(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119399
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】眼科用医薬組成物、眼内への薬物の移行促進方法、脂肪酸ペネトラチン、及び眼科用医薬組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/42 20170101AFI20230821BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230821BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20230821BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20230821BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230821BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230821BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20230821BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230821BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230821BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
A61K47/42
A61P27/02 ZNA
A61K9/16
A61K47/28
A61K47/24
A61K47/34
A61K31/352
A61K47/18
A61K31/7088
C07K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022287
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】岡部 高明
(72)【発明者】
【氏名】諸藤 遼
(72)【発明者】
【氏名】本田 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】工藤 一弘
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA32
4C076AA95
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD49A
4C076DD63A
4C076DD70A
4C076EE23A
4C076EE41A
4C076FF02
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA41
4C086MA58
4C086NA13
4C086ZA33
4H045AA10
4H045BA17
4H045BA50
4H045BA55
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA20
4H045FA33
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、眼組織内への薬物の移行性を改善できる眼科用医薬組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、薬物と、細胞膜透過性ペプチド又はその塩と、脂質ナノ粒子と、を含む眼科用医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物と、細胞膜透過性ペプチド又はその塩と、脂質ナノ粒子と、を含む眼科用医薬組成物。
【請求項2】
前記薬物、及び前記細胞膜透過性ペプチド又はその塩が、前記脂質ナノ粒子に含まれる、請求項1に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項3】
前記薬物が、前記脂質ナノ粒子の中空内に内包され、かつ、
前記細胞膜透過性ペプチド又はその塩の一部又は全部が、前記脂質ナノ粒子の脂質層内に含まれる、請求項2に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項4】
前記薬物が、核酸を含む、請求項1から3のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【請求項5】
前記細胞膜透過性ペプチドが、ペネトラチン又はその誘導体を含む、請求項1から4のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【請求項6】
前記ペネトラチン又はその誘導体の含有量が、眼科用医薬組成物に対して、0.0001%(w/v)以上5%(w/v)以下である、請求項5に記載の眼科用医薬組成物。
【請求項7】
前記脂質ナノ粒子が、pH応答性カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール化脂質からなる群から選択される1以上を含む、請求項1から6のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【請求項8】
前記脂質ナノ粒子の平均粒子径が、10nm以上900nm以下である、請求項1から7のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【請求項9】
前記脂質ナノ粒子のゼータ電位が、正電荷である、請求項1から7のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の眼科用医薬組成物を用いた、眼内への薬物の移行促進方法。
【請求項11】
ペネトラチンと、炭素数3以上30以下の脂肪酸とが結合した、脂肪酸ペネトラチン。
【請求項12】
前記脂肪酸がアラキジン酸である、請求項11に記載の脂肪酸ペネトラチン。
【請求項13】
薬物、細胞膜透過性ペプチド又はその塩、及び脂質の混合液を撹拌する工程を含む、
薬物と、細胞膜透過性ペプチド又はその塩と、脂質ナノ粒子と、を含む眼科用医薬組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用医薬組成物、眼内への薬物の移行促進方法、脂肪酸ペネトラチン、及び眼科用医薬組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用の薬物を投与する方法として、点眼剤による点眼投与が汎用されている。しかし、点眼投与された薬物が眼組織内へ移行する割合は高くないことが知られる。
【0003】
点眼剤の生物学的利用能を改善する目的で、種々のドラッグデリバリーシステムが開発されている。
このようなドラッグデリバリーシステムとして、細胞膜透過性ペプチドを利用した眼科用ドラッグデリバリーシステムが報告されている(例えば、非特許文献1及び2)。
さらに、細胞膜透過性ペプチドは、脂質ナノ粒子に組み込むことで、インスリンの経口投与における生物学的利用能が向上することが報告されている(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Vision Res.,2010,50(7),686-697
【非特許文献2】J.Cell.Mol.Med.,2010,14(7),1998-2005
【非特許文献3】International Journal of Nanomedicine 2019:14 9127-9138
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば、薬物(核酸等)について、眼組織内への移行性を改善できる技術は依然として充分ではない。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、眼組織内への薬物の移行性を改善できる眼科用医薬組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、眼科用医薬組成物において、薬物と、細胞膜透過性ペプチド又はその塩と、脂質ナノ粒子とを配合することで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成させた。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 薬物と、細胞膜透過性ペプチド又はその塩と、脂質ナノ粒子と、を含む眼科用医薬組成物。
