(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119254
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/20 20060101AFI20230821BHJP
B60T 17/00 20060101ALI20230821BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20230821BHJP
F04C 14/08 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
B60T13/20
B60T17/00 D
H02P29/00
F04C14/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022051
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三浦 彩加
(72)【発明者】
【氏名】山北 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 拓也
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3H044
5H501
【Fターム(参考)】
3D048CC05
3D048HH15
3D048HH18
3D048HH37
3D048HH51
3D048HH68
3D049CC02
3D049HH12
3D049HH30
3D049HH48
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC19
3H044CC26
3H044DD12
3H044DD13
3H044DD18
3H044DD31
3H044DD45
5H501AA05
5H501AA20
5H501BB08
5H501CC04
5H501DD04
5H501FF05
5H501FF10
5H501GG03
5H501HA08
5H501HA09
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501LL01
5H501LL33
5H501LL37
5H501LL60
(57)【要約】
【課題】ポンプに加わる負荷トルク及び損失トルクを小さくする際に電気モータで発生した逆起電力に応じた電流が電気モータの電源に流れることを抑制できる制動装置を提案すること。
【解決手段】制動装置10は、電気モータ31及びポンプ41を有するポンプ装置30と、ポンプ41からブレーキ液が吐出される第1液路15と、第1液路15に接続されている第2液路16と、前記第1液路15と第2液路16との接続部分に設けられた逆止弁17と、電気モータ31を制御する制御装置70とを備える。制御装置70は、複数のスイッチング素子72a,72bを含む駆動回路71と制御部81とを有する。制御部81は、電気モータ31の駆動を停止させる際、電気モータ31が回転しているときに複数のスイッチング素子72a,72bのうちの一部のみをオンとすることによって閉ループを形成する閉ループ形成処理を開始する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正逆両方向に回転可能な電気モータ及び当該電気モータを動力源とするポンプを有するポンプ装置と、前記ポンプからブレーキ液が吐出される第1液路と、前記第1液路に接続されている第2液路と、前記第1液路と前記第2液路との接続部分に配置されている逆止弁と、前記電気モータを制御する制御装置と、を備え、
前記逆止弁は、前記第1液路から前記第2液路へのブレーキ液の通過を許容する一方、前記第2液路から前記第1液路へのブレーキ液の通過を規制するものであり、
前記電気モータは複数のコイルを有する多相モータであり、
前記ポンプは、前記電気モータが正方向に回転する場合には、吸引ポートからブレーキ液を吸引し、当該ブレーキ液を加圧して吐出ポートから前記第1液路に吐出するものであり、
前記制御装置は、複数のスイッチング素子を含む駆動回路と、前記複数のスイッチング素子を動作させることにより、前記複数のコイルに流れる電流の大きさを調整して前記電気モータを駆動させる制御部と、を有し、
前記制御部は、前記電気モータの駆動を停止させる際、当該電気モータが回転しているときに前記複数のスイッチング素子のうちの一部のみをオンとすることによって前記複数のコイルを含む閉ループを形成する閉ループ形成処理を開始する
制動装置。
【請求項2】
前記電気モータの2つの回転方向のうち、前記正方向の反対方向を逆方向としたとき、
前記制御部は、前記電気モータの駆動を停止させる際に当該電気モータが前記逆方向に回転することを検知したときに前記閉ループ形成処理を開始する
請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電気モータの駆動を停止させた場合に前記閉ループ形成処理を開始する
請求項1に記載の制動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記閉ループ形成処理の開始後において前記電気モータの回転が停止した時点で、又は当該時点以降で前記閉ループ形成処理を終了する
請求項2又は請求項3に記載の制動装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電気モータの駆動を停止させると、所定の解除条件が成立するまでは前記電気モータの駆動を禁止するようになっており、
前記電気モータの2つの回転方向のうち、前記正方向の反対方向を逆方向としたとき、
前記制御部は、
前記第1液路内のブレーキ液量と前記吐出ポート内のブレーキ液量と前記ポンプの内部のブレーキ液量の合計と、前記電気モータの前記逆方向への回転に起因して前記吐出ポートから前記ポンプが吸引した前記第1液路のブレーキ液を前記吸引ポートから吐出するブレーキ液量と、前記ポンプの構成部品の隙間を介して前記吐出ポートから前記吸引ポートに漏出するブレーキ液量と、に基づいて前記第1液路の液圧の推定値を導出し、
