IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人相模中央化学研究所の特許一覧

特開2023-119461パーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法
<>
  • 特開-パーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119461
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】パーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/26 20060101AFI20230821BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230821BHJP
   B01J 31/30 20060101ALI20230821BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230821BHJP
【FI】
C07D213/26
B01J35/02 J
B01J31/30 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022379
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀典
(72)【発明者】
【氏名】林 和史
【テーマコード(参考)】
4C055
4G169
4H039
【Fターム(参考)】
4C055AA01
4C055BA02
4C055BA08
4C055CA02
4C055CA13
4C055DA01
4C055FA01
4C055FA03
4C055FA09
4G169AA06
4G169BA21A
4G169BA26A
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA48A
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC70B
4G169BE08B
4G169BE16B
4G169BE38B
4G169BE46B
4G169CB25
4G169CB62
4G169CB66
4G169DA04
4G169HA02
4G169HB10
4G169HC01
4G169HE10
4G169HF01
4G169HF03
4H039CA19
4H039CA51
4H039CD20
4H039CD90
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フラスコなどの一般的な反応容器を用いたバッチ法よりも高い収率や生産性でパーフルオロアルキルピリジン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】光触媒、銅触媒、塩基及びホウ素置換基を有するピリジン化合物とパーフルオロハロアルカンとをフロー式反応容器内に供給し、反応容器に光を照射して、パーフルオロアルキルピリジン化合物を連続的に製造することを特徴とする、パーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒、銅触媒、塩基及び式(2)で示されるホウ素置換基を有するピリジン化合物と式(4)で示されるパーフルオロハロアルカンとをフロー式反応容器内に供給し、反応容器に光を照射して、パーフルオロアルキルピリジン化合物を連続的に製造することを特徴とする、式(1)で示されるパーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法。
【化1】

(式中、X、X、X、X及びXは、各々独立に、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数2~10のヘテロアリール基を表す。X、X、X、X及びXのうち少なくとも1つは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。)
【化2】

(式中、Y、Y、Y、Y及びYは、各々独立に、式(3)で示されるホウ素置換基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数2~10のヘテロアリール基を表す。Y、Y、Y、Y及びYのうち少なくとも1つは式(3)で示されるホウ素置換基である。)
【化3】

(式中、Z及びZは各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。Z及びZは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含む環を形成してもよい。)
【化4】

(式中、Rfは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。Qは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
【請求項2】
ホウ素置換基を有するピリジン化合物、光触媒、銅触媒及び塩基を含む溶液を第一の流路に流通させ、パーフルオロハロアルカンを第二の流路に流通させ、各流路を合流させて流路内の原料を混合し、その混合液を光透過性のある管状の反応容器内に供給し、反応容器に光を照射することでホウ素置換基を有するピリジン化合物とパーフルオロハロアルカンとを反応させ、反応容器から連続的に排出される生成物中にパーフルオロアルキルピリジン化合物を得る、請求項1に記載のパーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法。
【請求項3】
パーフルオロアルキル基がトリフルオロメチル基である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
、X、X、X及びXのうち、1つのみがパーフルオロアルキル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
照射光が450nm~470nmの波長域を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
光触媒が、可視光を吸収する有機金属錯体又は有機色素である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
銅触媒が、一価又は二価の銅塩である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
塩基が、含窒素塩基性有機物又は無機塩基である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキル基をはじめとする含フッ素アルキル基は生理活性発現に利用される重要な官能基であり、医農薬品の開発に数多く利用されている(非特許文献1、非特許文献2)。中でもパーフルオロアルキル基で置換されたピリジン化合物は農薬や癌の治療薬として重要な化合物群であり、ピリジン環への効率的で生産性の高いパーフルオロアルキル基導入手法が求められている。芳香環へパーフルオロアルキル基を導入する有用な手法の一つに、パーフルオロハロアルカンと光とを用いた手法が挙げられる(例えば、非特許文献3)。パーフルオロハロアルカンは含フッ素アルキル源として原子効率や官能基許容性・安定性の面で優れており、さらに光をエネルギー源とすることで温和な条件で反応を実施することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Inoue M.,et al.,ACS Omega,2020年,5巻,10633-10640頁.
