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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119355
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】電動モータの固定構造
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/08 20060101AFI20230821BHJP
   B60S 1/58 20060101ALI20230821BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
B60S1/08 P
B60S1/58 100A
F16F15/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022218
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 徹也
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 百合香
(72)【発明者】
【氏名】山浦 慎司
【テーマコード(参考)】
3D225
3J048
【Fターム(参考)】
3D225AA01
3D225AB01
3D225AC01
3D225AD03
3D225AE02
3D225AE57
3J048AA01
3J048BA06
3J048EA08
(57)【要約】
【課題】作業者への負担を軽減して作業効率のアップを図り、構造を簡素化してコストダウンを図る。
【解決手段】固定クリップ50は、マウントラバー40の軸方向一側を支持する支持基部61、および支持基部61からマウントラバー40の軸方向他側に延び、マウントラバー40および車体パネルPNに挿通される合計4つの爪部62を有するクリップ本体60と、クリップ本体60に差し込まれ、合計4つの爪部62をクリップ本体60の径方向外側に押し広げるピン部材70と、を備え、合計4つの爪部62およびピン部材70に、互いに凹凸係合して両者の軸方向への相対移動を規制する係合凸部62bおよび環状凹部71bが設けられている。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを固定対象物に固定する電動モータの固定構造であって、
前記電動モータに設けられる固定脚部と、
前記固定脚部に装着され、前記固定脚部と前記固定対象物との間に配置される筒状弾性体と、
前記筒状弾性体に挿通され、前記固定対象物に固定される固定クリップと、
を備え、
前記固定クリップは、
前記筒状弾性体の軸方向一側を支持する支持基部、および前記支持基部から前記筒状弾性体の軸方向他側に延び、前記筒状弾性体および前記固定対象物に挿通される複数の爪部を有するクリップ本体と、
前記クリップ本体に差し込まれ、前記複数の爪部を前記クリップ本体の径方向外側に押し広げるピン部材と、
を備え、
前記複数の爪部および前記ピン部材に、互いに凹凸係合して両者の軸方向への相対移動を規制するロック機構が設けられている、
電動モータの固定構造。
【請求項2】
前記ロック機構が、前記固定対象物の前記筒状弾性体が設けられる側とは反対側に配置されている、
請求項1に記載の電動モータの固定構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動モータの固定構造において、
前記複数の爪部の長手方向における前記ロック機構と前記支持基部との間に、前記固定対象物に引っ掛けられ、前記筒状弾性体に対してその軸方向に初期荷重を与える引っ掛け爪が設けられている、
電動モータの固定構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電動モータの固定構造において、
前記ピン部材は、
前記クリップ本体に差し込まれるピン本体と、
前記ピン本体の軸方向一側に設けられ、前記ピン本体の径方向外側に膨出されたフランジ部と、
を有し、
前記支持基部に、前記クリップ本体の軸方向他側に窪み、前記フランジ部が収容される収容凹部が設けられ、
前記ピン部材の軸方向における前記フランジ部の厚み寸法と、前記クリップ本体の軸方向における前記収容凹部の深さ寸法とが、それぞれ同じ寸法である、
