(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119467
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】回転電機のコア部製造方法及びコア部製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20230821BHJP
【FI】
H02K15/02 K
H02K15/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022389
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】小堺 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 光博
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS05
5H615SS09
5H615SS10
5H615SS13
5H615SS44
(57)【要約】
【課題】 コア部の製造過程で治具とコア部とを分離するにあたり、コア部に適切に力が加わるようにして、コア部の鉄心本体をなす薄板に悪影響を及ぼすことなく治具との分離を実行できる、コア部製造方法を提供する。
【解決手段】 充填工程を経て得られたコア部10から、分離工程で治具20を離隔させるにあたって、治具20を通じてコア部10に接する分離機構40の突き上げ部41を、コア部10の鉄心本体11における、内周部の非円周部の近傍でこれに正対する位置に接触させ、突き上げ部41から力を効率よく加えられるようにすることから、鉄心本体11の非円周部がポスト部22との間の摩擦抵抗を受けても、鉄心本体11に加わる力の偏りに基づく応力が鉄心本体11各部に生じにくくなり、鉄心本体11をなす薄板への変形等の悪影響を抑えられ、コア部10を問題なく治具20から分離できる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属材料製の薄板が複数積層されて形成された鉄心本体を治具で支持した状態で、当該鉄心本体における複数の空間部に樹脂を充填し、回転電機の回転子又は固定子の一部をなすコア部を製造する、コア部製造方法において、
前記鉄心本体の空間部に樹脂を充填する充填工程と、
前記充填工程を経て得られた前記コア部及び前記治具を所定の分離機構で離隔させる分離工程と、を少なくとも含み、
前記治具が、前記鉄心本体を載置可能な基台部と、当該基台部から略柱状に突出するポスト部とを有し、前記基台部には貫通する貫通孔を複数設けられてなり、
前記鉄心本体が、中心部に薄板積層方向に貫通する軸孔を設けられ、当該軸孔に面する内周部には、前記軸孔に挿入される軸の回り止めとなる非円周部を一又は複数有してなり、前記充填工程では前記軸孔に前記治具のポスト部を挿通されて支持され、
前記分離機構が、前記治具の基台部に対し前記貫通孔を通って出没可能とされる突き上げ部を少なくとも有し、
前記分離工程で、前記分離機構の突き上げ部が、前記治具の基台部に対し相対的に突出して、前記コア部の鉄心本体のうち、前記軸孔の中心と前記非円周部を通る仮想直線上に位置する被接触部を含む複数箇所に接し、前記治具及びコア部のいずれか一方又は双方を相対的に移動させて、前記コア部と前記治具とを離隔させることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載のコア部製造方法において、
前記分離工程で、前記分離機構の突き上げ部を接触させる、前記コア部の鉄心本体における複数箇所が、前記鉄心本体の端面で前記軸孔の中心について対称となる複数箇所とされることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載のコア部製造方法において、
前記分離機構の突き上げ部における、前記コア部の鉄心本体端面への各接触面のうち、前記被接触部に接する接触面が、前記仮想直線を中心として対称となる形状とされることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載のコア部製造方法において、
前記鉄心本体が、前記軸孔に面する内周部と当該内周部の周囲部分との少なくとも一方における一又は複数箇所で、前記鉄心本体をなす各薄板同士をカシメで連結された状態で、前記治具に支持されて前記充填工程に供されることを
特徴とするコア部製造方法。
【請求項5】
磁性金属材料製の薄板が複数積層されて形成された鉄心本体を治具で支持した状態で、当該鉄心本体における複数の空間部に樹脂を充填し、回転電機の回転子又は固定子の一部をなすコア部を製造する、コア部製造装置において、
前記治具で支持された前記鉄心本体への樹脂の充填を経て得られた前記コア部に対し、前記治具を離隔させる分離機構を備え、
前記治具が、前記鉄心本体を載置可能な基台部と、当該基台部から略柱状に突出するポスト部とを有し、前記基台部には貫通する貫通孔を複数設けられてなり、
前記鉄心本体が、中心部に薄板積層方向に貫通する軸孔を設けられ、当該軸孔に面する内周部には、前記軸孔に挿入される軸の回り止めとなる非円周部を一又は複数有してなり、前記治具に支持される状態では前記軸孔に前記ポスト部を挿通され、
前記分離機構が、前記治具の基台部に対し前記貫通孔を通って出没可能とされる突き上げ部を少なくとも有し、
前記突き上げ部が、前記治具の基台部に対し相対的に突出して、前記コア部の鉄心本体のうち、前記軸孔の中心と前記非円周部を通る仮想直線上に位置する被接触部を含む複数箇所に接し、前記治具及びコア部のいずれか一方又は双方を相対的に移動させて、前記コア部と前記治具とを離隔させることを
特徴とするコア部製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の回転子又は固定子におけるコア部の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機といった回転電機の固定子又は回転子において、コイルや永久磁石を配設されるコアには、積層鉄心が一般に用いられる。
こうした積層鉄心のコアへの、コイルや永久磁石の配設にあたっては、従来から様々な工夫がなされてきた。
【0003】
例えば、回転子のコアの場合、特に、磁石埋込型(IPM:Interior Permanent Magnet)モータの回転子コアの場合、積層鉄心の磁石挿入孔に磁石を挿入固定する構造が採用されていた。こうした構造では、永久磁石を固定する際、磁石挿入孔への永久磁石の挿入後、磁石挿入孔における永久磁石の存在部分を除いた隙間に、熱硬化性樹脂等の樹脂を充填して、隙間を埋めることで、永久磁石を固定するようにしていた。
