(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119727
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】接合装置、接合方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20230822BHJP
B23K 20/10 20060101ALI20230822BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230822BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20230822BHJP
H01R 43/02 20060101ALI20230822BHJP
H01R 4/02 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
B23K11/24 338
B23K20/10
B23K31/00 N
B23K11/00 561
H01R43/02 B
H01R4/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022729
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】岩月 忠宏
【テーマコード(参考)】
4E167
5E051
5E085
【Fターム(参考)】
4E167BE02
4E167BE04
4E167BE07
4E167BE11
5E051LA02
5E051LA04
5E051LB03
5E085BB02
5E085BB12
5E085CC03
5E085DD03
5E085DD04
5E085HH13
5E085HH31
5E085HH34
5E085JJ06
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い接合を実現する。
【解決手段】接合装置10は、ワークWを挟持するとともにワークWに溶接電流を流してワークWを加熱し接合する接合部20と、溶接電流を制御するコントローラ40と、を備える。コントローラ40のプロセッサ41は、接合部20によりワークWのサンプルを適切に接合したときの溶接電流の時間変化に基づく溶接電流の目標時間変化を記憶装置43に記憶させる記録部として動作する。プロセッサ41は、さらに、接合部20が前記ワークWを接合するときに溶接電流を記憶装置43に記憶された目標時間変化に従って変化させる制御部として動作する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被接合部材からなるワークを挟持するとともに前記ワークの温度を上昇させる物理量を前記ワークに与えることで前記ワークを加熱し接合する接合部と、
前記物理量を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記接合部により前記ワークのサンプルを適切に接合したときに前記接合部から前記サンプルに与えられた前記物理量の時間変化に基づく前記物理量の目標時間変化を記憶部に記憶させる記録部と、
前記接合部が前記ワークを接合するときに前記ワークに与える前記物理量を前記記憶部に記憶された前記目標時間変化に従って変化させる制御部と、を備える、
接合装置。
【請求項2】
前記目標時間変化は、前記ワークの温度を第1温度で第1所定期間キープするための前記物理量の波形である、
請求項1に記載の接合装置。
【請求項3】
前記目標時間変化は、前記ワークの温度を、前記第1温度で前記第1所定期間キープしたあと、前記第1温度とは異なる第2温度で第2所定期間キープするための前記物理量の波形である、
請求項2に記載の接合装置。
【請求項4】
前記ワークの温度を計測する放射温度計と、
前記ワークに与えられる前記物理量を計測する物理量計と、を備え、
前記記録部は、
前記放射温度計により計測された前記温度をフィードバック値として、前記接合部が前記サンプルに与える前記物理量を制御することで前記接合部により前記サンプルを接合し、
前記サンプルを接合するときに前記サンプルに与えられる前記物理量の時間変化を前記物理量計により計測し、
前記サンプルが適切に接合されたときに計測した前記物理量の時間変化に基づいて前記目標時間変化を導出し、導出した前記目標時間変化を前記記憶部に記憶させる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の接合装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記物理量計により計測した前記物理量の時間変化が前記目標時間変化と一致するように前記物理量を変化させ、
