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特開2023-119620不活化処理方法、不活化処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119620
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】不活化処理方法、不活化処理システム
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/10 20060101AFI20230822BHJP
   A61L 2/238 20060101ALI20230822BHJP
   A61L 2/232 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
A61L2/10
A61L2/238
A61L2/232
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022561
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA23
4C058BB06
4C058BB07
4C058DD01
4C058DD03
4C058DD16
4C058JJ04
4C058KK02
(57)【要約】
【課題】人体に対する影響が極めて少ない紫外光を用いて、より確実に所望の不活化効果が得られる不活化処理方法及び不活化処理システムを提供する。
【解決手段】区画された空間内において菌又はウイルスを不活化処理する方法であって、少なくとも抗菌性又は抗ウイルス性のいずれか一方を示す特定物質が存在する空間の内壁面、床面、又は空間内に配置された物体の表面に対して、波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を照射する工程を含む。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画された空間内において菌又はウイルスを不活化処理する方法であって、
少なくとも抗菌性又は抗ウイルス性のいずれか一方を示す特定物質が存在する前記空間の内壁面、床面、又は前記空間内に配置された物体の表面に対して、波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を照射する工程(A)を含むことを特徴とする菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項2】
前記工程(A)は、前記紫外光が照射されている状態の前記空間内の内壁面、床面、又は処理対象の物体の表面に対して、前記特定物質を定着させることで実行されることを特徴とする請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項3】
前記工程(A)は、前記空間内の内壁面、床面、又は処理対象の物体の表面に前記特定物質を定着させた後、前記特定物質が定着した領域に対して前記紫外光を照射することで実行されることを特徴とする請求項1に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項4】
前記特定物質が無機系化合物によって担持されている無機系抗菌剤を前記空間内の壁面、床面、又は処理対象の物体の表面に付着させることで、前記特定物質を当該物体の表面に定着させることを特徴とする請求項2又は3に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項5】
前記無機系抗菌剤に含まれる前記特定物質は、銀、銅、亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、鉛、鉄、カルシウム、ナトリウム、アルミニウム及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成されていることを特徴とする請求項4に記載の菌又はウイルスの不活化処理方法。
【請求項6】
区画された空間内において、処理対象となる物体の菌又はウイルスの不活化処理を行うシステムであって、
前記物体の表面上に形成された、少なくとも抗菌性又は抗ウイルス性のいずれか一方を示す特定物質を含む抗菌層と、
前記物体の前記抗菌層に向かって波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を照射するように、前記空間内の天井又は壁面に設置された光源装置とを備えることを特徴とする菌又はウイルスの不活化処理システム。
【請求項7】
前記光源装置と前記抗菌層との間に人が存在するか否かを検知する人検知部と、
前記光源装置の光出射方向を変更する駆動部と、