【0004】
そして、このように積層鉄心の磁石挿入孔に永久磁石を挿入したり、積層鉄心に樹脂を充填する工程が問題なく実行できるように、積層鉄心の下側に治具を配置する手法が従来から採用されてきた。
こうした従来の回転電機におけるコア製造に際し、治具を用いるものの例として、特開2016-134967号公報や特開2019-140841号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-134967号公報
【特許文献2】特開2019-140841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の回転電機のコアの製造は、前記各特許文献に示される方法でなされており、積層鉄心の下側に治具(搬送パレット、支持部材)を配置することで、積層鉄心の磁石挿入孔に挿入した磁石を保持させた上で、磁石挿入孔に樹脂を効率よく充填して、積層鉄心と磁石を確実に一体化することができるものとなっている。
【0007】
こうした従来のコアの製造において、使用される治具は、通常、積層鉄心を載置可能なベース部に、積層鉄心のシャフト取付用となる中心の孔に挿通されて位置決めに用いられるポスト部を立設した構造となっている。
【0008】
積層鉄心の磁石挿入孔に樹脂を充填して磁石を固定した後、治具は積層鉄心から分離されるが、ポスト部が積層鉄心の中心の孔に挿通されているため、分離にあたってはポスト部を積層鉄心の孔から完全に抜く必要がある。
【0009】
治具のポスト部は、積層鉄心をなす各金属薄板の位置決めのために、積層鉄心の中心の孔との間の隙間が最小限となるような寸法精度で形成されている。また、積層鉄心の中心の孔にシャフトを取り付ける関係上、積層鉄心の孔に面する内周にはシャフト回り止め用の凸部が一又は複数設けられる。ポスト部には、この凸部に対応して凹部が設けられ、凸部と係合する仕組みとなっている。
【0010】
このため、積層鉄心の中心の孔からポスト部を抜いて治具と積層鉄心とを分離する際には、積層鉄心の内周部や凸部にポスト部が接触しやすく、摩擦抵抗が増えることで分離のために加える力が増大することとなる。また、治具からの分離に係る移動のために積層鉄心に力を直接加えようとすると、通常は積層鉄心の複数箇所にそれぞれ接して力を加える状態となり、積層鉄心における力の偏りは避けられない。こうした偏りに起因して、積層鉄心の孔周辺部、特にポスト部側に突出する形状のために周囲のポスト部に接触しやすい状況にある凸部に、加えられた力やポスト部との摩擦抵抗に伴う応力が過剰に生じ、積層鉄心をなす各薄板に変形等の悪影響を及ぼすおそれがあるという課題を有していた。
【0011】
これに対し、前記特許文献2に示されるように、治具(支持部材)と積層鉄心との間にスペーサを介設し、治具と積層鉄心を分離する際には、スペーサをポスト部の軸線方向に変位させ、スペーサと共に積層鉄心を治具に対し移動させて、積層鉄心にスペーサを介して力が加わるようにすることで、積層鉄心に加わる力が偏らず、積層鉄心をなす各薄板の変形を抑えられるという手法も提案されている。しかしながら、治具と積層鉄心との間にスペーサを介在させると共に、このスペーサを積層鉄心ごと動かすための機構を追加で設ける必要があり、治具と積層鉄心の分離のための機構が複雑化し、コストが増大するという課題を有していた。
【0012】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、コア部の製造過程で樹脂充填後のコア部を支持する治具から、コア部を分離するにあたり、コア部に適切に力を加えてコア部を動かすようにして、コア部の鉄心本体をなす薄板に悪影響を及ぼすことなく治具との分離を実行できる、コア部製造方法及びコア部製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の開示に係るコア部製造方法は、磁性金属材料製の薄板が複数積層されて形成された鉄心本体を治具で支持した状態で、当該鉄心本体における複数の空間部に樹脂を充填し、回転電機の回転子又は固定子の一部をなすコア部を製造する、コア部製造方法において、前記鉄心本体の空間部に樹脂を充填する充填工程と、前記充填工程を経て得られた前記コア部及び前記治具を所定の分離機構で離隔させる分離工程と、を少なくとも含み、前記治具が、前記鉄心本体を載置可能な基台部と、当該基台部から略柱状に突出するポスト部とを有し、前記基台部には貫通する貫通孔を複数設けられてなり、前記鉄心本体が、中心部に薄板積層方向に貫通する軸孔を設けられ、当該軸孔に面する内周部には、前記軸孔に挿入される軸の回り止めとなる非円周部を一又は複数有してなり、前記充填工程では前記軸孔に前記治具のポスト部を挿通されて支持され、前記分離機構が、前記治具の基台部に対し前記貫通孔を通って出没可能とされる突き上げ部を少なくとも有し、前記分離工程で、前記分離機構の突き上げ部が、前記治具の基台部に対し相対的に突出して、前記コア部の鉄心本体のうち、前記軸孔の中心と前記非円周部を通る仮想直線上に位置する被接触部を含む複数箇所に接し、前記治具及びコア部のいずれか一方又は双方を相対的に移動させて、前記コア部と前記治具とを離隔させるものである。
【0014】
このように本発明の開示によれば、治具で支持された鉄心本体の空間部に樹脂を充填する充填工程を経て、コア部を得た後、分離工程としてこのコア部から治具を離隔させるにあたって、治具の基台部を通じてコア部に接する分離機構の突き上げ部を、コア部の鉄心本体における、軸孔の中心と内周部の非円周部を通る仮想直線上に位置する被接触部に少なくとも接触させて、治具に対するコア部の相対移動に際し、コア部の鉄心本体がその非円周部の近傍でこれに正対する位置に接する突き上げ部から力を効率よく加えられて、突き上げ部に適切に支えられる状態となることにより、鉄心本体の非円周部がポスト部との間の摩擦抵抗を受けても、鉄心本体に加わる力の偏りに基づく応力が鉄心本体各部に生じにくくなり、鉄心本体をなす薄板への変形等の悪影響を抑えられ、コア部を問題なく治具から分離して次の工程に送り出せるなど、コア部の製造を安定的に行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法を適用するコア部製造装置の樹脂材料注入状態説明図である。
【
図2】