前記放射温度計により計測した前記ワークの温度に基づいて前記ワークの温度異常の有無を監視する、
請求項4に記載の接合装置。
【請求項6】
前記記録部は、前記目標時間変化を導出するときに前記物理量の時間変化を平滑化する、
請求項4又は5に記載の接合装置。
【請求項7】
前記記録部は、前記接合部による前記サンプルの接合を、異なる接合条件により複数回試行し、前記目標時間変化を導出するときに前記物理量の複数の時間変化を統計処理して前記目標時間変化を導出する、
請求項4から6のいずれか1項に記載の接合装置。
【請求項8】
前記ワークの接合は、ヒュージング溶接であり、
前記物理量は、電流又は電圧である、
請求項1から7のいずれか1項に記載の接合装置。
【請求項9】
前記ワークの接合は、超音波接合であり、
前記物理量は、振動であり、
前記コントローラは、前記振動の振幅を制御する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の接合装置。
【請求項10】
複数の被接合部材からなるワークを挟持するとともに前記ワークの温度を上昇させる物理量を前記ワークに与えることで前記ワークを加熱し接合する接合部を用いた接合方法であって、
前記接合部により前記ワークのサンプルを適切に接合したときに前記接合部から前記サンプルに与えられた前記物理量の時間変化に基づく前記物理量の目標時間変化を記憶部に記憶させる記録ステップと、
前記接合部が前記ワークを接合するときに前記ワークに与える前記物理量を前記記憶部に記憶された前記目標時間変化に従って変化させる制御ステップと、を備える、
接合方法。
【請求項11】
複数の被接合部材からなるワークを挟持するとともに前記ワークの温度を上昇させる物理量を前記ワークに与えることで前記ワークを加熱し接合する接合部を制御するコンピュータに、
前記接合部により前記ワークのサンプルを適切に接合したときに前記接合部から前記サンプルに与えられた前記物理量の時間変化に基づく前記物理量の目標時間変化を記憶部に記憶させる記録処理と、
前記接合部が前記ワークを接合するときに前記ワークに与える前記物理量を前記記憶部に記憶された前記目標時間変化に従って変化させる制御処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の接合部材からなるワークを接合する接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の接合部材からなるワークを接合する技術の一例として、電線と圧着端子とを熱カシメにより接合するヒュージング溶接がある。ヒュージング溶接は、電線の絶縁被膜を溶かして押し出す工程と、圧着端子と電線とを溶着させる工程と、を含み、各工程の温度管理が重要となる。特許文献1には、電線及び圧着端子の温度を放射温度計により計測し、計測した温度をフィードバック値としてヒュージング溶接を行う溶接装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射温度計により電線及び圧着端子の温度を計測する場合、計測される温度が、電線及び圧着端子の表面状態により大きく変動するため、正確な温度が計測されない場合がある。この場合、実際の温度が高すぎる又は低すぎることにより、接合不良が生じてしまうことがある。このような課題は、ヒュージング溶接に限定されず、超音波接合などの各種の接合において生じ得る。
【0005】
本発明は、上記点に鑑みてなされたものであり、信頼性の高い接合を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明にかかる接合装置は、複数の被接合部材からなるワークを挟持するとともに前記ワークの温度を上昇させる物理量を前記ワークに与えることで前記ワークを加熱し接合する接合部と、前記物理量を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記接合部により前記ワークのサンプルを適切に接合したときに前記接合部から前記サンプルに与えられた前記物理量の時間変化に基づく前記物理量の目標時間変化を記憶部に記憶させる記録部と、前記接合部が前記ワークを接合するときに前記ワークに与える前記物理量を前記記憶部に記憶された前記目標時間変化に従って変化させる制御部と、を備える。
【0007】
一例として、前記目標時間変化は、前記ワークの温度を第1温度で第1所定期間キープするための前記物理量の波形である。
【0008】
一例として、前記目標時間変化は、前記ワークの温度を、前記第1温度で前記第1所定期間キープしたあと、前記第1温度とは異なる第2温度で第2所定期間キープするための前記物理量の波形である。
