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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119438
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】音声信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20230821BHJP
   H04R 3/04 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022349
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐生
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA50
5D220AB02
(57)【要約】
【課題】より高い忠実度で原音声を再生することができる音声信号処理装置を得る。
【解決手段】音声信号処理装置10は、入力された音声信号を増幅してスピーカ20に入力するための音声信号を出力する電力増幅器12と、電力増幅器12の前段に設けられ、電力増幅器12に予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカ20のコーン紙面の振動応答波形に対する逆フィルタを係数とする前段デジタルフィルタ14と、電力増幅器12の後段に設けられ、前段デジタルフィルタ14が設けられた状態において当該前段デジタルフィルタ14に予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカ20による音圧応答波形に対する逆フィルタを係数とする後段デジタルフィルタ16を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された音声信号を増幅してスピーカに入力するための音声信号を出力する増幅器と、
前記増幅器の前段に設けられ、前記増幅器に予め定められた音声信号を入力した場合の前記スピーカのコーン紙面の振動応答波形に対する逆フィルタを係数とする前段デジタルフィルタと、
を備えた音声信号処理装置。
【請求項2】
前記増幅器の後段に設けられ、前記前段デジタルフィルタが設けられた状態において当該前段デジタルフィルタに予め定められた音声信号を入力した場合の前記スピーカによる音圧応答波形に対する逆フィルタを係数とする後段デジタルフィルタ、
を更に備えた請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項3】
前記予め定められた音声信号は、インパルス信号である、
請求項1又は請求項2に記載の音声信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気音響システムを構築する場合には周波数特性が重視され、低音から高音までを平坦に再生することや、歪を低減することに注力されてきた。しかし、「原音を忠実に再生する」という観点からは、スピーカのトランジェント特性(スピーカが入力信号に追随する能力)が重要であり、電気音響システムの構築では、当該トランジェント特性に配慮する必要がある。
【0003】
図5には、従来のスピーカの構造の一例を示す側面断面図が示されている。また、図6には、スピーカにインパルス信号を入力したときの音圧波形(ここでは、スピーカの正面の1m地点で測定)の一例を示す波形図が示されている。
【0004】
図6の波形図を参照すると、先頭のインパルス的な波形に引き続き、緩やかに減衰する波形を伴うのが見て取れる。この尻尾状の波形は、一例として図5に示すユニットの慣性(信号が途切れた後にも振動し続ける性質)に起因するものである。このようなトランジェント特性の改善策としては以下の2種類の方法がある。
【0005】
第1に、コーン紙、エッジ、ダンパーをはじめとするユニット各部の部材の見直しや、エンクロージャの形状や寸法、材質の最適化を行う方法等といった受動的な方法である。また、第2に、一例として図7に示すように、原音を目標信号とし、出力信号をそれに追従させる能動的な方法であり、その一例として、特許文献1に開示されている方法がある。
【0006】
即ち、特許文献1には、音声を高い忠実度で再生することができるようにすることを目的としたスピーカ広帯域制御装置が開示されている。
【0007】
このスピーカ広帯域制御装置は、入力信号を所定の周波数を境に低周波成分と高周波成分とに分ける帯域分割部と、該低周波成分を分岐した信号を蓄積し所定時間遅延させて出力する第1のバッファメモリと、前記高周波成分を分岐した信号を蓄積し所定時間遅延させて出力する第2のバッファメモリと、が備えられている。また、このスピーカ広帯域制御装置は、前記第1のバッファメモリからの出力と前記帯域分割部からの低周波成分の分岐信号と後記する第2のローパスフィルタ部からの出力とが入力され、前記所定時間先を予見してのスライディングモード制御を行う第1の予見スライディングモード制御部と、前記第2のバッファメモリからの出力と前記帯域分割部からの高周波成分の分岐信号と後記するハイパスフィルタ部からの出力とが入力され、前記所定時間先を予見してのスライディングモード制御を行う第2の予見スライディングモード制御部と、が備えられている。