【0009】
(2) 前記薬物、及び前記細胞膜透過性ペプチド又はその塩が、前記脂質ナノ粒子に含まれる、(1)に記載の眼科用医薬組成物。
【0010】
(3) 前記薬物が、前記脂質ナノ粒子の中空内に内包され、かつ、
前記細胞膜透過性ペプチド又はその塩の一部又は全部が、前記脂質ナノ粒子の脂質層内に含まれる、(2)に記載の眼科用医薬組成物。
【0011】
(4) 前記薬物が、核酸を含む、(1)から(3)のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【0012】
(5) 前記細胞膜透過性ペプチドが、ペネトラチン又はその誘導体を含む、(1)から(4)のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【0013】
(6) 前記ペネトラチン又はその誘導体の含有量が、眼科用医薬組成物に対して、0.0001%(w/v)以上5%(w/v)以下である、(5)に記載の眼科用医薬組成物。
【0014】
(7) 前記脂質ナノ粒子が、pH応答性カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール化脂質からなる群から選択される1以上を含む、(1)から(6)のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【0015】
(8) 前記脂質ナノ粒子の平均粒子径が、10nm以上900nm以下である、(1)から(7)のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【0016】
(9) 前記脂質ナノ粒子のゼータ電位が、正電荷である、(1)から(7)のいずれかに記載の眼科用医薬組成物。
【0017】
(10) (1)から(9)のいずれかに記載の眼科用医薬組成物を用いた、眼内への薬物の移行促進方法。
【0018】
(11) ペネトラチンと、炭素数3以上30以下の脂肪酸とが結合した、脂肪酸ペネトラチン。
【0019】
(12) 前記脂肪酸がアラキジン酸である、(11)に記載の脂肪酸ペネトラチン。
【0020】
(13) 薬物、細胞膜透過性ペプチド又はその塩、及び脂質の混合液を撹拌する工程を含む、
薬物と、細胞膜透過性ペプチド又はその塩と、脂質ナノ粒子と、を含む眼科用医薬組成物の製造方法。
【0021】
なお、前記(1)から(13)の各構成は、任意に2以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、眼組織内への薬物の移行性を改善できる眼科用医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例で採用したアラキジン酸ペネトラチンのFmoc固相合成の概要を示す図である。
【
図2】実施例で得られたアラキジン酸ペネトラチンの構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0025】
<本発明の眼科用医薬組成物>
本発明の眼科用医薬組成物は、薬物と、細胞膜透過性ペプチド又はその塩と、脂質ナノ粒子と、を含む。
【0026】
本発明者らは、薬物の眼組織内への移行性が、細胞膜透過性ペプチド又はその塩、及び脂質ナノ粒子の存在下では顕著に改善することを見出した。
【0027】
本発明において、「薬物の眼組織内への移行性が改善する」とは、細胞膜透過性ペプチド又はその塩、及び脂質ナノ粒子が存在する条件下での薬物の眼細胞内取り込み量が、細胞膜透過性ペプチド又はその塩、及び脂質ナノ粒子が存在しない場合と比較して、増加することを意味する。
薬物の眼細胞内取り込み量は、薬物を投与した各組織を採取して、組織中の薬物量を高速液体クロマトグラフィーで測定したり、或いは、薬物を蛍光標識し、眼細胞に取り込まれた薬物の発する蛍光を蛍光顕微鏡で測定したりすることで特定できる。
【0028】
本発明によれば、薬物の眼細胞内取り込み量が向上する結果、薬物の眼組織内への移行性が改善される。
【0029】
以下、本発明の眼科用医薬組成物の構成について詳述する。
【0030】
(薬物)
本発明において「薬物」とは、眼疾患用の医薬組成物に配合され得る任意の薬効成分が挙げられる。
【0031】
本発明の眼科用医薬組成物には、薬物を、1種単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。本発明の眼科用医薬組成物には、薬物を1種単独で配合することが好ましい。
【0032】
本発明における「薬物」には、水溶性薬物、及び難水溶性薬物(油溶性薬物等)のいずれもが包含される。
ただし、本発明の効果が奏され易いという観点から、本発明の眼科用医薬組成物には、薬物として水溶性薬物を配合することが好ましく、薬物として水溶性薬物のみを配合することがより好ましい。
【0033】
薬物が「水溶性」又は「難水溶性」であるかどうかは、水に対する薬物の溶解度を測定することで特定できる。
「溶解度」は、例えば、日本薬局方に従い、薬物を水に入れ、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶ける度合いにより測定できる。
【0034】
「水溶性」とは、(1)薬物1gを溶かすのに必要な水の量が30mL未満であること、及び(2)37℃における薬物の水に対する溶解度が33mg/mL超であることのうち、いずれか又は両方を満たすことを意味する。
【0035】
「難水溶性」とは、(1)薬物1gを溶かすのに必要な水の量が30mL以上であること、及び(2)37℃における薬物の水に対する溶解度が33mg/mL以下であることのうち、いずれか又は両方を満たすことを意味する。
【0036】
本発明における水溶性薬物は、薬物1gを溶かすのに必要な水の量の下限が、好ましくは0.0001mL以上、より好ましくは0.001mL以上、より好ましくは0.005mL以上、さらに好ましくは0.01mL以上である。
本発明における水溶性薬物は、薬物1gを溶かすのに必要な水の量の上限が、好ましくは30mL以下、より好ましくは10mL以下、より好ましくは5mL以下、さらに好ましくは1mL以下である。
【0037】
本発明における水溶性薬物は、37℃における薬物の水に対する溶解度の下限が、好ましくは33mg/mL超、より好ましくは50mg/mL以上、さらに好ましくは100mg/mL以上である。
本発明における水溶性薬物は、37℃における薬物の水に対する溶解度の上限が、好ましくは1000mg/mL以下、より好ましくは500mg/mL以下、さらに好ましくは300mg/mL以下である。
【0038】
本発明における難水溶性薬物は、薬物1gを溶かすのに必要な水の量の下限が、好ましくは100mL以上、より好ましくは300mL以上、さらに好ましくは1000mL以上、特に好ましくは3000mL以上、最も好ましくは10000mL以上である。
本発明における難水溶性薬物は、薬物1gを溶かすのに必要な水の量の上限が、好ましくは10000L以下、より好ましくは1000L以下、より好ましくは300L以下、さらに好ましくは100L以下である。
【0039】
本発明における難水溶性薬物は、37℃における薬物の水に対する溶解度の下限が、好ましくは10mg/mL以下、より好ましくは3mg/mL以下、さらに好ましくは1mg/mL以下、特に好ましくは0.3mg/mL以下、最も好ましくは0.1mg/mL以下である。
本発明における難水溶性薬物は、37℃における薬物の水に対する溶解度の上限が、好ましくは0.0001μg/mL以下、より好ましくは0.001μg/mL以下、さらに好ましくは0.01μg/mL以下である。
【0040】
薬物の種類は、眼科用医薬組成物に配合される任意の成分であり得る。
薬物は、任意の方法で修飾されたものであってもよい。
【0041】
水溶性薬物としては、核酸、ペプチド、タンパク、抗体、低分子化合物等が挙げられる。
【0042】
核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)が挙げられる。
より具体的な核酸としては、siRNA、mRNA、tRNA、rRNA、cDNA、miRNA、環状プラスミドDNA等が挙げられる。
【0043】
水溶性薬物のその他の例としては、炭酸脱水素酵素阻害剤、ベータ受容体遮断薬、非ステロイド性抗炎症剤、血管新生阻害薬、ペプチド性ホルモン、抗サイトカイン抗体等が挙げられる。
【0044】
