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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119764
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】真空式温水機
(51)【国際特許分類】
   F24H 4/02 20220101AFI20230822BHJP
   F25B 30/02 20060101ALI20230822BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20230822BHJP
   F25B 41/20 20210101ALI20230822BHJP
   F24H 1/36 20220101ALI20230822BHJP
   F24H 15/156 20220101ALI20230822BHJP
   F24H 15/227 20220101ALI20230822BHJP
   F24H 15/375 20220101ALI20230822BHJP
【FI】
F24H4/02 A
F25B30/02 F
F25B1/00 321A
F25B1/00 101Z
F25B1/00 331B
F25B41/20 Z
F24H4/02 E
F24H1/36
F24H15/156
F24H15/227
F24H15/375
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022802
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】505229472
【氏名又は名称】株式会社日本サーモエナー
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 智郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕人
【テーマコード(参考)】
3L122
【Fターム(参考)】
3L122AA02
3L122AA12
3L122AA23
3L122AA54
3L122AA65
3L122AB62
3L122AC22
3L122AC24
3L122BC14
3L122BC19
3L122BC23
3L122DA25
3L122DA26
(57)【要約】
【課題】 ヒートポンプユニットの凝縮器によって熱媒水を加熱する真空式温水機において、熱媒水温度が高い運転状態であっても成績係数の向上を図り得る真空式温水機を提供する。
【解決手段】 熱媒水Wが封入されるとともに大気圧以下に減圧した状態に保持される密閉容器2と、熱媒水Wの加熱により発生する蒸気を、供給される循環温水との間接熱交換により凝縮液化させる循環昇温用熱交換器7と、膨張弁12、蒸発器13、圧縮機14、凝縮器11、及び過冷却器16が順に接続され冷媒を循環させるための主循環路17を有するヒートポンプユニット15と、を含み、凝縮器11は、熱媒水Wを加熱するために密閉容器2内に配設され、過冷却器16は、密閉容器2外において、前記循環温水との間接熱交換により、凝縮器11を通過した冷媒を放熱させるように構成されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒水が封入されるとともに大気圧以下に減圧した状態に保持される密閉容器と、
前記熱媒水の加熱により発生する蒸気を、供給される循環温水との間接熱交換により凝縮液化させる循環昇温用熱交換器と、
膨張弁、蒸発器、圧縮機、凝縮器、及び過冷却器が順に接続され冷媒を循環させるための主循環路を有するヒートポンプユニットと、を含み、
前記凝縮器は、前記熱媒水を加熱するために前記密閉容器内に配設され、
前記過冷却器は、前記密閉容器外において、前記循環温水との間接熱交換により、前記凝縮器を通過した冷媒を放熱させるように構成されている、
真空式温水機。
【請求項2】
前記主循環路に接続されて前記凝縮器と前記膨張弁との間で前記過冷却器をバイパスするバイパス路と、
前記膨張弁の出口から前記圧縮器の入口迄の前記主循環路を流れる冷媒との間接熱交換により、前記バイパス路により前記過冷却器をバイパスさせる冷媒を放熱させるための内部熱交換器と、