前記人検知部から出力される人検知信号に基づいて、前記駆動部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記人検知部が人の存在を検知すると、前記光源装置が前記物体とは異なる方向に向かって前記紫外光を出射するように前記駆動部を制御することを特徴とする請求項6に記載の菌又はウイルスの不活化処理システム。
【請求項8】
前記光源装置と前記抗菌層との間に人が存在するか否かを検知する人検知部と、
前記人検知部から出力される人検知信号に基づいて、前記光源装置から出射される前記紫外光の強度を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記人検知部が人の存在を検知すると、出射する前記紫外光の光強度を低下させる、又は消灯させるように前記光源装置を制御することを特徴とする請求項6に記載の菌又はウイルスの不活化処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活化処理方法及び不活化処理システムに関し、特に、区画された空間内における不活化処理方法及び不活化処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空間中又は物体表面に存在する菌(細菌や真菌等)やウイルスは、人や人以外の動物に対して感染症を引き起こすことがあり、感染症の拡大によって生活が脅かされることが懸念される。特に、医療施設、学校又は役所等の頻繁に人が集まる施設や、自動車、電車、バス、飛行機、又は船等の乗物においては、感染症が蔓延しやすいことから、菌やウイルス(以下、「菌等」と総称することがある。)を不活化させる有効な手段が必要とされている。
【0003】
従来、菌等の不活化を行う方法として、紫外光を照射する方法が知られている。DNAは、波長260nm付近に最も高い吸収特性を示す。そして、低圧水銀ランプは、波長254nm付近に高い発光スペクトルを示す。このため、低圧水銀ランプを用いて殺菌を行う技術が広く利用されている。
【0004】
しかし、この波長帯の紫外光は、人間に照射されると人体に影響を及ぼすリスクがあることが知られている。皮膚は、表面に近い部分から表皮、真皮、その深部の皮下組織の3つの部分に分けられ、表皮は、更に表面に近い部分から順に、角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4層に分けられる。波長254nmの紫外光が人体に照射されると、角質層を透過して、顆粒層や有棘層、場合によっては基底層に達し、これらの層内に存在する細胞のDNAに吸収される。この結果、皮膚がんのリスクが発生する。よって、このような波長帯の紫外光は、人が存在し得る場所で積極的に利用することは難しい。
【0005】
下記特許文献1には、波長240nm以上の紫外光は人体に対して有害であること、及び、波長240nm未満の紫外光は波長240nm以上の紫外光と比べて人体への影響度が抑制されることが記載されている。また、具体的に、波長207nm及び222nmの照射実験の結果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-220684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、建物内の部屋、乗物、通路といった人が存在する可能性のある空間に対して、波長240nm未満の紫外光を用いて、菌やウイルスの不活化処理を行うことにつき、鋭意検討を行った。
【0008】
本発明者は、当該検討のために波長240nm未満の紫外光による不活化処理効果を確認していたところ、波長が254nm付近の紫外光では期待する不活化効果が得られる場合であっても、波長が222nmの紫外光では不活化効果が大幅に低下してしまう場合があることに気が付いた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、人体に対する影響が極めて少ない紫外光を用いて、より確実に所望の不活化効果が得られる不活化処理方法及び不活化処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の不活化処理方法は、
区画された空間内において菌又はウイルスを不活化処理する方法であって、
少なくとも抗菌性又は抗ウイルス性のいずれか一方を示す特定物質が存在する前記空間の内壁面、床面、又は前記空間内に配置された物体の表面に対して、波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を照射する工程(A)を含むことを特徴とする。
【0011】
本明細書において、「抗菌性」とは菌に接触して取り込まれることで菌の増殖機能を阻害する特性を示す物質であり、「抗ウイルス性」とはウイルスに接触することでウイルスを不活化する特性を示す物質である。
