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特開2023-119470酸素発生電極及びその製造方法、並びに酸素発生電極及び水の電気分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119470
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】酸素発生電極及びその製造方法、並びに酸素発生電極及び水の電気分解方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/091 20210101AFI20230821BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20230821BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20230821BHJP
   C25B 11/073 20210101ALI20230821BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C25B11/091
C25B11/052
C25B11/077
C25B11/073
C01G51/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022392
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナッタパック・ギティパットピブーン
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】陳 萌
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
4G048
4K011
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AE07
4K011AA20
4K011AA50
4K011AA54
4K011DA01
(57)【要約】
【課題】海水での電気分解において、過電圧の上昇を引き起こしにくく、高電流密度であっても長期間安定に運転することを可能とする酸素発生電極及びその製造方法、並びに酸素発生電極及び水の電気分解方法を提供する。
【解決手段】本発明は、海水分解に用いられる酸素発生電極であって、電極基材上に触媒を備え、前記触媒は、少なくとも2種の遷移金属を含む複合金属酸化物と、少なくとも2種の金属を含む複水酸化物を含有し、前記複合金属酸化物に含まれる前記遷移金属は少なくともMnであり、前記複水酸化物に含まれる前記金属は少なくとも2価の金属及び3価の金属の両方を含有する、海水分解用酸素発生電極触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水分解に用いられる酸素発生電極であって、
電極基材上に触媒を備え、
前記触媒は、少なくとも2種の遷移金属を含む複合金属酸化物と、少なくとも2種の金属を含む複水酸化物を含有し、
前記複合金属酸化物に含まれる前記遷移金属は少なくともMnであり、
前記複水酸化物に含まれる前記金属は少なくとも2価の金属及び3価の金属の両方を含有する、海水分解用酸素発生電極触媒。
【請求項2】
前記複水酸化物に含まれる前記金属は少なくとも2価のNi及び3価のFeである、請求項1に記載の海水分解用酸素発生電極触媒。
【請求項3】
前記触媒は、前記複合金属酸化物の表面を前記複水酸化物が被覆した構造を有する、請求項1又は2に記載の海水分解用酸素発生電極触媒。
【請求項4】
前記触媒は、前記電極基材上にシート状に形成されている、請求項1~3のいずれか1に記載の海水分解用酸素発生電極触媒。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電極触媒を備える、酸素発生電極。
【請求項6】
請求項5に記載の酸素発生電極を使用して水の電解処理を行う工程を含む、水の電気分解方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電極触媒を製造する方法であって、
電極基材上を少なくともMnを含む第1の遷移金属源の溶液中で加熱処理をすることで、電極基材上に前駆体を形成する工程1、
前記前駆体が形成された電極基材を焼成して複合酸化物が形成された電極基材を得る工程2、及び、
前記複合酸化物が形成された電極基材を、第2の金属源の溶液中で加熱処理して電極触媒を得る工程3、
を備える、電極触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生電極及びその製造方法、並びに酸素発生電極及び水の電気分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解(水の電気分解を意味する)は、環境問題及びエネルギー資源問題の解決を目指すなかで、再生可能エネルギーの電力を使用して水から水素を製造する方法として有望である。水電解を利用した水素の製造方法では電力を利用するため、製造コストを低減する必要があり、この観点から種々の水電解技術の開発が進められている。
