(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119672
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】パラメトリックスピーカシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20230822BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/40 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022653
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴行
【テーマコード(参考)】
5D018
5D220
【Fターム(参考)】
5D018AF01
5D018AF22
5D220AA16
5D220AA44
5D220AB02
5D220AB06
(57)【要約】
【課題】可聴領域における差周波数のノイズ音の発生を低減したパラメトリックスピーカシステムを提供する。
【解決手段】超音波域の搬送波を目標点Fに向かって放射する第1スピーカ50であって、第1配置領域51に配列した複数の第1超音波振動子70を有する第1スピーカと、搬送波を可聴域の信号波で振幅変調して生成される側帯波を放射する複数の第2スピーカ60であって、第2配置領域61に複数の第2超音波振動子70をそれぞれ配列した複数の第2スピーカと、を備え、複数の第2スピーカの各々から放射される側帯波は、目標点と第1スピーカとを結ぶ第1基準線CL1上の配置点CPを中心とする配置円54上に配置されている複数の放射領域の各々から目標点に向かって放射される、パラメトリックスピーカシステム100。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波域の搬送波を目標点(F)に向かって放射する第1スピーカ(50)であって、第1配置領域(51)に配列した複数の第1超音波振動子(70)を有する第1スピーカと、
前記搬送波を可聴域の信号波で振幅変調して生成される側帯波を放射する複数の第2スピーカ(60)であって、第2配置領域(61)に複数の第2超音波振動子(70)をそれぞれ配列した複数の第2スピーカと、を備え、
前記複数の第2スピーカの各々から放射される前記側帯波は、前記目標点と前記第1スピーカとを結ぶ第1基準線(CL1)上の配置点(CP)を中心とする配置円(54)上に配置されている複数の放射領域の各々から前記目標点に向かって放射される、パラメトリックスピーカシステム(100,2100,3100,4100)。
【請求項2】
請求項1に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、
前記搬送波の音圧は、前記側帯波の音圧よりも大きい、パラメトリックスピーカシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、
前記第1基準線と、前記目標点と前記複数の放射領域とを結ぶ第2基準線とのなす角は、45度以下である、パラメトリックスピーカシステム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、
前記目標点は、前記第1スピーカのレイリー長の範囲内に設定されている、パラメトリックスピーカシステム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、
前記複数の第2スピーカの各々は、前記配置円上に配置されており、前記複数の放射領域とは、前記複数の第2スピーカが有する複数の放射面である、パラメトリックスピーカシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、
前記第1配置領域の大きさは、前記第2配置領域の大きさよりも大きい、パラメトリックスピーカシステム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、
前記複数の第2スピーカの各々は、向きが変更可能に設けられており、さらに、
前記目標点の位置の変更指示を受け付けると、前記複数の第2スピーカの各々の向きを、変更後の前記目標点に向かって前記側帯波を放射するように変更する角度変更部(103)を備える、パラメトリックスピーカシステム。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか一項に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、さらに、