前記バイパス路により前記過冷却器をバイパスさせる冷媒の流量を調節する流量調節器と、
前記膨張弁に入る冷媒の温度を検出する第1温度検出器と、
前記膨張弁に入る冷媒の圧力を検出する圧力検出器と、
前記第1温度検出器の検出値及び前記圧力検出器の検出値に基づいて、前記凝縮器を出て前記膨張弁に入る迄の間の冷媒の過冷却度を演算し、演算した前記過冷却度が予め設定された過冷却度になるように前記流量調節器を制御する制御部と、
を含む、請求項1に記載の真空式温水機。
【請求項3】
前記主循環路に接続されて前記凝縮器と前記膨張弁との間で前記過冷却器をバイパスするバイパス路と、
前記膨張弁の出口から前記圧縮器の入口迄の前記主循環路を流れる冷媒との間接熱交換により、前記バイパス路を流れる冷媒を放熱させるための内部熱交換器と、
前記バイパス路により前記過冷却器をバイパスさせる冷媒の流量を調節する流量調節器と、
前記膨張弁に入る冷媒の温度を検出する第1温度検出器と、
前記凝縮器を出た冷媒の温度を検出する第2温度検出器と、
前記第1温度検出器の検出値及び前記第2温度検出器の検出値に基づいて、前記凝縮器を出て前記膨張弁に入る迄の間の冷媒の過冷却度を演算し、演算した前記過冷却度が予め設定された過冷却度になるように前記流量調節器を制御する制御部と、
を含む、請求項1に記載の真空式温水機。
【請求項4】
前記循環昇温用熱交換器が、第1の温度の第1循環温水が供給される第1循環昇温用熱交換器と、第1の温度より低い第2の温度の第2循環温水が供給される第2循環昇温用熱交換器と、を含み、
前記過冷却器が、一次過冷却器と、前記一次過冷却器の二次側に接続された二次過冷却器と、を含み、
前記一次過冷却器が前記第1循環昇温用熱交換器に供給される前記第1循環温水と熱交換した後に、前記二次過冷却器が前記第2循環昇温用熱交換器に供給される前記第2循環温水と熱交換するように構成されている、請求項1~3の何れかに記載の真空式温水機。
【請求項5】
前記凝縮器は、前記熱媒水の飽和温度以上で気体状の前記冷媒を凝縮させて潜熱を熱媒水に放熱する凝縮器であり、
前記過冷却器は、前記熱媒水の温度以下の前記循環温水に顕熱を放熱する過冷却器である、請求項1~4の何れかに記載の真空式温水機。
【請求項6】
給湯用熱交換器を更に備え、
前記過冷却器は、前記循環昇温用熱交換器を循環する前記循環温水との熱交換にのみ設けられる、
請求項1~5の何れかに記載の真空式温水機。
【請求項7】
前記ヒートポンプユニットは、前記冷媒の臨界温度が92℃を超える高温ヒートポンプサイクルユニットである、請求項1~6の何れかに記載の真空式温水機。
【請求項8】
補助加熱装置を更に備え、
前記補助加熱装置は、前記熱媒水に水没するように配設された火炉及び水管群を有し、
前記凝縮器が前記補助加熱装置の上側に配設されている、請求項1~7の何れかに記載の真空式温水機。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧されて略真空状態の密閉容器に封入された熱媒水を加熱し、100℃以下の低温で沸騰させて、その蒸気を熱源として水を加熱し、温水を発生させる真空式温水機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の真空式温水機としては、例えば、図5に示す構造のものが知られている(特許文献1等)。図5に示す真空式温水機1Eは、密閉容器2、燃焼バーナ3、火炉(燃焼室)4、減圧蒸気室5、熱媒水W、熱交換器6、7、水管群8、自動抽気装置9等を備えており、密閉容器2内を自動抽気装置9により大気圧以下に減圧して真空に近い状態とし、この状態で燃焼バーナ3により熱媒水Wを加熱沸騰させて減圧蒸気室5内にそのときの熱媒水Wの温度と同じ蒸気を発生させ、その蒸気が熱交換器6、7の表面で凝縮することで熱交換器6,7内の水を加熱し、温水を作る。
【0003】
この真空式温水機1Eは、密閉容器2内が減圧されているため、熱交換器6、7から多量の温水を取り出す高負荷運転時においても、要求される温度の温水を素早く負荷側へ供給できるメリットがある。
【0004】
しかしながら、図5に示すように燃焼バーナ3により熱媒水を加熱している真空式温水機においては、熱効率が80%~95%程度までであり、それ以上の熱効率を得ることが困難である。