【0003】
水の電気分解を行うにあたっては、「純水(いわゆる真水)」が必要になりため、大量に電気分解を行う場合は純水が不足しやすい。また、純粋な水は電気をほとんど通さないことから、水に電流を通しやすくするため(すなわち低い電圧で水に電気を通すため)に劇薬である水酸化ナトリウムや硫酸を溶かし込む必要があることもある。
【0004】
この観点から、地球表面の7割以上を覆い、ほとんど無尽蔵ともいえる海水を電気分解に使用する方法が期待されている。一方で、一般的な電極(白金、イリジウム酸化物など)を用いて海水の電気分解を行うと、マイナス極(カソード)からは水素ガスが発生するが、プラス極(アノード)では、塩化物イオンの酸化による塩素発生反応(CIER)が水の酸化による酸素発生反応よりも先に起こる。これが原因で、強い毒性及び腐食性を有する塩素ガスが発生しやすい。このため、海水電気分解の使用に適した電極触媒の開発が盛んに進められている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、ニッケル-鉄を有する複水酸化物(NiFe-LDH)を構成要素とした触媒材料が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ChemSusChem 2016, 9, 962-972
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示のニッケル-鉄を有する複水酸化物で構成される電極触媒は、海水のような塩素含有溶液中では不安定であるため、海水での電気分解において過電圧の上昇を引き起こしやすく、OER(酸素発生反応)の性能の低下を招くという問題を有していた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、海水での電気分解において、高電流密度であっても過電圧は小さく、長期間安定に運転することを可能とする酸素発生電極及びその製造方法、並びに酸素発生電極及び水の電気分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の複合金属酸化物と複水酸化物とを複合化した材料を触媒とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
海水分解に用いられる酸素発生電極であって、
電極基材上に触媒を備え、
前記触媒は、少なくとも2種の遷移金属を含む複合金属酸化物と、少なくとも2種の金属を含む複水酸化物を含有し、
前記複合金属酸化物に含まれる前記遷移金属は少なくともMnであり、
前記複水酸化物に含まれる前記金属は少なくとも2価の金属及び3価の金属の両方を含有する、海水分解用酸素発生電極触媒。
項2
前記複水酸化物に含まれる前記金属は少なくとも2価のNi及び3価のFeである、項1に記載の海水分解用酸素発生電極触媒。
項3
前記触媒は、前記複合金属酸化物の表面を前記複水酸化物が被覆した構造を有する、項1又は2に記載の海水分解用酸素発生電極触媒。
項4
前記触媒は、前記電極基材上にシート状に形成されている、請求項1~3のいずれか1に記載の海水分解用酸素発生電極触媒。
項5
項1~4のいずれか1項に記載の電極触媒を備える、酸素発生電極。
項6
項5に記載の酸素発生電極を使用して水の電解処理を行う工程を含む、水の電気分解方法。
項7
項1~4のいずれか1項に記載の電極触媒を製造する方法であって、
電極基材上を少なくともMnを含む第1の遷移金属源の溶液中で加熱処理をすることで、電極基材上に前駆体を形成する工程1、
前記前駆体が形成された電極基材を焼成して複合酸化物が形成された電極基材を得る工程2、及び、
前記複合酸化物が形成された電極基材を、第2の金属源の溶液中で加熱処理して電極触媒を得る工程3、
を備える、電極触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の海水分解用酸素発生電極触媒は、海水の電気分解の電極として使用した場合に、高電流密度であっても過電圧は小さく、長期間安定に運転することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の電極触媒の製造方法の一例を示す模式図である。
図2】各実施例及び比較例で得られた負極活物質のX線回折測定(XRD)結果を示す。
図3】(a)は、リニアスイープボルタンメトリーの測定結果、(b)は(a)に示すリニアスイープボルタンメトリー曲線から算出したターフェル勾配、(c)は、電気化学インピーダンス(EIS)測定結果である。
図4】(a)は多電流ステップクロノポテンシオメトリ曲線、(b)は2000サイクル試験後のリニアスイープボルタンメトリーの測定結果、(c)は長期運転試験の結果である。
