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特開2023-119244耐火建築物及び耐火建築物の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119244
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】耐火建築物及び耐火建築物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20230821BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20230821BHJP
   E04B 9/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
E04B1/94 L
E04B1/82 W
E04B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022029
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】牛山 歩
(72)【発明者】
【氏名】仁部 数典
(72)【発明者】
【氏名】馬場 峰雄
(72)【発明者】
【氏名】小濱 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】兼 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】文 正柱
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 沙帆
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001DE01
2E001DF02
2E001DF06
2E001FA08
2E001FA11
2E001FA14
2E001GA12
2E001GA42
2E001HA01
2E001HA03
2E001HA32
2E001HA33
2E001HF11
2E001HF12
(57)【要約】
【課題】耐火性能及び遮音性能を満たす界壁において施工性の向上を図ることが可能な耐火建築物を提供する。
【解決手段】耐火建築物1は、耐火性及び遮音性を有する界壁10の納まり構造を備えている。界壁10は、耐火性を有するパネル11と、界壁10の厚み方向においてパネル11を挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1ボード12A及び第2ボード12Bと、を有している。耐火建築物1は、パネル11を間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1天井30A及び第2天井30Bと、第1床20A及び第2床20Bと、を備えている。パネル11は、耐火建築物1の床下から天井裏まで達するように延びている。第1ボード12A(第2ボード12B)は、上下方向において第1天井30A(第2天井30B)及び第1床20A(第2床30B)の間に配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性及び遮音性を有する界壁を備えた耐火建築物であって、
前記界壁は、
耐火性を有するパネルと、
前記界壁の厚み方向において前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1部材及び第2部材と、を有し、
前記耐火建築物は、
前記界壁のうち、前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1天井及び第2天井と、
前記界壁のうち、前記パネルを間に挟む位置に設けられ、前記第1天井及び前記第2天井それぞれに対向する位置に配置される第1床及び第2床と、を備え、
前記パネルは、前記耐火建築物の床下から天井裏まで達するように延びており、
前記第1部材は、上下方向において前記第1天井及び前記第1床の間に配置され、
前記第2部材は、上下方向において前記第2天井及び前記第2床の間に配置されていることを特徴とする耐火建築物。
【請求項2】
前記パネルは、気泡コンクリートパネル(ALCパネル)であって、
前記第1部材、前記第2部材は、それぞれ第1石膏ボード、第2石膏ボードであって、
前記界壁は、前記界壁の厚み方向において前記ALCパネル及び前記第1石膏ボードの間に繊維系断熱材をさらに有し、
前記パネルは、前記耐火建築物の基礎から屋根裏まで達するように延びていることを特徴とする請求項1に記載の耐火建築物。
【請求項3】
前記耐火建築物は、住戸同士が連続して存在する建築物であって、
前記パネルが、前記基礎に対して取り付けられた部分から連続して上方に延びて、屋根に対して取り付けられ、
