(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119571
(43)【公開日】2023-08-28
(54)【発明の名称】ポリオレフィン樹脂水性分散体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20230821BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230821BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20230821BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20230821BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20230821BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L23/26
C08K5/17
C08F8/46
C08F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023016221
(22)【出願日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022021901
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂下 昌平
(72)【発明者】
【氏名】芦原 公美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜保
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB001
4J002BB041
4J002BB201
4J002BB211
4J002EC026
4J002ED016
4J002EH006
4J002EN007
4J002EN027
4J002EN107
4J002EP016
4J002EU016
4J002EU046
4J002FA081
4J002FD010
4J002FD050
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4J002FD090
4J002FD130
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4J002FD310
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4J002GH00
4J002GH01
4J002GJ00
4J002GJ01
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4J002HA06
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4J100AK32Q
4J100AK32R
4J100AL03Q
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4J100HC50
4J100HC64
4J100HE08
4J100HE13
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA07
4J100JA11
(57)【要約】
【課題】高温での保存において粘度や粒子径の変化が低減され、液保存時の凝集物発生、ゲル化、増粘などの発生が抑制されることから、長期間の保存安定性に優れる、ポリオレフィン樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂粒子、水性媒体、および塩基性化合物を含むポリオレフィン樹脂水性分散体である。ポリオレフィン樹脂が、共重合成分として不飽和カルボン酸成分を0.1~10質量%含み、基性化合物の含有量が、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対し0.2~5.0倍当量であり、ポリオレフィン樹脂粒子の、レーザー回折法で測定した体積粒度分布において、小粒子径側から積算した体積粒子径積算分布の99.9%径が5μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂粒子、水性媒体、および塩基性化合物を含む水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂が、共重合成分として不飽和カルボン酸成分を0.1~10質量%含み、
塩基性化合物の含有量が、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対し0.2~5.0倍当量であり、
ポリオレフィン樹脂粒子の、レーザー回折法で測定した体積粒度分布において、小粒子径側から積算した体積粒子径積算分布の99.9%径が5μm以下である、ポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項2】
