(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119312
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】光ファイバ部材、光ファイバプローブ、接着加工部材の製造方法、筒状物の製造方法、及び、治具
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20230821BHJP
G01Q 60/22 20100101ALN20230821BHJP
【FI】
G02B6/44 341
G02B6/44 331
G02B6/44 301B
G01Q60/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022142
(22)【出願日】2022-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2021年(令和3年)12月9日に、「第40回法政大学イオンビーム工学研究所シンポジウム」の講演予稿集にて発表 (2)2021年(令和3年)12月9日に、「第40回法政大学イオンビーム工学研究所シンポジウム」の一般講演(ポスター発表)にて発表 (3)2021年(令和3年)12月9日に、「第40回法政大学イオンビーム工学研究所シンポジウム」の講演予稿集にて発表 (4)2021年(令和3年)12月9日に、「第40回法政大学イオンビーム工学研究所シンポジウム」の一般講演(ポスター発表)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100134728
【弁理士】
【氏名又は名称】奥川 勝利
(72)【発明者】
【氏名】村下 達
(72)【発明者】
【氏名】中田 穣治
(72)【発明者】
【氏名】星野 靖
(72)【発明者】
【氏名】関 裕平
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250BA05
2H250BA21
2H250BA32
2H250BB02
2H250BB26
2H250BC02
2H250BC11
2H250BC12
2H250BD13
2H250BD18
(57)【要約】
【課題】外径寸法精度や軸中心位置精度の高い光ファイバ部材を得ることを課題とする。
【解決手段】光ファイバ部材(光ファイバプローブ1)であって、光ファイバ(光ファイバ素管2)と、前記光ファイバを内部に収容する光ファイバ補強用の筒状部材(金属管3)と、前記筒状部材の内周面と前記光ファイバの外周面とを接着する接着材(ハンダ4)とを有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバと、
前記光ファイバを内部に収容する光ファイバ補強用の筒状部材と、
前記筒状部材の内周面と前記光ファイバの外周面とを接着する接着材とを有することを特徴とする光ファイバ部材。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバ部材において、
前記筒状部材は導電性部材であることを特徴とする光ファイバ部材。
【請求項3】
請求項2に記載の光ファイバ部材において、
前記筒状部材の主材料はニッケルであることを特徴とする光ファイバ部材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光ファイバ部材において、
前記接着材はハンダであることを特徴とする光ファイバ部材。
【請求項5】
請求項4に記載の光ファイバ部材において、
前記ハンダの主材料はインジウムであることを特徴とする光ファイバ部材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光ファイバ部材において、
前記筒状部材の厚みは150μm以上であることを特徴とする光ファイバ部材。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光ファイバ部材において、
前記筒状部材の内周面と前記光ファイバの外周面との間隔は100μm以下であることを特徴とする光ファイバ部材。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光ファイバ部材を備えることを特徴とする光ファイバプローブ。
【請求項9】
筒状部材の内部に挿通される被挿通部材を該筒状部材に接着材で接着した接着加工部材の製造方法であって、
前記被挿通部材における前記筒状部材の外部に露出する露出部分に液体状の接着材を付着させ、
前記液体状の接着材が付着した露出部分を前記筒状部材の内部に引き込むように前記被挿通部材を挿通方向に沿って移動させることにより、該筒状部材の内周面と該被挿通部材の外周面との隙間に該液体状の接着材を充填し、
前記筒状部材の内部に前記被挿通部材を挿通させた状態で前記液体状の接着材を固化させることを特徴とする接着加工部材の製造方法。
【請求項10】
筒状部材の内周面に液体を付着させる工程を経て製造される筒状物の製造方法であって、
前記筒状部材の内部に挿通される被挿通部材における該筒状部材の外部に露出する露出部分に前記液体を付着させ、
前記液体が付着した露出部分を前記筒状部材の内部に引き込むように前記被挿通部材を挿通方向に沿って移動させることにより、該筒状部材の内部に該液体を充填することを特徴とする筒状物の製造方法。
【請求項11】
液体を貯留する液体貯留部と、
筒状部材を保持する保持部と、
前記保持部と前記液体貯留部との間を連通する連通路とを有し、
前記連通路は、前記筒状部材を通さず、かつ、該筒状部材の内部に挿通される被挿通部材を前記液体貯留部内の液体が付着した状態で通すように構成されていることを特徴とする治具。
【請求項12】
請求項11に記載の治具であって、
