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特開2023-119264窒化ケイ素粉末、および、窒化ケイ素粉末の製造方法
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  • 特開-窒化ケイ素粉末、および、窒化ケイ素粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119264
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末、および、窒化ケイ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/068 20060101AFI20230821BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C01B21/068 E
C04B35/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022065
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 理
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
(57)【要約】
【課題】高α分率を有し、焼結体特性への悪影響を抑えた窒化ケイ素粉末を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素粉末は、α分率が90%以上であり、かつ、YSiを副成分として含むことを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α分率が90%以上であり、かつ、YSiを副成分として含むことを特徴とする窒化ケイ素粉末。
【請求項2】
金属換算で、4.0~9.0重量%のY、および、0.5~2.0重量%のMgを含有することを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の窒化ケイ素粉末を製造する方法であって、
90~96重量%のシリコン粉末と、2.5~6.5重量%のY粉末と、1.5~4.5重量%のMgO粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、
前記窒化ケイ素粉末を得るように、直接窒化法によって前記混合粉末を窒化する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
前記混合粉末を作製する工程において、Y粉末とMgO粉末との重量%による混合比Y/MgOが1以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合粉末を作製する工程は、前記混合粉末100重量部に対して、0~40重量部の窒化ケイ素粉末を添加することをさらに含むことを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記混合粉末を窒化する工程は、1100~1150℃の減圧開始温度で炉内の窒素圧を大気圧に対して負圧に減圧することを含むことを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素焼結体、および、窒化ケイ素焼結体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や半導体デバイスの高密度化、高出力化に伴い、パワーモジュールの発熱密度が増加している。パワーモジュールの温度上昇は、素子の動作不良を引き起こしたり、絶縁回路基板の割れを引き起こしたりする要因となる。そのため、絶縁回路基板には、比較的に熱伝導率が高い材料であるアルミナや窒化アルミニウムなどのセラミック基板が用いられてきた。しかしながら、アルミナや窒化アルミニウムには、機械的強度が低いという欠点が存在する。それ故、熱応力が強くかかる厚銅をセラミック基板へ直接接合することが出来ず、パワーモジュールの構造に制約を与えてきた。具体的には、銅やアルミニウムなどの放熱板を絶縁回路基板に対して、はんだ接合する必要が生じることから、パワーモジュールが大型化することが問題として挙げられる。そこで、絶縁回路基板として注目されているのが窒化ケイ素(Si)材料である。窒化ケイ素焼結体は、アルミナや窒化アルミニウム焼結体と比較して強度や破壊靭性が高いことから、絶縁回路基板へ直接厚銅を接合することが可能となり、モジュールの小型化に貢献する。