前記第1部材が、前記第1天井及び前記第1床の間に取り付けられ、
前記第2部材が、前記第2天井及び前記第2床の間に取り付けられていることを特徴とする請求項2に記載の耐火建築物。
【請求項4】
前記耐火建築物は、外壁及び内壁を有する壁を備え、
前記パネル、前記第1部材及び前記第2部材と、前記内壁とが突き当てられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の耐火建築物。
【請求項5】
耐火性及び遮音性を有する界壁を備えた耐火建築物の施工方法であって、
前記界壁のうち、耐火性を有するパネルを施工する第1の工程と、
前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1天井及び第2天井と、前記パネルを間に挟む位置に設けられ、前記第1天井及び前記第2天井それぞれに対向する位置に配置される第1床及び第2床と、を施工する第2の工程と、
前記界壁のうち、前記界壁の厚み方向において前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1部材及び第2部材を施工する第3の工程と、を含み、
前記第1の工程では、前記パネルを前記耐火建築物の基礎から屋根裏まで延ばすように施工し、
前記第3の工程では、
前記第1部材を上下方向において前記第1天井及び前記第1床の間に配置するように施工し、前記第2部材を上下方向において前記第2天井及び前記第2床の間に配置するように施工し、
前記第1部材及び前記第2部材とともに間仕切り壁を施工することを特徴とする耐火建築物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火建築物及び耐火建築物の施工方法に係り、特に、耐火性及び遮音性を有する界壁を備えた耐火建築物及び耐火建築物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、共同住宅や長屋のように住戸同士が連続して存在する建築物が建築されており、当該建築物は、隣接する住戸と住戸の間を仕切る界壁を備えている。
当該界壁は、例えば、建築基準法に基づく建設省告示仕様、大臣認定仕様等において所定の耐火性能と、遮音性能とが要求されており、また、建築基準法施行令において準耐火構造とし、小屋裏(屋根裏)又は天井裏に達していることが要求されている。
上記耐火性能及び遮音性能を満たすべく、一般的な界壁では、スタッド付きの界壁フレームの両側に石膏ボードを貼り付けて中空状の石膏ボード壁を形成し、当該石膏ボード壁の内部にグラスウールやロックウールを充填して構成されている。そして、当該界壁が小屋裏又は天井裏まで達するように延びている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-196659号公報
【特許文献2】特開2013-194475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような中空状の界壁を有する建築物では、耐火性能及び遮音性能を満足させるべく、例えば、耐火パテを用いて湿式の隙間処理を行い、また石膏ボードを2層張りにする必要があるため、界壁の納まり構造が比較的複雑となっていた。
また、耐火性能、遮音性能に関する建設省告示仕様、大臣認定仕様に定められた施工現場での適合性確認項目が多く、施工手順が分かりにくいという課題があった。
そのため、耐火性及び遮音性が要求される界壁の納まり構造において施工性の向上を図ることが求められていた。
【0005】
具体的には、2019年6月施行の建築基準法の改正(天井の遮音性能を確保することで、界壁(界壁全体)を小屋裏又は天井裏に達するものとする基準を適用しないこと)に伴って、界壁の納まり構造の施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認を容易にすることが求められていた。
より具体的には、界壁及び天井の組み合わせにおいて耐火性を確保するラインと、遮音性を確保するラインとを明確に切り分けて、施工手順(建方工事、界壁施工、木工事の施工手順)、施工現場での適合性確認(責任施工範囲の確認)をシンプルにすることが求められていた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、耐火性能及び遮音性能を満たす界壁の納まり構造において施工性の向上を図ることが可能な耐火建築物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、界壁の納まり構造の施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認を容易にすることが可能な耐火建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の耐火建築物によれば、耐火性及び遮