前記第1液路の液圧の推定値が所定液圧未満になった場合に前記解除条件が成立したと判定するようになっており、
前記所定液圧として、前記電気モータの駆動によって前記ポンプを起動させることのできる前記第1液路の液圧の上限値、又は当該上限値よりも低い液圧が設定される
請求項1~請求項4のうち何れか一項に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、正逆両方向に回転可能な回転子を有する電気モータと、当該電気モータを動力源として作動するポンプとを備える制動装置が開示されている。当該制動装置では、回転子を正方向に回転させるように電気モータが駆動すると、ポンプは、吸引ポートから吸引したブレーキ液を加圧して吐出ポートから吐出する。なお、上記の制動装置は、ポンプの吐出ポートに接続されている第1液路と、第1液路に接続されている第2液路と、第1液路と第2液路との接続部分に配置されている逆止弁とを備えている。逆止弁は、第1液路と第2液路との間でのブレーキ液の流通のうち第2液路から第1液路へのブレーキ液の流通のみを規制する。
【0003】
第1液路の液圧が高いほど、当該ポンプに外部から加わる負荷トルク及び外部から加わる力に依存する損失トルクが大きくなる。負荷トルクや損失トルクが過大であると、ポンプを起動させにくい。そこで、当該制動装置の制御部は、ポンプの作動を要求しない場合に、回転子が逆方向に回転するように電気モータを駆動させる。このように電気モータが駆動すると、ポンプは、吐出ポートから第1液路のブレーキ液を吸引して当該ブレーキ液を吸引ポートから吐出する。これにより、第1液路の液圧が低くなるため、上記負荷トルク及び損失トルクを小さくでき、ひいてはポンプを起動させやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の制動装置では、回転子が逆方向に回転するように電気モータを駆動させることにより、第1液路の液圧を強制的に低くする。この場合、電気モータを駆動させるため、制動装置の電力消費量が多くなってしまう。
【0006】
また、電気モータの駆動によって第1液路の液圧を強制的に低下させる場合、制御部は、第1液路の液圧の低下速度が大きくなりすぎないように電気モータの回転子の回転速度であるモータ回転数を制御することが好ましい。この場合、制御部は、モータ回転数が大きくなりすぎないようにブレーキを電気モータに掛けることになる。すると、電気モータで逆起電力が発生することがある。電気モータで逆起電力が発生すると、当該逆起電力に応じた電流が電気モータの駆動回路を介して電源に流れてしまうおそれがある。
【0007】
ここで、電気モータの電源が複数設けられている場合を考える。この場合、複数の電源を含む電源回路に、電気モータで発生した逆起電力に起因する電流が流れると、電源回路では複数の電源の間で電位差が発生するおそれがある。複数の電源の間で電位差が発生させないようにするためには、電源回路にダイオードなどの電子部品を追加する必要が生じ、コストが高くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための制動装置は、正逆両方向に回転可能な電気モータ及び当該電気モータを動力源とするポンプを有するポンプ装置と、前記ポンプからブレーキ液が吐出される第1液路と、前記第1液路に接続されている第2液路と、前記第1液路と前記第2液路との接続部分に配置されている逆止弁と、前記電気モータを制御する制御装置と、を備えている。前記逆止弁は、前記第1液路から前記第2液路へのブレーキ液の通過を許容する一方、前記第2液路から前記第1液路へのブレーキ液の通過を規制するものである。前記電気モータは複数のコイルを有する多相モータである。前記ポンプは、前記電気モータが正方向に回転する場合には、吸引ポートからブレーキ液を吸引し、当該ブレーキ液を加圧して吐出ポートから前記第1液路に吐出するものである。前記制御装置は、複数のスイッチング素子を含む駆動回路と、前記複数のスイッチング素子を動作させることにより、前記複数のコイルに流れる電流の大きさを調整して前記電気モータを駆動させる制御部と、を有している。前記制御部は、前記電気モータの駆動を停止させる際、当該電気モータが回転しているときに前記複数のスイッチング素子のうちの一部のみをオンとすることによって前記複数のコイルを含む閉ループを形成する閉ループ形成処理を開始する。
【0009】
電気モータの駆動が停止している場合における第1液路の液圧が高いほど、ポンプを起動させる際に当該ポンプに外部から加わる負荷トルク及び外部から加わる力に依存する損失トルクが大きくなる。負荷トルクが大きいと、負荷トルクによってポンプが動かされることがある。このようにポンプが動かされる場合、第1液路のブレーキ液が吐出ポートを介してポンプ内に吸引され、当該ブレーキ液が吸引ポートを介してポンプから吐出される。すると、第1液路内のブレーキ液量が減少するため、第1液路の液圧が低くなる。その結果、次回のポンプの駆動時に当該ポンプに加わる負荷トルク及び損失トルクが小さくなる。すなわち、負荷トルク及び損失トルクを小さくするために電気モータを逆転駆動させることをしない分、制動装置の電力消費量を少なくできる。
【0010】
上記の負荷トルクによってポンプが動かされると、電気モータが逆方向に回転するため、逆起電力が電気モータで発生することがある。上記の制動装置では、電気モータの駆動を停止させる際、当該電気モータが未だ回転しているときに閉ループ形成処理が開始される。閉ループ形成処理が実行されると、電気モータの複数のコイルを含む閉ループが形成される。そのため、電気モータで逆起電力が発生しても当該逆起電力が閉ループで消費される。その結果、当該逆起電力に応じた電流が駆動回路を介して電気モータの電源に流れることを抑制できる。
【0011】
したがって、上記の制動装置は、ポンプに加わる負荷トルク及び損失トルクを小さくする際に電気モータで発生した逆起電力に応じた電流が電気モータの電源に流れることを抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態の制動装置の概略を示す構成図である。