本発明の効果が奏され易いという観点から、水溶性薬物は、核酸を含むものが好ましく、核酸のみからなるものが好ましい。
【0045】
難水溶性薬物としては、ステロイド、プロスタグランジン等が挙げられる。
【0046】
本発明において、薬物が難水溶性薬物であり、かつ、該薬物が脂質ナノ粒子の中空内に内包される態様である場合、脂質ナノ粒子内に薬物が分散し易いという観点から、難水溶性薬物の含量はより低いことが好ましい。
【0047】
(細胞膜透過性ペプチド又はその塩)
本発明において「細胞膜透過性ペプチド」とは、細胞膜を透過する性質を有する任意のペプチドである。具体的には、所望の薬物と共存した状態で投与した際、細胞膜透過性ペプチドが存在しない状態で投与した場合と比較して、薬物の細胞内への透過性を向上(例えば、透過量の増加)できる任意のペプチドを指す。
【0048】
薬物の細胞内への透過性は、薬物を投与した各組織を採取して、組織中の薬物量を高速液体クロマトグラフィーで測定したり、或いは、薬物を蛍光標識し、眼細胞に取り込まれた薬物の発する蛍光を蛍光顕微鏡で測定したりすることで特定できる。
【0049】
本発明の眼科用医薬組成物には、細胞膜透過性ペプチド又はその塩を、1種単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0050】
細胞膜透過性ペプチドの種類は、ともに配合される薬物や脂質ナノ粒子の種類等に応じて適宜選択できる。
【0051】
細胞膜透過性ペプチドの分子量としては、特に制限はないが、800以上8000以下が好ましく、900以上6000以下がより好ましく、1000以上4000以下が特に好ましい。
【0052】
細胞膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸は、多くのアルギニン残基を含むことが好ましい点以外は特に制限はなく、天然アミノ酸でも非天然アミノ酸でもよい。
【0053】
細胞膜透過性ペプチドのアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、6以上50以下が好ましく、6以上40以下がより好ましく、6以上30以下が特に好ましい。
【0054】
細胞膜透過性ペプチドは、アルギニン残基に富むことが好ましく、具体的には、ペプチド中に、3以上、より好ましくは4以上、特に好ましくは5以上のアルギニン残基を含んでいてもよい。
【0055】
細胞膜透過性ペプチドは、6以上50以下のアミノ酸残基を含み、そのうち3以上の残基がアルギニン残基であるペプチドが好ましい。
細胞膜透過性ペプチドは、6以上40以下のアミノ酸残基を含み、そのうち4以上の残基がアルギニン残基であるペプチドがより好ましい。
細胞膜透過性ペプチドは、6以上30以下のアミノ酸残基を含み、そのうち5以上の残基がアルギニン残基であるペプチドが特に好ましい。
上記態様において、アルギニンは、各々独立してL体でもD体でもよい。
【0056】
細胞膜透過性ペプチドは、C末端、N末端、及び側鎖のうちいずれか1以上又は全てが修飾されたペプチド(細胞膜透過性ペプチドの誘導体)であってもよい。
カルボキシ基の修飾の具体例としては、アミド化(アミド化(CONH2)、メチルアミド化等)、エステル化(メチルエステル化、エチルエステル化等)等が挙げられる。
アミノ基の修飾の具体例としては、アセチル化、アミド化(ホルミル化等)、メチル化、アルキル化(ジメチル化等)等が挙げられる。
水酸基の修飾の具体例としては、エステル化(アセチル化等)、リン酸化等が挙げられる。
チオール基の修飾の具体例としては、アルキル化(メチル化等)等が挙げられる。
【0057】
細胞膜透過性ペプチドは、細胞膜透過性ペプチドの塩であってもよい。塩としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はない。
細胞膜透過性ペプチドの塩としては無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。
【0058】
無機酸との塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、又はリン酸との塩等が挙げられる。これらのうち、塩酸塩が好ましい。
【0059】
有機酸との塩の例としては、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、アラニン、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、没食子酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸、又はトリフルオロ酢酸との塩等が挙げられる。
【0060】
細胞膜透過性ペプチド及びその塩の形態は、水和物又は溶媒和物であってもよい。
【0061】
細胞膜透過性ペプチドとしては、具体的には、以下のものが挙げられる。なお、以下の細胞膜透過性ペプチドを構成するアミノ酸の立体配置は、特に断りのない限りL体であり、D体のアミノ酸から構成される場合は、例えば、「D-R8-NH2」等と立体を明記した。
R8(アミノ酸配列;RRRRRRRR、配列番号1)
R8-NH2(アミノ酸配列;RRRRRRRR-NH2、配列番号2)
HIV-TAT (48-60)(アミノ酸配列;GRKKRRQRRRPPQ、配列番号3)
ペネトラチン(アミノ酸配列;RQIKIWFQNRRMKWKK、配列番号4)
HIV-TAT (47-57)(アミノ酸配列;YGRKKRRQRRR、配列番号5)
pVEC(アミノ酸配列;LLIILRRRIRKQAHAHSK、配列番号6)-NH2
Transportan (TP10)(アミノ酸配列;AGYLLGKINLKALAALAKKIL、配列番号7)-NH2
Protein transduction domains sequence(アミノ酸配列;ARKKAAKA、配列番号8)
HIV-1 Rev (34-50)(アミノ酸配列;KQAIPVAK、配列番号9)-amide
FHV coat(35-49)(アミノ酸配列;RRRRNRTRRNRRRVR、配列番号10)-amide
Oligoarginines (R9-R12)(アミノ酸配列;RRRRRRRRR、配列番号11)/(RRRRRRRRRRRR、配列番号12)
CCMV Gag (7-25)(アミノ酸配列;KLTRAQRRAAARKNKRNTRGC、配列番号13)
Chimeric dermaseptin S4 and SV40 ‘S413-PV’(アミノ酸配列;ALWKTLLKKVLKAPKKKRKVC、配列番号14)
Herpes simplex virus transcription factor (267-300) VP22(アミノ酸配列;DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPRRPVE、配列番号15)
(Chimeric galanin/mastoparan) Transportan(アミノ酸配列;GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL、配列番号16)-amide
CPP with protease cleavage side YTA2(アミノ酸配列;YTAIAWVKAFIRKLRK、配列番号17)-amide
Pep-1(アミノ酸配列;Ac-KETWWETWWTEWSQPKKKRKV、配列番号18)-NH-CH2-CH2-SH
MPGα(アミノ酸配列;Ac-GALFLAFLAAALSLMGLWSQPKKKRKV、配列番号19)-NH-CH2-CH2-SH
MPGβ(アミノ酸配列;Ac-GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKKKRKV、配列番号20)-NH-CH2-CH2-SH
MPG8β(アミノ酸配列;AFLGWLGAWGTMGWSPKKRK、配列番号21)-NH-CH2-CH2-SH
CADY(アミノ酸配列;Ac-GLWRALWRLLRSLWRLLWKA、配列番号22)-NH-CH2-CH2-SH
Pepfect6 Stearyl-AGYLLGK(ε-TMQ)INLKALAALAKKIL(配列番号23)
PepFect14 Stearyl-AGYLLGKLLOOLAAAALOOLL(配列番号24)-amide
PepFect 15 Stearyl-AGYLLGK(K3QN4)LLOOLAAAALOOLL(配列番号25)-amide
NickFect NF61: Stearyl-AGYLLGOINLKALAALAKKIL(配列番号26)-amide
