(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119398
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】光硬化型製造対象物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/40 20170101AFI20230821BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20230821BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/124
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022285
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】513246861
【氏名又は名称】株式会社Bfull
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】前田 直人
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA44
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL62
4F213WL67
4F213WL92
(57)【要約】
【課題】製造対象物を支持部から容易に分離することができる光硬化型製造対象物の製造方法を提供する。
【解決手段】光硬化型製造対象物の製造方法は、強硬化部55と強硬化部55よりも軟質な弱硬化部56とが設けられた支持部51を造形する支持部造形工程と、強硬化部55と製造対象物部61との間に弱硬化部56が介在するように製造対象物部61を造形する製造対象物部造形工程と、弱硬化部56の位置で製造対象物部61を支持部51から分離する分離工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の液槽部内に容れられた光硬化性の液状光硬化性材料に所定の光を照射して当該液状光硬化性材料を層状に硬化させることで前記液槽部内に硬化層を形成するとともに前記硬化層を積層することで所望形状の製造対象物部と当該製造対象物部を支持する支持部とを立体的に造形し、造形された当該製造対象物部を当該支持部から分離して当該製造対象物部に基づいて所望の製造対象物を得る光硬化型製造対象物の製造方法であって、
前記支持部を構成する硬化層として支持部用硬化層を形成する工程であり、前記支持部用硬化層にあっては、所定硬さの強硬化部と当該強硬化部の外周部において当該強硬化部よりも不完全な硬化状態により相対的に軟質で前記製造対象物部を支持可能な硬さの弱硬化部とが形成されてなり、前記支持部用硬化層が積層されて造形される支持部の前記製造対象物部側の先端部には前記弱硬化部が設けられてなる支持部造形工程と、
前記支持部によって支持される前記製造対象物部を構成する硬化層として製造対象物部用硬化層を形成する工程であり、前記支持部の前記先端部に前記製造対象物部用硬化層を積層することで前記製造対象物部を造形し、当該製造対象物部と前記支持部における前記強硬化部との間には前記弱硬化部が介在することとなる製造対象物部造形工程と、
前記製造対象物部と前記支持部とを、前記支持部における前記弱硬化部の位置から分離する分離工程と、
を含むことを特徴とする光硬化型製造対象物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液槽光重合法によって製造対象物を造形する光硬化型製造対象物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液槽光重合法によって立体的な製造対象物を造形する造形装置、いわゆる3Dプリンタはすでに広く知られている(例えば特許文献1参照)。そして、一般的な造形装置は、硬化させた樹脂等を層状に積み重ねて立体的に造形する機能を有している。ここで、液槽光重合法には、樹脂液が満たされた槽内に基台を配置し、樹脂液の液面に光を上から照射して基台上の樹脂液を硬化させ、基台を下に降ろしていく自由液面法と、槽の底部を光透過性のものとして下から光を照射し、基台より下の樹脂液を硬化させ、基台を上に上げていく規制液面法と、がある。
【0003】
また、特許文献2には、ベースとサポートとを分離し、ベースの表面を研磨や塗装等して仕上げることによって所望の製造対象物を得ることが開示されている。なお、サポートの強度は確実に製造対象物を支持すべく、製造対象物と同硬度とすることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-286058号公報
【特許文献2】特開2018-47623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、支持部を分離した製造対象物の表面を研磨等する仕上げ工程は、非常に手間と時間がかかる工程となっているのが現状である。特に、液槽光重合法においては、
図7に示すように製造対象物100と支持部101とが同じ硬質樹脂材料で構成されるため、製造対象物100と支持部101とを分離する際に表面に粗さが残り、高度な仕上げ工程を必要としている。
【0006】