【0005】
上記の熱効率を高めるため、燃焼排ガス中に含まれる水蒸気の潜熱を回収する熱回収装置を付設することが提案されている(特許文献2等)。しかしながら、熱回収装置を別個に設けるため装置全体が大型化するうえ、燃焼排ガスが熱交換により低温となるため白煙が生じたり、燃焼排ガス中の水蒸気が凝縮するため発生する低pHの凝縮液の中和処理装置や腐食対策が必要になり、イニシャルコストが増加する。
【0006】
そこで、本発明者等は、図6に示すように、ヒートポンプユニット10の冷媒熱交換器(以下、「凝縮器11」と言う。)により真空式温水機1Fの熱媒水Wを加熱する方式で高効率化することを提案した(特許文献3)。図6において、符号12は膨張弁、符号13は蒸発器、符号14は圧縮機であり、図5と同様の構成部分には同符号を付している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-337002号公報
【特許文献2】特開2012-102906号公報
【特許文献3】特開2021-105491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的な真空式温水機で、出湯温度80℃や、暖房回路で温水を利用する場合(温水熱交換器の入口温度55℃、出口温度70℃)は、熱媒水温度を85℃~90℃で制御している。このような熱媒水温度で運転している真空式温水機に、図6に示すように熱媒水を加熱するヒートポンプユニットを組み込む場合、採用する冷媒は高温ヒートポンプサイクルに適した臨界温度が高いものが望ましい。市場で入手可能な純冷媒の中でR134aを例として、図7に示すモリエル線図を用いて検討すると、例えば、熱媒水温度88℃に凝縮器で熱を与えるためには、ヒートポンプユニットを循環する冷媒の飽和温度が熱媒水温度を超える圧力(熱媒水88℃に対し凝縮器のピンチ温度差が2℃ならば、冷媒の飽和温度は90℃となり、飽和圧力は3.2MPa)まで圧縮する必要がある。圧縮機を高圧縮比で運転すると圧縮機の断熱効率は一般的に低下(圧縮機の動力が増加)するため、ヒートポンプサイクルのCOP(成績係数)は低下する。そして、ヒートポンプユニットの冷媒は、熱媒水温度以下に下がらないため、利用可能な熱が冷媒に残っていても、それを利用することができず、図7のモリエル線図に示す1’→2’→3→4のサイクルとなり、凝縮器から熱媒水への放熱量が少ないためCOPはさらに低下する。
【0009】
そこで本発明は、ヒートポンプユニットの凝縮器によって熱媒水を加熱する真空式温水機において、COPの向上を図り得る真空式温水機を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る真空式温水機は、熱媒水が封入されるとともに大気圧以下に減圧した状態に保持される密閉容器と、前記熱媒水の加熱により発生する蒸気を、供給される循環温水との間接熱交換により凝縮液化させる循環昇温用熱交換器と、膨張弁、蒸発器、圧縮機、凝縮器、及び過冷却器が順に接続され冷媒を循環させるための主循環路を有するヒートポンプユニットと、を含み、前記凝縮器は、前記熱媒水を加熱するために前記密閉容器内に配設され、前記過冷却器は、前記密閉容器外において、前記循環温水との間接熱交換により、前記凝縮器を通過した冷媒を放熱させるように構成されている。
【0011】
一態様において、上記真空式温水機は、前記主循環路に接続されて前記凝縮器と前記膨張弁との間で前記過冷却器をバイパスするバイパス路と、前記膨張弁の出口から前記圧縮器の入口迄の前記主循環路を流れる冷媒との間接熱交換により、前記バイパス路により前記過冷却器をバイパスさせる冷媒を放熱させるための内部熱交換器と、前記バイパス路により前記過冷却器をバイパスさせる冷媒の流量を調節する流量調節器と、前記膨張弁に入る冷媒の温度を検出する第1温度検出器と、前記膨張弁に入る冷媒の圧力を検出する圧力検出器と、前記第1温度検出器の検出値及び前記圧力検出器の検出値に基づいて、前記凝縮器を出て前記膨張弁に入る迄の間の冷媒の過冷却度を演算し、演算した前記過冷却度が予め設定された過冷却度になるように前記流量調節器を制御する制御部と、を含む。
【0012】