前記側帯波の放射方向が前記目標点に向かうように、前記複数の第2超音波振動子の各々に入力する前記側帯波の位相を制御する位相制御部(80)を備える、パラメトリックスピーカシステム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のパラメトリックスピーカシステムであって、さらに、
前記搬送波を予め定められた音響で振幅変調して生成される変調波を出力する音響出力部(104)と、
前記変調波を前記目標点に向かって放射する第3スピーカ(90)と、を備え、
前記音響は、300Hz以上3400Hz以下の帯域を複数の帯域に分割した複数の分割帯域の各々に含まれる周波数成分を含む、パラメトリックスピーカシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パラメトリックスピーカシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波域の搬送波を可聴域の信号波で振幅変調した変調波を大きな音圧でスピーカから放射すると、非線形伝搬による歪みにより自己復調し、スピーカから離れた限定された領域で可聴音が生成されるパラメトリックスピーカが知られている。特許文献1には、変調波を放射する第1のスピーカ(超音波拡声手段)と、搬送波を放射する第2のスピーカとを備えるパラメトリックスピーカ(装置)が開示されている。第1のスピーカから放射される変調波の放射領域と、第2のスピーカから放射される搬送波の放射領域とが重なり合う領域にて、可聴音が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
互いに周波数の異なる複数の周波数成分が信号波に含まれている場合においても、音質が良い可聴音を生成することができるパラメトリックスピーカシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、パラメトリックスピーカシステム(100,2100,3100,4100)が提供される。このパラメトリックスピーカシステムは、超音波域の搬送波を目標点(F)に向かって放射する第1スピーカ(50)であって、第1配置領域(51)に配列した複数の第1超音波振動子(70)を有する第1スピーカと、前記搬送波を可聴域の信号波で振幅変調して生成される側帯波を放射する複数の第2スピーカ(60)であって、第2配置領域(61)に複数の第2超音波振動子(70)をそれぞれ配列した複数の第2スピーカと、を備える。前記複数の第2スピーカの各々から放射される前記側帯波は、前記目標点と前記第1スピーカとを結ぶ第1基準線(CL1)上の配置点(CP)を中心とする配置円(53)上に配置されている複数の放射領域の各々から前記目標点に向かって放射される。
【0007】
この形態のパラメトリックスピーカシステムによれば、搬送波を放射する1個の第1スピーカに対して、側帯波を放射する放射領域が、目標点との距離が等距離となるように複数配置されているため、可聴領域における差周波数の音の発生を低減することができる。よって、互いに周波数の異なる複数の周波数成分が信号波に含まれている場合においても、音質が良い可聴音を生成することができるパラメトリックスピーカシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】パラメトリックスピーカシステムのブロック図。
【
図5】第2実施形態に係るパラメトリックスピーカシステムの模式図。
【
図6】第3実施形態に係るパラメトリックスピーカシステムのブロック図。
【
図8】第4実施形態に係るパラメトリックスピーカシステムのブロック図。
【
図9】第3スピーカから放射される音響の周波数分布の一例。
【
図13】第2実験におけるスピーカ部と測定位置とを示す斜視図。
【
図14】第2実験におけるスピーカ部と測定位置とを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1に示すように、パラメトリックスピーカシステム100は、信号入力部101と、スピーカ部102とを備える。スピーカ部102は、第1スピーカ50と、複数の第2スピーカ60とを有する。第1スピーカ50からは、搬送波が
