(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119282
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】踏切監視装置及び踏切システム
(51)【国際特許分類】
B61L 29/00 20060101AFI20230821BHJP
B61L 29/30 20060101ALI20230821BHJP
G01S 17/931 20200101ALN20230821BHJP
【FI】
B61L29/00 A
B61L29/30
G01S17/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022094
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】安井 邦雄
【テーマコード(参考)】
5H161
5J084
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161MM05
5H161MM14
5H161NN10
5H161NN12
5H161PP01
5H161PP15
5H161QQ01
5H161QQ03
5J084AA02
5J084AA05
5J084AB01
5J084AB07
5J084AC10
5J084AD01
5J084BA03
5J084BA49
5J084CA31
5J084EA20
5J084EA22
(57)【要約】
【課題】踏切内に侵入物を検知した際に、不要な発報を行うことを抑止できる踏切監視装置を提供する。
【解決手段】制御機器は、レーザセンサより入力されるセンサ信号に基づいて踏切内に侵入物が存在すると判定すると(S5;Yes)、緊急通報が必要とみなす条件を満たしている際に(S6、S9;Yes)侵入物の存在を上位装置に発報する(S12)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切内に侵入物が存在するか否かを示すセンサ信号を出力する侵入物センサと、
前記センサ信号に基づいて前記踏切内に侵入物が存在すると判定すると、緊急通報が必要とみなす条件を満たしている際に、前記侵入物の存在を上位装置に発報する発報制御部とを備える踏切監視装置。
【請求項2】
前記踏切の遮断棹が降下したことを検知する降下検知部を備え、
前記発報制御部は、前記検知のタイミングより早期警戒期間が経過していることを前記条件とする請求項1記載の踏切監視装置。
【請求項3】
前記発報制御部は、前記早期警戒期間が経過する前の段階で前記侵入物が存在すると判定すると、当該侵入物が存在している時間の長さが発報保留期間を超えたことを前記条件とする請求項2記載の踏切監視装置。
【請求項4】
前記侵入物センサは、間に監視エリアを挟んで基準物体にレーザ光を照射するレーザセンサである請求項1から3の何れか一項に記載の踏切監視装置。
【請求項5】
遮断棹を昇降させる駆動部と、
列車が踏切に接近していることを示す列車検知信号の入力状態に応じて、前記駆動部を制御する昇降制御部と、
請求項1から4の何れか一項に記載の踏切監視装置と、を備え、
前記踏切監視装置の発報制御部は、前記昇降制御部の機能も備えている踏切システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の踏切内の安全を確保するために監視を行う装置、及びその装置を備えた踏切システムに関する。
【背景技術】
【0002】
踏切内に進入した車両等が、脱輪等することで走行できない状態になり踏切内に留まっていることを検知して、上位装置等に発報することで列車の運行を停止させるような監視装置については、従来様々な技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所謂「開かずの踏切」と称されるような特定の踏切では、遮断棹が下降した後でも、歩行者が無理に通過しようとして踏切内に侵入することがある。すると、監視エリア内で人が検知されて、直ちに上位装置等に発報が行われる。これにより、システム構成によっては列車を緊急停止させるため、列車の安定した運行を妨げることになる。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、踏切内に侵入物を検知した際に、不要な発報を行うことを抑止できる踏切監視装置、及びその装置を備えた踏切システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の踏切監視装置によれば、発報制御部は、侵入物センサより入力されるセンサ信号に基づいて踏切内に侵入物が存在すると判定すると、緊急通報が必要とみなす条件を満たしている際に侵入物の存在を上位装置に発報する。尚、ここでの「侵入物」には動物等も含むものとする。このように構成すれば、発報制御部は、侵入物を認識しても、条件を満たさなければ上位装置に発報しないので、侵入物の存在が緊急性に繋がらない場合には不要な発報を行うことを抑制して、列車の安定運行に資することができる。
【0007】