音性を有する界壁を備えた耐火建築物であって、前記界壁は、耐火性を有するパネルと、前記界壁の厚み方向において前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1部材及び第2部材と、を有し、前記耐火建築物は、前記界壁のうち、前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1天井及び第2天井と、前記界壁のうち、前記パネルを間に挟む位置に設けられ、前記第1天井及び前記第2天井それぞれに対向する位置に配置される第1床及び第2床と、を備え、前記パネルは、前記耐火建築物の床下から天井裏まで達するように延びており、前記第1部材は、上下方向において前記第1天井及び前記第1床の間に配置され、前記第2部材は、上下方向において前記第2天井及び前記第2床の間に配置されていること、により解決される。
【0008】
上記構成により、耐火性能及び遮音性能を満たす界壁の納まり構造において施工性の向上を図ることが可能な耐火建築物を実現することができる。
詳しく述べると、界壁が、耐火性を有するパネルと、当該パネルを間に挟む遮音性を有する第1、第2部材とを有しており、かつ、パネルが床下から天井裏まで達するように延びている。そして、耐火建築物が、パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1天井及び第2天井を有している。
そのため、まず、床下から天井裏まで延びている「耐火性パネル」によって界壁の耐火性能を確保することができる。そして、「耐火性パネル」及び「遮音性の第1、第2部材」の組み合わせによって住戸間の界壁(仕切り壁)の遮音性能を確保することもできる。そして、屋根裏における遮音性能の確保は、「遮音性の天井」によって代替することができる。そうすることで、界壁及び天井の組み合わせにおいて「耐火性を確保するライン」と、「遮音性を確保するライン」とを明確に切り分けて施工管理することができる。
【0009】
また上記構成により、従来のように界壁の構成全体を屋根裏まで延ばす必要はなく、「耐火性パネル」を屋根裏まで延ばすことで足りる。また、「第1部材」、「第2部材」を、それぞれ上下方向において天井及び床の間に配置し、第1部材、第2部材に対して天井勝ち、床勝ちの納まり構造となる。そのため、界壁の納まり構造をシンプルにできる。すなわち、施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認を容易にできる。
詳しく述べると、「耐火性パネル」のみを耐火構造として基礎から屋根裏まで延ばすことで、建方工が「耐火性パネル」を施工することができ、建方時の作業によって界壁の防火区画の適合性を確保することができる。そして、木工大工が、例えば間仕切壁の施工とともに「第1部材」、「第2部材」を施工することができる。そうすることで、従来のように界壁屋(軽鉄業者)に界壁の施工を依頼することなく、建方工及び木工大工による責任施工範囲内で施工を完了させることができる。
【0010】
このとき、前記パネルは、気泡コンクリートパネル(ALCパネル)であって、前記第1部材、前記第2部材は、それぞれ第1石膏ボード、第2石膏ボードであって、前記界壁は、前記界壁の厚み方向において前記ALCパネル及び前記第1石膏ボードの間に繊維系断熱材をさらに有し、前記パネルは、前記耐火建築物の基礎から屋根裏まで達するように延びていると良い。
上記のようにALCパネルを採用することで、パテ処理のない乾式工法によって、耐火性能を有する界壁を施工することができる。また、界壁の耐火性能及び遮音性能を高めることができる。
また上記のように繊維系断熱材を含むことで、住戸間の界壁(仕切り壁)の遮音性能をより高めることができる。なお、例えば耐火ロックウールを用いることで乾式工法によって施工することができる。
また上記のように、パネルが、耐火建築物の基礎から延びていることで、例えば床下において隣戸が繋がることがなく、防犯的観点から好ましい構造となる。
また上記のように、パネルが、耐火建築物の基礎から屋根裏まで達するように延びていることで、隣戸の音が床下又は天井裏を通じて入り込むことをより抑制できる。
【0011】
このとき、前記耐火建築物は、住戸同士が連続して存在する建築物であって、前記界壁のうち、前記パネルが、前記基礎に対して取り付けられた部分から連続して上方に延びて、屋根に対して取り付けられ、前記第1部材が、前記第1天井及び前記第1床の間に取り付けられ、前記第2部材が、前記第2天井及び前記第2床の間に取り付けられていると良い。
上記構成により、住戸同士が連続して存在する建築物において、界壁の納まり構造の施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認を容易にすることができる。具体的には、界壁、天井及び床の組み合わせにおいて耐火性を確保するラインと、遮音性を確保するラインとを明確に切り分けてシンプルにすることができる。