また、他の一態様において、上記真空式温水機は、前記主循環路に接続されて前記凝縮器と前記膨張弁との間で前記過冷却器をバイパスするバイパス路と、前記膨張弁の出口から前記圧縮器の入口迄の前記主循環路を流れる冷媒との間接熱交換により、前記バイパス路を流れる冷媒を放熱させるための内部熱交換器と、前記バイパス路により前記過冷却器をバイパスさせる冷媒の流量を調節する流量調節器と、前記膨張弁に入る冷媒の温度を検出する第1温度検出器と、前記凝縮器を出た冷媒の温度を検出する第2温度検出器と、前記第1温度検出器の検出値及び前記第2温度検出器の検出値に基づいて、前記凝縮器を出て前記膨張弁に入る迄の間の冷媒の過冷却度を演算し、演算した前記過冷却度が予め設定された過冷却度になるように前記流量調節器を制御する制御部と、を含む。
【0013】
また、一態様において、前記循環昇温用熱交換器が、第1の温度の第1循環温水が供給される第1循環昇温用熱交換器と、第1の温度より低い第2の温度の第2循環温水が供給される第2循環昇温用熱交換器と、を含み、前記過冷却器が、一次過冷却器と、前記一次過冷却器の二次側に接続された二次過冷却器と、を含み、前記一次過冷却器が前記第1循環昇温用熱交換器に供給される前記第1循環温水と熱交換した後に、前記二次過冷却器が前記第2循環昇温用熱交換器に供給される前記第2循環温水と熱交換するように構成されている。
【0014】
また、一態様において、前記凝縮器は、前記熱媒水の飽和温度以上で気体状の前記冷媒を凝縮させて潜熱を熱媒水に放熱する凝縮器であり、前記過冷却器は、前記熱媒水の温度以下の前記循環温水に顕熱を放熱する過冷却器である。
【0015】
また、一態様において、給湯用熱交換器を更に備え、前記過冷却器は、前記循環昇温用熱交換器を循環する前記循環温水との熱交換にのみ設けられる。
【0016】
また、一態様において、前記ヒートポンプユニットは、前記冷媒の臨界温度が92℃を超える高温ヒートポンプサイクルユニットである。
【0017】
また、一態様において、上記真空式温水機が補助加熱装置を更に備え、前記補助加熱装置は、前記熱媒水に水没するように配設された火炉及び水管群を有し、前記凝縮器が前記補助加熱装置の上側に配設されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る真空式温水機によれば、凝縮器で冷却された冷媒が、過冷却器を通過する際に、循環温水に放熱することにより、COPを向上させることができる。
【0019】
即ち、理想ヒートポンプサイクルを逆カルノーサイクルとして扱うと、COPは下記式のように、温度のみで表すことができる。
【0020】
COP=T2/(T1-T2)
ここで、T1は低温部(蒸発器)の温度であり、T2は高温部(凝縮器)の温度である。
【0021】
COPは高温部と低温部との温度差が小さくなるほど向上する。特許文献3の真空温水機では、ヒートポンプ高温部の温度を熱媒水温度以下にできないため、COPの向上に限界があったが、本発明によれば、過冷却器を設けることで、高温部の平均温度が下がり、低温部との温度が小さくなるため、COPが向上する。
【0022】
また、過冷却器をバイパスさせた冷媒を、ヒートサイクルユニット内に設けた内部熱交換器での間接熱交換により、放熱させることで、過冷却器による過冷却度が小さい場合であっても所望の過冷却度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係る真空式温水機を示す一部省略縦断正面図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る真空式温水機を示す一部省略縦断正面図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る真空式温水機を示す一部省略縦断正面図である。
図4】本発明の第4実施形態に係る真空式温水機を示す要部縦断正面図である。
図5】従来の真空式温水機を示す縦断面図である。
図6】従来の他の真空式温水機を示す縦断面図である。
図7】本発明係る真空式温水機の実施例と比較例のヒートサイクルを示す圧力-エンタルピー線図(モリエル線図)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る真空式温水機の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、背景技術を含め全図及び全実施形態において、同一又は類似の構成部分には同符号を付している。