【0012】
波長が100nm~280nmの範囲内に属する紫外光(「深紫外光」や「UV-C」とも称される。)は、物体表面に付着した汚れ、空気中に存在する酸素等によって吸収されやすい。この特徴は、当該波長範囲において、波長が短い紫外光ほど顕著となる。
【0013】
処理対象の物体表面に汚れが付着していた場合、人体に与える影響が極めて少ない、波長が240nm未満の紫外光は、物体に付着している汚れに吸収されてしまい、照射対象となる物体の表面上に存在する菌等に到達し難い。このため、波長が240nm未満の紫外光を用いた不活化処理では、処理対象の物体に十分高い照度で紫外光を照射したとしても、物体表面上の一部の菌等に対して、不活化処理のために必要な照度で紫外光が照射されない場合が生じる。
【0014】
なお、波長が240nmより長波長側の紫外光は、波長が240nm未満の紫外光と比べて、汚れに含まれるたんぱく質や皮脂によって吸収され難いため、比較的汚れの影響を受け難い。
【0015】
ここで、波長が240nm未満の紫外光によって期待される不活化処理効果を得るため、処理対象の物体に対してより高い照度で紫外光を照射することが考えられる。しかしながら、いくら人体に対する影響が極めて小さい紫外光であったとしても、高い照度で長時間にわたって照射されることは、安全面の観点で望ましいとはいえない。
【0016】
実際に、本願出願日の時点では、人体に対して1日(8時間)あたりの紫外光の照射量に関して、ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists:米国産業衛生専門家会議)やJIS Z 8812(有害紫外放射の測定方法)等によって、波長ごとの許容限界値(TLV:Threshold Limit Value)が定められている。つまり、人間が存在する環境下で紫外光が利用される場合には、所定の時間内に照射される紫外光の積算照射量が許容限界値以内となるように、光源部の放射強度や点灯時間を決定することが推奨されている。したがって、特に人が存在する可能性がある空間に配置されている処理対象物に対して紫外光を照射する場合、単純に照射する紫外光の照度を高くすることは難しい。
【0017】
なお、処理対象の物体表面に付着している汚れを予め拭き取ってから紫外光の照射を実施することも考えられる。しかしながら、このような方法は、常に作業者による清掃作業を要してしまうため、非効率的であり、拭き残しや清掃ムラによって部分的に不活化処理されない領域が生じる可能性がある。
【0018】
なお、波長が190nm未満の紫外光は、大気中に存在する酸素分子が光分解されて、活性度の高い酸素原子(「原子状酸素」とも称される。)を生成し、酸素分子と酸素原子との結合反応によってオゾンを生成させてしまう。そのため、波長が190nm未満の紫外光を大気中に照射することは望ましくないという事情が存在する。
【0019】
そこで、本発明者は、安全性を確保しつつ、処理対象の物体の表面を十分に不活化処理する方法として、波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光と、少なくとも抗菌性又は抗ウイルス性のいずれか一方を示す特定物質とを組み合わせた不活化処理方法を検討した。
【0020】
本発明者は、上記検討のために、汚れが付着した物体表面における不活化処理効果を確認する検証実験を行ったところ、特定物質による不活化処理効果と、紫外光による不活化処理効果との単なる足し合わせにはとどまらず、より高い効果を確認した。当該検証についての詳細は、「発明を実施するための形態」の項目において詳述されるが、上記結果が得られた要因について、本発明者は、特定物質が紫外光により活性化し、紫外光が照射されていない状態と比べてより高い不活化処理効果を発揮したものと推察している。
【0021】
上記不活化処理方法によれば、人体に対する影響が極めて小さい紫外光を用いて、物体表面における照度を不必要に高めることなく、表面に汚れが付着した状態の物体を不活化処理することができる。また、当該方法によれば、物体の表面のみならず、人が触れる可能性があり、汚れが付着する空間の内壁面や床面についても同様に、不活化処理することができる。
【0022】
上記不活化処理方法において、
前記工程(A)は、前記紫外光が照射されている状態の前記空間内の内壁面、床面、又は処理対象の物体の表面に対して、前記特定物質を定着させることで実行される工程であっても構わない。
【0023】
また、上記不活化処理方法において、
前記工程(A)は、前記空間内の内壁面、床面、又は処理対象の物体の表面に前記特定物質を定着させた後、前記特定物質が定着した領域に対して前記紫外光を照射することで実行される工程であっても構わない。
【0024】
特定物質を定着させる方法は、スプレーによる散布や、刷毛による塗布といった液状の材料を物体表面に定着させる方法、フィルム材を貼り付けることで物体表面に定着する方法等が考えられる。