【0009】
一例として、接合装置は、前記ワークの温度を計測する放射温度計と、前記ワークに与えられる前記物理量を計測する物理量計と、を備え、前記記録部は、前記放射温度計により計測された前記温度をフィードバック値として、前記接合部が前記サンプルに与える前記物理量を制御することで前記接合部により前記サンプルを接合し、前記サンプルを接合するときに前記サンプルに与えられる前記物理量の時間変化を前記物理量計により計測し、前記サンプルが適切に接合されたときに計測した前記物理量の時間変化に基づいて前記目標時間変化を導出し、導出した前記目標時間変化を前記記憶部に記憶させる。
【0010】
一例として、前記制御部は、前記物理量計により計測した前記物理量の時間変化が前記目標時間変化と一致するように前記物理量を変化させ、前記放射温度計により計測した前記ワークの温度に基づいて前記ワークの温度異常の有無を監視する。
【0011】
一例として、前記記録部は、前記目標時間変化を導出するときに前記物理量の時間変化を平滑化する。
【0012】
一例として、前記記録部は、前記接合部による前記サンプルの接合を、異なる接合条件により複数回試行し、前記目標時間変化を導出するときに前記物理量の複数の時間変化を統計処理して前記目標時間変化を導出する。
【0013】
一例として、前記ワークの接合は、ヒュージング溶接であり、前記物理量は、電流又は電圧である。
【0014】
一例として、前記ワークの接合は、超音波接合であり、前記物理量は、振動であり、前記コントローラは、前記振動の振幅を制御する。
【0015】
本発明に係る接合方法は、複数の被接合部材からなるワークを挟持するとともに前記ワークの温度を上昇させる物理量を前記ワークに与えることで前記ワークを加熱し接合する接合部を用いた接合方法であって、前記接合部により前記ワークのサンプルを適切に接合したときに前記接合部から前記サンプルに与えられた前記物理量の時間変化に基づく前記物理量の目標時間変化を記憶部に記憶させる記録ステップと、前記接合部が前記ワークを接合するときに前記ワークに与える前記物理量を前記記憶部に記憶された前記目標時間変化に従って変化させる制御ステップと、を備える。
【0016】
本発明に係るプログラムは、複数の被接合部材からなるワークを挟持するとともに前記ワークの温度を上昇させる物理量を前記ワークに与えることで前記ワークを加熱し接合する接合部を制御するコンピュータに、前記接合部により前記ワークのサンプルを適切に接合したときに前記接合部から前記サンプルに与えられた前記物理量の時間変化に基づく前記物理量の目標時間変化を記憶部に記憶させる記録処理と、前記接合部が前記ワークを接合するときに前記ワークに与える前記物理量を前記記憶部に記憶された前記目標時間変化に従って変化させる制御処理と、を実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、信頼性の高い接合が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態にかかる接合装置の構成を示す構成図である。
【
図3】設定モードにおいて実行される処理のフローチャートである。
【
図4】上段のグラフは、ワークの温度の時間変化の一例を示すグラフであり、下段のグラフは、溶接電流の目標時間変化の一例を示すグラフである。
【
図5】設定モードにおいて実行される処理のフローチャートである。
【
図6】変形例にかかる接合装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る接合装置10は、接合部20と、放射温度計31と、電流計32と、操作装置33と、表示装置34と、コントローラ40と、を有している。接合装置10は、ワークWを構成する被接合部材W1と被接合部材W2とをヒュージング溶接(熱カシメとも呼ばれる)するように構成されている。被接合部材W1は、圧着端子である。被接合部材W2は、一部が圧着端子の円筒状の胴部に挿入された、それぞれが絶縁被膜により被覆された多数の電線である。
【0020】
接合部20は、ワークW(圧着端子の胴部の部分)を挟持するとともにワークWに溶接用の電流である溶接電流を与える(流す)ことでワークWを加熱し接合するように構成されている。
【0021】
接合部20は、一対の電極21及び22と、電極21を電極22側に移動させることで、電極21及び22によりワークWを挟持する加圧装置23と、を備える。加圧装置23は、例えば電極21を電極22側に移動させるエアシリンダなどを含んで構成される。ワークWの挟持は、加圧を伴っている。接合部20は、さらに、電極21及び22を介してワークWに溶接電流を流す電源回路24を備える。
