(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119679
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】筒型電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/184 20210101AFI20230822BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20230822BHJP
【FI】
H01M50/184 D
H01M50/342 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022662
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川脇 誠子
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
【テーマコード(参考)】
5H011
5H012
【Fターム(参考)】
5H011AA13
5H011BB03
5H011GG02
5H012AA01
5H012BB04
5H012DD03
5H012DD17
(57)【要約】
【課題】ゲルつまりを生じにくくする。
【解決手段】実施形態の筒型電池は、筒型の電池缶と、電池缶の開口を封口するガスケット部材と、を有する。ガスケット部材は、電池缶の内部に設けられた集電棒を支持する筒状の支持部と、電池缶に支持される外周部と、支持部の周囲に形成された環状の圧力開放弁と、圧力開放弁と外周部との間に形成された環状の中間部と、中間部において外周部に向けて放射状に形成された複数の溝とを有する。この複数の溝は、少なくとも2種類の形状の異なる溝を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒型の電池缶と、
前記電池缶の開口を封口するガスケット部材と、を有し、
前記ガスケット部材は、
前記電池缶の内部に設けられた集電棒を支持する筒状の支持部と、
前記電池缶に支持される外周部と、
前記支持部の周囲に形成された環状の圧力開放弁と、
前記圧力開放弁と前記外周部との間に形成された環状の中間部と、
前記中間部において前記外周部に向けて放射状に形成された複数の溝と、を有し、
前記複数の溝は、少なくとも2種類の形状の異なる溝を有する、
ことを特徴とする筒型電池。
【請求項2】
前記複数の溝は、断面において角のある溝と、角のない溝とを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型電池。
【請求項3】
前記複数の溝の総数に対して、前記形状の異なる溝の数に偏りがある、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒型電池。
【請求項4】
前記複数の溝は前記中間部において等間隔に形成されており、前記形状の異なる溝の分布に偏りがある、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の筒型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、筒型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
筒型電池では、円筒状の電池缶と、電池缶内に格納する正極材料と、電池缶内に格納する負極材料と、正極材料と負極材料との間を隔離する、円筒状のセパレータ部材と、電池缶の負極端子側の開口を封口するガスケット部材とを有する。
【0003】
このガスケット部材は、電池缶の内部に設けられた集電棒を支持する筒状の支持部と、電池缶に支持される外周部との間に、支持部の外周に沿って形成された環状の圧力開放弁を有している。この圧力開放弁は、電池缶内の内部ガスによる内圧上昇時に圧力を開放するため、内圧で破断される肉薄部分である。
【0004】
この圧力開放弁の動作時には、ガスケット部材が端子外周部にあたることで圧力開放弁より放出されたガス・ゲル(以下、ゲル)が抜ける経路を塞ぎ、ゲルつまりを起こす場合がある。このようなゲルつまりを抑止する従来技術としては、圧力開放弁の動作時にゲルが抜ける経路を確保するため、圧力開放弁と外周部との中間部に溝を設けるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内圧により圧力開放弁が均一に破断されると、ガスケット部材が環状に均一に変形してゲルが抜ける経路を広く塞ぐ場合がある。このような場合、上記の従来技術における溝だけではゲルが抜ける隙間が十分に確保されないという問題がある。