【0003】
一般的に、窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素粉末を出発原料として、少量の焼結助剤を添加し、それらを高温で焼成することによって作製される。窒化ケイ素粉末は、直接窒化法、シリカ還元法、イミド熱分解法によって製造される。特に、直接窒化法は、シリコン粉末を窒素中で熱処理することで窒化ケイ素粉末を作製する方法であり、カーボン等の不純物の混入がない利点を有することから、高性能の窒化ケイ素焼結体を作製するのに多く用いられている製法である。そして、窒化ケイ素粉末の状態が、窒化ケイ素焼結体の熱伝導性や物理的強度や耐食性などの特性に影響を与えることもまた知られている。
【0004】
特許文献1は、高α型高純度窒化ケイ素粉末の製造方法を開示する。特許文献1にも記載されているとおり、窒化ケイ素には、異なる結晶相を有するα型窒化ケイ素(α-Si)およびβ型窒化ケイ素(β-Si)の2種類が存在する。α型窒化ケイ素は、高温(1500~1700℃の焼結温度付近)で不可逆的にβ型窒化ケイ素に相変態する性質を有する。一方で、β型窒化ケイ素は、窒化ケイ素焼結体を作製するにあたって、α型窒化ケイ素よりも焼結性の点で劣っている。すなわち、窒化ケイ素焼結体の原料粉末としての窒化ケイ素粉末において、焼結体の特性を損なわずに焼結するためにα型窒化ケイ素の比率(α分率、α化率)が高いことが望ましいとされる。それ故、α型窒化ケイ素の比率が高くかつ高純度の窒化ケイ素粉末を製造することが従来からの課題であった。特に、この直接窒化法は、高温での3Si+2N→Siという反応を行うものであり、窒化ケイ素1モル当り176Kcalという大きな反応熱を伴うことが知られている。それ故、窒化ケイ素粉末において、高温安定型であり、かつ、高温で生成され得るβ型窒化ケイ素の割合が優位になり易いことが問題であった。そのため、シリコン粉末に対して種々の触媒を添加物として加え、1300~1350℃という比較的低温で反応させることで、α型窒化ケイ素の比率を高めることが行われている。
【0005】
特許文献1は、シリコン(金属ケイ素)粉末に窒素を直接反応させて窒化ケイ素粉末を製造する際、シリコン粉末として金属不純物含有量が2000ppm以下、酸素含有量が0.1~0.4重量%、平均粒子径が5~20μmのものを用いると共に、シリコン粉末100重量部に対して0.2~0.7重量部の酸化カルシウムを添加することにより、α化率が90重量%以上の高α型であると共に高純度である窒化ケイ素粉末を製造できることを知見している。すなわち、特許文献1の製造方法では、少量の酸化カルシウムをシリコン粉末に添加したことにより、不純物として検出されるCa含有量を約0.2重量%以下に抑え、かつ、90重量%以上のα分率を有する窒化ケイ素粉末が得られる。
【0006】
また、特許文献2は、高強度の焼結体を製造するための窒化ケイ素粉末の製造方法を開示する。特許文献2の製造方法は、原料としてシリコン(金属ケイ素)粉末100重量部に対し酸化ケイ素を1~5重量部含有したものを用い、しかもアルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物よりなる群から選択したハロゲン化物の少なくとも1種を、気体の状態で連続的に、間欠的又は一時的に供給して窒化することを特徴とする。当該製造方法によっても、90重量%以上のα分率を有する窒化ケイ素粉末が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-219715号公報
【特許文献2】特開平2-248309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の製造方法は、高α分率を有する窒化ケイ素粉末を作製するために、シリコン粉末に酸化カルシウムを添加させるものであり、合成後の窒化ケイ素粉末に、少量といえどCa化合物が不純物として残存することが避けられない。このCa化合物は、窒化ケイ素焼結体を製造する際、焼結体内にCa化合物が残留し、焼結体の高温での強度低下につながることが分かっている。また、特許文献2の製造方法では、ハロゲン化物の添加によって、合成後の窒化ケイ素粉末にFやClの化合物が不純物として残存することが避けられない。FやClの化合物は、窒化ケイ素焼結体の製造にあたって、成形性の悪化や焼結体の特性悪化につながることが分かっている。そこで、発明者らは、窒化ケイ素焼結体の製造の際、焼結体特性に悪影響を及ぼす不純物を含有させずに、高α分率(90%以上)を有する窒化ケイ素の合成粉末を提供することを課題とした。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、その目的は、高α分率を有し、焼結体特性への悪影響を抑えた窒化ケイ素粉末、および、当該窒化ケイ素粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態の窒化ケイ素粉末は、α分率が90%以上であり、かつ、YSiを副成分として含むことを特徴とする。
