(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119537
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】シンチレータ材の製造方法およびシンチレータ材
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20230821BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20230821BHJP
C09K 11/61 20060101ALI20230821BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
G01T1/20 B
C09K11/00 E
C09K11/61
C09K11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022513
(22)【出願日】2022-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】大長 久芳
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤
【テーマコード(参考)】
2G188
4H001
【Fターム(参考)】
2G188CC21
2G188DD11
2G188DD42
4H001XA38
4H001XA53
4H001YA63
(57)【要約】
【課題】クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層の厚肉化を図り、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能なシンチレータ材の製造方法およびシンチレータ材を提供する。
【解決手段】石英ガラスからなり凹部(22)が形成された基板(21)を用意する基板準備工程と、ヨウ化物原料およびSiO
2微粒子を混合した原料粉末(23)を凹部(22)内に充填する材料充填工程と、材料充填工程の後に、蓋体(24)を基板(21)上に配置して凹部(22)を覆う蓋配置工程と、蓋配置工程の後に基板(21)を加熱して、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層(25)を形成するナノコンポジット形成工程と、を備えるシンチレータ材(13)の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスからなり凹部が形成された基板を用意する基板準備工程と、
ヨウ化物原料およびSiO2微粒子を混合した原料粉末を前記凹部内に充填する材料充填工程と、
前記材料充填工程の後に、蓋体を前記基板上に配置して前記凹部を覆う蓋配置工程と、
前記蓋配置工程の後に前記基板を加熱して、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層を形成するナノコンポジット形成工程と、を備えることを特徴とするシンチレータ材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシンチレータ材の製造方法であって、
前記SiO2微粒子は、平均粒径(D50)が0.1μm以上10μm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシンチレータ材の製造方法であって、
前記SiO2微粒子の含有量は、前記ヨウ化物原料に対して10mol%以上600mol%以下であることを特徴とするシンチレータ材の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のシンチレータ材の製造方法であって、
前記材料充填工程において、アルカリハロゲン化物を前記凹部内に添加することを特徴とするシンチレータ材の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つに記載のシンチレータ材の製造方法であって、
前記凹部は、深さが0.5mm以上3.0mm以下の範囲であることを特徴とするシンチレータ材の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のシンチレータ材の製造方法であって、
前記ナノコンポジット層は、厚さが0.1mm以上であることを特徴とするシンチレータ材の製造方法。
【請求項7】
