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  • -電解コンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119336
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/055 20060101AFI20230821BHJP
   H01G 9/035 20060101ALI20230821BHJP
   H01G 9/10 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
H01G9/055 105
H01G9/035
H01G9/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022184
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】前田 理帆グミラール
(72)【発明者】
【氏名】末松 俊造
(72)【発明者】
【氏名】黒田 宏一
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】冨永 誠
(57)【要約】
【課題】電解液中の塩基成分の減少を更に抑制することで、ESRの増大が抑制された電解コンデンサを提供する。
【解決手段】電解コンデンサは、陽極箔、陰極体、コンデンサ素子及び電解液を備える。陽極箔は誘電体酸化皮膜を有する。陰極体は、陽極箔と対向する。コンデンサ素子は、陽極箔及び陰極体を有する。電解液は、コンデンサ素子に含浸されている。この陰極体は、弁作用金属の箔と当該箔上に積層されたカーボン層とを有する。そして、この電解液は、第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極箔と、
前記陽極箔と対向する陰極体と、
前記陽極箔及び前記陰極体を有するコンデンサ素子と、
電解液と、
を備え、
前記陰極体は、弁作用金属の箔と当該箔上に積層されたカーボン層とを有し、
前記電解液は、第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方を含むこと、
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陰極体は、前記電解液に含まれる前記第1級アミン又は第2級アミンを第3級アミンに高級化させる作用を備えること、
を特徴とする請求項1記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記カーボン層は炭素材を含み、
前記炭素材は、炭素材表面に炭素-酸素二重結合を有する官能基を有すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記炭素-酸素二重結合を有する官能基は、カルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基の少なくとも一つであること、
を特徴とする請求項3記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記電解液は、アルコール類、及びカルボキシル基を有する化合物又は当該化合物の塩を含むこと、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記電解液は、エステル化合物を有すること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
一端開口及び他端有底であり、前記コンデンサ素子が収容されるケースと、
前記ケースの開口を封止する封口体と、
を備え、
前記封口体はゴムを含むこと、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。電解コンデンサは、電解液を含浸したコンデンサ素子を外装ケースに収容し、封口体で外装ケースを封止し、封口体から引出端子を引き出して構成される。コンデンサ素子は、弁金属箔に誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と、同種または他の金属の箔によりなる陰極箔とを対向させ、陽極箔と陰極箔との間にセパレータを介在させて構成されている。
【0003】
電解コンデンサには、等価直列抵抗とも呼ばれるESR(Equivalent series resistance)の低減が求められる。電解液に、カルボキシル基を有する化合物であるカルボン酸、アルコール類及びアンモニアやアミン等が含まれている場合、電解液を含むコンデンサ素子が高温環境に晒されることで、カルボン酸とアルコールとのエステル化反応によりエステル化合物が生成し易く、引き続いてアンモニアやアミン等の塩基成分とエステル化合物とがアミド化反応を起こす結果、電解質濃度の低下により、電解コンデンサのESRが著しく増大することが報告されている(例えば、特許文献1参照)。アンモニアやアミンといった塩基成分がアミド化により減少したため、電解液のイオン伝導度が下がり、電解コンデンサのESRが増大するものである。
【0004】
そこで、特許文献1では、カルボン酸として、主鎖の炭素の両末端にカルボキシル基と置換基であるアルキル基を有したカルボン酸を電解液に含有する案が提案されている。アルキル基がカルボキシル基と近接して立体的障害となり、カルボン酸とアルコール類とのエステル化反応が阻害されるため、引き続くアミド化も抑制される。
