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特開2023-119765温度計測装置、通板速度制御装置、温度計測方法、及び、通板速度制御方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119765
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】温度計測装置、通板速度制御装置、温度計測方法、及び、通板速度制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/08 20220101AFI20230822BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20230822BHJP
   G01J 5/061 20220101ALI20230822BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20230822BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20230822BHJP
   B21B 37/74 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G01J5/08 Z
G01J5/00 101B
G01J5/02 T
B21B38/00 C
B21C51/00 E
B21B37/74 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022804
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】村松 真臣
(72)【発明者】
【氏名】菊地 良貴
(72)【発明者】
【氏名】本田 達朗
(72)【発明者】
【氏名】河西 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晶博
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 亮
【テーマコード(参考)】
2G066
4E124
【Fターム(参考)】
2G066AC11
2G066AC16
2G066BA12
2G066BA13
2G066BA23
2G066BA25
2G066BA44
2G066BB03
2G066BB05
2G066BB11
2G066BC12
4E124AA01
4E124BB06
4E124BB07
4E124CC03
4E124EE01
4E124EE17
(57)【要約】
【課題】被計測体の温度をより精度よく計測すること。
【解決手段】本発明の温度計測装置は、第1筐体と、第1筐体の内部に設けられ、被計測体からの自発光を検出して自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、第1筐体の内部の被計測体と検出部との間の光路上に設けられ、自発光を多重反射させて検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、第2筐体に設けられた光学フィルタを冷却する冷却機構と、検出部から出力された電気信号に基づき、被計測体の温度を算出する温度算出部とを有し、検出部は、冷却機構によって冷却された光学フィルタを介して被計測体からの自発光を検出し、温度算出部は、検出部から出力された電気信号に基づいて被計測体の温度を算出する。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測する温度計測装置であって、
第1筐体と、
前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、
前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、
前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、
前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、
前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、
前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、
を有し、
前記検出部は、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、
前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出する、温度計測装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する光検出素子と、印加される冷却電圧に応じて前記光検出素子を冷却する素子冷却機構と、を有しており、
前記自発光の検出時に、
前記素子冷却機構は、前記光検出素子を冷却し、
前記温度算出部は、前記光検出素子から出力された前記電気信号の出力を、前記素子冷却機構に印加された前記冷却電圧に基づいて補正し、補正後の前記電気信号の出力に基づき、前記被計測体の温度を算出する、請求項1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
所定の温度となっている黒体炉からの前記自発光を、当該温度に対応する前記冷却電圧が前記素子冷却機構に印加されている状態で、前記光検出素子で検出したときの前記電気信号の出力電圧を基準出力電圧a(単位:V)とし、
前記所定の温度となっている黒体炉からの前記自発光を、前記冷却電圧を変えて前記光検出素子で検出したときの前記電気信号の出力電圧をa’(単位:V)とし、
前記基準出力電圧aに対する出力電圧a’の比率(a’/a)を出力比と規定したときに、
前記出力比と前記冷却電圧との関係を表す関係式を、予め特定しておき、
前記温度算出部は、
前記被計測体の温度を算出する際に、前記被計測体からの前記自発光の検出時に印加された前記冷却電圧と、前記関係式と、から前記出力比を算出し、
前記出力比に基づいて、前記検出部から出力された前記電気信号の出力電圧を補正する、請求項2に記載の温度計測装置。
【請求項4】
前記光学フィルタは、中心波長が4.0μmである前記自発光を透過させる、請求項1~3の何れか1項に記載の温度計測装置。
【請求項5】
前記筐体の前記被計測体側の端面から、前記多重反射ミラーが設置されている位置までの高さをd(単位:mm)とし、前記多重反射ミラーの曲率半径をR(単位:mm)としたときに、1.75≦R/d≦2.75の関係を満足する、請求項1~4の何れか1項に記載の温度計測装置。
【請求項6】
前記多重反射ミラーの直径は、120mm以上150mm以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の温度計測装置。
【請求項7】
前記筐体内に気体を送り込む送風機構と、
前記筐体の前記被計測体側の端面において、前記多重反射ミラーと前記被計測体との間の光路上に、前記多重反射ミラーの直径よりも小さな径となるように設けられており、前記送風機構により前記筐体内へと供給された前記気体を前記被計測体の側へと排出させるアパーチャーと、
を更に有し、