図2に示す目標点Fに向かって放射される。複数の第2スピーカ60からは、搬送波を可聴域の信号波で振幅変調した変調波から生成される側帯波が目標点Fに向かって放射される。第1スピーカ50から放射される搬送波と、第2スピーカ60から放射される側帯波とは、音圧の大きい超音波である。搬送波と側帯波との干渉と非線形伝搬とにより、目標点Fを中心とする
図4に示す可聴領域RAにて可聴音が生成される。これにより、対象者は、可聴領域RAにおいて、搬送波と側帯波との差周波数を有する目的の可聴音を聞くことができる。
【0010】
図1に示すように、信号入力部101は、振幅変調器10と、フィルタ20と、複数の増幅器30とを有する。第1スピーカ50には、増幅器30により電圧が増幅された搬送波が入力される。振幅変調器10は、入力される搬送波を、入力される信号波で振幅変調した変調波をフィルタ20に入力する。フィルタ20は、変調波に含まれる搬送波と上側帯波と下側帯波との周波数成分のうち、上側帯波と下側帯波とのいずれか一方の周波数成分のみを通過させ、各増幅器30に入力する。本実施形態では、上側帯波が各増幅器30に入力される。第2スピーカ60には、増幅器30により電圧が増幅された上側帯波が入力される。片側の側帯波のみを第2スピーカ60から放射させることにより、上側帯波と下側帯波との差周波数の音の発生による目的の可聴音の音質低下を抑制することができる。
【0011】
本実施形態では、振幅変調器10に入力される信号波には、互いに周波数の異なる複数の周波数成分が含まれる。発明者らは、信号波に複数の周波数成分が含まれる場合、可聴領域RAにて、複数の周波数成分同士の差周波数の音が発生するという課題を見出した。例えば、40.3kHzの搬送波を第1スピーカ50から放射させ、40.3kHzの搬送波を1kHzの周波数成分と1.7kHzの周波数成分とを有する信号波で振幅変調して生成される側帯波を第2スピーカ60から放射させた場合、1kHzの可聴音と1.7kHzの目標の可聴音とに加え、1.7kHzと1kHzとの差周波数である0.7kHの可聴音も生成される。さらに、発明者らは、側帯波の音圧を搬送波の音圧に対して大きくするほど、差周波数を有する可聴音の音圧は大きくなることを見出した。差周波数を有する可聴音とは、目的の周波数ではないノイズであり、生成されないことが好ましい。そこで、発明者らは、第1スピーカ50および第2スピーカ60の各々の仕様や配置態様について工夫した。これにより、可聴領域RAにおける差周波数の音の発生を低減することができる。
【0012】
図3に示すように、第1スピーカ50および第2スピーカ60は、それぞれ、複数の超音波振動子70を有する。なお、
図2では、超音波振動子70の図示は省略されている。
図2から
図4には、互いに直交する3つの空間軸であるXYZ軸が描かれている。X軸,Y軸,Z軸の矢印が向いている方向は、それぞれX軸,Y軸,Z軸に沿った正の方向を示している。X軸,Y軸,Z軸に沿った正の方向を、それぞれ+X方向,+Y方向,+Z方向とする。X軸,Y軸,Z軸の矢印が向いている方向と逆の方向が、それぞれX軸,Y軸,Z軸に沿った負の方向である。X軸,Y軸,Z軸に沿った負の方向を、それぞれ-X方向,-Y方向,-Z方向とする。X軸,Y軸,Z軸に沿った方向で正負を問わないものを、それぞれX方向,Y方向,Z方向呼ぶ。これ以降に示す図及び説明についても同様である。
【0013】
超音波振動子70は、円柱形状を有し、円形の放射面から超音波を放射する。第1スピーカ50を構成する複数の超音波振動子70は、正六角形の第1配置領域51に、等間隔で配列されている。第1配置領域51の形状は、配列されている全ての超音波振動子70を内包し、外周の超音波振動子70と接する正六角形である。複数の超音波振動子70は、1個の超音波振動子70を取り囲む6個の超音波振動子70が、正六角形の頂点に位置するように配置されている。また、第1スピーカ50を構成する複数の超音波振動子70は、各々の放射面が略同一平面上に配置されている。
【0014】
第2スピーカ60を構成する複数の超音波振動子70は、長方形の第2配置領域61に、等間隔で配列されている。第2配置領域61の形状は、配列されている全ての超音波振動子70を内包し、外周の超音波振動子70と接する長方形である。複数の超音波振動子70は、1個の超音波振動子70を取り囲む6個の超音波振動子70が、六角形の頂点に位置するように配置されている。第2スピーカ60を構成する複数の超音波振動子70は、各々の放射面が略同一平面上に配置されている。ここで、第1スピーカ50を構成する複数の超音波振動子70の各々の放射面が配置されている仮想面を第1放射面52と称する。