電動モータの固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを固定対象物に固定する電動モータの固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の前方や後方には、ウィンドウガラスに付着した雨水や埃等を払拭するワイパ装置が搭載されている。ワイパ装置は、駆動源である電動モータを備え、当該電動モータは、ブラケットを介して車体パネル(固定対象物)に固定されている。このように、ブラケットを介して車体パネルに固定される電動モータが、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された電動モータは、合計3カ所の取付け部を有するブラケットを介してインナパネル(車体パネル)に固定されている。具体的には、それぞれの取付け部にはマウントラバーが装着され、かつそれぞれのマウントラバーにはボルトが挿通されている。すなわち、ブラケットの合計3カ所が、ボルト-ナットによりインナパネルに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/095630号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に記載された技術では、例えば、車両の後方で上方に開くリヤゲートやリヤハッチに電動モータを固定する場合に、作業者は上方を向きつつインパクトドライバー等を操作する必要があった。特に、インパクトドライバーは重量が嵩むばかりか振動が大きく、作業者への負担が大きかった。
【0006】
本発明の目的は、作業者への負担を軽減して作業効率をアップすることができ、かつ構造を簡素化してコストダウンを図ることが可能な電動モータの固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様では、電動モータを固定対象物に固定する電動モータの固定構造であって、前記電動モータに設けられる固定脚部と、前記固定脚部に装着され、前記固定脚部と前記固定対象物との間に配置される筒状弾性体と、前記筒状弾性体に挿通され、前記固定対象物に固定される固定クリップと、を備え、前記固定クリップは、前記筒状弾性体の軸方向一側を支持する支持基部、および前記支持基部から前記筒状弾性体の軸方向他側に延び、前記筒状弾性体および前記固定対象物に挿通される複数の爪部を有するクリップ本体と、前記クリップ本体に差し込まれ、前記複数の爪部を前記クリップ本体の径方向外側に押し広げるピン部材と、を備え、前記複数の爪部および前記ピン部材に、互いに凹凸係合して両者の軸方向への相対移動を規制するロック機構が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インパクトドライバー等を用いずに、ピン部材をクリップ本体に差し込むだけで、電動モータを固定対象物に固定することができる。これにより、ボルト-ナットに比して固定構造を簡素化することができ、かつ作業者への負担を軽減して作業効率をアップさせることが可能となる。また、ロック機構により固定完了の操作感が得られ、固定不良等の発生を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の固定構造を適用したワイパモータを示す斜視図である。
図2】マウントラバーの斜視図である。
図3】クリップ本体を基端側から見た斜視図である。
図4】クリップ本体を先端側から見た斜視図である。
図5】クリップ部材の軸方向に沿う断面図である。
図6】ピン部材を基端側から見た斜視図である。
図7】ピン部材を先端側から見た斜視図である。
図8】固定クリップの固定手順1(フリー状態)を示す断面図である。
図9】固定クリップの固定手順2(ロック状態)を示す断面図である。
図10】車体パネルに固定されたワイパモータを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の固定構造を適用したワイパモータを示す斜視図を、図2はマウントラバーの斜視図を、図3はクリップ本体を基端側から見た斜視図を、図4はクリップ本体を先端側から見た斜視図を、図5はクリップ部材の軸方向に沿う断面図を、図6はピン部材を基端側から見た斜視図を、図7はピン部材を先端側から見た斜視図を、図8は固定クリップの固定手順1(フリー状態)を示す断面図を、図9は固定クリップの固定手順2(ロック状態)を示す断面図を、図10は車体パネルに固定されたワイパモータを示す斜視図をそれぞれ示している。
【0012】
[ワイパモータの概要]
図1に示されるワイパモータ10は、ワンボックス車等の車両の後方において、上方に開くリヤゲートに搭載されるリヤワイパ装置(図示せず)の駆動源である。ワイパモータ10は、本発明における電動モータに相当し、モータ部20およびギヤ部30を備えている。
【0013】