請求項2記載の踏切監視装置によれば、発報制御部は、降下検知部が踏切の遮断棹が降下したことを検知したタイミングより早期警戒期間が経過していること条件とする。早期警戒期間は、侵入物の存在を検知しても発報を保留する期間である。すなわち、遮断棹が降下してから一定時間である早期警戒期間が経過した段階は、緊急性が高い状態にあるといえる。したがって、早期警戒期間の経過後に侵入物の存在を検知すれば、適切に発報が行われる。
【0008】
請求項3記載の踏切監視装置によれば、発報制御部は、早期警戒期間が経過する前の段階で侵入物が存在すると判定すると、当該侵入物が存在している時間の長さが発報保留期間を超えたことを条件とする。すなわち、早期警戒期間の経過前に侵入物の存在が検知されて、そのまま踏切内に留まっている状態が発報保留期間を超えるまで継続すれば、緊急性が高い状態にあるといえる。したがって、早期警戒期間内であっても、緊急性が高い状態に応じて適切に発報を行うことができる。
【0009】
請求項4記載の踏切監視装置によれば、侵入物センサに、間に監視エリアを挟んで基準物体にレーザ光を照射するレーザセンサを用いる。これにより、レーザセンサと基準物体との間に侵入物が介在すれば、レーザ光を照射することで検出されている基準物体が検出されなくなることで、侵入物を検知できる。
【0010】
請求項5記載の踏切システムは、遮断棹を昇降させる駆動部と、列車が踏切に接近していることを示す列車検知信号の入力状態に応じて、駆動部を制御する昇降制御部と、請求項1から4の何れか一項に記載の踏切監視装置とを備える。そして、踏切監視装置の発報制御部は、昇降制御部の機能も備える。このように構成すれば、遮断棹の昇降を制御する機能と、踏切を監視する機能とを統合して踏切システムを効率的に構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態であり、踏切システムの構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、踏切道1は、列車軌道の上り線2Uと下り線2Dとを横切る道路であり、上り線2U側には遮断機3Uが設置され、下り線2D側には遮断機3Dが設置されている。遮断機3は、遮断棹4と、その遮断棹4の基端側に配置された昇降機5とを備えている。昇降機5の駆動は、制御機器6により制御される。
【0013】
昇降制御部である制御機器6は、図示しない列車検知部からの列車検知信号を受信すると昇降機5を駆動して、通常は先端側を上昇させている遮断棹4を降下させて踏切道1を遮断する。そして、列車が踏切道1を通過すると再び昇降機5を駆動して、遮断棹4の先端側を上昇させ踏切道1を開放する。また、降下判定部としての制御機器6には、昇降機5より遮断棹4の降下を示す降下通知信号が入力される。この制御機器6は、踏切監視装置の発報制御部としての機能も備えている。
【0014】
図1中左上側にはレーザセンサ7Lが配置されており、その対角に当たる同右下側には、レーザセンサ7Rが配置されている。また、
図1中左側には、基準物体である3本の基準ポール8L1,8L2及び8L3が配置されており、同右側にも3本の基準ポール8R1,8R2及び8R3が配置されている。レーザセンサ7Lは、基準ポール8R1,8R2及び8R3を捉える範囲でレーザ光を周期的に照射し、レーザセンサ7Rは、基準ポール8L1,8L2及び8L3を捉える範囲でレーザ光を、例えば数10ms程度で周期的に照射する。レーザセンサ7と基準ポール8との間にある踏切道1の領域が、監視エリア9となっている。
【0015】
レーザセンサ7のセンサ信号は、制御機器6に入力されている。レーザセンサ7が、基準ポール8に照射したレーザ光を受光することで、基準ポール8までの距離値が計測される。監視エリア9内に車両等の侵入物が侵入して基準ポール8に照射したレーザ光が遮られると、上記の距離値が変化することで制御機器6は侵入物を検知できる。この詳細については特許文献1に開示されている。以上が踏切システム11を構成している。
【0016】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図2に示すように、制御機器6は、遮断棹4の降下又は図示しない踏切の警報器の鳴動が開始すると(S1;Yes)、発報禁止タイマの計時をスタートさせる(S2)。そして、発報禁止タイマがタイムアウトすると(S3;Yes)、早期警戒期間タイマの計時をスタートさせる(S4)。発報禁止タイマがタイムアウトするまでの時間は、遮断棹4の降下が完了するまで発報を禁止するために設定されている。
【0017】
続いて、制御機器6は、レーザセンサ7より入力されるセンサ信号によって、監視エリア9内に侵入物を検知したか否かを判断する(S5)。侵入物を検知していなければ(No)、早期警戒期間タイマがタイムアウトしたか否かを判断する(S6)。早期警戒期間タイマがタイムアウトする前に侵入物が検知;発見されると(S5;Yes)、発報保留タイマの計時をスタートさせる(S7)。そして、一旦検知した侵入物が検知されなくなったか;消失したか否かを判断する(S8)。
【0018】
ここで、
図4に示すように、踏切内の監視エリア9に車両が侵入すると、例えばレーザセンサ7Rと基準ポール8L2,8L3との見通しが遮られる状態になることで存在が検知される。尚、図示の状態から、車両の侵入が更に進めば、レーザセンサ7Lによっても同時に検知される。一方、
