(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119334
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】ボールねじ及びそれを用いた工作機械
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20230821BHJP
【FI】
F16H25/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022182
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】武富 樹林
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA21
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA22
3J062CD04
3J062CD49
3J062CD60
(57)【要約】
【課題】多条のねじ溝を備えたねじ軸とナットの間に適切な予圧量を付与することにより、高剛性を確保できるボールねじ及びそれを用いた工作機械を提供する。
【解決手段】外周面に多条の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記外周ねじ溝に対向して多条の内周ねじ溝が形成されたナットと、対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、を有するボールねじは、少なくとも1条の前記外周ねじ溝は、前記ねじ軸における第1の領域と、前記第1の領域に対して前記ねじ軸の軸方向に配置された第2の領域とで、リードが同じであり、少なくとも1条の前記外周ねじ溝は、前記第1の領域と前記第2の領域とで、リードが異なる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に多条の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記外周ねじ溝に対向して多条の内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
を有するボールねじであって、
少なくとも1条の前記外周ねじ溝は、前記ねじ軸における第1の領域と、前記第1の領域に対して前記ねじ軸の軸方向に配置された第2の領域とで、リードが同じであり、
少なくとも1条の前記外周ねじ溝は、前記第1の領域と前記第2の領域とで、リードが異なる、ことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記ナットの前記内周ねじ溝のリードは、前記第1の領域における前記外周ねじ溝のリードに等しいことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記内周ねじ溝のリードは、前記第1の領域および前記第2の領域における前記外周ねじ溝のリードとは異なることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項4】
請求項2または3に記載のボールねじを用いた工作機械であって、
前記ナットの前記内周ねじ溝が、前記第2の領域の前記外周ねじ溝に対向するときに、ワークの加工を行うことを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ及びそれを用いた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、ボールねじやリニアガイド等の直動装置が使用されているが、加工精度を高めるためには、直動装置の高剛性を確保する必要がある。
【0003】
一般的に、ボールねじは、ナットとねじ溝との間のバックラッシを抑制することが容易であり、それにより高剛性を確保できるという利点がある。ボールねじのバックラッシを抑制するために、軸方向すきまを小さく抑えるという手法が通常用いられるが、そのためにナットとねじ溝との間に予圧を付与することが行われる。一方、予圧を付与すると、加工後の早送りの際に発熱が大きくなってしまい、軸が伸びて良好な加工精度が維持できない可能性がある。
【0004】