図2(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法に用いる治具の平面図であり、
図2(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法に用いる鉄心本体の底面図であり、
図2(c)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法に用いる鉄心本体の治具による支持状態における縦断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における鉄心本体のコア部製造装置上下型による挟持からの解放状態説明図である。
【
図4】
図4(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程での突き上げ部の鉄心本体接触状態説明図であり、
図4(b)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程でのコア部の治具からの分離進行状態説明図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程でのコア部の治具からの分離完了状態説明図である。
【
図6】
図6(a)は本発明の第1の実施形態に係るコア部製造方法で得られたコア部の平面図であり、
図6(b)は
図6(a)のA-A断面図である。
【
図7】
図7(a)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程での治具及び下型の移動前状態説明図であり、
図7(b)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程での突き上げ部の鉄心本体接触状態説明図である。
【
図8】
図8(a)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程でのコア部の治具からの分離進行状態説明図であり、
図8(b)は本発明の第2の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程でのコア部の治具からの分離完了状態説明図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係るコア部製造方法における充填工程での溶融樹脂注入状態説明図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係るコア部製造方法における鉄心本体のコア部製造装置上下型による挟持からの解放状態説明図である。
【
図11】
図11(a)は本発明の第3の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程での突き上げ部の移動前状態説明図であり、
図11(b)は本発明の第3の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程での突き上げ部の鉄心本体接触状態説明図である。
【
図12】
図12(a)は本発明の第3の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程でのコア部の治具からの分離進行状態説明図であり、
図12(b)は本発明の第3の実施形態に係るコア部製造方法における分離工程でのコア部の治具からの分離完了状態説明図である。
【
図13】
図13(a)は本発明の他の実施形態に係るコア部製造方法に用いる鉄心本体の底面図であり、
図13(b)は本発明の他の実施形態に係るコア部製造方法に用いる治具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る回転電機のコア部製造装置を
図1~
図6に基づいて説明する。
各図において本実施形態に係るコア部製造方法は、鉄心本体11を治具20で支持した状態で、鉄心本体11における複数の空間部に樹脂を充填する充填工程と、この充填工程を経て得られたコア部10に対し、治具を所定の分離機構で離隔させる分離工程とを少なくとも有し、この分離工程で、分離機構の突き上げ部41を治具20に対し相対的に突出させ、治具20に支持されたコア部10の鉄心本体11端面の複数箇所に接触させつつ、治具20に対しコア部10を相対的に移動させ、コア部10と治具20とを離隔させるものである。
【0017】
本実施形態に係るコア部製造方法を適用するコア部製造装置1は、積層構造の鉄心本体11を治具20で支持した状態で、鉄心本体11における複数の空間部に樹脂を充填し、回転電機の回転子をなすコア部10を製造するものである。詳細には、コア部製造装置1は、治具20で支持された鉄心本体11に樹脂を充填する充填機構としての上型31及び下型32と、鉄心本体11への樹脂の充填を経て得られたコア部10に対し、治具20を離隔させる分離機構40とを備える構成である。
【0018】
本実施形態に係るコア部製造方法により製造されるコア部10は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層して形成される鉄心本体11と、この鉄心本体11に複数設けられる空間部としての各磁石挿入孔11bに挿入配設される永久磁石12と、各磁石挿入孔11bに充填される樹脂製の充填材13とを備える構成である(
図6参照)。このコア部10は、回転電機(電動機や発電機)の回転子としての公知の構造を有するものであり、詳細な説明を省略する。
【0019】
鉄心本体11は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層して形成される積層鉄心である。この鉄心本体11をなす薄板11aは、電磁鋼やアモルファス合金等からなる薄板材から打抜き形成されるものである。
【0020】
鉄心本体11には、空間部として永久磁石12を挿入可能な磁石挿入孔11bが複数設けられる。磁石挿入孔11bは、薄板11aの積層方向に鉄心本体11を貫通する孔であり、鉄心本体11の円形の外周に沿う所定の配置で設けられる。この磁石挿入孔11bの位置、形状及び数は、回転電機の用途、要求される性能などに応じて適宜設定することができる。
この他、鉄心本体11の中心部には、薄板11aの積層方向に鉄心本体11を貫通する軸孔11cが設けられ、この軸孔11cに回転子の回転軸(シャフト)を挿通固定可能とされる。
【0021】