前記アパーチャーの径は、50mm以上70mm以下である、請求項1~6の何れか1項に記載の温度計測装置。
【請求項8】
前記被計測体の温度は、温度計測時において、100℃以上200℃以下の範囲内である、請求項1~7の何れか1項に記載の温度計測装置。
【請求項9】
複数の冷延スタンドで構成される冷延ラインを通板される被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測し、前記温度に応じて前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御装置であって、
第1筐体と、前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、を有する温度計測装置と、
前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御部と、
を有し、
前記温度計測装置は、隣り合う前記冷延スタンド間に設けられ、
前記検出部は、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、
前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出し、
前記通板速度制御部は、予め求めた前記被圧延材の温度と前記通板速度との関係を用いて、前記検出部が算出した温度が所定の閾値温度以下となるように、前記冷延ラインの通板速度を制御する、通板速度制御装置。
【請求項10】
被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測する温度計測方法であって、
第1筐体と、前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、を有する温度計測装置を用い、
前記検出部を用いて、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、
前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出する、温度計測方法。
【請求項11】
複数の冷延スタンドで構成される冷延ラインを通板される被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測し、前記温度に応じて前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御方法であって、
第1筐体と、前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、を有する温度計測装置と、
前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御部と、
を有する通板速度制御装置を用い、
前記温度計測装置を、隣り合う前記冷延スタンド間に設け、
前記検出部を用いて、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、
前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出し、
前記通板速度制御部を用いて、予め求めた前記被圧延材の温度と前記通板速度との関係を用いて、前記検出部が算出した温度が所定の閾値温度以下となるように、前記冷延ラインの通板速度を制御する、通板速度制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度計測装置、通板速度制御装置、温度計測方法、及び、通板速度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板は、連続的に配列された複数の冷延スタンドを有する冷間タンデム圧延機を用いて被圧延材である厚板に冷間圧延を行って、かかる厚板を所定の板厚まで圧延することで製造される。かかる冷間圧延は、ワークロールと被圧延材との間に潤滑油として供給される圧延油により形成される油膜が存在することで、円滑に行われる。
【0003】
かかる冷延鋼板には、圧延速度(被圧延材の通板速度と考えることもできる。)や冷延スタンドにおける圧下量の増加に伴って、ヒートスクラッチと呼ばれる表面疵が発生することがある。このヒートスクラッチは、高速又は高圧下での圧延により、特にロールバイト内(被圧延材がワークロールに挟まれる区間)における被圧延材とワークロールとの界面温度が上昇することにより上記の油膜が破壊されて、被圧延材がワークロールと金属接触するために発生する。
【0004】
かかるヒートスクラッチが発生すると、製造している冷延鋼板の該当部分の製品化が困難になるだけでなく、ワークロールの表面にも疵が発生した場合には、以降製造される冷延鋼板にも疵が転写されてしまうことになり、冷延鋼板の製造コストに大きな影響を及ぼしてしまう。そのため、ヒートスクラッチを発生させないような条件下での冷間圧延が重要となる。
【0005】
従来、ヒートスクラッチの発生を防止しながら冷間圧延を行うために、様々な技術が提案されている。
例えば以下の特許文献1では、冷間タンデム圧延機において、少なくとも最終圧延スタンドの入側で、鋼板の板側端部のクラック長さを検出し、検出したクラック長さに基づき圧延スタンドの張力を制御すると共に、圧延スタンドの出側に非接触式の板温度計を設けて板温度を計測し、得られた計測結果から、ヒートスクラッチの発生する温度以下となるように圧延速度を制御する技術が提案されている。
【0006】
また、以下の特許文献2では、冷間タンデム圧延機を用いた冷間圧延を開始する前に、各スタンドにおける圧下荷重、ロールギャップ及び圧延速度を定めたドラフトスケジュールと、冷間タンデム圧延での被圧延材の温度変化を予測するための温度変化計算式と、を用いて、各スタンドにおける被圧延材の温度を予測し、かかる予測温度に基づき、冷間圧延時の圧延速度を制御する技術が提案されている。
【0007】
実際の冷間圧延時には、例えば上記のような技術を用いて、被圧延材の実際の温度を測定したり温度を予測したりしたうえで、十分に安全性を確保しヒートスクラッチの発生する危険性のない圧延条件下で、冷延鋼板の製造が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9-239405号公報
【特許文献2】特開2009-106975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような冷間タンデム圧延機を含む冷延ラインでは、100~200℃程度の温度となっている被圧延材を冷却水により冷却しながら圧延することが一般的であることから、冷延ラインの周囲には、大量の湯気等の外乱が存在している。そのため、上記特許文献1で提案されている技術のように、非接触式の板温度計を用いて被圧延材の温度を計測したとしても、上記のような外乱に起因する計測誤差を考慮しなければならなくなる。その結果、安全マージンを十分に確保することが必要となって、圧延速度を抑えた操業を行わざるを得なくなる。
【0010】
また、上記特許文献2で提案されている技術のように、温度変化計算式に基づく被圧延材の温度の推定を行う場合、推定温度と実際の温度との間にずれが生じる可能性がある。そのため、上記特許文献1で開示されている技術と同様に、安全マージンを十分に確保することが必要となって、圧延速度を抑えた操業を行わざるを得なくなる。
【0011】
