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特開2023-119434マイクロ流体デバイス及びマイクロ流体デバイスの使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119434
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイス及びマイクロ流体デバイスの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230821BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022345
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠一郎
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG10
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】細胞の播種が可能かつ観察性に優れたゲル面を構築できるマイクロ流体デバイス及びこのマイクロ流体デバイスの使用方法を提供する。
【解決手段】マイクロ流体デバイスは、第一方向に対向する第一主面と第二主面を有するプレート状の本体と、本体の内部に形成され、第一主面と第二主面の間の平面に沿って延在する第一流路と、第一方向に延在し、一端が第一流路の端部に開口し且つ他端が第二主面に開口する複数の第一流路ポートと、を備え、第一流路は、第一流路の延在方向に見たときの流路幅が第一主面側から第二主面側に向かって拡大する拡大部を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一方向に対向する第一主面と第二主面を有するプレート状の本体と、前記本体の内部に形成され、前記第一主面と前記第二主面の間の平面に沿って延在する第一流路と、前記第一方向に延在し、一端が前記第一流路の端部に開口し且つ他端が前記第二主面に開口する複数の第一流路ポートと、を備え、
前記第一流路は、前記第一流路の延在方向に見たときの流路幅が前記第一主面側から前記第二主面側に向かって拡大する拡大部を有する、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記第一流路は、第一空間と、前記第一空間の前記第二主面側に隣接し、前記拡大部によって前記第一空間よりも前記流路幅が拡大した第二空間と、を備える、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記第一流路は、側壁から突出して前記延在方向に延在する突条を備え、
前記拡大部は、前記突条の前記第二主面側の表面である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記拡大部は、前記第一主面に平行な面である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記拡大部は、前記第一主面に対して傾斜する面である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記第一流路は、幅方向の両側にそれぞれ前記拡大部を有し、
前記拡大部の前記第一主面側の端部同士を接続した仮想面は、前記第一主面に対して、又は前記第一主面の周囲を取り囲む枠体の底面に対して、平行な面である、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記第一方向に延在し、一端が前記第一流路の中途部に開口し且つ他端が前記第二主面に開口する孔部を備える、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記第一流路に接続され、前記平面に沿って延在する第二流路と、
前記第一流路に接続され、前記平面に沿って延在する第三流路と、
前記第一方向に延在し、一端が前記第二流路に開口し且つ他端が前記第二主面に開口する少なくとも一つの第二流路ポートと、
前記第一方向に延在し、一端が前記第三流路に開口し且つ他端が前記第二主面に開口する少なくとも一つの第三流路ポートと、を備える、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
請求項1に記載のマイクロ流体デバイスの使用方法であって、
前記マイクロ流体デバイスを前記第一主面が下側且つ前記第二主面が上側となるように配置する第一ステップと、
前記第一流路のうち前記拡大部よりも下側の領域にゾルを注入する第二ステップと、
前記ゾルを固化させたゲルの上面に細胞を播種する第三ステップと、を含む、マイクロ流体デバイスの使用方法。
【請求項10】
前記第一流路のうち前記ゲルよりも上側の領域に培養液を注入して前記細胞を培養する第四ステップを含む、請求項9に記載のマイクロ流体デバイスの使用方法。
【請求項11】