図4に示すように、第2スピーカ60を構成する複数の超音波振動子70の各々の放射面が配置されている仮想面を第2放射面62と称する。第1スピーカ50の第1配置領域51に配列する超音波振動子70を第1超音波振動子ともよぶ。第2スピーカ60の第2配置領域61に配列する超音波振動子70を第2超音波振動子ともよぶ。全ての第1超音波振動子は、互いに同位相の搬送波を放射する。全ての第2超音波振動子は、互いに同位相の側帯波を放射する。
【0015】
図2に示すように、第1スピーカ50および第2スピーカ60のそれぞれは、予め設定された目標点Fに向かって、超音波を放射するように配置されている。具体的に、第1スピーカ50は、第1放射面52の重心CGを通り、第1放射面52と垂直な第1基準線CL1が目標点Fを通るように配置されている。第2スピーカ60は、第2放射面62の重心CGを通り、第2放射面62と垂直な第2基準線CL2が目標点Fを通るように配置されている。なお、目標点Fと第1スピーカ50とを結ぶ第1基準線CL1は、Z方向と平行である。第1放射面52は、XY平面と平行である。第1基準線CL1と、第2基準線CL2とのなす角θは、45度以下である。これにより、搬送波と側帯波とが良好に干渉し、可聴領域RAにおいて、良好な音圧の可聴音を生成することができる。また、複数の第2スピーカ60が、第1基準線CL1に対する角度が互いに異なる側帯波を放射するように配置されているため、可聴領域RAを立体的に形成することができる。よって、対象者がY方向や、Z方向だけでなく、X方向に意図せず動いた場合であっても、生成された可聴音を聞くことができる。
【0016】
本実施形態では、8個の第2スピーカ60が、第1スピーカ50を取り囲んで配置されている。
図3に示すように、8個の第2スピーカ60は、第1基準線CL1上の点である配置点CPを中心とする配置円54上に各第2スピーカ60の第2放射面62の重心CGが位置するように配置されている。本実施形態では、配置点CPを中心とする正八角形の頂点に各第2スピーカ60の第2放射面62の重心CGが位置するように配置されている。8個の第2スピーカ60の各々は、互いに配置点CPを中心とする回転対象である。つまり、第2スピーカ60の各々から放射される側帯波は、配置円54上に配置されている複数の放射領域としての複数の第2放射面62から目標点Fに向かって放射される。このように、搬送波を放射する1個の第1スピーカ50に対して、側帯波を放射する第2スピーカ60を、目標点Fとの距離が等距離となるように複数備えることにより、可聴領域RAにおける差周波数の音の発生を低減することができる。
【0017】
第1スピーカ50から放射される搬送波の音圧は、第2スピーカ60から放射される側帯波の音圧よりも大きい。これにより、可聴領域RAにおける差周波数の音の発生を低減することができる。
【0018】
本実施形態では、
図4に示すように、第2スピーカ60は、第1基準線CL1と平行なZ方向について、第1スピーカ50よりも目標点Fに近い位置に配置されている。第1スピーカ50の第1放射面52の重心CGと目標点Fとの距離は、遠距離場が形成される目安となる距離である第1スピーカ50のレイリー長以下である。これにより、可聴領域RAにおいて、可聴音を良好に生成することができる。発明者らは、実験により、放射面が矩形であるパラメトリックスピーカから変調波を放射させた場合、パラメトリックスピーカの放射面を底面とし、放射面に垂直な方向を高さ方向として描かれる四角柱の内部空間において、少なくとも高さ方向の距離がレイリー長以内の空間では、良好な音圧の可聴音が復調されることを確かめた。なお、変調波とは、具体的には、超音波域の搬送波を可領域の信号波で振幅変調した変調波である。よって、目標点Fの位置を、第1スピーカ50のレイリー長以下の位置に設定することにより、良好な音圧の可聴音を生成することができる。
【0019】
図4の破線で示すように、第1スピーカ50からは、第1放射面52から目標点Fに向かって、搬送波が放射される。第2スピーカ60からは、第2放射面62から目標点Fに向かって、側帯波が放射される。そして、概ね、搬送波が放射される領域と、側帯波が放射される領域とが重なり合う領域である、目標点Fを中心とする可聴領域RAで、搬送波と側帯波との干渉と非線形伝搬による歪みによる自己復調とにより、搬送波と側帯波との差周波数である可聴音が生成される。
【0020】
図3に示すように、第1スピーカ50の大きさは、第2スピーカ60の大きさよりも大きい。具体的には、正六角形である第1配置領域51に外接する第1円53の直径は、長方形である第2配置領域61に外接する第2円63の直径よりも大きい。これにより、可聴領域RAの大きさを第2スピーカ60の大きさにより規定することができる。よって、可聴領域RAを適切に設定することができる。