Hel 11-27(アミノ酸配列;KLLKLLLKLWKLLLKLLK、配列番号27)
InfluencaHA-2 (1-20) KALA sequence(アミノ酸配列;WEAKLAKALAKALAHLAKALAKALKACEA、配列番号28)
KLA sequence Acetyl-KLALKLALKALKAALKLA(配列番号29)-amide
sC18(アミノ酸配列;GLRKRLRKFRNKIKEK、配列番号30)
(Vascular endothelial cadherin) pVEC(アミノ酸配列;LLIILRRRIRKQAHAHSK、配列番号31)-amide
Kaposis sarcoma fibroblast growth factor Kaposi FGF(アミノ酸配列;AAVALLPAVLLALLAP、配列番号32)
Signal sequence of Ig light chain from Caiiman crocodylus(アミノ酸配列;MGLGLHLLVLAAALQGAMGLGLHLLLAAALQGA、配列番号33)
Integrin β3-fragment(アミノ酸配列;VTVLAGALAGVGVG、配列番号34)
Grb2 (SH2 domain)(アミノ酸配列;AAVLLPVLLAAP、配列番号35)
Fusion sequence HIV-1 gp41(1-23)(アミノ酸配列;GALFLGFLGAAGSTMGA、配列番号36)
Hepatitis B virus translocation motif(アミノ酸配列;PLSSIFSRIGDP、配列番号37)
Sperm-egg fusion protein (89-111) SFP23(アミノ酸配列;Ac-KLIATGISSIPPIRALFAAIQIP、配列番号38)-amide
Human calcitonin partial sequence 9-32, hCT(9-32)-br, LGTYTQDFNK(X)FHTFPQTAIGVGAP(配列番号39)-amide
X(アミノ酸配列;PKKKRKVEDPGVGFA、配列番号40)
hCT(18-32)-br, Capr-K(X)(アミノ酸配列;FHTFPQTAIGVGAP、配列番号41)-amide
X(アミノ酸配列;KKRKAPKKKRKFA、配列番号42)
Substance P and analogs(アミノ酸配列;RPKPQQFGLM、配列番号43)-amide
RGD peptides αvβ3 RGD-Temporin-LA
RGD-Dye RGD-bearing PAMAM dendrimers
RGD peptides αvβ3
αvβ5 Cilengitide
Cyclo[RGDfNmeV]
RGD peptide Cyclo(RGDfK)
cyclo(RGDyK)
RGD peptides α5β1 RGD mimic
AGR (prostata carcinoma)(アミノ酸配列;CAGRRSAYC、配列番号44)
LyP-2 (skin and cervix tumor)(アミノ酸配列;CNRRTKAGC、配列番号45)
REA (prostata, cervix, breast carcinoma)(アミノ酸配列;CREAGRKAC、配列番号46)
LSD (melanoma, osteosarcoma)(アミノ酸配列;CLSDGKRKC、配列番号47)
Mastoparan(アミノ酸配列;INLKALAALAKKIL、配列番号48)-amide
Mellitin(アミノ酸配列;GIGAVLKVLTTGLPALISWIKRKRQQ、配列番号49)-amide
Scorpion toxin(アミノ酸配列;MAUROCALCINE) with replacement of C by Abu GDAbuLPHLKLAbuKENKDAbuAbuSKKAbuKRRGTNIEKRAbuR(配列番号50)
Mini maurocalcine peptides MCaUF1-9
GDAbuLPHLKL(配列番号51)
Rattle snake toxin (Crotamine) derived NrTP6(アミノ酸配列;YKQSHKKGGKKGSG、配列番号52)
CPP5 VPTLK
CPP5 KLPVM
Bac7 (1-35)(アミノ酸配列;RRIRPRPRLPRPRPRPLPFPRGPRPIPRPLPFP、配列番号53)
Bac7 (5-35)(アミノ酸配列;PRPRLPRPRPRPRPLPFPRGPRPIPRPLPFP、配列番号54)
Protegrin-1(アミノ酸配列;RGGRLCYCRRRFCVCVGR、配列番号55)
Lactoferrin sequences(アミノ酸配列;VSQPEATKCFQWQRNMRKVRGPPVSCIKRDSPIQI、配列番号56)
Partial sequences 1-24 Bovine PrP 1-24(アミノ酸配列;MVKSKIGSWILVLFVAMWSDVGLC、配列番号57)
Partial sequences 1-30 Bovine PrP 1-30(アミノ酸配列;MVKSKIGSWILVLFVAMWSDVGLCKKRPKP、配列番号58)
Histidine-rich CPP HR9(アミノ酸配列;C-HHHHH-RRRRRRRRR-HHHHH-C、配列番号59)
Branched copolymers Poly(Lys)
poly(Orn)
poly[Lys(Glun,Alam)]
Sweet arrow peptide (SAP)(アミノ酸配列;VRLPPP、配列番号60)3
Amphipathic negative CPP SAP(E)(アミノ酸配列;VELPPP、配列番号61)3
Negative charged polymer Polyglutamic acid
MMP (2,9)-activatable CPP Suc-(D-Glu)8-PLGC(Me)AG(配列番号62)-(D-Arg)9-amide
Thrombin-activatable CPP Suc-(D-Glu)8-xPLGLAG(配列番号63)-(D-Arg)9-D-C-Cy5 Suc-(D-Glu)8-Ox-DPRSFL(配列番号64)-(D-Arg)9-amide
pH-sensitive (activatable) cell-penetrating peptides pHLIP(アミノ酸配列;AEQNPIYWARYADWLFTTPLLLLELALLVDADEGT、配列番号65)
KKLADap(Me2)AL Dap(Me2)LLALLWLDap(Me2)LADap(Me2)ALKKA-amide
ε-Lys succinyl amide
Viral fusion protein sequence Repeat-sequence(アミノ酸配列;EALAWEAALAEALAEALAEHLAEALAEALAEALEALAA、配列番号66)
pH-sensitive R8-construct Stearoyl-RRRRRRRR-(EALA)n
Redox protein azurin ‘p18’ Azurin Leu50-Gly67(アミノ酸配列;LSTAADMQGVVTDMGASG、配列番号67)
Redox protein azurin ‘p28’ Azurin Leu50-Asp77(アミノ酸配列;LSTAADMQGVVTDMGASGLDKDYLKPDD、配列番号68)
Influenca HA-2 (1-20) KALA sequence(アミノ酸配列;WEAKLAKALAKALAHLAKALAKALKACEA、配列番号69)
NickFects NF61: Stearyl-AGYLLGOINLKALAALAKKIL(配列番号70)-amide
Nonaarginine (R9) RRRRRRRRR, Stearylated arginine-rich peptides Stearyl-RRRRRRRR
Amphipathic peptide Td3701(アミノ酸配列;TRYLRIHPRSWVHQIALRLRYLRIHPRSWVHQIALRS、配列番号71)
Amphipathic helical peptide ppTG1(アミノ酸配列;GLPKALLKLLKSLWKLLLKA、配列番号72)
Human calcitonin partial sequence 9-32
hCT(9-32)-br(アミノ酸配列;LGTYTQDFNK(X)FHTFPQTAIGVGAP、配列番号73)-amide
X(アミノ酸配列;PKKKRKVEDPGVGFA、配列番号74)