なお、上記納まり構造によって各階の天井の遮音性を確保できるところ、その他の構造として、最上階の天井についてのみ遮音性を確保し、最上階以外の下階ではALCパネルに沿った壁によって遮音性を確保することにしても良い。
【0012】
このとき、前記耐火建築物は、外壁及び内壁を有する壁を備え、前記パネル、前記第1部材及び前記第2部材と、前記内壁とが突き当てられていると良い。
上記構成により、外壁及び界壁の納まり構造においても、施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認を容易にすることができる。
詳しく述べると、従来の外壁及び界壁の納まり構造では、まず界壁の施工を完了させるために、界壁屋(軽鉄業者)に内壁の小口部分を施工してもらい、当該小口部分に界壁を突き当てるように施工してもらっていた。しかしながら、内壁の施工については、通常、木工大工の責任施工範囲内にあるため、界壁屋と木工大工の間で責任施工範囲が交錯し、複雑化していた。そこで、上記構成であれば、建方工が基礎の施工とともに「パネル」を施工し、木工大工が外壁及び内壁の施工とともに「第1部材」、「第2部材」を施工することが可能となる。そうすることで、界壁屋がわざわざ界壁を施工することなく、建方工及び木工大工による責任施工範囲内で施工を完了させることができる。
【0013】
また前記課題は、耐火性及び遮音性を有する界壁を備えた耐火建築物の施工方法であって、前記界壁のうち、耐火性を有するパネルを施工する第1の工程と、前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1天井及び第2天井と、前記パネルを間に挟む位置に設けられ、前記第1天井及び前記第2天井それぞれに対向する位置に配置される第1床及び第2床と、を施工する第2の工程と、前記界壁のうち、前記界壁の厚み方向において前記パネルを間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1部材及び第2部材を施工する第3の工程と、を含み、前記第1の工程では、前記パネルを前記耐火建築物の基礎から屋根裏まで延ばすように施工し、前記第3の工程では、前記第1部材を上下方向において前記第1天井及び前記第1床の間に配置するように施工し、前記第2部材を上下方向において前記第2天井及び前記第2床の間に配置するように施工し、前記第1部材及び前記第2部材とともに間仕切り壁を施工する耐火建築物の施工方法によっても解決することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐火建築物及び耐火建築物の施工方法によれば、耐火性能及び遮音性能を満たす界壁の納まり構造において施工性の向上を図ることが可能となる。
また、界壁の納まり構造の施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認(責任施工範囲の確認)を容易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】界壁の納まり構造を有する耐火建築物の外観斜視図である。
図2】界壁の納まり構造を示す側断面図であって、界壁を含む基礎構造を説明する図である。
図3】界壁の納まり構造を示す側断面図であって、界壁を含む中間階構造を説明する図である。
図4】界壁の納まり構造を示す側断面図であって、界壁を含む屋根組み構造(小屋裏構造)を説明する図である。
図5】界壁及び外壁の納まり構造を示す平断面図であって、界壁を含む外壁構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図1図5を参照して説明する。
本実施形態は、耐火性及び遮音性を有する界壁と、遮音性を有する天井とを備えた耐火建築物であって、界壁が、耐火性を有するセメント系パネル(ALCパネル)と、セメント系パネルを挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1ボード及び第2ボードとを有し、セメント系パネルが耐火建築物の基礎から屋根裏まで達するように延びており、第1ボード部材及び第2ボード部材が上下方向において天井及び床の間に納まっていることを主な特徴とする「耐火建築物」の発明に関するものである。
また、「耐火建築物の施工方法」の発明に関するものである。
【0017】
本実施形態の建築物1は、図1に示すように、共同住宅や長屋、寄宿舎等のように住戸同士が連続して存在する連棟式の耐火建築物であって、耐火性及び遮音性を有する界壁10を備えている。
「耐火建築物」とは、耐火建築物(建築基準法に基づく耐火構造を持つ建築物)そのもののほか、準耐火建築物(準耐火構造を持つ建築物)、防火建築物(防火構造を持つ建築物)を含むものである。