特許文献1には、ねじ軸の外周面に形成された転動体転動溝のリード、若しくはねじ軸側の転動体ピッチ円径を連続的または部分的に変化させて、ねじ軸とナットとの間に予圧を付与するボールねじが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す技術は、ねじ軸とナットの間における予圧を調整して、剛性や精度を高める必要がある部分のみに予圧を生じさせることを図っている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す技術は、1条ねじのボールねじを対象としたものであり、多条ねじのボールねじに適用することは困難である。さらに、特許文献1に示すボールねじにおいては、リードが異なる領域では、ねじ軸1回転当たりのナットの移動量が変化してしまうため、リードの変化に合わせて、ねじ軸回転量を調整しなくてはならず、扱いにくいという問題もある。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、多条のねじ溝を備えたねじ軸とナットの間に適切な予圧量を付与することにより、高剛性を確保できるボールねじ及びそれを用いた工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のボールねじは、
外周面に多条の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記外周ねじ溝に対向して多条の内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
を有するボールねじであって、
少なくとも1条の前記外周ねじ溝は、前記ねじ軸における第1の領域と、前記第1の領域に対して前記ねじ軸の軸方向に配置された第2の領域とで、リードが同じであり、
少なくとも1条の前記外周ねじ溝は、前記第1の領域と前記第2の領域とで、リードが異なる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多条のねじ溝を備えたねじ軸とナットの間に適切な予圧量を付与することにより、高剛性を確保できるボールねじ及びそれを用いた工作機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は、第1の実施形態にかかるボールねじのねじ軸の側面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態にかかるボールねじのねじ軸を、ナットの概略断面とともに示す側面図である。
【
図4】
図4は、第2の実施形態にかかるボールねじのねじ軸を、ナットの概略断面とともに示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態において、「多条ねじ」とは、1ピッチ間にN条(ただしNは2以上の整数)のねじ溝が形成され、1条ねじと比較してリード(1回転で進む距離)がN倍となるものをいう。ここでは、2条ねじを例にとって説明するが、2条ねじに限定されることはない。
【0013】
図1は、本実施形態にかかるボールねじ100の斜視図である。
ボールねじ100は、ねじ軸11と、ねじ軸11の周囲に配置されるナット13と、複数のボール15と、を備える。
【0014】
ねじ軸11の外周面には、螺旋状の外周ねじ溝17A,17Bが形成される。外周ねじ溝17A,17Bは、多条(図示例では2条)のねじ溝である。
【0015】
ナット13は、ねじ軸11の周囲に配置される。ナット13の内周面には、1周未満の周長で螺旋状に形成された内周ねじ溝19A及び19Bと、これら内周ねじ溝19A,19Bの両端がそれぞれ連結される循環溝(不図示)と、を有する。
【0016】
内周ねじ溝19Aは、ねじ軸11の外周ねじ溝17Aに対応して形成され、内周ねじ溝19Bは、ねじ軸11の外周ねじ溝17Bに対応して形成される。内周ねじ溝19A,19Bと外周ねじ溝17A,17Bとは、それぞれボール15の半径程度の深さに形成される。外周ねじ溝17A,17Bと内周ねじ溝19A,19Bとにより形成される転動路内には、複数のボール15が収容される。
【0017】
内周ねじ溝19Aの両端が循環溝と連結されることで、一本の閉じられた環状の転動溝が形成される。同様に、内周ねじ溝19Bの両端が循環溝と連結されることで、一本の閉じられた環状の転動溝が形成される。つまり、ナット13は、環状に形成された転動溝を複数有する。
【0018】
内周ねじ溝19A及び循環溝からなる転動溝と、外周ねじ溝17Aとの間には、複数のボール15が転動自在に収容される循環回路が画成される。また、内周ねじ溝19B及び循環溝からなる転動溝と、外周ねじ溝17Bとの間にも、複数のボール15が転動自在に収容される循環回路が画成される。
【0019】
ナット13に対するねじ軸11の相対的な回転に伴って、複数のボール15が循環回路内を循環することによって、ナット13をねじ軸11に対してねじ軸11の軸方向に相対的に直線運動させることが可能となる。
【0020】
[第1の実施形態]
図2は、第1の実施形態にかかるボールねじ100のねじ軸11の側面図であるが、一部ねじ溝のピッチを誇張して示している。
図3は、本実施形態にかかるボールねじ100のねじ軸11を、ナット13の概略断面とともに示す側面図である。
【0021】