固形分濃度20質量%において、60℃で30日間保管後の数平均粒子径の上昇率が20%以下である、請求項1に記載のポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂水性分散体を製造する方法であって、ポリオレフィン樹脂と水性媒体と塩基性化合物とを混合した後に、前記混合時の温度より高い温度で追加の塩基性化合物を混合する工程を含み、塩基性化合物の総量がポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し0.2~5.0倍当量モルである、ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂の水性分散体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、様々な材料に対する良好な熱接着性を有していることから、ヒートシール剤、接着剤用バインダー等の幅広い用途に用いられている。こうした樹脂は、作業性や作業環境の観点から水性分散体として利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリオレフィン樹脂の水性分散体は、保管場所の温度などの外部環境にかかわらず、製造されてから使用されるまでの間に特性が変化しないことが望ましいが、高温環境となり易い環境(例えば、船舶での運搬時、加工工場や倉庫内、加工装置の周辺など)での長期間の保管において、凝集物の発生、ゲル化、増粘などが発生し易く、物性が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定範囲で不飽和カルボン酸成分を含有するポリオレフィン樹脂を用い、塩基性化合物の含有量を特定範囲に調整し、複数回に分けて塩基性化合物を混合することにより製造した水性分散体は、従来の一般的な樹脂粒子径の測定方法である動的光散乱法では確認できなかった粗大な樹脂粒子を含まず、樹脂粒子が均一に水性媒体に分散しており、高温環境下での長期の保存安定性に優れることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ポリオレフィン樹脂粒子、水性媒体、および塩基性化合物を含む水性分散体であって、ポリオレフィン樹脂が、共重合成分として不飽和カルボン酸成分を0.1~10質量%含み、塩基性化合物の含有量が、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対し0.2~5.0倍当量であり、ポリオレフィン樹脂粒子の、レーザー回折法で測定した体積粒度分布において、小粒子径側から積算した体積粒子径積算分布の99.9%径が5μm以下である、ポリオレフィン樹脂水性分散体。
(2)固形分濃度20質量%において、60℃で30日間保管後の数平均粒子径の上昇率が20%以下である、(1)のポリオレフィン樹脂水性分散体。
(3)(1)または(2)のポリオレフィン樹脂水性分散体を製造する方法であって、ポリオレフィン樹脂と水性媒体と塩基性化合物とを混合した後、前記混合時の温度より高い温度で追加の塩基性化合物を混合する工程を含み、塩基性化合物の総量がポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し0.2~5.0倍当量モルである、ポリオレフィン樹脂水性分散体の製造方法。
【0006】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、高温での保存において粘度や粒子径の変化が低減され、液保存時の凝集物発生、ゲル化、増粘などの発生が抑制されることから、長期間の保存安定性に優れるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体(以下、単に「水性分散体」と称する場合がある)は、ポリオレフィン樹脂粒子、水性媒体および塩基性化合物を含む。
【0008】
本発明の水性分散体に含有されるポリオレフィン樹脂粒子は、レーザー回折法で測定した際に得られる体積粒度分布において、小粒径側から積算した体積粒子径積算分布の99.9%径(以下、単に「99.9%径」と称する場合がある)が5μm以下であり、3μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましい。
【0009】
水性分散体中に含有される樹脂粒子径の測定方法としては、動的光散乱法が一般的である。動的光散乱法の原理による粒子径測定可能範囲は1nm~数μm程度とされており、水性分散体の性能評価に必要な範囲をほぼ網羅するからである。これに対して、レーザー回折法の測定可能範囲は10nm~3000μm程度であり、動的光散乱法の測定可能上限をはるかに超える、大きな粒子径の測定が可能である。
本発明者は、ポリオレフィン樹脂水性分散体の動的光散乱法による粒子径測定結果およびレーザー回折法による粒子径測定結果に着目した結果、動的光散乱法において十分に平均粒子径が小さい場合であっても、動的光散乱法の測定可能範囲上限を超える粗大粒子がレーザー回折法で観測される場合があるとの知見を得た。そして、レーザー回折法により概ね5μmを超える粒子が観測されないこと、言い換えれば、レーザー回折法の体積粒度分布における99.9%径が5μm以下(好ましくは1μm以下、より好ましくは0.6μm以下)であれば、こうした水性分散体の高温での保存において、凝集物の発生やゲル化が抑制され、長期間の保存安定性に優れることを見出したのである。
【0010】
樹脂粒子径を上記のレーザー回折法による99.9%径を特定範囲とするための手法としては、後述する本発明の水性分散体の製造方法において、ポリオレフィン樹脂を分散させる際の塩基性化合物を、初期の混合と、初期より高い温度での追加により、複数回に分けて混合する方法が挙げられる。
【0011】
ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、ノルボルネン類等のアルケン類、ブタジエンやイソプレン等のジエン類等が挙げられる。これらの混合物であってもよい。また、オレフィン成分の2種類以上が共重合されたものを用いてもよい。
【0012】
ポリオレフィン樹脂は、共重合成分として、不飽和カルボン酸成分を含有する。不飽和カルボン酸成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、接着性にいっそう優れる観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
【0013】
ポリオレフィン樹脂中の不飽和カルボン酸成分は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等により含有される。