Cell-penetrating DNA-binding protein(アミノ酸配列;YARVRRRGPRR、配列番号75)
(Hph-1)-GAL4(DNA-binding domain)
Simian virus 40 large T-antigen (NLS)(アミノ酸配列;PKKKRK、配列番号76)
Stearylated NLS Stearyl-PKKKRKV(配列番号77)
Homodimeric NLS (C-terminal)(アミノ酸配列;GYGPKKKRKVGGC、配列番号78)2
Nucleoplasmin NLS
bipartite NLS(アミノ酸配列;KRPAATKKAGQAKKKK、配列番号79)
Ku702-NLS(アミノ酸配列;C-GSKGARPAKKRKPKRGAAHK-HAGAKVRKTVTGAKK、配列番号80)
ADAR1 NLS(アミノ酸配列;MMPNVKRKIGELVRYLNTNPVG、配列番号81)
GluOct6(アミノ酸配列;EEEAAGRKRKKRT、配列番号82)
ReIB 405YGVDKKRKRGMPDVLGELNS424-425SDPMGIESKRRKKKPAILDHFL446(配列番号83)
Dermaseptin-peptide K4-NLS PVK(アミノ酸配列;PKKKRLKVAKWKTLLKKVLKA、配列番号84)-amide
Nucleolar targeting peptide(アミノ酸配列;YKQCHKKGGXKKGSG、配列番号85)
Opioid peptides Dimethytyrosine-rFKF-NH2
Mitochondria-penetrating peptides F-r-F-K-F-r-F-K
Mitoparan NLKKLAKL(Aib)KKIL(配列番号86)
Lysosomal sorting sequences L1(アミノ酸配列;YQRLC、配列番号87)
Lysosomal sorting sequences L2(アミノ酸配列;CNPGY、配列番号88)
289-W(アミノ酸配列;RWIKIWFWWRRMKWKK、配列番号89)
L17E(アミノ酸配列;IWLTALKFLGKHAAKHEAKQQLSKL、配列番号90)
L-K6(アミノ酸配列;IKILSKIKKLLK、配列番号91)
【0062】
上記の細胞膜透過性ペプチドのうち、本発明の効果を奏し易いという観点から、以下が好ましい。
R8
R8-NH2
ペネトラチン(アミノ酸配列;RQIKIWFQNRRMKWKK、配列番号4)
HIV-TAT (47-57)(アミノ酸配列;YGRKKRRQRRR、配列番号5)
HIV-TAT (48-60)(アミノ酸配列;GRKKRRQRRRPPQ、配列番号3)
pVEC(アミノ酸配列;LLIILRRRIRKQAHAHSK、配列番号6)-NH2
Transportan(TP10)(アミノ酸配列;AGYLLGKINLKALAALAKKIL、配列番号7)-NH2
Protein transduction domains sequence(アミノ酸配列;ARKKAAKA、配列番号8)
289-W(アミノ酸配列;RWIKIWFWWRRMKWKK、配列番号89)
L17E(アミノ酸配列;IWLTALKFLGKHAAKHEAKQQLSKL、配列番号90)
L-K6(アミノ酸配列;IKILSKIKKLLK、配列番号91)
【0063】
上記の細胞膜透過性ペプチドのうち、本発明の効果を奏し易いという観点から、以下がより好ましい。
R8
R8-NH2、
ペネトラチン(アミノ酸配列;RQIKIWFQNRRMKWKK、配列番号4)
pVEC(アミノ酸配列;LLIILRRRIRKQAHAHSK、配列番号6)-NH2
289-W(アミノ酸配列;RWIKIWFWWRRMKWKK、配列番号89)
L17E(アミノ酸配列;IWLTALKFLGKHAAKHEAKQQLSKL、配列番号90)
L-K6(アミノ酸配列;IKILSKIKKLLK、配列番号91)
【0064】
上記の細胞膜透過性ペプチドのうち、本発明の効果を奏し易いという観点から、ペネトラチン(アミノ酸配列;RQIKIWFQNRRMKWKK、配列番号4)又はその誘導体が特に好ましい。
ペネトラチンの誘導体としては、脂肪酸ペネトラチン、コレステロールが結合したペネトラチン等が挙げられる。
【0065】
脂肪酸ペネトラチンとしては、ペネトラチンと、直鎖又は分枝の飽和又は不飽和脂肪酸とが結合したものが挙げられる。より具体的には、ペネトラチンのN末端又は側鎖の1又は複数のアミノ基と、直鎖又は分枝の飽和又は不飽和脂肪酸のカルボキシル基とが脱水縮合して得られるアミドが挙げられる。
【0066】
脂肪酸ペネトラチンにおいて、ペネトラチンと結合する直鎖又は分枝の飽和又は不飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは1以上50以下、より好ましくは3以上30以下、さらにより好ましくは5以上25以下である。
直鎖飽和脂肪酸の具体例としては、プロパン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、へプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸が挙げられる。
分枝飽和脂肪酸の具体例としては、2-メチルプロパン酸、4-メチルペンタン酸、5-メチルヘキサン酸、6-メチルヘプタン酸、7-メチルオクタン酸、8-メチルノナン酸、9-メチルデカン酸、11-メチルドデカン酸、13-メチルテトラデカン酸、14-メチルペンタデカン酸、15-メチルヘキサデカン酸、16-メチルへプタデカン酸、17-メチルオクタデカン酸、19-メチルエイコサン酸、18-メチルエイコサン酸、2-メチルヘプタデカン酸、10-メチルオクタデカン酸、2-オクチルドデカン酸、2-エチルドデカン酸、2-メチルノナデカン酸が挙げられる。
不飽和直鎖脂肪酸の具体例としては、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、アラキドン酸が挙げられる。分枝不飽和脂肪酸の具体例として、2-エテニルテトラドデカン酸、2-(7-オクテン-1-イル)-9-デセン酸、2-メチル-16-ヘプタデセン酸、2-ヘプチル-10-ウンデセン酸、2-(4-ペンテン-1-イル)トリデカン酸、(9Z,12Z,15Z)-2-エチル-9,12,15-オクタデカトリエン酸、(9Z)-2-エチル-9-オクタデセン酸、6-メチル-10-ノナデセン酸が挙げられる。
【0067】
本発明の効果を奏し易いという観点から、脂肪酸ペネトラチンは、ペネトラチンのN末端のアミノ基と、アラキジン酸のカルボキシル基とが脱水縮合して得られるアミド(アラキジン酸ペネトラチン、
図2参照。)が好ましい。
【0068】
脂肪酸ペネトラチンは、実施例に示したFmoc固相合成等によって作製できる。
【0069】
コレステロールが結合したペネトラチンとしては、コレステロールの3位のヒドロキシル基と、ペネトラチンとが結合したものが挙げられる。
より具体的には、ペネトラチンのN末端と、コレステロールの3位のヒドロキシル基とが、リンカーを介することで得られる誘導体が挙げられる。
リンカーとしては、カルボニル、アルキレン、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンカルボニル、芳香族、リン酸、及び糖等、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。より具体的なリンカーとしては、カルボニル、メチレン、エチレン、プロピレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンカルボニル、アリール化合物、複素環、リン酸、及びグルコース等、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0070】
(脂質ナノ粒子)
本発明において「脂質ナノ粒子」(lipid nanoparticle、LNP)とは、リン脂質、コレステロール、pH応答性カチオン性脂質等を含む脂質由来の薬物担体としても知られる担体である。
【0071】
脂質を構成成分とする担体としては、脂質ナノ粒子のほか、リポソームが知られている。
リポソームとは、二重の脂質膜構造(脂質二重膜)を有する球形の小胞であり、水層を含むコアを有する。薬物は、該コアに封入できる。