【0022】
被接合部材W2を構成する各電線は、絶縁被膜により被覆されているので、溶接電流は、溶接当初、被接合部材W1に流れ、被接合部材W1が加熱される。被接合部材W1の加熱による熱は被接合部材W2に伝達され、被接合部材W2を構成する電線の絶縁被膜が溶かされる。溶かされた絶縁被膜は、ワークWを挟持する挟持力により押し出される。これにより、被接合部材W1と被接合部材W2(電線部分)とが導通し、溶接電流が被接合部材W1と被接合部材W2に流れ、ワークWが加熱される。ワークWの加熱と、ワークWを挟持する挟持力とによりワークWつまり被接合部材W1と被接合部材W2とが接合される。このとき、被接合部材W1の胴部及び被接合部材W2の電線は、挟持力によりつぶれる。これらのようにして、ワークWつまり被接合部材W1と被接合部材W2とはヒュージング溶接される。
【0023】
放射温度計31は、赤外線センサなどを含んで構成されており、電極21及び22に挟持されたワークWの温度を非接触で計測する。電流計32は、接合部20からワークWに流れる溶接電流を計測する。
【0024】
操作装置33は、マウス、キーボード、又は、タッチセンサなどを含んで構成されおり、ユーザからの操作を受け付ける。表示装置34は、液晶表示装置などからなり、操作画面などを表示する。
【0025】
コントローラ40は、接合部20の動作、特に、接合部20からの溶接電流を制御するように構成されている。コントローラ40は、マイクロコンピュータなどのコンピュータからなる。コントローラ40は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ41と、プロセッサ41のメインメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)42と、を備える。さらに、コントローラ40は、プロセッサ41が実行又は使用するプログラム及びデータを記憶する不揮発性の記憶装置43も備える。記憶装置43には、ヒュージング溶接を行うときに使用される溶接電流の目標時間変化(詳細は後述)が記憶される。
【0026】
プロセッサ41は、記憶装置43に記憶されているプログラムを実行することで、
図2に示す記録部41A、及び、制御部41Bとして動作する。ここで接合装置10は、ヒュージング溶接を試行して溶接電流の目標時間変化を設定する設定モードと、設定モードで設定された目標時間変化に基づいてヒュージング溶接を実行する通常モードと、を備える。このモードの切り替えは、ユーザによる操作装置33の操作により行われる。設定モード時は、記録部41Aが動作し、通常モード時は、制御部41Bが動作する。通常モードにより、多量のワークWの接合が順次行われ、熱カシメされたワークWが量産される。
【0027】
記録部41Aは、接合部20によりワークWのサンプルを適切に接合したときに接合部20からワークWに与えられた溶接電流の時間変化に基づく溶接電流の目標時間変化を記憶装置43に記憶させる。これにより、目標時間変化が接合装置10に設定される。目標時間変化は、ここでは、溶接電流の電流波形である。記録部41Aは、
図3に示すフローチャートの動作により設定モードを実現する。目標時間変化は、ユーザによる接合装置10を用いた実験等により導出され、操作装置33又は不図示のI/O(Input/Output)を介して記憶装置43に記憶されてもよい。
【0028】
図3に示すフローチャートにおいて、記録部41Aは、パラメータの入力画面を表示装置34に表示し、ユーザが操作装置33を介して入力するヒュージング溶接に必要な溶接パラメータを受け付ける(ステップS11)。
【0029】
ステップS11で入力される溶接パラメータには、ワークWの温度の時間変化、及び、加圧装置23への操作量の時間変化が含まれる。ここで、ヒュージング溶接では、ワークWを電極21及び22により挟持(加圧)しながら溶接電流により加熱するが、特に、ワークWの温度を、
図4の上段のグラフに示すように、第1温度T1で第1所定期間D1キープしたあと、第1温度T1とは異なる第2温度T2で第2所定期間D2キープする。第1温度T1及び第1所定期間D1は、被接合部材W2の絶縁被膜を溶かして押し出すために設定される。第2温度T2及び第2所定期間D2は、被接合部材W2の絶縁被膜から露出した各電線同士、及び、電線と被接合部材W1とを接合するために設定される。第1温度T1は、被接合部材W2の絶縁被膜が電線を被覆したままの状態で炭化して、その後の接合に悪影響がでないよう、第2温度T2よりも低く設定される。第1温度T1及び第2温度T2は、ある程度の幅があってもよい。所定期間D1及びD2は、例えば、0.1秒以上の任意の期間、より具体的には0.1~5.0秒の任意の期間である。ここでは、