図5】(a)は多電流ステップクロノポテンシオメトリ曲線、(b)は長期運転試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
1.電極触媒
本発明の海水分解用酸素発生電極触媒(以下、単に「本発明の電極触媒」と表記する)は、海水分解に用いられる酸素発生電極であって、電極基材上に触媒を備えてなるものである。斯かる触媒は、少なくとも2種の遷移金属を含む複合金属酸化物と、少なくとも2種の金属を含む複水酸化物を含有し、前記複合金属酸化物に含まれる前記遷移金属は少なくともMnであり、前記複水酸化物に含まれる前記金属は少なくとも2価の金属及び3価の金属の両方を含有する。
【0015】
本発明の海水分解用酸素発生電極触媒は、海水の電気分解の電極として使用した場合に、高電流密度であっても過電圧は小さく、長期間安定に運転することを可能とする。
【0016】
電極基材の種類は特に限定されず、例えば、公知の導電性の基材を広く採用することができる。電極基材としては、例えば、水の電気分解用の電極として使用されている基材を挙げることができ、具体例として、金属基材、炭素基材、ガラス基材等を挙げることができる。
【0017】
金属基材としては、ニッケル、チタン、鉄、銅等の金属単体の基材、あるいは、ニッケル-リン合金、ニッケル-タングステン合金、ステンレス合金等の基材又は各種金属フォーム(例えば、ニッケルフォーム、銅フォーム)等が例示される。中でも金属基材としては、ニッケルフォームであることが好ましい。この場合、基材由来のニッケルよって触媒を形成することができる。
【0018】
炭素基材としては、カーボンペーパー、カーボンファイバーペーパー、炭素棒等が例示される。ガラス基材としては、導電ガラス等が例示される。電極基材は、例えば、フォーム等の多孔質体であってもよい。
【0019】
電極基材は、金属基材であることがより好ましく、ニッケル基材であることがより好ましく、ニッケルフォームであることが特に好ましい。
【0020】
電極基材は、例えば、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。電極基材の形状及び大きさは特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。例えば、電極基材の形状は、フォーム状、シート状、板状、棒状、メッシュ状等とすることができ、フォーム状であることが好ましい。
【0021】
本発明の電極触媒において、前記触媒は前述のように、電極基材上に形成されてなるものである。斯かる触媒は、少なくとも2種の遷移金属を含む複合金属酸化物と、少なくとも2種の遷移金属を含む複水酸化物を含有する。
【0022】
複合金属酸化物は、少なくとも2種の遷移金属を含むものであり、とりわけMnを少なくとも含む複合金属酸化物である。すなわち、複合金属酸化物は、Mnと、Mn以外の遷移金属を含む複合金属酸化物である。
【0023】
複合金属酸化物は、Mnを含めて2種以上の遷移金属を含むことができ、複合金属酸化物に含まれる遷移金属は2種のみであってもよい。
【0024】
Mn以外の遷移金属の種類は特に限定されず、例えば、Co、Fe、Cr、Ni、Mo、W、Cu、Zn等を挙げることができる。中でも、高電流密度であっても過電圧は小さく、長期間安定に運転することを可能とする電極を形成しやすい点で、Mn以外の遷移金属はCoであることが好ましい。
【0025】
すなわち、複合金属酸化物は、Mn及びCoの複合酸化物であることが好ましい。Mn及びCoの複合酸化物は、MnCoが例示される。
【0026】
前記複水酸化物は、少なくとも2価の金属及び3価の金属の両方を含有する複水酸化物である。前記複水酸化物は、2種以上の金属を含むことができる。あるいは、前記複水酸化物に含まれる金属は2種のみであってもよく、この場合、前記複水酸化物は、2価の金属及び3価の金属のみを含む。
【0027】
前記複水酸化物において、2価の金属(M2+)としては、Ni、Fe、Co、Zn及びMg等を挙げることができる。3価の金属(M3+)としては、Fe、Mn、Co及びAl等を挙げることができる。
【0028】
中でも、過電圧の上昇を引き起こしにくく、高電流密度であっても長期間安定に運転することを可能とする電極を形成しやすい点で、前記複水酸化物に含まれる前記金属は少なくとも2価のNi(Ni2+)及び3価のFe(Fe3+)であることが好ましい。
【0029】
複水酸化物において、Fe及びNiの含有割合は特に限定されず、例えば、Fe:Ni質量比を1:10~10:1とすることができる。特に後記するように、電極基材としてニッケル基材を使用した場合は、Fe及びNiの含有割合は上記範囲になりやすい。
【0030】
ここで、複水酸化物(Layered Double Hydroxide;LDH)は、金属水酸化物の層間に交換可能な陰イオンを有し、例えば層状に形成された化合物である。具体的に複水酸化物は、一般式[M2+ 1-x3+ (OH)](An-x/n・mHOで表すことができる水酸化物である。