放射線により励起されて可視光を発光するシンチレータ材であって、
石英ガラスからなり凹部が形成された基板と、
前記凹部内に、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層を備え、
前記ナノコンポジット層は、厚さが0.1mm以上であることを特徴とするシンチレータ材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ材の製造方法およびシンチレータ材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から放射線検出装置には、放射線によって励起され可視光を発光するシンチレータ材として、NaI:TlやCaI:Tlなどのヨウ化物が用いられていた。ヨウ化物系のシンチレータ材は、空気中の水分を取り込んで水和する潮解性を有しており、気密性の高い容器に封入して用いる必要がある。そこで従来の放射線検出装置では、ヨウ化物系のシンチレータ材と光検出部をアルミニウム製の缶である容器に封緘して、光取り出し口にガラス製の窓部材を接着し、容器内に配置した光検出部で可視光を検出していた。
【0003】
しかし、外気中の水蒸気が微量ずつ容器と窓部材の接着部分から容器内に侵入するため、ヨウ化物系シンチレータが水和することによって劣化し、長期間にわたって使用するためには放射線検出装置の管理とメンテナンスを適切に行う必要があった。また、容器内への水分の侵入を抑制するためには、気密性の高い封止をする必要があり、製造工程において工数が増加し作業性が低下するという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決するために、クリストバライト構造に蛍光体材料であるSrI2:Eu2+を取り込ませて、ナノコンポジット化したシンチレータ材を用いることで耐湿性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。しかしながら、特許文献1の技術では、SrI2:Eu/SiO2は、屈折率が異なる材料でコンポジット化されているため、SrI2:EuとSiO2のヘテロ界面で光の散乱が起こり、発光部が拡張して画像にボケが生じ、シンチレータ材を用いた検出器の解像度を高めることが困難であった。
【0005】
そこで、石英ガラスプレートにエッチングによる凹部を形成し、凹部にSrI2:Eu2+の原材料を充填し焼成することで、複数の発光セルがマトリクス状に配列されたシンチレータ材を形成することも提案されている(例えば、特許文献2等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-074358号公報
【特許文献2】国際公開第2021/145260号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献2の技術では、エッチングにより凹部を形成しているため凹部の深さは500nm程度でしかなく、クリストバライト構造に蛍光体材料が取り込まれたナノコンポジット層の厚みが確保できないという問題があった。また、焼成の過程でヨウ化物原料が融解によって体積膨張を起こして凹部内から溢出するため、得られるコンポジット層の厚みがさらに低下するという問題があった。また、コンポジット層が薄いため、放射線励起による発光強度と解像度の向上を図ることが困難であった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層の厚肉化を図り、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能なシンチレータ材の製造方法およびシンチレータ材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のシンチレータ材の製造方法は、石英ガラスからなり凹部が形成された基板を用意する基板準備工程と、ヨウ化物原料およびSiO2微粒子を混合した原料粉末を前記凹部内に充填する材料充填工程と、前記材料充填工程の後に、蓋体を前記基板上に配置して前記凹部を覆う蓋配置工程と、前記蓋配置工程の後に前記基板を加熱して、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層を形成するナノコンポジット形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