【0021】
上記のように、可聴領域RAは、搬送波が放射される領域と、側帯波が放射される領域とが重なり合う領域に形成される。このため、目標点Fを通る平面において、側帯波が放射される領域に対して、搬送波が放射される領域が小さい場合には、可聴領域RAの範囲は、側帯波が放射される領域よりも小さくなる。そこで、側帯波が放射される領域に対して、搬送波が放射される領域を大きくすれば、可聴領域RAの範囲は、搬送波が放射される領域により制限されることがないため、側帯波が放射される領域により規定することができる。
【0022】
発明者らは、後述する実験により、可聴領域RAの大きさは、第2スピーカ60の大きさより小さくなることを見出した。そこで、第1スピーカ50の大きさを第2スピーカ60の大きさよりも大きくすることにより、側帯波が放射される領域に対して、搬送波が放射される領域を大きくすることができる。よって、第2スピーカ60の大きさを、目標となる可聴領域RAに側帯波を放射することができる程度の大きさに設定し、さらに、第1スピーカ50の大きさを第2スピーカ60の大きさよりも大きく設定することで、目標の可聴領域RAを生成することができる。
【0023】
以上説明した第1実施形態によれば、パラメトリックスピーカシステム100は、第1スピーカ50と複数の第2スピーカ60とを備える。そして、複数の第2スピーカ60の各々は、第1基準線CL1上の配置点CPを中心とする配置円54上に配置されている。つまり、複数の放射面としての複数の第2放射面62が配置円54上に配置されている。よって、目標点Fを中心とする可聴領域RAにおいて、側帯波に複数の周波数成分が含まれる場合であっても、可聴領域RAにおける差周波数の音の発生を低減することができる。
【0024】
また、第1スピーカ50から放射される搬送波の音圧は、第2スピーカ60から放射される側帯波の音圧よりも大きい。これにより、可聴領域RAにおける差周波数の音の発生を低減することができる。また、第1基準線CL1と、第2基準線CL2とのなす角θは、45度以下である。これにより、可聴領域RAにおいて、良好な音圧の可聴音を生成することができる。また、第1スピーカ50の第1放射面52の重心CGと目標点Fとの距離は、第1スピーカ50のレイリー長以下である。これにより、可聴領域RAにおいて、可聴音を良好に生成することができる。また、第1配置領域51の大きさは、第2配置領域61の大きさよりも大きい。これにより、可聴領域RAの大きさを第2スピーカ60の大きさにより規定することができる。
【0025】
B.第2実施形態:
図5に示す、本実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム2100は、角度変更部103を備える点が、第1実施形態とは異なる。また、本実施形態に係る第2スピーカ60は、第2放射面62の向きが変更可能に、図示しない支持部に対して第2スピーカ60を回転させる回転機構を有している点が、第1実施形態とは異なる。これにより、第2基準線CL2と、第1基準線CL1とのなす角を変更することができる。その他の構成は、第1実施形態と同様であるため、説明は省略する。なお、便宜上、
図5では、8個の第2スピーカ60のうち、第1スピーカ50を通り、X方向に平行な線上に位置する2個の第2スピーカ60のみを示している。
【0026】
角度変更部103は、目標点Fの位置の変更指示を受け付けると、第2スピーカ60から変更後の目標点Fに向かって側帯波が放射されるように、第2スピーカ60の向きを変更する。具体的には、パラメトリックスピーカシステム2100は、目標点Fの位置の変更指示を受け付けるボタンを有している。そして、ボタンの操作を介して、目標点Fの位置の変更指示を受け付ける。例えば、変更後の目標点Fが変更後目標点Faである場合、第2基準線CL2と、第1基準線CL1とのなす角を変更前の角度θiよりも大きい角度θaとなるように、変更する。これにより、目標点Fを中心とする可聴領域RAの位置を自由に変更することができる。
【0027】
以上説明した第2実施形態によれば、パラメトリックスピーカシステム2100は、角度変更部103を備える。角度変更部103は、目標点Fの位置の変更指示を受け付けると、第2スピーカ60の向きを、変更後の目標点Fに向かって側帯波を放射するように変更する。これにより、目標点Fを中心とする可聴領域RAの位置を自由に変更することができる。