脂質ナノ粒子は、球形である点や、脂質を構成成分とする点でリポソームと共通する特徴を有する。しかし、脂質ナノ粒子は、単層の脂質膜構造を有し、かつ、水層を含むコアを有さない。脂質ナノ粒子の内部は、脂質が詰まった小胞を有し、薬物は、該小胞に封入できる。
したがって、脂質ナノ粒子と、リポソームとは実質的に異なる担体である。
【0072】
本発明の眼科用医薬組成物には、脂質ナノ粒子を、1種単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0073】
本発明の効果を奏し易いという観点から、脂質ナノ粒子は、pH応答性カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール化脂質からなる群から選択される1以上を含むことが好ましく、pH応答性カチオン性脂質、リン脂質及びコレステロールを含むことがより好ましく、pH応答性カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール化脂質を含むことが最も好ましい。
【0074】
pH応答性カチオン性脂質としては、DLin-DMA(1,2-dilinoleyloxy-3-dimethylaminopropane)、DLin-MC3-DMA(1,2-dilinoleyloxy-N,N-dimethyl-3-aminopropane)、DLin-KC2-DMA(2,2-dilinoleyl-4-(2-dimethylaminoethyl)-[1,3]-dioxolane)、DODMA(1,2-dioleyloxy-3-dimethylaminopropane)、DOTAP(1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane)、「COATSOME(登録商標) SS-series」等が挙げられる。
【0075】
リン脂質としては、ホスファチジルコリン類(ジパルミトイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファスフィンゴミエリン類等が挙げられる。
【0076】
ポリエチレングリコール化脂質は、「PEG化脂質」とも称され、1,2-Dimyristoyl-rac-glycero-3-methoxypolyethylene glycol-2000(DMG-PEG 2000)が挙げられる。
【0077】
脂質ナノ粒子の構成成分の比率は特に限定されないが、以下を満たしていてもよい。
脂質ナノ粒子において、カチオン性脂質:リン脂質:コレステロール=52.5:7.5:40(モル比)であってもよい。
PEG化脂質を含む場合、カチオン性脂質:リン脂質:コレステロール:PEG化脂質=51.7:7.4:39.3:1.6(モル比)であってもよい。
【0078】
脂質ナノ粒子の平均粒子径は、本発明の効果を奏し易いという観点から、好ましくは10nm以上900nm以下、より好ましくは30nm以上500nm以下、さらに好ましくは40nm以上400nm以下、さらに好ましくは50nm以上300nm以下である。
本発明において脂質ナノ粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって特定する。
【0079】
脂質ナノ粒子のゼータ電位は、本発明の効果を奏し易いという観点から、正電荷である。
本発明において脂質ナノ粒子のゼータ電位は、電気泳動光散乱法に基づき特定する。
本発明の眼科用医薬組成物のゼータ電位の下限は、好ましくは0以上、より好ましくは5以上、さらにより好ましくは15以上である。
本発明の眼科用医薬組成物のゼータ電位の上限は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下である。
【0080】
脂質ナノ粒子の作製方法は特に限定されず、材料である脂質等を有機溶媒(エタノール等)に溶解した油層と、薬物を溶解した水層とを混合し、マイクロ流路デバイスやボルテックスミキサー等で充分に撹拌する方法が挙げられる。
【0081】
(その他の成分)
本発明の眼科用医薬組成物には、上記成分に加え、必要に応じて添加剤を配合してもよい。添加剤としては、医薬品(特に、点眼液や硝子体内注射剤)の添加物として知られる任意の成分を使用でき、例えば、緩衝化剤(リン酸又はその塩、及びそれらの水和物等)、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、粘稠化剤、pH調整剤等が挙げられる。
このような添加剤の種類や配合量は、得ようとする効果に応じて設定できる。
【0082】
(成分の配合量)
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる薬物、細胞膜透過性ペプチド又はその塩、及び脂質ナノ粒子の量は、得ようとする効果に応じて適宜設定できる。以下に、本発明の眼科用医薬組成物に含まれる各成分の含有量を例示する。
【0083】
なお、以下、「%(w/v)」とは、本発明の眼科用医薬組成物100mL中に含まれる各対象成分それぞれの質量(単位:g)を意味する。
また、対象成分が塩や水和物や溶媒和物である場合、下記の値は、塩や水和物や溶媒和物の質量を基準にした値、及び、対象成分のフリー体の質量を基準にした値のいずれも包含する。
【0084】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる薬物の量の下限は、例えば、0.001%(w/v)以上、0.005%(w/v)以上、0.01%(w/v)以上、0.02%(w/v)以上であり得る。
【0085】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる薬物の量の上限は、例えば、50%(w/v)以下、30%(w/v)以下、20%(w/v)以上、10%(w/v)以下であり得る。
【0086】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる薬物の量は、例えば、0.001%(w/v)以上50%(w/v)以下、0.005%(w/v)以上30%(w/v)以下、0.01%(w/v)以上20%(w/v)以下、0.02%(w/v)以上10%(w/v)以下であり得る。
【0087】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩の量の下限は、例えば、0.000008%(w/v)以上、0.00008%(w/v)以上、0.0008%(w/v)以上、0.008%(w/v)以上であり得る。
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩の量の下限は、例えば、0.0001mM以上、0.001mM以上、0.01mM以上、0.05mM以上であり得る。
【0088】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩の量の上限は、例えば、8%(w/v)以下、4%(w/v)以下、1.6%(w/v)以上、0.8%(w/v)以下であり得る。
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩の量の上限は、例えば、10mM以下、5mM以下、2mM以下、1mM以下であり得る。
【0089】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩の量は、例えば、0.000008%(w/v)以上8%(w/v)以下、0.00008%(w/v)以上4%(w/v)以下、0.008%(w/v)以上1.6%(w/v)以下であり得る。
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩の量は、例えば、0.0001mM以上10mM以下、0.001mM以上5mM以下、0.01mM以上2mM以下、0.05mM以上1mM以下であり得る。
【0090】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩がペネトラチン又はその誘導体である場合、その量の下限は、例えば、0.00001%(w/v)以上、0.0001%(w/v)以上、0.001%(w/v)以上、0.01%(w/v)以上であり得る。
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩がペネトラチン又はその誘導体である場合、その量の下限は、例えば、0.0001mM以上、0.001mM以上、0.01mM以上、0.05mM以上であり得る。