モータ部20は、鋼板をプレス加工等してなるモータケース(ヨーク)21を有し、当該モータケース21の内部には、ステータおよびロータ(図示せず)が収容されている。一方、ギヤ部30は、溶融したアルミ材料を射出成形等してなるギヤケース31を有し、当該ギヤケース31の内部には、ロータの高速回転を減速し、高トルク化された回転力を出力軸32に伝達する減速機構(図示せず)が収容されている。
【0014】
ここで、本実施の形態においては、減速機構として大きな減速比が得られるウォーム減速機を採用している。これにより、ワイパモータ10は、小型でありながら高出力が可能となっている。
【0015】
出力軸32の先端部(図1の上部)には、リヤゲートに設けられるウィンドウガラスの表面を往復払拭動作するワイパ部材(図示せず)の長手方向基端部(アームヘッド)が固定される。これにより、ワイパモータ10を駆動することで出力軸32が揺動して、ワイパ部材がウィンドウガラスの表面を往復払拭動作する。よって、ウィンドウガラスの表面に付着した雨水や埃等が綺麗に払拭され、車両の後方の視界が確保される。
【0016】
ギヤケース31には、当該ギヤケース31の内部に減速機構等の部品を組み込むための開口部(図示せず)が形成されている。開口部は、出力軸32の突出側とは反対側(図1の紙面奥側)に設けられ、当該開口部は、鋼板をプレス加工等してなる平板状のブラケット部材33により閉塞されている。
【0017】
そして、ブラケット部材33には、その周囲に合計3つの固定脚部33aが一体に設けられ、これらの固定脚部33aは、出力軸32の周囲に分散配置されている。これにより、固定脚部33aが設けられたワイパモータ10を、リヤゲートの内部に設けられた車体パネルPN(図8ないし図10参照)に対して、がたつくことなくバランス良く固定可能となっている。
【0018】
合計3つの固定脚部33aには、図8および図9に示されるように、それぞれ切り欠き溝33bが設けられている。切り欠き溝33bには、それぞれマウントラバー40が差し込まれて固定されている。具体的には、切り欠き溝33bは、出力軸32の軸方向と交差する方向に開口している。これにより、マウントラバー40は、出力軸32の軸方向と交差する方向から切り欠き溝33bに装着可能となっている。
【0019】
[マウントラバー]
図1図2図8および図9に示されるように、マウントラバー40は、ゴム等の弾性材料により段付きの略筒状に形成されている。マウントラバー40は、ワイパモータ10(固定脚部33a)と車体パネルPN(車体)との間に設けられ、車体とワイパモータ10との間で伝達される振動を吸収する機能(防振機能)を有している。なお、車体パネルPNは、本発明における固定対象物に相当する。
【0020】
マウントラバー40は、本発明における筒状弾性体に相当し、略円盤状に形成された第1ラバー部41および第2ラバー部42と、これらの第1,第2ラバー部41,42を連結する連結筒部43と、を備えている。また、マウントラバー40の中心部分には、固定クリップ50が挿通される挿通孔44が設けられている。なお、挿通孔44は、マウントラバー40の軸方向全域において、その内径寸法が同じ寸法となっている。
【0021】
また、第1ラバー部41および第2ラバー部42は、いずれも同じ形状に形成されている。具体的には、連結筒部43を中心にその軸方向に鏡像対称となる形状に形成されている。そして、図8および図9に示されるように、マウントラバー40の連結筒部43は、固定脚部33aの切り欠き溝33bに差し込まれ、これにより、マウントラバー40は固定脚部33aに対してがたつくことなく装着される。
【0022】
なお、ワイパモータ10を車体パネルPNに固定した状態において、第1ラバー部41は、固定脚部33aと車体パネルPNとの間に配置され、固定脚部33aと車体パネルPNとが接近した際に圧縮される。一方、ワイパモータ10を車体パネルPNに固定した状態において、第2ラバー部42は、固定脚部33aとクリップ本体60の支持基部61との間に配置され、固定脚部33aとクリップ本体60の支持基部61とが接近した際に圧縮される。
【0023】
ここで、図8に示されるように、マウントラバー40が自然状態にある場合、つまりマウントラバー40に負荷が掛かっていない状態では、第1ラバー部41の軸方向における厚み寸法はT1となり、第2ラバー部42の軸方向における厚み寸法はT2となっている。なお、厚み寸法T1と厚み寸法T2とは、それぞれ略同じ寸法である(T1≒T2)。
【0024】