【0007】
開示の技術では、ゲルつまりが生じにくい筒型電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の開示する筒型電池の一態様は、筒型の電池缶と、電池缶の開口を封口するガスケット部材と、を有する。ガスケット部材は、電池缶の内部に設けられた集電棒を支持する筒状の支持部と、電池缶に支持される外周部と、支持部の周囲に形成された環状の圧力開放弁と、圧力開放弁と外周部との間に形成された環状の中間部と、中間部において外周部に向けて放射状に形成された複数の溝とを有する。この複数の溝は、少なくとも2種類の形状の異なる溝を有する。
【発明の効果】
【0009】
本願の開示する筒型電池の一態様によれば、ゲルつまりが生じにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例の筒型電池を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、実施例の要部を示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、加締め前のガスケット部材を示す断面図である。
【
図4】
図4は、加締め前のガスケット部材の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願の開示する筒型電池等の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例によって、本願の開示する筒型電池が限定されるものではない。
【実施例0012】
(筒型電池の構成)
図1は、実施例の筒型電池1を示す縦断面図である。
図1に示すように、実施例の筒型電池1は、例えば、水溶液系一次電池、いわゆる乾電池である。筒型電池1は、開口3aを有する円筒状の電池缶3と、集電棒4と、正極材料5と、負極材料6と、正極材料5と負極材料6とを仕切るセパレータ部材7と、電池缶3の開口3aを封止するガスケット部材8とを備える。また、筒型電池1は、電極端子として、電池缶3の一端に形成された正極端子11と、電池缶3の他端に配置された負極端子12とを有する。
【0013】
電池缶3の一端には、正極端子11が一体に形成されている。電池缶3の他端には、電池缶3の外周に沿ってビーディング加工されたくびれ部3bが形成されている。電池缶3のくびれ部3bには、開口3aを塞ぐように負極端子12及びガスケット部材8が設けられている。集電棒4は、電池缶3の内部の中央に配置されている。集電棒4は、基端部がガスケット部材8に支持されており、先端部が正極端子11側に向かって延びている。集電棒4は、例えば、真鍮等で形成する。
【0014】
負極材料6は、電池缶3の内部における集電棒4の周囲に設けられた円筒状の材料であり、セパレータ部材7の内側に装填されている。また、負極材料6は、例えば、亜鉛を主成分とするゲル状の負極合剤が用いられる。正極材料5は、電池缶3内に、その内周面に沿って装填されている。そして、正極材料5は、電池缶3の内部に収容された負極材料6の外周側に、セパレータ部材7を挟んで設けられている。正極材料5としては、例えば、リング状の正極合剤が用いられており、集電棒4の軸方向に沿って複数のリング状の正極合剤が積層されて配置されている。セパレータ部材7は、例えば、不織布等によって円筒状に形成されており、正極材料5の内側、かつ、集電棒4の軸方向に沿って配置されている。
【0015】
(ガスケット部材の構成)
図2は、実施例の筒型電池1の要部を示す縦断面図である。
図3は、加締め前のガスケット部材8を示す断面図である。
図4は、加締め前のガスケット部材8の上面図である。
【0016】
図2~
図4に示すように、筒型電池1のガスケット部材8は、集電棒4の一端部を支持する円筒状の支持部15と、支持部15の外周に沿って形成された環状の圧力開放弁16と、電池缶3の開口3aに支持される環状の外周部17とを有する。また、ガスケット部材8は、圧力開放弁16と外周部17との間の圧力開放弁16側に形成された環状の中間部18と、中間部18と外周部17との間に形成され、外周部17を中間部18に対して弾性変形可能にする緩衝部19とを有する。
【0017】
支持部15は、集電棒4が通される支持穴15aを有しており、