【0028】
C.第3実施形態:
図6に示すように、本実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム3100は、信号入力部3101に位相制御部80を備える点が、第1実施形態とは異なる。また、本実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム3100は、
図7に示す、第2スピーカ60の第2放射面62がXY平面と平行に設けられている点が第1実施形態と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0029】
図6に示すように、位相制御部80は、フィルタ20と増幅器30との間に設けられている。位相制御部80は、側帯波の放射方向が目標点Fに向かうように、複数の第2超音波振動子としての第2スピーカ60を構成する複数の超音波振動子70の各々に入力する側帯波の位相を制御する。具体的には、位相制御部80は、第2スピーカ60を構成する超音波振動子70のうち、直線上に並ぶ一列の超音波振動子70について、入力される側帯波の位相を超音波振動子70毎に変更することにより、第2スピーカ60から放射される側帯波の放射方向を操作する。位相制御部80は、位相を変更した側帯波を各増幅器30に入力する。
図7の矢印にて示すように、各第2スピーカ60から放射される側帯波の放射方向は、目標点Fに向かう方向である。これにより、目標点Fを中心とする可聴領域RAに可聴音を生成することができる。
【0030】
以上説明した第3実施形態によれば、パラメトリックスピーカシステム3100は、位相制御部80を備える。位相制御部80は、側帯波の放射方向が目標点Fに向かうように、第2スピーカ60が有する超音波振動子70の各々に入力する側帯波の位相を制御する。これにより、目標とする可聴領域RAの位置に対する第2スピーカ60の向きの自由度を向上させることができる。
【0031】
D.第4実施形態
図8に示す、本実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム4100は、音響出力部104と、変調波を放射する第3スピーカ90とを備える点が、第1実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム100と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0032】
音響出力部104は、搬送波を音響で振幅変調して生成される変調波を増幅器30により増幅して出力する。音響は、300Hz以上3400Hz以下の帯域を複数の帯域に分割した複数の分割帯域DBの各々に含まれる周波数成分を含む。第3スピーカ90には、音響出力部104により出力された変調波が入力され、入力された変調波を目標点Fに向かって放射する。これにより、可聴領域RAでは、自己復調されて音響が生成される。
【0033】
本実施形態における音響は、
図9に例示するように、300Hz以上3400Hz以下の帯域を5つの帯域に分割した分割帯域DBに含まれる周波成分を有する。音響には、複数の周波数成分が含まれる。そして、300Hz以上3400Hz以下の帯域を複数の帯域に分割して得られる複数の分割帯域DBには、音響が有する複数の周波数成分の何れかが含まれる。これにより、可聴領域RAでは、第3スピーカ90から放射される変調波が復調された音響が聞こえる。よって、差周波数の可聴音は、第3スピーカ90から放射される音響によりマスキングされるため、目的の可聴音を聞こえやすくすることができる。
【0034】
音響として、音楽や、ホワイトノイズを用いることができる。可聴領域RAで生成される可聴音が音声である場合には、音声を含まない音楽が好ましい。音声を含まない音楽とすることにより、可聴領域RAで生成される可聴音をより聞き取り易くすることができる。
【0035】
第3スピーカ90から放射される変調波の音圧は、第2スピーカ60から放射される側帯波の音圧よりも小さく、可聴領域RAで生成される音響が対象者に聞こえる程度に大きい。これにより、対象者は、音響に阻害されずに目的の可聴音を聞くことができる。
【0036】
以上、説明した第4実施形態によれば、パラメトリックスピーカシステム4100は、音響出力部104と、音響出力部104から入力された音響を放射する第3スピーカ90とを備える。これにより、音響には、複数の周波数成分が含まれ、複数の周波数成分は、300Hz以上3400Hz以下の帯域の全域に分布するため、目的の可聴音を聞こえ易くすることができる。