【0025】
先ず、図1を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る真空式温水機1Aについて説明する。図1を参照して、真空式温水機1Aは、熱媒水Wが封入されるとともに大気圧以下に減圧した状態に保持される密閉容器2と、熱媒水Wの加熱により発生する蒸気を循環温水Cとの間接熱交換により凝縮液化させる循環昇温用熱交換器7と、ヒートポンプユニット15と、を備えている。循環温水Cは、
ヒートポンプユニット15は、膨張弁12、蒸発器13、圧縮器14、凝縮器11、及び過冷却器16が順に接続された主循環路17にその順に冷媒を循環させる。凝縮器11は、熱媒水Wを加熱するために、熱媒水Wに水没するようにして、密閉容器2内に配設される。
【0026】
過冷却器16は、凝縮器11を通過した冷媒を、密閉容器2外において、循環温水Cとの間接熱交換により過冷却するように構成されている。過冷却器16は、循環昇温用熱交換器7の入口側配管27に組み込まれている。
【0027】
密閉容器2は、公知の自動抽気装置9によって、密閉容器2の上部から抽気され、真空に近い圧力迄減圧された状態で保持される。自動抽気装置9は、抽気ポンプ、制御弁等で構成され得る。
【0028】
循環昇温用熱交換器7は、密閉容器2内の熱媒水Wの上部の空間に配置されている。図1に示す例に於いて、循環昇温用熱交換器7は、暖房用の温水熱交換器であり、循環温水の温度は入口付近で約55℃、出口付近で約70℃である。循環昇温用熱交換器7は、暖房用の循環温水の他、浴槽や温水プールなどの循環温水、或いは、工場等の薬剤槽の間接加熱用の循環温水、その他の循環温水の加熱に用いられる。循環昇温用熱交換器7に供給される循環温水の温度(入口温度)は、好ましくは、30℃より高い温度である。
【0029】
また、図示例において、給湯用途の給湯用熱交換器6が循環昇温用熱交換器7の上側に配設されており、給湯用熱交換器6によって加熱される給湯用温水Sは、入口付近で約30℃、出口付近で約65℃である。給湯用熱交換器6は、一般には、供給される給水温度、即ち、給湯用熱交換器6の入口の給水の温度が30℃以下である。
【0030】
ヒートポンプユニット15では、冷媒が図の矢印方向に流れる。ヒートポンプユニット15の冷媒は、圧縮器14により熱媒水Wの飽和温度よりも高い温度に加熱された後、凝縮器11の冷媒入口に送られる。
【0031】
主循環路17を循環する冷媒は、熱媒水Wの飽和温度よりも高い温度の気体状態で凝縮器11に入り、凝縮器11で潜熱を熱媒水Wに放熱することにより液化し、過冷却器16で過冷却され、膨張弁12で蒸発しやすい圧力まで減圧されるとともにその圧力に応じた温度まで低下し、次いで蒸発器13で空気の熱を奪って蒸発(気化)した後、再び、圧縮器14で熱媒水Wの飽和温度よりも高い温度に加熱されて気体状態で凝縮器11に入る。
【0032】
凝縮器11の伝熱面は、圧縮器14により加熱された冷媒により、熱媒水Wの飽和温度よりも高い温度に加熱される。ヒートポンプユニット15の凝縮器11で熱媒水Wを加熱すると、その伝熱面は沸騰状態となる。沸騰状態の伝熱面では、気泡形成の際の蒸発潜熱の吸収、および形成された気泡が伝熱面を離脱する際に局所的な強い流れとなり、伝熱面の熱媒水Wの間に強い対流伝熱を生じさせるため、伝熱効率は非沸騰状態より大きくなる。
【0033】
凝縮器11の加熱により発生した熱媒水Wの蒸気により、熱媒水Wの液面の上部の減圧空間に減圧蒸気室5が形成される。前記蒸気は、その減圧蒸気室5内に配置されている循環昇温用熱交換器7及び給湯用熱交換器6の表面で、循環昇温用熱交換器7に供給される循環温水及び給湯用熱交換器6に供給される給水との熱交換により冷却されて凝縮し、液滴となって滴下する。こうして、熱媒水Wは、蒸発と凝縮のサイクルを繰り返す。一方、循環昇温用熱交換器7に供給された循環温水及び給湯用熱交換器6に供給された給水は、熱媒水Wの蒸気との熱交換により加熱され、これにより、所望の温度の温水(循環温水及び給湯)が循環昇温用熱交換器7及び給湯用熱交換器6の其々から送り出される。
【0034】