【非特許文献2】Ogawa Y.,et al.,iScience,2020年,23巻,101467頁.
【非特許文献3】Sanford,et al.,Journal of the American Chemical Society、2012年,134,9034-9037頁.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パーフルオロハロアルカンを原料とし、光反応を用いて芳香族化合物のパーフルオロアルキル化を行う際に、フラスコなどの一般的な反応容器を用いたバッチ法では、沸点の低いパーフルオロハロアルカン及び吸収が反応混合物の表面積に依存する光のいずれの利用効率も上げにくい。
本発明は、フラスコなどの一般的な反応容器を用いたバッチ法よりも高い収率や生産性で、パーフルオロアルキルピリジン化合物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ホウ素置換基を有するピリジン化合物とパーフルオロハロアルカンとを光をエネルギー源として反応させてパーフルオロアルキルピリジン化合物を製造するにあたり、光照射可能な反応容器を用いたフロー式反応を採用することで目的の反応生成物の収率や、生産性の指標の一つである空時収量を高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、光触媒、銅触媒、塩基及び式(2)で示されるホウ素置換基を有するピリジン化合物と式(4)で示されるパーフルオロハロアルカンとをフロー式反応容器内に供給し、反応容器に光を照射して、パーフルオロアルキルピリジン化合物を連続的に製造することを特徴とする、式(1)で示されるパーフルオロアルキルピリジン化合物の製造方法に関する。
【0007】
【化1】
【0008】
(式中、X、X、X、X及びXは各々独立に、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数2~10のヘテロアリール基を表す。X、X、X、X及びXの少なくとも1つは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。)
【化2】
【0009】
(式中、Y、Y、Y、Y及びYは各々独立に、式(3)で表されるホウ素置換基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数2~10のヘテロアリール基を表す。Y、Y、Y、Y及びYの少なくとも1つは式(3)で示されるホウ素置換基である。)
【0010】
【化3】

(式中、Z及びZは各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。Z及びZは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成してもよい。)
【0011】
【化4】
【0012】
(式中、Rfは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。Qは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、目的のパーフルオロアルキルピリジン化合物をバッチ法よりも高い収率や生産性で連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に用いるフロー式反応器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、光触媒、銅触媒及び塩基の存在下、式(2)で示されるホウ素置換基を有するピリジン化合物と、式(4)で示されるパーフルオロハロアルカンとを反応流路内に連続的に供給し、反応流路に光を照射して反応を生じさせ、パーフルオロアルキルピリジン化合物を連続的に製造する方法である。
【0016】
本反応に用いる反応装置の一実施形態を、図面を用いて説明する。本発明は、本発明で規定する事項を除き、図面に示された外形、形状に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の製造方法に用いる反応装置の一例を示す概略図である。
図1に示す反応装置は、ホウ素置換基を有するピリジン化合物、光触媒、銅触媒及び塩基の混合液を導入する導入口(1)を備えた流路(2)、パーフルオロハロアルカンを導入する導入口(3)を備えた流路(4)を有する。
【0018】
各流路は合流部(5)で合流し、この流路の下流側端部には反応管(6)が連結している。
反応流路(6)内では、光照射下、ホウ素置換基を有するピリジン化合物とパーフルオロハロアルカンとが反応してパーフルオロアルキルピリジン化合物を生成する。
【0019】
導入口(1)にはプランジャーポンプやシリンジポンプ等の送液ポンプが接続される。このポンプを動作することにより、ホウ素置換基を有するピリジン化合物、光触媒、銅触媒及び塩基の混合液を、反応流路内に所望の流速で流通させることができる。
【0020】
導入口(3)には圧力調整弁が接続され、この弁を調整することにより、パーフルオロハロアルカンを流路内に所望の流速で流通させることができる。また、調整弁と流入口の間にマスフローコントローラーなどの流量調整機器を介してもよい。なお、パーフルオロハロアルカンが液体の場合又はパーフルオロハロアルカンを溶解した溶液を流す場合は、導入口(1)と同様の方法で反応流路内に所望の流速で流通させることができる。