【0011】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末は、より好適には、金属換算で、4.0~9.0重量%のY、および、0.5~2.0重量%のMgを含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の一形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、90~96重量%のシリコン粉末と、2.5~6.5重量%のY粉末と、1.5~4.5重量%のMgO粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、前記窒化ケイ素粉末を得るように、直接窒化法によって前記混合粉末を窒化する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、より好適には、前記混合粉末を作製する工程において、Y粉末とMgO粉末との重量%による混合比率Y/MgOが1以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、より好適には、前記混合粉末を作製する工程は、前記混合粉末100重量部に対して、0~40重量部の窒化ケイ素粉末を添加することをさらに含むことを特徴とする。
【0015】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、より好適には、前記混合粉末を窒化する工程は、1100~1150℃の減圧開始温度で炉内の窒素圧を大気圧に対して負圧に減圧することを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の窒化ケイ素粉末は、シリコン粉末に触媒として少量の酸化イットリウムおよび酸化マグネシウムを添加し、直接窒化法によって混合粉末を窒化することにより作製されたものであり、90%以上のα分率を有している。このように製造された窒化ケイ素粉末は、酸化イットリウムおよび酸化マグネシウム粉末の窒化生成物としてYSiおよびMg化合物を副成分に含んでいる。しかしながら、窒化ケイ素粉末中に不純物として含有されるYSiおよびMg化合物は、窒化ケイ素粉末から窒化ケイ素焼結体を作製する際、焼結体の特性に悪影響を及ぼすことはない。つまり、窒化ケイ素焼結体の製造工程において、酸化イットリウムを含む希土類酸化物および酸化マグネシウムが、焼結助剤として焼結体の緻密化のために添加されるからである。したがって、本発明の窒化ケイ素粉末は、窒化ケイ素焼結体の製造の際に焼結体特性に悪影響を及ぼす不純物を含有せずに、高α分率(90%以上)を有することにより、より優れた特性の窒化ケイ素焼結体を製造することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の窒化ケイ素粉末の粉末X線回折パターン。
図2】実施例8の窒化ケイ素粉末の粉末X線回折パターン。
図3】比較例1の窒化ケイ素粉末の粉末X線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態の窒化ケイ素粉末は、主として、窒化ケイ素焼結体を製造するための原料粉末として使用される。窒化ケイ素粉末は、α型窒化ケイ素(α-Si)粒子およびβ型窒化ケイ素(β-Si)粒子のうち、α型窒化ケイ素粒子を90%以上含有している。α分率(%)は、α型窒化ケイ素粒子の含有比率(質量分率)を示し、α/(α+β)×100で表される。また、窒化ケイ素粉末は、シリコン粉末に添加された酸化イットリウムおよび酸化マグネシウムの窒化生成物として、添加量に相当する量のYSiおよびMg化合物(Y-SiO-MgO系ガラス)を含有している。好ましくは、窒化ケイ素粉末において、Yの含有量が4.0~9.0%であり、Mgの含有量が0.5~2.0%である。つまり、窒化ケイ素粉末は、不純物として、所定量のYおよびMgを含有している。しかしながら、YおよびMgの酸化物が窒化ケイ素焼結体の製造の際に焼結助剤として用いられることから、窒化ケイ素粉末中のYおよびMgの化合物は、CaやFやClの化合物とは異なり、焼結体の特性に悪影響を及ぼすことがない。