凝縮器11で液化された冷媒は、密閉容器2の外側へ取り出され、循環昇温用熱交換器7の入口側配管27に組み込まれた過冷却器16に導かれる。液体の冷媒は、過冷却器16において循環昇温用熱交換器7に供給される循環温水Cに顕熱を放熱し、図7のモリエル線図の1’→1→2→3→4に示すサイクルとなる。これにより、凝縮器11から熱媒水Wへの放熱量に加え、過冷却器16から循環温水Cへの放熱量分が増加するため、COPが向上する。また、過冷却器16を備える場合(図1)と備えない場合(図6)とでヒートポンプユニットの冷媒が放熱する熱量を同一と考えた場合、図7のモリエル線図を参照して、4→1のエンタルピー差が大きくなるので、過冷却器16を備えることにより、ヒートポンプユニットの循環冷媒量を少なくすることができる。更に、過冷却器16を密閉容器2の外に設けることにより、熱交換器の形式を問わず設計の自由度が増す。
【0035】
ヒートポンプのCOPは、次式で表される。
COP=Q2/W=Q2/(Q2-Q1)
ここで、
Q1:蒸発器で冷媒が吸収する熱量(図7の3-2)
Q2:凝縮器で冷媒が放熱する熱量(図7の4-1)
W :圧縮機の動力
である。
【0036】
図7のヒートサイクルを例として、実際はヒートポンプの運転条件等により冷媒の圧力、流量が異なるが、圧縮機の仕事量(図7の4-3)は同じと仮定して、COPの予想値を計算すると、次のようになり、実施例は、比較例よりCOPの値が大きいことが判る。
【0037】
過冷却器が無い場合(比較例):COP=(4-1’)/(4―3)=(455-339)/(455-407)=2.4
過冷却器がある場合(実施例):COP=(4-1)/(4-3)=(455-301)/(455-407)=3.2
減圧下で熱媒水Wを沸騰させるためには、大気圧下と比べて過熱度(伝熱面温度と飽和温度との差)を大きくする必要がある。ヒートポンプユニット15の凝縮器11では、過熱度をあまり大きくできない。たとえば、冷媒R134aの臨界温度101℃に対し、真空式温水機の一般的な熱媒水設定温度は90℃である。そのため、凝縮器11の伝熱面は、沸騰気泡が部分的な核沸騰状態であり、熱伝達率が著しくは上昇しない。また、減圧下での沸騰は大気圧下と比べ、伝熱面で気泡が大きく成長し、気泡の離脱周期が長くなるため熱伝達率が低下することがある。
【0038】
そこで、凝縮器11の伝熱面積を大きく設計することが考えられるが、装置が大型化する。そのため、密閉容器2には、補助加熱装置を配設することが好ましい。補助加熱装置は、熱媒水に水没するように設けた火炉4及び水管群8を含むことができる。
【0039】
火炉4には、燃焼バーナ3が設置される。燃焼バーナ3は、公知の制御装置(図示せず。)によって、燃料の供給量を制御される。火炉4内の燃焼空気は、水管群8の隙間を通り、更に煙室18、排気筒19を通って排ガスとして外部に排出される。水管群8の水管内では、熱媒水Wが加熱されて流動する。
【0040】
凝縮器11は、補助加熱装置(火炉4及び/又は水管群8)の上側に配設され得る。それにより、火炉4及び/又は水管群8の伝熱面は燃焼バーナ3の高温燃焼ガスによって加熱されているため、発達した核沸騰となり、伝熱面上では大きな気泡が形成・離脱を次々と繰り返す。この気泡の離脱、上昇により、火炉4及び/又は水管群8の上側では、熱媒水に大きな流れを生じる。その流れの中に凝縮器11を配置すれば、熱伝達率が著しく上昇する。また、凝縮器11の冷媒側は、気体→液体に凝縮する潜熱の放熱を担うので、潜熱に特化した熱交換器の設計となり、熱交換器をさらにコンパクトにすることができる。
【0041】
図1を参照して、給湯用熱交換器6は、給水温度(例えば30℃以下)が低すぎるため、その給水管に過冷却器が設けられていない。本発明は、高温ヒートポンプサイクル(熱負荷温度差が少ない昇温型のヒートポンプ)に好適に適用されるため、給湯用途のように熱負荷入口温度が極端に低くなるような回路への適用は好ましくない。
【0042】
一般的な真空式温水機は、熱媒水の圧力を大気圧以下に保つために、熱媒水の設定温度は90℃を上限とし、92℃を超えないように制御される。そのため、ヒートポンプユニット15には、臨界温度が高い冷媒が好ましく、臨界温度が92℃を超える冷媒が好適に使用される。
【0043】