このような本発明のシンチレータ材の製造方法では、ヨウ化物原料とSiO2微粒子を混合した原料粉末を凹部内に充填し、蓋体で覆いながら加熱することで、ヨウ化物原料の溶融による体積膨張と溢出を抑制し、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層の厚肉化を図り、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能となる。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記SiO2微粒子は、平均粒径(D50)が0.1μm以上10μm以下の範囲である。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記SiO2微粒子の含有量は、前記ヨウ化物原料に対して10mol%以上600mol%以下である。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記材料充填工程において、アルカリハロゲン化物を前記凹部内に添加する。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記凹部は、深さが0.5mm以上3.0mm以下の範囲である。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記ナノコンポジット層は、厚さが0.1mm以上である。
【0016】
また、本発明のシンチレータ材は、石英ガラスからなり凹部が形成された基板と、前記凹部内に、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層を備え、前記ナノコンポジット層は、厚さが0.1mm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層の厚肉化を図り、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能なシンチレータ材の製造方法およびシンチレータ材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】は、第1実施形態に係るシンチレータ材13を用いた放射線検出装置10の構造を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態に係るシンチレータ材13の構造例を示す模式斜視図であり、
図2(a)は微細な凹部22をマトリクス状に配置した例を示し、
図2(b)は一つの凹部22を大面積で形成した例を示している。
【
図3】本発明の第1実施形態に係るシンチレータ材13の製造方法を模式的に示す工程図である。
【
図4】実施例1-4および比較例におけるナノコンポジット層25の厚さを示すグラフである。
【
図5】実施例1におけるシンチレータ材13の外観を示す写真であり、
図5(a)は非発光時の外観を示し、
図5(b)はPL発光時の外観を示している。
【
図6】γ線の照射によるシンチレータ材13の発光性能を測定する装置の概要を示す模式図である。
【
図7】実施例1-4および比較例でのガンマ線照射によるシンチレータ材13の相対発光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1は、本実施形態に係るシンチレータ材13を用いた放射線検出装置10の構造を示す模式図である。
図1に示すように放射線検出装置10は、容器11と、窓部材12と、シンチレータ材13と、光電子増倍管14(PMT:Photo Multiplier Tube)と、ブリーダ回路15と、遮光ケース16を備えている。
【0020】
容器11は、開口部を有する略円筒形状の部材であり、内部にシンチレータ材13を収容し、光電子増倍管14、ブリーダ回路15と遮光ケース16内で連結されている。開口部には窓部材12が接着剤等で気密に固定されている。容器11を構成する材料は限定されないが、一例としてはアルミニウムを用いることができる。また、容器11の形状は円筒形状に限定されず、内部に収容する各部材の形状や大きさに合わせて適宜設計することができる。また容器11には、図示しない配線孔が形成されており、外部から配線孔を介してブリーダ回路15に配線が接続されている。
【0021】
窓部材12は、シンチレータ材13からの発光を透過する材料で構成された板状の部材であり、容器11の開口部に配置されて容器11の内部を気密に封止している。窓部材12を構成する材料は限定されず、公知のガラス材料を用いることができる。窓部材12の外周と容器11の開口部の間は接着剤等が塗布されており、隙間からの水蒸気の侵入を抑制するために気密封止されている。