図4の上段のグラフの温度の時間変化が溶接パラメータの一部として入力されるものとする。加圧装置23への操作量は、ヒュージング溶接のためにワークWを挟持するのに必要な量であればよく、例えば所定期間D1及びD2を少なくとも含む期間において一定の挟持力を加える操作量であればよい。
【0030】
その後、記録部41Aは、予め用意されたワークWのサンプル(サンプルとして用意されたワークW)を電極21及び22の間に配置したあと操作装置33を介して入力した、ヒュージング溶接のスタート指示を受け付ける(ステップS12)。
【0031】
記録部41Aは、前記のスタート指示を契機として、溶接パラメータに基づいて、電源回路24を制御して電極21及び22に通電を行わせ、かつ、加圧装置23を制御してワークWの各サンプルの挟持を行わせることで、ヒュージング溶接を開始する(ステップS13)。
【0032】
ステップS13で開始されるヒュージング溶接において、記録部41Aは、放射温度計31により測定された温度をフィードバック値として、当該温度の時間変化が溶接パラメータに含まれるワークWの温度の時間変化と一致するよう、溶接電流をフィードバック制御する。さらに、このヒュージング溶接において、記録部41Aは、溶接電流の電流値を電流計32により所定の時間間隔(例えば、0.1m秒ごと)で順次計測し、記憶装置43に記録する。これにより、溶接電流の時間変化である電流波形が測定され、記憶装置43に記憶される。
【0033】
ステップS13のあと、記録部41Aは、ヒュージング溶接の実行に必要な処理を当該ヒュージング溶接の終了タイミングまで実行する(ステップS14及びS15)。終了タイミングは、溶接パラメータのワークWの温度の時間変化により指定されている。記録部41Aは、第2所定期間D2の経過後は、電源回路24による通電を終了させてワークWを自然冷却し、つつ、ワークWの温度が十分に下がる終了タイミングまで加圧装置23による挟持を維持するとよい。記録部41Aは、終了タイミングの到来により(ステップS14;Yes)、加圧装置23による挟持を終了させてヒュージング溶接を終了する(ステップS16)。なお、第2所定期間D2の終了タイミングを、ヒュージング溶接の終了タイミングとし、このタイミングで通電及び挟持を終了させてもよい。
【0034】
ステップS16のあと、ユーザは、ヒュージング溶接の出来などを確認し、必要に応じて別のサンプルを用いたヒュージング溶接を行うか否かの指示を操作装置33を介して入力する。記録部41Aは、この入力された指示が別のサンプルに対してヒュージング溶接を行う指示であるか否かを判別する(ステップS17)。
【0035】
入力された指示がヒュージング溶接を行う指示である場合(ステップS17;Yes)、再度ステップS11などの処理が実行される。このようにして、ユーザは、ワークWのサンプルに対するヒュージング溶接の出来が確認しながら、かつ、ワークWの温度の時間変化の内容を適宜変更しながら、ヒュージング溶接を任意の回数試行する。電流波形は、ヒュージング溶接が行われた回数分の数だけ、記憶装置43に記憶される。電流波形は、後述のように、通常モードで使用される溶接電流の目標時間変化の元となる。ユーザは、ヒュージング溶接を適切な1又は複数の接合が得られるまで試行することで、ヒュージング溶接に最適な電流波形ないし溶接電流の目標時間変化が探ることができる。なお、ここでは、最適な目標時間変化を探る手順が複雑化しないよう加圧装置23への操作量の時間変化などの他の溶接パラメータは最初に入力されたものから変更不可とするが、必要に応じてこれらも変更されてよい。この場合、記録部41Aによる動作が最初からやり直されてもよい。
【0036】
入力された指示がヒュージング溶接を行わない指示である場合(ステップS17;Yes)、記録部41Aは、ユーザから操作装置33を介して入力される、ヒュージング溶接の出来が良くワークWが適切に接合されたときに測定された1以上の電流波形の指定を受け付ける(ステップS18)。記録部41Aは、指定された1以上の電流波形に基づいて、溶接電流の目標時間変化を導出し、導出した目標時間変化を記憶装置43に記憶させる(ステップS19)。溶接電流の目標時間変化の一例を
図4の下段のグラフに示す。