【0005】
また、特許文献1では、カルボン酸の主鎖を構成する炭素のうち、両末端以外の炭素の少なくとも何れか一つが親水性の置換基を有している。この親水性の置換基により、エステル化反応及びアミド化反応で生成される化合物を電解液中に析出させず、電極箔界面に堆積させないようにする案も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-141187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、アンモニアやアミンのアミド化を完全に抑制しきれているわけではない。そのため、電解液中のアミド化物の析出を抑制できたとしても、アンモニアやアミンといった塩基成分は蒸散により電解液中から徐々に減少していき、電解液のイオン伝導度は下がっていき、電解コンデンサのESRは増大していく。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、電解液中の塩基成分の減少を更に抑制することで、ESRの増大が抑制された電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、陰極箔上にカーボン層を形成しておくと、カーボンの表面官能基に対して、第1級アミンや第2級アミンが求核付加反応を起こし、イミニウムカチオンが生成され、このイミニウムカチオンが電気化学的に還元されて第3級アミンに高級化されるとの知見を得た。第3級アミンは、アミド化反応せずに塩基成分として電解液中に存続し、電解液のイオン伝導度を保ち、電解コンデンサのESRの増大が抑制される。即ち、第1級アミンや第2級アミンは減少するが、代わりに第3級アミンが生成されることで、第1級アミンや第2級アミンの減少による塩基成分の減少を補う。
【0010】
しかも、当初より電解液に第3級アミンを含有させるより、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方を含有させ、電解コンデンサの使用中に第3級アミンへ高級化させる方が、電解コンデンサのESRの増大抑制効果が高いという知見も得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づき成されたものであり、上記課題を解決すべく、本実施形態の電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する陽極箔と、前記陽極箔と対向する陰極体と、前記陽極箔及び前記陰極体を有するコンデンサ素子と、電解液と、を備え、前記陰極体は、弁作用金属の箔と当該箔上に積層されたカーボン層とを有し、前記電解液は、第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方を含む。
【0012】
前記陰極体は、前記電解液に含まれる前記第1級アミン又は第2級アミンを第3級アミンに高級化させる作用を備えるようにしてもよい。
【0013】
前記カーボン層は炭素材を含み、前記炭素材は、炭素材表面に炭素-酸素二重結合を有する官能基を有するようにしてもよい。
【0014】
炭素材の表面官能基として炭素-酸素二重結合を有する官能基は、第1級アミン及び第2級アミンとの求核付加反応性を有しており、第1級アミン及び第2級アミンがアミド化される前に高級化させることが可能となる。そのため、炭素材が炭素-酸素二重結合を有する官能基を有すると、電解コンデンサのESRの増大が抑制される。
【0015】
前記カーボン層は炭素材を含み、前記炭素材は、炭素材表面にカルボニル基、又はカルボキシル基、ホルミル基の少なくとも一つを有するようにしてもよい。
【0016】
炭素材の表面官能基としてカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基は、第1級アミン及び第2級アミンとの求核付加反応性に特に優れており、第1級アミン及び第2級アミンがアミド化される前に高級化させ易い。そのため、炭素材がカルボニル基、カルボキシル基又はホルミル基を有すると、電解コンデンサのESRの増大がより抑制される。
【0017】
前記電解液は、アルコール類、及びカルボキシル基を有する化合物又は当該化合物の塩を含むようにしてもよい。
【0018】
アルコール類とカルボキシル基を有する化合物又は当該化合物の塩は、エステル化反応によりエステル化合物を発生させ易い。そのため、電解液にアルコール類、及びカルボキシル基を有する化合物又は当該化合物の塩が含まれる場合、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれることが、より好適に作用する。
【0019】
前記電解液は、エステル化合物を有するようにしてもよい。
【0020】
第1級アミン及び第2級アミンは、エステル化合物の存在によってアミド化し易くなる。そのため、電解液にエステル化合物が含まれる場合、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれることが、より好適に作用する。
【0021】
一端開口及び他端有底であり、前記コンデンサ素子が収容されるケースと、前記ケースの開口を封止する封口体と、を備え、前記封口体はゴムを含むようにしてもよい。
【0022】