そこで本発明は、製造対象物部と支持部との分離が容易となる光硬化型製造対象物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の液槽部内に容れられた光硬化性の液状光硬化性材料に所定の光を照射して当該液状光硬化性材料を層状に硬化させることで前記液槽部内に硬化層を形成するとともに前記硬化層を積層することで所望形状の製造対象物部と当該製造対象物部を支持する支持部とを立体的に造形し、造形された当該製造対象物部を当該支持部から分離して当該製造対象物部に基づいて所望の製造対象物を得る光硬化型製造対象物の製造方法であって、前記支持部を構成する硬化層として支持部用硬化層を形成する工程であり、前記支持部用硬化層にあっては、所定硬さの強硬化部と当該強硬化部の外周部において当該強硬化部よりも不完全な硬化状態により相対的に軟質で前記製造対象物部を支持可能な硬さの弱硬化部とが形成されてなり、前記支持部用硬化層が積層されて造形される支持部の前記製造対象物部側の先端部には前記弱硬化部が設けられてなる支持部造形工程と、前記支持部によって支持される前記製造対象物部を構成する硬化層として製造対象物部用硬化層を形成する工程であり、前記支持部の前記先端部に前記製造対象物部用硬化層を積層することで前記製造対象物部を造形し、当該製造対象物部と前記支持部における前記強硬化部との間には前記弱硬化部が介在することとなる製造対象物部造形工程と、前記製造対象物部と前記支持部とを、前記支持部における前記弱硬化部の位置から分離する分離工程と、を含むことを特徴とする光硬化型製造対象物の製造方法である。
【0008】
かかる構成にあっては、支持部を造形する際にあえて不完全な硬化状態とした弱硬化部を設けて、製造対象物部と、実質的に製造対象物部を支持する機能を有する強硬化部との間に前記弱硬化部を介在させるようにしたため、製造対象物部を支持部から分離する際に、当該弱硬化部がいわゆる易破断部となって分離作業が極めて容易となる。また、弱硬化部の硬化状態によっては製造対象物部が弱硬化部から綺麗に剥離するように当該製造対象物部と支持部とを分離させることも可能である。そして、分離した箇所において、製造対象物部の表面に割れや傷等が従来に比して発生しにくくなり、結果として研磨等の後工程が簡便となったり不要となったりする利点がある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光硬化型製造対象物の製造方法は、製造対象物部と支持部との分離が容易となる優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例にかかる造形システムを示す説明図である。
【
図2】(a)は支持部が造形される過程の一態様を示し、(b)は(a)から続く支持部が造形される過程を示す説明図である。
【
図3】支持部と製造対象物部との境界部分を拡大して示す説明図である。
【
図4】支持部から製造対象物部を分離した状態を示す説明図である。
【
図5】他の例における支持部と製造対象物部との境界部分を拡大して示す説明図である。
【
図6】他の例における支持部から製造対象物部を分離した状態を示す説明図である。
【
図7】従来の造形方法における支持部と製造対象物部との境界部分を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の光硬化型製造対象物の製造方法を具体化した実施例を詳細に説明する。なお本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0012】
造形システム1は、自由液面法によって製造対象物を得る3Dプリンタを用いており、
図1に示すように、光硬化性の樹脂液Rが容れられた樹脂液槽部10を備えている。
【0013】
なお、光硬化性の樹脂液Rは公知の樹脂材を使用することができ、また光硬化性の他の材料に代えて使用することもできる。なお、樹脂液Rにより、本発明に係る液状光硬化性材料が構成される。また、樹脂液槽部10により、本発明に係る液槽部が構成される。
【0014】
また、樹脂液槽部10内には、上下動可能なプレート状の可動基台部20が配置されている。そして、可動基台部20の上面が、硬化層形成面21とされている。
【0015】
一方、樹脂液槽部10の外であって当該樹脂液槽部10の上方には、樹脂液Rを硬化させる光を照射する光照射部30を備えている。なお、光照射部30は、例えば互いに性能が異なる複数の光源から光が照射される構成であってもよいし、単独の光源に対して複数の照射条件を設定して相異なる特性の光を照射することができる構成であってもよいし、あるいはその他の構成であってもよい。なお、本実施例の光照射部30は、後述する硬化層の広域を占める主要部を硬化させる広域用照射光α(第1の照射光)を照射する第1の光源と、硬化層における主要部の外縁部を硬化させる外縁部用照射光β(第2の照射光)を照射する第2の光源とを具備している。ここで、広域用照射光αは、狭域用の外縁部用照射光βに比して、ビーム径が相対的に大きく、かつ出力が相対的に小さい性能を有していることが好ましい。また、光照射部30の構成はこれに限定されず、他の構成からなるものであってもよい。
【0016】
そして、上述の可動基台部20及び光照射部30は、図示しない制御部によって動作が制御されている。例えば制御部は、いわゆる中央演算処理装置によって構成することができる。
【0017】
次に、造形システム1を用いた造形手順の概要を説明する。
【0018】
図2(a)に示すように、可動基台部20の上側に満たされた樹脂液Rの液面Sに対して光照射部30から光を照射して樹脂液Rを部分的に硬化させ、そして可動基台部20を降下させることを繰り返し、硬化層形成面21上に支持部51,52を造形していく。なお、支持部51,52を造形する工程が、本発明にかかる支持部造形工程に相当する。
【0019】
そして、所定寸法の支持部51,52が造形されると、
図2(b)に示すように当該支持部51,52の上部に製造対象物部61を造形していく。なお、製造対象物部61を造形する工程が、本発明にかかる製造対象物部造形工程に相当する。
【0020】