【0091】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩がペネトラチン又はその誘導体である場合、その量の上限は、例えば、2.5%(w/v)以下、1.5%(w/v)以下、0.5%(w/v)、0.3%(w/v)以下であり得る。
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩がペネトラチン又はその誘導体である場合、その量の上限は、例えば、10mM以下、5mM以下、2mM以下、1mM以下であり得る。
【0092】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩がペネトラチン又はその誘導体である場合、その量は、例えば、0.00001%(w/v)(0.0001mM)以上2.5%(w/v)(10mM)以下、0.0001%(w/v)(0.001mM)以上1.5%(w/v)(5mM)以下、0.001%(w/v)(0.01mM)以上0.5%(w/v)(2mM)以下、0.01%(w/v)(0.05mM)以上0.3%(w/v)(1mM)以下であり得る。
【0093】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる脂質ナノ粒子の構成成分であるpH応答性カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール化脂質の量(総量)の下限は、例えば、0.1mM以上、0.5mM以上、1mM以上、2mM以上であり得る。
【0094】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる脂質ナノ粒子の構成成分であるpH応答性カチオン性脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール化脂質の量(総量)の上限は、例えば、50mM以下、30mM以下、20mM以下、10mM以下であり得る。
【0095】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる脂質ナノ粒子の量は、例えば、0.1mM以上50mM以下、0.5mM以上30mM以下、1mM以上20mM以下、2mM以上10mM以下であり得る。
【0096】
本発明の眼科用医薬組成物に含まれる各成分の比率は特に限定されないが、細胞透過性ペプチド又はその塩、及び脂質ナノ粒子のモル比が、例えば、細胞透過性ペプチド又はその塩:脂質ナノ粒子=1:500000~1:0.01、1:30000~1:0.1、又は1:2000~1:0.5の範囲内であり得る。
【0097】
本発明によれば、眼組織内への薬物の移行量が向上するため、薬物の配合量は少なくてもよい。この観点から、細胞透過性ペプチド又はその塩と薬物との質量パーセント比は、例えば、細胞透過性ペプチド又はその塩:薬物=0.00125~6250000、0.00125~375000、0.00625~25000又は0.025~2500の範囲内であってもよい。
【0098】
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、界面活性剤を含まない。
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、緩衝剤を含まない。
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、等張化剤を含まない。
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、安定化剤を含まない。
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、防腐剤を含まない。
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、抗酸化剤を含まない。
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、粘稠化剤を含まない。
本発明の眼科用医薬組成物の一態様は、pH調整剤を含まない。
【0099】
(眼科用医薬組成物の形態等)
本発明の眼科用医薬組成物は、通常、各成分が分散媒中に溶解又は分散した溶液(点眼液、硝子体内注射剤等)として調製される。
【0100】
分散媒としては、水、精製水、生理食塩水等が挙げられる。
【0101】
本発明の眼科用医薬組成物において、各成分の分布は特に限定されないが、本発明の効果が奏され易いという観点から、薬物、及び細胞膜透過性ペプチド又はその塩が、脂質ナノ粒子に含まれることが好ましい。
本発明において「薬物、及び細胞膜透過性ペプチド又はその塩が、脂質ナノ粒子に含まれる」とは、本発明の眼科用医薬組成物に含まれる薬物、及び細胞膜透過性ペプチド若しくはその塩のそれぞれの一部又は全部が、脂質ナノ粒子の粒子内部及び/又は脂質膜層内に分布することを意味する。
薬物、及び細胞膜透過性ペプチド又はその塩が、脂質ナノ粒子に含まれているかどうかは、高速クロマトグラフや比色法による定量法によって特定する。
【0102】
薬物、及び細胞膜透過性ペプチド又はその塩が、脂質ナノ粒子に含まれる場合、本発明の効果がより奏され易いという観点から、薬物が、脂質ナノ粒子の中空内に内包され、かつ、細胞膜透過性ペプチド又はその塩の一部又は全部が、脂質ナノ粒子の脂質膜層内に含まれることが好ましい。
本発明において「薬物が、脂質ナノ粒子の中空内に内包される」とは、本発明の眼科用医薬組成物に含まれる薬物の一部又は全部が、脂質ナノ粒子の中空内に分布することを意味する。
本発明において「細胞膜透過性ペプチド又はその塩の一部又は全部が、脂質ナノ粒子の脂質膜層内に含まれる」とは、本発明の眼科用医薬組成物に含まれる細胞膜透過性ペプチド又はその塩の一部又は全部が、脂質ナノ粒子の脂質膜層内に分布することを意味する。
【0103】
(本発明の眼科用医薬組成物の投与対象)
本発明の眼科用医薬組成物の投与対象は、薬物の種類や、該薬物によって治療効果を得ようとする部位等に応じて適宜設定され、特に制限されない。
本発明の眼科用医薬組成物は、通常眼組織に投与される。具体的な眼組織としては、角膜、結膜、ブドウ膜、眼瞼、前房、毛様体、虹彩、水晶体、硝子体、網膜、脈絡膜等が挙げられる。
【0104】
<眼科用医薬組成物の製造方法>
眼科用医薬組成物は、当該技術分野における通常の方法に従って製造することができる。
例えば、分散媒中に、各成分を添加及び混合することで本発明の眼科用医薬組成物が得られる。
【0105】
薬物、及び細胞膜透過性ペプチド又はその塩が、脂質ナノ粒子に含まれる態様の脂質ナノ粒子を作製する場合、その方法は特に限定されないが、薬物、細胞膜透過性ペプチド又はその塩、及び脂質ナノ粒子の材料(脂質等)を同時に撹拌後、静置することで、薬物、及び細胞膜透過性ペプチド又はその塩が内包された脂質ナノ粒子が得られる。
具体的には、薬物を分散させた酸性緩衝液と、細胞膜透過性ペプチド若しくはその塩を分散させた酸性緩衝液又は有機溶媒と、脂質ナノ粒子の材料(脂質等)等を分散させた有機溶媒とを、任意の方法で混合や撹拌する方法等が挙げられる。
混合や撹拌の方法としては、各溶液をマイクロ流路デバイス内で混合する方法、各溶液の混合物を攪拌機(ボルテックスミキサー、ホモミキサー、スターラー等)で撹拌する方法が挙げられる。
酸性緩衝液としては、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
有機溶媒としては、エタノール等が挙げられる。
【0106】
薬物、及び細胞膜透過性ペプチド又はその塩が内包された脂質ナノ粒子は、中性緩衝液を用いて濃縮洗浄等した後に、適切な溶媒に分散することで本発明の眼科用医薬組成物が得られる。
【0107】
(本発明の応用)
本発明は、本発明の眼科用医薬組成物を用いた、眼内への薬物の移行促進方法を包含する。
【0108】
眼内への薬物の移行促進方法としては、本発明の眼科用医薬組成物を任意の対象の眼組織に投与する方法が挙げられる。
本発明の眼科用医薬組成物の投与量や投与頻度は、投与対象の状態等に応じて適宜設定できる。
【0109】
上記応用によれば、薬物の組織への移行性が向上し、より低用量の薬物によって所望の薬効が発揮され得る。
【実施例0110】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0111】
<<試験1>>
以下の方法で、各試料及び医薬組成物を作製し、細胞透過性評価試験に供した。
【0112】
<アラキジン酸ペネトラチンの作製>