「耐火性を有する」とは、例えば、建設省告示仕様又は大臣認定仕様において要求される耐火性能の技術的基準を満たすものである。具体的には、界壁を耐火構造とし、界壁が小屋裏(屋根裏)又は天井裏に達していることが挙げられる。
「遮音性を有する」とは、例えば、建設省告示仕様又は大臣認定仕様において要求される遮音性能の技術的基準を満たすものである。具体的には、界壁の遮音構造において振動数の音に対する透過損失が所定の基準値以上であることが挙げられる。
なお、2019年6月施行の建築基準法の改正に伴い、例えば、天井の遮音性能を確保することで、界壁(界壁全体)を小屋裏又は天井裏に達するものとする基準を必ずしも適用させなくても良いこととなっている。
【0018】
建築物1は、界壁の納まり構造として、図1図2に示すように、建築物1の土台となる鉄筋コンクリート製の基礎2と、床束3と、基礎2の上面に固定され、建築物1の上部構造物を支持する鋼製の柱4と、基礎2の上面に界壁取り付け金具等を介して取り付けられる界壁10と、を備えている。
また、建築物1は、図1図2に示すように、基礎2及び床束3によって下方から支持され、界壁10を間に挟む位置に設けられる第1床20A、第2床20Bと、図3に示すように、柱4、梁5及び界壁10等によって支持され、界壁10を間に挟む位置に設けられる第1天井30A、第2天井30Bと、を備えている。
また、建築物1は、図1図4に示すように、柱4、梁5及び界壁10等によって支持される屋根40(勾配屋根)を備えている。なお、屋根40は、陸屋根であっても良い。
また、建築物1は、図1図5に示すように、基礎2の上面に固定され、基礎2、柱4、梁5及び界壁10等によって支持される壁50(外壁)を備えている。
【0019】
界壁10は、図2図5に示すように、耐火性を有するセメント系パネル11と、界壁10の厚み方向においてセメント系パネル11を間に挟む位置に設けられ、遮音性を有する第1ボード12A、第2ボード12Bと、セメント系パネル11及び第1ボード12Aの間に配置される第1断熱材13Aと、セメント系パネル11及び第2ボード12Bの間に配置される第2断熱材13Bと、を有している。
【0020】
セメント系パネル11は、プレキャストコンクリート(PC)や気泡コンクリート(ALC)等のセメント系材料から形成される厚形パネルであって、具体的には、厚さ75mm以上、150mm以下の間仕切り壁用のALCパネルである。
ALCパネルを採用することで、界壁10の耐火性能を確保し、さらに遮音性能及び断熱性能を高めることができる。また、比較的軽量であるため、界壁10の施工性を高めることもできる。
なお、上記セメント系パネルのほか、木質材料からなるCLTパネル等であっても良い。
【0021】
第1ボード12A、第2ボード12Bは、それぞれ石膏ボードであって、具体的には、それぞれ複数貼り(2層貼り)となっている。そうすることで、遮音性能を確保することができる。
なお、石膏ボードの代わりに合板を採用しても良いし、遮音性能を確保することが可能な他のボードを採用しても良い。
あるいは、上記ボードの代わりに、セメント系パネル11の両側にモルタル等のセメント系部材を塗布し、界壁10の遮音性能を確保することにしても良い。
【0022】
第1断熱材13A、第2断熱材13Bは、それぞれ繊維系断熱材であって、具体的には、吹付けタイプのグラスウール又はロックウールである。
なお、吹付けタイプの代わりに巻き付けタイプのグラスウール(ロックウール)を採用しても良い。
【0023】
上記の界壁10のように、遮音性を有するセメント系パネル11(ALCパネル)及び遮音性を有するボード12(石膏ボード)を組み合わせることで、特に高域の遮音性能をより高めることができる。そのため、例えば、ボード12の外周部分(四周部分)に対し気密処理(シール処理等)を行うことを不要にすることができる。
また上記の界壁10のように、遮音性を有するセメント系パネル11を設けることで、セメント系パネル11を挟む位置にあるボード12同士の固体伝搬を抑制することができ、遮音性能をより高めることができる。
【0024】
第1床20A、第2床20Bは、図2に示すように、それぞれ耐火性を有する床であって、具体的には、複合フローリングを貼り合わせた構造用合板である。
なお、構造用合板の代わりに石膏ボードを採用しても良いし、遮音性能を確保することが可能な他のボードを採用しても良い。
第1床20A、第2床20Bそれぞれの床裏には、繊維系断熱材21が取り付けられている。
繊維系断熱材21は、例えば、グラスウールやロックウールを採用すると良い。
なお、床については、必ずしも耐火性を有する床である必要はなく、また床裏に繊維系断熱材21が取り付けられていなくても良い。
【0025】
第1天井30A、第2天井30Bは、図3に示すように、それぞれ耐火性を有する天井であって、具体的には、石膏ボードであって、遮音性能を確保するためにそれぞれ複数貼り(2層貼り)となっている。