上記のように、外乱の存在する環境下である冷延ラインでは、被圧延材の温度計測に更なる改良の余地があり、被圧延材の温度計測精度を向上させることができれば、圧延速度を更に増加させて、冷延鋼板の生産性を向上させることも期待できる。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、被計測体の温度をより精度よく計測することが可能な温度計測装置及び温度計測方法と、冷延ラインにおける被圧延材の通板速度をより精密に制御することが可能な通板速度制御装置及び通板速度制御方法と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測する温度計測装置であって、第1筐体と、前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、を有し、前記検出部は、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出する、温度計測装置が提供される。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、複数の冷延スタンドで構成される冷延ラインを通板される被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測し、前記温度に応じて前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御装置であって、第1筐体と、前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、を有する温度計測装置と、前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御部と、を有し、前記温度計測装置は、隣り合う前記冷延スタンド間に設けられ、前記検出部は、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出し、前記通板速度制御部は、予め求めた前記被圧延材の温度と前記通板速度との関係を用いて、前記検出部が算出した温度が所定の閾値温度以下となるように、前記冷延ラインの通板速度を制御する、通板速度制御装置が提供される。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測する温度計測方法であって、第1筐体と、前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、を有する温度計測装置を用い、前記検出部を用いて、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出する、温度計測方法が提供される。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、複数の冷延スタンドで構成される冷延ラインを通板される被計測体から輻射される自発光を検出することで、前記被計測体の温度を計測し、前記温度に応じて前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御方法であって、第1筐体と、前記第1筐体の内部に設けられ、前記自発光を検出して前記自発光の強度に対応する電気信号を出力する検出部と、前記第1筐体の内部の前記被計測体と前記検出部との間の光路上に設けられ、前記自発光を多重反射させて前記検出部へと結像させる、湾曲したミラーからなる多重反射ミラーと、前記検出部の内部に設けられた第2筐体と、前記第2筐体の内部に設けられ、前記被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の光を透過させる光学フィルタと、前記第2筐体に設けられた前記光学フィルタを冷却する冷却機構と、前記検出部から出力された前記電気信号に基づき、前記被計測体の温度を算出する温度算出部と、を有する温度計測装置と、前記冷延ラインの通板速度を制御する通板速度制御部と、を有する通板速度制御装置を用い、前記温度計測装置を、隣り合う前記冷延スタンド間に設け、前記検出部を用いて、前記冷却機構によって冷却された前記光学フィルタを介して前記被計測体から輻射される前記自発光を検出し、前記温度算出部は、前記検出部から出力された前記電気信号に基づいて前記被計測体の温度を算出し、前記通板速度制御部を用いて、予め求めた前記被圧延材の温度と前記通板速度との関係を用いて、前記検出部が算出した温度が所定の閾値温度以下となるように、前記冷延ラインの通板速度を制御する、通板速度制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、被計測体の温度をより精度よく計測することが可能な温度計測装置及び温度計測方法と、冷延ラインにおける被圧延材の通板速度をより精密に制御することが可能な通板速度制御装置及び通板速度制御方法と、を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る温度計測装置で着目する赤外波長帯域について説明するためのグラフ図である。
図2】光学フィルタに起因する内部迷光について説明するための説明図である。
図3】光学フィルタに起因する内部迷光について説明するための説明図である。
図4A】同実施形態に係る温度計測装置に用いられる光検出器の構成の一例を模式的に示した説明図である。
図4B】同実施形態に係る温度計測装置に用いられる光検出器の構成の他の一例を模式的に示した説明図である。
図5】同実施形態に係る光検出器により生成される2次元輝度画像の一例を示した説明図である。
図6】同実施形態に係る温度計測装置に用いられる光検出器について説明するための説明図である。
図7】同実施形態に係る光検出器により生成される2次元輝度画像の一例を示した説明図である。
図8】多重反射ミラーに関するシミュレーション条件を説明するための説明図である。
図9】多重反射ミラーの曲率半径Rと放射エネルギーの増幅率αとの関係を示したグラフ図である。
図10】(多重反射ミラーの曲率半径R/ミラーの設置高さd)と放射エネルギーの増幅率αとの関係を示したグラフ図である。
図11】アパーチャー径Lと実効放射率εとの関係を示したグラフ図である。
図12】多重反射ミラーの直径2rと実効放射率εとの関係を示したグラフ図である。
図13】同実施形態に係る温度計測装置における検出装置の構成の一例を示した模式図である。
図14】同実施形態に係る温度計測装置における演算処理装置の構成の一例を示した模式図である。
図15】同実施形態に係る温度計測装置が有する演算処理装置における演算処理部の構成の一例を示したブロック図である。
図16】出力電圧値と温度との関係を表した温度校正グラフの一例である。
図17】電子冷却型の検出器の機構について説明するための模式図である。
図18】光検出素子に印加される冷却電圧と光検出素子から出力される電圧の出力比との関係を示したグラフ図である。
図19】同実施形態に係る温度計測装置における温度計測方法の流れの一例を示した流れ図である。
図20A】冷延プロセス中の冷延ラインを搬送される冷延鋼板の温度計測結果を示したグラフ図である。
図20B】冷延プロセス中の冷延ラインを搬送される冷延鋼板の温度計測結果を示したグラフ図である。
図21】冷延プロセスにおける通板速度制御について説明するための説明図である。
図22】同実施形態に係る通板速度制御装置の構成の一例を示したブロック図である。