前記保持部内及び前記液体貯留部内を前記液体の溶融温度以上に加熱する加熱手段を有することを特徴とする治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ部材、光ファイバプローブ、接着加工部材の製造方法、筒状物の製造方法、及び、治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光ファイバの外周面に金属被膜を被覆させた光ファイバプローブである導電透明プローブ(光ファイバ部材)が開示されている。この導電透明プローブは、固定板に取り付けられた状態で、金属被膜を通じて試料へ電流を流し、流した電流による試料の発光を光ファイバにより集光する。光ファイバプローブに求められる機械的剛性は、金属被膜の厚さによって調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の光ファイバ部材では、機械的剛性の低い光ファイバの補強部材として、光ファイバの周面に成膜した金属被膜を用いるため、光ファイバ部材に高い機械的剛性を付与するためには、厚みのある金属被膜を成膜する必要がある。しかしながら、厚みがあるほど均一な厚みの金属被膜を成膜することは困難となるため、外径寸法精度や軸中心位置精度の高い光ファイバ部材を得ることが難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、光ファイバ部材であって、光ファイバと、前記光ファイバを内部に収容する光ファイバ補強用の筒状部材と、前記筒状部材の内周面と前記光ファイバの外周面とを接着する接着材とを有することを特徴とするものである。
本光ファイバ部材は、機械的剛性の低い光ファイバの補強部材として、光ファイバを内部に収容する光ファイバ補強用の筒状部材を用いる。そして、この筒状部材の内周面と、当該筒状部材に挿通される光ファイバの外周面とを接着材で接着し、筒状部材を光ファイバに固定する。補強部材としての機械的剛性を確保できる筒状部材には、相応の厚みが必要となるが、光ファイバとは別個に作製される筒状部材であれば、厚みが厚くても、公知の製造方法により、高い外径寸法精度、高い軸中心位置精度を得ることが容易である。
ここで、本ファイバ部材を製造するにあたって最も問題となるのは、筒状部材の内周面と光ファイバの外周面との僅かな隙間(例えば数十μm)に対し、接着材を充填しなければならないことである。このような僅かな隙間に接着材を充填できるような方法としては、例えば、高い圧力を加えて接着材を当該隙間へ押し込んだり、高い吸引力により隙間へ接着材を引き込んだりする方法が考えられる。しかしながら、このような方法には、加圧や吸引のための複雑な機構や高価な機材が必要となり、コスト増大により現実的ではない場合が多い。そのため、より簡易な構成で、僅かな隙間に接着材を充填できる方法が求められる。本発明者らは、このような僅かな隙間に接着材を充填できる新たな方法を見出したため、光ファイバ補強用の筒状部材に光ファイバを接着材で接着した光ファイバ部材の実現に至ったものである。
【0006】
前記光ファイバ部材において、前記筒状部材は導電性部材であってもよい。
本光ファイバ部材によれば、筒状部材に電流を流すことが可能となるので、本光ファイバ部材を、試料に電流を流すとともに試料の光を光ファイバで集光する光ファイバプローブとして利用することができる。
【0007】
また、前記光ファイバ部材において、前記筒状部材の主材料はニッケルであってもよい。
本光ファイバ部材によれば、筒状部材における試料への電流を流す機能と機械的剛性の機能との両立が容易である。
【0008】
また、前記光ファイバ部材において、前記接着材はハンダであってもよい。
液体状のハンダは、筒状部材の内周面と光ファイバの外周面との僅かな隙間へ充填することが比較的容易であり、かつ、この隙間に充填したハンダを固化して接着させる作業もハンダを冷却するだけの作業で済むので比較的容易である。したがって、本光ファイバ部材は、製造が容易である。
【0009】
また、前記光ファイバ部材において、前記ハンダの主材料はインジウムであってもよい。
このインジウムを主材料とするハンダは、光ファイバの外周面を構成する一般的な材料(石英など)と筒状部材として好適に使用される金属との双方に対して濡れ性がよく、良好な接着性能を発揮することができる。
【0010】
また、前記光ファイバ部材において、前記筒状部材の厚みは150μm以上であってもよい。
本光ファイバ部材であれば、従来の金属被膜では高い外径寸法精度や軸中心位置精度を得ることが困難となる厚み150μm以上であっても、高い外径寸法精度や軸中心位置精度を出すことができる。
【0011】
また、前記光ファイバ部材において、前記筒状部材の内周面と前記光ファイバの外周面との間隔は100μm以下であってもよい。
本光ファイバ部材によれば、光ファイバの高い軸中心位置精度を実現することができる。
【0012】
また、本発明の他の態様は、上述した光ファイバ部材を備えた光ファイバプローブである。
これによれば、外径寸法精度及び軸中心位置精度の高い光ファイバプローブを提供することができる。
【0013】
また、本発明の更に他の態様は、筒状部材の内部に挿通される被挿通部材を該筒状部材に接着材で接着した接着加工部材の製造方法であって、前記被挿通部材における前記筒状部材の外部に露出する露出部分に液体状の接着材を付着させ、前記液体状の接着材が付着した露出部分を前記筒状部材の内部に引き込むように前記被挿通部材を挿通方向に沿って移動させることにより、該筒状部材の内周面と該被挿通部材の外周面との隙間に該液体状の接着材を充填し、前記筒状部材の内部に前記被挿通部材を挿通させた状態で前記液体状の接着材を固化させることを特徴とするものである。
筒状部材の内部に挿通される被挿通部材を筒状部材に接着材で接着した接着加工部材を製造する場合、筒状部材の内周面と被挿通部材の外周面との隙間に対して接着材を充填することが問題となる。例えば、光ファイバ等の被補強部材を補強するために、被補強部材の外周面に金属被膜等の補強用被膜を成膜することに代えて、筒状部材に被補強部材(被挿通部材)を挿通させる構成を採用する場合、筒状部材の内周面と被補強部材の外周面との隙間に対して接着材を充填しなければならないことが問題となる。