アルコール類とカルボキシル基を有する化合物又は当該化合物の塩は、エステル化反応によりエステル化合物に加えて水を発生させる。一方、この反応は可逆反応であり、エステル化合物の加水分解により、アルコール類とカルボキシル基を有する化合物又は当該化合物の塩が生成される。コンデンサ素子が封口体によってケース内に封止されている場合、経時的に封口体から水分が蒸散していく。水分が蒸散すると、平衡が加水分解よりもエステル化反応に偏り、エステル化合物がより生成され易くなる。そのため、コンデンサ素子がケースに収容され、ケースの開口が封口体で封止される場合、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれることが、より好適に作用する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電解コンデンサのESRの増大が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】各電解コンデンサのESRの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(電解コンデンサ)
電解コンデンサは、静電容量に応じた電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この電解コンデンサは、巻回型のコンデンサ素子を有する。コンデンサ素子は、陽極箔と陰極体とをセパレータを介して対向し、巻回させて成る。陽極箔の表面にはエッチング等により拡面層が形成され、この拡面層の表面に誘電体酸化皮膜が形成されている。陰極体は、陰極箔とカーボン層との積層体である。
【0026】
コンデンサ素子には、電解液が含浸されて成る。電解液は、陽極箔に形成された拡面層の表面に備える誘電体酸化皮膜に密接し、真の陰極として機能する。この電解液には、当該電解液のイオン伝導度に関与する塩基成分である第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれている。
【0027】
コンデンサ素子は、一端開口及び他端有底のケースに収容される。ケースの開口は、封口体で封止される。封口体はケースの開口に加締め加工により取り付けられる。陽極箔と陰極体には引出端子が接続され、引出端子が封口体の貫通孔を通って外部に導出されている。
【0028】
(陰極体)
陰極体は、集電体として弁作用金属を延伸して成る陰極箔を有する。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。
【0029】
この陰極箔の表面には、主材として炭素材を含むカーボン層が形成されている。カーボン層に含有させる炭素材は、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノホーン、繊維状炭素、又はこれらの混合である。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック及びサーマルブラック等が挙げられる。活性炭は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(以下、CNT)、カーボンナノファイバ(以下、CNF)等が挙げられる。活性炭や繊維状炭素は、パイ電子が非局在化し、比表面積が大きいため、好ましい。
【0030】
炭素材には、賦活処理や開口処理などの多孔質化処理を施すようにしてもよい。多孔質処理としては、ガス賦活法、薬剤賦活法などの従来公知の賦活処理を用いることができる。ガス賦活法に用いるガスとしては、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素またはこれらを混合したものからなるガスが挙げられる。また、薬剤賦活法に用いる薬剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ酸、リン酸、硫酸、塩酸等の無機酸類、または塩化亜鉛などの無機塩類などが挙げられる。この賦活処理の際には必要に応じて加熱処理が施される。
【0031】
カーボン層の陰極箔への形成方法としては、真空蒸着、スパッタ法、イオンプレーティング、CVD法、塗布、電解めっき、無電解めっき等が挙げられる。塗布法による場合、炭素材を分散溶媒中に分散させてスラリーを作製し、スラリーキャスト法、ドクターブレード法又はスプレー噴霧法等によって陰極箔にスラリーを塗布及び乾燥させる。蒸着法による場合、真空中で炭素材を通電加熱することで蒸発させ、又は真空中で炭素材に電子ビームを当てて蒸発させ、陰極箔上に炭素材を成膜する。また、スパッタ法による場合、炭素材により成るターゲットと陰極箔とを真空容器に配置し、真空容器内に不活性ガスを導入して電圧印加することによって、プラズマ化した不活性ガスをターゲットに衝突させ、ターゲットから叩き出された炭素材の粒子を陰極箔に堆積させる。
【0032】
このカーボン層が形成されていると、電解液に含有する第1級アミン及び第2級アミンは、第3級アミンに高級化し易くなる。即ち、カーボン層内の炭素材の表面官能基に対し、第1級アミン又は第2級アミンが求核付加反応を起こし、イミニウムカチオンが生じる。イミニウムカチオンは電気化学的に還元され、第3級アミンに向かって高級化する。そして、第3級アミンは電解液に放出される。第3級アミンは、アミド化反応を起こさずに電解液内に存続する。従って、第1級アミン又は第2級アミンの一部は第3級アミンに転じることによってアミド化されず、電解液中の塩基成分の減少が抑制される。そのため、電解液のイオン伝導度の経時的な減少が緩和され、電解コンデンサの経時的なESRの増大が抑制される。