上記第1実施形態に係る真空式温水機1Aにおいては、過冷却器が設けられていない給湯用熱交換器6の負荷があり、過冷却器16が設けられている暖房用途の循環昇温用熱交換器7の負荷がない運転条件の場合、過冷却器16で冷媒が放熱できなくなり過冷却度が減少し、冷媒が膨張弁12の入口で二相状態になる恐れがある。それにより、膨張弁12の圧力損失が増大し、加熱能力が低下するという問題を生じる恐れがある。
【0044】
そこで、本発明の第2実施形態に係る真空式温水機1Bは、図2に示すように、主循環路17に接続されて凝縮器11と膨張弁12との間で過冷却器16をバイパスするバイパス路22と、膨張弁12の出口から圧縮器14の入口迄の主循環路17を流れる冷媒との間接熱交換によりバイパス路22を流れる冷媒を放熱させるための内部熱交換器23と、バイパス路22により過冷却器16をバイパスさせる冷媒の流量を調節する流量調節器24と、膨張弁12に入る冷媒の温度を検出する第1温度検出器20と、膨張弁12に入る冷媒の圧力を検出する圧力検出器21と、第1温度検出器20の検出値及び圧力検出器20の検出値に基づいて凝縮器11を出て膨張弁12に入る迄の間の冷媒の過冷却度を演算し、演算した過冷却度が予め設定された過冷却度になるように流量調節器24を制御する制御部25を備える。以下、第2実施形態について説明する。
【0045】
第1温度検出器20は、膨張弁12の入口付近に設けられている。具体的には、過冷却器16の出口と膨張弁12の入口との間でバイパス路22の接続箇所より下流側の主循環路17に、第1温度検出器20が設けられている。
【0046】
圧力検出器21は、張弁12の入口付近に設けられている。具体的には、過冷却器16の出口と膨張弁12の入口との間でバイパス路22の接続箇所より下流側の主循環路17に、圧力検出器21が設けられている。なお、凝縮器11の出口から膨張弁12の入口迄の間(バイパス路22を含む)を流れる冷媒の圧力は、ほぼ一定であるため、過冷却度を測定するために用いられる圧力検出器は、凝縮器11の出口から膨張弁12の入口迄の間に配置されていれば良いが、張弁12の入口付近に設けることが好ましい。
【0047】
内部熱交換器23は、蒸発器13の出口と圧縮器14の入口との間の主循環路17に配設されているが、膨張弁12の出口と蒸発器13の入口との間の主循環路17に配設することもできる。なお、主循環路17は、バイパス路22より太い線で図示されている。
【0048】
流量調節器24は、制御部25によって制御可能な三方弁が、主循環路17とバイパス路22との分岐点に介在され、三方弁の開度を調節することで、バイパス路22に流れる冷媒の流量を調節することができる。バイパス路22へ流れる冷媒の流量を調節することにより、過冷却器16側へ流れる冷媒の流量も調節される。流量調節器24は、他の制御弁、例えば、バイパス路22に設けた二方弁とすることもできる。
【0049】
制御部25は、圧力検出器21の検出圧力値を飽和圧力とみなし、その検出圧力値における飽和温度と、第1温度検出器20の温度検出値との差を過冷却度として演算し、演算した過冷却度が予め設定された過冷却度になるように流量調節器24を制御する。
【0050】
例えば、循環昇温用熱交換器7の負荷があり過冷却器16での過冷却が十分に行われている場合は、流量調節器24の制御によりバイパス路22への流量を制限しておき、循環昇温用熱交換器7の負荷が減少又は無くなって、演算された過冷却度が予め設定した過冷却度より減少した場合は、流量調節器24によりバイパス路22側へ流す冷媒の量を増やし、過冷却度の演算値が過冷却度の設定値になるように、バイパス路22へ流す冷媒の流量を流量調節器24によって制御する。この場合、流量調節器24は、冷媒の流れをバイパス路22か主循環路17の何れか一方に切り替える方向切換弁であってもよい。
【0051】
図3は、本発明の第3実施形態に係る真空式温水機1Cを示す。第3実施形態は、冷媒が凝縮器11を出て膨張弁12に入るまでの間の過冷却度を測るために、第2実施形態の圧力検出器21に代えて、凝縮器11を出た冷媒の温度を検出する第2温度検出器26を設け、第1温度検出器20の検出値及び第2温度検出器26の検出値との差を求めることで過冷却度を演算し、演算した過冷却度が予め設定された過冷却度になるように流量調節器24を制御する。第3実施形態のその他の構成は、上記第2実施形態と同様である。