【0022】
シンチレータ材13は、容器11の中に設置され、放射線が照射されることで紫外または可視光を発光する蛍光材料を含有する部材である。シンチレータ材13の構造および製造方法については後述する。本実施形態では、蛍光材料として、マトリックス相であるシリカの一部が結晶化したクリストバライト構造に、ヨウ化物蛍光体が取り込まれてナノコンポジット化されたものを用いている。また、クリストバライト構造中には、アルカリハロゲン化物が微量に含まれていることが好ましい。
【0023】
光電子増倍管14は、微量の光子を検出して電気信号を出力する部材である。光電子増倍管14の構造は公知のものを用いることができ、一例としては、高真空のガラス容器中に光電陰極、複数の二次電子増倍電極(ダイノード)、陽極、およびその他の電極を封入した構造を有するものを用いることができる。光電子増倍管14の入射窓側にはシンチレータ材13が配置されており、出力側にはブリーダ回路15が接続されている。
【0024】
ブリーダ回路15は、高電圧電源からの電圧を複数の分割抵抗を介して光電子増倍管14に供給するとともに、光電子増倍管14からの電流を出力する部材である。高電圧電源からの複数の電圧は、光電子増倍管14の各ダイノードに供給されている。ブリーダ回路15の出力は、図示しない配線を介して検出信号として外部の信号処理部に伝達される。
【0025】
遮光ケース16は、光を遮る材質で構成されたケース状の部材であり、内部に容器11と、窓部材12と、シンチレータ材13と、光電子増倍管14と、ブリーダ回路15を収容している。
図1では図示を省略しているが、遮光ケース16にはブリーダ回路15の配線を外部に引き出す孔部が設けられている。
【0026】
図1に示した放射線検出装置10では、ガンマ線などの放射線が遮光ケース16、及び容器11を透過してシンチレータ材13に入射すると、シンチレータ材13中の蛍光体材料が励起され、波長範囲が380nm以上500nm以下の青色光で発光する。シンチレータ材13で発光した青色光の光子は、窓部材12を通り光電子増倍管14の光電陰極に到達し、光電陰極で電子に変換される。光電陰極で生じた電子がダイノードに衝突すると、ダイノードに印加されている電圧によって多数の電子が放出され、複数のダイノードの間で電子放出が連鎖的に生じることで、1つの光子で生じた電子が雪崩のように増幅される。光電子増倍管14で増幅された電子による電流は、検出信号としてブリーダ回路15を介して外部の信号処理部に伝達され、信号処理部が光子と電流と検出信号の関係から光子数を算出する。また、信号処理部では、算出された光子数から放射線の強度を算出する。
【0027】
次に、本実施形態のシンチレータ材13に用いる蛍光体材料についてさらに詳細に説明する。 シリカは、SiO4四面体がSi-O-Si結合で連結された基本骨格を有するアモルファス構造である。Si-O-Siの結合角度は、145°±10°の角度を有している。シリカを加熱すると、1000℃あたりまでは熱膨張率が小さいが、1000℃を超えたあたりから熱膨張率がなだらかに上昇する。これは、シリカ表面のOH基から活性水素が発生し、シリカの一部にSi-O-Si結合の切断、再配列が起こるためである。この時、Si-O-Siの結合角は180°になり、SiO4連結網の中に大きな空隙が生じる。この空隙は、Sr2+,Cs+,Ca2+,Eu2+,Tl+等の金属の陽イオンおよびハロゲン等の陰イオンにとってポケットとなり、これらイオンがSiO4連結網の中に取り込まれる。
【0028】
取り込まれたイオンは熱拡散により、陽イオンと陰イオンとが結合を起こし、イオン結晶核が生成する。イオン結晶核が生成されたことに触発され、マトリックス相のシリカも結晶化しクリストバライトが生成すると考えられる。このようにして、発光ハロゲン化金属塩の取り込みとSiO2の結晶化が並行して起こり、ナノコンポジット型のシンチレー
タ材料が生成されたものと推察される。
【0029】
図2は、本実施形態に係るシンチレータ材13の構造例を示す模式斜視図であり、
図2(a)は微細な凹部22をマトリクス状に配置した例を示し、
図2(b)は一つの凹部22を大面積で形成した例を示している。
図2(a)(b)に示したように、本実施形態に係るシンチレータ材13は、基板21に凹部22が形成されており、各凹部22内にナノコンポジット層25が設けられた構造を有している。
【0030】