【0019】
続いて、本実施形態の窒化ケイ素粉末を製造する方法について説明する。本実施形態の製造方法は、主に、90~96重量%のシリコン粉末と、2.5~6.5重量%の酸化イットリウム(Y)粉末と、1.5~4.5%の酸化マグネシウム(MgO)粉末とを混合して混合粉末を作製する混合工程と、直接窒化法によって混合粉末を窒化する窒化工程と、を含み、窒化ケイ素焼結体の製造の際に焼結体特性に悪影響を与える不純物を添加することなく、高α分率(90%以上)の窒化ケイ素粉末を得ることを可能とする。以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0020】
混合工程では、シリコン粉末、酸化マグネシウム粉末および酸化イットリウム粉末を所定の量に秤量し、粉末を均一に混合し、混合粉末を作製する。なお、シリコン粉末は、高純度であり、且つ、酸素含有量が少ないシリコン粉末であることが好ましい。また、混合工程は、好ましくは、混合粉末100重量部に対して、0~40重量部の窒化ケイ素粉末を添加することをさらに含んでもよい。この窒化ケイ素粉末は、シリコン粉末の窒化時に発生する熱を拡散させる希釈剤としての効果があると同時に、合成後の窒化ケイ素粉末同士の融着を防ぐ役割を持つ。本発明では、希釈剤としての窒化ケイ素を含まなくとも高α率の窒化ケイ素粉末が合成可能であるが、窒化ケイ素粉末を含んでいると上記のような追加の効果を得られる。なお、任意に追加添加される窒化ケイ素粉末は、本発明の製造方法で得られるような、焼結体特性に悪影響を及ぼす不純物を含まない高α率の窒化ケイ素粉末であることが好ましい。
【0021】
次に、混合粉末を焼成用のさやへ充填する。このときの充填密度は0.4~1.0g/cmであることが好ましい。粉末を充填したさやを、カーボンヒーターの焼成炉へ投入し、窒化工程を行う。
【0022】
窒化工程では、加熱前に炉の真空引き(好適には、20Pa以下)を行い、その後、所定の窒素圧(好適には、大気圧~0.2MPa程度)まで窒素ガスを充填する。なお、合成中の炉内の窒素圧は窒素ガスの流量を変化させることで任意に調整可能である。そして、上記窒素圧を維持するように所定の流量で窒素ガスを流しつつ、炉を第1の温度に到達するまで任意の昇温速度で昇温させる。第1の温度は、好適には、約1000℃~1150℃である。次に、第1の温度において、急激な熱反応の発生を抑えるべく、昇温速度を低下させるように調整する。つまり、第1の温度を超えてからの昇温速度は、第1の温度に到達するまでの昇温速度と比べて緩やかになる。好適には、第1の温度を超えてからの昇温速度は、約1~3℃/分であり、より好適には、2℃/分以下である。そして、窒素圧を維持しつつ、第2の温度に到達するまで炉をゆっくりと昇温させる。第2の温度は、好適には、約1100℃~1200℃である。なお、第1の温度および第2の温度が同じであってもよい。次に、第2の温度において、炉内の窒素圧が大気圧に対して負圧になるように窒素ガスの流量の調整を開始する。好適には、炉内の窒素圧は、20~80kPaに減圧される。そして、第2の温度から、より高温の第3の温度に到達するまで、減圧下で炉をゆっくりと昇温させる。第3の温度は、好適には、約1200℃~1300℃である。第2の温度および第3の温度がそれぞれ減圧開始温度および減圧終了温度を意味し、この間の温度域において、窒素圧が負圧になるように減圧される。次に、第3の温度において、窒素圧が大気圧以上になるように窒素ガスの流量を調整し、最高温度まで昇温を行う。この最高温度は、好適には、1300℃~1450℃である。そして、最高温度を保持し、好適には約1~6時間の反応時間で窒化反応させることにより、最終的に、高α分率(90%以上)の窒化ケイ素粉末を得ることができる。
【0023】
上述したとおり、本実施形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、シリコン粉末を出発原料とし、窒素雰囲気中で加熱して窒化を行う直接窒化法によるものである。一般的に、直接窒化法による窒化ケイ素の合成反応は大きな発熱を伴い、発熱反応によって生じる温度変動は数百度に達するとも言われている。α型窒化ケイ素粒子は、低温における結晶形であり、加熱するとβ型窒化ケイ素粒子へと転移し易い。つまり、直接窒化法におけるシリコンの窒化反応が発熱反応であるため、この反応熱により粉末が局所的に高温となってしまい、生成された合成粉末において、局所的にβ型窒化ケイ素粒子が優勢となる箇所が生じる。それ故、従来、反応温度を低減させるために、不純物となる触媒や希釈剤をシリコン粉末に添加するなどによって合成が行われているが、添加物が焼結体特性に悪影響を及ぼすことがない、高α分率(90%以上)の窒化ケイ素粉末を得ることは困難であった。