【
図2】
図2は、同制動装置が備えるポンプの概略構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、同ポンプの作動を停止させる際に実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、閉ループ形成処理を停止させる際に実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、同ポンプの動力源である電気モータの駆動を禁止したり、駆動禁止を解除したりする際に実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、同ポンプの作動を停止させる際に電気モータが逆方向に回転する場合のタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、同ポンプの作動を停止させる際に電気モータが逆方向に回転しない場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、制動装置の一実施形態を
図1~
図7に従って説明する。
<制動装置の構成>
図1に示すように、制動装置10は、車輪の摩擦ブレーキが備えるホイールシリンダ100にブレーキ液を供給することにより、車輪で発生する制動力を調整する装置である。制動装置10は、リザーバタンク11と、ポンプ装置30と、ポンプ装置30を制御する制御装置70とを備えている。制動装置10は、リザーバタンク11とポンプ装置30とを接続する吸引液路12と、ポンプ装置30とホイールシリンダ100とを接続する供給液路14とを備えている。供給液路14は、ポンプ装置30に接続されている第1液路15と、第1液路15とホイールシリンダ100とを接続する第2液路16とを有している。第1液路15と第2液路16との接続部分には逆止弁17が設けられている。逆止弁17は、第1液路15から第2液路16へのブレーキ液の通過を許容する一方、第2液路16から第1液路15へのブレーキ液の通過を規制する弁である。
【0014】
なお、制動装置10は、第2液路16とリザーバタンク11とを接続するリターン液路19を備えている。リターン液路19には図示しない電磁弁が設けられている。当該電磁弁が開弁している場合、ホイールシリンダ100内のブレーキ液がリターン液路19を介してリザーバタンク11に戻る。
【0015】
ポンプ装置30は、電気モータ31と、電気モータ31を動力源とするポンプ41とを備えている。電気モータ31は、図示しない回転子と、複数のコイルとを有するブラシレスモータである。本実施形態では、電気モータ31は、3つのコイル32u,32v,32wを有する多相モータである。電気モータ31では回転子が正逆両方向に回転可能である。
【0016】
ここでは、回転子を正逆両方向に回転可能な電気モータのことを、「正逆両方向に回転可能な電気モータ」という。正方向に回転子が回転することを「電気モータ31が正方向に回転する」といい、正方向の反対方向である逆方向に回転子が回転することを「電気モータ31が逆方向に回転する」という。正方向に回転子を回転させる電気モータ31の駆動を「電気モータ31の正駆動」といい、逆方向に回転子を回転させる電気モータ31の駆動を「電気モータ31の逆駆動」という。
【0017】
ポンプ41は、ポートとして、吸引ポート42及び吐出ポート43を有している。吸引ポート42は吸引液路12に接続されている。吐出ポート43は第1液路15に接続されている。電気モータ31が正駆動することによってポンプ41が作動する場合、ポンプ41は、吸引ポート42を介して吸引液路12からブレーキ液を吸引し、当該ブレーキ液を加圧して吐出ポート43から第1液路15に吐出する。すると、第1液路15から第2液路16を介してホイールシリンダ100にブレーキ液が供給される。これにより、ホイールシリンダ100内の液圧が高くなるため、車輪で制動力が発生する。
【0018】
図2を参照し、ポンプ41の構成について詳述する。
ポンプ41はギヤポンプである。ポンプ41は、シリンダ45と回転軸46とインナーロータ47とアウターロータ48とを有している。回転軸46は、シリンダ45内を挿通している。また、回転軸46は電気モータ31の回転子に連結されている。そのため、電気モータ31が正駆動する場合、回転軸46は、回転子の回転方向である正方向に準じた方向に回転する。なお、回転子が正方向に回転する際の回転軸46の回転を「順回転」といい、回転子が逆方向に回転する際の回転軸46の回転を「逆回転」という。
【0019】
インナーロータ47及びアウターロータ48はシリンダ45内に収容されている。インナーロータ47は、回転軸46に一体回転が可能な状態で連結されている。インナーロータ47には、径方向の外側に突出する複数の外歯47aが周方向に沿って配置されている。アウターロータ48は、インナーロータ47よりも径方向外側に配置されている。アウターロータ48には、径方向の内側に突出する複数の内歯48aが周方向に沿って配置されている。シリンダ45内には、インナーロータ47とアウターロータ48との間に複数の空隙SPが形成される。回転軸46の回転によって空隙SPの大きさが変化することで、シリンダ45内へのブレーキ液の吸引、吸引したブレーキ液の加圧、及び加圧したブレーキ液のシリンダ45外への吐出が行われる。
【0020】
ポンプ41が作動する際の力の関係について説明する。ここでは、回転軸46を順回転させる力、又は回転軸46の逆回転を妨げる力を「順回転力Fa」という。回転軸46の順回転を妨げる力、又は回転軸46を逆回転させる力を「逆回転力Fb」という。
【0021】
始めに、電気モータ31が正駆動する場合を考える。電気モータ31の正駆動によって回転軸46が順回転している場合、電気モータ31から回転軸46に伝達されるトルクであるモータトルクと、ポンプ装置30のイナーシャとが順回転力Faとして回転軸46に作用する。一方、ポンプ装置30のロストルク及び理論トルクが逆回転力Fbとして回転軸46に作用する。ロストルクとは、ポンプ装置30における第1液圧及び摩擦損失に応じたトルクである。すなわち、ロストルクとは外部からポンプ41に加わる力に依存する損失トルクともいう。理論トルクとは、第1液路15の液圧である第1液圧Pa1に応じたトルクである。すなわち、理論トルクとは、外部からポンプ41に加わる負荷トルクともいう。順回転力Faが逆回転力Fbよりも大きいと、