図2に示すように、ねじ軸11の軸方向に沿って、境界BDを基点に領域C(第1の領域)と領域P(第2の領域)と、が隔てられている。領域Cにおける外周ねじ溝17A、17BのリードはLであり、ねじ溝のピッチはL/2である。これに対し、領域Pにおける外周ねじ溝17Aのリードは(L-d)であるが、外周ねじ溝17BのリードはLのままである。なお、dは、0以外の値であって、正値に限られず負値であってもよい。
【0022】
これに対し、ナット13の内周ねじ溝19A,19BのリードはLであり、ねじ溝のピッチはL/2である。
【0023】
本実施形態のボールねじ100によれば、ナット13がねじ軸11の領域Pに位置する状態では、外周ねじ溝17BのリードLはナット13の内周ねじ溝19BのリードLと等しい一方、外周ねじ溝17Aのリード(L-d)はナット13の内周ねじ溝19AのリードLと異なるため、
図3に示すようにボール15を介して、ねじ溝のリード差に応じた予圧(条間オフセット予圧という)Fa0が、ねじ軸11とナット13との間に付与される。これにより、ナット剛性が増加し、位置決め精度が向上する。
【0024】
したがって、本実施形態のボールねじ100を工作機械に適用した場合、ナット13がねじ軸11の領域Pに位置する状態(領域Pの外周ねじ溝17A、17Bが、内周ねじ溝19A,19Bにそれぞれ対向する状態)でワークの加工を行うことで、高精度な加工処理を実現できる。
【0025】
一方、ナット13がねじ軸11の領域Cに位置する状態(すなわちナット13がねじ軸11の領域Pに位置しない状態)では、外周ねじ溝17A、17BのリードLと、内周ねじ溝19A,19BのリードLとが等しくなるため、条間オフセット予圧Fa0が消失し、ナット13の移動時における摩擦熱を軽減できる。
【0026】
したがって、本実施形態のボールねじ100を工作機械に適用した場合、ナット13がねじ軸11の領域Cに位置する状態(領域Cの外周ねじ溝17A、17Bが、内周ねじ溝19A,19Bにそれぞれ対向する状態)で、例えばナット13の早送り動作等を実現でき、トータルの加工時間の短縮化を図れる。なお、領域C及び領域Pにおいて、外周ねじ溝17BのリードLは一定であるため、いずれの領域においても、ねじ軸11の回転に対するナット13の送り量を不変とすることができる。
【0027】
[第2の実施形態]
図4は、第2の本実施形態にかかるボールねじ100のねじ軸11を、ナット13の概略断面とともに示す側面図である。本実施形態においては、第1の実施形態に対してナット13のみが異なる。
【0028】
図4に示すように、ねじ軸11の軸方向に沿って、境界BDを基点に領域Cと領域Pとが隔てられている。本実施形態においても、領域Cにおける外周ねじ溝17A、17BのリードはL(ねじ溝のピッチはL/2)である。一方、領域Pにおける外周ねじ溝17Aのリードは(L-d)であるが、外周ねじ溝17BのリードはLである。
【0029】
これに対し、ナット13の内周ねじ溝19A,19Bのリードは(L+d)であり、ねじ溝のピッチは(L+d)/2である。すなわち、ナット13の内周ねじ溝19A,19Bのリード(L+d)は、領域Cにおける外周ねじ溝17A、17BのリードL、並びに領域Pにおける外周ねじ溝17Aのリード(L-d)及び外周ねじ溝17BのリードLと異なる。
【0030】
本実施形態のボールねじ100によれば、ナット13がねじ軸11の領域Cに位置する状態では、外周ねじ溝17A、17BのリードLと、内周ねじ溝19A,19Bのリード(L+d)が異なるため、
図4に示すようにボール15を介して、ねじ溝のリード差に応じた条間オフセット予圧Fa1が、ねじ軸11とナット13との間に付与される。
【0031】
さらにナット13がねじ軸11の領域Pに位置する状態では、外周ねじ溝17Aのリード(L-d)と、内周ねじ溝19Aのリード(L+d)と、のリード差がさらに大きく異なるため、
図4に示すようにボール15を介して、領域Cにおける条間オフセット予圧Fa1より大きな条間オフセット予圧Fa2が、ねじ軸11とナット13との間に付与される。これにより、ナット剛性をさらに増加させることができる。
【0032】
なお、3条以上の外周ねじ溝を有するねじ軸を含むボールねじの場合、領域Cにおいて、例えば3条の外周ねじ溝のリードを共通にLとしたときは、領域Pにおいて、少なくとも1条の外周ねじ溝のリードをLとし、残りの外周ねじ溝のリードを(L-d)とする。かかる場合、2条以上の外周ねじ溝のリードを(L-d)とする位置は、軸方向において同じでもよいし、異ならせてもよい。
【0033】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。例えば、本発明は循環コマ式ボールねじ、チューブ式ボールねじ、デフレクタ式ボールねじ、エンドキャップ式ボールねじなど、種々のボールねじに適用できる。
【符号の説明】
【0034】
100 ボールねじ
11 ねじ軸
13 ナット
17A,17B 外周ねじ溝
19A,19B 内周ねじ溝