【0031】
本発明の電極触媒において、前記複水酸化物のアニオン(すなわち、An-)の種類は特に限定されず、例えば、CO 2-、OH、Cl、NO 等を挙げることができる。
【0032】
前記触媒は、前記複合金属酸化物及び前記複水酸化物を含む限りは他の成分を含有することもできる。前記触媒は、前記複合金属酸化物及び前記複水酸化物を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。前記触媒は、前記複合金属酸化物及び前記複水酸化物のみからなるものであってもよい。
【0033】
前記触媒における前記複合金属酸化物及び前記複水酸化物の含有比率は特に限定されない。例えば、前記複合金属酸化物及び前記複水酸化物の総質量に対し、複合金属酸化物を10~90質量%含有すること場合は、高電流密度であっても過電圧は小さく、長期間安定に運転することを可能とする電極を形成することができる。
【0034】
前記触媒において、前記複合金属酸化物及び前記複水酸化物の存在形態は特に限定されない。過電圧の上昇をより引き起こしにくく、高電流密度であってもより長期間安定に運転することを可能とする電極を形成しやすい点で、前記触媒は、前記複合金属酸化物の表面を前記複水酸化物が被覆した構造を有することが好ましい。
【0035】
この一例として、前記複合金属酸化物をコア層、前記複水酸化物をシェル層とするコアシェル構造を有する触媒を挙げることができる。より具体的には、ナノワイヤ状の複合金属酸化物をコア層とし、このコア層を前記複水酸化物が覆ってシェル層を形成した構造を挙げることができる。
【0036】
前記触媒の形状は特に限定されず、例えば、前記電極基材上に触媒がシート状に形成されていることが好ましい。これにより、触媒が前記電極基材上に強固に密着し、高い触媒効果を発揮することができる。
【0037】
前記触媒がシート状である場合、斯かる触媒はナノシート状であることが好ましい。触媒がナノシート状に形成されている場合、その厚みは、例えば、200~500nmである。触媒がシート状に形成されている場合、斯かるシートは多孔質構造を有することもできる。また、シートは単層のみならず積層構造を有することもできる。
【0038】
前記触媒は、電極基材の一部又は全部を被覆することができる。また、触媒は電極触媒において最外層に配置していることが好ましい。
【0039】
本発明の電極触媒は、前記電極基材及び前記触媒のみで形成されていてもよいし、本発明の効果が阻害されない程度である限りは、他の材料が組み合わされてもよい。電極触媒は、例えば、電極基材上に直接(他の層等を介さずに)触媒が形成され得る。
【0040】
本発明の電極触媒は、海水中で電気分解をするための電極として、特に酸素発生電極として好適に使用することができる。特に、本発明の電極触媒は、海水分解用の酸素発生電極として使用した場合に、高電流密度であっても海水電解時の過電圧の上昇が起こりにくく、ターフェル勾配も低くすることができ、長期間安定に運転することができる。
【0041】
従って、本発明の電極触媒は、各種電気分解の電極への使用に適しており、特に、海水の電気分解用の電極として使用した場合、優れた酸素発生効率をもたらすことができることから、酸素発生用の電極(酸素発生電極)として適している。海水は天然の海水であっても良いし、あるいは、模倣海水(例えば、1MのKOH及び0.5MNaClを含む水溶液)であってもよい。
【0042】
特に本発明の電極触媒は、高電流密度であっても過電圧を低くすることができるので、高いOER選択性があり、次亜塩素酸塩も形成されにくい。これは、複合酸化物の高活性を複水酸化物が保護していることで、塩化物イオンの発生が防がれるためと推察される。また、複水酸化物は、表面活性及び電荷移動を効果的に増加させることができるものと推察される。
【0043】
2.電極触媒の製造方法
本発明の電極触媒は種々の方法で製造することができ、特に限定されない。例えば、下記の工程1、工程2及び工程3を少なくとも備えることができる。
工程1;電極基材上を少なくともMnを含む第1の遷移金属源の溶液中で加熱処理をすることで、電極基材上に前駆体を形成する工程。
工程2;前記前駆体が形成された電極基材を焼成して複合酸化物が形成された電極基材を得る工程。
工程3;前記複合酸化物が形成された電極基材を、第2の金属源の溶液中で加熱処理して電極触媒を得る工程。
【0044】
(工程1)
工程1では、電極基材上を少なくともMnを含む第1の遷移金属源の溶液中で加熱処理を行う。これにより、電極基材上に前駆体が形成される。
【0045】
工程1で使用する電極基材の種類は特に限定されず、前述の電極触媒で使用する電極基材と同様である。従って、工程1で使用する電極基材としては、例えば、金属基材、炭素基材、ガラス基材等を挙げることができ、好ましくは金属基材であり、より好ましくはニッケル基材であり、中でもニッケルフォームであることが特に好ましい。
【0046】