なお、石膏ボードの代わりに合板を採用しても良いし、遮音性能を確保することが可能な他のボードを採用しても良い。また、天井30A、30Bは、複数貼りのボードに限られず、1層貼りのボードであっても良い。
第1天井30A、第2天井30Bそれぞれの天井裏には、遮音性能を高めるために遮音性を有する繊維系断熱材31が取り付けられている。
繊維系断熱材31は、例えば、グラスウールやロックウールを採用すると良い。
第1床20Aと第1天井30Aが対向する位置に配置され、第2床20Bと第2天井30Bが対向する位置に配置されている。
【0026】
上記構成において、図3に示す天井裏6では、界壁10のうち、セメント系パネル11が上下方向に連続して延びており、下階の天井30、上階の床20及び床パネル22を貫通している。
また、セメント系パネル11が、天井梁に相当する梁5に隣接し、梁5に当接した状態で梁5によって支持されている。厳密に言うと、セメント系パネル11が、L字形状の界壁支持金具を介して梁5と連結されている。
【0027】
壁50は、図5に示すように、上下方向に長尺に延びている壁本体51と、壁本体51の出入り方向の外側に取り付けられ、間口方向に並ぶように配置される外壁パネル52(外壁)と、壁本体51の出入り方向の内側に取り付けられる内壁ボード53(内壁)と、を主に有している。
壁50のうち、内壁ボード53と、界壁10とが突き当てられている。
詳しく述べると、内壁ボード53の小口部分と、セメント系パネル11、第1ボード12A及び第2ボード12Bとが突き当てられている。
【0028】
<界壁の納まり構造(耐火性能及び遮音性能)>
図2図4に示すように、界壁10のうち、セメント系パネル11は、建築物1の高さ方向において基礎2から天井裏6を通過し、屋根裏7まで達するように延びている。
具体的には、セメント系パネル11のみが、基礎2に対して取り付けられた部分から上方に延びて屋根裏7まで達し、屋根40に対して取り付けられている。
一方で、第1ボード12A及び第2ボード12Bは、基礎2ではなく床20から上方に延びており、屋根裏7まで達しない位置に配置されている。
具体的には、第1ボード12Aが、第1床20A及び第1天井30Aの間に配置され、第1床20Aと、第1天井30Aとに取り付けられている。第1断熱材13Aも同様に、第1床20A及び第1天井30Aの間に配置されている。
また、第2ボード12Bが、第2床20B及び第2天井30Bの間に配置され、第2床20Bと、第2天井30Bとに取り付けられている。第2断熱材13Bも同様に、第2床20B及び第2天井30Bの間に配置されている。
言い換えれば、界壁10において第1ボード12A、第1断熱材13A、第2ボード12B、第2断熱材13Bに対して床勝ち、天井勝ちの納まり構造となる。
【0029】
上記界壁10の納まり構造とすることで、基礎2から屋根裏7まで延びているセメント系パネル11によって界壁10の「耐火性能」を確保することができる。そして、セメント系パネル11及びボード12A、12Bの組み合わせによって住戸間の界壁10の「遮音性能」を確保することができる。
その結果、従来のように界壁の構成全体を屋根裏(小屋裏)まで延ばす必要はなく、セメント系パネル11を屋根裏まで延ばすことで足りるため、界壁10の納まり構造をシンプルにすることができる。
【0030】
また、図4に示すように、屋根裏7における「遮音性能」の確保は、遮音性を有する天井30によって代替することができる。そうすることで、界壁10及び天井30の組み合わせにおいて「耐火性を確保するライン」と、「遮音性を確保するライン」とを明確に切り分けて施工管理することができる。
具体的には、界壁10のうち、耐火性を有するセメント系パネル11が屋根裏7まで達するように延びている。当該セメント系パネル11の納まりによって界壁10の耐火性を確保するラインが完成する。そして、住戸間の仕切り壁では、遮音性を有するボード12(石膏ボード)の納まりによって遮音性を確保するラインができる。そして、屋根裏7では、遮音性を有する天井30の納まりによって遮音性を確保するラインができる。
なお、基礎2においても、遮音性を有する床20の納まりによって遮音性を確保するラインができる。
【0031】
<耐火建築物の施工方法>
次に、耐火建築物1の施工方法について説明する。
当該施工方法は、界壁10のうち、セメント系パネル11を施工する「第1の工程」と、セメント系パネル11をそれぞれ間に挟む位置に設けられる床20及び天井30を施工する「第2の工程」と、界壁10のうち、第1ボード12A及び第2ボード12Bを施工する「第3の工程」と、を少なくとも含むものである。以下、詳しく説明する。
なお、耐火建築物1の施工にあたって、上記以外の施工内容については説明を省略する。
【0032】
「第1の工程」では、まず、作業者(例えば建方工)が基礎2の据付作業を行い、土台を施工する(第1-1の工程)。