【0014】
ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸成分の含有量は0.1~10質量%であり、1~8質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。含有量が0.1質量%未満であると、ポリオレフィン樹脂粒子の99.9%径が特定範囲である水性分散体を得ることが困難となったり、樹脂の水性分散化が困難となる。また、10質量%を超えると、水性分散体が増粘しやすくなるため、上記の99.9%径が特定範囲であっても、高温環境下での長期間の保存安定性に劣るものとなる。
【0015】
ポリオレフィン樹脂は、共重合成分として(メタ)アクリル酸エステル成分を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分を含む場合、その含有量は、1~20質量%であることが好ましい2~19質量%であることがより好ましく、4~18質量%であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が上記範囲であると、樹脂の分散性がより向上し、高温環境下での長期間の保存安定性にいっそう優れるものとなる。(メタ)アクリル酸エステル成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステ
ル成分、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸ジエステル成分、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル成分、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル成分、ビニルエステル成分を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、(メタ)アクリル酸アミド成分等が挙げられ、これらの混和物であってもよい。中でも、(メタ)アクリル酸エステル成分、ビニルエステル成分が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル成分がより好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0016】
ポリオレフィン樹脂の具体例としては、エチレン/アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタアクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタアクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタアクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/1-ブテン/アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/1-ブテン/メタアクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/1-ブテン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/1-ブテン/メタアクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/1-ブテン/アクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/1-ブテン/メタアクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/メタアクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/メタアクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/アクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/メタアクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/メタアクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/メタアクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/アクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/メタアクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィン樹脂は5~40質量%の範囲で塩素化されていてもよい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂を構成する無水マレイン酸成分は、イミド化されていてもよく、そのN位は、N,N-ジメチルアミノエチル基、N,N-ジメチルアミノプロピル基、N,N-ジメチルアミノブチル基、N,N-ジエチルアミノエチル基、N,N-ジエチルアミノプロピル基、N,N-ジエチルアミノブチル基等で置換されていてもよい。
【0019】
本発明の水性分散体は、ポリオレフィン樹脂粒子が水性媒体中に分散されている。本発明において水性媒体とは水を主成分とする液体であり、後述する有機溶剤を含有していてもよい。
【0020】
本発明の水性分散体は、塩基性化合物を含有するものである。
塩基性化合物の含有量は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.2~5.0倍当量であり、0.4~4.8倍当量であることが好ましい。0.2倍当量未満では分散が不十分となり、本発明で規定する樹脂粒子径の水性分散体を得ることが困難となる。5.0倍当量を超えると高温環境下での長期間保存後の液安定性が低下する。