ところで、所望形状の製造対象物部61の形状に応じて各支持部51,52の寸法が異なるため、単一の造形物に対して、複数の支持部造形工程や製造対象物部造形工程が並行して実行されることとなる。したがって、各支持部造形工程の終了タイミングや、各製造対象物部造形工程の開始タイミング及び終了タイミングは、各位置で異なってくる。例えば、
図2(b)に示すように、第1の支持部51に対応する支持部造形工程の終了タイミングは、第1の支持部51よりも高い寸法の第2の支持部52に対応する支持部造形工程の終了タイミングより早くなり、互いに異なってくることとなる。
【0021】
そして、所望形状の製造対象物部61が造形されたところで全体としての造形工程が終了し、次いで、樹脂液槽部10から造形物が取り出されて、支持部51,52から製造対象物部61が分離される。そして、分離された製造対象物部61に対して、適宜、研磨等の仕上げ工程が施されて製造対象物Wが得られることとなる。
【0022】
次に、支持部造形工程で造形される支持部51,52の内部構造について詳細に説明する。
【0023】
図3に示すように、支持部造形工程で造形される支持部51は、支持部51を構成する硬化層としての支持部用硬化層が順次積層形成されて造形されていくところ、主要部となる強硬化部55と、強硬化部55の外周部(表層部)に薄厚状に形成されて当該強硬化部55よりも軟質でありながら製造対象物部61を支持可能な硬さの弱硬化部56とを含む構造となっている。すなわち、所定寸法まで造形された支持部51,52の先端部には、弱硬化部56が設けられることとなる。なお、弱硬化部56は、強硬化部55や製造対象物部61に比して不完全な硬化状態であり、硬化部56よりも容易に破断する特性を有している。また例えば硬化部56は、製造対象物部61と同じ硬さで形成される。
【0024】
ところで、適正な硬さや適正な厚みの強硬化部55及び弱硬化部56を形成するには、光照射部30から照射される光や樹脂材料の特性(レーザー径や硬化時間など)を適宜定めることで形成可能である。例えば、支持部51,52を造形するための光源と、製造対象物部61を造形するための光源とを異ならせて各光源で照射条件を異ならせてもよい。なお、例えば光照射部30から照射される光の走査速度を速くすることで所望の硬化状態を得るための照射時間は短くなり、逆に走査速度を遅くすることで所望の硬化状態を得るための照射時間は長くなる。
【0025】
そして製造対象物造形工程においては、支持部51,52の先端部に、硬化層としての製造対象物用硬化層が積層形成されて製造対象物部61が造形されていくところ、製造対象物部61と、支持部51,52における強硬化部55との間に、弱硬化部56が介在するようになる。
【0026】
そして、樹脂液Rの硬化が終了して得られた支持部51,52と製造対象物部61とからなる造形物を樹脂液槽部10から取り出した後、
図4に示すように、製造対象物部61を、弱硬化部56の位置で当該支持部51,52から分離する。図示しない他の支持部においても同様な分離作業を行う。こうして得られた製造対象物部61に、所定の後工程(例えば研磨等)を施して所望の製造対象物Wが得られることとなる。なお、製造対象物部61と支持部51,52とを分離する工程が、本発明にかかる分離工程に相当する。
【0027】
このようにして得られた製造対象物Wは、支持部51,52との境界が弱硬化部56であるために分離が容易である。また、研磨作業も製造対象物Wよりも軟質な部位を研磨することになるため、作業負担が大幅に低減され、作業時間も大幅に短縮される。また、光照射部30から照射される光の波長や照射時間を適宜設定することで、通常であれば必要となる製造対象物部61の研磨作業を行う必要がなくなる。
【0028】
また、他の例が提案される。すなわち、支持部造形工程のなかの終盤において、レーザー径の相対的に細い照射光を相対的に長く照射して、
図5に示すように、弱硬化部56の先端部に製造対象物部61が乗載するような造形態様とすることも可能である。かかる構成において、弱硬化部56と製造対象物部61との接触面積を可及的に小さくすると、分離工程においては
図6に示すように、樹脂液Rを洗い流す洗浄作業のみで製造対象物部61が弱硬化部56から離脱し、研磨等の後工程を要することなく製造対象物Wを得ることができる。
【0029】
また、支持部造形工程において、硬化層の積層方向に沿って弱硬化部56を強硬化部55の上端側に形成するにあたり、強硬化部55を形成するための光を照射する時間帯から製造対象物部造形工程へ移行する直前にあえて光を照射しない時間帯を設けることで、強硬化部55の光硬化の影響を利用して不完全な硬化状態からなる弱硬化部56が強硬化部55の膨潤を利用して形成する無照射工程を実行するようにしてもよい。
【0030】
すなわち、例えば
図5に示すように、支持部造形工程において強硬化部55及び弱硬化部56が形成される強硬化部形成区間L1と、製造対象物部造形工程において製造対象物部61が形成される製造対象物部区間L3との間に、無照射工程において弱硬化部56が形成される弱硬化部形成区間L2が形成される構成であってもよい。
【0031】
なお、本発明は、自由液面法ではなく規制液面法によって製造対象物を造形する造形システムにも適用可能である。しかしながら、規制液面法においては、弱硬化部56を支持部の先端部に形成することが困難となる場合があるため、自由液面法で行うことが好ましい。
【0032】
その他、各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 造形システム
10 樹脂液槽部
20 基台部
21 硬化層形成面
30 光源部
51,52 支持部
55 強硬化部
56 弱硬化部
61 製造対象物部
R 樹脂液
S 液面
W 製造対象物