【0025】
上記不活化処理方法は、
前記特定物質が無機系化合物によって担持されている無機系抗菌剤を前記空間内の壁面、床面、又は処理対象の物体の表面に付着させることで、前記特定物質を当該物体の表面に定着させる方法であっても構わない。
【0026】
さらに、上記不活化処理方法において、
前記無機系抗菌剤に含まれる前記特定物質は、銀、銅、亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、鉛、鉄、カルシウム、ナトリウム、アルミニウム及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成される物質であっても構わない。
【0027】
抗菌剤とは、特定物質を物体表面に導入するための部材であって、一般的に有機系抗菌剤と無機系抗菌剤とに分類される。そして、有機系抗菌剤はさらに、大まかにアルコール系やフェノール系等の合成系抗菌剤と、ワサビやお茶等の天然材料による天然系抗菌剤とに分類される。有機系抗菌剤は、無機系抗菌剤と比べて、有効期間は短いが、菌等に対する即効性が高いという特徴がある。
【0028】
無機系抗菌剤は、主に無機系化合物に担持される金属材料に由来した金属イオンによる抗菌性を利用した抗菌剤である。無機系抗菌剤は、有機系抗菌剤と比べて、抗菌効果の発現が遅いが、効果が半永久的に持続するという特徴がある。
【0029】
紫外光の照射による不活化処理は、人が部屋を退出した後、処理対象の物体に触れた後、又は所定の時間帯等において、数分から数時間にわたって実施される場合が多い。このため、本発明の不活化処理方法において抗菌剤を用いる場合は、有機系抗菌剤よりも、半永久的に効果が持続する無機系抗菌剤を採用することが好ましい。
【0030】
なお、抗菌性が高い金属イオンとしては、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン等が知られている。人に対する安全性や、抗菌性を考慮すると、これらの金属イオンの中でも銀イオンが特に好ましい。このため、特定物質は、銀、銅、亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、鉛、鉄、カルシウム、アルミニウム及びマンガンからなる群より選択される少なくとも一つの金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成される物質であることが好ましく、これらの中でも銀、銅、亜鉛のうちのいずれかの金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成される物質であることがより好ましく、銀の金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成される物質であることが特に好ましい。
【0031】
本発明の不活化処理システムは、
区画された空間内において、処理対象となる物体の菌又はウイルスの不活化処理を行うシステムであって、
前記物体の表面上に形成された、少なくとも抗菌性又は抗ウイルス性のいずれか一方を示す特定物質を含む抗菌層と、
前記物体の前記抗菌層に向かって波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を照射するように、前記空間内の天井又は壁面に設置された光源装置とを備えることを特徴とする。
【0032】
上記不活化処理システムは、
前記光源装置と前記抗菌層との間に人、又は人の一部が存在するか否かを検知する人検知部と、
前記光源装置の光出射方向を変更する駆動部と、
前記人検知部から出力される人検知信号に基づいて、前記駆動部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記人検知部が人の存在を検知すると、前記光源装置が前記物体とは異なる方向に向かって前記紫外光を出射するように前記駆動部を制御するように構成されていても構わない。
【0033】
上記不活化処理システムは、
前記光源装置と前記抗菌層との間に人が存在するか否かを検知する人検知部と、
前記人検知部から出力される人検知信号に基づいて、前記光源装置から出射される前記紫外光の強度を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記人検知部が人の存在を検知すると、出射する前記紫外光の光強度を低下させる、又は消灯させるように前記光源装置を制御するように構成されていても構わない。
【0034】