鉄心本体11の軸孔11cに面する内周部は、軸孔11cに挿通される回転子の回転軸が鉄心本体11に対し不要な回転を生じず固定状態を維持可能となるように、回り止めとしての非円周部を形成される。具体的には、非円周部は、二つの角部を有して軸孔11cに突出する凸部11dとされる。この場合、軸孔11cは、所定径の円周部とこの円周部の円に対し凹となる複数の非円周部とを有する孔形状とされる。
鉄心本体11は、コア部製造装置1による樹脂の充填工程やその前後で治具20に支持され、分離工程で分離されるまで治具20と一体に取り扱われることとなる。
【0022】
永久磁石12は、回転子の界磁用として、鉄心本体11の各磁石挿入孔11bに挿入されて配設されるものである。この永久磁石12を各磁石挿入孔11bに挿入すると、永久磁石12と鉄心本体11との間には隙間が生じる。このような磁石挿入孔11bにおける永久磁石12を除く残余部分に、充填材13が充填されることとなる。
【0023】
充填材13は、磁石挿入孔11bに、より詳細には、永久磁石12挿入後の磁石挿入孔11b残余部分に、溶融状態で注入、充填された樹脂が、充填後に固化したものである。充填材13を構成する樹脂は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂などであり、樹脂タブレット又は粉末状の樹脂等として供給された樹脂材料を溶融させた後、固化させて得られるものである。
この充填材13は、永久磁石12を磁石挿入孔11b内に固定すると共に、積層されて隣り合う薄板11a同士の連結強化に寄与することとなる。
【0024】
治具20は、鉄心本体11を載置可能な基台部21と、この基台部21から略柱状に突出するポスト部22とを備える構成である(
図2(a)参照)。
基台部21は、例えば矩形板状の台状部材とされ、鉄心本体11を載置されてこの鉄心本体11の下端面に当接する状態で、鉄心本体11を下から支持するものである。この基台部21には、貫通する孔21aが、円弧部と平行直線部のある長円状の孔形状とされて所定配置で複数設けられる。
【0025】
ポスト部22は、略円柱状に形成されて基台部21の上面略中央部に上方へ向けて突出するように配設されるものである。このポスト部22は、鉄心本体11の軸孔11cの形状と向きに対応する略円柱状とされて、鉄心本体11の軸孔11cに挿通可能とされる。ポスト部22には、鉄心本体11の内周部の凸部11dに対応する凹部22aが設けられ、ポスト部22の軸孔11cへの挿通状態で凹部22aが凸部11dと係合可能とされる。
【0026】
ポスト部22は、治具20による鉄心本体11の支持状態で、鉄心本体11の軸孔11cに挿通され、ポスト部22の中心cを軸孔11cの中心Cと一致させ、凹部22aの位置を鉄心本体11の凸部11dの位置と一致させる。
【0027】
この軸孔11cの中心Cと一致するポスト部22の中心cについて対称となるように、基台部21の貫通する孔21aがそれぞれ配置されることとなる。また、基台部21の孔21aは、ポスト部22の中心cと凹部22aとを通る仮想直線L上に、少なくともいずれかが位置するよう配置されると共に、この仮想直線Lを中心として対称となる形状として設けられる(
図2(b)参照)。
【0028】
コア部製造装置1の充填機構をなす上型31及び下型32は、鉄心本体11を挟持してこれら上下型間に位置させつつ、空間部としての磁石挿入孔11bに樹脂を充填し、さらに磁石挿入孔11bで溶融状態にある樹脂を加圧すると共に、樹脂の固化を進行させるものである。
【0029】
上型31及び下型32は、治具20に支持された鉄心本体11を、その積層方向両側から挟持押圧する。これにより、鉄心本体11には高さ方向から所定の荷重が付与され、鉄心本体11における磁石挿入孔11bを閉塞できる。
【0030】
これら充填機構をなす上型31及び下型32が、充填工程として、上型31側に保持された樹脂を、鉄心本体11における空間部としての磁石挿入孔11bに上から充填可能とされる。
【0031】
上型31は、下型32上に載置された鉄心本体11の上方に位置して、下型32と共に鉄心本体11及び治具20を挟持するものである。この上型31は、例えば矩形板状に形成される金型であり、樹脂を収容保持可能な複数の収容孔31aを設けられる構成である。また、上型31は、収容孔31aに対し上方から挿入可能に配設され、樹脂を鉄心本体11の磁石挿入孔11bへ押出可能とする押出部33を備える構成である。
【0032】
収容孔31aは、上型31と下型32とで鉄心本体11が挟持された状態において、鉄心本体11の各磁石挿入孔11bに対応する箇所にそれぞれ位置するように設けられる。こうした各収容孔31aに、樹脂タブレットや粉末状等の形態とされる樹脂材料が供給される。
【0033】
また、上型31は、樹脂材料を加熱して溶融させ、溶融樹脂81を得る機構として、各収容孔31aに収容されている樹脂材料を加熱可能とされるヒータ(図示を省略)を備える。
【0034】
押出部33は、溶融樹脂81を鉄心本体11の磁石挿入孔11bへ押出可能とするものであり、例えば、所定の駆動源による駆動で上下動可能とされる複数のプランジャとされる構成である。
各押出部33は、押出部ごとに対応する駆動源でそれぞれ駆動されて上下動可能とされるほか、複数の押出部を一つの駆動源でまとめて駆動して一体に上下動可能とするようにしてもよい。
収容孔31aで保持される溶融樹脂81は、充填工程で、押出部33により上型31の収容孔31aから押し出され、鉄心本体11の各磁石挿入孔11bに達する。
【0035】
下型32は、鉄心本体11及び治具20を載せられてこれらを支持しつつ、上型31と共に鉄心本体11及び治具20を挟持するものである。この下型32は、例えば矩形板状に形成される金型であり、必要に応じて治具20下面に設けられた凸部又は凹部と嵌合して治具の不要な動きを防止する凹部又は凸部を設けられる。
【0036】
分離機構40は、下型32に載置され支持された状態の治具20の基台部21に対し、基台部21の孔21aを通って出没可能とされる突き上げ部41と、治具20から離れた後のコア部10を支持可能なコア部支持部42と、治具20を保持して治具20がコア部10と共に移動するのを防ぐ治具保持部43とを備える構成である。
【0037】
突き上げ部41は、治具20の基台部21に対し突出して、治具20に支持されたコア部10の鉄心本体11端面のうち、軸孔11cの中心Cと内周部の凸部11dを通る仮想直線L上に位置する被接触部15を含む複数箇所に接しつつ、治具20に対しコア部10を移動させ、コア部10と治具20とを離隔させるものである。具体的には、突き上げ部41は、コア部10の鉄心本体11端面を押してコア部10を治具20に対し鉄心本体11の薄板積層方向に移動可能とするものであり、例えば、所定の駆動源による駆動で上下動可能とされる複数のプランジャとされる構成である。