【0008】
また、このスピーカ広帯域制御装置は、前記第1の予見スライディングモード制御部の出力側に接続された第1のローパスフィルタ部と、該第1のローパスフィルタ部からの信号と前記第2の予見スライディングモード制御部からの信号との合成信号により駆動されるスピーカと、が備えられている。更に、このスピーカ広帯域制御装置は、該スピーカの振動出力を検出する制御量検出部と該検出信号の低周波成分を取り込んで位置フィードバック値を出力する第2のローパスフィルタ部と高周波成分を取り込んで速度フィードバック値を出力するハイパスフィルタ部とから成る検出部が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-206966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術は、原信号を一旦バッファメモリに蓄え、当該原信号に対して、適応制御の一種である予見スライディングモード制御を施すものとされている。このため、この技術では、バッファメモリに蓄えた時点で原信号に対して相応の遅延が発生する。この結果、例えば、講演会や演奏会等のように、リアルタイムで拡声する場合等には、発話及び発音や、それらに付随する所作や動作との間に遅れが生じる結果、必ずしも高忠実度で音声を再生することができるとは限らない、という問題点があった。
【0011】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、より高い忠実度で原音声を再生することができる音声信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の本発明に係る音声信号処理装置は、入力された音声信号を増幅してスピーカに入力するための音声信号を出力する増幅器と、前記増幅器の前段に設けられ、前記増幅器に予め定められた音声信号を入力した場合の前記スピーカのコーン紙面の振動応答波形に対する逆フィルタを係数とする前段デジタルフィルタと、を備えている。
【0013】
請求項1に記載の本発明に係る音声信号処理装置によれば、増幅器の前段に、当該増幅器に予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカのコーン紙面の振動応答波形に対する逆フィルタを係数とする前段デジタルフィルタを設けることで、より高い忠実度で原音声を再生することができる。
【0014】
請求項2に記載の本発明に係る音声信号処理装置は、請求項1に記載の音声信号処理装置であって、前記増幅器の後段に設けられ、前記前段デジタルフィルタが設けられた状態において当該前段デジタルフィルタに予め定められた音声信号を入力した場合の前記スピーカによる音圧応答波形に対する逆フィルタを係数とする後段デジタルフィルタ、を更に備えたものである。
【0015】
請求項2に記載の本発明に係る音声信号処理装置によれば、増幅器の後段に、前段デジタルフィルタが設けられた状態において当該前段デジタルフィルタに予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカによる音圧応答波形に対する逆フィルタを係数とする後段デジタルフィルタを設けることで、前段デジタルフィルタの処理残差を補正することができる結果、より高い忠実度で原音声を再生することができる。
【0016】
請求項3に記載の本発明に係る音声信号処理装置は、請求項1又は請求項2に記載の音声信号処理装置であって、前記予め定められた音声信号が、インパルス信号であるものである。
【0017】
請求項3に記載の本発明に係る音声信号処理装置によれば、予め定められた音声信号をインパルス信号とすることで、当該音声信号をインパルス信号以外の信号とする場合に比較して、より簡易に逆フィルタを導出することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、より高い忠実度で原音声を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る音声信号処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る音声信号処理装置の製作工程を示す図であり、前段デジタルフィルタを製作する場合の構成の一例を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る音声信号処理装置の製作工程を示す図であり、後段デジタルフィルタを製作する場合の構成の一例を示すブロック図である。