【0024】
本実施形態の製造方法は、上記直接窒化法における課題を解決すべく、触媒として酸化マグネシウム(MgO)と酸化イットリウム(Y)を同時添加したものである。すなわち、シリコン粉末と窒素との反応を阻害するものはシリコン粒子表面の酸化膜であり、その酸化膜を除去するとシリコンと窒素とが速やかに反応する。そして、酸化イットリウムは、シリコン表面の酸化膜(SiO)と反応し、酸化膜を除去する効果がある。さらに、酸化マグネシウムは、Y-SiO-MgO系ガラスを形成し、融点を下げる効果がある。これにより、低温で速やかにシリコン粉末表面のSiO膜が除去され、窒化開始温度が低下する。また、触媒として添加される酸化イットリウムおよび酸化マグネシウムは、一般的に、高熱伝導窒化ケイ素焼結体の製造において焼結助剤として使用されるため、合成後の窒化ケイ素粉末に残存していても特性上の問題を生じさせない。そして、合成粉末中のMgやYの含有量を測定し、原料調整を行えば任意の焼結助剤比の焼結体を作製することが可能である。
【0025】
また、本実施形態の製造方法では、シリコンの窒化の発熱反応による局所的な発熱を抑えるべく、窒化反応が生じ始める第1の温度で昇温速度を低下させ、発熱初期の第2の温度で窒素雰囲気を減圧とすることで、窒化反応の速度を遅くし、合成中の粉末が局所的に高温となることを防いでいる。これにより、β型窒化ケイ素粒子の生成を抑え、高α分率(90%以上)の窒化ケイ素粉末を得ることを可能としている。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0027】
実施例1~10、比較例1~7に係る窒化ケイ素粉末は以下の条件および手順によって作製された。
【0028】
まず、シリコン粉末、酸化マグネシウム粉末および酸化イットリウム粉末(比較例2,3ではCaF粉末またはMgF粉末であり、比較例7では添加なし)を所定の量に秤量し、ポリ袋内で予備混合を行った。予備混合を行った粉末は撹拌羽根を使用したミキサーで本混合を行った。混合粉末は、マイクロスコープを使用して、混合が均一に行われていることが確認された。作製した混合粉末を焼成用のさやへ充填した。このときの充填密度は0.6または1.0g/cmとした。そして、混合粉末を充填したさやをカーボンヒーターの焼成炉へ投入した。投入後、炉を20Pa以下まで真空引きし、その後、0.1MPaまで窒素ガスを充填した。炉を任意の昇温速度で1100℃まで昇温させた。1100℃以上の温度域では、昇温速度を2℃/min以下に設定した。次いで、減圧開始温度(1100℃~1200℃)~減圧終了温度(1200℃~1250℃)の温度域では、炉内の窒素圧が40または70kPaになるように窒素ガスの流量の調整を行った(比較例4では減圧なし)。減圧終了温度以上の温度域では、再び窒素圧が常圧以上になるように窒素流量を調整し、最高温度1350℃まで昇温を行った。最高温度1350℃を約3時間保持し、窒化反応させることにより、窒化ケイ素粉末を得た。
【0029】
作製した実施例1~10および比較例1~7の各試料について、粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを解析することにより、YSiの析出の有無とともに、合成粉末中のα型窒化ケイ素の質量分率を示すα分率を導出した。また、各試料の窒化率と、金属換算のYおよびMgの含有量も測定した。各種測定および解析は、以下の条件の下で行われた。
【0030】
・粉末X線回折測定およびその分析
株式会社リガク製の粉末X線回折装置UltimaIVを用いて、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折法により、各試料のX線回折強度測定を行った。合成粉末をクラッシャーで粗粉砕した後、さらに、振動ミルで粉砕することで測定試料とした。粉砕した合成粉末を粉末X線回折によって回折パターンを測定した。YSiの回折ピークの存在によって、YSiの析出の有無を確認した。また、シリコン相、α型窒化ケイ素相およびβ型窒化ケイ素相の各回折パターンの積分強度を使用し、既知である、下記3式で表されるJovanovicとKimuraの方法によって結晶相の質量分率を測定した。
【数1】