このような僅かな隙間に接着材を充填する方法としては、例えば、高い圧力を加えて接着材を当該隙間へ押し込んだり、高い吸引力により隙間へ接着材を引き込んだりする方法が考えられる。しかしながら、このような方法には、加圧や吸引のための複雑な機構や高価な機材が必要となり、コスト増大により現実的ではない場合が多い。
本製造方法においては、被挿通部材における筒状部材の外部に露出する露出部分に液体状の接着材を付着させ、この液体状の接着材が付着した露出部分を筒状部材の内部に引き込むように被挿通部材を挿通方向に沿って移動させる。この方法によれば、筒状部材の内周面と被挿通部材の外周面との隙間が狭くても、その隙間に液体状の接着材を引き入れて充填することができる。そして、このようにして筒状部材の内周面と被挿通部材の外周面との隙間に充填された液体状の接着材が挿通状態のまま固化することにより、筒状部材の内部に被挿通部材を挿通させた状態で、被挿通部材と筒状部材とが接着材により接着される。
本製造方法によれば、接着対象である被挿通部材を利用して、液体状の接着材を筒状部材の内部に引き入れるため、複雑な機構も高価な機材も不要である。したがって、簡易な構成で筒状部材の内周面と被挿通部材の外周面との隙間に接着材を充填できるので、上述した光ファイバ部材を含む当該接着加工部材を簡易に製造することができる。
【0014】
また、本発明の更に他の態様は、筒状部材の内周面に液体を付着させる工程を経て製造される筒状物の製造方法であって、前記筒状部材の内部に挿通される被挿通部材における該筒状部材の外部に露出する露出部分に前記液体を付着させ、前記液体が付着した露出部分を前記筒状部材の内部に引き込むように前記被挿通部材を挿通方向に沿って移動させることにより、該筒状部材の内部に該液体を充填することを特徴とするものである。
筒状部材の内周面に液体を付着させる工程を経て製造される筒状物を製造する場合、筒状部材の内周面で囲まれる中空部の断面積が小さいと、この筒状部材の内周面に液体を付着させることが、筒状部材の内周面と被挿通部材の外周面との隙間に対して接着材を充填する場合と同様に問題となる。すなわち、このような筒状部材の内周面に液体を付着させる方法としては、例えば、高い圧力を加えて液体を筒状部材の内部へ押し込んだり、高い吸引力により筒状部材の内部へ液体を引き込んだりする方法が考えられる。しかしながら、このような方法には、加圧や吸引のための複雑な機構や高価な機材が必要となり、コスト増大により現実的ではない場合が多い。
本製造方法においては、被挿通部材における筒状部材の外部に露出する露出部分に液体を付着させ、この液体が付着した露出部分を筒状部材の内部に引き込むように被挿通部材を挿通方向に沿って移動させる。これにより、筒状部材の内部断面積(内周面に囲まれた中空部の断面積)が小さくても、筒状部材の内部に液体を引き入れて充填することができる。
本製造方法によれば、液体を付着させた被挿通部材を挿通方向に沿って移動させることで液体を筒状部材の内部に引き入れるため、複雑な機構も高価な機材も不要である。したがって、簡易な構成で筒状部材の内周面に液体を付着させることができるので、上述した光ファイバ部材を含む当該筒状物を簡易に製造することができる。
【0015】
また、本発明の更に他の態様は、上述した接着加工部材の製造方法や筒状物の製造方法に使用可能な治具であって、液体を貯留する液体貯留部と、筒状部材を保持する保持部と、前記保持部と前記液体貯留部との間を連通する連通路とを有し、前記連通路は、前記筒状部材を通さず、かつ、該筒状部材の内部に挿通される被挿通部材を前記液体貯留部内の液体が付着した状態で通すように構成されていることを特徴とするものである。
本治具においては、治具の保持部に筒状部材を保持させた状態で、その筒状部材の内部に挿通させた被挿通部材の筒状部材外部に露出する露出部分を、連通路から液体貯留部内に位置させ、液体貯留部内の液体に接触させることができる。その後、被挿通部材を挿通方向に沿って移動させ、液体が付着した露出部分を連通路から筒状部材の内部へと引き込むことにより、筒状部材の内部に液体を引き入れて充填することができる。
本治具によれば、液体貯留部に液体を貯留させておき、筒状部材が治具の保持部に保持された状態で被挿通部材を挿通方向へ移動させるという単純な動作を行うだけで、筒状部材の内部に液体を引き入れて充填することができる。したがって、上述した接着加工部材の製造方法や筒状物の製造方法の実施を簡易に実現することができる。
【0016】
前記治具であって、前記保持部内及び前記液体貯留部内を前記液体の溶融温度以上に加熱する加熱手段を有するものである。
これによれば、保持部内の筒状部材と液体貯留部内の液体を液体状態で安定して貯留することができるので、例えば、治具の周辺温度下(例えば室温程度の温度下)では固化するような液体にも適用することが可能である。このような液体に適用できることで、例えば、筒状部材の内周面に液体を付着させた後、その筒状部材を治具から取り外すだけで、当該液体が固化した状態の物質を筒状部材の内周面に付着させることができる。あるいは、筒状部材の内周面と被挿通部材(接着対象)の外周面との隙間に液体状の接着材を付着させた後、その筒状部材及び被挿通部材を治具から取り外すだけで、当該接着材が固化して、被挿通部材と筒状部材との接着を完了することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、外径寸法精度や軸中心位置精度の高い光ファイバ部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態の光ファイバプローブが使用される光STM装置の内部構造を示す断面図。
【
図2】同光ファイバプローブを軸方向に沿って切断したときの断面図。
【
図3】同光ファイバプローブを軸方向に直交する面に沿って切断したときの断面図。
【
図4】同光ファイバプローブの製造方法に使用可能なハンダ付け用治具の内部構造を示す断面図。
【
図6】一変形例に係るハンダ付け用治具の内部構造を示す断面図。
【
