(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119736
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】植物用抵抗性誘導剤
(51)【国際特許分類】
A01N 61/00 20060101AFI20230822BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230822BHJP
A01N 37/44 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
A01N61/00 C
A01P3/00
A01N37/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022742
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】飯野 藤樹
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 義弘
(72)【発明者】
【氏名】鳴坂 真理
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BA06
4H011BB20
4H011BC06
4H011DA13
4H011DF04
(57)【要約】
【課題】新たな植物用抵抗性誘導剤を提供すること。
【解決手段】腐植酸を有効成分として含有する、植物用抵抗性誘導剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐植酸を有効成分として含有する、植物用抵抗性誘導剤。
【請求項2】
メラニックインデックスが2.0以上である、請求項1に記載の植物用抵抗性誘導剤。
【請求項3】
前記腐植酸の質量平均分子量が100~6,000である、請求項1又は2に記載の植物用抵抗性誘導剤。
【請求項4】
前記有効成分が腐植酸抽出液であり、
前記腐植酸抽出液の全有機炭素濃度が15,000mg/L以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の植物用抵抗性誘導剤。
【請求項5】
褐炭由来である、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物用抵抗性誘導剤。
【請求項6】
植物の病害抵抗性を高める方法であって、
前記植物に腐植酸を施用することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物用抵抗性誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
植物を病害から保護するために、病原菌、ウイルスの防除剤が用いられる場合がある。例えば、特許文献1には、金属のキレートまたは塩を有効成分とする、植物病原菌の防除剤が開示されている。例えば、特許文献2には、グルコン酸亜鉛およびグルコン酸銅の少なくとも1つを有効成分とする、植物ウイルス病の防除剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-132552号公報
【特許文献2】特許第6634325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新たな植物用抵抗性誘導剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の各発明に関する。
[1]腐植酸を有効成分として含有する、植物用抵抗性誘導剤。
[2]メラニックインデックスが2.0以上である、[1]に記載の植物用抵抗性誘導剤。
[3]腐植酸の質量平均分子量が100~6,000である、[1]又は[2]に記載の植物用抵抗性誘導剤。
[4]有効成分が腐植酸抽出液であり、腐植酸抽出液の全有機炭素濃度が15,000mg/L以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の植物用抵抗性誘導剤。
[5]褐炭由来である、[1]~[4]のいずれかに記載の植物用抵抗性誘導剤。
[6]植物の病害抵抗性を高める方法であって、植物に腐植酸を施用することを含む、方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新たな植物用抵抗性誘導剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】試験例1におけるPR1遺伝子の発現解析結果を示すグラフである。
【
図2】試験例2におけるPR1遺伝子の発現解析結果を示すグラフである。
【
図3】試験例3において腐植酸抽出液の施用による発病度の抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【
図4】試験例4において腐植酸抽出液の施用による発病度の抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【