これに対し、図9に示されるように、ワイパモータ10を車体パネルPNに対して固定クリップ50で固定した状態では、マウントラバー40はその軸方向に少しだけ圧縮(弾性変形)された状態、つまり初期荷重が与えられた状態となっている。具体的には、初期荷重が与えられた第1ラバー部41は、その軸方向における厚み寸法はT1よりも小さいT3となっている(T3<T1)。また、初期荷重が与えられた第2ラバー部42は、その軸方向における厚み寸法はT2よりも小さいT4となっている(T4<T2)。
【0025】
このように、ワイパモータ10を車体パネルPNに固定した状態では、マウントラバー40は所定の初期荷重が与えられた状態となる。そのため、ワイパモータ10の車体パネルPNに対するがたつきが抑えられ、ひいてはワイパ部材のウィンドウガラスに対する「振れ」も効果的に抑えられる。なお、マウントラバー40は、上述のように初期荷重が与えられた状態において、所定の防振性能を発揮できるように設計されている。
【0026】
[固定クリップ]
図1図8図9および図10に示されるように、ワイパモータ10は、合計3つのマウントラバー40を介して、合計3つの固定クリップ50により車体パネルPNに固定されている。すなわち、それぞれの固定クリップ50は、車体パネルPNに固定され、ワイパモータ10を車体パネルPNに固定する機能に加えて、マウントラバー40を所定の初期荷重で圧縮させる(押圧する)機能を備えている。
【0027】
固定クリップ50は、2つの部品から形成されている。具体的には、固定クリップ50は、プラスチック等の樹脂材料からなるクリップ本体60(図3ないし図5参照)と、丸鋼棒等の金属材料からなるピン部材70(図6および図7参照)と、を備えている。
【0028】
図3ないし図5に示されるように、クリップ本体60は、略リベット形状に形成されている。クリップ本体60は、略円盤状に形成された支持基部61と、当該支持基部61からマウントラバー40の軸方向他側(第2ラバー部42側)に延在された合計4つの爪部62と、を備えている。また、支持基部61の周方向において隣り合う爪部62の間には、切り欠き63が設けられている。このように切り欠き63を設けることで、それぞれの爪部62は、支持基部61の径方向に個別に弾性変形可能となっている。
【0029】
支持基部61は、マウントラバー40の軸方向一側(第1ラバー部41側)を支持する部分であり、その中央部には、ピン部材70が差し込まれる差込孔61aが設けられている。そして、差込孔61aの周囲を囲うようにして、爪部62の長手方向基端部が、支持基部61にそれぞれ固定されている。ここで、合計4つの爪部62は、支持基部61の周方向に等間隔(90度間隔)で配置され、いずれも同じ形状に形成されている。
【0030】
また、図3および図5に示されるように、支持基部61の爪部62側とは反対側には、クリップ本体60の軸方向他側(図3の右側および図5の下側)に窪んだ収容凹部61bが設けられている。収容凹部61bは、支持基部61の大部分を占めており、当該収容凹部61bの内部には、ピン部材70のフランジ部72(図6および図7参照)が収容可能となっている。
【0031】
なお、クリップ本体60の軸方向における収容凹部61bの深さ寸法d(図5参照)と、ピン部材70の軸方向におけるフランジ部72の厚み寸法H(図8参照)とは、それぞれ同じ寸法となっている(d=H)。これにより、図9に示されるような固定クリップ50のロック状態において、支持基部61およびフランジ部72は、固定クリップ50の軸方向に対して平坦(面一)となる。よって作業者は、当該平坦な状態(面一状態)を触って把握することで、固定クリップ50のロック状態を容易に把握可能となっている。
【0032】
合計4つの爪部62は、図8および図9に示されるように、マウントラバー40の挿通孔44および車体パネルPNの取付孔MHに挿通される部分となっている。これらの爪部62には、図5に示されるように、その先端側(軸方向他側で図5の下側)から基端側(軸方向一側で図5の上側)に向けて、テーパ部62a,係合凸部62bおよび引っ掛け爪62cがこの順番で設けられている。
【0033】
テーパ部62aは爪部62の外側に形成され、合計4つの爪部62の先端側を先細り形状として、マウントラバー40の挿通孔44や車体パネルPNの取付孔MHへの挿入を案内する機能を有する。また、係合凸部62bは、爪部62の内側でかつ爪部62の先端寄りの部分(テーパ部62aの近傍)に配置され、ピン部材70の環状凹部71b(図6および図7参照)に係合する部分となっている。具体的には、合計4つの係合凸部62bは、固定クリップ50がロック状態(図9参照)のときに、ピン部材70の環状凹部71bに係合される。
【0034】