【0021】
塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、ピリジン等が挙げられる。中でも、樹脂の分散促進の観点から、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンが好ましい。
【0022】
本発明の水性分散体は、取扱性に優れることから、20℃での粘度が250mPa・s以下であることが好ましく、200mPa・s以下であることがより好ましく、180mPa・s以下であることがさらに好ましく、200mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0023】
本発明の水性分散体に含有されるポリオレフィン樹脂粒子は、微細かつ安定に分散され、塗膜等とした場合の各種特性に優れることから、動的光散乱法で測定した数平均粒子径が200nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。
【0024】
また、同様の理由から、動的光散乱法で測定した体積平均粒子径が300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の水性分散体は、高温環境下での長期間の保存安定性に優れるものである。本発明における保存安定性は、水性分散体の粒子径や粘度の上昇率を指標とするものである。
本発明の水性分散体は、高温環境下での長期間保存後の粘度の上昇が抑制されるものである。60℃で30日間保管後の粘度は、280mPa・s以下であることが好ましく、250mPa・s以下であることがより好ましく、200mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明においては、60℃で30日間保管後の粘度の上昇率が50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0027】
本発明においては、60℃で30日間保管後の数平均粒子径は220nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、180nm以下であることがさらに好ましく、120nm以下であることが特に好ましい。
【0028】
本発明においては、固形分濃度20質量%における、60℃で30日間保管後の数平均粒子径の上昇率が、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
粒子径や粘度の測定方法、上昇率の算出方法は、実施例において詳述する。
【0029】
本発明の水性分散体においては、特定の割合で塩基性化合物を含有し、特定組成のポリオレフィン樹脂粒子が粗大な樹脂粒子を含まず均一に水性媒体に分散しているので、液の物性変化を抑制することができ、高温環境下での長期間の保存安定性に優れた水性分散体を得ることができる。
【0030】
本発明の水性分散体は、不揮発性水性化助剤の使用を排除するものではないが、不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。本発明においては不揮発性水性化助剤を実質的に含有せずとも、ポリオレフィン樹脂粒子の分散安定性に優れ、かつ粗大な樹脂粒子が存在しない水性分散体を製造することが可能である。
【0031】
ここで、「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0032】
「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、こうした助剤を製造時(ポリオレフィン樹脂の水性分散化時)に用いず、得られる水性分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。不揮発性水性化助剤は、ポリオレフィン樹脂成分に対して5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%未満であり、0質量%であることが最も好ましい。
【0033】
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子等が挙げられる。
【0034】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体等のポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0035】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン-プロピレンワックス等の数平均分子量が通常5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物等が挙げられる。
【0036】
本発明の水性分散体は、目的に応じて性能をさらに向上させるために、他の重合体、粘着付与剤、無機粒子、架橋剤、顔料、染料等を含有してもよい。
他の重合体や粘着付与剤は、特に限定されない。例えば、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、変性ナイロン樹脂、ロジン、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等、またはこれらを含む粘着付与剤が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。
なお、これらの重合体は、固形状のままで使用に供してもよいが、水性分散体の安定性維持の点では、水性分散体に加工したものを用いることが好ましい。
【0037】