図5】試験例5において腐植酸抽出液の施用による発病度の抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【
図6】試験例6において腐植酸抽出液の施用による発病度の抑制効果を確認した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
〔植物用抵抗性誘導剤〕
本実施形態に係る植物用抵抗性誘導剤は、腐植酸を有効成分として含有する。本実施形態に係る植物用抵抗性誘導剤は、これを使用しない場合と比べて、植物の病害抵抗性を高めることができる。本実施形態に係る植物用抵抗性誘導剤は、その効果がマイルドであるため、薬害を発生させることなく、植物の病害抵抗性を高めることができる。本実施形態に係る植物用抵抗性誘導剤は、作物保護に好適に用いることができる。抵抗性が誘導されていることは、例えば、感染特異的タンパク質(PRタンパク質)遺伝子(例えば、PR1遺伝子)の発現量によって確認することができる。
【0010】
抵抗性誘導剤の対象となる植物は、特に制限されないが、例えば、ナス科植物、ウリ科植物、バラ科植物、アブラナ科植物、イネ科植物、サトイモ科植物、マメ科植物が挙げられる。ナス科植物としては、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、タバコ、ジャガイモ等が挙げられる。ウリ科植物としては、キュウリ、カボチャ、メロン等が挙げられる。バラ科植物としては、イチゴ、リンゴ、ナシ、ウメ、モモ等が挙げられる。アブラナ科植物としては、例えば、ハクサイ、チンゲンサイ、キャベツ、コマツナ、シロイヌナズナ等が挙げられる。イネ科植物としては、イネ、コムギ等が挙げられる。サトイモ科植物としては、サトイモ等が挙げられる。マメ科植物としては、ダイズ、エンドウ等が挙げられる。
【0011】
本実施形態に係る植物用抵抗性誘導剤は、植物種に応じた種々の病害に対する抵抗性を高めることができる。病害と、植物(宿主植物)との関係は、例えば、日本植物病名データベース(農業生物資源ジーンバンク)に収載されている。病原菌としては、例えば、トマト斑葉細菌病菌(例えば、Pseudomonas syringae)、アブラナ科野菜黒斑細菌病菌(例えば、Pseudomonas cannabina pv. alisalensis)が挙げられる。
【0012】
<腐植酸>
本明細書における「腐植酸」には、フミン酸及びフルボ酸が含まれる。腐植酸は、腐植酸及び腐植酸塩からなる群より選択される1種以上を含む。腐植酸は、作物体の生育を促進する、環境ストレス(例えば、温暖化の影響)を受けにくくなる等の農業上の利点を有するため、本実施形態に係る植物用抵抗性誘導剤によれば、植物病害の抵抗性を誘導するとともに、植物の生育を促進する、及び、環境ストレス(例えば、温暖化の影響)を受けにくくなる等の効果を得ることができる。
【0013】
腐植酸としては、泥炭及び風化炭等の天然に産出される天然腐植酸、褐炭の硝酸酸化等により人工的に製造される人工腐植酸、及び、天然腐植酸又は人工腐植酸をナトリウム、カリウム、アンモニア、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ物質で中和した腐植酸塩等が挙げられる。腐植酸としては、フルボ酸、フミン酸、ニトロフミン酸、フミン酸アンモニウム、フミン酸カルシウム、フミン酸マグネシウム、ニトロフミン酸アンモニウム、ニトロフミン酸カルシウム及びニトロフミン酸マグネシウム、フミン酸カリウム、ニトロフミン酸カリウム等が挙げられる。
【0014】
有効成分は、腐植酸抽出液であってよい。腐植酸抽出液は、若年炭の硝酸酸化物を、水と必要によりアルカリを含む抽出溶媒により抽出した抽出物であってよい。
【0015】
若年炭とは、瀝青炭等に比べ炭素含有量の少ない石炭であり、炭素含有率が83質量%以下であるものと定義される。若年炭としては、例えば、泥炭、亜炭、褐炭、亜瀝青炭等が挙げられる。若年炭は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してよい。腐植酸は、抵抗性誘導効果の点から、褐炭由来であってよい。
【0016】
若年炭の硝酸酸化物は、若年炭を硝酸で酸化分解させて得られる。硝酸としては濃硝酸が好ましい。安全性と反応性の点で、濃度40~60質量%の硝酸を用いることが好ましい。酸化分解の際の硝酸(HNO3)の使用量は、若年炭20質量部に対して、10質量部以上、又は20質量部以上であってよく、300質量部以下、250質量部以下、200質量部以下、150質量部以下、100質量部以下、50質量部以下、36質量部以下、又は20質量部以下であってよい。硝酸(HNO3)の使用量は、若年炭20質量部に対して、10~20質量部であってよく、20~36質量部であってよい。ここで、硝酸の使用量は100%硝酸(100%HNO3)に換算した値である。
【0017】