工程1では、少なくともMnを含む第1の遷移金属源の溶液を原料として使用する。Mnを含む第1の遷移金属源は、遷移金属としてMn及びMn以外の遷移金属元素を含む。Mn以外の遷移金属、例えば、Co、Fe、Cr、Ni、Mo、W、Cu、Zn等を挙げることができ、Coであることが好ましい。
【0047】
第1の遷移金属源は、遷移金属単体であってもよいし、遷移金属を含有する化合物であってもよい。第1の遷移金属源が遷移金属を含有する化合物である場合、第1の遷移金属源は、Mnを有する化合物と、Mn以外の遷移金属を有する化合物を含むことができる。Mnを有する化合物は、Mnの無機酸塩、Mnの有機酸塩、Mnの水酸化物及びMnのハロゲン化物等を広く使用することができる。同様に、Mn以外の遷移金属を有する化合物は、Mn以外の遷移金属の無機酸塩、Mn以外の遷移金属の有機酸塩、Mn以外の遷移金属の水酸化物及びMn以外の遷移金属のハロゲン化物等を広く使用することができる。
【0048】
前記無機酸塩としては、例えば、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。MnあるいはMn以外の遷移金属を含む化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販品を使用することもできる。
【0049】
第1の遷移金属源としては、硝酸塩であることが好ましい。従って、第1の遷移金属源は、Mnの硝酸塩及びCoの硝酸塩を含むことが好ましい。
【0050】
第1の遷移金属源の溶液において、溶媒は、例えば、水であり、その他、低級アルコール化合物を含むことができる。溶媒は水のみであってもよい。第1の遷移金属源の溶液において、第1の遷移金属源の濃度は特に限定されず、溶媒100mLあたり、遷移金属の総濃度が1~200mmolであることが好ましく、5~150mmolであることがより好ましく、10~100mmolであることがさらに好ましい。
【0051】
第1の遷移金属源の溶液は、その他の添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、例えば、pH調整剤を挙げることができる。pH調整剤としては、尿素(CO(NH)、NHF、水酸化アンモニウム等を挙げることができる。pH調整剤は1種のみ又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
第1の遷移金属源の溶液がpH調整剤を含む場合、水系溶媒100mLあたり、各pH調整剤が10~50mmol溶解していることが好ましい。この場合、第1の遷移金属源の溶液がアルカリ領域のpHを有しやすく、これにより第1工程で形成される遷移金属の複合酸化物が所望の形状に形成されやすくなる。
【0053】
第1の遷移金属源の溶液は、遷移金属を含む化合物、pH調整剤及び水系溶媒のみからなるものであってもよい。
【0054】
工程1において、第1の遷移金属源の溶液に電極基材を浸漬する方法は特に限定されず、通常は、電極基材の全体が第1の遷移金属源の溶液に浸されるように行うことができる。電極基材の浸漬は、例えば、後記する水熱合成が可能な容器内で行うことができる。このような容器として、耐圧式のオートクレーブを挙げることができる。オートクレーブの内面は、例えば、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂でコーティングすることができる。
【0055】
工程1では、電極基材を第1の原料に浸漬した状態で加熱処理を行う。工程1の加熱処理としては、水熱合成法を挙げることができる。ここでいう水熱合成法は、電極基材を第1の遷移金属源に浸漬した状態で容器を密閉し、該容器内を加熱する方法である。
【0056】
水熱合成における容器内の温度は、遷移金属Mの水酸化物が形成される条件である限りは特に制限されず、例えば、110~200℃とすることができる。この温度にて容器を保持する時間も特に限定されず、例えば、2~24時間とすることができる。水熱合成における容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0057】
工程1の加熱処理(水熱合成)により、電極基材上に前駆体が形成される。斯かる前駆体は、遷移金属の水酸化物である。
【0058】
(工程2)
工程2は、工程1にて前駆体が形成された電極基材を焼成するため工程である。これにより、前駆体が参加して複合酸化物が形成された電極基材を得ることができる。
【0059】
工程2において、焼成の方法は特に限定されず、例えば、公知の焼成方法を広く採用することができる。焼成温度は、例えば、300~400℃とすることができ、340~380℃とすることが好ましい。焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、所望の酸化物が形成される程度に適宜設定することができる。
【0060】
焼成は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成を行うことである。焼成は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0061】
