより、年間を通じて安定して、鮮度の高い生の植物を供給することができるので、例えば、生の植物や地下部(根)からしか抽出することができない二次代謝物を含む成分を活用することができる。
【0038】
また、上記の実施形態では、植物ごとにその植物から抽出できる二次代謝物を含む成分の分析結果に応じて、生育環境を制御することとしたが、同じ植物であっても、異なる二次代謝物を含む成分が抽出できる場合、その抽出物ごとに、成長データと、環境データと、測定データと、分析結果データと、を対応付けて記録し、この記録に基づいて、抽出物ごとに環境制御を行って、抽出物に応じた栽培を行ってもよい。また、同じ植物から抽出できる同じ二次代謝物を含む成分であっても、提供先のユーザや用途に応じて分析結果に対する評価基準が異なる可能性がある。また、同じユーザへ提供する同じ二次代謝物を含んだ抽出物についても、複数の異なる評価基準が設定されていて、その時々で異なる評価基準を満たすものを提供しなければならない可能性がある。このような場合、データベース16に、同じ種類の植物について、ユーザ別、用途別又は評価基準別に、成長データと、環境データと、測定データと、分析結果データと、を対応付けて記録し、この記録に基づいて、ユーザ別又は評価基準値別に栽培棚を分けて栽培し、栽培棚ごとに異なる条件で生育環境を制御するようにしてもよい。
【0039】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0040】
<付記>
各実施形態に記載の植物供給システム及び植物供給方法は、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)第1の態様に係る植物供給システム10は、植物の生育環境を制御可能な栽培施設11と、前記生育環境を制御する環境制御部12と、前記栽培施設で植物を栽培し、栽培した植物を収穫する栽培収穫部13と、収穫した前記植物から抽出した二次代謝物を含む抽出物の分析を行う分析部(抽出分析部14)と、前記生育環境の環境データと、前記植物の成長状況を記録した成長データと、収穫後の前記植物の高さ(身長または株高)や重量を含む測定データと、前記抽出物の分析結果と、を対応付けて記憶するデータベース16と、を備え、前記環境制御部12は、前記データベース16が記憶する前記分析結果を再現できるような前記二次代謝物を含む成分を生成する植物を栽培する場合に、前記環境データに基づいて前記生育環境の制御を行う。
【0042】
これにより、所望の二次代謝物を含む成分を抽出可能な植物を、年間を通じて安定的に供給することができる。
【0043】
(2)第2の態様に係る植物供給システムは、(1)の植物供給システム10であって、 前記環境制御部は、前記植物の前記生育環境について、当該植物から抽出する前記二次代謝物を含む抽出物、あるいは当該植物そのもの、あるいは前記二次代謝物を含む抽出物の用途に応じて、光強度と、光質と、明期と、暗期と、気温と、湿度と、水温と、水質と、pHと、ECと、二酸化炭素濃度と、のうちの1つ又は複数を制御し、これらの制御内容を前記環境データとして前記データベースへ記録する。
これにより、年間を通じて安定して植物を供給するだけでなく、需要や用途に応じた二次代謝物を含む成分を抽出することができる植物を栽培することができる。
【0044】
(3)第3の態様に係る植物供給システムは、(1)~(2)の植物供給システム10であって、前記データベースは、分株数と、身長と、茎径と、株高と、株幅と、色と、重量とのうちの1つ又は複数を、前記成長データおよび/又は前記測定データとして記憶し、前記植物の成長速度や前記二次代謝物の制御に用いられる。
生育環境を制御するうえで、成長データや測定データを参考にすることができる。
【0045】
(4)第4の態様に係る植物供給システムは、(1)~(3)の植物供給システム10であって、前記分析結果は、機器評価および/または官能評価を用いて取得する。
ガスクロマトグラフィ、質量分析器、水素塩イオン化検出器、臭い識別センサ等の機器評価による方法、官能評価による方法によって二次代謝物を含む抽出物の分析を行うことができる。
【0046】
(5)第5の態様に係る植物供給システムは、(1)~(4)の植物供給システム10であって、抽出した前記二次代謝物とともに、前記データベースが記憶する前記二次代謝物を含む抽出物の抽出元の前記植物の前記環境データと、前記成長データと、前記測定データと、前記分析結果とのうちの少なくとも1つを、前記二次代謝物を含む抽出物の提供先(ユーザ)へ送信する。
これにより、植物の栽培工程や二次代謝物の成分情報などを品質証明として提供することができる。
【0047】
(6)第6の態様に係る植物供給システムは、(1)~(5)の植物供給システム10であって、前記二次代謝物を含む抽出物は、香り、におい、色、呈味の各成分のうちの1つ又は複数に影響がある抽出物であり、前記生育環境を制御することにより調整できる。
これにより、所望の香り、におい、色、呈味が抽出できる植物を栽培することができる。
【0048】
(7)第7の態様に係る植物供給方法によれば、植物の生育環境を制御可能な栽培施設において、前記生育環境を制御しつつ植物を栽培し、栽培した前記植物を収穫し、収穫した前記植物から二次代謝物を含む成分を抽出し、抽出した前記二次代謝物含む成分に対する評価を行い、前記生育環境の環境データと、前記植物の成長状況を記録した成長データと、収穫後の前記植物のサイズや重量の測定データと、前記植物から抽出した前記二次代謝物の抽出条件と、前記二次代謝物に対する評価結果とを対応付けてデータベースへ記録し、前記データベースが記憶する前記二次代謝物に対する評価結果が良好である場合に、前記環境データを再現するように前記生育環境の制御を行う。
【符号の説明】
【0049】
10・・・植物供給システム、11・・・栽培施設、12・・・環境制御部、13・・・栽培収穫部、14・・・抽出分析部、15・・・記録装置、16・・・DB(データベース)