【0033】
カーボン層に含まれる炭素材としては、表面官能基としてカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基の少なくとも一つを有していることが好ましい。カルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基の少なくとも一つを有していると、下記化学反応式(1)のような求核付加反応が促進される。そのため、イミニウムカチオンが生成され易く、下記化学反応式(2)のように電解化学的な還元による高級化が促進され、第3級アミンに転じる第1級アミンや第2級アミンが増える。尚、必要に応じてカーボン層に含まれる炭素材に対して、炭素材の表面官能基に占めるカルボニル基やカルボキシル基、ホルミル基の比率を増加させる処理を行ってもよい。
【0034】
[式中、R1~R4は炭素数が1以上、好ましくは4以下のアルキル基又は水素、R01は炭素材を構成する炭素、R02は炭素材を構成する炭素、H又はOH、R03は炭素数1以上のアルキル基又は水素である。]
【0035】
尚、陰極箔の表面には自然酸化皮膜又は意図的な化成皮膜が形成されていてもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成され、化成皮膜は、アジピン酸やホウ酸、リン酸等の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加(1~10Vfs程度)する化成処理によって意図的に形成される酸化皮膜である。弁作用金属がアルミニウムの場合、酸化皮膜は酸化アルミニウムである。即ち、陰極体は、集電体である陰極箔の上にカーボン層を有し、陰極箔とカーボン層の間に自然酸化皮膜又は意図的な化成皮膜が介在していてもよい。カーボン層は、陰極体の最外表面に位置する。
【0036】
カーボン層と陰極箔との密着性向上のためには、陰極箔の表面に拡面層を形成し、拡面層上にカーボン層を形成するようにしてもよい。また、カーボン層と陰極箔との密着性向上のためには、カーボン層と陰極箔により成る陰極体をプレス加工することが好ましい。
【0037】
拡面層は、電解エッチング、ケミカルエッチング若しくはサンドブラスト等により形成され、又は箔体に金属粒子等を蒸着若しくは焼結することにより形成される。電解エッチングとしては交流エッチングが挙げられる。交流エッチング処理では、例えば塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液に陰極箔を漬けて、交流電流を流す。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。即ち、拡面層は、海綿状のエッチングピットの形成領域、又は密集した粉体間の空隙により成る多孔質構造の領域をいう。尚、エッチングピットは、直流エッチングにより形成されるトンネル状のピットであっても、トンネル状のピットが陰極箔を貫通するように形成されていてもよい。
【0038】
プレス加工では、例えばカーボン層と陰極箔とにより成る陰極体をプレスローラで挟んで、プレス線圧を加える。プレス圧力は0.01~100t/cm程度が望ましい。カーボン層と陰極箔とを圧接させることができれば、陰極箔の界面で生じる圧接構造に特に限定はないが、プレス加工によって、炭素材を拡面層の細孔に押し込み、また炭素材を拡面層の凹凸面に沿って変形させる態様を採れば、カーボン層と陰極箔との密着性及び定着性は更に向上する。
【0039】
カーボン層に含有する炭素材は、特に限定されないが、中でも球状炭素であるカーボンブラックが好ましい。陰極箔の表面に形成した拡面層がエッチングピットである場合、エッチングピットの開口径よりも小さな粒子径のカーボンブラックを用いることにより、エッチングピットのより深部に入り込みやすく、カーボン層は陰極箔と密着する。
【0040】
また、カーボン層に含有する炭素材は、鱗片状又は鱗状の黒鉛と球状炭素であるカーボンブラックであってもよい。鱗片状又は鱗状の黒鉛は、短径と長径とのアスペクト比が1:5~1:100の範囲であることが好ましい。球状炭素であるカーボンブラックは、好ましくは一次粒子径が平均100nm以下である。この組み合わせの炭素材を含有するカーボン層を陰極箔に積層した場合、カーボンブラックは、黒鉛によって拡面層の細孔に擦り込まれ易い。黒鉛は、拡面層の凹凸面に沿って変形し易く、凹凸面上に積み重なり易い。そして、黒鉛は、押圧蓋になって細孔に擦り込まれた球状炭素を押し留める。そのため、カーボン層と陰極箔との密着性及び定着性がより高まる。
【0041】
(陽極箔)
陽極箔は、弁作用金属を材料とする箔体である。純度は、陽極箔に関して99.9%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。この陽極箔は、延伸された箔に拡面層を形成し、拡面層の表面に誘電体酸化皮膜を形成して成る。陽極箔に形成される誘電体酸化皮膜は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば、多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜は、硼酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の酸あるいはこれらの酸の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。