前記ゲルは、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)およびその誘導体、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載のマイクロ流体デバイスの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイス及びマイクロ流体デバイスの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dゲル培養(3次元ゲル培養)は、細胞を立体的に増殖可能であり、従来の2次元的な細胞培養と比較して、生体内により近い構造で研究することができる。したがって、オルガノイド作成など従来の平面的な培養では行えなかった組織の形成や、再生医療への応用、生体内に近い立体的な環境下での薬物動態の分析、細胞間相互作用の研究など、3Dゲル培養ならではの研究成果が期待されている。
【0003】
3Dゲル培養のためのデバイスとして、下記特許文献1のようなセルカルチャーインサートを用いたものが一般的に使用されている。一方、新しい技術として、下記特許文献2のようなマイクロ流路(MPS)を用いたデバイス(以下、マイクロ流体デバイスという)も開発されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-202754号公報
【特許文献2】特表2018-522586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のセルカルチャーインサートを有するデバイスは、細胞の播種が可能かつ観察性に優れた平坦なゲル面をデバイス内に構築できる利点があるが、細胞培養環境のサイズ・形状や酸素濃度をin vivoの状態に近似化できる等のマイクロ流体デバイスの利点を取り入れることは出来ないという問題点がある。一方、マイクロ流体デバイスは、上記の特有の利点はあるが、観察性に優れた平坦なゲル面をデバイス内に構築できないという問題点がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、細胞の播種が可能かつ観察性に優れたゲル面を構築できるマイクロ流体デバイスとこのマイクロ流体デバイスの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、第一方向に対向する第一主面と第二主面を有するプレート状の本体と、前記本体の内部に形成され、前記第一主面と前記第二主面の間の平面に沿って延在する第一流路と、前記第一方向に延在し、一端が前記第一流路の端部に開口し且つ他端が前記第二主面に開口する複数の第一流路ポートと、を備え、
前記第一流路は、前記第一流路の延在方向に見たときの流路幅が前記第一主面側から前記第二主面側に向かって拡大する拡大部を有する。
【0008】
このマイクロ流体デバイスによれば、第一流路内に形成するゲルの上側に空間が維持されるため、ゲルの上面に細胞を播種することができ、また、平坦なゲル面を形成できるため、観察性に優れる。
【0009】
本発明に係るマイクロ流体デバイスの使用方法は、上記のマイクロ流体デバイスの使用方法であって、
前記マイクロ流体デバイスを前記第一主面が下側且つ前記第二主面が上側となるように配置する第一ステップと、
前記第一流路のうち前記拡大部よりも下側の領域にゾルを注入する第二ステップと、
前記ゾルを固化させたゲルの上面に細胞を播種する第三ステップと、を含む。
【0010】
このマイクロ流体デバイスの使用方法によれば、第一流路内に形成するゲルの上側に空間が維持されるため、ゲルの上面に細胞を播種することができ、また、平坦なゲル面を形成できるため、観察性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一本実施形態に係るマイクロ流体デバイスの斜視図
図2図1に示すマイクロ流体デバイスのII-II線断面図
図3図1に示すマイクロ流体デバイスのIII-III線断面図
図4A図1に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図4B図1に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図4C図1に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図4D図1に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図5図1に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図6】比較例のマイクロ流体デバイスの断面図
図7】第二実施形態に係るマイクロ流体デバイスの斜視図
図8図7に示すマイクロ流体デバイスのVIII-VIII線断面図
図9図7に示すマイクロ流体デバイスのIX-IX線断面図