図2に示すように、集電棒4が負極端子12に接するように支持穴15aに支持されている。圧力開放弁16は、電池缶3の内部ガスの圧力で破断される溝状の肉薄部分である。外周部17は、電池缶3のくびれ部3b近傍と負極端子12の外周部との間に加締めで挟み込まれることで、ガスケット部材8が電池缶3に支持されている。
【0018】
中間部18には、
図2に示すように、セパレータ部材7の端部が突き当てられており、負極材料6が収容された空間が、セパレータ部材7によって塞がれている。
【0019】
緩衝部19は、中間部18と外周部17との間に形成されており、セパレータ部材7の外周側に配置されている。緩衝部19は、集電棒4の軸方向において外周部17から延びると共に、折り返して中間部18に連結されることで、底部19aを有するひだ状の突形状である。
【0020】
ガスケット部材8の緩衝部19は、横締め方式で、電池缶3のくびれ部3b近傍と負極端子12の外周部との間にガスケット部材8の外周部17が挟み込まれる。また、電池缶3の内部ガスの圧力で圧力開放弁16が破断された場合(弁作動時)には、緩衝部19および中間部18が弾性変形する。つまり、ガスケット部材8は、圧力開放弁16の作動時に電池缶3の開口3aの封口後に直径方向に撓むことになる。
【0021】
中間部18の負極端子12側の上面には、外周部17に向けて放射状に複数の溝21が形成されている。この複数の溝21は、圧力開放弁16の作動時に中間部18が撓み、中間部18と負極端子12とが接触する場合におけるゲルの流出経路となる。
【0022】
また、中間部18に形成された複数の溝21は、少なくとも2種類の形状の異なる溝を有する。具体的には、
図4に示すように、中間部18の上面には、周方向に等間隔にV字溝21aと、U字溝21bの2種類の溝21が形成されている。
【0023】
このように、中間部18の上面において種類の異なる溝が形成されることで、同一の溝が形成されている場合と比較して、圧力開放弁16の作動時にガスケット部材8の中間部18に生じる応力が不均一なものとなる。したがって、筒型電池1では、圧力開放弁16の作動時におけるガスケット部材8の弾性変形にばらつきが生じて不均一な弁動作を誘発し、ゲルが抜ける経路が広く塞がれることを抑止でき、ゲルつまりが生じにくくなる。
【0024】
図5Aは、V字溝21aの一例を示す説明図である。
図5Aに示すように、V字溝21aは、断面において角のある溝である。
図5Bは、U字溝21bの一例を示す説明図である。
図5Bに示すように、U字溝21bは、断面において角のない溝である。このように、中間部18の上面には、断面において角のある溝と、角のない溝の2種類の溝が形成されている。
【0025】
角のあるV字溝21aでは中間部18に生じる応力が角に集中し、角のないU字溝21bでは応力が集中しない。このように、角のあるV字溝21aと、角のないU字溝21bとを組み合わせて形成することで、圧力開放弁16の作動時にガスケット部材8の中間部18に生じる応力がより不均一になる。したがって、圧力開放弁16の作動時にゲルが抜ける経路が広く塞がれることをより効果的に抑止できる。
【0026】
また、
図4に示すように、中間部18の上面には、周方向において、時計回りに3つのU字溝21bと、1つのV字溝21aとが形成されている。このように、ガスケット部材8では、総数が4の溝21の中で、形状の異なる溝の数に偏りをもたせることで、圧力開放弁16の作動時に生じる応力を偏りがない場合と比較してより不均一なものとすることができる。
【0027】
また、U字溝21bと、V字溝21aとを同数(例えば2つずつ)形成する場合には、中間部18の周方向において、時計回りに2つのU字溝21bを形成し、続いて2つのV字溝21aを形成するなどして、形状の異なる溝の分布に偏りをもたせることが好ましい。このように、形状の異なる溝の分布に偏りをもたせることで、ガスケット部材8では、圧力開放弁16の作動時に生じる応力を偏りがない場合と比較してより不均一なものとすることができる。
【0028】
なお、本実施例において、複数の溝21はV字溝21aと、U字溝21bの2種類としているが、溝の種類はこの2種類に限定しない。例えば、断面を矩形状とする溝を含む3種類の溝を形成してもよい。また、角のある溝の一例としてV字溝21aを例示し、角のない溝の一例としてU字溝21bを例示しているが、角のある溝または角のない溝は上記の例に限定しない。例えば、角のある溝は、断面を矩形状とする溝であってもよい。また、角のない溝は、断面を半円状とする溝であってもよい。また、溝21の数も、総数を4に限定するものではなく、周方向に等間隔に5つまたは6つの溝21を形成してもよい。