【0042】
(電解液)
電解液に含まれる第1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。また、電解液に含まれる第2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン等が挙げられる。第1級アミン及び第2級アミンは、電解液のカチオン成分である。これら第1級アミン及び第2級アミンが高級化したとき、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジエチルブチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等の第3級アミンが電解コンデンサ使用中に徐々に生成されていく。
【0043】
一部の第1級アミン又は第2級アミンは、第3級アミンに高級化される前にアミド化反応によりアミド化物となる。他の第1級アミン又は第2級アミンは、アミド化しない第3級アミンに高級化するので、電解液中の塩基成分の減少を補い、電解液のイオン伝導度の低下を抑制でき、電解コンデンサのESRの経時的な増大を抑制できる。
【0044】
この第1級アミン及び第2級アミンは、アニオン成分となる有機酸、無機酸、若しくは有機酸と無機酸との複合化合物とのイオン解離性のある塩として電解液に含有されていてもよい。
【0045】
電解液の溶媒としてはアルコール類であり、電解液のアニオン成分としてはカルボキシル基を有する化合物であるカルボン酸が含まれている場合、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれることが、より好適に作用する。
【0046】
アルコール類としては、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類が挙げられる。一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等が挙げられる。
【0047】
カルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等が挙げられる。
【0048】
電解液の溶媒としてはエチレングリコールのようなアルコール類であり、電解液のアニオン成分としてはアゼライン酸のようなカルボン酸が含まれている場合、下記化学反応式(3)のようにエステル化反応が起り、エステル化合物が第1級アミン及び第2級アミンのアミド化反応を促進する。そのため、電解液の溶媒としてはアルコール類であり、電解液のアニオン成分としてはカルボン酸が含まれている場合、第1級アミン及び第2級アミンが減少し易い。しかし、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれると、アミド化反応しない第3級アミンへと第1級アミン及び第2級アミンが高級化することにより、電解液のイオン伝導度の減少を抑制できる。
【0049】
【0050】
その他、電解液には、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が含まれていてもよい。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。
【0051】
電解液の溶媒としては、プロトン性の極性溶媒又は非プロトン性の極性溶媒が含まれていてもよい。プロトン性の極性溶媒として、一価アルコール類、多価アルコール類及びオキシアルコール化合物類の他、水などが代表として挙げられる。非プロトン性の極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、スルホキシド系などが代表として挙げられる。
【0052】
スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。スルホキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0053】
電解液のその他のアニオン成分としては、有機酸としてフェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0054】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、リン酸、リン酸エステル等のリン酸化合物、ホウ酸、ホウ酸エステル等のホウ酸化合物、ホウ酸とマンニットやソルビット等の糖アルコールとの錯化合物、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレンポリオール、コロイダルシリカ、シリコーンオイル等が含まれていても良く、これらは電解コンデンサの耐電圧を向上させる。
【0055】
また、添加剤としてはニトロ化合物が含まれてもよい。ニトロ化合物としては、o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノール、p-ニトロベンセン、p-ニトロベンジルアルコール、m-ニトロアセトフェノン、o-ニトロアニソール等が挙げられる。ニトロ化合物は、水素ガスの発生抑制作用を有する。
【0056】
(セパレータ)