上記焼成によって、電極基材上の前駆体(水酸化物)が酸化物へと変化し、Mnを含む複合酸化物で修飾された電極基材を得ることができる。
【0062】
(工程3)
工程3は、工程2において複合酸化物が形成された電極基材を、第2の金属源の溶液中で加熱処理する工程である。斯かる工程3で目的の電極触媒を得ることができる。
【0063】
工程3では、第2の金属源の溶液を原料として使用する。第2の金属源は、2価の金属及び3価の金属を含むことが好ましい。ただし、工程1で使用する電極基材がニッケル基材である場合、当該基材のNiが金属源(Ni源)となるので、この場合は、例えば、第2の金属源は、3価の金属のみを含むものであっても良い。もちろん、電極基材がニッケル基材である場合も第2の金属源は、2価の金属及び3価の金属を含むことが好ましい。
【0064】
本発明の製造方法では、電極基材がニッケル基材であって、工程3で使用する第2の金属源の溶液が3価の金属を含むことが好ましい。3価の金属は、Fe、Mn、Co及びAl等を挙げることができ、中でもFeが好ましい。
【0065】
第2の金属源は、金属単体であってもよいし、金属を含有する化合物であってもよい。例えば、第2の金属源は、Feの無機酸塩、Feの有機酸塩、Feの水酸化物及びFeのハロゲン化物等を広く使用することができる。
【0066】
Feの無機酸塩としては、例えば、Feの硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。Feの有機酸塩としては、Feの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。Feを含む化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販品を使用することもできる。
【0067】
第2の金属源は、Feのハロゲン化物であることが好ましい。
【0068】
第2の金属源の溶液において、溶媒は、例えば、水であり、その他、低級アルコール化合物を含むことができる。溶媒は水のみであってもよい。第2の金属源の溶液において、第2の金属源の濃度は特に限定されず、溶媒100mLあたり、遷移金属の総濃度が1~200mmolであることが好ましく、3~150mmolであることがより好ましく、5~100mmolであることがさらに好ましい。
【0069】
第2の金属源の溶液は、その他の添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、例えば、pH調整剤を挙げることができる。pH調整剤としてはNaNOを挙げることができる。原料液がpH調整剤を含む場合、例えば、第二鉄が加水分解するときのpH値を下げることができ、また、ニッケルフォーム等のニッケル基材を電極基材として使用する場合はNi2+イオンを生成するためのエッチング剤として機能し得る。
【0070】
第2の金属源の溶液がpH調整剤を含む場合、水系溶媒100mLあたり、各pH調整剤が10~50mmol溶解していることが好ましい。別の観点で、第2の金属源の溶液がpH調整剤を含む場合、例えば、FeとNaNOとがモル比で1:0.1~1:10であることが好ましく、1:0.5~1・2であることがより好ましい。
【0071】
第2の金属源の溶液は、遷移金属を含む化合物、pH調整剤及び水系溶媒のみからなるものであってもよい。
【0072】
工程3で行う加熱処理の方法としては、例えば、容器内にて電極基材を第2の金属源の溶液に浸漬した状態で容器を密閉し、該容器内を加熱する、いわゆる水熱合成法を挙げることができる。この水熱合成法により、電極基材上に形成されている複合酸化物の表面に水熱反応物が形成される。斯かる水熱反応物は複水酸化物である。電極基材としてニッケル基材を使用し、第2の金属源がFeである場合、水熱合成により、ニッケル基材のニッケルが反応に関与し、ニッケル基材由来のNiと原料液に含まれるFe源由来のFeとの複水酸化物が生成する。
【0073】
工程3では、耐圧式のオートクレーブを使用することができ、オートクレーブの内面は、例えば、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂でコーティングすることができる。
【0074】
工程3において、加熱処理時の容器内の温度は特に制限されず、例えば、50~250℃とすることができ、70~200℃であることが好ましく、80~180℃であることがより好ましく、90~150℃であることがさらに好ましい。加熱時間も特に限定されず、加熱温度に応じて適宜決定することができ、例えば、30分~5時間とすることができる。加熱処理時の容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0075】