図10】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図11】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図12】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図13】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図14】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図15】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図16】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図17】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図18】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの断面図
図19】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
図20図19に示すマイクロ流体デバイスのXX-XX線断面図
図21A図19に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図21B図19に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図21C図19に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
図21D図19に示すマイクロ流体デバイスの使用方法を説明するための断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るマイクロ流体デバイスおよびマイクロ流体デバイスの使用方法につき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0013】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係るマイクロ流体デバイス100の斜視図である。マイクロ流体デバイス100は、第一主面1aと第二主面1bを有する本体1を備える。第一主面1aと第二主面1bは互いに対向配置される。
【0014】
以下の説明では、第一主面1a及び第二主面1bに平行な面をXY平面とし、このXY平面に直交する方向をZ方向とする、XYZ座標系が適宜参照される。
【0015】
また、本明細書において、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0016】
本体1は、Z方向に対向する第一主面1aと第二主面1bを有するプレート状に形成されている。すなわち、本実施形態において、Z方向が「第一方向」に相当する。なお、マイクロ流体デバイス100は、通常、Z方向を上下方向として使用され、-Z方向が「上方向」に相当する。
【0017】
図2に示すように、マイクロ流体デバイス100は、本体1の内部に形成された第一流路2を備える。第一流路2は、第一主面1aと第二主面1bの間のXY平面に沿って延びており、具体的にはX方向に延びている。第一流路2の両端2a,2bは、マイクロ流体デバイス100の内部で終端している。
【0018】
マイクロ流体デバイス100は、Z方向に延在する第一流路ポート3,4を備える。第一流路ポート3は、第一流路2の一端2aに接続され、第一流路ポート4は、第一流路2の他端2bに接続されている。第一流路ポート3は、一端が第一流路2の一端2aに開口し、かつ他端が第二主面1bに開口する。また、第一流路ポート4は、一端が第一流路2の他端2bに開口し、且つ他端が第二主面1bに開口する。第一流路ポート3,4は、液体をマイクロ流体デバイス100に注入する目的と、液体をマイクロ流体デバイス100から排出する目的と、の少なくとも一方の目的を有する。例えば、第一流路ポート3が液体注入口として使用され、第一流路ポート4が液体排出口として使用されてもよい。
【0019】
第一実施形態の第一流路2は、図3に示すように、第一空間21と、第一空間21のZ方向の第二主面1b側(-Z方向側)に隣接する第二空間22と、を備えている。第一空間21のYZ平面での断面は、矩形状である。第二空間22のYZ平面での断面は、台形状である。第二空間22の側壁22a,22bは、第二主面1bに向かうにつれて互いに離れる向きにZ方向に対して傾斜している。これにより、第一流路2は、第二空間22の側壁22a,22bによって、Y方向における流路幅2wが第一主面1a側から第二主面1b側に向かって拡大している。すなわち、第一実施形態において、第二空間22の側壁22a,22bが、本発明の「拡大部」に相当する。
【0020】
側壁22aの第一主面1a側の端部と側壁22bの第一主面1a側の端部を接続した仮想面20、具体的には第一空間21と第二空間22の界面20は、第一主面1aに対して平行な面である。
【0021】
以上のように、第一実施形態のマイクロ流体デバイス100は、Z方向に対向する第一主面1aと第二主面1bを有するプレート状の本体1と、本体1の内部に形成され、第一主面1aと第二主面1bの間のXY平面に沿って延在する第一流路2と、Z方向に延在し、一端が第一流路2の端部2a,2bに開口し且つ他端が第二主面1bに開口する複数の第一流路ポート3,4と、備える。また、第一流路2は、第一流路2の延在方向(X方向)に見たときの流路幅2wが第一主面1a側から第二主面1b側に向かって拡大する側壁22a,22b(拡大部)を有する。このマイクロ流体デバイス100の作用効果については、後述のマイクロ流体デバイス100の使用方法の説明において述べる。