セパレータは、陽極箔と陰極体のショートを防止すべく、陽極箔と陰極体との間に介在し、また電解液を保持する。セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができ、またセルロースと混合して用いることができる。
【0057】
(コンデンサ素子)
誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔と陰極体とをセパレータを介在させて巻回し、円筒状のコンデンサ素子を作製する。セパレータは、その一端が陽極箔と陰極体の長手方向の一端よりも飛び出すように重ね合わせておき、飛び出したセパレータを先に巻き始めて巻芯部を作製し、続けてその巻芯部を巻軸にすることで巻回していく。巻回前には、陽極箔と陰極体に対して、例えばアルミニウム製の引出端子をステッチ、コールドウェルド、超音波溶接又はレーザー溶接などにより接続しておく。
【0058】
コンデンサ素子を作製した後は、電解液をコンデンサ素子の空隙部に充填する。電解液のコンデンサ素子への含浸時には、含浸を促進させるべく、必要に応じて減圧処理や加圧処理を行ってもよい。含浸工程は複数回繰り返してもよい。
【0059】
電解液を含浸させたコンデンサ素子は、ケースに挿入される。ケースは、材質としてはアルミニウム、アルミニウムやマンガンを含有するアルミニウム合金、又はステンレスが挙げられる。ケースの開口を封止する封口体は、ゴム又はゴムと硬質基板の積層体であり、ゴムとしてはエチレンプロピレンゴムやブチルゴム等が挙げられる。この封口体を外装ケースの端部に嵌め込み、外装ケースの開口端部を加締め加工することにより、封止される。封口体からは、陽極箔及び陰極体に接続された引出端子が引き出される。
【0060】
電解コンデンサとしては、陽極箔と陰極体とをセパレータを介して積層した積層型タイプのものであってもよいが、このゴムからなる封口体で封止する巻回型の電解コンデンサの場合、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれることが、より好適に作用する。特に、エチレンプロピレンゴムは、耐熱性がブチルゴムと比較して高いゴムである一方で、蒸散性が高いゴムでもある。そのため、封口体として、エチレンプロピレンゴムもしくは、エチレンプロピレンゴムと他のゴムを混合したゴムからなる封口体を用いた電解コンデンサの場合、耐熱性の向上が期待できるとともに、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれることが、更により好適に作用する。
【0061】
ここで、下記化学反応式(4)及び(5)は、エステル化反応及びアミド化反応により、アルコール類、カルボン酸及び第1級アミン又は第2級アミンからアミド化物が生成される反応過程を示している。
【0062】
【0063】
化学反応式(4)に示すように、アルコール類とカルボン酸からエステル化合物と水が生成される反応は可逆反応である。即ち、生成されたエステル化合物が加水分解によってアルコール類とカルボン酸に戻る逆反応も生じる。
【0064】
しかし、コンデンサ素子が封口体で封止されている場合、封口体から水分が蒸散していく。即ち、エステル化反応により生じた水分が電解コンデンサから抜けていく。そうすると、生成されたエステル化合物が加水分解する逆反応よりも、アルコール類とカルボン酸からエステル化合物と水が生成されるエステル化反応が優位になり、エステル化合物が増大する。
【0065】
エステル化合物が増大すると、エステル化合物と第1級アミン又は第2級アミンが反応して、第1級アミン又は第2級アミンがアミド化する反応が促進されてしまう。また、化学反応式(5)に示すように、このアミド化反応もアミド化物が加水分解する逆反応が生じるが、水分が蒸散すれば、アミド化物が第1級アミンや第2級アミンに戻り難くなる。
【0066】
一方、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含まれると、第3級アミンへの高級化により、封口体から水分が蒸散しても、電解液のイオン伝導度の減少を抑制できる。
【0067】
ケースにコンデンサ素子を封止した後は、電解コンデンサは、エージング工程を経てもよい。エージング工程では、電解コンデンサに直流電圧を印加し、電解液が誘電体酸化皮膜等の欠陥箇所を修復する。
【実施例0068】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例)
直径16mm及び高さ30mmの円筒形で、定格電圧が450Vである高圧用途の実施例1の電解コンデンサを作製した。
【0070】
この実施例1の電解コンデンサでは、陰極箔として帯状のアルミニウム箔を用いた。アルミニウム箔には交流エッチング処理を施し、海綿状のエッチングピットにより成る拡面層を箔両面に形成した。交流エッチング処理では、液温25℃及び約8重量%の塩酸を主たる電解質とする酸性水溶液に陰極箔を浸し、交流10Hz及び電流密度0.14A/cmの電流を基材に約5分間印加し、アルミニウム箔の両面を拡面化した。次いで、アルミニウム箔に化成処理を施し、拡面層の表面に誘電体酸化皮膜を形成した。化成処理では、リン酸水溶液で交流エッチング処理の際に付着した塩素を除去した後、リン酸二水素アンモニウムの水溶液内で電圧を印加した。
【0071】