図2に実線の矢印で示すように回転軸46が順回転するため、ポンプ41が作動する。
【0022】
なお、ロストルクの大きさは外気温に依存する。外気温によって、ポンプ41の構成部品が膨張したり収縮したりすると、回転軸46やインナーロータ47の回転しやすさが変わる。また、外気温の変化によってブレーキ液の温度が変わると、ブレーキ液の粘度が変わる。ブレーキの粘度によってもポンプ41の作動のさせやすさは変わる。
【0023】
また、第1液圧Pa1が高いほど、ポンプ41は吐出ポート43を介して第1液路15にブレーキ液を吐出しにくくなる。そのため、第1液圧Pa1が高いほど理論トルクは大きくなる。
【0024】
次に、電気モータ31の正駆動を停止して回転軸46の回転を停止させる場合を考える。この場合も、モータトルク及びポンプ装置30のイナーシャが順回転力Faとして回転軸46に作用する一方、ポンプ装置30のロストルク及び理論トルクが逆回転力Fbとして回転軸46に作用する。順回転力Faが逆回転力Fbよりも大きい場合、回転軸46は順回転している。しかし、モータトルクが小さくなるなどして順回転力Faが小さくなったために順回転力Faが逆回転力Fbと釣り合うようになると、回転軸46の回転が停止する。
【0025】
回転軸46が停止した状態で第1液圧Pa1が過大である場合を考える。この場合、ポンプ装置30の理論トルクが比較的大きいと云える。理論トルクが大きいと、逆回転力Fbが大きくなるため、回転軸46が逆回転しようとする。この場合、ポンプ装置30のイナーシャ及びロストルクは順回転力Faとして回転軸46に作用する。また、回転軸46の逆回転を妨げるべく電気モータ31を正駆動させた場合、モータトルクも順回転力Faとして回転軸46に作用する。逆回転力Fbが順回転力Faよりも大きいと、回転軸46が逆回転し始める。このように回転軸46が逆回転し始めると、ポンプ装置30のイナーシャは逆回転力Fbとして回転軸46に作用するようになる。その後、第1液圧Pa1の減少に応じて理論トルクが小さくなると、逆回転力Fbもまた小さくなる。そして、逆回転力Fbが順回転力Faと釣り合うようになると、回転軸46の回転が停止する。
【0026】
ここで、回転軸46が停止した状態で第1液圧Pa1が比較的高い状況下で電気モータ31を起動させて回転軸46の順回転を開始させる場合を考える。第1液圧が高いほど理論トルクが大きい。理論トルクが大きいと逆回転力Fbが大きいため、回転軸46は順回転しにくい。つまり、電気モータ31を正駆動させようとしても順回転力Faを逆回転力Fbよりも大きくできないと、回転軸46を順回転させることはできない。
【0027】
<制動装置の検出系>
図1に示すように、制動装置10は、検出系として複数のセンサを有している。例えば、制動装置10は、液圧センサ61、モータセンサ62、ブレーキセンサ63、車速センサ64及び外気温センサ65を有している。これらセンサ61~65は検出結果に応じた検出信号を制御装置70に出力する。液圧センサ61は、第2液路の液圧である第2液圧Pa2を検出する。モータセンサ62は、電気モータ31の回転角であるモータ回転角θmを検出する。ブレーキセンサ63は、運転者のブレーキ操作に応じて変化する状態量BP(例えば、ブレーキペダルの操作量、又は操作力)を検出する。車速センサ64は、車両の走行速度である車速VSを検出する。外気温センサ65は、車両の外気温TMPを検出する。
【0028】
<制御装置>
制御装置70は、複数のセンサ61~65の検出信号に基づいてポンプ装置30を制御することにより、車輪で発生する制動力を調整する。こうした制御装置70は、電気モータ31の駆動回路71と、駆動回路71を制御する制御部81とを有している。
【0029】
駆動回路71は、電気モータ31の電源回路200から出力された直流電圧を交流電圧に変換して電気モータ31の複数のコイル32u,32v,32wに入力させる。本実施形態では、電源回路200は、2つの電源210,220を含んでいる。そして、2つの電源210,220のうち、電気モータ31に給電する電源は、制御部81によって選択される。
【0030】
駆動回路71は、複数のスイッチング素子を含んでいる。すなわち、駆動回路71では、電気モータ31の1つのコイルに対して2つのスイッチング素子が設けられている。当該2つのスイッチング素子のうち、一方を「第1スイッチング素子72a」とし、他方を「第2スイッチング素子72b」とする。本実施形態では、電気モータ31のコイル数は3つであるため、駆動回路71は、3つの第1スイッチング素子72aと3つの第2スイッチング素子72bとを有していることになる。
【0031】
なお、スイッチング素子72a,72bとして、パワーMOSFETを採用している。しかし、オン・オフの切り替えを速やかに行うことができる素子であれば、例えばIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)のようにパワーMOSFET以外の他の素子を、スイッチング素子72a,72bとして採用してもよい。
【0032】
駆動回路71は、電力線として、電気モータ31の電源回路200の陽極に接続されている第1電力線74と、電源回路200の陰極に接続されている第2電力線75と、電気モータ31のコイル数と同数のアーム76u,76v,76wとを含んでいる。アーム76u,76v,76wは、第1電力線74と第2電力線75とを繋ぐ電力線である。複数のアーム76u,76v,76wのうち、アーム76uにU相のコイル32uが接続されている。アーム76vにV相のコイル32vが接続されている。アーム76wにW相のコイル32wが接続されている。アーム76u,76v,76wにおいて、コイル32u,32v,32wとの接続点と第1電力線74との間の部分に第1スイッチング素子72aが配置されている一方、当該接続点と第2電力線75との間の部分に第2スイッチング素子72bが配置されている。