基板21は、石英ガラスからなる略板状の部材であり、一方の面に単数または複数の凹部22が形成されている。凹部22は、基板21の一方の面に所定の面積と深さで形成された窪み形状である。
図2に示した例では、凹部22として略円柱形状のものを示したが、形状は限定されず、円錐形状や多角柱形状、多角錐形状等を用いるとしてもよい。ナノコンポジット層25は、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれた層である。ナノコンポジット層25の材料および製造方法についての詳細は後述する。
【0031】
図3は、本実施形態に係るシンチレータ材13の製造方法を模式的に示す工程図である。
図3では、
図2(a)に示した基板21に複数の凹部22を形成した例について説明するが、
図2(b)に示した1つの凹部22を形成する場合でも同様の工程を実施することでシンチレータ材13を得ることができる。
【0032】
はじめに、
図3(a)に示すように石英ガラスからなる板状の基板21を用意する。次に、
図3(b)に示すように基板21の表面に直径Dで深さHの凹部22を形成する。
図3(a)および
図3(b)の工程は、凹部22が形成された基板21を得るための工程であり、本発明における基板準備工程に相当している。凹部22の形成方法は限定されないが、より深い凹部22を形成するためにはマイクロマシニングセンタ等を用いて機械的加工により形成することが好ましい。
【0033】
ここで、凹部22の深さHは、0.5mm以上3.0mm以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5mm以上2.0mm以下の範囲である。凹部22が0.5mm未満であると、後述する材料充填工程において凹部22に充填できる原料粉末23の量が不足し、十分なナノコンポジット層25を得ることが困難になる。また、凹部22の深さHがこの範囲よりも大きくなると、原料粉末23の投入量が過剰になり、石英に対し、白濁し半透明であるクリストバライトのマトリックスからなるナノコンポジット層25が厚く形成される為、ナノコンポジット層内で光の散乱/遮蔽が発生し、解像度、及び、発光量が低下する可能性がある。また、凹部22の直径Dは限定されず、シンチレータ材13の用途および機械的加工の条件に応じて適切に設定することができる。
【0034】
次に原料粉末準備工程では、ヨウ化物原料の粉末とSiO2微粒子の粉末を混合して、原料粉末23を得る。ここで、ヨウ化物原料としては、SrI2、CaI2、NaI、KI、CsI、EuI2等が挙げられる。また、SiO2微粒子の平均粒径(D50)は0.1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。SiO2微粒子の平均粒径が0.1μmより小さいと、粒子が細かすぎて嵩高となり凹部22への充填が困難になる可能性がある。また、SiO2微粒子の平均粒径が10μmより大きいと、粒子の比表面積が小さくなるため反応性が低下し、ナノコンポジット層25の形成が不十分になる可能性がある。SiO2微粒子の形成方法は限定されず、溶融法、ゾルゲル法、沈降法等の公知の方法によって得られたものを用いることができる。また、SiO2微粒子として、予めヨウ化物原料をナノコンポジット化した蛍光体材料を粉末としたものを用いるとしてもよい。
【0035】
また、原料粉末23におけるSiO2微粒子の含有量は、ヨウ化物原料に対して10mol%以上600mol%以下であることが好ましい。SiO2微粒子の含有量が10mol%未満の場合には、ナノコンポジット層25の焼成時にヨウ化物原料が体積膨張して、凹部22から溢れ出してナノコンポジット層25の形成範囲が凹部22の外側にまで広がり、放射線検出時の解像度が低下する可能性がある。SiO2微粒子の含有量が600mol%より多い場合には、ヨウ化物原料のナノコンポジット化がSiO2微粒子との間で進行しすぎて、基板21の石英ガラスとの一体化が不十分となる可能性がある。
【0036】
次に
図3(c)に示す材料充填工程では、原料粉末準備工程で用意した原料粉末23を凹部内に充填する。ここで原料粉末23は、粉末状のまま凹部22に充填した後にタッピングをするとしてもよく、予めタブレット状に成形した原料粉末23を凹部22内に配置するとしてもよい。材料充填工程で凹部22に充填される原料粉末23の量は限定されないが、焼成時にヨウ化物原料が凹部22から溢れ出ないように、凹部22の深さHの80%以下までの充填量とすることが好ましく、より好ましくは60%以下である。また、材料充填工程において、凹部22内に微量のアルカリハロゲン化物を添加して、基板21を構成する石英ガラスとSiO