【0038】
この突き上げ部41は、下型32に載置され支持された状態の治具20の基台部21における各孔21aの配置と同様に、治具20に支持されるコア部10の鉄心本体11端面における複数箇所であって、端面で軸孔11cの中心Cについて対称となる複数箇所に接触するよう配置される。こうして軸孔11cの中心について対称に配置されることで、鉄心本体11に加わる力のバランスが端面全体でとれ、鉄心本体11の治具20に対する傾きや位置ずれが生じにくく、これらが原因となって発生するコア部10を治具20に対し動かす際の摩擦抵抗やこれに伴う応力を抑えられる。
【0039】
そして、突き上げ部41における、コア部10の鉄心本体11端面への各接触面41aは、軸孔11cの中心Cと凸部11dを通る仮想直線L上に位置する被接触部15に接する接触面をはじめとして、仮想直線Lを中心として対称となる形状とされる。具体的には、突き上げ部41の各接触面41aの形状は、治具20の基台部21における各孔21aの形状と同様に、円弧部と平行直線部のある長円状とされる。
【0040】
突き上げ部41の接触面41aの形状を対称形とすることで、突き上げ部41の接する鉄心本体11の被接触部15が、非円周部としての凸部11dに正対すると共に凸部近傍にバランスよく配置され、この位置に突き上げ部41からの力を付加されることで、力が適切に作用して鉄心本体11における応力の発生を抑えられる。
【0041】
こうした突き上げ部41の対称配置や接触面41aの対称形状とされる点以外で、突き上げ部41の数や形状については、特に限定されず、治具20の基台部21における各孔21aを通過可能で、コア部10を安定して支持しつつ移動させられるものであれば、適宜設定してかまわない。例えば、突き上げ部の接触面の形状は、円弧部と平行直線部のある長円状に限らず、円や楕円などの閉じた曲線からなる形状や、矩形など直線を組み合わせた形状、あるいは曲線と直線とを組み合わせた形状とすることもできる。なお、分離機構40の突き上げ部41の接触面41a、及び、この突き上げ部41を通す治具20の基台部21における各孔21aは、コア部10の鉄心本体11端面のうち磁石挿入孔11bに対応する領域とは重複しない位置に配置される。これにより、樹脂の充填工程では基台部21が磁石挿入孔11bを塞いで、磁石挿入孔11bから基台部21側への樹脂漏れを防止することができる。
【0042】
コア部支持部42は、突き上げ部41により移動して治具20から離れた後のコア部10を支持して移動させ、コア部10を次の工程への移送のために上下型間から取出可能とするものである。
【0043】
治具保持部43は、突き上げ部41により治具20に対しコア部10を移動させる際に、少なくともコア部10が治具20から離れるまで、治具20を動かないよう保持し、治具20がコア部10と共に上方に移動しないようにすると共に、コア部10の分離後は治具20を支持しつつ移動させ、上下型間から取出可能とするものである。
【0044】
次に、本実施形態に係るコア部製造方法に基づくコア部の製造過程について説明する。
前提として、あらかじめ、公知の製法により、薄板材から打抜いた複数の薄板11aを積層した鉄心本体11が得られているものとする。そして、鉄心本体11は、治具20の基台部21に載置されると共に、軸孔11cに治具20のポスト部22を挿通されて、治具20に支持された状態で、各磁石挿入孔11bに永久磁石12を挿入され、適切な温度に予熱されてから、治具20と共に所定の移送機構によりコア部製造装置1の上下型間に搬入されるものとする。
【0045】
また、コア部製造装置1の上型31には、溶融樹脂81の材料としての樹脂材料が、上型31の収容孔31aに自動供給され、注入前に上型31でこれら樹脂材料を加熱して溶融させられるものとする。
【0046】
移送機構によりコア部製造装置1に搬入された鉄心本体は、この鉄心本体11を支持する治具20が下型32上に載置されることで、上下型間に配置された状態となっている。
一方、コア部製造装置1の上型31では、各収容孔31aに樹脂材料が収容保持され、これら各収容孔31aに保持された樹脂材料が適切なタイミングで加熱され、各収容孔31aで溶融し、溶融樹脂81となる。
【0047】
上型31と下型32の間に位置する鉄心本体11及び治具20に対し、上型31を下降させるか、下型32を上昇させて、上型31と下型32で鉄心本体11及び治具20を挟持押圧する状態に移行する。
これら上型31及び下型32での挟持による閉塞で鉄心本体11の各磁石挿入孔11bを外部から隔離した状態とした後、樹脂の充填工程が実行される。
【0048】
充填工程では、上型31の各収容孔31a内の溶融樹脂81に対し、各収容孔31aに挿入された押出部33が下向きに進んで溶融樹脂81を押圧し、溶融樹脂81を収容孔31aから下方へ押出す(
図1参照)。押し出された溶融樹脂81は、鉄心本体11の磁石挿入孔11bへ注入、充填される。
【0049】
各磁石挿入孔11bに充填された溶融樹脂81が固化し、鉄心本体11に永久磁石12が固定されて、コア部10が得られたら、押出部33を引き上げて元の状態に戻すと共に、上型31を上昇させるか、下型32を下降させて、上型31と下型32による鉄心本体11の挟持押圧を終了させ(
図3参照)、分離工程に移行する。
【0050】
分離工程では、治具20に支持された状態のコア部10に対し、分離機構40の突き上げ部41を動かして、突き上げ部41が基台部21の孔21aを通じ、この基台部21に載置されているコア部10の鉄心本体11端面に当接するようにする(
図4(a)参照)。この時、突き上げ部41は、鉄心本体11端面のうち、軸孔11cの中心Cと内周部の凸部11dを通る仮想直線L上に位置する被接触部15を含む複数箇所に接することとなる。
また、治具保持部43で下型上の治具20を保持し、治具20の上方を含む各方向への移動を規制する。
【0051】
この状態で、突き上げ部41を上方に動かし、コア部10を突き上げ部41で下から押して、治具20に対し上方に移動させる。これにより、コア部10における鉄心本体11の端面が治具20の基台部21から離れると共に、鉄心本体11の軸孔11cから治具20のポスト部22が抜ける状態となる(
図4(b)参照)。
【0052】