酸化分解の際の温度は、例えば、70~95℃であってよい。酸化反応のスターターとして、湯浴等で70~95℃に加温すると酸化反応が速やかに進行しやすい。反応時間は、例えば、20分間以上、0.5時間以上、又は1時間以上であってよく、6時間以下、4時間以下、又は1時間以下であってよい。
【0018】
腐植酸抽出液は、例えば、若年炭の硝酸酸化物(以下、腐植酸粗製物という)と、水及びアルカリを含む抽出溶媒とを攪拌した後、固液分離工程を行うことにより、液状物として得られる。
【0019】
アルカリとしては、水酸化物、アンモニア等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム等が挙げられる。水酸化物としては、アルカリ金属の水酸化物が好ましい。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。水酸化物としては、水酸化カリウム、酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム(アンモニア水)のうちの1種以上が好ましい。抽出溶媒のpHは、0.5~7.0、0.5~4.0又は1.0~3.0であってよい。
【0020】
腐植酸粗製物を抽出溶媒で抽出する際の温度(抽出温度)は、抽出液の凍結及び品質低下を更に抑制する観点から、例えば、40~90℃であってよい。腐植酸粗製物を抽出溶媒で抽出する時間(抽出時間)は、例えば、0.5時間以上であってよく、24時間以下であってよく、1時間以下であってもよい。
【0021】
腐植酸粗製物を調製するために用いた原料の若年炭の量に対する抽出溶媒の量を、固液比と定義する。例えば、若年炭20gから調製された粗製物に抽出溶媒(水)100g(100mL)を添加した場合、固液比(抽出溶媒/若年炭)は5となる。固液比は3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上又は10以上であってよく、15以下、13以下、11以下、9以下、7以下、又は6以下であってよい。固液比は、水の添加によって調整することができる。固液比は、pHを調整後に目的の固液比となるように調整されてよい。固液分離する方法は、遠心分離、フィルタープレス等であってよい。
【0022】
腐植酸抽出液の全有機炭素濃度(TOC)は15,000mg/L以上、15,300mg/L以上、15,500mg/L以上、16,000mg/L以上、16,500mg/L以上、17,000mg/L以上、17,500mg/L以上、18,000mg/L以上、18,500mg/L以上、19,000mg/L以上、19,500mg/L以上、20,000mg/L以上、又は20,500mg/L以上であってよい。腐植酸抽出液のTOCは、75,000mg/L以下、70,000mg/L以下、65,000mg/L以下、60,000mg/L以下、55,000mg/L以下、50,000mg/L以下、45,000mg/L以下、40,000mg/L以下、35,000mg/L以下、30,000mg/L以下、25,000mg/L以下、24,000mg/L以下、23,000mg/L以下、又は22,000mg/L以下であってよい。
【0023】
腐植酸抽出液のTOCの測定方法は、次のように定義される。腐植酸抽出液を、3,000×gで遠心分離した上澄み液を、全有機体炭素計(島津製作所製TOC-L)を用いて燃焼触媒酸化方式で測定した値である。肥料成分である尿素等の非腐植物質を含む場合は、国際腐植物質学会法(藤嶽、HumicSubstances Research Vol3、P1-9)に準じて分別したもの(フミン酸画分及びフルボ酸画分)を上記の手法にて定量し、腐植酸抽出液のTOCを測定する。
【0024】
腐植酸のメラニックインデックス(MI)は、例えば、1.5以上、2.0以上、2.2以上、2.5以上、3.0以上、又は3.5以上であってよい。腐植酸のMIは、6.5以下、6.0以下、5.5以下、5.0以下、4.5以下、4.0以下、3.5以下、又は3.0以下であってよい。
【0025】
MIとは、腐植酸の分類に用いられている指標であり、水酸化ナトリウム抽出液の吸収スペクトルの波長450nmと520nmにおける吸光度の比(A450/A520)である。(熊田恭一著、土壌有機物の化学第2版 学会出版センター(1981)、日本土壌肥料学雑誌 第71号 第1号 p.82~85(2000))。
【0026】
より具体的には、MIとは、次の方法によって算出されるものである。試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕する。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤する。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤する。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求める。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過する。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定する。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定する。(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)の比を算出し、MIとする。