工程3の加熱処理(水熱合成)によって、電極基材上に触媒が形成される。斯かる触媒は、例えば、複合金属酸化物の表面を複水酸化物が被覆した構造を有する。形成される触媒は、前記電極基材上にシート状に形成され得る。
【0076】
3.酸素発生電極
本発明の電極触媒は酸素発生電極として適している。酸素発生電極は、例えば、本発明の電極触媒のみで構成されていても良いし、必要に応じて、本発明の電極触媒と他の部材とを組み合わせて形成することができる。
【0077】
酸素発生電極は、本発明の電極触媒を備えるので、水電解時の過電圧の上昇を抑制することができ、安定して海水の電解を行うことができ、酸素を効率よく発生させることができる。また、酸素発生電極は、本発明の電極触媒を備えるので、長時間にわたって安定的に海水の電解を行うこともできる。
【0078】
4.海水の電気分解方法
本発明の海水の電気分解方法は、例えば、前記酸素発生電極を使用して海水の電解処理を行う工程を含むことができる。斯かる電気分解方法により、酸素を製造することができ、あるいは、水素を製造することができる。本発明海水の電気分解方法では、前記酸素発生電極は、アノードとして使用される。
【0079】
一方、本発明の電気分解方法において、カソードとしては、一般に水の電気分解においてカソードとして用いられる電極を使用することができる。例えば、カーボンロッドや、白金ワイヤーを使用することができ、また、本発明の電極触媒をカソードとして使用することも可能である。
【0080】
本発明の電気分解方法において、海水は天然の海水であっても良いし、あるいは、模倣海水(例えば、1MのKOH及び0.5MNaClを含む水溶液)を海水として用いることもできる。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
図1に示すスキームに従って、MnCoがNiFe複水酸化物で覆われた触媒をニッケルフォーム上に形成させた。まず、大きさが2×2cmである発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を1M塩酸、エタノール及び脱イオン水の順に超音波条件下で1時間処理した後、60℃の真空オーブンで1時間乾燥させて、電極基材の前処理を行った。このニッケルフォームを、1mmolのMn(NO・4HO、2mmolのCo(NO・6HO、6mmolのNHF、12mmolの尿素を含む30mlの蒸留水に浸した。次に、テフロン(登録商標)で裏打ちされたオートクレーブに移し、120℃で4時間加熱した後、自然冷却させてから、電極基材を取り出し、エタノールと脱イオン水で洗浄し、60℃の真空オーブンで12時間乾燥させた(工程1)。次に、工程1で得た電極基材を350℃で2時間空気中にて焼成した(工程2)。焼成後の電極基材を2mmolのFeCl・6HO、2mmolのNaNO及び30mlの脱イオン水を含むオートクレーブ内に密封し、120℃で2時間加熱処理した(工程3)。この加熱処理後の電極基材をエタノールと脱イオン水で数回洗浄し、電極触媒を得た。斯かる電極触媒を「NiFe-LDH@MnCo/NF」と命名した。
【0083】
(比較例1)
大きさが2×2cmである発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を1M塩酸、エタノール及び脱イオン水の順に超音波条件下で1時間処理した後、60℃の真空オーブンで1時間乾燥させて、電極基材の前処理を行った。このニッケルフォームを、1mmolのMn(NO・4HO、2mmolのCo(NO・6HO、6mmolのNHF、12mmolの尿素を含む30mlの蒸留水に浸した。次に、テフロン(登録商標)で裏打ちされたオートクレーブに移し、120℃で4時間加熱した後、自然冷却させてから、電極基材を取り出し、エタノールと脱イオン水で洗浄し、60℃の真空オーブンで12時間乾燥させた(工程1)。次に、工程1で得た電極基材を350℃で2時間空気中にて焼成した(工程2)。この焼成後の電極基材をエタノールと脱イオン水で数回洗浄し、電極触媒を得た。斯かる電極触媒を「MnCo/NF」と命名した。
【0084】
(比較例2)
大きさが2×2cmである発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を1M塩酸、エタノール及び脱イオン水の順に超音波条件下で1時間処理した後、60℃の真空オーブンで1時間乾燥させて、電極基材の前処理を行った。このニッケルフォームを、2mmolのFeCl・6HO、2mmolのNaNO及び30mlの脱イオン水を含むオートクレーブ内に密封し、120℃で2時間加熱処理した。この加熱処理後の電極基材をエタノールと脱イオン水で数回洗浄し、電極触媒を得た。斯かる電極触媒を「NiFe-LDH/NF」と命名した。
【0085】
図2は、実施例及び比較例で得られた触媒のX線回折測定(XRD)結果である。X線回折測定には、Rigaku社製の「SmartLab」を使用し、2θ=10~100°の範囲でCu-Kα(λ=1.540Å)放射線源を使用して測定を行った。
【0086】