【0033】
制御部81はCPU82とメモリ83とを有している。メモリ83には、CPU82によって実行される各種の制御プログラムが記憶されている。制御部81は、制御プログラムをCPU82が実行することによって電気モータ31を制御する。具体的には、制御部81は、駆動回路71の複数のスイッチング素子72a,72bを動作させることによって電気モータ31の複数のコイル32u,32v,32wに流れる電流の大きさを調整することにより、電気モータ31を駆動させる。
【0034】
<制御部が実行する処理>
図3を参照し、ポンプ41の作動を停止させる際に制御部81が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、ポンプ41の作動が開始されてから後述する閉ループ形成処理を開始するまでの間、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。ここでいう「ポンプ41の作動」とは、電気モータ31の正駆動によって吐出ポート43からブレーキ液をポンプ41が吐出するポンプ41の作動である。
【0035】
本処理ルーチンにおいてステップS11では、制御部81は、ポンプ41の作動の停止要求があるか否かを判定する。停止要求がない場合(S11:NO)、制御部81は本処理ルーチンを一旦終了する。一方、停止要求がある場合(S11:YES)、制御部81はステップS13の処理に移行する。ステップS13において、制御部81は、ポンプ41に対するブレーキ液の吐出量の要求値である要求吐出量DPが0(零)であるか否かを判定する。要求吐出量DPが0(零)である場合は、ポンプ41の作動が停止していると見なす。一方、要求吐出量DPが0(零)よりも大きい場合は、ポンプ41の作動が停止していないと見なす。要求吐出量DPが0(零)ではない場合(S13:NO)、制御部81はステップS15の処理に移行する。
【0036】
ステップS15において、制御部81は、ポンプ41の作動を停止させるための制御である停止制御を実行する。すなわち、制御部81は、停止制御において、要求吐出量DPを0(零)に向けて減少させる。例えば、制御部81は、要求吐出量DPの前回値から減少量を引いた値と、0(零)とのうちの大きい方を要求吐出量DPの最新値として設定するとよい。要求吐出量DPの前回値とは、本処理ルーチンの前回の実行時に設定した要求吐出量DPである。制御部81は、要求吐出量DPの最新値に基づいて電気モータ31を駆動させる。この際、制御部81は、要求吐出量DPが小さいほど電気モータ31の回転子の回転速度であるモータ回転数が小さくなるように電気モータ31を正駆動させる。こうした停止制御を実行すると、制御部81はステップS17の処理に移行する。
【0037】
ステップS17において、制御部81は、電気モータ31が逆方向に回転しているか否かを判定する。例えば、制御部81は、モータセンサ62によって検出されるモータ回転角θmの推移を基に電気モータ31が逆方向に回転しているか否かを判定する。電気モータ31が逆方向に回転していると判定した場合(S17:YES)、制御部81はステップS21の処理に移行する。一方、電気モータ31が逆方向に回転していないと判定した場合(S17:NO)、制御部81は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0038】
その一方で、ステップS13において要求吐出量DPが0(零)である場合(YES)、電気モータ31の駆動が停止したと見なせるため、制御部81はステップS19の処理に移行する。ステップS19において、制御部81は、電気モータ31が未だ回転しているか否かを判定する。例えば、制御部81は、モータセンサ62によって検出されるモータ回転角θmの推移を基に電気モータ31が未だ回転しているか否かを判定する。電気モータ31が回転していると判定した場合(S19:YES)、制御部81はステップS21の処理に移行する。一方、電気モータ31が回転していないと判定した場合(S19:NO)、ポンプ41の作動が停止したと見なせるため、制御部81は本処理ルーチンを終了する。
【0039】
ステップS21において、制御部81は、駆動回路71の複数のスイッチング素子72a,72bのうちの一部のみをオンとすることにより、複数のコイル32u,32v,32wを含む閉ループを形成する閉ループ形成処理を開始する。本実施形態では、制御部81は、閉ループ形成処理において、全ての第2スイッチング素子72bをオンとすることにより閉ループを形成する。この際、制御部81は、全ての第1スイッチング素子72aをオフとする。このように閉ループを形成すると、制御部81は本処理ルーチンを終了する。
【0040】
次に、
図4を参照し、閉ループ形成処理を終了させる際に制御部81が実行する処理ルーチンを説明する。本処理ルーチンは、閉ループ形成処理が実行されている場合、所定の制御サイクル毎に実行される。
【0041】
本処理ルーチンにおいてステップS31では、制御部81は、モータ回転数Nmtが0(零)になったか否かを判定する。具体的には、制御部81は、モータセンサ62の検出信号を基にモータ回転数Nmtを導出し、当該モータ回転数Nmtが0(零)であるか否かを判定する。モータ回転数Nmtが0(零)ではない場合(S31:NO)、電気モータ31が未だ回転していると見なせるため、制御部81は本処理ルーチンを一旦終了する。一方、モータ回転数Nmtが0(零)である場合(S31:YES)、電気モータ31の回転が停止していると見なせるため、制御部81はステップS33の処理に移行する。
【0042】
ステップS33において、制御部81は、電気モータ31の回転が停止した時点である停止時点からの経過時間TMが所定の判定停止時間TMth以上であるか否かを判定する。経過時間TMが所定の判定停止時間TMth未満である場合(S33:NO)、制御部81は本処理ルーチンを一旦終了する。一方、経過時間TMが所定の判定停止時間TMth以上である場合(S33:YES)、制御部81はステップS35の処理に移行する。