図7】(a)~(c)は、同ハンダ付け用治具を用いて光ファイバプローブを製造する手順を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、光ファイバ部材としての光ファイバプローブ(光ファイバ探針)について適用した一実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、本実施形態では、光ファイバ部材として光ファイバプローブを例に挙げて説明するが、本発明は、光ファイバプローブに限らず、光ファイバを補強用の筒状部材の内部に収容し、筒状部材の内周面と光ファイバの外周面とを接着材で接着した構造を有する接着加工部材であれば、あらゆる光ファイバ部材に適用可能である。特に、本発明に係る光ファイバ部材は、従来、光ファイバの外周面に金属被膜等の補強用被膜を成膜して光ファイバを補強していた光ファイバ部材において好適に適用することができる。
【0020】
まず、本実施形態の光ファイバプローブ1が使用される装置の一例として、集光機能を備えた走査型トンネル顕微鏡(STM装置)である光STM装置の構成について説明する。
本実施形態の光STM装置100は、測定対象である試料あるいは試料内に埋設された構造内の光の波長より小さいナノメータサイズの極めて微小な領域(以下「ナノ領域」という)に光ファイバプローブ1の先端からトンネル電子を注入し、この注入した電子により生じた発光を光ファイバで集光して検出する測定装置である。光STM装置100によれば、発光の強度やスペクトル等の特性を測定し、あるいは、発光特性の空間分布を画像として計測することにより、測定対象である試料や試料内の構造のナノ領域の特性を高精度、高分解能で観測することができる。
【0021】
図1は、本実施形態の光ファイバプローブ1が使用される光STM装置100の内部構造の一例を示す断面図である。
本実施形態の光STM装置100は、密封測定室110内の試料ステージ111上に測定対象である試料200をセットして測定を行う。光STM装置100は、導電透明探針である光ファイバプローブ1をピエゾ素子等により駆動する探針駆動機構120を有し、光ファイバプローブ1は探針駆動機構120に対して着脱可能に取り付けられて使用される。また、光STM装置100は、冷却手段101、真空容器102、エルボ菅103、着脱自在な封止部材104,105、真空封止部材106なども備えている。
【0022】
エルボ菅103には、伝送用光ファイバ130が収容される。伝送用光ファイバ130の先端は、エルボ菅103の先端側に摺動自在に嵌め込まれた円錐台状の円錐凸形可動アンカースペーサ131を貫通して支持されている。伝送用光ファイバ130の後端側は、エルボ菅103の後端側のファイバ取り出し口103aに嵌め込まれた固定アンカースペーサ132を貫通して支持されている。また、エルボ菅103の先端には、探針駆動機構120に形成されたすり鉢状の円錐凹形心出し受座121が摺動可能に嵌め込まれている。伝送用光ファイバ130の円錐凸形可動アンカースペーサ131は、探針駆動機構120の円錐凹形心出し受座121に嵌合する。
【0023】
光ファイバプローブ1の基端1aは探針駆動機構120に固定される。光ファイバプローブ1の先端1bは、試料ステージ111上の試料200と対向するように配置される。光ファイバプローブ1、探針駆動機構120及び試料200は、密封測定室110に内張りされた冷却手段101に囲まれ、測定時に所定の低温まで冷却可能となっている。
【0024】
光ファイバプローブ1、探針駆動機構120、試料200及び冷却手段101は、表面汚染を防止するため、密封測定室110内に連通する真空排気装置300により超真空に保たれた真空容器102内に納められている。探針駆動機構120の周囲は、冷却効率の向上と試料表面汚染の低減のため、余剰の空間は非常に狭く、ほぼ密封状態となっている。
【0025】
光ファイバプローブ1の基端1aには、伝送用光ファイバ130の先端が対向するように隣接配置され、光ファイバプローブ1からの光は、伝送用光ファイバ130を通して真空容器102の外に設置された光分光器等の光処理装置301まで導かれる。伝送用光ファイバ130の先端は、重量があり軸対称形の円錐凸形可動アンカースペーサ131の軸心に保持されている。
【0026】
光ファイバプローブ1へのトンネル電流及び探針駆動機構120への駆動電流は、配線を設置したり、導電性のエルボ菅103を介して通したりして供給することができる。
【0027】
通常のSTM装置では、光ファイバを備えていない金属製のプローブ(探針)を用いるので、試料の発光を集光するにはプローブとは別個に設置した光学レンズあるいは集光ミラー(以下「レンズ等」という)で集光しなければならない。しかし、レンズ等を発光点のある試料近傍に設置することは困難なため、レンズ等は発光点から離れた遠方に設置しなくてはならず、集光効率が悪い。そのため、ナノ領域から放出される極めて微弱な光を計測に十分なほど集光するのは難しい。また、注入した電子は試料内で広範囲で拡散しその拡散領域全体で発光するが、レンズ等では広がった拡散領域全体からの光を受光してしまうので、集光の空間分解能が下がってしまう。
【0028】
これに対し、光ファイバプローブ1を用いる光STM装置100では、トンネル電子を放出するプローブに、光を集光する光ファイバが設けられている。このように、トンネル電子を放出する機能(導電性)と光を集光する機能(集光性)の両方を併せ持った光ファイバプローブ1を用いることで、ナノ領域からの光を高効率かつ高空間分解能で集光することができる。
【0029】
このような光ファイバプローブ1は、一般に、光ファイバの先端部を先鋭化し、その先鋭化部分の表面に透明導電膜を施すことにより実現できる。光ファイバプローブ1は、高効率かつ高空間分解能の光STM装置100を実現するためのキーデバイスである。
【0030】
光STM装置100では、探針駆動機構120により光ファイバプローブ1を垂直方向及び水平方向に対して微小移動させる。このような光STM装置100では、試料200との接触などにより光ファイバプローブ1の損傷や劣化が発生しやすいので、光ファイバプローブ1は交換可能に構成する必要がある。そのため、本実施形態の光STM装置100では、探針駆動機構120に対し、光ファイバプローブ1が着脱自在に取り付けられ固定される。