無機粒子としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化すず等の金属酸化物、炭酸カルシウム、シリカ等の無機粒子や、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ハイドロタルサイト、合成雲母等の層状無機化合物等が挙げられる。これらの無機粒子の平均粒子径は、塗膜の透明性等の観点から、0.005~10μmであることが好ましい。なお、無機粒子として複数のものを混合して使用してもよい。
【0038】
架橋剤としては、自己架橋性を有する架橋剤、不飽和カルボン酸成分と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等を用いることができる。
具体的には、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、エポキシ基含有化合物、メラミン化合物、尿素化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。中でも、取り扱い易さの観点から、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、エポキシ基含有化合物が好ましい。
【0039】
顔料、染料としては、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等が挙げられ、分散染料、酸性染料、カチオン染料、反応染料等いずれのものも使用することが可能である。
本発明の水性分散体は、さらに必要に応じて、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、増粘剤、耐候剤、難燃剤等の各種薬剤を含有してもよい。
【0040】
本発明の水性分散体は、接着剤、コーティング剤、プライマー、塗料、インキ等として好適に使用できる。
また、本発明の水性分散体は、金属製品用途、電子機器用途、包装材料用途、自動車部品用途等に特に好適に用いられる。
これら用途の具体例としては、PP押出ラミ用アンカーコート剤、二次電池セパレータ用コーティング剤、UV硬化型コート剤用プライマー、靴用プライマー、自動車バンパー用プライマー、クリアボックス用プライマー、PP基材用塗料、包装材料用接着剤、紙容器用接着剤、蓋材用接着剤、インモールド転写箔用接着剤、PP鋼板用接着剤、太陽電池モジュール用接着剤、植毛用接着剤、二次電池電極用バインダー用接着剤、二次電池外装用接着剤、自動車用ベルトモール用接着剤、自動車部材用接着剤、異種基材用接着剤、繊維収束剤等が挙げられる。
【0041】
本発明の水性分散体は、塗膜形成能に優れる。本発明の水性分散体から塗膜を形成するためには、例えば、本発明の水性分散体を、各種基材表面に均一に塗布し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥または乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することが挙げられる。これにより、均一な塗膜を各種基材表面に接着させることができる。
【0042】
基材への水性分散体の塗布には、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。
【0043】
基材への水性分散体の塗布量は特に限定されず、その用途によって適宜選択されるものであるが、乾燥後の塗布量として0.01~100g/m2であることが好ましく、0.1~50g/m2であることがより好ましく、0.2~30g/m2であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、塗布量を調節するためには、塗布に用いる装置やその使用条件を適宜選択することに加えて、目的とする塗膜の厚さに応じて濃度調整された水性分散体を使用することが好ましい。水性分散体の濃度は、調製時の各々の原料の量により調整することが可能であり、また、一旦調製した水性分散体を、適宜希釈したり、あるいは濃縮したりして調整してもよい。
【0045】
塗布後の加熱処理のための加熱装置として、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用することができる。
加熱温度や加熱時間は、基材の特性または水性分散体中に任意に配合しうる各種成分の添加量により適宜選択されるが、エネルギーコストや基材へのダメージの観点からは加熱温度は低いほうが好ましく、生産性の観点からは加熱時間は短いほうが好ましい。加熱温度としては、20~130℃であることが好ましく、30~120℃であることがより好ましく、40~100℃であることがさらに好ましい。加熱時間は、1秒~20分であることが好ましく、5秒~15分であることがより好ましく、5秒~10分であることがさらに好ましい。
なお、本発明の水性分散体に架橋剤を含有させる場合は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基と架橋剤との反応を十分進行させるために、加熱温度および時間は架橋剤の種類によって適宜選定することが望ましい。
【0046】
本発明の水性分散体を得るための製造方法としては、上記した各種成分、すなわち、ポリオレフィン樹脂、水性媒体、塩基性化合物、任意の各種添加剤、さらに必要に応じて有機溶剤等を混合し、樹脂を分散させる方法を採用する。
【0047】
混合時には、任意に、攪拌等、原料が均一になる操作を行えばよい。
攪拌手法は、例えば、翼やプロペラなどを用いて物理的に混合する手法や、空気や水蒸気を吹き込む手法などが挙げられ、密閉可能な容器中で混合させてもよい。
容器としては、固/液撹拌装置や乳化機として使用されている装置を使用することができ、例えば、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。