【0043】
ステップS35において、制御部81は閉ループ形成処理を終了する。すなわち、本実施形態では、制御部81は、閉ループ形成処理の開始後において電気モータ31の回転が停止した時点以降で閉ループ形成処理を終了する。制御部81は、閉ループ形成処理の実行によってオンとした全てのスイッチング素子72a,72bをオフとすることによって閉ループ形成処理を終了する。このように閉ループを解消すると、制御部81は本処理ルーチンを終了する。
【0044】
次に、
図5を参照し、電気モータ31の駆動を禁止したり、電気モータ31の駆動の禁止を解除したりする際に制御部81が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは所定の制御サイクル毎に実行される。
【0045】
本処理ルーチンにおいてステップS51では、制御部81は、電気モータ31の駆動が停止しているか否かを判定する。制御部81は、ポンプ41の要求吐出量DPが0(零)である場合に電気モータ31の駆動が停止していると判定する。また、制御部81は、要求吐出量DPが0(零)ではなくても閉ループ形成処理を実行している場合には電気モータ31の駆動が停止していると判定する。そして、電気モータ31の駆動が停止していると判定した場合(S51:YES)、制御部81はステップS53の処理に移行する。一方、電気モータ31の駆動が停止していないと判定した場合(S51:NO)、制御部81は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0046】
ステップS53において、制御部81は、第1液路15の液圧の推定値である第1液圧推定値Pa1eを導出する。第1液圧推定値Pa1eの導出処理については後述する。第1液圧推定値Pa1eを導出すると、制御部81はステップS55の処理に移行する。
【0047】
ステップS55において、制御部81は、第1液圧推定値Pa1eが所定液圧Pa1th未満であるか否かを判定する。所定液圧Pa1thは、ポンプ41を起動させることができるか否かを判断するための基準となる液圧である。上述したように第1液圧Pa1が高すぎると理論トルクが過大になるため、ポンプ41を起動させることができないおそれがある。そこで、電気モータ31の正駆動によってポンプ41を起動させることのできる第1液圧の上限値、又は当該上限値よりも低い液圧が、所定液圧Pa1thとして設定されている。
【0048】
第1液圧推定値Pa1eが所定液圧Pa1th以上である場合(S55:NO)、制御部81はステップS57の処理に移行する。ステップS57において、制御部81は、電気モータ31の駆動を禁止する。このように駆動が禁止されると、制御部81は、ポンプ41の起動の要請を受けない。その後、制御部81は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0049】
その一方で、ステップS55において第1液圧推定値Pa1eが所定液圧Pa1th未満である場合(YES)、制御部81は、電気モータ31の駆動禁止を解除するための所定の解除条件が成立したため、ステップS59の処理に移行する。ステップS59において、制御部81は電気モータ31の駆動禁止を解除する。これにより、制御部81は、ポンプ41の起動の要請を受け付けることができるようになる。その後、制御部81は本処理ルーチンを一旦終了する。
【0050】
次に、第1液圧推定値Pa1eの導出処理について説明する。
制動装置10は第2液路16の液圧を検出する液圧センサ61を有している。そのため、制御装置70は、液圧センサ61によって検出された第2液圧Pa2を基に、ポンプ41の作動を停止させる際の第1液圧Pa1を取得できる。具体的には、逆止弁17によって第1液路15と第2液路16との間に発生する圧力差ΔPは逆止弁17の諸元から定まるため、制御部81は圧力差ΔPを把握している。そこで、制御部81は、ポンプ41の作動停止が要求された時点の第2液圧Pa2から圧力差ΔPを引いた値を、ポンプ41の作動停止が要求された時点の第1液圧Pa1として導出する。ポンプ41の作動停止が要求された時点の第1液圧Pa1を、「第1液圧基準値Pa1b」とする。
【0051】
また、ポンプ41の内部容積、ポンプ41の吐出ポート43の容積及び第1液路15の容積は予め把握している。ポンプ41の内部容積と、ポンプ41の吐出ポート43の容積と、第1液路15の容積との総和を「合計容積VLtl」とする。このとき、制御部81は、合計容積VLtlと第1液圧基準値Pa1bとを基に、ポンプ41の作動停止が要求された時点の総和液量Qtlを導出する。総和液量Qtlとは、ポンプ41と第1液路15との内部に存在するブレーキ液量の総和である。ポンプ41の作動停止が要求された時点の総和液量Qtlを「基準総和液量Qtlb」という。
【0052】
なお、電気モータ31の駆動が停止すると、第1液路15内のブレーキ液がポンプ41内を介して吸引液路12に逆流することがある。すなわち、ポンプ41の構成部品の隙間を介し、第1液路15内のブレーキ液が吸引液路12に逆流することがある。また第1液路15の液圧が高いために理論トルク(すなわち、ポンプ41に外部から加わる負荷トルク)が過大であると、ポンプ41の回転軸46が逆回転することにより、ポンプ41が、吐出ポート43を介して第1液路15内のブレーキ液を吸引し、当該ブレーキ液を吸引ポート42を介して吸引液路12に吐出することがある。
【0053】
回転軸46の逆回転に起因して第1液路15から吸引液路12に逆流するブレーキ液の流速を、「ポンプ41の逆回転吐出流量DAR」とする。また、回転軸46の逆回転とは関係なく、ポンプ41の構成部品の隙間を介して第1液路15から吸引液路12に逆流するブレーキ液の流速を、「ポンプ41の漏出流量DAL」とする。このとき、逆回転吐出流量DAR及び漏出流量DALはポンプ41の構造から定まるため、逆回転吐出流量DAR及び漏出流量DALは予め把握できる。
【0054】