【0021】
図1に示す実施形態についてより詳細に説明する。
【0022】
<流路(2)>
流路(2)は、導入口(1)から導入されたホウ素置換基を有するピリジン化合物、光触媒、銅触媒及び塩基の混合液を上記合流部へと供給する流路である。
流路(2)の長さは特に制限はないが、例えば、長さ10cm~15m、取り扱いが容易である点で好ましくは30cm~5mのチューブにより構成することができる。
流路(2)の内径に特に制限はないが、例えば、内径0.1~5mmのチューブにより構成することができる。収率が高い点で0.5~1mmが好ましい。
【0023】
チューブの材質に特に制限はなく、例えば、テフロン(登録商標)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)などのフルオロアルキル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの芳香族ポリエーテルケトン系樹脂;ステンレス、銅または銅合金、ニッケルまたはニッケル合金、チタンまたはチタン合金などの金属;石英ガラス、ライムソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラスなどの無機ガラスが挙げられる。可撓性及び耐薬品性に優れる点で、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、テフロン(登録商標)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ステンレスが好ましい。
【0024】
流路(2)内には、ホウ素置換基を有するピリジン化合物、光触媒、銅触媒及び塩基を反応溶媒に溶解または分散せしめた混合液が導入される。
用いる溶媒としては、反応を阻害しない限り特に制限はなく、例えばジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素;エチレンカルボナート、プロピレンカルボナート、ジメチルカルボナート、ジエチルカルボナート、エチルメチルカルボナート、4-フルオロエチレンカルボナート等の炭酸エステル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、γ-ラクトン等のエステル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド;N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)、N,N’-ジメチルプロピレンウレア(DMPU)等のウレア;ジメチルスルホキシド(DMSO);及び、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール等を例示することができ、これらを任意の比で混合して用いてもよい。これらのうち、反応収率がよい点でDMFが好ましい。
【0025】
導入口(1)から混合液を導入する流速に特に制限はなく、例えば、0.01~100mL/minとすることができ、0.07~0.2mL/minがより好ましい。
用いる反応溶媒の量に特に制限はな。反応収率がよい点で、例えば、反応液中のホウ素置換基を有するピリジン化合物の濃度が0.01~1M(モル/リットル)、好ましくは0.03~0.2Mとなる量を用いることができる。
流路(2)の温度は特に制限はないが、流量の制御が容易な点で溶媒の沸点未満とすることが好ましく、例えば、-80℃から150℃とすることができ、0℃から100℃とすることがより好ましく、20℃から30℃がことさら好ましい。
【0026】
<流路(4)>
流路(4)は、導入口(3)から導入されたパーフルオロハロアルカンを上記合流部へと供給する流路である。
流路(4)の長さは特に制限はないが、例えば、長さ10cm~15m、取り扱いが容易である点で好ましくは30cm~5m程度のチューブにより構成することができる。
流路(4)の内径に特に制限はないが、例えば、内径0.1~5mmのチューブにより構成することができる。収率が高い点で0.5~1mmが好ましい。
【0027】
チューブの材質に特に制限はなく、例えば、テフロン(登録商標)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)などのフルオロアルキル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの芳香族ポリエーテルケトン系樹脂;ステンレス、銅または銅合金、ニッケルまたはニッケル合金、チタンまたはチタン合金などの金属;石英ガラス、ライムソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラスなどの無機ガラスが挙げられる。可撓性及び耐薬品性に優れる点で、ステンレス、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、テフロン(登録商標)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、が好ましい。
パーフルオロハロアルカンが気体の場合、流路(4)に気体または溶媒を用いて溶液として導入することができ、用いる溶媒としては流路(2)で用いるものと同様のものが利用できる。