図23】同実施形態に係る演算処理装置のハードウェア構成の一例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
(温度計測装置が着目する赤外波長帯域)
本発明の実施形態で着目する温度計測装置は、被計測体から輻射される自発光(より詳細には、波長が赤外波長帯域に属する自発光)を検出することで、被計測体の温度を計測する装置である。
【0021】
ここで、本実施形態で着目する被計測体の周囲には、被計測体から輻射される自発光を散乱させてしまう散乱体(例えば、湯気(水滴)や油滴等といった、いわゆるヒューム)や、被計測体から輻射される自発光を吸収してしまう吸収体(例えば、水や、鉄鋼業における圧延プロセスで用いられる圧延油等)といった、外乱が存在しているものとする。
【0022】
以下で詳述するような、本実施形態で着目する温度計測装置は、上記のような外乱が存在する環境であっても、使用することが可能である。このような外乱が存在する環境の例として、鉄鋼業における冷間圧延プロセスや、鉄鋼業における焼結鉱の製造プロセスや、製紙業における各種プロセスや、化学工業における各種化学プロセス等を挙げることができる。
【0023】
以下では、鉄鋼業における冷間圧延プロセスを例に挙げて、説明を行うものとする。かかる冷間圧延プロセスでは、被圧延材として、100℃以上200℃以下の状態にある鋼板が冷延ラインを通板されながら圧延されて、冷延鋼板が製造される。
【0024】
上記のように、本実施形態で着目する温度計測装置は、被計測体からの自発光のうち、波長が赤外波長帯域に属する自発光を検出して、かかる自発光の検出結果に基づき、被計測体の温度を計測する。この際、温度計測装置の周囲には、上記のような外乱が存在しているため、温度計測装置で自発光を検出する際に用いる波長は、外乱による影響を受けない波長であることが好ましい。
【0025】
鉄鋼業における冷間圧延プロセスにおいて考慮すべき外乱として、被圧延材である鋼板(冷延鋼板)の表面に存在しうる水及び圧延油等といった、自発光を吸収してしまう吸収体が挙げられる。図1は、本実施形態に係る温度計測装置で着目する赤外波長帯域について説明するためのグラフ図であり、図1上段は、冷間圧延プロセスに用いられる一般的な圧延油の透過特性を示したスペクトルであり、図1下段は、水の透過特性を示したスペクトルである。図1の双方のスペクトルにおいて、縦軸は透過率を表しており、横軸は波長を表している。
【0026】
図1の各スペクトルを参照すると、吸収体による吸収が極めて少ない波長帯域としては、例えば、中心波長が2.0μmである赤外波長帯域と、中心波長が4.0μmである赤外波長帯域と、が存在することがわかる。ここで、中心波長2.0μmの赤外波長帯域と、中心波長4.0μmの赤外波長帯域とを比較すると、100℃以上200℃以下という低温の被計測体に着目する場合、熱輻射は中心波長4.0μmの赤外波長帯域の方が大きい。そのため、かかる熱輻射の違いも考慮すると、温度計測装置では、中心波長4.0μmの赤外波長帯域に着目することが、より好ましいと言える。また、中心波長4.0μmの赤外波長帯域は、中心波長2.0μmの赤外波長帯域と比較して長波長であることから、湯気等の自発光を散乱させる散乱体の影響も受けにくく、外乱による影響を受けない波長帯域であると言える。
【0027】
(光検出器についての検討)
<検討内容について>
本発明者らは、上記のような着目すべき赤外波長帯域に関する知見に基づき、光検出器の一例としての図2に示したような赤外カメラを用いて、温度が100℃及び200℃のそれぞれに設定された黒体炉が同一の視野内に含まれるようにして、黒体炉の撮像を試みた。図2は、光学フィルタに起因する内部迷光について説明するための説明図であり、上記のような撮像に用いた赤外カメラの構成を模式的に示したものである。本検証で利用した赤外カメラは、縦×横2次元での光の強度(輝度)の分布を検出可能な、2次元検出素子を用いたものである。かかる赤外カメラを用いることで、2次元での光の強度の分布状態を可視化して、2次元輝度画像を生成することができる。この赤外カメラは、図2に模式的に示したように、レンズの装着された筐体内に、赤外光検出用の2次元検出素子(例えば、InSb、PbSe、PbS、InGaAs、HgCdTe(通称、MCT)、QWIP(量子井戸型赤外線検出器、Quantum Well Infrared Photodetectors)等が設けられている。かかる2次元検出素子の前段の光路上には、上記知見に基づき、中心波長が4.0μmである光を透過させる光学フィルタを設置した。
【0028】
得られた2次元輝度画像を、図3に示した。図3は、光学フィルタに起因する内部迷光について説明するための説明図であり、上記のような赤外カメラで得られた2次元輝度画像の一例を示したものである。
【0029】
図3から明らかなように、得られた2次元輝度画像には、黒体炉からの熱輻射に対応する2つの領域(図3における右端近傍及び左端近傍に存在する、白く写っている領域)に加えて、赤外カメラ内部の熱輻射が内部迷光として略中央部に存在している。その結果、黒体炉からの熱輻射に対応する領域の輝度値には、この内部迷光に由来する輝度値が背景輝度として重畳されていることになる。図3に見られる内部迷光の分布形状は、光学フィルタの外形とほぼ一致していたため、光学フィルタ自身の熱輻射(光学フィルタが黒体炉からの熱輻射により加熱されることによる熱輻射)によるものと推察される。
【0030】
より具体的には、図3に示した2次元輝度画像において、200℃の黒体炉に該当する領域の輝度値は、7683であり、100℃の黒体炉に該当する領域の輝度値は、7008である一方で、画像中央部における内部迷光の輝度値は、6925であった。すなわち、100℃の黒体炉に該当する領域の輝度値と内部迷光の輝度値との輝度差は、内部迷光の輝度値に対して、(7008-6925)/6925≒1%となっている。
【0031】
通常、赤外カメラ内部の熱輻射による内部迷光は、レンズ前に蓋をした状態で撮像した画像の輝度値を背景輝度値として差し引くことで相殺することができる。しかしながら、図3に示したように、100℃~200℃といった低温の状態の被計測体を、着目する波長帯域が絞られた状態の赤外カメラで撮像する場合には、着目したい輝度値と内部迷光との輝度値の比率が上記のように1%しか存在しないことから、本発明者らは、かかる検証により、2次元検出素子に結像する波長帯域を制限するための光学フィルタを2次元検出素子の直近に設置した場合には、内部迷光の影響が極めて大きく、波長が制限された状態での赤外カメラでの撮像は、困難であると考えた。
【0032】
<光検出器について>
上記のような知見に基づき、本発明者らは、上記のような内部迷光を抑制する方法について鋭意検討を行い、図4Aに示したような、本実施形態に係る温度計測装置に適用可能な光検出器110に想到した。以下、図4Aを参照しながら、本実施形態に係る温度計測装置に用いられる光検出器の一例について、詳細に説明する。図4Aは、本実施形態に係る温度計測装置に用いられる光検出器の構成の一例を模式的に示した説明図である。
【0033】
本実施形態に係る温度計測装置に用いられる光検出器110は、図4Aに模式的に示したように、赤外光検出用の検出部111が筺体113内に設けられた検出ユニット115と、光学フィルタ121と、赤外カメラ115にレンズを介して装着されており、かつ、光学フィルタ121を格納する光学フィルタ筺体123(後述する第2筐体)と、光学フィルタ筺体123に設けられた冷却機構131と、を主に有している。