図4の下段のグラフに示すように、この目標時間変化は、ワークWの温度を第1温度T1まで上昇させるため、溶接電流の電流値を急激に高くする(第1所定期間D1前の期間)。その後、目標時間変化は、ワークWの温度を第1温度T1で維持するため、溶接電流の電流値をワークWの放熱量を補う程度に低くする(第1所定期間D1)。溶接電流の目標時間変化は、その後、ワークWの温度を第2温度T2まで上昇させるため、溶接電流の電流値を再度急上昇させる(第1所定期間D1と第2所定期間D2との間の期間)。第2温度T2は、第1温度T1よりも高いため、当該電流値は、第1所定期間D1前の電流値よりも高くなる。溶接電流の目標時間変化は、その後、ワークWの温度を第2温度T2で維持するため、溶接電流の電流値をワークWの放熱量を補う程度に低くする(第2所定期間D2)。その後、溶接電流の目標時間変化は、溶接電流の電流値を0とする。これ以降、ワークWは、自然冷却される。記録部41Aは、目標時間変化以外の溶接パラメータも記憶装置43に記憶させる(ステップS20)。
【0037】
記録部41Aは、ステップS19において、複数の電流波形が指定された場合、これら複数の電流波形について統計を取る統計処理を行い、統計結果からなる溶接電流の電流波形を目標時間変化として記憶装置43に記憶させる。統計処理としては、例えば、複数の電流波形の平均波形又は中央値波形(各測定タイミングにおける測定値の平均又は中央値)を取る処理がある。記録部41Aは、統計を取る前の複数の電流波形のそれぞれを所定のアルゴリズムにより平滑化してもよい。記録部41Aは、統計結果からなる電流波形、又は、1の電流波形が指定されたときのその電流波形について、所定のアルゴリズムによる平滑化を行い、平滑化後の電流波形を目標時間変化として、記憶装置43に記憶させてもよい。記録部41Aは、1のみの電流波形が指定されたとき、その電流波形をそのまま目標時間変化として導出し、記憶装置43に記憶させてもよい。また、電流波形は、ユーザにより操作装置33を介して手動で編集されてもよい。
【0038】
図2の制御部41Bは、接合部20がワークWを接合するときに溶接電流を記憶装置43に記憶された目標時間変化に従って変化させる。制御部41Bは、このような処理を実現するため、
図5に示す処理を行う。
【0039】
制御部41Bは、ユーザが電極21及び22の間にワークWを配置してヒュージング溶接の開始指示を操作装置33に入力したことを契機として、溶接電流の目標時間変化を含む溶接パラメータを記憶装置43から読み出す(ステップS31)。
【0040】
その後、制御部41Bは、読み出した溶接パラメータに基づいてヒュージング溶接を開始する(ステップS32)。
【0041】
ステップS32で開始されるヒュージング溶接において、制御部41Bは、電流計32で0.1m秒ごとに測定された溶接電流をフィードバック値として、当該溶接電流の時間変化が溶接電流の目標時間変化と一致するよう、0.1m秒ごと溶接電流をフィードバック制御する。
【0042】
ステップS32のあと、制御部41Bは、ヒュージング溶接を当該ヒュージング溶接の終了タイミングまで実行する(ステップS33及びS34)。終了タイミングは、溶接電流の目標時間変化により指定されている。制御部41Bは、第2所定期間D2の経過後は、電源回路24による通電(溶接電流の供給)を終了させる。なお、ワークWの温度が十分に下がる終了タイミングまでは加圧装置23による挟持は維持される。また、ヒュージング溶接の実行中、制御部41Bは、放射温度計31により計測したワークWの温度に基づいてワークWの温度異常の有無を監視する(ステップS35)。制御部41Bは、例えば、放射温度計31により計測した温度が第1閾値より高い又は第2閾値より低い場合、過加熱又は加熱不足(電極21及び22の劣化を含む)の温度異常と判別して(ステップS35;異常有り)、ステップS37に進む。
【0043】
制御部41Bは、上記温度異常がないまま終了タイミングが到来したとき(ステップS33;Yes)、加圧装置23に対して挟持を終了させてヒュージング溶接を終了する(ステップS37)。なお、第2所定期間D2の終了タイミングを、ヒュージング溶接の終了タイミングとし、このタイミングで上記通電及び挟持を終了させてもよい。ステップS35経由のステップS37の場合、ヒュージング溶接は途中終了し、制御部41Bは、その旨を表示装置34に表示してもよい。
【0044】
この実施の形態のように、記録部41Aは、接合部20によりワークWのサンプルを適切に接合したときに接合部20からの溶接電流の時間変化に基づく溶接電流の目標時間変化を記憶装置43に記憶させるとよい。そして、制御部41Bは、接合部20がワークWを接合するときに、ワークWに流す溶接電流を目標時間変化に従って変化させるとよい。このような構成により、ワークWのサンプルを適切に接合したときの溶接電流をベースとした溶接電流の目標時間変化に従って溶接電流が制御されるので、ワークWが適切に加熱される。これにより、接合不良の発生確率が低減され、従って、信頼性の高いヒュージング溶接ないし接合が実現される。特に、放射温度計が計測する温度は、上述のように、ワークWの表面状態により変化し、その計測精度が悪い。従って、特許文献1のように、ヒュージング溶接において、放射温度計が計測する温度に基づいて溶接電流を制御すると、接合不良の発生確率が高くなってしまう。この実施の形態では、溶接電流の目標時間変化に基づいて溶接電流が制御されるので、前記の不都合が解消され、信頼性の高いヒュージング溶接ないし接合が実現される。