パーフルオロハロアルカンが液体の場合、液体として直接または溶液として導入することができ、用いる溶媒としては流路(2)で用いるものと同様のものが利用できる。
【0028】
導入口(3)からパーフルオロハロアルカンを導入する流速に特に制限はなく、例えば、0.01~100mL/minとすることができ、0.4~1.5mL/minがより好ましい。
パーフルオロハロアルカンを溶媒に溶解して用いる場合、パーフルオロハロアルカンの濃度に特に制限はなく、例えば、0.01~1M(モル/リットル)とすることができ、0.03~0.2Mが好ましい。
流路(4)の温度は特に制限はないが、流量の制御が容易な点で溶媒の融点以上かつ沸点未満とすることが好ましく、例えば、-80℃から150℃とすることができ、0℃から100℃とすることがより好ましく、20℃から30℃がことさら好ましい。
【0029】
<合流部(5)>
流路(2)内を流通する混合液と流路(4)内を流通するパーフルオロハロアルカンまたはその溶液とは、合流部(5)で合流する。合流部(5)はミキサーの役割を有し、流路(2)と流路(4)を一本の流路に合流し、合流部(5)の下流端部に連結する反応管(6)へと合流した溶液を送り出すことができる機能を有していれば、特に制限はない。例えば、T字又はY字型のコネクターを用いることができる。
合流部(5)内の流路の直径は特に制限はなく、例えば、0.1~30mmとすることができ、混合性能が良好な点で、0.2~1mmであることが好ましい。
合流部(5)の材質は特に制限はなく、例えば、テフロン(登録商標)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)などのフルオロアルキル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの芳香族ポリエーテルケトン系樹脂;ステンレス、銅または銅合金、ニッケルまたはニッケル合金、チタンまたはチタン合金などの金属;石英ガラス、ライムソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラスなどの無機ガラスが挙げられる。耐薬品性の良さや入手の容易さからポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、テフロン(登録商標)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ステンレスが好ましい。
【0030】
<反応管(6)>
合流部(5)で合流した合流液は、反応管(6)へと流れ、管内を下流へ流通する。反応管(6)には光が照射されており、反応液中に共存する光触媒によって、ホウ素置換基を有するピリジン化合物とパーフルオロハロアルカンとが反応する。
反応管(6)の形態に特に制限はなく、通常はチューブを用いる。
反応管(6)の材質は、溶媒及び原料に対し安定であり、光反応に関与する波長の光透過性を有している限り特に制限はないが、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA) 、テフロン(登録商標)などのフルオロアルキル系樹脂;石英ガラス、ライムソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラスなどの無機ガラスを用いることができ、光透過性及び可撓性が高い点でパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が好ましい。
また、反応管(6)の内径と長さ、混合液の流速等によって、反応時間を調整することができる。
反応管(6)の内径は、特に制限はないが、例えば、0.1~5mmの範囲より選ばれた内径とすることができる。光反応効率が高く、かつ圧力損失が低い点で0.5~1mmの範囲より選ばれた内径であることが好ましい。
反応管の長さは特に制限はないが、例えば、10cm~15m程度で構成することができ、1.5m~10mが好ましい。
反応管(6)の温度は、溶媒の融点以上であり、沸点未満とすることが好ましく、例えば、-80℃から150℃とすることができ、0℃から100℃とすることが好ましく、反応が良好に進行する点で40℃から70℃がより好ましい。
反応管(6)は排出部に背圧弁を設置してもよい。背圧弁により調製される反応管内の圧力は特に制限はないが、パーフルオロハロアルカンが液化しない点で、0.1~0.3MPaが好ましい。
【0031】
<光源(7)>
光源(7)は、反応管(6)に光を照射する。光源に特に制限はないが、例えば、白色蛍光灯、LED(白色、青色、緑色、赤色など)、ハロゲンランプ、白熱電球、水銀ランプなどを例示することができる。反応収率が良い点で白色蛍光灯、LED(白色、青色)、ハロゲンランプが好ましい。
光源(7)の波長は、用いる光触媒の励起スペクトルに対応した波長を有していればよく、該波長の成分を含む光源を適宜選ぶことができる。
光の強度は、特に制限はないが、反応管(6)の管径および反応液の濃度に応じて、光触媒の励起に必要な強度を選ぶことができる。
【0032】
<温度調節器(8)>
反応管(6)の外部温度を制御することにより、ホウ素置換基を有するピリジン化合物とパーフルオロハロアルカンとの反応温度を制御する。