【0031】
光ファイバプローブ1や探針駆動機構120は超真空中に配置されるため、探針駆動機構120に光ファイバプローブ1を固定するためには、一般に、汚染ガスが出ない機械的なネジ止めが適している。具体的には、探針駆動機構120の探針ホルダに設けた穴に光ファイバプローブ1の基端1aを差し込んでネジ止めして固定する方法である。しかし、超真空中ではネジ留め作業が困難であるため、大気中で探針駆動機構120から取り外した探針ホルダに光ファイバプローブ1をネジ止めした後、これらを超真空中に導入し、探針駆動機構120に取り付ける。
【0032】
このようなネジ固定方式の場合、光ファイバプローブ1の長さはおよそ1cm~2cm程度の範囲が適している。光ファイバプローブ1の長さがこの数値範囲外であっても、もちろん使用可能ではあるが、光ファイバプローブ1がこの数値範囲よりも短いと、探針駆動機構120(探針ホルダ)への確実な固定が難しくなる。一方、光ファイバプローブ1がこの数値範囲よりも長いと、探針駆動機構120(ピエゾ素子)に加わる外力が大きくなったり、光ファイバプローブ1が機械的振動を受けやすくなったりして、動作精度が低下するといった不具合が生じるおそれがある。
【0033】
また、光ファイバプローブ1内の光ファイバがせん断力に対して極めて脆弱なので、僅かなせん断力が加わるだけで光ファイバが破断する。また、光ファイバは素線の状態では絶縁体であるため、光ファイバプローブ1として使用する場合には、光ファイバの先端を覆う透明導電膜までの電流経路を別途確保する必要がある。なお、ここでいう素線の状態とは、コアとクラッドのみからなる光ファイバの状態をいう。
【0034】
従来の光ファイバプローブは、光ファイバの外周面上に肉厚で硬質な金属被膜を成膜することで、金属被膜による機械的剛性の確保と電流経路の確保とを実現していた。しかしながら、この従来の光ファイバプローブの機械的剛性は、金属被覆の厚さに依存するため、必要な機械的剛性を得るには金属被覆を厚くする必要がある。
【0035】
具体例を挙げると、外径100μmの光ファイバにニッケルメッキにより金属被覆を成膜する場合、ニッケルメッキの外径を約400μm以上とすれば(すなわち、ニッケルメッキの厚みを150μm以上とすれば)、光ファイバプローブを探針駆動機構120(探針ホルダ)へ確実に固定することを可能にする固定力(例えば0.1Nmのネジ止め圧力)に耐えられる機械的剛性が得られる。すなわち、ネジの圧迫(固定力)をニッケルメッキの金属被覆が受け止めて、芯の光ファイバは固定力の影響を受けず光学特性が正常に保たれる。
【0036】
更に、外径100μmの光ファイバに対するニッケルメッキの外径を600μmとすれば、従来のSTM装置に用いられる金属探針の外径と同等であるため、従来のSTM装置における探針ホルダにも光ファイバプローブをセットできるという利点が生まれる。
【0037】
ところが、光ファイバの外周面に金属被膜を成膜した従来の光ファイバプローブにおいて、機械的剛性と導電性とを確保するには、種々の問題点がある。例えば、絶縁性の光ファイバ素線(例えば石英ファイバ)に金属被膜を成膜した光ファイバは、特殊な構造であるため、その点でコスト高であるなどの問題である。
【0038】
特に問題となるのは、光ファイバプローブの外径寸法精度や軸中心位置精度の確保である。すなわち、必要な機械的剛性を確保するためには相応の厚みの金属被膜を光ファイバの外周面上に成膜しなければならない。このとき、成膜される金属被膜の厚みが厚くなるほど、厚み精度、厚みの均一性を確保することが困難になる。例えば、金属メッキの場合、メッキ部分の電界分布を均一に制御することや、メッキ液の効力の経時変化を抑えることは困難であり、金属メッキの厚みが場所によってばらつくのを抑制することは難しい。
【0039】
そのため、金属被膜の厚みを必要な機械的剛性が得られる厚みまで厚くすると、厚み精度が低いことにより光ファイバプローブの外径寸法精度が悪くなるので、探針ホルダへの取り付け精度が悪くなる。具体的には、例えば、光ファイバプローブを探針ホルダに適正に固定するには、光ファイバプローブを探針ホルダの穴にまっすぐに入れる必要があるが、光ファイバプローブの軸方向全体にわたって厚み精度にばらつきがあると、適正な固定ができない。また、厚みの均一性が低いことにより光ファイバの位置が軸中心位置からずれて軸中心位置精度が悪くなるので、例えば伝送用光ファイバ130との位置ずれにより光伝送効率が悪くなる。
【0040】
加えて、金属被膜の成膜速度は遅いので、例えば150μm以上の厚みを得るには、長時間の加工時間を要し、生産性が悪いという問題もある。
【0041】
本実施形態における光ファイバプローブ1は、このような光ファイバの外周面に金属被膜等の補強用被膜を成膜して光ファイバを補強していた従来の光ファイバプローブの問題を解決し得るものである。
【0042】
以下、本実施形態における光ファイバプローブ1について説明する。
図2は、本実施形態における光ファイバプローブ1を軸方向に沿って切断したときの断面図である。
図3は、本実施形態における光ファイバプローブ1を軸方向に直交する面に沿って切断したときの断面図である。
【0043】
本実施形態における光ファイバプローブ1は、主に、光ファイバである光ファイバ素線2と、光ファイバ素線2を内部に収容する光ファイバ補強用の筒状部材としての導電性部材である金属管3と、金属管3の内周面と光ファイバ素線2の外周面とを接着する接着材としてのハンダ4とから構成されている。
【0044】
光ファイバプローブ1の先端1bは、トンネル電子の注入機能と集光機能とを得るために精密な円錐形状に加工され、その表面に導電透明薄膜が蒸着される。光ファイバプローブ1の基端1aは、平坦面になるように加工される。導電透明薄膜は、光ファイバプローブ1が探針駆動機構120の探針ホルダに装着されたときに、金属管3を介して探針駆動機構120の電流経路と電気的に接続される。
【0045】