【0045】
また、この実施の形態のように、溶接電流の目標時間変化は、ワークWの温度を、第1温度で第1所定期間キープしたあと、第1温度とは異なる第2温度で第2所定期間キープするための電流波形であるとよい。これにより、ヒュージング溶接が実現される。
【0046】
この実施の形態のように、記録部41Aは、放射温度計31により計測されたワークWの温度をフィードバック値として、接合部20からの溶接電流を制御することで接合部20によりワークWのサンプルを接合してもよい。記録部41Aは、サンプルを接合するときに溶接電流の時間変化を電流計32により計測してもよい。記録部41Aは、各サンプルが適切に接合されたときに計測した溶接電流の時間変化に基づいて溶接電流の目標時間変化を導出し、導出した目標時間変化を記憶装置43に記憶させてもよい。このような構成により、接合装置10内で目標時間変化の記憶装置43への記録を完結することができる。
【0047】
この実施の形態のように、制御部41Bは、電流計32により計測した溶接電流の時間変化が目標時間変化と一致するように溶接電流を変化させ、放射温度計31により計測したワークWの温度に基づいてワークWの温度異常の有無を監視するとよい。これにより、設定モード段階で使用される放射温度計31を、通常モードでも有効利用することができる。
【0048】
この実施の形態のように、記録部41Aは、溶接電流の目標時間変化を導出するときに溶接電流の時間変化を平滑化するとよい。これにより、溶接電流の測定誤差、異常値などが目標時間変化に悪影響を及ぼすことが低減される。
【0049】
この実施の形態のように、記録部41Aは、接合部20による各サンプルの接合を、異なる接合条件(例えば、ワークWの温度の時間変化)により複数回試行し、目標時間変化を導出するときに溶接電流の複数の時間変化を統計処理して目標時間変化を導出するとよい。これにより、溶接電流の測定誤差、異常値などが目標時間変化に悪影響を及ぼすことが低減される。
【0050】
[変形例]
本発明は、上記実施の形態に限定されない。上記実施の形態については、各種の変形が可能である。以下、変形例を例示する。
【0051】
(1)例えば、上記溶接電流に代えて、溶接電圧が使用されてもよい。この場合、電流計32は、電極21と電極22との間の電圧を計測する電圧計に変更される。また、コントローラ40のハードウェア構成は任意であり、記録部41A及び制御部41Bそれぞれの少なくとも一部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの論理回路により構成されてもよい。記憶装置43は、コントローラ40外部に配置されてもよい。記録部41A及び制御部41Bを実現するプログラムは、不揮発性の記憶部など、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納されればよい。
【0052】
(2)接合装置は、例えば、複数の被接合部材からなるワークを挟持するとともに前記ワークの温度を上昇させる物理量を前記ワークに与えることで前記ワークを加熱し接合する接合部と、前記物理量を制御するコントローラと、を備えればよい。前記コントローラは、前記接合部により前記ワークのサンプルを適切に接合したときに前記接合部から前記サンプルに与えられた前記物理量の時間変化に基づく前記物理量の目標時間変化を記憶部に記憶させる記録部を備えればよい。前記コントローラは、前記接合部が前記ワークを接合するときに前記ワークに与える前記物理量を前記記憶部に記憶された前記目標時間変化に従って変化させる制御部と、を備えればよい。このような構成により、接合不良の発生確率が低減され、従って、信頼性の高い接合が実現される。
【0053】
物理量は、上記溶接電流又は溶接電圧の他、例えば超音波の振動であってもよい。物理量が超音波の振動である場合の接合装置を接合装置110として
図6に示す。なお、
図6において、上記実施の形態と同様の構成を有する要素については同じ符号を付している。
【0054】
接合装置110は、接合部120を備える。接合部120は、板状の被接合部材W11及びW12を重ね合わせたワークW10を挟持して接合するための一対の挟持部材121及び122(ホーン及びアンビル)を備える。接合部120は、コントローラ40により制御され、挟持部材121を挟持部材122側に移動させることで挟持部材121及び122によりワークW10を挟持する加圧装置123も備える。