【0029】
発明者は、LR6(単3型)の乾電池で溝構成を変えてJIS C 8514に基づく誤使用充電試験を行い、圧力開放弁16の弁作動を検証した。(表1)は、試験結果を表にまとめたものである。各溝構成について、10回試験し、
ゲルつまりが1回も生じなかった場合は判定を○、ゲルつまりが1回でも生じた場合は判定を×とした。
【0030】
【0031】
(比較例1)
比較例1は、中間部18の上面に溝21を形成しないケースである。このケースでは、10回の誤使用充電試験においてゲルつまりが9回生じた。
【0032】
(比較例2)
比較例2は、中間部18の上面において、周方向に等間隔に4つのV字溝21aを形成したケースである。このケースでは、10回の誤使用充電試験においてゲルつまりが2回生じた。
【0033】
(比較例3)
比較例3は、中間部18の上面において、周方向に等間隔に4つのU字溝21bを形成したケースである。このケースでは、10回の誤使用充電試験においてゲルつまりが4回生じた。
【0034】
(実施例1)
実施例1は、中間部18の上面において、周方向に等間隔に1つのV字溝21aを形成した後に、続いて3つのU字溝21bを形成したケースである(
図4参照)。このケースでは、10回の誤使用充電試験においてゲルつまりが生じなかった。
【0035】
(実施例2)
実施例2は、中間部18の上面において、周方向に等間隔に2つのV字溝21aを形成した後に、続いて2つのU字溝21bを形成したケースである。このケースでは、10回の誤使用充電試験においてゲルつまりが生じなかった。
【0036】
(実施例3)
実施例3は、中間部18の上面において、周方向に等間隔に3つのV字溝21aを形成した後に、続いて1つのU字溝21bを形成したケースである。このケースでは、10回の誤使用充電試験においてゲルつまりが生じなかった。
【0037】
比較例1~3と、実施例1~3とを比べて明らかなように、形状の異なる溝を組み合わせるケース(実施例1~3)では、ゲルつまりが生じなかった。また、U字溝21bのみのケース(比較例3)では、応力の集中点がないことに加え、同形状の溝が等間隔に形成されているので応力が不均一になりづらく、V字溝21aのみのケース(比較例2)に比べてゲルつまりが多く生じた。
【0038】
以上のように、筒型電池1は、筒型の電池缶3と、電池缶3の開口3aを封口するガスケット部材8とを有する。ガスケット部材8は、電池缶3の内部に設けられた集電棒4を支持する筒状の支持部15と、電池缶3に支持される外周部17と、支持部15の周囲に形成された環状の圧力開放弁16と、圧力開放弁16と外周部17との間に形成された環状の中間部18と、中間部18において外周部17に向けて放射状に形成された複数の溝21とを有する。複数の溝21は、少なくとも2種類の形状の異なる溝(例えばV字溝21a、U字溝21b)を有する。
【0039】
このように、中間部18において形成された少なくとも2種類の形状の異なる溝により、筒型電池1では、圧力開放弁16の作動時において、ガスケット部材8にかかる応力が不均一になり、ガスケット部材8の変形にばらつきが生じる。したがって、筒型電池1では、圧力開放弁16の作動時において、ゲルが抜ける経路が広く塞がれることを抑止でき、ゲルつまりが生じにくくなる。
【0040】
また、複数の溝21は、断面において角のある溝(例えばV字溝21a)と、角のない溝(例えばU字溝21b)とを有する。このように角のある溝と、角のない溝とを組み合わせることで、圧力開放弁16の作動時において、角のない溝に対して角のある溝に応力がより集中することとなる。このため、筒型電池1では、ガスケット部材8の変形にばらつきが生じやすくなり、ゲルつまりがより生じにくくなる。
【0041】
また、複数の溝21の総数に対して、形状の異なる溝の数に偏りがある。このように形状の異なる溝の数に偏りがあることで、圧力開放弁16の作動時において、ガスケット部材8にかかる応力が不均一になる。このため、筒型電池1では、ガスケット部材8の変形にばらつきが生じやすくなり、ゲルつまりがより生じにくくなる。
【0042】
また、複数の溝21は中間部18において等間隔に形成されており、形状の異なる溝の分布に偏りがある。このように形状の異なる溝の分布に偏りがあることで、圧力開放弁16の作動時において、ガスケット部材8にかかる応力が不均一になる。このため、筒型電池1では、ガスケット部材8の変形にばらつきが生じやすくなり、ゲルつまりがより生じにくくなる。