【0034】
赤外光検出用の検出部111は、検出部111に結像した赤外光の強度を電気信号の強度へと変換する変換素子として機能する、検出素子を有している。そして、検出素子は、検出した赤外線の強度に対応する電気信号を出力することができる。このような検出素子は、特に限定されるものではなく、InSb、PbSe、PbS、InGaAs、HgCdTe、QWIP等といった、赤外光検出用の公知の検出素子を利用することが可能である。かかる検出素子を有する検出部111の詳細な構成については、以下で改めて説明する。
【0035】
また、筺体113の素材については、特に限定されるものではなく、外界に存在する赤外光が筺体内部へと透過してこないような素材であれば、公知の素材を用いればよい。
【0036】
本実施形態に係る光検出器110では、図2及び図3を参照しながら説明したような知見に基づき、内部迷光の要因となる光学フィルタ121を、温度変化の一因となり得る検出部111から離隔させるように、光学フィルタ筐体123の内部に配置している。
【0037】
光学フィルタ121は、被計測体と検出ユニット115(より具体的には、検出部111)との間の光路上に配設されており、被計測体から輻射される自発光のうち、被計測体の周囲に存在する外乱による吸収がない波長帯域の自発光を透過させる。本実施形態に係る光学フィルタ121は、より詳細には、図1を参照しながら説明したような知見に基づき、中心波長4.0μmの赤外波長帯域の自発光を透過させる光学フィルタ121であることが好ましい。この光学フィルタ121は、光学フィルタ筺体123の内部に格納されて、外界から隔離されている。また、光学フィルタ121は、図4Aに示したように、光学フィルタ筺体123の内部において、検出ユニット115の光軸に対して所定の角度で傾斜するように(例えば、光軸に対して約45度となるように)配設されることが好ましい。なお、光学フィルタ121の透過バンド幅については、特に限定するものではなく、求める計測精度や、検出素子の検出分解能等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、200nm程度とすることができる。
【0038】
光学フィルタ筺体123は、後述する第2筐体に相当するものであり、光学フィルタ121を外界から区分するために設けられるものである。かかる光学フィルタ筺体123は、例えば、熱伝導度に優れた素材(例えば、鉄、アルミニウム、銅、SUS等の合金を含む各種金属材)により形成されていることが好ましい。
【0039】
この光学フィルタ筺体123には、図4Aに示したように冷却機構131が設けられており、冷却機構131により光学フィルタ筺体123が冷却される。検出の際に冷却機構131が稼働することで、光学フィルタ筺体123自体が冷却され、光学フィルタ筺体123の冷却に伴い、光学フィルタ筺体123の内部空間に存在する気体も冷却されることとなる。その結果、光学フィルタ121の加熱が抑制されて、光学フィルタ121の熱輻射に由来する内部迷光を低減することが可能となる。また、光学フィルタ121を図4Aに示したように斜めに設置して、光学フィルタ筺体123の冷却された内部空間からの熱輻射が検出部111に結像されるようにすることで、検出部111の信号雑音比を更に向上させることが可能となる。
【0040】
このような冷却機構131は、特に制限されるものではなく、公知の冷却機構を利用することが可能である。かかる冷却機構131として、例えば、ペルチェ素子133とヒートシンク135とを組み合わせたものを利用することが簡便である。
【0041】
なお、冷却機構131により光学フィルタ筺体123をどの程度まで冷却するかについては、用いる検出素子の検出感度、求める測定精度、光検出器110が設置される環境、用いる冷却機構131の性能等に応じて適宜設定すればよい。一般的なペルチェ素子133及びヒートシンク135を利用して金属製の光学フィルタ筺体123を冷却することで、例えば15℃程度まで光学フィルタ筺体123の壁面を冷却することが可能である。
【0042】
また、図4Aでは、光学フィルタ121の格納された光学フィルタ筺体123が、検出ユニット115の外部に設けられる場合を図示しているが、例えば図4Bに示したような光検出器110を用いることも可能である。図4Bは、本実施形態に係る温度計測装置に用いられる光検出器の構成の他の一例を模式的に示した説明図である。
【0043】
図4Bに示した光検出部110では、光学フィルタ121の格納された光学フィルタ筺体123が、検出ユニット115の筐体113の内部に設けられている。この場合、冷却機構131が稼働することによって発生する熱が、検出部111に到達しないようにするために、ヒートシンク135等の放熱機構は、赤外カメラ筺体113の外部に位置するように設計することが好ましい。
【0044】
なお、本実施形態に係る光検出器110では、検出部111に設けられる検出素子として、2次元的な処理が可能な2次元検出素子を用いてもよいし、結像した光の強度のみを検出する1次元検出素子を用いてもよい。
【0045】
図4Aに示した光検出器110を利用して、光学フィルタ筐体123(すなわち、光学フィルタ121)を冷却しながら、図2と同様にして100℃及び200℃に設定された黒体炉を撮像することで得られた2次元輝度画像を、図5に示した。図5から明らかなように、得られた2次元輝度画像には、2つの黒体炉に由来する輝度値の高い領域が存在しているのみであり、その他の部材からの熱輻射に起因する内部迷光が極めて抑制されていることがわかる。また、200℃の黒体炉に該当する領域の方が、100℃の黒体炉に該当する領域よりも白くなっている(すなわち、輝度が高くなっている)ことがわかる。
【0046】
より具体的には、図5に示した2次元輝度画像において、200℃の黒体炉に該当する領域の輝度値は、9262であり、100℃の黒体炉に該当する領域の輝度値は、5335である一方で、画像中央部における内部迷光の輝度値は、4797であった。すなわち、100℃の黒体炉に該当する領域の輝度値と内部迷光の輝度値との輝度差は、内部迷光の輝度値に対して、(5335-4797)/4797≒11%と、図3に示した場合と比べて飛躍的に信号雑音比が向上していることがわかる。
【0047】
以上説明したような光検出器110を、鉄鋼業における冷間圧延ラインに設置して、2次元輝度画像の撮像を試みた。具体的には、図6に模式的に示したように、冷間圧延ラインに設けられている互いに隣り合う冷延スタンド間の側方に、図4Aに示したような光検出器110を設置した。この際、被計測体である温度100℃~200℃程度となっている冷延鋼板の表面を同一視野内に収めるために、冷延鋼板を斜め上方から見下ろすように(例えば、冷延鋼板の平面とのなす角が30度~45度程度となるように)配置した。
【0048】
冷間圧延プロセスでは、表面温度が100℃~200℃程度となっている冷延鋼板を冷却するために冷却材として水が利用されており、また、潤滑に圧延を行うために圧延油が利用されている。かかる水や圧延油から発生する湯気(水滴)や油滴が、冷延鋼板からの熱輻射を散乱させる散乱体(すなわち、外乱)として機能する。また、冷延鋼板の表面には、冷間圧延プロセスで利用される圧延油や、冷却材である水が付着している可能性があり、これら圧延油や水が、冷延鋼板からの熱輻射を吸収する吸収体(すなわち、外乱)として機能する。