【0022】
また、第一実施形態のように、第一流路2は、第一空間21と、第一空間21のZ方向の第二主面1b側に隣接し、側壁22a,22b(拡大部)によって第一空間21よりも流路幅2wが拡大した第二空間22と、を備える。
【0023】
また、第一実施形態のように、側壁22a,22b(拡大部)は、第一主面1aに対して傾斜する面である。
【0024】
また、第一実施形態のように、第一流路2は、Y方向の両側にそれぞれ側壁22a,22b(拡大部)を有し、側壁22a,22bの第一主面1a側の端部同士を接続した仮想面20は、第一主面1aに対して平行な面である。
【0025】
次に、マイクロ流体デバイス100の使用方法について詳細に説明する。図4A図4Dは、マイクロ流体デバイス100の使用方法を模式的に示す断面図である。上記のマイクロ流体デバイス100の使用方法は、マイクロ流体デバイス100を第一主面1aが下側かつ第二主面1bが上側となるように配置する第一ステップ(図4Aに示す)と、第一流路2のうち第二空間22の側壁22a,22bよりも下側の領域にゾルSを注入する第二ステップ(図4Bに示す)と、ゾルSを固化させたゲルGの上面に細胞Cを播種する第三ステップ(図4Cに示す)と、を含む。また、マイクロ流体デバイス100の使用方法は、第一流路2のうちゲルGよりも上側の領域に培養液を注入して細胞Cを培養する第四ステップ(図4Dに示す)をさらに含むようにしてもよい。
【0026】
本明細書において、ゾルSは、分散媒中にコロイド粒子(分散質)が含まれている溶液を意味し、ゾルSがゼリー状に固化したものゲルGとする。図4Bに示す第二ステップにおいて、第一流路ポート3又は第一流路ポート4からゾルSを注入する。注入するゾルSは、第一空間21の体積に相当する量以下とし、好ましくは第一空間21の体積に相当する量とする。
【0027】
第一流路ポート3又は第一流路ポート4から注入されたゾルSは、図5に示すように、表面張力の作用により、第一空間21に留まる。表面張力は、液体や固体が表面をできるだけ小さくしようとする性質であり、定量的には単位面積当たりの表面自由エネルギーを表し、単位はmJ/mで表せる。
【0028】
図6は、第一流路2PのY方向における流路幅がZ方向に一定である比較例の断面図である。第一流路2Pの流路幅がZ方向に一定の場合、ゾルSは第一流路2Pの天井に接触した状態で第一流路2Pに流れ込む。この状態でゾルSが固化した場合、ゲルの上面に細胞Cを播種することはできず、また、培養液を灌流することもできない。
【0029】
図6のようにゾルSが流れ込むのは、露出している液体(ここではゾルS)の表面積(液体/気体界面の面積)の総量が最小になるように液体が第一流路2Pに流れ込んだ結果であり、エネルギー的に安定であるからである。
【0030】
一方、本発明では、第一空間21と第二空間22の界面20の高さに留まったときのゾルSの総表面積が、界面20を越えて満たされたときの総表面積よりも小さく、エネルギー的に安定となるため、ゾルSは、表面張力の作用により、界面20の高さに留まる。
【0031】
この状態でゾルSを固化することで、ゲルGの上側には第二空間22が維持されるため、第三ステップにおいて、ゲルGの上面に細胞Cを播種することができる。なお、細胞Cは、細胞Cを含む培養液を第二空間22に投入することで播種される。細胞Cを播種する際、側壁22a,22b(拡大部)が第一主面1aに対して傾斜する面であるため、細胞Cがゲル2の上面以外に接着するのを防止できる。
【0032】
また、ゲルGの上側に第二空間22が維持されるため、第四ステップにおいて、ゲルGよりも上側の領域に培養液を注入して細胞Cを培養することができる。また、培養後の細胞Cは、マイクロ流体デバイス100の外部から第一主面1aを介して顕微鏡により観察されるが、ゲルGの上面は、平坦であり、且つ第一主面1aに平行なため、本発明のマイクロ流体デバイス100は観察性に優れる。なお、本実施例では第一主面1aとゲルGの上面が平行な場合について説明したが、マイクロ流路デバイス100が第一主面1aを取り囲む枠体を有する場合は、枠体の底面に対してゲルGの上面が平行であれば良い。
【0033】
ゲルGとしては、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナート、ヒアルロナン、フィブリン、アルギナート、アガロース、キトサン、キチン、セルロース、ペクチン、デンプン、ラミニン、フィブリノーゲン/トロンビン、フィブリリン、エラスチン、ガム、セルロース、寒天、グルテン、カゼイン、アルブミン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン/ニドジェン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、ポリ(アクリル酸)およびその誘導体、ポリ(エチレンオキシド)およびその共重合体、ポリ(ビニルアルコール)、ポリホスファゼン、マトリゲルならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0034】