【0055】
接合部120は、コントローラ40により制御される超音波発振機構124も備える。超音波発振機構124は、超高周波の電圧を発振する発振回路と、当該超高周波の電圧を超音波の振動に変換する振動子と、変換された超音波の振動を挟持部材121(ホーン)を介して被接合部材W11に与えるコーンと、を備える。挟持部材121を介して与えられる超音波により被接合部材W11を振動させることで、被接合部材W11及びW12の接触部分が加熱され、当該ワークW10つまり被接合部材W11及びW12が接合される。
【0056】
記録部41A及び制御部41Bは、振動子に印加する電圧を制御することで、超音波の振動の振幅を制御することができる。記録部41A及び制御部41Bは、溶接電流を超音波の振幅に代えた処理を行うことができる。なお、記録部41A及び制御部41Bは、電流計32によって測定する溶接電流に代えて、不図示の電圧計により測定する振動子への印加電圧を超音波の振幅として取得するものとする。放射温度計31は、被接合部材W10の接合部分の温度を計測するように配置されるとよい。
【0057】
(3)上記(2)の前記目標時間変化は、前記ワークの温度を第1温度(所定の幅があってもよい)で第1所定期間キープするための前記物理量の波形であるとよい。温度をキープする所定期間の数は、1つの目標時間変化の中で第1所定期間1つであってもよい。これにより、接合の際の温度を所定期間一定に保つ接合に対応できる。前記目標時間変化は、前記ワークの温度を、前記第1温度で前記第1所定期間キープしたあと、前記第1温度とは異なる第2温度(所定の幅があってもよい)で第2所定期間キープするための前記物理量の波形であってもよい。これにより、接合の際の温度を2つの所定期間で一定に保つ接合に対応できる。
【0058】
(4)上記(2)及び(3)に関連し、接合装置は、電流計32の代わりに、前記ワークに与えられる物理量を計測する物理量計(上述の電圧計など)を備えてもよい。
【0059】
(5)上記(4)に関連し、前記記録部は、前記放射温度計により計測された前記温度をフィードバック値として、前記接合部が前記サンプルに与える前記物理量を制御することで前記接合部により前記サンプルを接合してもよい。記録部は、前記サンプルを接合するときに前記サンプルに与えられる前記物理量の時間変化を前記物理量計により計測してもよい。記録部は、前記サンプルが適切に接合されたときに計測した前記物理量の時間変化に基づいて前記目標時間変化を導出し、導出した前記目標時間変化を前記記憶部に記憶させてもよい。このような構成により、接合装置内で目標時間変化の記憶部への記録を完結することができる。
【0060】
(6)上記(5)に関連し、前記制御部は、前記物理量計により計測した前記物理量の時間変化が前記目標時間変化と一致するように前記物理量を、計測した前記物理量をフィードバック値としたフィードバック制御などにより変化させてもよい。制御部は、前記放射温度計により計測した前記ワークの温度に基づいて前記ワークの温度異常の有無を監視してもよい。これにより、目標時間変化の記録段階で使用される放射温度計を、ワークの接合段階でも有効利用することができる。
【0061】
(7)上記(4)~(6)に関連し、前記記録部は、前記目標時間変化を導出するときに前記物理量の時間変化を平滑化してもよい。前記記録部は、前記接合部による前記サンプルの接合を、異なる接合条件により複数回試行し、前記目標時間変化を導出するときに前記物理量の複数の時間変化を統計処理して前記目標時間変化を導出してもよい。これらにより、物理量の測定誤差、異常値などが目標時間変化に悪影響を及ぼすことが低減される。
【0062】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態及び変形例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではない。上記実施形態及び変形例に対しても様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0063】
10…接合装置、20…接合部、21,22…電極、23…加圧装置、24…電源回路、31…放射温度計、32…電流計、33…操作装置、34…表示装置、40…コントローラ、41…プロセッサ、41A…記録部、41B…制御部、43…記憶装置、110…接合装置、120…接合部、121,122…挟持部材、123…加圧装置、124…超音波発振機構、W,W10…ワーク、W1,W2,W11,W12…接合部材。