【0049】
図6に示した光検出器110の近傍に、可視光画像を撮像する一般的なカメラ(図示せず。)を設けておき、かかるカメラから得られた可視光画像を、図7(a)に示した。図7(a)において、画像の左端及び右端には、冷延スタンドが写り込んでおり、冷延スタンドの間には、湯気が立ち込めていることがわかる。また、冷延スタンドの間の破線で囲んだ領域には、冷延鋼板が搬送されているはずであるが、立ち込める湯気のために、通常の可視光画像では、冷延鋼板を確認することはできない。
【0050】
また、図6における光検出器110のかわりに、図2に示したような、中心波長4.0μmの光学フィルタが検出素子の近傍に位置している一般的な赤外カメラを利用して、冷延スタンド及び冷延スタンド間に位置する冷延鋼板を撮像した結果を、図7(b)に示した。図7(b)に示した赤外輝度画像から明らかなように、画像には、光学フィルタの熱輻射に起因する内部迷光が確認されるだけであり、冷延鋼板からの熱輻射は内部迷光に埋もれてしまい、一切確認できないことがわかる。
【0051】
図7(c)は、図4Aに示した光検出器110を利用して生成された、赤外輝度画像を示したものである。図7(c)から明らかなように、本実施形態に係る光検出器110を利用して生成された2次元輝度画像では、冷延スタンド、冷延鋼板、及び、冷延鋼板が巻き取られたロールを明瞭に確認可能であることがわかる。
【0052】
このように、本実施形態に係る光検出器110を用いることで、外乱が存在する環境下であっても、100℃~200℃という低温状態の被計測体を、明瞭に撮像することが可能となる。
【0053】
(多重反射ミラーに関する検討)
本発明者らは、観測波長を4.0μmとした一般的な放射温度計を用いて、冷延スタンド間を搬送される冷延鋼板の温度を別途観測したところ、実際の冷延鋼板の温度から±10℃の誤差が生じていることが明らかになった。かかる±10℃の誤差について、本発明者らが検討した結果、冷延鋼板の表面の放射率εが0.25程度と小さいことで、この放射率が変動することによって大きな影響を受けてしまうことに起因する誤差であることが判明した。実際の冷延プロセスでの操業を考えた場合に、±10℃の計測誤差が存在した場合には、冷延プロセスにおける通板速度の制御の精度は、不十分となってしまう。
【0054】
かかる検討結果から、本発明者らは、迷光(想定される光路以外で発生する光)が存在する環境下においてより高精度な測温を実施するためには、冷延鋼板からの熱輻射光を多重反射させることで実効的な放射率を増大させて、迷光に起因する計測誤差と、被計測体である被圧延材(より詳細には冷延鋼板)の放射率の変動に起因する誤差を抑制することが重要であるとの知見を得た。
【0055】
また、より一層高精度な測温を実施するためには、湯気等の散乱体(すなわち、外乱)による散乱の影響を抑制するために、熱輻射光の光路上に外乱が存在しないようにエアパージを実施することがより好ましい旨も知見した。
【0056】
以上のような知見をもとに、本発明者らは、多重反射を実現するための多重反射ミラーの構成について、市販の数値演算アプリケーションを用いたレイトレーシング(光線追跡)法によるシミュレーションを実施して、検討を行った。かかるシミュレーションに際して、本発明者らは、図8に示したような多重反射ミラーを備えた検出装置をモデルとした。図8は、多重反射ミラーに関するシミュレーション条件を説明するための説明図である。
【0057】
図8に模式的に示したように、本発明者らは、モデルとなる検出装置として、赤外波長帯域の熱輻射光を検出するための検出器と、熱輻射光を多重反射させるための多重反射ミラーとを有するものを想定した。かかる多重反射ミラーは、図8に示したように湾曲したミラーであり、熱輻射光は多重反射させて検出器へと結像させる一方で、周囲に存在する迷光は検出器へと結像させないような機能を有するものである。また、これら検出器、多重反射ミラー及び集光レンズは、筐体の内部に格納されており、被計測体である冷延鋼板に対向する筐体の端面には、アパーチャー(開口)が形成されているものとした。
【0058】
図8に示したような構成において、検討すべき設計パラメータとしては、図中に示したように、以下のものが考えられる。
【0059】
・多重反射ミラーが設置されている位置(冷延鋼板側から見て多重反射ミラーの最も奥まった部位の位置)と冷延鋼板との間の距離(ミラー鋼板間距離):D
・筐体の冷延鋼板側の端面から、多重反射ミラーが設置されている位置までの高さ(設置高さ):d
・筐体の端部と冷延鋼板との間のギャップである測定ギャップ:(D-d)
・アパーチャー径:L
・多重反射ミラーの曲率半径:R
・多重反射ミラーの直径:2r
【0060】
このうち、被計測体である冷延鋼板との接触を防止する目的で、測定ギャップは、100mm程度の値を確保することが好ましく、多重反射ミラーの汚れを防止する目的で、ミラー鋼板間距離Dは、300mm程度の値を確保することが好ましい。かかる要請より、多重反射ミラーの設置高さdは、200mm程度の値を確保することが好ましい。また、熱輻射光を十分に筐体内に導くために、アパーチャー径Lは、50mm程度の値を確保することが好ましい。また、アパーチャー径Lが50mm程度の値を有することで、上記のようなエアパージを実施する場合に、アパーチャー周囲に存在する湯気等の外乱を光路上から十分に排除することが可能となる。
【0061】
以上を踏まえ、本発明者らは、上記のような3つのパラメータ(d,D,L)に関する条件は維持しつつ、実効放射率εが好ましい状態となる設計パラメータについて、レイトレーシングシミュレーションにより探索を行った。ここで、実効放射率εは、冷延鋼板の放射率ε(=0.25)に、放射エネルギーの増幅率αを乗じたもの(すなわち、ε=ε×α=0.25×α)である。
【0062】
また、かかるシミュレーションでは、多重反射ミラーの頂部に開口径5mmの検出用開口が位置しているものとし、鋼板表面から光(レイ)を放射して、多重反射ミラーの有無で検出用開口を通過する放射エネルギーの増幅率αがどのように変化するかを演算した。
【0063】
<多重反射ミラーの曲率半径R>
まず、本発明者らは、検出装置の小型化を考えるうえで重要な設計パラメータである多重反射ミラーの曲率半径Rについて、シミュレーションを実施した。この際、多重反射ミラーの直径2r=120mm、アパーチャー径L=50mmとし、ミラー鋼板間距離D=300mm、設置高さd=100mmとした上で、曲率半径Rを100mm~600mmの範囲で変化させながら、放射エネルギー増幅率αを算出した。
【0064】
得られた結果を、図9に示した。図9は、多重反射ミラーの曲率半径Rと放射エネルギーの増幅率αとの関係を示したグラフ図である。図9において、横軸は、多重反射ミラーの曲率半径R(単位:mm)であり、縦軸は、放射エネルギーの増幅率αである。
【0065】
図9から明らかなように、多重反射ミラーの曲率半径Rが100mmである場合には、放射エネルギーの増幅率α=1である(すなわち、冷延鋼板の放射率εは増幅されないままの状態である)ことがわかる。ここで、一般的にミラーの焦点距離f=ミラーの曲率半径R/2の関係が成立する。曲率半径R=100mmである場合には、ミラーの焦点距離f=50mmとなってミラーの焦点位置が多重反射ミラーの近傍となる結果、多重反射ミラーに反射した光が散逸して、多重反射が実現されなかったことを意味している。
【0066】