言い換えれば、それぞれの係合凸部62bが環状凹部71bに係合することで、支持基部61およびフランジ部72は、固定クリップ50の軸方向に対して平坦(面一)となる。つまり作業者は、支持基部61およびフランジ部72が平坦になったこと、および係合凸部62bが環状凹部71bに入り込んだ時の操作感、つまり係合凸部62bが環状凹部71bに対して「カチッ」と入り込んだ感触を得ることで、固定クリップ50のロック状態を容易に把握することができる。よって、ワイパモータ10の車体パネルPNに対する固定不良等の発生を、未然に防ぐことが可能となっている。
【0035】
このように、合計4つの爪部62およびピン部材70は、係合凸部62bおよび環状凹部71bにより互いに凹凸係合し、爪部62(クリップ本体60)およびピン部材70の軸方向への相対移動が規制される。ここで、合計4つの係合凸部62bおよび環状凹部71bは、本発明におけるロック機構に相当する。
【0036】
また、図9に示されるように、固定クリップ50がロック状態のときに、ピン部材70は、合計4つの爪部62をクリップ本体60の径方向外側にそれぞれ押し広げている。これにより、合計4つの引っ掛け爪62cが、車体パネルPNのマウントラバー40側とは反対側(図9の下側)に引っ掛けられる。つまり、ロック機構として互いに凹凸係合される係合凸部62bおよび環状凹部71bは、車体パネルPNのマウントラバー40が設けられる側とは反対側に配置されている。
【0037】
ここで、合計4つの引っ掛け爪62cは、それぞれの爪部62の長手方向における係合凸部62bと支持基部61との間に設けられ、これらの引っ掛け爪62cが車体パネルPNに引っ掛けられている状態(図9の状態)で、マウントラバー40に対してその軸方向に所定の初期荷重が与えられる。具体的には、図9の状態(固定クリップ50のロック状態)において、マウントラバー40の第1ラバー部41は厚み寸法T3に押し縮められ、マウントラバー40の第2ラバー部42は厚み寸法T4に押し縮められる。
【0038】
すなわち、図5に示されるように、引っ掛け爪62cと支持基部61との間の距離をGとし、かつ図9に示されるように、車体パネルPNの厚み寸法をt1,固定脚部33aの厚み寸法をt2としたときに、マウントラバー40が自然状態(固定クリップ50がフリー状態)にあるときは、図8に示されるように、G<t1+T1+t2+T2となる。これに対し、固定クリップ50がロック状態にあるときは、図9に示されるように、G=t1+T3+t2+T4となって、マウントラバー40がその軸方向に若干押し縮められ、マウントラバー40に所定の初期荷重が与えられる。
【0039】
このように、引っ掛け爪62cは、マウントラバー40に所定の初期荷重を与え、当該マウントラバー40を押し潰し過ぎないようにする機能を有する。言い換えれば、引っ掛け爪62cは、マウントラバー40を、設計通りの防振性能を発揮できるように管理する機能を有している。
【0040】
なお、図5に示されるように、クリップ本体60において互いに対向配置された引っ掛け爪62cの最も幅が広い部分の寸法はW1となっている。これらの引っ掛け爪62cの幅寸法W1は、クリップ本体60がフリー状態(図8参照)のときの寸法であり、車体パネルPNの取付孔MHの内径寸法D1よりも若干小さくなっている(W1<D1)。したがって、合計4つの爪部62は、取付孔MHに対してスムーズに挿通可能となっている(作業性確保)。
【0041】
ただし、図8に示されるように、固定クリップ50のフリー状態において、マウントラバー40の挿通孔44(内径D2)と、合計4つの爪部62の外側の部分でかつ引っ掛け爪62cが設けられていない部分とは、互いに接触した状態となっている。よって、引っ掛け爪62cを挿通孔44に挿通させるときには、それぞれの爪部62をクリップ本体60の内側に弾性変形させるようにする(W1>D2)。
【0042】
図6および図7に示されるように、ピン部材70は、側方から見たときに、略T字状に形成され、略円柱形状に形成されたピン本体71と、略オーバル形状(楕円形状)に形成されたフランジ部72と、を備えている。
【0043】
ピン本体71は、クリップ本体60の差込孔61a(図3参照)に差し込まれ、合計4つの爪部62をクリップ本体60の径方向外側にそれぞれ押し広げる部分である。そして、ピン本体71の軸方向他側(先端側で図6の右側および図7の左側)には、先細り部71aが形成され、クリップ本体60の差込孔61a(図3参照)に対して差し込み易い形状となっている。すなわち、先細り部71aは、差込孔61aへの差し込み動作を案内(誘導)する機能を有している(作業性確保)。
【0044】