図5に示すように、監視エリア9に人が侵入した場合、人体の直径を20cm、歩行速度を4km/hとすると、人が基準ポール8を通過してレーザセンサ7からの見通しを遮る時間は0.18秒となる。
【0019】
ステップS8で侵入物が検知されていれば(No)、発報保留タイマ又は早期警戒期間タイマがタイムアウトしたか否かを判断する(S9)。何れのタイマもタイムアウトしていなければ(No)、この時点で基準ポール8の見通しが遮断されたか否かを判断する(S10)。見通しが遮断されていなければ(No)ステップS8に戻り、ここで侵入物が検知されなくなると(Yes)ステップS5に戻る。ステップS10で見通しが遮断されると(Yes)ステップS7に戻る。
【0020】
早期警戒期間タイマが計時中の間は、侵入物を検知しても直ぐに発報を行わずに一旦保留する。ここで保留する時間は、基準ポール8の直径や、近隣の環境に応じて想定される侵入者の移動速度等を考慮して踏切毎に設定する。保留中にステップS10で基準ポール8の見通しが遮断されると、踏切内を人や小動物等が移動している可能性があるので発報保留タイマをリスタートさせる。
【0021】
また、遮断棹4が頻繁に降下したり、降下時間が長い踏切では、遮断棹4が降下を開始しても踏切を通過しようとする歩行者が多数いることがあるため、その段階で発報を行わないように保留期間を設けている。更に、発報保留期間を設けることで、遮断棹4が降下した状態を通知する信号のタイミングのずれも吸収できる。
図4に示すように、対向1車線ずつの踏切では、車両の入口側の遮断棹4が先に、出口側の遮断棹4が後に降下する。この場合、先に降下を開始したタイミングで信号が制御機器6に入力されても、発報保留期間により後に降下を開始した遮断棹4が完全に降下するまでの時間を吸収して、誤報を抑止できる。尚、遮断棹4の降下通知信号が得られない踏切では、警報器を鳴動させる信号を代替して使用すれば良い。
【0022】
発報保留タイマ又は早期警戒期間タイマがタイムアウトすると(S6、S9;Yes)、ここでも侵入物が検知されたか否かを判断する(S11)。ここで「Yes」と判断すると、制御機器6は「侵入物あり」を上位装置に発報する(S12)。侵入物が検知されなければ(S11;No)、そのまま待機する。尚、発報保留タイマがタイマアウトするまでの時間が発報保留期間に相当する。また、早期警戒期間タイマがタイムアウトした場合には、即時発報期間に移行する。
【0023】
ステップS11で待機している間に、列車が踏切を通過して遮断棹4を上昇させると、「侵入物あり」を発報中か否かを判断し(S13)、発報中でなければ(No)ステップS1に戻る。発報中であれば(Yes)発報状態を解除する(S14)。上記の処理では、ステップS5で「Yes」、ステップS8で「No」の状態が継続していれば、早期警戒期間中であっても、発報保留タイマがタイムアウトすれば発報が行われる。また、ステップS5で「No」の状態が継続している間に早期警戒期間タイマがタイムアウトした後は、侵入物が検知された段階で即時発報が行われる。これらが、通報が必要とみなす条件である。尚、
図3は、
図2に示すフローチャートに対応した状態遷移図である。
【0024】
以上のように本実施形態によれば、制御機器6は、レーザセンサ7より入力されるセンサ信号に基づいて踏切内に侵入物が存在すると判定すると、緊急通報が必要とみなす条件を満たしている際に侵入物の存在を上位装置に発報する。このように構成すれば、侵入物の存在が緊急性に繋がらない場合に、不要な発報を行うことを抑制して、列車の安定運行に資することができる。
【0025】
具体的には、制御機器6は、遮断棹4が降下したことを検知したタイミングより早期警戒期間が経過していること条件とする。すなわち、遮断棹4が降下してから一定時間が経過した段階は、緊急性が高い状態にあるといえので、早期警戒期間の経過後に侵入物の存在を検知すれば、適切に発報を行うことができる。
【0026】
また、制御機器6は、早期警戒期間が経過する前の段階で侵入物が存在すると判定すると、当該侵入物が存在している時間の長さが発報保留期間を超えたことを条件とする。すなわち、早期警戒期間の経過前に侵入物の存在が検知されて、そのまま踏切内に留まっている状態が発報保留期間を超えるまで継続すれば、緊急性が高い状態にあるといえる。したがって、早期警戒期間内であっても、緊急性が高い状態に応じて適切に発報を行うことができる。
【0027】
これにより、例えば早期警戒期間内に、踏切内に侵入した小動物等が短時間で踏切を通過した場合等に、不要な発報を行うことを抑制できる。また、例えば早期警戒期間内に、踏切内で車両が脱輪したことで、侵入物を検知している時間の長さが発報保留期間以上になれば、直ちに必要な発報を行うことができる。
【0028】
本発明は上記した、又は図面に記載した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
遮断棹4の昇降を制御する制御部と、侵入物検知の発報を行う制御部とは別体で構成しても良い。
ステップS13に移行するトリガを、「侵入物消失」にしても良い。
侵入物センサはレーザセンサ7に限らない。
侵入物センサは、1つ又は3つ以上設置しても良い。
【符号の説明】
【0029】
図面中、1は踏切道、2Uは上り線、2Dは下り線、3は遮断機、4は遮断棹、5は昇降機、6は制御機器、7はレーザセンサ、8は基準ポール、11は踏切システムを示す。