図4】実施形態に係る音声信号処理装置の製作工程を示す図であり、主として前段デジタルフィルタを製作する場合の、より詳細な製作工程の状況の一例を示す模式図である。
図5】従来の技術の説明に供する図であり、従来のスピーカの構造の一例を示す側面断面図である。
図6】従来の技術の説明に供する図であり、スピーカにインパルス信号を入力したときの音圧波形の一例を示す波形図である。
図7】従来の技術の説明に供する図であり、スピーカのトランジェント特性の改善方法のうち、能動的な改善方法による音声信号処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0021】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る音声信号処理装置10の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る音声信号処理装置10の構成の一例を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る音声信号処理装置10は、電力増幅器12、前段デジタルフィルタ14、及び後段デジタルフィルタ16を含んで構成されている。
【0023】
本実施形態に係る電力増幅器12は、入力された音声信号を増幅してスピーカ20に入力するための音声信号を出力する。また、本実施形態に係る前段デジタルフィルタ14は、電力増幅器12の前段に設けられ、電力増幅器12に予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカ20のコーン紙面の振動応答波形に対する逆フィルタを係数とする。
【0024】
そして、本実施形態に係る後段デジタルフィルタ16は、電力増幅器12の後段に設けられ、前段デジタルフィルタ14が設けられた状態において当該前段デジタルフィルタ14に予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカ20による音圧応答波形に対する逆フィルタを係数とする。
【0025】
ここで、適用対象とするスピーカには特に制限はなく、スタティック型スピーカ、ダイナミック型スピーカ、圧電素子型スピーカ等といった、音の再生時に振動を計測することができる各種スピーカが適用可能である。
【0026】
なお、本実施形態に係る音声信号処理装置10では、上記予め定められた音声信号として、インパルス信号を適用しているが、これに限るものではない。人の声による音声信号や、音楽による音声信号等を上記予め定められた音声信号として適用する形態としてもよい。但し、この形態とした場合には、インパルス応答を推定する必要がある。
【0027】
次に、図2図4を参照して、本実施形態に係る音声信号処理装置10の製作工程について説明する。なお、図2は、本実施形態に係る音声信号処理装置10の製作工程を示す図であり、前段デジタルフィルタ14を製作する場合の構成の一例を示すブロック図である。また、図3は、本実施形態に係る音声信号処理装置10の製作工程を示す図であり、後段デジタルフィルタ16を製作する場合の構成の一例を示すブロック図である。更に、図4は、本実施形態に係る音声信号処理装置10の製作工程を示す図であり、主として前段デジタルフィルタ14を製作する場合の、より詳細な製作工程の状況の一例を示す模式図である。
【0028】
図2及び図4に示すように、まず、対象とするスピーカ20に対して電力増幅器12を接続し、電力増幅器12にインパルス信号を入力して、当該インパルス信号の入力に応じたスピーカ20のコーン紙(図5も参照。)の振動応答波形g(t)を計測する。本実施形態では、振動応答波形g(t)の計測にレーザドップラ振動計40を用いているが、これに限るものではない。他の非接触で振動を計測することができる計測装置を適用して振動応答波形g(t)を計測する形態としてもよい。
【0029】
次いで、振動応答波形g(t)に対する逆フィルタh(t)、即ち、畳み込み演算である次の式(1)を満たす逆フィルタh(t)を求める。なお、式(1)におけるδ(t)はデルタ関数である。
【0030】
【数1】
【0031】
次いで、求めた逆フィルタh(t)を係数とするデジタルフィルタを製作する。そして、一例として図3に示すように、製作したデジタルフィルタを前段デジタルフィルタ14として電力増幅器12の前段に設け、この状態で前段デジタルフィルタ14にインパルス信号を入力して、スピーカ20の直近で音圧応答波形p(t)を計測する。本実施形態では、音圧応答波形p(t)の計測に、通常のマイクロフォンを用いているが、これに限るものではなく、他の音圧を計測することができる計測装置を適用して音圧応答波形p(t)を計測する形態としてもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、音圧応答波形p(t)を計測する位置として、スピーカ20が設けられている部屋の壁面等からの音の反射の影響を考慮して、スピーカ20の正面から1mの距離の地点としているが、これに限るものではない。スピーカ20が設けられている部屋の壁面等からの反射音が無視できる程度の距離であれば、如何なる距離も音圧応答波形p(t)を計測する位置として適用することができる。