混合の手法として撹拌を採用する場合、撹拌の回転速度は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂が水性媒体中で均一な状態となる程度の低速の撹拌でよい。したがって、高速撹拌(例えば1000rpm以上)は必須ではなく、簡便な装置でも水性分散体の製造が可能である。
【0048】
中でも、水性分散体の製造方法としては、初期にポリオレフィン樹脂と水性媒体と塩基性化合物とを混合した後に、混合時の温度より高い温度において、追加の塩基性化合物を混合する工程を含むものである。言い換えると、ポリオレフィン樹脂と水性媒体と塩基性化合物とを混合した後に、昇温操作を行い、追加の塩基性化合物を混合する工程を含むものである。
追加の塩基性化合物の混合は2段階以上で行ってもよい。
塩基性化合物の追加の混合は、例えば、初期の混合から10分以上経過した後に行ってもよく、この時間は特に限定されるものではない。
【0049】
詳細なメカニズムは分かっていないが、本発明者らは様々に検討した結果、初期よりも高い温度で追加の塩基性化合物を混合することで、ポリオレフィン樹脂粒子の分散性や分散安定性を向上させて、上記のレーザー回折法で測定したポリオレフィン樹脂粒子の99.9%径を、特定範囲とすることができることを見出した。
【0050】
上記製造方法において、初期にポリオレフィン樹脂と水性媒体と塩基性化合物とを混合する際には、加熱操作等を伴わない室温付近の温度、例えば0~50℃の範囲で実施することができる。
追加の塩基性化合物を混合する際の温度は、初期の温度よりも高ければ特に限定されないが、初期より、20℃以上高い温度が好ましく、特に、保存安定性をいっそう向上させるために、70℃以上とすることが好ましく、100℃以上とすることがより好ましく、130℃以上とすることがさらに好ましい。
【0051】
塩基性化合物の総量は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し0.2~5.0倍当量モルであり、0.4~4.8倍当量であることが好ましい。
初期の混合または昇温後の追加の混合における、塩基性化合物の各々の使用量は、特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂の分散を促進し、分散粒子径を小さくするために、塩基性化合物の総量に対して、(初期)/(追加)の割合を、10/90~90/10(質量比)とすることが好ましく、30/70~70/30(質量比)とすることがより好ましく、40/60~60/40(質量比)とすることがさらに好ましい。
【0052】
塩基性化合物としては、ポリオレフィン樹脂と水性媒体と塩基性化合物とを混合する段階(初期)、昇温後の追加の混合の段階で、異なる種類の塩基性化合物を使用してもよいし、同じ種類のものを使用してもよい。
【0053】
ポリオレフィン樹脂粒子の分散を促進し、分散粒子径を小さくし、本発明で規定する粒子径を満足するために、親水性有機溶剤を混合することが好ましい。親水性有機溶剤の含有量としては、水性媒体全体に対し50質量%以下であることが好ましく、1~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることがさらに好ましく、25~35質量%であることが特に好ましい。親水性有機溶剤の含有量が50質量%を超える場合には、実質的に水性媒体と見なせなくなり、また、使用する親水性有機溶剤によっては水性分散体の安定性が低下することがある。
【0054】
親水性有機溶剤としては、分散安定性が良好な水性分散体を得るという点から、20℃の水に対する溶解性が10g/L以上のものが好ましく、20g/L以上のものがより好ましく、50g/L以上のものがさらに好ましい。
【0055】
親水性有機溶剤としては、塗膜を形成する過程で、効率よく乾燥除去させる観点から、沸点が100℃以下のものが好ましい。沸点が100℃を超える親水性有機溶剤は、塗膜から乾燥により飛散させることが困難となる傾向にあり、特に低温乾燥時の塗膜の耐水性や基材との接着性等が低下することがある。
【0056】
好ましい親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリン等が挙げられる。
【0057】
中でも、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを用いると、ポリオレフィン樹脂粒子の分散促進により効果的であり好ましく、イソプロパノールが特に好ましい。
【0058】
本発明では、これらの親水性有機溶剤を複数混合して使用してもよい。またポリオレフィン樹脂の水性分散化をより促進させるために、疎水性有機溶剤をさらに使用してもよい。
【0059】
疎水性有機溶剤としては、分散安定性が良好な水性分散体を得るという点から、20℃の水に対する溶解性が10g/L未満である有機溶剤が好ましい。また、塗膜を形成する過程で、効率よく乾燥除去させる観点から、沸点が150℃以下である有機溶剤が好ましい。このような疎水性有機溶剤としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、石油エーテル等のオレフィン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。これらの疎水性有機溶剤の含有量は、水性分散体に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。疎水性有機溶剤の含有量が15質量%を超えると、ゲル化等を引き起こすことがある。
【0060】
水性分散体の製造時に上記の有機溶剤を用いた場合には、ポリオレフィン樹脂の水性分散化の後に、その一部を、一般に「ストリッピング」と呼ばれる脱溶剤処理によって系外へ留去させ、有機溶剤の含有量を低減させてもよい。ストリッピングにより、水性分散体中の有機溶剤の含有量は、10質量%以下とすることができ、5質量%以下とすればより好ましく、1質量%以下とすることが、環境上より好ましい。ストリッピングの工程では、水性分散化に使用した有機溶剤を実質的に全て留去することもできるが、装置の減圧度を高めたり、操業時間を長くしたりする必要があるため、こうした生産性を考慮した場合、有機溶剤含有量の下限は0.01質量%程度が好ましい。