図2のXRDパターンから、実施例1で形成された触媒は、MnCo(JCPDS番号23-1237)とNiFe-LDH(JCPDS番号38-0715)を有していることを確認した。この結果、実施例1の触媒は、MnCo及びNiFe複水酸化物を含むことがわかった。MnCoナノワイヤの表面にNiFe-LDH層が堆積されているものと推察される。図2のピーク強度から、FeはMnCoよりも結晶化度が低い可能性が示唆された。
【0087】
図3には、実施例及び比較例で得られた電極触媒表面のSEM画像及びEDX元素マッピングの画像を示している。具体的に、図3中の(a)は比較例1で得た前駆体、(b)は比較例2で得た電極触媒、(c)は実施例1で得た電極触媒のSEM画像である。図1(d)~(i)は実施例1で得られた電極触媒のEDX元素マッピングの画像でを示す。
【0088】
図3のSEM画像から、実施例1で得られた電極触媒はコアシェル構造を形成しており、ナノシート状であることもわかり、電極基材上に均一に触媒が形成されていることがわかった。また、マッピング画像から、各元素(Mn、Co、Fe、Ni、O)が触媒全体に均一に存在していることが認められたので、電極基材に形成された触媒は、MnCo及びNiFe複水酸化物を含むことがわかった。
【0089】
図4(a)は、実施例1及び各比較例で得られた電極触媒を使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。この測定では、陰極として実施例1及び各比較例で準備した電極触媒を、陽極としてカーボン棒を、参照電極としてAg/AgCl電極を使用し、酸素発生(OER)試験を行った。また、電解液は、1MのKOH及び0.5MNaClを含む水溶液(模倣海水)を用いた。スキャン速度は2mV/sとした。本実施例においてリニアスイープボルタンメトリー曲線等の電気特性の評価においては、標準3電極セルと共に米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いた。
【0090】
図4(b)は、(a)に示すリニアスイープボルタンメトリー曲線から算出したターフェル勾配を示している。図4(c)は、実施例1及び各比較例で得られた電極触媒それぞれの電気化学インピーダンス(EIS)測定結果を示している。この測定は、三電極電気化学測定装置を使用した電気化学インピーダンス分光法(Electrochemical impedance spectroscopy(EIS)により、前記模倣海水中で行った。ここで、測定の周波数範囲は0.01Hz~0.1MHzとし、測定電圧は-0.35V vs Ag/AgClとした。この図2(c)からは、電極/電解質の界面抵抗を判断することができる。
【0091】
表1は、図4(a)、(b)及び(c)の結果に基づいて導き出した各電極触媒の10mAcm-2、100mAcm-2及び500mAcm-2における過電圧、ターフェル勾配及び電荷移動抵抗(Rct)の結果を示している。
【0092】
【表1】
【0093】
以上の結果から、実施例1で得られた電極触媒は、高電流密度(500mAcm-2)であっても過電圧が低く、ターフェル勾配も最高の性能を示し、また、電荷移動抵抗も最小であった。従って、実施例1で得られた電極触媒は、海水中であっても良好な触媒反応速度を示すものであって、電子伝導性の向上にも有利であるといえる。
【0094】
図5(a)は、実施例1で得られた電極触媒を陽極に用いた場合の多電流ステップクロノポテンシオメトリ曲線であって、電流密度が100mA/cm~1000mA/cmまでの範囲で600秒毎に100mA/cm間隔で測定(電解液は前記模倣海水を使用)し、最後に100mA/cmに戻して得られた電位-時間グラフである。図5(b)はは100mA/cm及び1000mA/cmの電流密度で50時間にわたって電解を続けたときの結果を示している。測定条件はそれぞれリニアスイープボルタンメトリー曲線を得るための試験と同様の条件とし、測定装置は、2電極セルと共に米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いて測定を行った。
【0095】
図5の結果から、実施例で得られた電極触媒は、触媒溶解(ピールオフ)なしで100時間にわたって卓越した安定性を示し、高電流密度(1000mA/cm)で電位に明らかな変化がなかった。また、高電流密度で腐食することなく、50時間にわたって模倣海水で優れた安定性を示した。従って、実施例1で得られた電極触媒は、高電流密度であっても長期間安定に運転することができ、効率的な海水の電気分解を実施できる酸素発生電極に適していることが示された。
【0096】
特に過電圧が低いため、ClERよりも高いOER選択性があり、次亜塩素酸塩も形成されないといえる。これは、MnCoナノワイヤーの高活性をNiFe-LDH保護していることで、塩化物イオンの発生が防がれためと推察される。また、NiFe-LDHは、表面活性及び電荷移動を効果的に増加させることができるものと推察される。
図1
図2
図3
図4
図5