<第二実施形態>
図7は、第二実施形態に係るマイクロ流体デバイス100Aの斜視図である。図8は、図7に示すマイクロ流体デバイス100AのVIII-VIII線断面図であり、図9は、図7に示すマイクロ流体デバイス100AのIX-IX線断面図である。
【0035】
第二実施形態の第一流路2は、図7図9に示すように、Y方向の側壁2c,2dから突出してX方向に延在する突条9を備えている。本実施形態において、突条9は、両側壁2c,2dのZ方向中央部からそれぞれ突出する。突条9のYZ平面での断面は、三角形状に形成されている。
【0036】
突条9は、第一主面1a側(+Z方向側)の下面9aと第二主面1b側(-Z方向側)の上面9bとを有する。下面9aは、第一主面1aに平行な面となっている。一方、上面9bは、第一主面1aに対して傾斜する面となっている。上面9bは、突条9の先端から側壁2c,2dへ向かうにつれて第一主面1aから離れるように傾斜している。これにより、突条9が形成されている領域において、第一流路2は、Y方向における流路幅2wが第一主面1a側から第二主面1b側に向かって拡大している。すなわち、第二実施形態において、突条9の上面9bが、本発明の「拡大部」に相当する。なお、突条9が形成されていない領域において、第一流路2のY方向の両側壁2c,2dは平行である。
【0037】
以上のように、第二実施形態のマイクロ流体デバイス100Aは、Z方向に対向する第一主面1aと第二主面1bを有するプレート状の本体1と、本体1の内部に形成され、第一主面1aと第二主面1bの間のXY平面に沿って延在する第一流路2と、Z方向に延在し、一端が第一流路2の端部に開口し且つ他端が第二主面1bに開口する複数の第一流路ポート3,4と、備える。また、第一流路2は、第一流路2の延在方向(X方向)に見たときの流路幅2wが第一主面1a側から第二主面1bに向かって拡大する突条9の上面9b(拡大部)を有する。
【0038】
また、第二実施形態のように、突条9の上面9b(拡大部)は、第一主面1aに対して傾斜する面である。
【0039】
また、第二実施形態のように、第一流路2は、Y方向の両側にそれぞれ突条9の上面9b(拡大部)を有し、上面9bの第一主面1a側の端部同士を接続した仮想面20は、第一主面1aに対して平行な面である。
【0040】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0041】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0042】
(1)上記第一実施形態に係るマイクロ流体デバイス100においては、第一流路2は、第一空間21と、第一空間21のZ方向の第二主面1b側に隣接し、側壁22a,22b(拡大部)によって第一空間21よりも流路幅2wが拡大した第二空間22と、を備える、という構成である。しかし、マイクロ流体デバイス100は、かかる構成に限られない。図10に示すマイクロ流体デバイス100Bのように、第一流路2は、第一空間21と、第一空間21のZ方向の第二主面1b側に隣接し、底壁22c,22dによって第一空間21よりも流路幅2wが拡大した第二空間22と、を備える、という構成でもよい。すなわち、第二空間22の底壁22c,22dが、本発明の「拡大部」に相当する。第二空間22のYZ平面での断面は、矩形状であり、底壁22c,22dは、第一主面1aに平行な面である。
【0043】
(2)上記第二実施形態に係るマイクロ流体デバイス100Aにおいては、突条9の上面9bは、第一主面1aに対して傾斜する面である、という構成である。しかし、マイクロ流体デバイス100Aは、かかる構成に限られない。図11に示すマイクロ流体デバイス100Cのように、突条9の上面9bは、第一主面1aに平行な面である、という構成でもよい。このとき、突条9の下面9aは、第一主面1aに対して傾斜する面である。
【0044】
(3)上記第二実施形態に係るマイクロ流体デバイス100Aにおいては、突条9の下面9aは、第一主面1aに平行であり、上面9bは、第一主面1aに対して傾斜する面である、という構成である。しかし、マイクロ流体デバイス100Aは、かかる構成に限られない。図12に示すマイクロ流体デバイス100Dのように、突条9の下面9aは、上面9bと同様に、第一主面1aに対して傾斜する面である、という構成でもよい。
【0045】
(4)上記第二実施形態に係るマイクロ流体デバイス100Aにおいては、突条9のYZ平面での断面は、三角形状に形成されている、という構成である。しかし、マイクロ流体デバイス100Aは、かかる構成に限られない。図13に示すマイクロ流体デバイス100Eのように、突条9のYZ平面での断面は、四角形状に形成されている、という構成でもよい。また、図14に示すマイクロ流体デバイス100Fのように、突条9は、薄いフィルム状に形成されている、という構成でもよい。このとき、フィルム状の突条9の厚みは、例えば50μmである。
【0046】