治具20は、治具保持部43により移動を規制されることに加え、突き上げ部41が上方にのみ移動し、鉄心本体11端面の対称関係にある複数箇所に接してこれを押すことで、治具20に対しコア部10を移動させる際に、コア部10に上移動以外の不要な動きは発生せず、鉄心本体11の凸部11dをはじめとする内周部が治具20のポスト部22に接して生じる摩擦抵抗を必要最小限に抑えることができ、問題なくコア部10を移動させられる。
【0053】
また、鉄心本体11端面における、突き上げ部41を接触させて押圧力を加えられる位置(被接触部15)が、軸孔11cの中心Cと凸部11dを通る仮想直線L上にあって、凸部11dの近傍に位置することで、凸部11dを含む鉄心本体11の内周部に応力が過大に生じることはなく、鉄心本体11をなす薄板11aの変形を防止できる。
【0054】
治具20のポスト部22上端がコア部10の下端より下になるまで、コア部10を突き上げ部41で上方に移動させることで、コア部10は、治具20から分離した状態となり、コア部10を治具20に対し任意方向に移動させることができる。
【0055】
治具20から分離したコア部10を、コア部支持部42で新たに保持した状態としたら(
図5参照)、突き上げ部41を下方に動かしてコア部10から離し、突き上げ部41の上端が治具20より下側となる元の位置まで戻す。コア部10は、コア部支持部42に保持された状態で、コア部支持部42により移動させられ、上下型間から取り出される。また、治具20も、突き上げ部41を元の位置に戻した後、治具保持部43による治具20の保持状態はそのままにして、治具20を下型に対し移動可能な状態とし、治具保持部43によって治具20を移動させ、上下型間から取り出す。
上下型間から取り出されたコア部10及び治具20は、それぞれ所定の移送機構により次の工程に移送されることとなる。
【0056】
このように、本実施形態に係るコア部製造方法においては、治具20で支持された鉄心本体11の空間部に樹脂を充填する充填工程を経て、コア部10を得た後、分離工程としてこのコア部10から治具20を離隔させるにあたって、治具20の基台部21を通じてコア部10に接する分離機構40の突き上げ部41を、コア部10の鉄心本体11における、軸孔11cの中心Cと内周部の凸部11dを通る仮想直線L上に位置する被接触部15に少なくとも接触させて、治具20に対するコア部10の相対移動に際し、コア部10の鉄心本体11がその凸部11dの近傍でこれに正対する箇所(被接触部15)に接する突き上げ部41から力を効率よく加えられて、突き上げ部41に適切に支えられる状態となることから、鉄心本体11の凸部11dがポスト部22との間の摩擦抵抗を受けても、鉄心本体11に加わる力の偏りに基づく応力が鉄心本体11各部に生じにくくなり、例えば変形等の、鉄心本体11をなす薄板11aへの悪影響を抑えられ、コア部10を問題なく治具20から分離して次の工程に送り出せるなど、コア部10の製造を安定的に行える。
【0057】
なお、本実施形態に係るコア部製造方法において、鉄心本体11をなす重なった薄板11a同士の関係について特に示していないが、鉄心本体11をなす各薄板11a同士を、鉄心本体11の軸孔11cに面する内周部とこの内周部の周囲部分の少なくとも一方における一又は複数箇所で、カシメにより連結し、得られた鉄心本体11を治具20で支持して充填工程に供給するようにすることもできる。
この場合、分離工程で、例えば非円周部としての凸部11dに摩擦抵抗に基づく力が加わっても、薄板11a同士が強固に連結一体化していることで、力に抗う強度が高まり、より確実に変形を生じさせない状態とすることができる。
【0058】
こうして鉄心本体11をなす各薄板11a同士をカシメにより連結する場合、カシメの位置と突き上げ部41の接触位置が重なるようにしてもよく、カシメで強度の高くなっている箇所に突き上げ部41から力が加わることで、突き上げ部41からの力が多少大きくても、鉄心本体11側に圧痕等の変形を生じさせないようにすることができる。
この他、鉄心本体11をなす薄板11a同士を、溶接や接着等で連結する構成とすることもできる。
【0059】
また、本実施形態に係るコア部製造方法において、コア部10及び治具20がコア部製造装置1の上下型間に存在する状態で、分離工程としての分離機構40によるコア部10と治具20の分離を実行する構成としているが、これに限らず、コア部10及び治具20を上下型間から搬出した後、所定の保持手段で治具20を保持した状態で、コア部製造装置1とは別体である分離機構の突き上げ部でコア部10を上方に移動させることで、コア部10と治具20を分離する構成とすることもできる。
【0060】
また、本実施形態に係るコア部製造方法において、充填工程では、溶融樹脂81を収容した収容孔31aのある上型31と鉄心本体11とを直接当接させた状態で、上型31から溶融樹脂81を押出し、鉄心本体11の磁石挿入孔11bに溶融樹脂81を注入、充填するようにしているが、これに限らず、鉄心本体11の上側に、鉄心本体11の磁石挿入孔11bに連通可能な樹脂流路となる凹部や貫通孔が設けられた板状のカルプレートを取り付け、このカルプレートを通じて、収容孔31aから押し出された溶融樹脂81を、鉄心本体11の磁石挿入孔11bに注入、充填する構成とすることもできる。
この場合、溶融樹脂81が固化した後、この固化した樹脂のうち鉄心本体の上部に残ったものを、カルプレートの取り外しにより除去でき、不要な樹脂の除去をより容易に行えることとなる。
【0061】
また、本実施形態に係るコア部製造方法において、充填工程では、上型31の各収容孔31aに収容保持した樹脂材料を加熱し溶融させて得た溶融樹脂81を、永久磁石12が既に挿入された磁石挿入孔11bに注入、充填して固化させるようにしているが、これに限られるものではなく、鉄心本体11の空間部としての磁石挿入孔11bに対し、永久磁石12の挿入前に未溶融状態のタブレット状や粒状、粉状等の樹脂材料を送入し、その後、永久磁石12を挿入すると共に樹脂材料を溶融させ、溶融した樹脂が磁石挿入孔11b各部に適切に位置した後、樹脂を固化させる手順としてもかまわない。
【0062】
(本発明の第2の実施形態)
第1の実施形態に係るコア部製造方法においては、分離工程で、治具20に対し突き上げ部41を上方に動かして治具20の基台部21の孔から突出させ、コア部10を上方に移動させることで、コア部10と治具20とを分離するようにしているが、これに限らず、第2の実施形態として、
図7及び
図8に示すように、突き上げ部41及びコア部10を動かさず、下型32及び治具20を下方に移動させて、コア部10と治具20とを分離するようにすることもできる。
【0063】