【0061】
ストリッピングの方法としては、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱し、有機溶剤を留去する方法が挙げられる。また、水性媒体が留去されることにより、固形分濃度が高くなるので、例えば、粘度が上昇して作業性が低下するような場合には、予め水性分散体に水を添加しておいてもよい。
【0062】
水性分散体の固形分濃度は、特に限定されず用途等に応じて適宜に選択することができ、例えば、水性媒体を留去する方法や、水で希釈する方法により調整することができる。
【実施例0063】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各種の構成や特性は、以下の方法により測定または評価した。
【0064】
(1)ポリオレフィン樹脂の組成
1H-NMR分析装置(日本電子社製、ECA500、500MHz)より求めた。テトラクロロエタン(d2)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0065】
(2)ポリオレフィン樹脂の融点
パーキンエルマー社製、DSC7を用いてDSC法にて測定した。試料をアルミパンに詰め、10℃/分で200℃まで昇温し、5分間保持した後、10℃/分で-10℃まで降温し、次いで10℃/分で200℃まで昇温した際の、吸熱および発熱に伴う曲線から求めた。
【0066】
(3)ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS K7210:1999記載の方法に準じ、190℃、2160g荷重で測定した。
【0067】
(4)水性分散体の固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0068】
(5)ポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径、体積平均粒子径(動的光散乱法)
日機装社製、Nanotrac Wave-UZ152粒度分布測定装置を用いて、数平均粒子径(mn)、体積平均粒子径(mv)を測定した。なお樹脂の屈折率は1.5とした。
【0069】
(6)ポリオレフィン樹脂粒子の99.9%径(レーザー回折法)
マルバーン社製、レーザー回折粒子径マスターサイザー3000を用いて、粒子径を測定し、体積粒度分布において小粒径側から積算した体積粒子径積算分布の99.9%径を確認した。
【0070】
(7)水性分散体の粘度
B型粘度計(トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計)を用い、温度20℃における回転粘度(mPa・s)を測定した。
【0071】
(8)pH
HORIBA社製 ポータプル型pHメーター D-74を用い、20℃におけるpHを測定した。
【0072】
(9)塩基性化合物の含有量の測定方法
1H-NMR分析(日本電子社製、ECA500、500MHz)より求めた。重メタノール(d4)を溶媒とし、1,4-ジオキサンを内部標準として20℃で測定した。
【0073】
(10)高温環境下で長期間保存後の保存安定性
(10-1)粘度の上昇率
固形分濃度20質量%の水性分散体の初期の粘度Bと、60℃で30日間保管後の粘度Aを測定し、(A-B)×100/B(%)を求めた。
【0074】
(10-2)数平均粒子径の上昇率
固形分濃度20質量%の水性分散体の初期の数平均分子量D、60℃で30日間保管後の数平均粒子径Cを測定し、(C-D)×100/D(%)を求めた。
【0075】
(10-3)外観評価
水性分散体の60℃で30日間保管後の外観を目視で観察し、以下の3段階で評価した。
〇:外観に変化なし
△:液中に細かい凝集物がみられる
×:液の増粘や、液中にゲルの発生、液の分離がみられる
【0076】
実施例、比較例に用いたポリオレフィン樹脂(P-1)~(P-11)は、以下の通りである。これらの組成、物性を表1に示す。
【0077】
【0078】
ポリオレフィン樹脂(P-1)
エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体(ボンダインHX-8290 アルケマ社製)を用いた。
【0079】
ポリオレフィン樹脂(P-2)
エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体(ボンダインLX-4110 アルケマ社製)を用いた。
【0080】
ポリオレフィン樹脂(P-3)、(P-4)、(P-7)、(P-8)、(P-9)、(P-10)、(P-11)
特開昭61-60709号公報の実施例1に記載された方法をもとに、表1に示す組成となるように、エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体(P-3)、(P-4)、(P-7)、(P-8)、(P-9)、(P-10)、(P-11)を得た。
【0081】
ポリオレフィン樹脂(P-5)
ポリオレフィン樹脂(P-3)の製造において、アクリル酸エチルを加えなかったことと、表1に示したようにエチレンと無水マレイン酸の量を変更した以外は同様の操作を行って、ポリオレフィン樹脂(P-5)を得た。
【0082】
ポリオレフィン樹脂(P-6)
アイソタクチック構造のホモポリプロピレン樹脂(MFR=0.1g/10分-170℃・2160g)を窒素ガス通気下、常圧において、360℃×80分の熱減成処理を施し、得られたポリプロピレン樹脂1000gをジャケット付き反応器に入れ、窒素置換した。次いで、180℃まで加熱昇温し溶融させた後、無水マレイン酸125g、アクリル酸エチル100gを加え、均一に混合した。そこに、ジクミルパーオキサイド6.3gを溶解させたキシレン125gを滴下し、180℃で30分撹拌し反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させ、ポリオレフィン樹脂(