温度調節器に特に制限はなく、目的の反応温度に応じて適宜選択することができ、例えば、水浴、オイルバス、オーブン、ドライアイス-アセトンバスなどが挙げられ、取り扱いが容易な点で、水浴又はオイルバスが好ましい。
【0033】
本発明の製造法における反応は、下記式(A)で示される。
【0034】
【化5】
【0035】
(式中、X、X、X、X、X、Y、Y、Y、Y、Y、Rf及びQは前記と同じ意味を表す。)
本発明で製造されるパーフルオロアルキルピリジン化合物(1)におけるX、X、X、X及びXは各々独立に、炭素数1~6のパーフルオロアルキル基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数2~10のヘテロアリール基であり、X、X、X、X及びXのうち少なくとも1つは炭素数1~6のパーフルオロアルキル基である。
【0036】
炭素数1~6のアルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
炭素数1~5のアルコキシ基としては例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
炭素数6~12のアリール基としては例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。反応収率がよい点で、フェニル基が好ましい。
炭素数2~10のヘテロアリール基としては例えば、ピリジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、キノリル基、イソキノリル基などが挙げられる。
【0037】
本発明において原料として用いるホウ素置換基を有するピリジン化合物(2)のY、Y、Y、Y及びYは各々独立に、式(3)で表されるホウ素置換基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基又は炭素数2~10のヘテロアリール基であり、Y、Y、Y、Y及びYのうち少なくとも1つは式(3)で示されるホウ素置換基である。
【0038】
【化6】
【0039】
(式中、Z及びZは前記と同じ意味を表す。)
【0040】
式(2)で表される化合物は、例えばハロゲン原子で置換されたピリジン化合物から一般的な有機金属化合物を合成する反応(例えばAngew.Chem.Int.Ed.2007,46,5359-5363参照)を用いて製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0041】
該炭素数1~6のアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
該炭素数1~5のアルコキシ基としては例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
該炭素数6~12のアリール基としては例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。中でも反応収率がよい点で、フェニル基が好ましい。
該炭素数2~10のヘテロアリール基としては例えば、ピリジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、キノリル基、イソキノリル基などが挙げられる。
式(3)中、Z及びZは各々独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。Z及びZは一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成してもよい。
該炭素数1~4のアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。
【0042】
及びZが一体となって酸素原子及びホウ素原子を含んで環を形成した場合の式(3)の例としては、特に限定されるものではないが、例えば、次の式(3a)から(3f)が例示でき、収率がよい点で、式(3b)で表される基が好ましい。
【0043】
【化7】
【0044】
本発明で用いるパーフルオロハロアルカン(4)は、例えばトリハロ酢酸塩と単体ハロゲンを用いた反応(例えばJ.Am.Chem.Soc. 1950,72,8,3806-3807)によって製造することができる。また、市販品を用いてもよい。
【0045】
パーフルオロハロアルカン(4)において、Rfで表される炭素数1~6のパーフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、n-ヘプタフルオロプロピル基、iso-ヘプタフルオロイソプロピル基、n-ノナフルオロブチル基、sec-ノナフルオロブチル基、tert-ノナフルオロブチル基、n-ウンデカフルオロペンチル基、n-トリデカフルオロヘキシル基などを例示することができる。収率が良い点でトリフルオロメチル基が好ましい。
【0046】
Qで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を例示することができ、光反応における反応性が高い点でヨウ素原子が好ましい。
【0047】
本発明で用いるパーフルオロハロアルカン(4)の量は、ホウ素置換基を有するピリジン化合物(2)に対して1~20倍モル量であり、反応収率がよい点で好ましくは3から5倍モル量である。また、パーフルオロハロアルカンが常温で気体の場合には、気体のまま用いてもよいし、あらかじめ溶媒に溶解して用いてもよい。