【0052】
次に、本発明の第4実施形態に係る真空式温水機について、図2を参照しつつ説明する。図2に示す第4実施形態は、第1実施形態の変形例であって、第1実施形態と相違する部分を主として図示しており、図示省略している部分は第1実施形態又は上記第2,第3実施形態と同様の構成とすることができる。
【0053】
一般的な真空式温水機は、減圧蒸気室に1~3回路の能力が異なる熱交換器を設け、用途に応じた異なる温度域の温水を作り出す。
【0054】
図4を参照して、真空式温水機1Dは、第1の温度の第1循環温水が供給される第1循環昇温用熱交換器7Aと、第1の温度より低い第2の温度の第2循環温水が供給される第2循環昇温用熱交換器7Bと、を備えている。図4に示す第4実施形態は、給湯用熱交換器を備えていないが、それを備えることもできる。
【0055】
第4実施形態において、第1の温度、即ち、第1循環昇温用熱交換器7Aの入口付近の第1循環温水の温度が約55℃、第2の温度、即ち、第2循環昇温用熱交換器7Bの入口付近の第2循環温水の温度が約40℃である。また、図示例において、第1循環昇温用熱交換器7Aの出口付近における第1循環温水の温度は約70℃、第2循環昇温用熱交換器7Bの出口付近における第2循環温水の温度は約60℃である。第1循環昇温用熱交換器7Aは、例えば暖房用途であり、第2循環昇温用熱交換器7Bは、例えば浴槽循環用途である。
【0056】
第4実施形態では過冷却器が2つあり、一次過冷却器16Aの二次側に二次過冷却器16Bが直列状に接続されている。一次過冷却器16Aは、第1循環昇温用熱交換器7Aの入口側配管27に組み込まれており、二次過冷却器16Bは、第2循環昇温用熱交換器7Bの入口側配管28に組み込まれている。
【0057】
一次過冷却器16Aが第1循環昇温用熱交換器7Aに供給される第1循環温水と熱交換した後に、二次過冷却器16Bが第2循環昇温用熱交換器7Bに供給される第2循環温水と熱交換するように構成されている。
【0058】
凝縮器11で液化された冷媒は、第1循環昇温用熱交換器7Aの入口側に組み込まれた一次過冷却器16Aで放熱し、次いで第2循環昇温用熱交換器7Bの入口側に組み込まれた二次過冷却器16Bで放熱し、膨張弁12へ至る。
【0059】
図2では循環昇温用熱交換器が2回路の場合を例示したが、循環昇温用熱交換器が3回路の場合も同様に、循環温水の温度が高い順に一次、二次、三次過冷却器の順で放熱するように構成することができる。
【0060】
本発明は、上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【0061】
上記実施形態において、補助加熱装置として火炉及び水管群を例示したが、それに限らず、電気ヒータ等の公知の他の熱源を採用することができる。なお、補助加熱装置は、温水負荷が高いときや、真空式温水機1の起動時に熱媒水Wを早急に昇温させたいときなど、多量の熱媒水Wを急速に加熱するときにのみ駆動することができ、それにより、エネルギー消費量とランニングコストの低減及びCOの削減を図ることができる。そのため、補助加熱装置は、凝縮器11の出力よりも大きく、多量の熱媒水Wを速やかに加熱できる高い加熱能力を備えていることが好ましい。
【0062】
また、給湯用熱交換器には、特許第4139827号の開示されているように、給湯に特化したヒートポンプを貯湯タンクに接続するハイブリッド給湯システムを組み込むことにより、更なる高効率化、CO削減効果を実現することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1A,1B,1C,1D 真空式温水機
2 密閉容器
3 燃焼バーナ
4 火炉
5 減圧蒸気室
6 給湯用熱交換器
7 循環昇温用熱交換器
7A 第1循環昇温用熱交換器
7B 第2循環昇温用熱交換器
8 水管群
11 凝縮器
12 膨張弁
13 蒸発器
14 圧縮機
15 ヒートポンプユニット
16 過冷却器
16A 一次過冷却器
16B 二次過冷却器
17 主循環路
20 第1温度検出器
21 圧力検出器
22 バイパス路
23 内部熱交換器
24 流量調節器
25 制御部
26 第2温度検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7