上述したように、波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光は、人体に対する影響が極めて小さいとはいえ、人に対する照射に関し、許容限界値が定められている。このため、光源装置と抗菌層との間に人が存在する場合は、抗菌層とは別の方向に紫外光を出射することや、人が照射範囲に存在する場合には、出射する紫外光の強度を低下、又は停止することが好ましい。なお、本明細書において、「光源装置と抗菌層との間に人が存在するか否かを検知する」とは、光源装置と抗菌層との間に、人の頭や手のみなど、一部分のみが存在する場合をも含む意図で用いられる。
【0035】
そこで、上記構成とすることで、不活化処理システムは、規定されている許容限界値を遵守するように、人に対する紫外光の照射をできる限り抑制することができ、安全性が向上される。
【0036】
なお、本発明の対象製品は、人や動物の皮膚や目に紅斑や角膜炎を起こすことはなく、紫外光本来の殺菌、ウイルスの不活化能力を提供することができる。特に、従来の紫外光源とは異なり、有人環境で使用できるという特徴を生かし、屋内外の有人環境に設置することで、環境全体を照射することができ、空気と環境内設置部材表面のウイルス抑制・除菌を提供することができる。
【0037】
このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢の全ての人々が健康的な生活を確保し、福祉を促進する」に対応し、また、ターゲット3.3「2030年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶すると共に、肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する」に大きく貢献するものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、人体に対する影響が極めて少ない紫外光を用いて、より確実に所望の不活化効果が得られる不活化処理方法及び不活化処理システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1A】不活化処理システムの一実施態様を模式的に示す図面である。
図1B図1Aのテーブル及び椅子を上方から見たときの図面である。
図2図1Aに示す光源装置近傍の拡大図面である。
図3A】人感センサがテーブルの周辺に人の存在を検知した状態を示す図面である。
図3B図3Aのテーブル及び椅子を上方から見たときの図面である。
図4】紫外光の積算照度ごとの菌の生存率をプロットしたグラフである。
図5】不活化処理システムの一実施態様を模式的に示す図面である。
図6】不活化処理システムの一実施態様を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の不活化処理方法及び不活化処理システムについて、図面を参照して説明する。なお、不活化処理システムに関して、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0041】
[不活化処理システム]
図1Aは、不活化処理システム1の一実施態様を模式的に示す図面であり、図1Bは、図1Aのテーブル3及び椅子4を上方から見たときの図面である。不活化処理システム1の本実施形態は、図1Aに示すように、空間2内の天井2aに固定された光源装置10が、空間2内に配置された処理対象物であるテーブル3の上面部3aと、椅子4の着座面4aとを不活化処理するように構成されている。なお、光源装置10は、空間2内の内壁面等、天井以外の場所に固定されていてもよく、空間2内の任意の位置に対して着脱可能に構成されていても構わない。
【0042】
テーブル3の上面部3aと、椅子4の着座面4aは、無機系化合物であるゼオライトによって抗菌性及び抗ウイルス性を示す特定物質である銀が担持されている、シート状の無機系抗菌剤が貼り付けられて、抗菌層が形成されている。抗菌層は、図1Bにおいて、ハッチングによって図示されている。なお、テーブル3の上面部3a及び椅子4の着座面4aに、少なくとも抗菌性又は抗ウイルス性のいずれか一方を示す特定物質(以下、単に「特定物質」という。)を導入する際に用いられる抗菌剤は、有機系抗菌剤であっても構わない。また、テーブル3の天板や椅子4の着座面4aを構成する部材が銀製である場合など、すでに上面部3aや着座面4aに特定物質に相当する物質が存在する場合は、抗菌剤を用いて追加的に特定物質を定着させなくてもよい。
【0043】
図2は、図1Aに示す光源装置10近傍の拡大図面である。図2に示すように、光源装置10は、エキシマランプ20と、筐体21と、電源部22と、駆動部23と、人感センサ24、制御部25とを備える。なお、図2においては、説明の都合上、筐体21又は固定部26の内側に搭載されているエキシマランプ20、電源部22、人感センサ24、及び制御部25が図示されている。また、電源部22と制御部25は、光源装置10に備えられていることを示す目的で、模式的に図示されている。
【0044】