その後、作業者が、柱4、梁5、屋根等の構造体を施工するとともに、界壁10のうち、セメント系パネル11を施工する(第1-2の工程)。
このとき、図2図4に示すように、セメント系パネル11を基礎2から屋根裏7まで延ばすように施工する。
なお、作業者が、床20、天井30、壁50(壁本体51)等の骨組みについても施工する。
【0033】
「第2の工程」では、作業者(例えば木工大工)が、床20、天井30、壁50(外壁パネル52、内壁ボード53)を施工する。
このとき、図2図4に示すように、セメント系パネル11を間に挟む位置に第1床20A及び第2床20Bを施工する。また、セメント系パネル11を間に挟む位置に第1天井30A及び第2天井30Bを施工する。
また、図5に示すように、セメント系パネル11と壁50(内壁ボード53)を突き当てるようにして壁50を施工する。
【0034】
「第3の工程」では、作業者(例えば木工大工)が、第1ボード12A及び第2ボード12Bを施工するとともに、間仕切り壁を施工する。
このとき、図2図3に示すように、第1ボード12Aを上下方向において第1天井30A及び第1床20Aの間に配置する。そして、セメント系パネル11、第1天井30A及び第1床20Aに取り付けるように施工する。
また、第2ボード12Bを上下方向において第2天井30B及び第2床20Bの間に配置する。そして、セメント系パネル11、第2天井30B及び第2床20Bに取り付けるように施工する。
なお、間仕切壁については、第1ボード12A(第2ボード12B)を施工した後に施工しても良いし、第1ボード12A(第2ボード12B)を施工する前に施工しても良い。
【0035】
上記耐火建築物1の施工方法であれば、界壁10の納まり構造の施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認を容易にすることが可能となる。
詳しく述べると、従来のように界壁10の構成全体を屋根裏7まで延ばす必要はなく、セメント系パネル11のみを屋根裏7まで延ばすことで足りる。また、ボード12A、12Bを上下方向において天井及び床の間に配置し、ボード12A、12Bに対して天井勝ち、床勝ちの納まり構造となる。そのため、界壁10の納まり構造をシンプルにできる。すなわち、施工手順を分かり易くし、施工現場での適合性確認を容易にできる。
より詳しく述べると、建方工がセメント系パネル11を施工することができ、木工大工が、例えば間仕切壁の施工とともに界壁10のボード12A、12Bを施工することができる。そうすることで、従来のように界壁屋に界壁の施工を依頼することなく、建方工及び木工大工による責任施工範囲内で施工を完了できる。
また、外壁及び界壁の納まり構造についても同様である。建方工が基礎2及び構造体の施工とともにセメント系パネル11を施工することができ、木工大工が内壁ボード53の施工とともに界壁10のボード12A、12Bを施工することができる。そうすることで、建方工及び木工大工による責任施工範囲内で施工を完了できる。
【0036】
<その他の実施形態>
上記実施形態では、図2図4に示すように、界壁10のうち、セメント系パネル11が基礎2から屋根裏7まで達するように延びているが、特に限定されない。
例えば、セメント系パネル11が少なくとも床下(1階の床下)から天井裏(最上階の天井裏)まで達するように延びていることとしても良い。
【0037】
上記実施形態では、図2図4に示すように、界壁10のうち、セメント系パネル11が基礎2から屋根裏7まで連続して延びているが、特に限定されない。
例えば、セメント系パネル11が、上下方向に間隔を空けて配置された複数のパネルから構成されていても良い。そして、各パネルの間に梁が断熱材によって覆われた状態で配置されていても良い。
そうすることで、建築物の躯体(梁)を界壁10の一部として構成することができ、躯体に対する界壁10の支持性能を高めることができる。すなわち、建築基準法によって求められる界壁10の支持構造により好適に適合させることができる。
【0038】
上記実施形態では、主として本発明に係る耐火建築物、耐火建築物の施工方法に関して説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1 建築物(耐火建築物)
2 基礎
3 床束
4 柱
5 梁
6 天井裏
7 屋根裏(小屋裏)
10 界壁
11 セメント系パネル(パネル、耐火性パネル、ALCパネル)
12 ボード(石膏ボード)
12A 第1ボード(第1部材、第1石膏ボード)
12B 第2ボード(第2部材、第2石膏ボード)
13 繊維系断熱材
13A 第1断熱材
13B 第2断熱材
20 床
20A 第1床
20B 第2床
21 繊維系断熱材
22 床パネル
30 天井
30A 第1天井
30B 第2天井
31 繊維系断熱材
40 屋根
50 壁
51 壁本体
52 外壁パネル(外壁)
53 内壁ボード(内壁)
図1
図2
図3
図4
図5