2微粒子の一体化を促進するとしてもよい。
【0037】
次に
図3(d)に示す蓋配置工程では、蓋体24を基板21上に配置して凹部22を覆う。蓋体24は、後述するナノコンポジット形成工程における加熱に耐え、かつ原料粉末23と反応しない材料であれば限定されず、例えばサファイア基板を用いることができる。
図3(d)では、蓋体24の一面に凸部が形成されて、凸部が基板21の凹部22内に篏合する例を示しているが、凹部22を覆うことが可能であれば平坦であってもよく、形状は限定されない。
【0038】
次に
図3(e)に示すナノコンポジット形成工程では、蓋体24を配置した基板21を加熱して、ヨウ化物原料と基板21を構成する石英ガラスおよびSiO
2微粒子を反応させ、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層25を形成する。ここでナノコンポジット形成工程を実施する際の雰囲気は、水素を含有した窒素雰囲気を用いることが好ましい。また、加熱時の温度は850~1000℃の範囲が好ましい。ナノコンポジット層25は、放射線検出時の発光強度を確保するためには、厚さが0.1mm以上に厚肉化することが好ましい。
【0039】
ナノコンポジット形成工程では、凹部22内においてヨウ化物原料とSiO2微粒子の反応、およびヨウ化物原料と基板21を構成する石英ガラスとの反応が進行し、基板21と一体化したナノコンポジット層25が得られる。また、原料粉末23にはヨウ化物原料とSiO2微粒子が混合されているため、加熱時にヨウ化物原料が体積膨張し(例えば突沸現象などによる)、凹部22から溢れ出ることが抑制される。また、ナノコンポジット形成工程では、蓋体24で凹部22を覆った状態で加熱処理を行うため、ヨウ素の揮発を抑制し、ヨウ化物蛍光体中のヨウ素欠損を抑制し、結晶性のよいヨウ化物蛍光体を得ることができ、並びに、ナノコンポジット層25の厚肉化を図ることができる。
【0040】
図3(a)~
図3(e)に示した本実施形態の製造方法を用いることで、石英ガラスからなり凹部22が形成された基板21と、凹部22内に、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層25を備え、ナノコンポジット層25は厚さが0.1mm以上であるシンチレータ材13を得ることができる。
【0041】
(実施例1)
実施例1に係るシンチレータ材13は、クリストバライト構造に蛍光体材料であるSrI2:Eu2+が取り込まれ、アルカリ金属イオンとしてNaを含むものである。基板準備工程では、4mm厚で□15mm(15mm四方の正方形)の石英ガラスからなる基板21を用意し、研削加工により直径Dが10mm、深さHが2mmの凹部22を形成した。原料粉末準備工程では、露点温度-30℃以下のグローブボックス内で不活性ガスであるAr雰囲気において、ヨウ化物原料であるSrI2/EuI2/NaIをそれぞれモル比が1.0/0.1/0.01となるよう精秤し、石英乳鉢に入れ粉砕混合した。また、溶融法で得た平均粒径3μmのSiO2微粒子を用意し、前述の混合材料とSiO2微粒子のモル比が1.0/0.5となるように、ヨウ化物原料の粉末とSiO2微粒子を混合して原料粉末23を得た。
【0042】
材料充填工程では、得られた0.1gの原料粉末23を直径9mmのタブレット形状に成型して凹部22内に配置した。蓋配置工程では、蓋体24として□12mmのサファイア基板を用意し、各凹部22を覆うように配置した。ナノコンポジット形成工程では、H2/N2=5/95の水素含有窒素雰囲気において、基板21を950℃で6時間加熱して焼成を行った。その後、40℃の温純水で超音波洗浄し、余剰のヨウ化物を除去することで、凹部22内にナノコンポジット層25が形成された実施例1のシンチレータ材13を得た。
【0043】
(実施例2)
実施例2に係るシンチレータ材13は、クリストバライト構造に蛍光体材料であるCaI2:Eu2+が取り込まれたものである。基板準備工程では、4mm厚で□15mmの石英ガラスからなる基板21を用意し、研削加工により直径Dが10mm、深さHが2mmの凹部22を形成した。原料粉末準備工程では、露点温度-30℃以下のグローブボックス内で不活性ガスであるAr雰囲気において、ヨウ化物原料であるCaI2/EuI2をそれぞれモル比が1.0/0.1となるよう精秤し、石英乳鉢に入れ粉砕混合した。また、溶融法で得た平均粒径10μmのSiO2微粒子を用意し、前述の混合材料とSiO2微粒子のモル比が1.0/6.0となるように、ヨウ化物原料の粉末とSiO2微粒子を混合して原料粉末23を得た。