光ファイバ素線2には、その外周面にカーボン被膜などの被膜が形成されていない、一般の石英ファイバ素線を使用することができる。ただし、光ファイバ素線2に代えて、光ファイバ素線の外周面にカーボン被膜などの被膜が形成された光ファイバを用いてもよい。この場合、本実施形態では、光ファイバ補強用の部材として金属管3を用いるので、光ファイバ素線の被膜には補強機能が求められないので、比較的厚みの薄い被膜で十分である。すなわち、本実施形態の光ファイバとして被膜が形成されたものを用いる場合、光ファイバの外径寸法精度や軸中心位置精度を高く確保できる程度の薄さで形成された被膜であるのが好ましい。
【0046】
一般に、光ファイバ素線2の外径は百μm程度~百数十μm程度であるため、本実施形態では、一例として、光ファイバ素線2として、外径が140μmである石英ファイバ素線を用いる例で説明する。なお、光ファイバ素線2の外径は、この数値範囲のものに限定されるものではない。
【0047】
金属管3は、ニッケルを主材料とした、外径が600μmである円筒状部材である。金属管3の外径が600μmであれば、光ファイバプローブ1の外径をSTM装置の探針として一般的な外径である600μmとすることができる。
【0048】
金属管3は、光ファイバ素線2を補強するための補強用部材としての機能を有する。一般に、光ファイバプローブ1は、上述したように、光STM装置100の探針ホルダに取り付けられて使用されるため、探針ホルダへの光ファイバプローブ1の固定力や振動などの外力から、機械的剛性の低い光ファイバ素線2を保護するための補強用部材が必要である。金属管3は、この補強用部材としての機能を発揮できる程度の機械的剛性を有するものであれば、その材料はニッケルに限らず、他の金属であってもよいし、樹脂などの他の材料であってもよい。
【0049】
ただし、金属管3は、導電性を有することで、従来の光ファイバプローブの金属被膜と同じく、トンネル電子を試料に注入するための電流を流す電流経路として使用することができる。
【0050】
また、金属管3の厚みは、光ファイバプローブ1の外径寸法精度や軸中心位置精度を確保できる範囲で、適宜設定することができ、150μm以上の厚みを有するのが好ましい。このサイズの金属管3は、光ファイバ素線2とは別個に作製されるため、厚みが厚くても、既存の金属管により、高い外径寸法精度、高い軸中心位置精度のものを得ることができる。また、150μm以上の厚みを有する金属管3であれば、光ファイバプローブに必要とされる機械的剛性を十分に確保することができる。本実施形態の光ファイバプローブ1の金属管3によれば、外径寸法精度や軸中心位置精度の高い光ファイバプローブ1を実現しつつ機械的剛性を確保できる。
【0051】
また、金属管3の内周面は、光ファイバ素線2の外周面との間隔が100μm以下となるように形成するのが好ましい。金属管3の内周面と光ファイバ素線2の外周面との間隔が100μmを超えると、光ファイバ素線2の高い軸中心位置精度を実現することが困難となるためである。より好ましくは、金属管3の内周面と光ファイバ素線2の外周面との間隔が数十μm以下とする。
【0052】
ハンダ4は、金属管3の内周面と光ファイバ素線2の外周面とを接着する接着材として機能する。本実施形態のように、光ファイバ素線2の外周面を構成する石英と金属管3の内壁面を構成するニッケルとの双方に対して濡れ性がよく、良好な接着性能を発揮できる点で、ハンダ4はインジウムを主材料とするものが好ましい。
【0053】
なお、ハンダ4に代えて、他の接着材を用いてもよい。接着材は、接着対象となる光ファイバの外周面と筒状部材の内周面との両方に対して良好な接着性能を発揮できる点を考慮して、適宜選択される。
【0054】
本実施形態の光ファイバプローブ1においては、同一外径のニッケルメッキ(金属被膜)を成膜した従来の光ファイバプローブとほぼ同程度の機械的剛性を持ち、例えばペンチでやっと曲がるほど硬くなる。そのため、確実な固定を実現するために光ファイバプローブ1を探針駆動機構120の探針ホルダにしっかりと装着しても、せん断応力等の外力を金属管3で受け止めて、内部の光ファイバ素線2は外力の影響を受けず光学特性が正常に保たれる。
【0055】
また、本実施形態の光ファイバプローブ1は、光STM装置100で使用される際、室温と液体窒素温度の極低温との間で繰り返し使用されるが、このような場合の熱ストレスに対しても十分な耐性を発揮できる。また、真空を汚染する材料を含まないので、超真空中でもガス放出がなく、光STM装置100の清浄な真空が保たれる。
【0056】
また、金属管3は、種々の太さと長さのものを、高い外径寸法精度、高い軸中心位置精度で容易に作成することができる。そのため、本実施形態の光ファイバプローブ1のように、外径が限られている光ファイバ素線2を金属管3に挿通した構成を有することで、光ファイバプローブとして要求される種々の外径寸法をもつ光ファイバプローブを容易に実現することができる。その結果、例えば、既存のSTM装置に使用される金属探針と外径を一致させることにより、同一の探針ホルダで光ファイバプローブと金属探針の両方を共用することも実現可能になる。
【0057】
次に、上述した光ファイバプローブ1の製造方法について説明する。
本実施形態における光ファイバプローブ1は、光ファイバ素線2を金属管3の内部に挿通した状態で光ファイバ素線2の外周面と金属管3の内周面との間をハンダ4で接着することにより製造することができる。
【0058】
図4は、本実施形態の光ファイバプローブ1の製造方法に使用可能なハンダ付け用治具10の内部構造を示す断面図である。
図5は、
図4中符号Aで囲った領域の拡大図である。
【0059】
本実施形態の治具10は、主に、液体状のハンダ4(液体)を貯留する液体貯留部としてのハンダ貯留部11と、金属管3を保持する保持部としての金属管設置穴12と、ハンダ貯留部11と金属管設置穴12との間を連通する連通路であるハンダ削り取り穴13とから構成されている。
【0060】