【0033】
次いで、音圧応答波形p(t)に対する逆フィルタhc(t)、即ち、畳み込み演算である次の式(2)を満たす逆フィルタhc(t)を求める。
【0034】
【数2】
【0035】
最後に、求めた逆フィルタhc(t)を係数とするデジタルフィルタを製作し、一例として図4に示すように、製作したデジタルフィルタを後段デジタルフィルタ16として電力増幅器12の後段に設ける。
【0036】
以上のように製作された音声信号処理装置10は、スピーカへの入力が適正である(過大ではない、或いはコンプレッサが機能した状態である)限り、一旦係数を決めたこれらのデジタルフィルタは恒久的に使用することができる。
【0037】
また、前段デジタルフィルタ14及び後段デジタルフィルタ16を、電力増幅器12、スピーカ20本体、或いは、それ以外の音響装置(プロセッサ等)に内蔵する形態としてもよい。
【0038】
コーン紙面の振動(振動速度)と、それに接する空気の振動(粒子速度)は連続していることから、前段デジタルフィルタ14によって、コーン紙の振動波形を原信号に追従させることにより音圧波形の鈍りも補正することができる。但し、コーン紙面の振動の周波数特性がピークやディップを含む場合、安定で完全な逆フィルタが求められないことも想定し得るため、残差補正用のフィルタとして後段デジタルフィルタ16を併用し、音圧波形のレベルで原信号を、ほぼ完全に再現できるようにした。
【0039】
音圧波形から求めた逆フィルタのみを用いる方法(従来の能動制御の殆どは、この方法に属する。)も考えられるが、音圧波形は指向性や距離減衰等の影響を受け、計測位置により相当異なるため、求めた逆フィルタで十分に補正し切れないばかりか、むしろ劣化するエリアが生じる可能性もある。また、反射波の影響により逆フィルタが安定に求められない状況となる(いわゆる最小位相条件が確保されない)等の煩雑さが想定される。
【0040】
また、上述したように、特許文献1に開示されている方法は、原信号を一旦バッファメモリに蓄え、それに対して適応制御の一種である予見スライディングモード制御を施すものであるが、バッファメモリに蓄えた時点で原信号に対して相応の遅延が生じる。このため、この方法では、例えば、講演や演奏会等のように、リアルタイムで拡声する場合等には、発話及び発音や、それらに付随する所作や動作との間に遅れが生じ、違和感を生じることも懸念される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、入力された音声信号を増幅してスピーカに入力するための音声信号を出力する増幅器(本実施形態では、電力増幅器12)と、当該増幅器の前段に設けられ、当該増幅器に予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカのコーン紙面の振動応答波形に対する逆フィルタを係数とする前段デジタルフィルタと、を備えている。従って、より高い忠実度で原音声を再生することができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、上記増幅器の後段に設けられ、前段デジタルフィルタが設けられた状態において当該前段デジタルフィルタに予め定められた音声信号を入力した場合のスピーカによる音圧応答波形に対する逆フィルタを係数とする後段デジタルフィルタを更に備えている。従って、前段デジタルフィルタの処理残差を補正することができる結果、より高い忠実度で原音声を再生することができる。
【0043】
更に、本実施形態によれば、上記予め定められた音声信号としてインパルス信号を適用している。従って、当該音声信号をインパルス信号以外の信号とする場合に比較して、より簡易に逆フィルタを導出することができる。
【0044】
なお、上記実施形態では、音声信号処理装置10として、前段デジタルフィルタ14及び後段デジタルフィルタ16の双方を含むものを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、前段デジタルフィルタ14のみを含むものを音声信号処理装置10として適用する形態としてもよい。この場合、上述した前段デジタルフィルタ14による残差については補正することができないものの、音声信号処理装置10を、より低コスト、かつ、より小型に構成することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 音声信号処理装置
12 電力増幅器
14 前段デジタルフィルタ
16 後段デジタルフィルタ
20 スピーカ
40 レーザドップラ振動計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7