【0037】
E.他の実施形態:
(E1)上記第1実施形態では、複数の第2スピーカ60が配置円54上に配置されていることにより、配置円54上に配置されている複数の放射領域から側帯波が目標点Fに向かって放射される。配置円54上に配置されている複数の放射領域から目標点Fに向けて側帯波を放射する構成は、配置円54上に第2スピーカ60を配置する構成に限られない。第2スピーカ60を配置円54とは異なる位置に配置して、第2スピーカ60から放射される側帯波を反射させることにより、配置円54上の放射領域から側帯波を放射させてもよい。具体的には、配置円54上に超音波を反射する反射板を配置して、第2スピーカ60から放射される超音波である側帯波を反射板で目標点Fに向けて反射させてもよい。
【0038】
(E2)上記第1実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム100では、第2スピーカ60は、Z方向について、第1スピーカ50よりも目標点Fに近い位置に配置されている。第2スピーカ60は、Z方向について第1スピーカ50と同じ位置に配置されても良く、第1スピーカ50よりも目標点Fに遠い位置に配置されてもよい。第2スピーカ60のZ方向における配置位置にかかわらず、複数の第2スピーカ60が配置点CPを中心とする配置円54上に配置されていることにより、可聴領域RAにおける差周波数の音の発生を低減することができる。また、第1配置領域51および第2配置領域61の形状は上記に限られない。
【0039】
(E3)上記第1実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム100は、8個の第2スピーカ60を備える。第2スピーカ60の個数は、8個に限られない。また、複数の第2スピーカ60は、配置円54上に等間隔で配置されなくてもよい。少なくとも2個以上の第2スピーカ60が配置円54上に配置されていることにより、可聴領域RAにおける差周波数の音の発生を低減することができる。
【0040】
(E4)上記第3実施形態に係るパラメトリックスピーカシステム3100が備える第2スピーカ60は、第2放射面62がXY平面と平行に配置されている。第2スピーカ60の向きは、XY平面と平行である場合に限られない。第2スピーカ60の向きと、位相制御による操作とを組み合わせることにより、第2スピーカ60から放射される側帯波の放射方向を設定することができる。
【0041】
(E5)上記第1実施形態では、第2スピーカ60からは、両側の側帯波のうち、上側帯波が放射される。第2スピーカ60から放射される側帯波は、上側帯波ではなく下側帯波でもよく、両側の側帯波が放射されてもよい。
【0042】
本開示は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0043】
F.実験例:
F1.第1実験:第2スピーカの個数と音圧:
第1実験では、
図10および
図11に示すように、最大3個の第2スピーカ60を第1スピーカ50の周りに配置した。
図11に示す第1基準線CL1と、第2基準線CL2とのなす角θは30度である。第1スピーカ50の第1放射面52の重心CGから目標点Fまでの距離L1は40cmである。第2スピーカ60の第2放射面62の重心CGから目標点Fまでの距離L2は30cmである。
【0044】
第1スピーカ50に40.3kHzの搬送波を入力した。第2スピーカ60に40.3kHzの搬送波に1kHzの周波数成分と1.7kHzの周波数成分とを含む信号波で振幅変調して生成された上側帯波を入力した。よって、可聴領域RAでは、1kHzの可聴音と1.7kHzの可聴音とが生成される。以降の第2実験から第4実験についても同様である。
【0045】
本実験では、目標点Fにマイクロフォンを配置し、1kHzと1.7kHzの差周波数である0.7kHzのノイズである可聴音の音圧を予め定めた値に設定し、第2スピーカ60の個数を変えて、目的の可聴音である1kHzと1.7kHz可聴音の音圧を測定した。結果を示す
図12の横軸は、第2スピーカ60の個数である。
図12に示されるように、1kHzと1.7kHzとのいずれにおいても、スピーカ数、すなわち第2スピーカ60の個数が増加するにつれて、音圧レベルが上昇した。これにより、第2スピーカ60の個数を増やすことにより、目的の可聴音の音圧に対して、ノイズの音圧を相対的に小さくできることがわかる。
【0046】
F2.第2実験:第2スピーカの大きさと可聴領域:
第2実験では、1つの第2スピーカ60を用いて、第2スピーカ60の大きさと可聴音が生成される可聴領域RAの大きさについて調べた。
図13に示すように、第2スピーカ60は、第2基準線CL2が、第1基準線CL1と直交する向きに配置されている。第2スピーカ60は、長辺がX軸と平行に配置されている。第1スピーカ50の大きさ、具体的には、正八角形である第1配置領域51の外接円の直径L3は15cmである。第2スピーカ60の長辺の長さL4は10cmである。
図14に示す第1放射面52の重心CGと目標点Fとの距離L5は、20cmである。第2放射面62の重心CGと目標点Fとの距離L6は、20cmである。第2基準線CL2と第1基準線CL1とのなす角θは90度である。第1スピーカ50のレイリー長は、約2mである。なお、レイリー長は、スピーカの面積を音波の波長で除して算出される。よって、目標点Fは、第1スピーカ50のレイリー長の範囲内に設定されている。
【0047】
本実験では、目標点Fを通り、X軸に平行な線上にマイクロフォンを配置して測定した。音圧レベルを測定した可聴音の周波数は、1kHzである。結果を示す
図15の横軸は、目標点Fを原点とする+X方向を正方向とする位置である。
図15に示すように、原点と中心とする-2.5cm以上+2.5cm以下の範囲では、40dB以上の音圧レベルが測定された。そして、原点と中心とする-2.5cm以上+2.5cm以下の範囲外となると、音圧レベルは急激に低下した。これにより、原点を中心とする限定された範囲で良好に可聴音が生成されていることがわかる。良好に復調される範囲は、第2スピーカ60の大きさである長さL4よりも狭い範囲である。したがって、第1スピーカ50の大きさを第2スピーカ60よりも大きくすることで、可聴領域RAの範囲は、搬送波が放射される領域により制限されることがないため、可聴領域RAの範囲を側帯波が放射される領域により規定することができることがわかる。
【0048】
F3.第3実験:第2スピーカの出力と音圧:
第3実験では、第1スピーカ50へ入力する搬送波の電圧を一定にして、第2スピーカ60へ入力する側帯波の電圧を変化させた場合の可聴領域RAにおける目的の可聴音の音圧レベルについて測定した。本実験では、第1実験と同様に配置された3個の第2スピーカ60を用いた。
図16は、第1スピーカ50を構成する超音波振動子70の入力電圧を14Vppとして、第2スピーカ60を構成する超音波振動子70の入力電圧を概ね3.0Vppから14Vppの範囲で変化させて、音圧レベルを測定した結果である。
図17は、第1スピーカ50を構成する超音波振動子70の入力電圧を28Vppとして、第2スピーカ60を構成する超音波振動子70の入力電圧を概ね0.4Vppから28Vppの範囲で変化させて音圧レベルを測定した結果である。
図16および
図17に示すように、第2スピーカ60の入力電圧が第1スピーカ50の入力電圧の10%以下である場合には、ノイズである0.7kHzの音圧レベルは、目的の可聴音である1kHzおよび1.7kHzの音圧レベルに対して十分に小さい。そして、第2スピーカ60の入力信号の電圧が、第1スピーカ50の入力信号の電圧に近づくにつれ、ノイズである0.7kHzの音圧レベルが大きくなる。第2スピーカ60の入力信号の電圧が、第1スピーカ50の入力信号の電圧と同じになると、0.7kHzの音圧レベルは、目的の可聴音と同じ程度の音圧レベルとなる。したがって、少なくとも、第2スピーカ60への入力信号の電圧を、第1スピーカ50への入力信号の電圧よりも小さくすることで、ノイズとなる差周波数の音圧レベルを小さくすることができることがわかる。
【0049】
F4.第4実験:第2スピーカの配置位置:
第4実験では、第2スピーカ60の配置位置、具体的には、第1基準線CL1と、第2基準線CL2とのなす角θを変化させ、目的の可聴音である1kHzの音圧レベルを測定した。測定結果を示す
図18の横軸は、なす角θの角度、縦軸は音圧レベルである。なす角θが45度を超えると、音圧レベルは低下する。したがって、なす角θを45度以下とすることにより、良好な音圧の可聴音を生成できることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
50…第1スピーカ、51…第1配置領域、53…配置円、60…第2スピーカ、61…第2配置領域、70…超音波振動子、80…位相制御部、90…第3スピーカ、100,2100,3100,4100…パラメトリックスピーカシステム、103…角度変更部、104…音響出力部、CL1…第1基準線、CL2…第2基準線、CP…配置中心、F…目標点、RA…可聴領域