また、治具10には、金属管設置穴12及びハンダ削り取り穴13が形成された上部金属ブロック14Aと、ハンダ貯留部11が形成された下部金属ブロック14Bとを備えている。下部金属ブロック14Bは、ハンダ貯留部11が開口しており、上部金属ブロック14Aがハンダ貯留部11の蓋になる構造となっている。上部金属ブロック14A及び下部金属ブロック14Bは、熱伝導率が高く、それぞれほぼ同じ外径をもつ円柱形状の外形を有し、その周囲には加熱手段としての円筒状のヒータ15が配置されている。
【0061】
ヒータ15が上部金属ブロック14Aを加熱することで、金属管設置穴12に設置される金属管3が加熱される。また、ヒータ15が下部金属ブロック14Bを加熱することで、ハンダ貯留部11に貯留されるハンダ4の溶融温度以上までハンダ4が加熱される。
【0062】
金属管設置穴12は、その深さが金属管3の長さよりわずかに短く形成されている。これにより、金属管設置穴12に金属管3を保持させたとき、金属管3の上部が金属管設置穴12から露出した状態にすることができる。よって、金属管3を金属管設置穴12から取り出す際に、金属管3の上部を把持して持ち上げるという簡単な動作で、金属管3を金属管設置穴12から取り出すことができる。なお、金属管設置穴12からの金属管3の露出量が大きいと、金属管3の露出部分が上部金属ブロック14Aからの熱による加熱が不十分になる場合がある。この場合、後述するように液体状のハンダ4を金属管3の内部へ引き込むにあたり、液体状のハンダ4の粘性が高まって、液体状のハンダ4の引き込みが適切に行われないおそれがある。したがって、金属管設置穴12からの金属管3の露出量は、金属管3を把持可能な範囲内でなるべく短くするのが好ましく、例えば1mm以上2mm以下の範囲内とするのが好ましい。
【0063】
また、金属管設置穴12の内径(直径)は、金属管3の外径よりもわずかに大きい程度(例えば数十μm以下)に形成されるのが好ましい。金属管設置穴12の内径が金属管3の外径に対して大きすぎると、上部金属ブロック14Aから金属管3への熱の伝導が難しくなる。この場合、後述するように液体状のハンダ4を金属管3の内部へ引き込むにあたり、液体状のハンダ4の粘性が高まって、液体状のハンダ4の引き込みが適切に行われないおそれがある。
【0064】
また、金属管設置穴12の内径が金属管3の外径に対して大きすぎると、金属管設置穴12の中で金属管3の傾きが大きくなるので、後述するように金属管3の内部を挿通させた光ファイバ素線2をハンダ削り取り穴13に通すことが阻害される。
【0065】
本実施形態では、金属管設置穴12の底部に、金属管設置穴12の内径よりも小さい内径をもつハンダ削り取り穴13が互いに同軸となるように開口している。このハンダ削り取り穴13の内径は、金属管3の外径よりも狭く、光ファイバ素線2の外径よりも広い。金属管設置穴12の底部は、
図4及び
図5に示すように、ハンダ削り取り穴13に向かって先細るように形成されている。これにより、金属管3の内部を上方から挿通させた光ファイバ素線2の先端がハンダ削り取り穴13から外れていても、金属管設置穴12の底部に接触してハンダ削り取り穴13へ案内される。
【0066】
ハンダ削り取り穴13は、下部金属ブロック14Bに形成されたハンダ貯留部11の上方に連通している。上部金属ブロック14Aには、ハンダ削り取り穴13及び金属管設置穴12とは別に、ハンダ貯留部11から治具外部まで貫通した空気抜き穴16が設けてある。これは、ハンダ削り取り穴13や金属管設置穴12がハンダ4などにより塞がってしまった場合に、ハンダ貯留部11の内部圧力の上昇を防ぐためである。
【0067】
また、上部金属ブロック14Aの金属管設置穴12の近傍には、温度検知手段としての熱電対17が取り付けられている。熱電対17は、温度制御部20に接続されており、温度制御部20は、熱電対17の温度検知結果に基づいて金属ブロック14A,14Bの外周に巻かれたヒータ15の温度制御を行う。
【0068】
なお、本実施形態の治具10では、ハンダ貯留部11が円柱形状となっているが、これに限らず、例えば
図6に示すように、ハンダ貯留部11の下部の体積を小さくした形状としてもよい。この場合、ハンダ貯留部11の上部は、ハンダ削り取り穴13や空気抜き穴16がハンダ貯留部11に連通するために広く開口しつつも、ハンダ貯留部11の下部の体積を小さくして、収容するハンダ4の量を少なく抑えることができる。これにより、ハンダ4を液体状態に維持するための熱エネルギーを少なく抑えることができる。
【0069】
次に、上述した治具10を用いて光ファイバプローブ1を製造する手順について説明する。
まず、治具10の下部金属ブロック14Bの上方に位置する上部金属ブロック14Aを取り外して、下部金属ブロック14Bのハンダ貯留部11を露出させ、このハンダ貯留部11にハンダ4を適量入れる。その後、下部金属ブロック14Bの上方に上部金属ブロック14Aを戻し、円筒状のヒータ15に電流を流して治具10の金属ブロック14A,14Bを加熱する。
【0070】
そして、温度制御部20により、熱電対17の温度検知結果に基づいてヒータ15の温度制御がなされ、ハンダ貯留部11内のハンダ4が十分に溶融する目標温度まで加熱されて維持される。本実施形態のハンダ4の主材料であるインジウムの溶融温度は約150℃であることと、高温による光ファイバ素線2の損傷を防止することとを考慮して、目標温度は例えば200℃以上300℃以下の範囲内に設定するのが好ましい。
【0071】
次に、金属管3よりも長くて治具10のハンダ貯留部11まで届く長さに切り出した光ファイバ素線2を金属管3へ挿入し、その状態の金属管3を治具10の金属管設置穴12に上方から挿入する。このとき、
図7(a)に示すように、金属管設置穴12の底部には金属管3の外径よりも小さいハンダ削り取り穴13が設けられているため、金属管設置穴12の底部で金属管3は止まり、光ファイバ素線2のみがハンダ削り取り穴13を通過して、下方のハンダ貯留部11内のハンダ4(溶融して液体状になっているハンダ)に到達する。この挿入時において、金属管設置穴12の底部がハンダ削り取り穴13に向かって先細り形状となっているため、光ファイバ素線2は金属管設置穴12の底部に引っ掛からずにハンダ削り取り穴13へ案内され、挿入作業が容易である。
【0072】