また、ピン本体71の軸方向における先細り部71aの近傍には、ピン本体71の径方向内側に窪んだ環状凹部71bが設けられている。環状凹部71bは、ピン本体71の全周に亘って設けられ、環状凹部71bには、固定クリップ50がロック状態のときに、クリップ本体60に設けられた合計4つの係合凸部62b(図5参照)が係合するようになっている。
【0045】
ここで、それぞれの係合凸部62bが環状凹部71bに係合した状態、つまり、固定クリップ50のロック状態において、合計4つの爪部62はピン本体71により径方向外側に押し広げられる。具体的には、互いに対向配置された引っ掛け爪62cの最も幅が広い部分の寸法が、W1(図5参照)よりも大きいW2(図9参照)となる(W2>W1)。これにより、それぞれの引っ掛け爪62c(合計4つ)が、車体パネルPNのマウントラバー40側とは反対側(図9の下側)に引っ掛けられる。
【0046】
また、ピン本体71の軸方向一側(基端側で図6の左側および図7の右側)に、厚み寸法がHとなったフランジ部72が一体に設けられている。フランジ部72は、ピン本体71の径方向外側に大きく膨出されている。そして、フランジ部72は、固定クリップ50がロック状態のときに、図9に示されるように、クリップ本体60の収容凹部61bに、その全体が隠れるようにして入り込む。ここで、ピン本体71の軸方向長さは、係合凸部62bが環状凹部71bに係合することと、フランジ部72が収容凹部61bにピッタリと入り込むこととが、略同時に行われる長さとなっている。
【0047】
[固定手順]
次に、ワイパモータ10の車体パネルPNへの固定手順について、図8および図9を用いて詳細に説明する。
【0048】
まず、予め別の製造工程を経て組み立てられたワイパモータ10を準備する。その際に、合計3つの固定脚部33aに、それぞれマウントラバー40を装着しておく。次いで、ワイパモータ10を車体パネルPNに臨ませて、車体パネルPNに設けられた合計3つの取付孔MHに、マウントラバー40をそれぞれ配置する。なお、図8および図9においては、3つのマウントラバー40および取付孔MHのうちの1つのみを示している。
【0049】
次いで、図8の矢印M1に示されるように、まず、固定クリップ50を形成するクリップ本体60の爪部62(合計4つ)を、マウントラバー40の挿通孔44および車体パネルPNの取付孔MHに挿通する。その際に、テーパ部62aおよび引っ掛け爪62cは、いずれも先細り形状となっているので、挿通孔44および取付孔MHに対して、容易に挿通可能となっている。
【0050】
その後、同様に図8の矢印M1に示されるように、ピン部材70のピン本体71を、クリップ本体60の支持基部61に臨ませる。そして、ピン本体71の先細り部71aを、支持基部61の差込孔61aに差し込む。その際に、先細り部71aの先端側が先細り形状となっているので、差込孔61aに対して、容易に差し込み可能となっている。
【0051】
次いで、図9の白抜き矢印に示されるように、作業者の手作業により、所定の押し込み荷重Fでピン部材70のフランジ部72を押圧する。すると、マウントラバー40が押圧されてその軸方向に若干弾性変形されるとともに、引っ掛け爪62c(合計4つ)が取付孔MHを通過する。その後、係合凸部62b(合計4つ)が環状凹部71bにそれぞれ係合し、それと略同時にフランジ部72が収容凹部61bにピッタリと入り込む。
【0052】
これにより、図9の矢印M2に示されるように、ピン本体71によりそれぞれの爪部62(合計4つ)が外側に押し広げられて、その結果、全ての引っ掛け爪62c(合計4つ)が、車体パネルPNのマウントラバー40側とは反対側(図9の下側)に引っ掛けられる。よって、作業者による固定クリップ50のロック作業が終了し、図10に示されるように、ワイパモータ10の車体パネルPNへの固定作業が完了する。
【0053】
なお、その他の2カ所の固定クリップ50についても、上述と同様にロック作業を行う。このように、ワイパモータ10の車体パネルPNへの固定の際に、インパクトドライバー等の工具が不要となる。よって、作業者への負担を軽減することが可能となる。
【0054】
以上詳述したように、本実施の形態によれば、固定クリップ50は、マウントラバー40の軸方向一側を支持する支持基部61、および支持基部61からマウントラバー40の軸方向他側に延び、マウントラバー40および車体パネルPNに挿通される合計4つの爪部62を有するクリップ本体60と、クリップ本体60に差し込まれ、合計4つの爪部62をクリップ本体60の径方向外側に押し広げるピン部材70と、を備え、合計4つの爪部62およびピン部材70に、互いに凹凸係合して両者の軸方向への相対移動を規制する係合凸部62bおよび環状凹部71bが設けられている。
【0055】