(5)上記第二実施形態に係るマイクロ流体デバイス100Aにおいては、突条9が形成されていない領域において、第一流路2のY方向の両側壁2c,2dは平行である、という構成である。しかし、マイクロ流体デバイス100Aは、かかる構成に限られない。図15に示すマイクロ流体デバイス100Gのように、突条9よりも上側と下側の領域において、第一流路2の流路幅を変えてもよい。
【0047】
(6)また、図16に示すマイクロ流体デバイス100Hのように、突条9のYZ平面での断面は、半円状に形成されている、という構成でもよい。このとき、半円状の突条9のうち第二主面1b側の1/4円弧部分が、本発明の「拡大部」に相当する。
【0048】
(7)また、図17に示すマイクロ流体デバイス100Iのように、第一流路2は、複数の突条9を備える、という構成でもよい。これにより、例えば、まず初めに下側の突条9を用いてゲルを形成し、次いで上側の突条9を用いてゲルを形成することで、ゲルを多層化することができる。層ごとにゲル組成、密度、含まれる細胞を変えることにより、多様な組織や器官、例えば、角膜、血管(大動脈、大静脈)、気管壁、関節を模倣することができる。
【0049】
(8)また、図18に示すように、マイクロ流体デバイス100Jは、Z方向に延在し、一端が第一流路2の中途部2eに開口し且つ他端が第二主面1bに開口する孔部8を備える、という構成でもよい。かかる構成によれば、ゲル面上に播種した細胞のアピカル側を空気に接触させて培養(気液界面培養)するこが可能になり、生体内で液体と空気の両方と相互作用する呼吸器系上皮細胞等の環境を模倣することができる。
【0050】
(9)また、図19及び図20に示すように、マイクロ流体デバイス100Kは、第一流路2に接続され、XY平面に沿って延在する第二流路51と、第一流路2に接続され、XY平面に沿って延在する第三流路52と、Z方向に延在し、一端が第二流路51に開口し且つ他端が第二主面1bに開口する少なくとも一つの第二流路ポート53と、Z方向に延在し、一端が第三流路52に開口し且つ他端が第二主面1bに開口する少なくとも一つの第三流路ポート54と、を備える、という構成でもよい。この実施形態において、第一流路2の第二主面1b側の上壁面2tは、第二流路51の第二主面1b側の上壁面51t及び第三流路52の第二主面1b側の上壁面52tよりも第二主面1bに近くなっている。また、この実施形態において、突条9は、図9に示したような上面9bが拡大部となった構成であり、仮想面20は、第二流路51の第二主面1b側の上壁面51t及び第三流路52の第二主面1b側の上壁面52tよりも第二主面1bに近くなっている。
【0051】
図19及び図20に示すマイクロ流体デバイス100Kの使用方法の一例を簡単に説明する。
【0052】
初めに、図21Aに示すように、グリセロールまたは熱相転移ヒドロゲルG1を第二流路ポート53から注入する。このとき、注入されるグリセロールまたは熱相転移ヒドロゲルG1の量は、注入されたグリセロールまたは熱相転移ヒドロゲルG1の高さが、第二流路51の上壁面51t及び第三流路52の上壁面52tよりも高く、且つ仮想面20よりも低くなるように設定される。
【0053】
次いで、図21Bに示すように、ゾルSを第一流路ポート3から注入し、グリセロールまたは熱相転移ヒドロゲルG1の上に展開した後、ゲル化させる。このとき、第一流路2のうち仮想面20よりも下側の領域にゾルSを注入する。
【0054】
次いで、図21Cに示すように、グリセロールまたは熱相転移ヒドロゲルG1を第二流路ポート53または第三流路ポート54から取り除く。これにより、ゲルGの部分が残り、第一流路2内においてゲルGの上下にはそれぞれ空隙が形成される。
【0055】
次いで、図21Dに示すように、ゲルGの上側に細胞Cを播種する。
【符号の説明】
【0056】
100 :マイクロ流体デバイス
100A:マイクロ流体デバイス
100B:マイクロ流体デバイス
100C:マイクロ流体デバイス
100D:マイクロ流体デバイス
100E:マイクロ流体デバイス
100F:マイクロ流体デバイス
100G:マイクロ流体デバイス
100H:マイクロ流体デバイス
100I:マイクロ流体デバイス
100J:マイクロ流体デバイス
100K:マイクロ流体デバイス
1 :本体
1a :第一主面
1b :第二主面
2 :第一流路
2a :一端
2b :他端
2c :側壁
2d :側壁
2e :中途部
2t :上壁面
2w :流路幅
3 :第一流路ポート
4 :第一流路ポート
8 :孔部
9 :突条
9a :突条の下面
9b :突条の上面
20 :仮想面(界面)
21 :第一空間
22 :第二空間
22a :第二空間の側壁
22b :第二空間の側壁
22c :第二空間の底壁
22d :第二空間の底壁
51 :第二流路
51t :第二流路の上壁面
52 :第三流路
52t :第三流路の上壁面
53 :第二流路ポート
54 :第三流路ポート
C :細胞
G :ゲル
G1 :グリセロールまたは熱相転移ヒドロゲル
S :ゾル
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図14
図15
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図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図21C
図21D