【0027】
腐植酸の質量平均分子量は、100~6,000であってよい。腐植酸の質量平均分子量の下限は、例えば、200以上、300以上、400以上、500以上、600以上、700以上、800以上、900以上、又は1000以上であってよい。腐植酸の質量平均分子量の上限は、例えば、5,500以下、5,000以下、4,500以下、4,000以下、3,500以下、3,000以下、2,500以下、2,000以下、1,500以下、1,2000以下、又は1,000以下であってよい。
【0028】
腐植酸の質量平均分子量は、Waters社製Alliance HPLC Systemを用い、HPSEC法(GPC法)により測定される。カラムは昭和電工(株)SB-803HQ、標準試料はポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、検出波長は260nmとする。移動相は25質量%アセトニトリル含有の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液とし、流速は0.8ml/分とし、カラムの温度は40℃(カラムオーブンの設定値)とする。
【0029】
植物用抵抗性誘導剤の剤型は、例えば、液剤又は粉剤であってよい。粉剤は、例えば、液剤である植物用抵抗性誘導剤を凍結乾燥等によってドライアップすることにより、再溶解可能な粉剤として得ることができる。
【0030】
植物用抵抗性誘導剤は、腐植酸以外の他の成分を含んでいてよい。他の成分としては、例えば、展着剤、肥料、植物活性剤が挙げられる。肥料としては、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、リン酸アンモニウムが挙げられる。植物活性剤としては例えば海藻抽出エキス、アミノ酸が挙げられる。アミノ酸としては、例えば、グリシン、プロリン、グルタミン酸が挙げられる。植物用抵抗性誘導剤がグリシンを含む場合、病害の抑制効果を更に高めることができる。
【0031】
本実施形態に係る植物の病害抵抗性を高める方法は、植物に腐植酸を施用することを含む。
【0032】
植物に腐植酸を施用する方法として、植物に対して散布、塗付等を行う方法、土壌潅注又は土壌混和等を行う方法が挙げられる。
【0033】
腐植酸の施用量及び施用期間は特に限られず、土壌施用の場合は全有機炭素濃度として0.1~1000mg/Lを月に1~30回若しくは全有機炭素濃度として0.1~100mg/L程度を毎日とすることができ、水耕栽培の場合は全有機炭素濃度として0.1~1000mg/Lを全栽培期間とすることができ、葉面施用の場合は全有機炭素濃度として0.1~1000mg/Lで月に1~12回とすることができる。
【実施例0034】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0035】
[腐植酸抽出液Aの準備]
ドラフト中で、炭素含有率が77質量%の褐炭500gを1,000mlのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸625g(若年炭100質量部に対して100%硝酸60質量部)を添加した。80℃の水浴中で3時間酸化反応を行った。この操作で得た腐植酸を含む粗製物を以下の抽出操作に供した。
この粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約900mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH6.5とした。固液比(抽出溶媒/若年炭)10:1となるように水を加え、80℃で1時間抽出した。この抽出液を、3,000×gで遠心分離し、得られた上澄み液は適宜希釈し、質量平均分子量、全有機炭素濃度(TOC)及びメラニックインデックス(MI)を測定した。
【0036】
腐植酸抽出液A中の腐植酸のMIは2.2であった。腐植酸抽出液Aの全有機炭素濃度(TOC)は、34,000mg/Lであった。腐植酸抽出液A中の腐植酸の質量平均分子量は4,300であった。
【0037】
[腐植酸抽出液Bの準備]
ドラフト中で、炭素含有率が77質量%の褐炭500gを1,000mlのビーカーに入れて、濃度48質量%の硝酸1562.5g(若年炭100質量部に対して100%硝酸150質量部)を添加した。80℃の水浴中で3時間酸化反応を行った。この操作で得た腐植酸を含む粗製物を以下の抽出操作に供した。