エキシマランプ20は、図2に示すように、発光管20aと、発光管20aの管軸方向に沿って離間して配置されて発光管20aが載置される、電圧が印加される一対の電極(20b,20b)とを備える紫外光源である。発光管20aは、内側にクリプトン(Kr)と塩素(Cl)とを含む発光ガスが封入されており、一対の電極(20b,20b)間に電圧が印加されると、内側で放電が発生してピーク波長が222nm近傍の紫外光を放射する。「近傍」と記載したのは、封入ガスの分圧や、利用に伴う経時的な変化によって、ピーク波長に±2nmの個体差が生じる可能性を許容する意図である。
【0045】
なお、本実施形態におけるエキシマランプ20の構成は、例えば、一重管形状や二重管形状と称される構成であってもよく、管軸に直交する面で切断した時の断面形状が矩形状を呈する扁平管形状と称される構成であっても構わない。
【0046】
また、エキシマランプ20は、波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を放射できる構成であればよく、例えば、発光管20a内にクリプトン(Kr)と臭素(Br)とを含む発光ガスが封入された、ピーク波長が207nm近傍の紫外光を出射するエキシマランプであっても構わない。また、光源装置10に搭載される紫外光源は、上記波長範囲に属する紫外光を出射できる光源であれば、LED等であっても構わない。
【0047】
本実施形態におけるエキシマランプ20は、テーブル3の上面部3aにおいて照度が10μW/cm2となるように、制御部25によって点灯制御されている。なお、テーブル3の上面部3a及び椅子4の着座面4aを不活化処理できると共に、万が一、人に対して紫外光が照射されてしまった場合においても、上述した許容限界値を超えることなく安全性が確保されるように、テーブル3の上面部3a、又は椅子4の着座面4aにおける紫外光の照度は、5μW/cm2以下に制御されることが好ましく、1μW/cm2以下に制御されることがより好ましい。
【0048】
筐体21は、エキシマランプ20を内側に収容する部材であって、図2に示すように、エキシマランプ20から出射された紫外光を外側に取り出すための透光窓21aが形成されている。透光窓21aを構成する材料は、例えば、石英ガラスである。
【0049】
図示されてはいないが、本実施形態における透光窓21aは、波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光の少なくとも一部を透過し、波長が240nm以上の紫外光を透過しない光学フィルタが形成されている。なお、エキシマランプ20が、出射する紫外光のうちの、波長240nm以上の光強度が極めて低く、人体への影響が懸念されないような場合は、光学フィルタ等の光学部材が形成されていない構成であってもよく、透光窓21aが単なる開口であってもよい。
【0050】
電源部22は、エキシマランプ20の一対の電極(20b,20b)と電気的に接続されて、電極(20b,20b)間に印加する交流電圧を生成する電気回路である。
【0051】
駆動部23は、図2に示すように、光源装置10を天井2aに固定する固定部26と、筐体21とを連結する部材であって、制御部25から出力される駆動信号s2に基づいて、筐体21の透光窓21aの向き、すなわち、光源装置10の光出射方向を変更する。
【0052】
本実施形態における人感センサ24は、赤外線センサであって、検知領域に光源装置10と、テーブル3及び椅子4との間の空間が含まれるように筐体21に搭載されており、「人検知部」に対応する(図1A参照)。人感センサ24は、図2に示すように、光源装置10と、椅子4の着座面4a上に形成された抗菌層との間に人が存在することを検知すると、制御部25に対して人検知信号s1を出力する。
【0053】
なお、人感センサ24は、図2に示すように、光源装置10の固定部26に搭載されているが、筐体21に設けられていてもよく、光源装置10とは別体として、空間2内の天井2aや内壁面2b等に配置されていても構わない。なお、人検知部としては、赤外線センサや距離センサ等の人感センサ24の他に、例えば、顔認証機能付きのカメラ等を採用しても構わない。
【0054】
制御部25は、椅子4から人が離れ、人感センサ24から人検知信号s1が出力されなくなると、光源装置10がテーブル3の上面部3a及び椅子4の着座面4aに向かって紫外光を出射するように、駆動部23に対して駆動信号s2を出力する。図3Aは、人感センサ24が人の存在を検知している状態を示す図面である。図3Bは、図3Aのテーブル3及び椅子4を上方から、すなわち、光源装置10から見たときの図面である。
【0055】
本実施形態においては、図3A及び図3Bに示すように、人感センサ24が光源装置10と、テーブル3の上面部3a、又は椅子4の着座面4aとの間に人が存在することを検知すると、光源装置10は、テーブル3の上面部3a及び椅子4の着座面4aに形成された抗菌層(図3Bにおいてハッチングされた領域)とは異なる方向に向かって紫外光を照射するように動作する。