この場合、分離機構40の突き上げ部41を、治具20の基台部21に対し相対的に突出させて、治具20に支持されたコア部10の鉄心本体11端面のうち、軸孔11cの中心と内周部の凸部11dを通る仮想直線L上に位置する被接触部15を含む複数箇所に接触させつつ、治具20を下方に動かすことで、治具20に対しコア部10が相対的に移動する状態を生じさせ、コア部10と治具20とを離隔させる。具体的には、突き上げ部41は、治具20をこれが載った下型32ごと下方に移動するのを許容する一方、コア部10の鉄心本体11端面に接してコア部10を支持し、移動する治具20に対し動かず、コア部10の位置を保持することで、基台部21に対し相対的に突出し、コア部10を治具20に対し上方に相対的に移動させることとなる。
【0064】
また、コア部支持部42は、突き上げ部41により移動しない状態に保持されて治具20から離れた後のコア部10を支持して移動させ、コア部10を上下型間から次の工程へ移送可能とする。
【0065】
さらに、治具保持部43は、突き上げ部41で支持されたコア部10に対し治具20を移動させる際に、少なくとも治具20がコア部10から離れるまで、治具20が下型32と一体に移動するように、下型32の動きと連動しつつ治具20を保持すると共に、コア部10の分離後は治具20を支持しつつ移動させ、上下型間から取出可能とする。
【0066】
本実施形態における分離工程では、まず、治具保持部43で治具20を保持し、治具20の下型32に対する各方向への相対移動を規制する(
図7(a)参照)。その上で、分離機構40の突き上げ部41の位置を保ったまま、この突き上げ部41に対し下型32及び治具保持部43を下方へ移動させ、突き上げ部41が、基台部21の孔21aを通じて、治具20に支持された状態のコア部10の鉄心本体11端面に当接する状態とする(
図7(b)参照)。
【0067】
この状態で、突き上げ部41の位置を依然保持したまま、この突き上げ部41に対し下型32及び治具保持部43を下方へ移動させる。この時、コア部10はこれに接して動かない突き上げ部41で支持され、コア部10の下方への移動が規制されることにより、下型32と共に移動する治具20の基台部21はコア部10から離れていき、治具20のポスト部22はコア部10における鉄心本体11の軸孔11cから抜けていく(
図8(a)参照)。
【0068】
治具20は、治具保持部43により移動を規制されることに加え、突き上げ部41が鉄心本体11端面の適切な箇所に接してこれを支えることで、治具20を下に移動させる際に、治具20とコア部10との間に上下方向の相対移動以外の不要な動きは発生せず、鉄心本体11の凸部11dをはじめとする内周部と治具20のポスト部22とが接して生じる摩擦抵抗を必要最小限に抑えることができ、問題なく治具20をコア部10に対し移動させられる。
【0069】
治具20のポスト部22上端がコア部10の下端より下になるまで治具20を下方に移動させることで、コア部10は、治具20から分離した状態となり、コア部10を治具20に対し任意方向に移動させることができる。
【0070】
治具20から分離したコア部10を、コア部支持部42で新たに保持したら(
図8(b)参照)、このコア部支持部42でコア部10を突き上げ部41に対し移動させ、コア部10を上下型間から取り出す。コア部10を取り出した後、下型32を治具20と共に上昇させて元の位置に戻す。また、治具保持部43による治具20の保持状態はそのままにして、治具20を下型32に対し移動可能な状態とし、治具保持部43によって治具20を移動させ、上下型間から取り出す。
上下型間から取り出されたコア部10、及び治具20は、第1の実施形態同様、それぞれ所定の移送機構により次の工程に移送されることとなる。
【0071】
なお、本実施形態に係るコア部製造方法において、コア部10及び治具20がコア部製造装置1の上下型間に存在する状態で、分離工程としての分離機構40によるコア部10と治具20の分離を実行する構成としているが、これに限らず、コア部10及び治具20を上下型間から搬出した後、所定の保持手段で治具20を保持すると共に、コア部製造装置1とは別体である分離機構の突き上げ部をコア部10に当接させてコア部10を支えた状態で、静止させた突き上げ部に対し保持手段を治具20ごと下方に移動させることで、コア部10と治具20を分離する構成とすることもできる。
【0072】
また、第1の実施形態に係るコア部製造方法においては、分離工程で突き上げ部41を上方に動かし、動かない治具20に対しコア部10を突き上げ部41で押して上方に移動させることで、コア部10と治具20とを離隔させ、第2の実施形態に係るコア部製造方法においては、分離工程で突き上げ部41及びコア部10を動かさず、下型32及び治具20を下方に移動させて、コア部10と治具20とを離隔させるなど、各分離工程でコア部10と治具20とを離隔させるにあたり、治具20及びコア部10のいずれか一方のみを実際に移動させて、治具20とコア部10にこれらの一方が他方から離れる相対的な移動状態が生じるようにしている。ただし、これらに限られるものではなく、分離工程で、突き上げ部を上方に動かし、コア部を突き上げ部で押して上方に移動させるのと同時に、治具を下方に移動させる、すなわち、治具及びコア部の双方を移動させることで、コア部と治具とを離隔させる手法を採用してもかまわない。この場合、治具及びコア部がいずれも互いに離れる向きに実際に移動することで、コア部と治具との分離が速やかに進行し、分離工程をより短い時間で完了できることとなる。
【0073】
さらに、分離工程で治具及びコア部の双方を互いに逆方向に移動させる他に、治具とコア部をいずれも上方に動かしつつ、コア部の移動速度を治具の移動速度より大とすることで、コア部と治具とを離隔させるようにしたり、治具とコア部をいずれも下方に動かしつつ、治具の移動速度をコア部の移動速度より大とすることで、コア部と治具とを離隔させるようにしてもよい。
【0074】
(本発明の第3の実施形態)
第1の実施形態に係るコア部製造方法において、充填工程では、コア部製造装置1の上型31に設けた収容孔31aに樹脂を供給し、加熱し溶融させた樹脂を押出部33で収容孔31aから下向きに押し出して、鉄心本体11の空間部としての磁石挿入孔11bに対して上方から樹脂を注入、充填するようにしているが、これに限らず、第3の実施形態として、
図9~
図12に示すように、充填工程で、コア部製造装置2の下型37側から鉄心本体11に対し樹脂の注入、充填を行うようにすることもできる。
【0075】