この粗製物100gに0.5mol/Lの水酸化カリウム水溶液を約450mL加え、pH計でモニタしながら1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を適宜加えpH2.0とした。固液比(抽出溶媒/若年炭)5:1となるように水を加え、80℃で1時間抽出した。この抽出液を、3,000×gで遠心分離し、得られた上澄み液は適宜希釈し、質量平均分子量、全有機炭素濃度(TOC)及びメラニックインデックス(MI)を測定した。
【0038】
腐植酸抽出液B中の腐植酸のMIは4.8であった。腐植酸抽出液Bの全有機炭素濃度(TOC)は、22,000mg/Lであった。腐植酸抽出液B中の腐植酸の質量平均分子量は530であった。
【0039】
[質量平均分子量]
腐植酸の質量平均分子量は、Waters社製Alliance HPLC Systemを用い、HPSEC法(GPC法)により測定した。カラムは昭和電工(株)SB-803HQ、標準試料はポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用い、検出波長は260nmとした。移動相は25質量%アセトニトリル含有の10mmol/Lリン酸ナトリウム緩衝液とし、流速は0.8ml/分とし、カラムの温度は40℃(カラムオーブンの設定値)とした。
【0040】
[全有機炭素濃度(TOC)]
腐植酸抽出液のTOCは、全有機体炭素計(島津製作所製TOC-L)を用い、燃焼触媒酸化方式で測定した。
【0041】
[メラニックインデックス(MI)]
試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕した。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤した。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤した。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求めた。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過した。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定した。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定した。(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)の比を算出し、MIとした。
【0042】
[試験例1:シロイヌナズナの葉面に腐植酸を噴霧した際の遺伝子発現]
シロイヌナズナCol-0(土植、播種から3週齢)に、0.1%アプローチBI(農薬用展着剤、丸和バイオケミカル株式会社)を添加した200倍(
図1の×200)希釈腐植酸抽出液Aを噴霧処理し、10、24時間後にサンプリングを個体ごと(3サンプル)に行った。対照区(
図1のCont Ap)として0.1%アプローチBIのみを処理した植物のサンプリングを行った。リアルタイムPCRにより、PR1;At2g14610の遺伝子発現を解析した。サンプル間のノーマライズにはAtCBP20遺伝子を用いた。
【0043】
一般的に植物のPR1遺伝子は、植物病害に対する抵抗性誘導の指標となるマーカーであり、PR1の発現上昇は、植物病害に対する抵抗性が誘導されていることを示す。例えば、シロイヌナズナではAtPR1(Arabidopsis thaliana PR1)、トマトではSlPR1(Solanum lycopersicum PR1)である。
【0044】
図1は、PR1遺伝子の発現解析結果を示すグラフである。
図1のとおり、腐植酸の施用によりPR1遺伝子の発現が上昇した。
【0045】
[試験例2:トマトの葉面に腐植酸を噴霧した際の遺伝子発現]
トマト(品種レジナ)(土植、播種から17日齢、本葉2.5枚)に0.1%アプローチBI(農薬用展着剤、丸和バイオケミカル株式会社)を添加した200倍希釈腐植抽出液A(
図2の×200)を噴霧処理し、5,10,24時間後にサンプリング(2個体から3サンプル)を行った。また、対照区(
図2のCont Ap)として0.1%アプローチBIのみを処理した植物のサンプリングを行った。次いで、total RNAを調製し、cDNA合成を行った後に、リアルタイムPCRにより、SlPR1遺伝子の発現を解析した。サンプル間のノーマライズにはSlTIP41遺伝子を用いた。
【0046】
図2は、SlPR1遺伝子の発現解析の結果を示すグラフである。
図2のとおり、トマトを用いた場合でも、腐植酸の施用によりPR1遺伝子の発現が上昇した。
【0047】
[試験例3:腐植酸抽出液Aを用いた場合のトマトへの病原菌接種試験]
以下の方法で対照区、試験区(腐植酸抽出液A(150ppm))及びポジティブコントロールの薬剤を準備した。
対照区では水に0.1%の展着剤(アプローチBI)を添加して散布液を調製した。試験区では腐植酸抽出液A(全有機炭素濃度34,000mg/L)を水で希釈することで全有機炭素濃度150mg/Lの散布液を調整した。散布液には0.1%の展着剤(アプローチBI)を添加した。
【0048】