陰極体のカーボン層には、炭素材としてカーボンブラックを含有させた。具体的には、カーボンブラックの粉末、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)、及び分散剤含有水溶液としてカルボキシメチルセルロースアンモニウム(CMC-NH)水溶液を混合して混練することでスラリーを作製した。
【0072】
このスラリーを陰極箔に均一に塗布した。そして、スラリーを加熱乾燥させて溶媒を揮発させた後、陰極体にプレス加工を施した。プレス加工では、陰極体をプレスローラで挟み込み、5.38kN/cmのプレス線圧をかけ、カーボン層を陰極箔上に定着させた。プレス線圧は、有限会社タクミ技研製のプレス機を用いて加えられた。プレスローラの径は直径180mmであり、プレス処理幅は130mmであり、陰極体を3m/minで1回搬送した。
【0073】
また、陽極箔として帯状のアルミニウム箔を用いた。アルミニウム箔には直流エッチング処理を施し、トンネル状のエッチングピットにより成る拡面層を形成した。直流エッチング処理では、ピットを形成する第1の工程とピットを拡大する第2の工程を用い、第1の工程は塩素イオンを含む水溶液中で直流電流にて電気化学的にアルミニウム箔にエッチング処理を行った。第1の工程におけるエッチング処理は電流密度400mA/cmとして、約1分行なった。第2の工程において、第1の工程を経たアルミニウム箔に形成されたピットを拡大するべく、硝酸イオンを含む水溶液中で直流電流にて電気化学的にエッチング処理を行なった。第2の工程におけるエッチング処理の電流密度300mA/cmとして、約2分行なった。
【0074】
拡面層を形成した後、陽極箔に対して、誘電体酸化皮膜を拡面層表面に形成する化成処理を行った。具体的には、液温85℃、4wt%のホウ酸の化成溶液中で650Vの電圧を印加した。
【0075】
陽極箔と陰極体には、アルミニウム線と金属線とから構成される引出端子を用いた。具体的には、アルミニウム線は、丸棒形状の一方端側をプレス加工等によって潰して形成した平坦部と、他方端側の未プレスの丸棒部からなり、丸棒部の先端部と金属線とがアーク溶接等で接続されている。平坦部が陰極体および陽極箔にステッチ接続された。
【0076】
この陽極箔と陰極体との間にセパレータを挟んで巻回した。セパレータとしては、クラフト系のセパレータを用いた。陽極箔と陰極体とセパレータの巻回体に対して、電解液を含浸させた。電解液は、エチレングリコールを溶媒とし、アゼライン酸と第2級アミンであるジエチルアミンを添加した。また、電解液には、ポリエーテルポリオールを耐圧向上剤として添加し、更にホウ酸、マンニトール及びp-ニトロベンジルアルコールを添加した。
【0077】
電解液の組成及び組成比を以下表1に示す。
(表1)
【0078】
巻回体に電解液を含浸させた後、巻回体から導出した引出端子をブチルゴムからなる封口体に形成された貫通孔に挿通し、金属線を導出させ、巻回体及び封口体をアルミニウム製のケースに挿入して、封口体で封止した。封口体で封止した後は、電解コンデンサに対してエージング処理を施した。エージング処理は、常温(30℃)にて90分間、490Vの電圧を印加した。
【0079】
(比較例)
更に、比較例1の電解コンデンサを作製した。比較例1の電解コンデンサでは、陰極箔は拡面層を形成したものの、カーボン層は未形成とした。またプレス加工は未実施である。その他、比較例1の電解コンデンサは実施例1と同一手法及び同一条件により作製された。即ち、電解液の組成及び組成比も実施例1の電解コンデンサと同一とした。
【0080】
(ESR試験)
実施例1及び比較例1の電解コンデンサを125℃の温度環境下に晒し、450Vの直流電圧を印加し続け、経過時間ごとのESRを測定した。ESRは、100kHzで、LCRメーター(Agilent製、型式E4980A)を用いて測定した。また、直流電圧の印加から6000時間経過後の電解液の組成及び組成比、並びに電解液の比抵抗をそれぞれ調べた。尚、ESRは、20℃環境下での測定値であり、電解液の比抵抗値は、30℃での測定値である。ESRの変化を図1に示す。図1は、横軸を経過時間及び縦軸をESRとしたグラフであり、丸印のプロットが実施例1を示し、三角印のプロットが比較例1を示す。
【0081】
また、6000時間経過後の実施例1及び比較例1の電解液の組成及び組成比、並びに比抵抗を下表2に示す。尚、表中のハイフンは測定不能な程度に微量又はゼロであることを示す。
(表2)
【0082】
表2に示すように、比較例1では、ジエチルアミンが4wt%の含有量から0.5wt%の含有量まで減少していた。実施例1では、ジエチルアミンの含有量はゼロとなったが、新たにトリエチルアミンが生成され、トリエチルアミンは、比較例1のジエチルアミンが含有量である0.5wt%よりも4倍近く多い1.9wt%の含有量となった。
【0083】
これにより、表2に示すように、比較例1の電解液は比抵抗が1250Ωcmまで上昇したが、実施例1の電解液の比抵抗は1042Ωcmに抑えられた。そして、図1に示すように、実施例1の電解コンデンサは、比較例1の電解コンデンサと比べてESRの経時的な増大が抑制されていることが確認された。
【0084】
比較例1と実施例1の相違は、カーボン層の有無である。即ち、陰極体がカーボン層を有し、電解液に第1級アミン、第2級アミン又はこれらの両方が含有されている場合、電解液内の第1級アミン又は第2級アミンが減少しても、代りに第3級アミンが塩基成分として発生するため、電解コンデンサのESRの増大が抑制されることが確認された。
図1