(1)Fmoc-アミノ酸、及び「Rink amide PEGA resin」(Merck Millipore,Novabiochem(登録商標))を用いて、一般的なFmoc固相合成により、「Fmoc-ペネトラチン-レジン」を調製した。
Fmoc固相合成の概要を
図1に示す。
(2)「Fmoc-ペネトラチン-レジン」(0.21mmol)を、20% Piperidine/ジメチルホルムアミド(12mL)中で、1時間、常温で撹拌し、脱Fmocを行い、「H
2N-ペネトラチン-レジン」を得た。
(3)「H
2N-ペネトラチン-レジン」を、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン、及びメタノールで洗浄した。洗浄後、アラキジン酸(214.2mg)、縮合剤(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート、HBTU、254.9mg)、ジイソプロピルエチルアミン(110.0μL)、及びDMF(9.0mL)を加え、終夜室温で撹拌した。この操作による反応後、レジン(「アラキジン酸ペネトラチン-レジン」)を得て、これを洗浄及び乾燥した。
(4)「アラキジン酸ペネトラチン-レジン」(420.3mg)を、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリイソプロピルシラン、及び水の混合溶液(100mL)を用いて、室温で6時間撹拌し、レジンからアラキジン酸ペネトラチンを切り離した。
なお、混合溶液の組成は、TFA:トリイソプロピルシラン:水=95:2.5:2.5である。
(5)反応後、レジンを濾過によって除去した。得られた濾液を減圧濃縮し、エタノール液でデカンテーションを3回行い、分取HPLC(0.1%TFA/アセトニトリル系)により精製を行い、その後凍結乾燥を行うことで、目的のアラキジン酸ペネトラチン(TFA塩、28.2mg、C
124H
207N
35O
20S/MW:2540.3050、MS(ESI):1271([M+]/2)、848([M+]/3)、636([M+]/4))を得た。
得られたアラキジン酸ペネトラチンの構造式を
図2に示す。
【0113】
<脂質ナノ粒子(LNP)の作製>
(1)以下を全て混合し、エタノールで1200μLに調整し、混合脂質エタノール溶液を得た。
・1mM カルセインAM(蛍光物質)エタノール溶液:12μL
・5mM Bis[2-(4-{2-[4-(cis-9-octadecenoyloxy)phenylacetoxy]ethyl}piperidinyl)ethyl] disulfide(「COATSOME SS-OP(登録商標)」、日油株式会社製)のエタノール溶液:552μL
・2mM DMG-PEG2000(日油株式会社製)のエタノール溶液:42mM
・5mM ジパルミトイルホスファチジルコリン(DOPC)(日油株式会社製)のエタノール溶液:79.2μL
・10mM コレステロール(富士フイルム和光純薬株式会社)のエタノール溶液:210μL
(2)得られた混合脂質エタノール溶液に、20mM クエン酸ナトリウム水溶液(pH3.0)を1800μL添加し、ボルテックスミキサーで混合して静置した。
(3)静置後、PBSを10.5mL添加してボルテックスミキサーで充分に混合し、100,000MWCOメンブレンフィルターユニットに添加して、PBS(4mL)で充分に洗浄した。
次いで、メンブレンフィルターユニットを1000xgで遠心分離し、濃縮液が1.5mL以下になった時点でPBS(10mL)を添加した後、同様の条件で濃縮液量が0.6mL以下になるまで遠心分離した。
(4)遠心分離後、濃縮液を回収し、全量が0.6mLになるようにPBSで調整した。
得られたPBS溶液を「LNP」として用いた。
【0114】
<0.5mM アラキジン酸ペネトラチン含有脂質ナノ粒子(0.5mM Ara-PeneLNP)の作製>
(1)以下を全て混合し、エタノールで600μLに調整し、混合脂質エタノール溶液を得た。
・1mM カルセインAMエタノール溶液:6μL
・2mM アラキジン酸ペネトラチンエタノール溶液:150μL
・5mM COATSOME SS-OPエタノール溶液:276μL
・2mM DMG-PEG2000エタノール溶液:21mM
・5mM DOPCエタノール溶液:39.6μL
・10mM コレステロールエタノール溶液:105μL
(2)得られた混合脂質エタノール溶液に、20mM クエン酸ナトリウム水溶液(pH3.0)を900μL添加し、ボルテックスミキサーで混合して静置した。
(3)静置後、PBSを10.5mL添加してボルテックスミキサーで充分に混合し、100,000MWCOメンブレンフィルターユニットに添加して、PBS(4mL)で充分に洗浄した。
次いで、メンブレンフィルターユニットを1000xgで遠心分離し、濃縮液が1.5mL以下になった時点でPBS(10mL)を添加した後、同様の条件で濃縮液量が0.6mL以下になるまで遠心分離した。
(4)遠心分離後、濃縮液を回収し、全量が0.6mLになるようにPBSで調整した。
得られたPBS溶液を「0.5mM Ara-PeneLNP」として用いた。
【0115】
<20mM ペネトラチン溶液(20mM Pene sol)の作製>
ペネトラチン(分子量2248、秤取量17.98mg)を、PBS(0.4mL)に溶解させ、20mM ペネトラチン溶液「20mM Pene sol」を作製した。
【0116】
<医薬組成物の作製-1>
モデル蛍光化合物「カルセインAM」(水溶性薬物に相当)、細胞膜透過性ペプチド、及び脂質ナノ粒子を含む医薬組成物(各0.4mL)を作製した。該医薬組成物は、各成分をエッペンドルフチューブに入れ、ボルテックスミキサーで充分に混和することで得た。
細胞膜透過性ペプチドとしては、ペネトラチン(配列番号4)、又は、アラキジン酸ペネトラチンを使用した。
なお、本例において、モデル蛍光化合物及び細胞膜透過性ペプチドは、脂質ナノ粒子内に内包されている。
各医薬組成物の組成を表1に示す。表1中の数値の単位は「mL」である。
【0117】
【0118】
<医薬組成物の粒子径及びゼータ電位-1>
各医薬組成物について、含まれる粒子の平均粒子径を、動的光散乱法(ZetaSizer NanoZS、Malvern)により測定した。また、各医薬組成物のゼータ電位を、電気泳動光散乱法に基づき測定した。
その結果を表2に示す。
【0119】
【0120】
<細胞透過性評価試験-1>
以下の方法に基づき、各医薬組成物を用いて、細胞透過性評価を行った。
【0121】
[方法]
(1)細胞として、ヒト3次元角膜上皮細胞の細胞モデルセット(「LabCyte CORNEA-MODEL」、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製)を準備した。該細胞モデルセットでは、24穴アッセイプレートのそれぞれのウェルに、細胞が重層培養されている。
培養培地として、株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製のアッセイ用培地を準備した。
(2)細胞モデルセットの24穴アッセイプレートを、CO2インキュベータ(37℃)内で1時間静置後、各ウェルに評価用溶液を50μLずつ添加した(各例についてn=3)。添加後、上記CO2インキュベータ内でさらに2時間静置した。
(3)次いで、ウェルから上清を除去後、細胞表面にPBSを500μL添加し、吸引除去した。この操作を3回繰り返した。
(4)さらに、ウェルにPBSを50μL添加し、蛍光顕微鏡(「BZ-9000」、株式会社キーエンス製)で各ウェルの観察及び撮影を行った(励起波長=470/40nm、吸収波長=535/50nm、露光時間=1/1.5s)。
【0122】
[結果]
各ウェルの撮影結果に基づき、視野面積に対する蛍光面積の割合(相対面積比)を算出し、「対照例」を「1」とした相対比を特定した。その結果を表3に示す。表3中、相対面積比の値が高いほど、脂質ナノ粒子が細胞内に移行し、薬物の送達が良好であることを意味する。
表3に示されるとおり、本発明の要件を満たす医薬組成物(実施例1、2)においては、角膜上皮細胞内への脂質ナノ粒子の移行性が向上した。
さらに、表2に示されるとおり、対照例と、本発明の要件を満たす医薬組成物とは、ゼータ電位の正負が異なっている。このことから、本発明の要件を満たす医薬組成物は、ゼータ電位が正となるように調整することで、角膜上皮細胞内への脂質ナノ粒子の移行性が向上しやすくなるものと推察された。
【0123】