また、多重反射ミラーの曲率半径Rが100mmから増加していく(換言すれば、多重反射ミラーが、湾曲した状態のミラーから平面ミラーに近づく)につれて、増幅率αも増加していき、曲率半径R=400mmとなったときに増幅率αは最大(α≒2)となり、その後は、緩やかに増幅率αは減少していくことがわかる。
【0067】
多重反射ミラーの曲率半径Rが400mmである場合、ミラーの焦点距離f=ミラーの曲率半径R/2の関係からミラーの焦点位置f=200mmとなって、ミラーの焦点位置は、筐体のアパーチャーの位置と一致している状態となっている。これより、(1)多重反射ミラーの焦点位置がアパーチャーの位置に近づくにつれて増幅率αは増加していき、ミラーの焦点位置がアパーチャーの位置に一致したときに増幅率αは最大となること、(2)ミラーの焦点位置が筐体の外部となって冷延鋼板に近づくにつれて、アパーチャーによってはじかれて多重反射ミラーまで到達しない多重反射光が増加する結果、増幅率αが減少していくこと、が判明した。
【0068】
図9に示した結果を、グラフの横軸を、多重反射ミラーの曲率半径Rから(多重反射ミラーの曲率半径R/ミラーの設置高さd)に換えてプロットしたものを、図10として示した。図10は、(多重反射ミラーの曲率半径R/ミラーの設置高さd)と放射エネルギーの増幅率αとの関係を示したグラフ図である。
【0069】
図10から明らかなように、(多重反射ミラーの曲率半径R/ミラーの設置高さd)が1.75以上2.75以下の範囲内となる場合に、放射エネルギーの増幅率αは、1.8超と極めて高い値となることがわかる。かかる結果から、(多重反射ミラーの曲率半径R/ミラーの設置高さd)は、1.75以上2.75以下の範囲内であることが好ましい。
【0070】
<アパーチャー径L>
次に、本発明者らは、多重反射ミラーの直径2r=120mm、曲率半径R=400mm、ミラー鋼板間距離D=300mm、設置高さd=100mmとした上で、アパーチャー径Lを30mm~70mmの範囲内で変化させた場合の実効放射率εを、上記と同様のシミュレーションにより算出した。得られた結果を、図11に示した。図11は、アパーチャー径Lと実効放射率εとの関係を示したグラフ図である。図11において、横軸はアパーチャー径L(単位:mm)であり、縦軸は実効放射率εである。
【0071】
図11から明らかなように、アパーチャー径Lが50mm以上70mm以下の範囲内において、実効放射率εは、0.5以上となっていることがわかる。かかる観点から、アパーチャー径Lは、50mm以上70mm以下であることが好ましい。この際、アパーチャー径Lが多重反射ミラーの直径2rよりも大きくなる場合には、筐体の内部に湯気等の外乱が侵入してくる可能性が高くなるため、多重反射ミラーの直径2rの大きさにも留意しながら、アパーチャー径Lを設定することが好ましい。また、エアパージを実施する場合、アパーチャー径Lが小さければ小さいほど、アパーチャーから噴射される気体の勢いが強くなり、光路上に存在する湯気等の外乱をより確実に排除することが可能となる。かかる観点から、以下に示すシミュレーションでは、アパーチャー径Lを50mmに設定して、検討を行った。
【0072】
<多重反射ミラーの直径2r>
次に、本発明者らは、多重反射ミラーの曲率半径R=400mm、アパーチャー径L=50mm、ミラー鋼板間距離D=300mm、設置高さd=100mmとした上で、多重反射ミラーの直径2rを30mm~150mmの範囲内で変化させた場合の実効放射率εを、上記と同様のシミュレーションにより算出した。得られた結果を、図12に示した。図12は、多重反射ミラーの直径2rと実効放射率εとの関係を示したグラフ図である。図12において、横軸は多重反射ミラーの直径2r(単位:mm)であり、縦軸は実効放射率εである。
【0073】
図12から明らかなように、多重反射ミラーの直径2rが120mm以上150mm以下の範囲内において、実効放射率εは、0.5以上となっていることがわかる。かかる観点から、多重反射ミラーの直径2rは、120mm以上150mm以下であることが好ましい。一方、多重反射ミラーの直径2rが大きくなるほど、検出装置が大型化するため、実際の冷延ラインに検出装置を設置する際の設置位置に制約が多くなってしまう。かかる観点から、多重反射ミラーの直径2rは、120mm程度であることが好ましい。
【0074】
(温度計測装置における検出装置の構成について)
以上説明したような、光検出器110に関する検討結果、及び、多重反射ミラーに関する検討結果を踏まえ、本発明者らは、本実施形態に係る温度計測装置における冷延鋼板からの自発光の検出装置として、図13に示したような検出装置に想到した。図13は、本実施形態に係る温度計測装置における検出装置の構成の一例を示した模式図である。
【0075】
図13に示したように、本実施形態に係る温度計測装置における検出装置100は、筐体101(第1筐体101)と、光検出器110と、多重反射ミラー151とを主に備えており、被計測体である被圧延材(より詳細には、冷延鋼板)からの自発光を検出する。
【0076】
光検出器110は、図4A及び図4Bに例示したような、光学フィルタの冷却機構を備えた光検出器であり、筐体101の内部に設けられている。光検出器110は、冷延鋼板からの自発光を検出して、検出した自発光を、その強度に応じた電気信号へと変換する。光検出器110は、演算処理装置(図示せず。)によって制御されており、検出した自発光に対応する電気信号は、かかる演算処理装置へと出力される。
【0077】
かかる光検出器110は、図4A及び図4Bに示したように、内部に、自発光を検出する検出部111と、検出部111から独立して設けられた光学フィルタ筐体123(第2筐体)とを格納している。光学フィルタ筐体123(第2筐体)は、内部に、自発光のうち、被計測体の周囲に存在する外乱による吸収が存在しない波長帯域の自発光を透過させる光学フィルタ121と、光学フィルタ121を冷却させる冷却機構131と、を有している。
【0078】
検出部111は、被計測体からの自発光を検出して、検出した自発光を自発光の強度に対応する電気信号へと変換する。かかる検出部111に設けられる検出素子は、先だって言及したように、特に限定されるものではなく、InSb、PbSe、PbS、InGaAs、HgCdTe、QWIP等といった、赤外光検出用の公知の検出素子を利用することが可能である。また、かかる検出部111として、後述するような電子冷却型の検出器を用いることで、被計測体の温度の計測精度を更に向上させることが可能である。
【0079】
また、光学フィルタ121は、図1を参照しながら説明したような知見に基づき、中心波長4.0μmの赤外波長帯域の自発光を透過させる光学フィルタであることが好ましい。また、光学フィルタ121の透過バンド幅については、特に限定するものではなく、求める計測精度や、検出部111の検出分解能等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、200nm程度とすることができる。
【0080】
多重反射ミラー151は、筐体101の内部に設けられた湾曲したミラーであり、被計測体から輻射された自発光を多重反射させて検出部111へと結像させる一方で、被計測体の周囲に存在する迷光は検出部111へと結像させないようにする。この多重反射ミラー151の素材は、特に限定されるものではなく、鏡面反射が実現可能な反射率の高いミラーを実現可能な素材であれば、任意のものを利用することが可能である。また、先だって説明したような汚れ防止の観点から、多重反射ミラー151は、被計測体から離隔距離Dだけ離れ、かつ、筐体101の被計測体側の端面からの設置高さが距離dとなる位置に設けられることが好ましい。