【0044】
材料充填工程では、得られた0.1gの原料粉末23を凹部22内に投入してタッピングして充填した。蓋配置工程では、蓋体24として□12mmのサファイア基板を用意し、各凹部22を覆うように配置した。ナノコンポジット形成工程では、H2/N2=5/95の水素含有窒素雰囲気において、基板21を1000℃で8時間加熱して焼成を行った。その後、40℃の温純水で超音波洗浄し、余剰のヨウ化物を除去することで、凹部22内にナノコンポジット層25が形成された実施例2のシンチレータ材13を得た。
【0045】
(実施例3)
実施例3に係るシンチレータ材13は、クリストバライト構造に蛍光体材料であるSrI2:Eu2+が取り込まれ、アルカリ金属イオンとしてNaを含むものである。基板準備工程では、2mm厚で□10mmの石英ガラスからなる基板21を用意し、研削加工により直径Dが5mm、深さHが1.0mmの凹部22を形成した。原料粉末準備工程では、露点温度-30℃以下のグローブボックス内で不活性ガスであるAr雰囲気において、ヨウ化物原料であるSrI2/EuI2/NaIをそれぞれモル比が1.0/0.08/0.01となるよう精秤し、石英乳鉢に入れ粉砕混合した。また、ゾルゲル法で得た平均粒径0.12μmのSiO2微粒子を用意し、前述の混合材料とSiO2微粒子のモル比が1.0/0.2となるように、ヨウ化物原料の粉末とSiO2微粒子を混合して原料粉末23を得た。
【0046】
材料充填工程では、得られた0.02gの原料粉末23を凹部22内に投入してタッピングして充填した。蓋配置工程では、蓋体24として□10mmのサファイア基板を用意し、各凹部22を覆うように配置した。ナノコンポジット形成工程では、H2/N2=5/95の水素含有窒素雰囲気において、基板21を900℃で6時間加熱して焼成を行った。その後、40℃の温純水で超音波洗浄し、余剰のヨウ化物を除去することで、凹部22内にナノコンポジット層25が形成された実施例3のシンチレータ材13を得た。
【0047】
(実施例4)
実施例4に係るシンチレータ材13は、クリストバライト構造に蛍光体材料であるSrI2:Eu2+が取り込まれ、アルカリ金属イオンとしてKを含むものである。基板準備工程では、2mm厚で□10mmの石英ガラスからなる基板21を用意し、ドライエッチング加工により直径Dが5mm、深さHが0.6mmの凹部22を形成した。原料粉末準備工程では、露点温度-30℃以下のグローブボックス内で不活性ガスであるAr雰囲気において、ヨウ化物原料であるSrI2/EuI2/KIをそれぞれモル比が1.0/0.15/0.01となるよう精秤し、石英乳鉢に入れ粉砕混合した。また、沈降法で得た平均粒径0.7μmのSiO2微粒子を用意した。また、前述の混合材料とSiO2微粒子のモル比が1.0/3.0となるように、ヨウ化物原料の粉末とSiO2微粒子を混合して原料粉末23を得た。
【0048】
材料充填工程では、得られた0.01gの原料粉末23を凹部22内に投入してタッピングして充填した。蓋配置工程では、蓋体24として□10mmのサファイア基板を用意し、各凹部22を覆うように配置した。ナノコンポジット形成工程では、H2/N2=5/95の水素含有窒素雰囲気において、基板21を880℃で5時間加熱して焼成を行った。その後、40℃の温純水で超音波洗浄し、余剰のヨウ化物を除去することで、凹部22内にナノコンポジット層25が形成された実施例4のシンチレータ材13を得た。
【0049】
(比較例)
比較例に係るシンチレータ材13は、クリストバライト構造に蛍光体材料であるSrI2:Eu2+が取り込まれ、アルカリ金属イオンとしてNaを含むものである。基板準備工程では、4mm厚で□15mmの石英ガラスからなる基板21を用意し、研削加工により直径Dが10mm、深さHが2mmの凹部22を形成した。原料粉末準備工程では、露点温度-30℃以下のグローブボックス内で不活性ガスであるAr雰囲気において、ヨウ化物原料であるSrI2/EuI2/NaIをそれぞれモル比が1.0/0.1/0.01となるよう精秤し、石英乳鉢に入れ粉砕混合して原料粉末23を得た。
【0050】