本実施形態では、制御部81は、上記の基準総和液量Qtlbを導出すると、以下の関係式(式1)を用いて総和液量Qtlの推移を把握できる。関係式(式1)において、「t」は、第1液圧基準値Pa1bを導出した時点である基準時点からの経過時間である。「Qtl(t)」とは、基準時点から経過時間tが経過した時点の総和液量の推定値である。
【0055】
【0056】
そして、制御部81は、総和液量Qtlの推移を基に、第1液圧推定値Pa1eを導出する。すなわち、合計容積VLtlは変わらないため、制御部81は、総和液量Qtlが少ないほど小さい値を第1液圧推定値Pa1eとして導出する。
【0057】
<本実施形態の作用及び効果>
図6を参照し、ポンプ41を停止させる際に電気モータ31が逆方向に回転する場合について説明する。
【0058】
図6の(A)及び(B)に示すように、ポンプ41が作動している最中におけるタイミングt11で、ポンプ41の作動の停止が要求される。すると、停止制御の実行によって要求吐出量DPが0(零)に向けて減少される。その結果、モータ回転数Nmtが徐々に小さくなる。そして、タイミングt12でモータ回転数Nmtが0(零)になる。
【0059】
図6に示す例では、タイミングt11からタイミングt12までの期間では、第1液圧Pa1が高いために理論トルク(すなわち、ポンプ41に外部から加わる負荷トルク)が過大になる。そのため、タイミングt12からタイミングt14までの間では、
図2に示した逆回転力Fbが順回転力Faよりも大きいため、電気モータ31が逆方向に回転する。当該期間ではモータ回転数Nmtは負の値となる。
【0060】
電気モータ31の駆動が停止すると、ポンプ41を介して第1液路15から吸引液路12にブレーキ液が逆流する。
図6に示す例では、理論トルクが過大であり、電気モータ31が逆方向に回転する。そのため、ポンプ41の構成部品の隙間を介したブレーキ液の逆流に加え、回転軸46の逆回転に起因したポンプ41によるブレーキ液の逆流も発生する。その結果、第1液圧Pa1は減圧される。
【0061】
本実施形態では、上記関係式(式1)を用いて総和液量Qtlの推移が取得できるため、第1液圧推定値Pa1eの推移を取得できる。そのため、制御部81は、タイミングt13で第1液圧推定値Pa1eが所定液圧Pa1thまで減少することを把握できる。
【0062】
その後のタイミングt14では、第1液圧Pa1も十分に低くなったため、すなわち理論トルクが小さくなったため、電気モータ31の逆方向への回転も停止する。
電気モータ31が逆方向に回転している場合、電気モータ31で逆起電力が発生することがある。本実施形態では、タイミングt12以降で電気モータ31が逆方向に回転していることが検知されると、閉ループ形成処理が開始される。すなわち、電気モータ31の駆動を停止させる際、電気モータ31が未だ回転しているときに閉ループ形成処理が開始される。閉ループ形成処理が実行されると、駆動回路71における全ての第2スイッチング素子72bがオンとなるため、電気モータ31の複数のコイル32u,32v,32wを含む閉ループが形成される。すると、電気モータ31で逆起電力が発生しても、逆起電力は閉ループ内で消費される。そのため、逆起電力に応じた電流が、駆動回路71を介して電源回路200に流れ込むことを抑制できる。すなわち、ポンプ41に加わる負荷トルクである理論トルクを小さくする際に電気モータ31で発生した逆起電力に応じた電流が電源回路200に流れることを抑制できる。そのため、電源回路200においては、当該逆起電力に応じた電流が駆動回路71から流れ込むことに対する対策を設けなくてもよくなる。すなわち、電源回路200のコストアップを抑制できる。また、第1液圧推定値Pa1eを低くするために電気モータ31を逆駆動させるわけではないため、制動装置10の消費電力の増大も抑制できる。
【0063】
モータ回転数Nmtが0(零)になるタイミングt14から判定停止時間TMthが経過したタイミングt15で、閉ループ形成処理が終了される。すなわち、閉ループ形成処理によってオンとなった全ての第2スイッチング素子72bがオフとされる。
【0064】
図6に示す例では、閉ループ形成処理が開始されると、電気モータ31の駆動が禁止される。すなわち、第1液圧推定値Pa1eが所定液圧Pa1thに達するタイミングt13までは、電気モータ31の駆動が禁止される。そのため、理論トルクが大きいためにポンプ41を起動させることができない可能性のある期間に、制御部81がポンプ41の起動を指示しなくなる。なお、タイミングt13以降でも第1液圧推定値Pa1eが減少し続けるため、タイミングt13以降で電気モータ31の駆動禁止が解除される。
【0065】
次に、
図7を参照し、ポンプ41を停止させる際に閉ループ形成処理が実行されない場合について説明する。
図7の(A)及び(B)に示すように、ポンプ41が作動している最中におけるタイミングt21で、ポンプ41の作動の停止が要求される。すると、停止制御の実行によって要求吐出量DPが0(零)に向けて減少される。その結果、モータ回転数Nmtが徐々に小さくなる。そして、タイミングt22でモータ回転数Nmtが0(零)になる。
【0066】
図7に示す例では、タイミングt21からタイミングt22までの期間でも、第1液圧Pa1がそれほど高くないため、理論トルクが比較的小さい。そのため、
図2に示した逆回転力Fbが順回転力Faよりも大きくなることはない。その結果、電気モータ31が逆回転しない。すなわち、要求吐出量DPが0(零)になると、モータ回転数Nmtは0(零)で保持される。すなわち、電気モータ31が逆回転しないため、閉ループ形成処理が実行されない。
【0067】
電気モータ31が逆方向に回転しない場合、電気モータ31では逆起電力が発生しない。すなわち、本実施形態では、電気モータ31で逆起電力が発生しないと推測できる場合には、閉ループ形成処理が実行されない。したがって、閉ループ形成処理の実行機会が多くなりすぎることを抑制できる。
【0068】
図7に示す例では、タイミングt22で電気モータ31の駆動が停止されるため、電気モータ31の駆動が禁止される。
このように電気モータ31が逆方向に回転しない場合であっても、ポンプ41の構成部品の隙間を介して第1液路15から供給液路14にブレーキ液が逆流する。そのため、第1液圧Pa1が減少する。