トマト(品種レジナ)(播種後、13日齢、本葉2.3枚)に、各剤を噴霧処理し、培養庫に静置した(24℃、明暗下16h/8hサイクル、湿度50%)。1週間おきに3回噴霧処理を行い、3回目噴霧から処理2日後にトマト斑葉細菌病菌Pseudomonas syringae(1×107cfu/ml)を噴霧接種した。接種5日後に発病度を調査した。
【0049】
発病度は、以下の式で表される。発病度は結果を
図3に示す。
発病度={(1n1+2n2+3n3+4n4+5n5)/(5×調査数)}×100
発病調査は発病程度を以下の5つに区分して調査した。
0:病徴なし、1:微小斑点、2:葉の25%未満の面積に病斑が認められる、3:葉の25%以上50%未満の面積に病斑が認められる、4:葉の50%以上の面積に病斑が認められる、5:落葉又は枯死
n1からn5は個体数を示す。
上記試験方法による発病度の抑制現象は、ポジティブコントロールを用いた試験により確認している。
【0050】
図3のとおり、腐植酸抽出液Aの施用により、発病度が抑制されることが確認された。
【0051】
[試験例4:腐植酸抽出液Bを用いた場合のトマトへの病原菌接種試験]
以下の方法で対照区、及び試験区(腐植酸抽出液B(100ppm又は40ppm))の薬剤を準備した。
対照区では水の0.1%の展着剤(アプローチBI)を添加して散布液を調製した。
試験区では腐植酸抽出液B(全有機炭素濃度22,000mg/L)を水で希釈することで全有機炭素濃度100mg/L又は40mg/Lの散布液を調製した。散布液には0.1%の展着剤(アプローチBI)を添加した。
【0052】
トマト(品種レジナ)(播種後、10日齢、未展開の本葉2枚)に、各剤を噴霧処理し、培養庫に静置した(24℃、明暗下16h/8hサイクル、湿度50%)。1週間おきに3回噴霧処理を行い、3回目噴霧から処理2日後にトマト斑葉細菌病菌Pseudomonas syringae(1×10
7cfu/ml)を噴霧接種した。接種5日後に発病度を調査した。発病度の結果を
図4に示す。
【0053】
図4のとおり、腐植酸抽出液Bの施用によっても、発病度が抑制されることが示された。
【0054】
[試験例5:グリシン(Gly)併用時のトマトへの病原菌接種試験]
以下の方法で対照区、試験区1(腐植酸抽出液B40ppm)、試験区2(腐植酸抽出液B40ppm+Gly50ppm)、試験区3(Gly50ppm)及びポジティブコントロールの薬剤を準備した。
対照区では水に0.1%の展着剤(アプローチBI)を添加して散布液を調製した。
試験区1又は試験区2では腐植酸抽出液B(全有機炭素濃度22,000mg/L)およびグリシン(和光純薬社製)を水で希釈することで腐植酸抽出液B40mg/L又は腐植酸抽出液B40mg/L+Gly50mg/Lの散布液を調製した。散布液には0.1%の展着剤(アプローチBI)を添加した。
試験区3ではグリシンを水で希釈することでGly50mg/Lの散布液を調製した。散布液には0.1%の展着剤(アプローチBI)を添加した。
【0055】
トマト(品種レジナ)(播種後、17日齢、本葉2.3枚)に、各剤を噴霧処理し、培養庫に静置した(24℃、明暗下16h/8hサイクル、湿度50%)。処理2日後にトマト斑葉細菌病菌Pseudomonas syringae(1×10
7cfu/ml)を噴霧接種した。以上について湿室下(24℃、明暗下16h/8hサイクル)にて培養し、接種5日後に病徴を検定した。発病度の結果を
図5に示す。
【0056】
図5のとおり、グリシン併用時に発病度の抑制効果が向上した。
【0057】
[試験例6:トマトへの病原菌接種試験 株元潅注効果の検証]
以下の方法で対照区、試験区1(腐植酸抽出液A150ppm)、試験区2(腐植酸抽出液B100ppm)、試験区3(腐植酸抽出液B40ppm)及び試験区4(BTH100ppm)の薬剤を準備した。BTHは、アシベンゾラルSメチルである。BTHは、潅注処理により、発病度を抑制可能な資材である。
対照区では水のみを施用した。
試験区1では腐植酸抽出液A(全有機炭素濃度34,000mg/L)を水で希釈することで全有機炭素濃度150mg/Lの薬剤を準備した。
試験区2又は試験区3では腐植酸抽出液B(全有機炭素濃度22,000mg/L)を水で希釈することで全有機炭素濃度100mg/L又は40mg/Lの薬剤を準備した。 試験区4ではBTH(和光純薬社製)を水で希釈することでBTH100mg/Lの薬剤を準備した。
【0058】
トマト(品種レジナ)(播種後、11日齢、未展開の本葉2枚)に、各剤を潅注処理(15ml/ポット)し、培養庫に静置した(24℃、明暗下16h/8hサイクル、湿度50%)。1週間おきに2回(合計3回)潅注処理した。最終の処理2日後にトマト斑葉細菌病菌Pseudomonas syringae(5×10
6cfu/ml)を噴霧接種した(個体ごとに4-5回噴霧)。以上について、湿室下(24℃、明暗下16h/8hサイクル)にて培養し、接種5日後に病徴を検定した。結果を
図6に示す。
【0059】
図6に示すとおり、潅注処理の場合であっても、腐植酸抽出液の施用により発病度が抑えられることが確認された。