【0056】
なお、光源装置10は、人感センサ24が光源装置10とテーブル3の上面部3a、又は椅子4の着座面4aとの間に人が存在することを検知した場合、例えば、紫外光の照射領域を狭めるような制御によって、人に対する紫外光の照射をできる限り回避する構成であってもよい。
【0057】
また、制御部25は、筐体21内に搭載されたCPUやMPU、光源装置10と有線又は無線で接続された外部機器であるスマートフォン、タブレット、PC等であっても構わない。
【0058】
本実施形態の不活化処理システム1は、上述した構成と制御により、光源装置10と抗菌層との間に人が存在しない状態の下で、特定物質が定着されたテーブル3の上面部3aや、椅子4の着座面4aに波長が222nmの紫外光を照射して、不活化処理を行う。
【0059】
[検証実験]
ここで、特定物質及び汚れが存在する物体表面に対して波長が190nm以上240nm未満の範囲内に属する紫外光を照射することによる不活化処理効果を確認する検証実験を行ったので、その詳細について説明する。
【0060】
(実施例1)
実施例1は、ステンレス鋼製の板材(以下、「SUS板」と称する。)の表面に、抗菌シートを貼付し、汚れモデルとなる溶液を滴下して清浄状態を形成した後、SUS板の当該主面に波長が222nmの紫外光を照射した。具体的には、紫外光の照度を0.1mW/cm2とし、照射時間を変更することで、後述する積算照度(積算光量)を調整した。抗菌シートは、特定物質として銀が含まれる東リ社製のクッションフロア(CFシート CF9469)を使用した。
【0061】
(比較例1)
比較例1は、抗菌シートを貼付していない点を除いて、実施例1と同様である。
【0062】
(参考例1)
参考例1は、汚れモデルとなる溶液を滴下せず、無負荷状態で紫外光を照射する点を除いて、実施例1と同様である。
【0063】
(参考例2)
参考例2は、抗菌シートを貼付していない点、及び汚れモデルとなる溶液を滴下せず、無負荷状態で紫外光を照射した点を除いて、実施例1と同様である。
【0064】
(検証方法)
本検証は、黄色ブドウ球菌を対象として行われた。殺細菌活性を評価する基本的な試験法であるEN試験法では、対象領域に想定される汚染度を示す状態として、清浄状態が規定されている。清浄状態は、汚染状態を模擬するために負荷物質を加えた状態に対応する。本検証は、この清浄状態と、負荷物質を全く加えていない無負荷状態(理想状態)とで、黄色ブドウ球菌の積算照度ごとの生存率が確認された。
【0065】
清浄状態のサンプルとしては、モデル汚れとして、タンパク質(BSA:Bovine serum albumin、ウシ血清アルブミン)を黄色ブドウ球菌液に添加し、SUS板に滴下したものが用いられた。清浄状態のサンプルの作製に利用されたBSAの量は、0.3質量%、黄色ブドウ球菌の量は、SUS板一枚あたり1,385,000CFUとした。なお、CFUはコロニー形成単位(Colony forming unit)を意味する。
【0066】
(結果)
図4は、本検証における、紫外光の積算照度ごとの菌の生存率をプロットしたグラフであり、縦軸が生存率を対数表示で示す軸であり、横軸がSUS板における積算照度を示す軸である。図4に示すグラフには、それぞれのプロットにおける近似曲線と、当該近似曲線の式が表示されている。
【0067】
まず、実施例1及び参考例1は、図4に示すように、抗菌シートの不活化効果により、積算照度が0mJ/cm2であっても、比較例1及び参考例2よりも不活化処理が進んでいる(切片が0から大きく離れている)結果となっている。
【0068】
図4に示すグラフによれば、SUS板の表面に抗菌シートが貼付された実施例1は、抗菌シートが貼付されていない比較例1に比べて、グラフの傾きが約2.6倍大きいことが確認される。このことは、実施例1の方が、比較例1と比べて、同じ照射条件で紫外光を照射した場合であっても、殺菌効果が高いことを意味する。
【0069】
同様に、SUS板の表面に抗菌シートが貼付された参考例1は、抗菌シートが貼付されていない参考例2に比べて、グラフの傾きが約3.0倍大きいことが確認される。
【0070】
実施例1及び参考例1が、比較例1及び参考例2よりも高い不活化処理効果を示した理由は、抗菌シートに含まれる銀由来の銀イオンに紫外光が照射されることによって銀イオンが励起され、黄色ブドウ球菌に対してより高い抗菌性を示したためと推察される。
【0071】
また、実施例1及び参考例1の結果によれば、処理対象物の表面上に特定物質が存在することにより、紫外光の照射によらず(積算照度が0mJ/cm2において)生存率が約-2Log(約1/100)となっている。これは、抗菌シートによる不活化処理効果といえる。