【0048】
本発明で用いる銅触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩化銅(I)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(I)などの一価の銅塩、塩化銅(II)、ヨウ化銅(II)、酢酸銅(II)などの二価の銅塩などが挙げられる。中でも反応収率がよい点で、酢酸銅(I)又は酢酸銅(II)が好ましい。
【0049】
本発明で用いる光触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、Ru(bpy)Cl又はその水和物、Ir(ppy)、Ir(ppy)(dtb-bpy)PF、Cr(phen)(Xdqqz)(CFSO、Eosin Y、9-mesityl-10-methylacridinium perchlorate、triphenylpyryliumなどが挙げられる。中でも反応収率がよい点で、Ru(bpy)Cl又はその水和物が好ましい。
【0050】
本発明で用いる塩基としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等の金属炭酸塩、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等の金属酢酸塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等の金属リン酸塩、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等の金属フッ化物塩、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムイソプロピルオキシド、カリウムt-ブトキシド等の金属アルコキシド、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピリジン、アニリン等の含窒素有機塩基等を挙げることができる。中でも反応収率がよい点で、金属炭酸塩又は含窒素有機塩基が好ましく、炭酸カリウム又はジイソプロピルアミンがさらに好ましい。塩基の量に特に制限は無いが、反応収率がよい点で、塩基とホウ素置換基を有するピリジン化合物とのモル比は、5:1~1:1の範囲にあることが好ましい。
【0051】
本発明で反応を実施する温度について、特に制限はないが、具体的には20℃から100℃であり、好ましくは、40℃から80℃である。
【実施例0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、トリフルオロメチルピリジン化合物合成における収率及び空時収量は、得られた化合物のNMR測定の結果をもとに、それぞれ以下の計算式により算出した。
【0053】
【数1】
【0054】
【数2】
【0055】
H-NMR測定]
H-NMRの測定には、AVANCE III HD 400(400MHz;BRUKER製)及び AVANCE III 400(400MHz;BRUKER製)を用いた。H-NMRは、重クロロホルム(CDCl)を測定溶媒とし、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。また、試薬類は市販品を用いた。
【0056】
[反応装置]
図1に示す反応装置を用いて製造を実施した。
送液ポンプ:
東京理化器械製、中・高圧送液ポンプKP-22-13(PEEK)又はKD Scientific製シリンジポンプKDS100を用いた。
流路(2):
外径1/16インチ、内径1mm、長さ1mのPEEKチューブを用いた。
流路(4):
外径1/16インチ、内径1mm、長さ5mのSUS管と外径1/16インチ、内径1mm、長さ1mのPTFEチューブを連結して用いた。SUS管側を導入口とし、導入口には圧力調整弁を介してトリフルオロヨードメタン(東ソー・ファインケム社)のボンベを接続した。
混合器:
GLサイエンス社製ピークタフコネクターティー0.5mmを用いた。
反応流路(6):
外径1/16インチのPEAチューブを用いた。内径と長さは反応条件に合わせて適宜変更した。
光源:
白色蛍光灯としてパナソニック社製電球形蛍光灯クール色(消費電力20W)を使用した。
【0057】
実施例
【0058】
【化8】
【0059】
導入口(3)より流路(4)にトリフルオロヨードメタン(CFI)ガスを流速0.4mL/minで導入し、導入口(1)より流路(2)に2-フェニル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン(211mg,0.75mmol)、酢酸銅(I)(45.9mg,0.38mmol)、Ru(bpy)Cl・6HO(4.8mg,7.5μmol)及び炭酸カリウム(104mg,0.75mmol)を混合したDMF溶液(25mL)を0.20mL/minで導入した。これら2つの流路をT字混合器にて合流させ、これによって混合された原料を下流に接続した光反応部であるPFAチューブ(内径1.0mm,長さ1.8m,体積1.4mL)に連続的に供給した(滞留時間7分)。PFAチューブはガラスビーカーの外壁に巻き付けて配管し、水浴にて60℃に維持した。ビーカー内には20W白色蛍光灯を入れ光源とした。光反応部位から7分間で排出された反応溶液(1.4mL)を試験管に集め、内部標準物質として1,3,5-トリフルオロベンゼン(33mg,0.25mmol)を加え、NMR測定により2-フェニル5-トリフルオロメチルピリジンの収率を決定し、空時収量を計算した。H-NMR収率18%、空時収量0.78mmol・min-1・L-1