図7に示す例では、タイミングt23で第1液圧推定値Pa1eが所定液圧Pa1thに達するため、タイミングt23以降で電気モータ31の駆動禁止が解除される。なお、
図7に示す例のように電気モータ31が逆方向に回転しない場合、上記関係式(式1)における「DAR」に0(零)を代入して、総和液量Qtlの推移を導出するとよい。
【0069】
ちなみに、電気モータ31の駆動を停止させる際、要求吐出量DPが0(零)になっても電気モータ31が正方向に回転していることもあり得る。本実施形態では、要求吐出量DPが0(零)になっても電気モータ31が正方向に回転している場合、電気モータ31が正方向に回転しているときに閉ループ形成処理が開始される。
【0070】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0071】
・上記実施形態では、第1液圧推定値Pa1eの推移を導出できる。そのため、第1液圧推定値Pa1eの推移に基づいて理論トルクの推移を把握することもできる。また、ポンプ41のロストルクも推測できる。ちなみに、ロストルクは、モータ回転数Nmt、外気温TMP及び第1液圧Pa1に応じて可変する。そして、制御部81は、電気モータ31の駆動が停止しており、且つ電気モータ31が逆方向に回転する場合、モータ回転数Nmtを以下の関係式(式2)を用いて導出できる。関係式(式2)において、「Tt」は理論トルクであり、「Tl」はロストルクである。「I」はポンプ装置30のイナーシャであり、「Δt」はモータ回転数Nmtの演算周期である。
【0072】
【0073】
制御部81は、上記関係式(式2)を用いた演算を行うことにより、電気モータ31の逆方向への回転が停止するタイミングを推定できる。そして、制御部81は、推定した当該タイミングで閉ループ形成処理を終了させるようにしてもよいし、当該タイミングから所定時間が経過したタイミングで閉ループ形成処理を終了させるようにしてもよい。
【0074】
・
図4に示した処理ルーチンにおいてステップS33の判定を省略してもよい。この場合、モータ回転数Nmtが0(零)になると、すなわち電気モータ31の回転が停止したタイミングで閉ループ形成処理が終了されることになる。
【0075】
・第1液路15の液圧を検出する液圧センサが制動装置10に設けられている場合、制御部81は、当該液圧センサの検出値を基に閉ループ形成処理の終了タイミングを決定してもよい。
【0076】
・閉ループ形成処理が実行された場合においては、閉ループ形成処理の終了タイミングで電気モータ31の駆動禁止を解除するようにしてもよい。
・上記実施形態では、要求吐出量DPが0(零)になって電気モータ31の駆動が停止しても電気モータ31が未だ回転している場合には閉ループ形成処理を実行するようにしている。しかし、この際の電気モータ31の回転方向が正方向である場合には閉ループ形成処理を実行しなくてもよい。その一方で、この際の電気モータ31の回転方向が逆方向になったときに閉ループ形成処理を開始することが好ましい。
【0077】
・電気モータ31の駆動を停止させる際には閉ループ形成処理を実行するようにしてもよい。すなわち、停止制御によって要求吐出量DPが減少されているときに閉ループ形成処理を開始するようにしてもよい。
【0078】
・ポンプ41の作動を停止させる場合、要求吐出量DPが一気に0(零)とされることがある。この場合、電気モータ31の正駆動が停止されても、その回転子が未だ正方向に回転していることがある。そこで、要求吐出量DPを一気に0(零)として電気モータ31の駆動が停止された場合には、回転子が未だ回転しているか否かを確認しないで閉ループ形成処理を開始させるようにしてもよい。
【0079】
・閉ループ形成処理では、駆動回路71における全ての第1スイッチング素子72aをオンとすることにより、複数のコイル32u,32v,32wを含む閉ループを形成するようにしてもよい。この場合、第2スイッチング素子72bをオンとしなくてもよい。
【0080】
・ポンプ装置30は、ギヤポンプ以外のポンプを備える装置であってもよい。ギヤポンプ以外のポンプとしては、例えば、ピストンポンプ及びベーンポンプがある。
・ポンプ41の動力源となる電気モータは、2つ以上のコイルを有する多相モータであればよい。すなわち、当該電気モータのコイル数は3つでなくてもよい。
【0081】
・制動装置は、ホイールシリンダ100に供給するブレーキ液量を調整するポンプ装置30以外のポンプ装置を備えるものであってもよい。例えば、制動装置は、運転者によるブレーキペダルの操作力を助勢するブースタ装置を構成するポンプ装置を備えるものであってもよい。
【0082】
・制御部81は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御部81は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えていること。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0083】
(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えていること。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記である。FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0084】
(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えていること。
【符号の説明】
【0085】
10…制動装置
15…第1液路
16…第2液路
17…逆止弁
30…ポンプ装置
31…電気モータ
32u,32v,32w…コイル
41…ポンプ
42…吸引ポート
43…吐出ポート
45…シリンダ(ポンプの構成部品)
46…回転軸(ポンプの構成部品)
47…インナーロータ(ポンプの構成部品)
48…アウターロータ(ポンプの構成部品)
70…制御装置
71…駆動回路
72a,72b…スイッチング素子
81…制御部
SP…空隙