P-6)を得た。
【0083】
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(P-1)、60.0gのイソプロパノール(以下、IPA)1.6g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して0.5倍当量)のトリエチルアミン(以下、TEA)および176.8gの蒸留水をガラス容器内に投入し、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌しながら、ヒーターの電源を入れ加熱した。140℃まで昇温後、送液ポンプを用いて1.6g(樹脂中のカルボキシル基に対して0.5倍当量)のTEAを添加し、140℃に保った状態で、60分間攪拌を行った。その後、攪拌速
度を維持したまま加熱を止め、水浴につけて、25℃まで冷却した。300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な水性分散体を得た。
【0084】
実施例2~6、15、16
実施例1において、表2に示したようにTEAの初期の混合量と、昇温後に追加で混合する量を変更した以外は同様の操作を行った。
【0085】
【0086】
実施例7
実施例1において、表2に示したように塩基性化合物の種類を、N,N-ジメチルエタノールアミン(DMEA)に変更した以外は同様の操作を行った。
【0087】
実施例8
実施例1において、表2に示したように、初期に混合する塩基性化合物と、昇温後に追加で混合する塩基性化合物の種類を変更した以外は同様の操作を行った。
【0088】
実施例9
実施例1で得られたポリオレフィン樹脂水性分散体250g、蒸留水65gを0.5Lの2口丸底フラスコに投入し、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約65gの水性媒体を留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体を得た。この水性分散体中の有機溶剤の含有率は0.3質量%であった。
【0089】
実施例10~14、19~21
実施例1において、ポリオレフィン樹脂を、表2に示すように、それぞれP-2~P-9に変更した以外は同様の操作を行った。
【0090】
実施例17、18
実施例1において、昇温後の塩基性化合物の混合を、表2に示す温度に到達した時に行った以外は同様の操作を行った。
【0091】
比較例1、4
実施例1において、表2に示すように塩基性化合物を、初期のみ(比較例1)、または昇温後に追加で混合したときのみ(比較例4)に混合したことに変更した以外は、同様の操作を行った。
【0092】
比較例2、3
実施例1において、表2に示すように塩基性化合物の混合量を変更した以外は、同様の操作を行った。
【0093】
比較例5、6
実施例1において、表2に示すようにポリオレフィン樹脂をP-10、P-11に変更した以外は、同様の操作を行った。
【0094】
実施例1~21、比較例1~6で得られた水性分散体の評価結果を表3に示す。
【表3】
【0095】
実施例1~21のように、本発明の水性分散体は、高温環境下で長期間保管した場合のブツの発生やゲル化が抑制され、長期間の保存安定性に優れるものであった。
また、実施例2、3、6、15または16のように水性分散時の塩基性化合物の混合量を変えたり、実施例4または5のように、初期の混合と、昇温後に追加で混合するときの、塩基性化合物量の比率を変えたり、実施例17または18のように昇温温度を変えたりしても、本発明の水性分散体を得ることが可能であった。
さらにまた、実施例7のように用いる塩基性化合物の種類を変更したり、実施例8のように、初期の混合と、昇温後に追加で混合するときとで、塩基性化合物の種類を変更したりしても、本発明の水性分散体を得ることが可能であった。
さらにまた、実施例10~14または19~21のように用いるポリオレフィン樹脂の種類を変更しても、本発明の水性分散体を得ることが可能であった。
【0096】
比較例1では、水性分散時における塩基性化合物を、原料の投入時にのみ用いた。得られた水性分散体においては、レーザー回折法で測定した体積粒度分布において99.9%径が5.0μmを超えた。この水性分散体は、粗大粒子の存在により、経時で粒子の凝集が発生し、高温環境下での長期間の保存安定性に劣る結果となった。
【0097】
比較例2は、水性分散時における塩基性化合物成分の量が少なかったため、ポリオレフィン樹脂の分散が不十分であり、水性分散体を得ることができなかった。
【0098】
比較例3は、水性分散時における塩基性化合物の量が少なかったため、この水性分散体の99.9%径は本発明の範囲であったが、経時でゲル化が発生し、高温環境下での長期間の保存安定性に劣る結果となった。
【0099】
比較例4の水性分散体は、塩基性化合物を昇温後にのみ添加して得たものである。ポリオレフィン樹脂の分散が不十分であり、レーザー回折法で測定した体積粒度分布において99.9%径が5μmを超えた。また、粗大な粒子が経時で凝集し、凝集物が発生したため、高温環境下での長期間の保存安定性に劣る結果となった。
【0100】
比較例5では、不飽和カルボン酸成分の含有量が本発明の規定範囲を上回るポリオレフィン樹脂を用いたものである。この水性分散体は、99.9%径は本発明の範囲であったが、経時でゲル化が発生し、高温環境下での長期間の保存安定性に劣る結果となった。
【0101】
比較例6では、不飽和カルボン酸成分の含有量が本発明の規定範囲を下回るポリオレフィン樹脂を用いたものである。ポリオレフィン樹脂が溶媒によって膨潤するのみで分散せず、水性分散体を得ることができなかった。