ハンダ貯留部11内に入った部分(金属管3の外部に露出している露出部分)の光ファイバ素線2の外周面には、溶融した液体状のハンダ4が付着する。
図7(b)に示すように、このハンダ4が付着した状態で光ファイバ素線2を引き上げると、光ファイバ素線2とともにその外周面に付着したハンダ4がハンダ削り取り穴13を通って金属管設置穴12内の金属管3の内部に引き込まれる。
【0073】
このとき、ハンダ削り取り穴13によって光ファイバ素線2の外周面に付着したハンダ4の余剰分の多くが削り落される。これにより、金属管3の内部に引き込まれたハンダ4が光ファイバ素線2の外周面と金属管3の内周面との間の微小な隙間から溢れ出る量を抑制することができる。
【0074】
光ファイバ素線2のハンダ付着部分が金属管3の内部を通過するまで光ファイバ素線2を引き上げると、金属管3の内周面の一部又は全部の領域においてハンダ4が付着した状態になり、光ファイバ素線2の外周面と金属管3の内周面との隙間にハンダ4が充填される。通常は1回通過させれば、十分な量のハンダ4が光ファイバ素線2の外周面と金属管3の内周面との隙間に充填される。しかし、もし1回の通過ではハンダ4の充填量が不十分な場合や、気泡の混入などが生じた場合などにおいては、引き続き数回にわたって光ファイバ素線2を上下に往復させることにより、十分な量のハンダ4を充填することができる。
【0075】
このようにして、十分な量のハンダ4を光ファイバ素線2の外周面と金属管3の内周面との隙間に充填した後、金属管設置穴12の上方に露出した金属管3の部分を把持して治具10の金属管設置穴12から取り外す。このとき、ハンダ4は未だ溶融した液体状態であるが、ハンダ4の粘性により光ファイバ素線2は金属管3に保持された状態で、金属管3とともに取り出される。その後、自然に冷却されることで、光ファイバ素線2と金属管3とが強固にハンダ付け(接着)される。
【0076】
その後、互いに接着された光ファイバ素線2と金属管3との一端側(例えば治具10にセットされたときの下端側)を切断処理して、光ファイバプローブ1の長さに加工するとともに、当該一端側の切断面を平坦面になるように加工する。一方、他端側(例えば治具10にセットされたときの上端側)は、先鋭化処理を行った後、透明導電膜を形成する。なお、ハンダ付け作業前に光ファイバ素線2の他端側の先鋭化処理を行ってもよい。以上のようにして、光ファイバプローブ1が製造される。
【0077】
本実施形態によれば、光ファイバの外周面に金属被膜を成膜した従来の光ファイバプローブよりも、外径寸法精度や軸中心位置精度の高い光ファイバプローブ1を提供することができる。これは、製造後の光ファイバプローブ1の外形寸法や軸中心位置は、金属管3の寸法精度で決まるところ、このサイズの金属管3は既存のもので非常に高い寸法精度を得ることができるためである。
【0078】
筒状部材である金属管3の内部に被挿通部材である光ファイバ素線2を挿通して接着材であるハンダ4で接着した光ファイバプローブ1(接着加工部材)を製造するにあたっては、金属管3の内周面と光ファイバ素線2の外周面との僅かな隙間にハンダ4を充填することが問題となる。このような僅かな隙間にハンダ4を充填する方法には、例えば、高い圧力を加えたり高い吸引力を加えたりして隙間へハンダ4を引き込む方法が考えられるが、この方法では加圧や吸引のための複雑な機構や高価な機材が必要となり、コスト増大により現実的ではない場合が多い。
【0079】
本実施形態では、接着対象である光ファイバ素線2にハンダ4を付着させて金属管3の内部に引き込むという方法を採用するため、治具10のような簡易な機構さえあれば実現でき、複雑な機構も高価な機材も不要である。
【0080】
しかも、本実施形態によれば、一連のハンダ付け作業(光ファイバ素線2と金属管3との接着作業)は、長くても数分以内に完了することができる。したがって、光ファイバの外周面に金属被膜を成膜した従来の光ファイバプローブのように金属メッキ作業が必要となる場合と比べて、作業時間が大幅に短縮される。
【0081】
なお、本実施形態では、接着加工部材として光ファイバプローブ1を例に挙げて製造方法を説明したが、本発明における接着加工部材の製造方法は、光ファイバプローブ1以外の接着加工部材にも適用可能である。すなわち、本発明の製造方法は、筒状部材の内部に挿通される被挿通部材を筒状部材に接着材で接着した接着加工部材であれば、例えば筒状部材の内部に挿通される被挿通部材が光ファイバ以外の部材であっても、同様に適用可能である。
【0082】
また、本実施形態において、筒状部材である金属管3の内周面に液体であるハンダ4を付着させるハンダ付け工程において、ハンダ4を金属管3の内部に引き込むための被挿通部材が接着対象である光ファイバ素線2である例で説明したが、本発明における筒状物の製造方法はこれに限られない。すなわち、本発明における筒状部材の内周面に液体を付着させた筒状物の製造方法では、筒状部材の内部に引き込まれる液体は、ハンダ4などの接着材でなくてもよく、筒状部材の内周面に付着させたい液体であれば特に制限されるものではない。また、筒状部材の内部に液体を引き込むための被挿通部材も、筒状部材に接着される接着対象である必要はなく、単に筒状部材の内部に液体を引き込むための部材であればよい。
【符号の説明】
【0083】
1 :光ファイバプローブ
1a :基端
1b :先端
2 :光ファイバ素線
3 :金属管
4 :ハンダ
10 :治具
11 :ハンダ貯留部
12 :金属管設置穴
13 :ハンダ削り取り穴
14A :上部金属ブロック
14B :下部金属ブロック
15 :ヒータ
16 :空気抜き穴
17 :熱電対
20 :温度制御部
100 :光STM装置
101 :冷却手段
102 :真空容器
103 :エルボ菅
103a :ファイバ取り出し口
104 :封止部材
105 :封止部材
106 :真空封止部材
110 :密封測定室
111 :試料ステージ
120 :探針駆動機構
121 :円錐凹形心出し受座
130 :伝送用光ファイバ
131 :円錐凸形可動アンカースペーサ
132 :固定アンカースペーサ
200 :試料
300 :真空排気装置
301 :光処理装置