【0072】
つまり、特定物質が存在する物体表面に紫外光を照射することは、特定物質による不活化処理効果と、紫外光による特定物質である銀由来の銀イオンの励起によって、従来よりも高い不活化処理効果が得られることが確認される。
【0073】
なお、特定物質として銀が含まれる抗菌シートに対して紫外光が照射されることによって不活化処理の効果が向上した上記の理由に鑑みれば、抗菌シートは、銅イオンや亜鉛イオン等の金属イオンを含む抗菌シート(抗菌剤)であっても、同様に紫外光の照射によって不活化処理効果が向上すると推察される。
【0074】
したがって、特定物質としては、抗菌性や抗ウイルス性を示す物質であれば任意であるが、具体的には、銀、銅、亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、鉛、鉄、カルシウム、ナトリウム、アルミニウム及びマンガンからなる群より選択される少なくとも1つの金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成される物質であることがより好ましく、これらの中でも、銀、銅、亜鉛のうちのいずれかの金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成される物質であることがより好ましく、銀の金属成分を含む、金属イオン又は金属化合物で構成される物質であることが特に好ましい。
【0075】
以上より、上記構成の不活化処理システム1によれば、人体に対する影響が極めて小さい紫外光を用いて、物体表面における照度を不必要に向上させることなく、表面に汚れが付着した状態の物体を不活化処理することができる。
【0076】
また、上記構成の不活化処理システム1は、人感センサ24が光源装置10と抗菌層との間に人の存在を検知すると、抗菌層が形成されている領域とは異なる領域に向かって紫外光を出射するように方向が変更されるため、人に対する紫外光の照射が抑制されて、安全性がより向上される。
【0077】
なお、不活化処理システム1は、人感センサ24が光源装置10と、テーブル3の上面部3a、又は椅子4の着座面4aとの間に人が存在することを検知した場合、制御部25が電源部22に対して制御信号を出力し、エキシマランプ20の電極(20b,20b)に印加する電圧を低下、又は停止させて、出射される紫外光の強度を低下、又は停止させるように構成されていても構わない。当該構成によっても、人に対して、紫外光が不活化処理に必要な高い照度で照射されなくなるため、より高い安全性が実現される。
【0078】
ただし、例えば、不活化処理システム1がタイマーを備え、人の往来がほとんどない夜間にのみ紫外光照射を実施するように構成されている場合等は、人に対して高い照度の紫外光を照射してしまうおそれが少ないため、人感センサ24を備えない構成としても構わない。
【0079】
図5及び図6は、図1Aとは別の不活化処理システム1の一実施態様を模式的に示す図面である。不活化処理システム1は、図5に示すように、光源装置10が空間2内の抗菌層(不図示)が形成された内壁面2bに向かって紫外光を出射するように構成されていても構わない。なお、不活化処理する対象は、内壁面2bではなく、床面2cであっても構わない。
【0080】
また、不活化処理システム1は、図6に示すように、内壁面2bに設置されて人が頻繁に触れる(例えば、エアコン等の)操作パネル60の操作面60aを不活化処理するように構成されていても構わない。なお、エレベータのボタンや、ドアノブ等が不活化処理対象であってもよく、いずれの場合であっても、表面上に特定物質が存在しない場合は紫外光が照射される表面上に特定物質を定着させる工程が実施される。
【0081】
さらに、不活化処理システム1の本実施形態では、予め抗菌層が形成されたテーブル3の上面部3aや、椅子4の着座面4aに対して紫外光を照射するように構成されているが、紫外光が照射されている状態の物体表面や空間2の内壁面2b、床面2c等に対して、特定物質を定着させて不活化処理効果を向上させるように構成しても構わない。
【0082】
上述した不活化処理システム1が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0083】
1 : 不活化処理システム
2 : 空間
2a : 天井
2b : 内壁面
2c : 床面
3 : テーブル
3a : 上面部
4 : 椅子
4a : 着座面
20 : エキシマランプ
20a : 発光管
20b : 電極
21 : 筐体
21a : 透光窓
22 : 電源部
23 : 駆動部
24 : 人感センサ
25 : 制御部
26 : 固定部
60 : 操作パネル
60a : 操作面
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6