これにより、インパクトドライバー等を用いずに、ピン部材70をクリップ本体60に差し込むだけで、ワイパモータ10を車体パネルPNに固定することができる。これにより、ボルト-ナットに比して固定構造を簡素化することができ、かつ作業者への負担を軽減して作業効率をアップさせることが可能となる。また、係合凸部62bおよび環状凹部71bにより固定完了の操作感が得られ、固定不良等の発生を未然に防ぐことができる。
【0056】
言い換えれば、本実施の形態によれば、固定構造を簡素化して作業効率をアップさせることができるので、ワイパモータ10の製造や車体パネルPNへの固定に要するエネルギーを省力化することが可能となる。よって、国連で定められた持続可能な開発目標(SDGs)における特に目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)および目標13(気候変動に具体的な対策を)を達成することができる。
【0057】
さらに、本実施の形態によれば、係合凸部62bおよび環状凹部71b(ロック機構)が、車体パネルPNのマウントラバー40が設けられる側とは反対側に配置されているので、固定クリップ50のマウントラバー40および車体パネルPNに対する抜け強度を十分なものにすることができる。
【0058】
また、本実施の形態によれば、合計4つの爪部62の長手方向における係合凸部62bおよび環状凹部71b(ロック機構)と支持基部61との間に、車体パネルPNに引っ掛けられ、マウントラバー40に対してその軸方向に初期荷重を与える引っ掛け爪62cが設けられている。
【0059】
これにより、マウントラバー40に、設計通りの防振性能を発揮させることが可能となる。また、作業者によりマウントラバー40の潰れ代にばらつきが生じることを、効果的に抑制することができる。
【0060】
さらに、本実施の形態によれば、ピン部材70は、クリップ本体60に差し込まれるピン本体71と、ピン本体71の軸方向一側に設けられ、ピン本体71の径方向外側に膨出されたフランジ部72と、を有し、支持基部61に、クリップ本体60の軸方向他側に窪み、フランジ部72が収容される収容凹部61bが設けられ、ピン部材70の軸方向におけるフランジ部72の厚み寸法Hと、クリップ本体60の軸方向における収容凹部61dの深さ寸法dとが、それぞれ同じ寸法となっている(d=H)。
【0061】
これにより、固定クリップ50のロック状態において、支持基部61およびフランジ部72を、固定クリップ50の軸方向に対して平坦(面一)にできる。よって作業者は、当該平坦な状態(面一状態)を触って把握することで、固定クリップ50のロック状態を容易に把握することができる(作業性向上)。
【0062】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態では、電動モータを、リヤゲートに搭載されるリヤワイパ装置の駆動源に適用したものを示したが、本発明はこれに限らず、車両のフロント側に搭載されるワイパ装置の駆動源や、パワーウィンドウ装置、さらにはサンルーフ装置等の他の駆動源にも適用することができる。
【0063】
また、上記実施の形態では、合計4つの爪部62を有するクリップ本体60を示したが、本発明はこれに限らず、爪部62の数は任意であって、2つや3つさらには5つ以上設けることもできる。
【0064】
その他、上記実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0065】
10:ワイパモータ(電動モータ),20:モータ部,21:モータケース,30:ギヤ部,31:ギヤケース,32:出力軸,33:ブラケット部材,33a:固定脚部,33b:切り欠き溝,40:マウントラバー(筒状弾性体),41:第1ラバー部,42:第2ラバー部,43:連結筒部,44:挿通孔,50:固定クリップ,60:クリップ本体,61:支持基部,61a:差込孔,61b:収容凹部,61d:収容凹部,62:爪部,62a:テーパ部,62b:係合凸部(ロック機構),62c:引っ掛け爪,63:切り欠き,70:ピン部材,71:ピン本体,71a:先細り部,71b:環状凹部(ロック機構),72:フランジ部,F:押し込み荷重,MH:取付孔,PN:車体パネル(固定対象物)
図1
図2
図3
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図5
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図7
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図9
図10