【0060】
実施例
【0061】
【化9】
【0062】
導入口(3)より流路(4)にトリフルオロヨードメタン(CFI)ガスを流速0.4mL/minで導入し、導入口(1)より流路(2)に2-フェニル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン(167mg,0.6mmol)、酢酸銅(II)(54.1mg,0.3mmol)、Ru(bpy)Cl・6HO(4.46mg,60μmol)及びnPrNH(83μL,1.2mmol)のDMF溶液(20mL)を0.20mL/minで導入した。これら2つの流路をT字混合器にて合流させ、混合された原料を下流の光反応部であるPFAチューブ(内径1.0mm,長さ1.8m,体積1.4mL)に連続的に供給した(滞留時間7分)。PFAチューブはガラスビーカーの外壁に巻き付けて配管し、水浴にて60℃に維持した。ビーカー内には20W白色蛍光灯を入れ光源とした。光反応部位から排出された反応溶液を10分間ごとに3本の試験官に集め、内部標準物質として1,3,5-トリフルオロベンゼン(33mg,0.25mmol)を加え、NMR測定により2-フェニル5-トリフルオロメチルピリジンの収率を決定し、空時収量を計算した。H-NMR収率7.3%(平均値)、空時収量0.44mmol・min-1・L-1(平均値)。
【0063】
実施例
【0064】
実施例2と同様に、トリフルオロヨードメタン(CFI)ガスを流速1.4mL/minで導入し、2-フェニル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン(478mg,1.7mmol)及び酢酸銅(II)(154mg,0.85mmol)、Ru(bpy)Cl・6HO(12.7mg,170μmol)、nPrNH(237μL,1.2mmol)を混合したDMF溶液(10mL)を0.074mL/minで導入し、光反応部としてPFAチューブ(内径0.75mm、長さ5m、体積2.2mL、滞留時間30分)を用いた以外は実施例2と同様に行った。H-NMR収率16%(平均値)、空時収量0.92mmol・min-1・L-1(平均値)。
【0065】
比較例
【0066】
【化10】
【0067】
セプタムで蓋をしたねじ付き試験管内に、アルゴン雰囲気下、2-フェニル-5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン(70.3mg,0.25mmol)、酢酸銅(I)(15.3mg,0.125mmol)、Ru(bpy)Cl・6HO(1.6mg,25μmol)及び炭酸カリウム(35.8μL,0.25mmol)の混合液にCFIのDMF溶液(1.15M,0.65mL,0.75mmol)とDMF(0.85mL)を加えアルゴンバブリングを行った後、蓋をセプタムからスクリューキャップに付け替えて密封し、20W白色蛍光灯を照射しながら60℃で7分間攪拌した。放冷後、内部標準物質として1,3,5-トリフルオロベンゼン(33mg,0.25mmol)を加え、NMR測定により2-フェニル5-トリフルオロメチルピリジンの収率を決定し、空時収量を計算した。H-NMR収率1.9%、空時収量0.44。
【0068】
比較例
【0069】
【化11】
【0070】
銅触媒として酢酸銅(II)(22.7mg,0.50mmol)、塩基としてnPrNH(69.6μL,0.50mmol)を用いた以外は、比較例1と同様にして行った。HINMR収率1.2%、空時収量0.29mmol・min-1・L-1
【0071】
比較例
用いるCFIの物質量を1.25mmolとし、反応時間を30分とした以外は、比較例1と同様にして行った。HINMR収率4.9%、空時収量0.27mmol・min-1・L-1
【0072】
結果を表1及び表2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1に示された空時収量を比較すると、本発明の製造方法を用いた実施例-1では、対応するバッチ法を用いた比較例-1よりも空時収量が大きい。表2に示された空時収量を比較すると、実施例-2および実施例-3では、対応するバッチ法を用いた比較例-2および比較例-3よりも空時収量が大きい。本発明の製造方法を用いることによって、バッチ式の製造方法よりも体積と時間当たりに生成するパーフルオロアルキルピリジン化合物の量が優れる製造方法を提供することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明による製法は、パーフルオロアルキルピリジン化合物の製造に適しており、特に、このような化合物が利用される医農薬品製造において適用されることが期待される。
【符号の説明】
【0077】
1:ホウ素置換基を有するピリジン化合物、光触媒、銅触媒及び塩基の混合液の導入口
2:ホウ素置換基を有するピリジン化合物、光触媒、銅触媒及び塩基の混合液の流路
3:パーフルオロハロアルカン原料の導入口
4:パーフルオロハロアルカンの流路
5:混合器
6:反応管(反応容器または反応流路とも呼ぶ)
7:光源
8:温度調節器


図1