この場合、コア部製造装置2における上型36は、第1の実施形態における収容孔31aや押出部33に相当するものが設けられないものとなる。一方、下型37は、樹脂を収容保持可能な複数の収容孔37aと、収容孔37aに対し下方から挿入可能に配設されて樹脂を押出可能とする押出部38を備えるものとなる。
【0076】
また、鉄心本体11を支える治具25は、第1の実施形態同様、基台部26と、ポスト部27とを備える一方、異なる点として、基台部26に、これを貫通する孔である複数の樹脂通路26bを設けられる構成である。この基台部26の複数の樹脂通路26bは、下型37の各収容孔37aに対応する配置とされ、下型37の各収容孔37a及び鉄心本体11の各磁石挿入孔11bに通じる貫通孔である。
【0077】
そして、充填工程では、下型37に設けた収容孔37aに樹脂を供給し、加熱し溶融させた溶融樹脂81を押出部38で収容孔37aから上向きに押し出し、鉄心本体11の磁石挿入孔11bに対して、治具25の樹脂通路26bを通じて下から溶融樹脂81を注入、充填することとなる(
図9参照)。
【0078】
充填工程で、各磁石挿入孔11bに充填された溶融樹脂81が固化し、永久磁石12が固定されてコア部10が得られたら、充填工程完了となり、押出部38を引き下げて元の状態に戻すと共に、上型36を上昇させるか、下型37を下降させて、上型36と下型37による鉄心本体11の挟持押圧を終了させる(
図10参照)。
【0079】
そして、分離工程に移行し、治具保持部43で下型37上の治具25を保持し、治具25の上方を含む各方向への移動を規制する(
図11(a)参照)。その上で、治具25に支持された状態のコア部10に対し、分離機構40の突き上げ部41を上向きに動かして、突き上げ部41が基台部26の孔26aを通り、この基台部26に載置されているコア部10の鉄心本体11端面に当接する状態とする(
図11(b)参照)。
【0080】
この状態から、突き上げ部41を上向きにさらに動かしてコア部10を押し上げ、コア部10を治具25に対し上方に移動させる。これにより、コア部10における鉄心本体11の端面が治具25の基台部26から離れると共に、鉄心本体11の軸孔11cから治具25のポスト部27が抜ける状態となる(
図12(a)参照)。
【0081】
突き上げ部41が鉄心本体11端面の適切な箇所に接してこれを押すことで、治具25に対しコア部10を移動させる際に、第1の実施形態と同様に、鉄心本体11の凸部11dをはじめとする内周部が治具25のポスト部27に接して生じる摩擦抵抗を必要最小限に抑えることができると共に、鉄心本体11各部の応力が過大にならず、鉄心本体11をなす薄板11aの変形等を防止できる。
【0082】
治具25のポスト部27上端がコア部10の下端より下になるまでコア部10を上方に移動させることで、コア部10は、治具25から分離した状態となる。こうして治具25から分離したコア部10は、第1の実施形態と同様に、コア部支持部42で新たに保持される状態(
図12(b)参照)としてから、このコア部支持部42により移動させられ、上下型間から取り出される。また、治具25も、突き上げ部41を下方に動かして元の位置に戻した後、治具保持部43による保持状態のままで、この治具保持部43によって移動させられ、上下型間から取り出されることとなる。
【0083】
(本発明のその他の実施形態)
第1の実施形態に係るコア部製造方法において、鉄心本体11における非円周部としての凸部11dと軸孔11cの中心Cを通る仮想直線L上の被接触部15の配置及び形状、すなわち、鉄心本体11に対しこれに接する突き上げ部41の接触面41aの配置及び形状が、仮想直線Lを中心として対称となるようにしているが、これに限られるものではなく、突き上げ部の接触面の一部が仮想直線L上にあれば、接触面(被接触部15)の配置と形状の少なくとも一方が非対称となってもよい(
図13(a)参照)。この場合、鉄心本体11とこれに接して支える突き上げ部の各形状及び配置に合わせて、治具20の各部形状が設定される(
図13(b)参照)。特に、突き上げ部の接触面の一部が仮想直線L上にあり、接触面(被接触部15)の配置が仮想直線Lを中心として非対称となる場合には、凸部11dに対する一の配置にある磁石挿入孔11bを備える一の鉄心本体11(例えば、
図2(b))と、凸部11dに対する他の配置にある磁石挿入孔11bを備える他の鉄心本体11(例えば、
図13(a))と、において、共通の治具(基台部)を使用することができる。
【0084】
さらに、第1の実施形態では、コア部製造装置1における分離機構40における突き上げ部41の配置を、これらで支持する鉄心本体11の軸孔11cの中心Cについて対称となるようにしているが、鉄心本体11端面を突き上げ部41でバランスよく支持できるのであれば、非対称となる配置でもかまわない。
【0085】
また、第1の実施形態に係るコア部製造方法において、鉄心本体11における非円周部としての凸部11dを、軸孔11cの中心Cを挟んで対向する配置となるようにして二つ設けるようにしているが、これに限らず、非円周部を一つのみ設けたり、三つ以上設けるようにすることもできる。そして、非円周部は凸部に限らず、例えば、凹部であってもよく、回転軸と鉄心本体との間に回り止め用のキーを挿入配設する場合や、回転軸がスプライン軸やセレーション軸の場合に対応する、一又は複数の凹部を設けるようにしてもかまわない。
【0086】
さらに、非円周部が凸部の場合でも、円周の内側に向けて凸となるものであれば、角部を有しない凸形状、例えば、軸の一部を平面とした略D字状の断面形状を有する回転軸を固定するための、略D字状の孔形状の軸孔が得られるように、凸部が、円周上からその円上の二点を結ぶ直線である弦の位置まで突出する形状のものであってもよい。この他、軸の断面形状が多角形である回転軸を固定するための、多角形の孔形状の軸孔が得られるように、複数の凸部が、円周上から多角形の各辺の位置までそれぞれ突出する形状のものであってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1、2 コア部製造装置
10 コア部
11 鉄心本体
11a 薄板
11b 磁石挿入孔
11c 軸孔
11d 凸部
12 永久磁石
13 充填材
15 被接触部
20、25 治具
21、26 基台部
21a、26a 孔
22、27 ポスト部
22a 凹部
26b 樹脂通路
31、36 上型
31a 収容孔
32、37 下型
33、38 押出部
37a 収容孔
40 分離機構
41 突き上げ部
41a 接触面
42 コア部支持部
43 治具保持部
81 溶融樹脂