なお、I(hkl)はz相(z=Si、α-Si、β-SI)のhkl面の回折パターンの積分強度を表す。また、Wzはz相(z=Si、α-Si、α-Si)の質量分率を表す。
【0031】
・窒化率
上記JovanovicとKimuraの方法によって得られたWα、Wβ、WSiを用い、(Wα+Wβ)/(Wα+Wβ+WSi)×100を窒化率(%)とした。
【0032】
・金属含有量
株式会社リガク製の走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusIVを用いて、各含有元素の金属換算含有量を測定した。合成粉末を粉砕し、目開き100μmのふるいに通すことで粗粒子を除去した。ふるい後の粉末を造粒し、φ20mmの金型を使用して、厚み5mmのペレット状に成形を行った。得られたペレットをφ10mmの測定面積でEZスキャン測定をすることで各含有元素の含有量を求めた。
【0033】
実施例1~10および参考例1~7の各試料についての条件および各種測定結果を表1,2に示した。また、図1~3は、実施例1、8、比較例1の試料のX線回折パターンを例示的に示す。X線回折パターンには、上からα型窒化ケイ素相、β型窒化ケイ素相およびYSi相の各回折ピークにミラー指数(hkl)を記載した。
【0034】
【表1】
【0035】
全ての試料のX線回折パターンにおいて、図1~3に代表的に示すように、α型窒化ケイ素粒子の(200)面、(201)面、(102)面、(210)面、(-2-11)面、(202)面および(301)面に対応する2θにおいて、回折ピークが視覚的に確認された。β型窒化ケイ素粒子の(200)面、(101)面、(120)面および(201)面に対応する2θについて、図1に代表的に示すような、α分率が100%に近い試料(実施例1、2、5、10)のX線回折パターンでは、回折ピークが非常に弱く、視覚的な確認が困難であった。図2に代表的に示すような、α分率が95~98%の試料(実施例3,4,6~9)のX線回折パターンでは、β型窒化ケイ素粒子の弱い回折ピークが視覚的に確認された。他方、図3に代表的に示すような、α分率が90%未満の試料(比較例1~7)のX線回折パターンでは、β型窒化ケイ素粒子の回折ピークが視覚的にはっきりと確認された。そして、Yを添加した全ての試料(実施例1~10、比較例1~6)のX線回折パターンにおいて、YSi相の(201)面および(211)面に対応する2θにおいて、回折ピークが視覚的に確認された。すなわち、Yを添加した試料(実施例1~10、比較例1~6)において、YSi相の析出が確認された。一方で、Yを添加していない比較例7のX線回折パターンでは、YSi相の析出が確認されなかった。
【0036】
また、表1によれば、実施例1~10の試料は、95%以上のα分率を示している。少なくとも実施例1~10の配合比および製造条件の下では、95%以上のα分率を有する窒化ケイ素粉末を得られることが分かった。これに対し、比較例1~7は、全て90%未満のα分率を示しており、より多くのβ型窒化ケイ素が生成されていることが分かる。これに対し、比較例1は、Yの添加量をMgOの添加量よりも相対的に減少させた(Y/MgO<1)試料であるが、Yの添加量が比較的少なく、かつ、MgOの添加量が優位であると、β型窒化ケイ素への転移を抑えられていないことが分かった。比較例2は、MgOの代わりにCaFを添加した試料であるが、CaFの添加ではβ型窒化ケイ素への転移を抑えられていないことが分かった。比較例3は、MgOの代わりにMgFを添加した試料であるが、比較例2と同様に、MgFの添加ではβ型窒化ケイ素への転移を抑えられていないことが分かった。比較例4は、所定の温度域で窒素圧の減圧を導入していない試料であるが、減圧なしではβ型窒化ケイ素への転移を抑えられないことが分かった。比較例5は、Yの添加量を1.4重量%(2.5重量%未満)まで減少させ、かつ、Yの添加量をMgOの添加量よりも相対的に減少させた(Y/MgO<1)試料であるが、この配合比率では、Yの添加量が少ないため、発熱を十分に減らすことができず、β型窒化ケイ素への転移を十分に抑えられていないことが分かった。比較例6は、減圧開始温度を比較的高い温度(1200℃)に設定した試料であるが、減圧する温度域を高温側にずらすと、比較例4と同様に、β型窒化ケイ素への転移を抑えられないことが分かった。比較例7は、触媒を添加しない試料であるが、触媒が存在しないとβ型窒化ケイ素への転移が優位となることが分かった。
【0037】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
図1
図2
図3