材料充填工程では、得られた0.1gの原料粉末23を直径9mmのタブレット形状に成型して凹部22内に配置した。蓋配置工程では、蓋体24として□12mmのサファイア基板を用意し、各凹部22を覆うように配置した。ナノコンポジット形成工程では、H2/N2=5/95の水素含有窒素雰囲気において、基板21を950℃で6時間加熱して焼成を行った。比較例では、凹部22から原料粉末23中のヨウ化物原料が溢れ出し、基板21の全体に広がった。その後、40℃の温純水で超音波洗浄し、余剰のヨウ化物を除去することで、凹部22内にナノコンポジット層25が形成された比較例のシンチレータ材13を得た。
【0051】
(ナノコンポジット層25の膜厚)
得られた実施例1~4および比較例のシンチレータ材13を凹部22の位置で切断し、光学顕微鏡で断面観察を行った。ナノコンポジット層25内のSiO2は、アモルファス構造から多結晶のクリストバライト構造に変化するため半透明になる。この半透明な部分のサイズを測定することで、ナノコンポジット層25の平均膜厚を算出した。
【0052】
図4は、実施例1-4および比較例におけるナノコンポジット層25の厚さを示すグラフである。
図4に示したように、実施例1-4では100μm以上の厚さのナノコンポジット層25が形成されているのに対して、比較例では50μm未満の厚さであることがわかる。これは、比較例ではナノコンポジット形成工程において、原料が凹部22から溢れ出して基板21の全体に広がってしまい、凹部22内での反応量が減少したためと考えられる。
【0053】
(紫外線励起による発光特性)
得られた実施例1~4および比較例のシンチレータ材13に対して、キセノンランプから分光した347nmの励起光を照射し、PL(Photoluminescence)発光による青色発光が発する部位の面積を調べた。
図5は、実施例1におけるシンチレータ材13の外観を示す写真であり、
図5(a)は非発光時の外観を示し、
図5(b)はPL発光時の外観を示している。
図5(b)において白色部分が発光領域である。
【0054】
表1は、実施例1-4および比較例についてPL発光面積を調べた結果である。実施例1-4のシンチレータ材13では、PL発光領域の面積と凹部22の面積が略一致しており、凹部22の底面部分のみから青色発光していることが確認できる。一方で、比較例のシンチレータ材13では、PL発光領域の面積が凹部22の面積よりも大きく、SrI2:Eu原料が溢れ出た結果として、基板21の上面全体がPL発光していることが確認された。
【0055】
【0056】
(放射線励起による発光特性)
図6は、γ線の照射によるシンチレータ材13の発光性能を測定する装置の概要を示す模式図である。
図6に示す測定装置では、光電子増倍管31にシンチレータ材13をセットし、鉛コリメータ32を介して放射線源33からガンマ線(γ線)を照射する。シンチレータ材13ではガンマ線によりナノコンポジット層25中の蛍光体材料が励起されて、430nmのピーク波長で発光する。このシンチレータ材13での発光を光電子増倍管31で測定する。放射線源33としては、
137Csの662keVを用いた。
【0057】
図7は、実施例1-4および比較例でのガンマ線照射によるシンチレータ材13の相対発光強度を示すグラフである。
図7では比較例での発光強度を基準として相対発光強度を示している。
図7に示したように、比較例に対して実施例1-4では、発光強度が3.6~6.5倍まで向上している。これは、実施例1-4では凹部22の底面にのみにナノコンポジット層化が100μm以上の肉厚で形成されており、ナノコンポジット層25での放射線の吸収率が上がり、発光強度が向上したためと考えられる。それに対して比較例では、凹部22の外側にまで原料が溢れ出したため、凹部22内に形成されたナノコンポジット層25の厚さが不足し、十分な発光強度が得られていないと考えられる。
【0058】
上述したように、本実施形態のシンチレータ材13の製造方法およびシンチレータ材13では、ヨウ化物原料とSiO2微粒子を混合した原料粉末23を凹部22内に充填し、蓋体24で覆いながら加熱することで、ヨウ化物原料の溶融による体積膨張と溢出を抑制し、クリストバライト構造中にヨウ化物蛍光体が取り込まれたナノコンポジット層25の厚肉化を図り、発光強度を高めて解像度を向上させることが可能となる。
【0059】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10…放射線検出装置
11…容器
12…窓部材
13…シンチレータ材
14,31…光電子増倍管
15…ブリーダ回路
16…遮光ケース
21…基板
22…凹部
23…原料粉末
24…蓋体
25…ナノコンポジット層
32…鉛コリメータ
33…放射線源