【0081】
ここで、多重反射ミラー151の曲率半径Rは、先だって言及したように、曲率半径Rを、ミラーの設置高さdで除した値である(R/D)の値が、1.75以上2.75以下となるような曲率半径であることが好ましい。このような条件を満たす曲率半径とすることで、多重反射ミラー151による多重反射によって実現される増幅率αを、1.8以上とすることが可能となる。
【0082】
また、多重反射ミラー151の直径2rは、120mm以上150mm以下とすることが好ましい。多重反射ミラー151のミラー直径2rを120mm以上150mm以下とすることで、検出装置100の小型化を図りながら、極めて高い実効放射率を実現することが可能となる。
【0083】
上記のような多重反射ミラー151の略中央部には、開口部153が設けられている。この開口部153は、多重反射された被計測体からの自発光を、光検出器110へと導光するために設けられた空間である。このような開口部153の好適な大きさとしては、例えば、直径φ=5mmが用いられる。
【0084】
また、筺体101における、光検出器110側の端面には、パージ用エアを筺体101内へと導入するためのエア導入口103が設けられることが好ましい。送風機構の一例としての空気供給ライン等(図示せず。)を介してエア導入口103から気体(エア)が導入され、アパーチャー105から噴射されることで、被計測体と検出装置100との間の光路上に存在しうる外乱が排除される。また、筺体101の内部に導入される気体(エア)を効率良くアパーチャー105側へと向かわせるために、筺体101内のエア導入口103の近傍には、導入された気体(エア)を筺体101の内壁に沿って移動させるためのエア衝突板161が設けられることが好ましい。
【0085】
ここで、エア導入口103の開口径については、特に限定されるものではなく、アパーチャー105の径Lの大きさや、実現したいエア圧力等に応じて、適宜決定すればよい。また、光検出器110とエア衝突板161との間の離隔距離や、エア導入口103とエア衝突板161との間の離隔距離についても、特に限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
【0086】
また、筺体101における被計測体側の端部には、アパーチャー105が設けられている。このアパーチャー105は、多重反射ミラー151と被計測体との間の光路上に、多重反射ミラー151の直径よりも小さな径となるように設けられており、被計測体である冷延鋼板からの自発光を筐体101内へと導くとともに、エア導入口103から筺体101内へと供給された気体(エア)を、被計測体側へと排出させる。
【0087】
このアパーチャーの開口径Lは、先だって説明したシミュレーション結果に則して、50mm以上70mm以下とすることが好ましい。アパーチャーの開口径Lを50mm以上70mm以下とすることで、優れたエアパージ性能を実現しつつ、極めて高い実効放射率を実現することが可能となる。
【0088】
また、少なくとも、かかるアパーチャー105が設けられた筺体101の被計測体に対向する端面には、黒体塗料を素材とする黒体皮膜(図示せず。)が設けられることが好ましい。被計測体に対向する筺体101の底面は、被計測体からの熱輻射光を受けて加熱され、迷光となる可能性がある。そのため、アパーチャー105が設けられた側の筺体101の底面に対して黒体皮膜を設けることで、迷光誤差を更に抑制して、更に精度のよい温度計測を行うことが可能となる。また、黒体皮膜は、アパーチャー105が設けられた側の筺体101の端面だけでなく、筺体101の全壁面に、かかる黒体皮膜を設けても良い。
【0089】
(温度計測装置における演算処理装置の構成について)
続いて、図14を参照しながら、本実施形態に係る温度計測装置における演算処理装置の構成について、詳細に説明する。図14は、本実施形態に係る温度計測装置における演算処理装置の構成の一例を示した模式図である。
【0090】
図14に示したように、本実施形態に係る温度計測装置10の演算処理装置200は、検出制御部201と、演算処理部203と、表示制御部205と、記憶部207と、を有している。
【0091】
検出制御部201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。検出制御部201は、本実施形態に係る検出装置100による、被計測体である冷延鋼板からの自発光の検出処理を統括して制御する。
【0092】
より詳細には、検出制御部201は、被計測体である冷延鋼板からの自発光の検出を開始する場合に、検出装置100に対して、光検出部110を起動させるための制御信号を送出し、検出装置100の設置環境に応じた適切な状態で、自発光の検出を開始させる。また、検出制御部201は、被計測体である冷延鋼板の搬送を制御している駆動機構等から定期的に送出されるPLG信号(例えば、冷延鋼板が1mm移動する毎等に出力されるPLG信号)を取得する毎に、検出装置100に対して、検出した自発光の強度に対応する電気信号を出力させるためのトリガ信号を送出する。
【0093】
演算処理部203は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。演算処理部203は、検出装置100によって検出された、被計測体からの自発光の強度に関する電気信号を利用して、以下で説明するような演算処理を行うことで、被計測体の温度を算出する。なお、かかる演算処理部203については、以下で改めて詳細に説明する。
【0094】
表示制御部205は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置等により実現される。表示制御部205は、演算処理部203から出力された被計測体の温度に関する情報を、演算処理装置200が備えるディスプレイ等の出力装置や演算処理装置200の外部に設けられた出力装置等に表示する際の表示制御を行う。これにより、温度計測装置10の利用者は、被計測体の温度に関する情報を、その場で把握することが可能となる。
【0095】
記憶部207は、例えば本実施形態に係る演算処理装置200が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。記憶部207には、本実施形態に係る演算処理装置200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、又は、各種のデータベースやプログラム等が、適宜記録される。この記憶部207は、検出制御部201、演算処理部203、表示制御部205及び上位計算機等が、自由にデータのリード/ライト処理を行うことが可能である。
【0096】
<演算処理部203について>
続いて、図15を参照しながら、本実施形態に係る演算処理装置200が有する演算処理部203の構成について、詳細に説明する。図15は、本実施形態に係る温度計測装置が有する演算処理装置における演算処理部の構成の一例を示したブロック図である。
【0097】
本実施形態に係る演算処理部203は、検出装置100により検出された、被計測体からの自発光の強度に応じた電気信号に基づき、被計測体の温度を算出する処理部である。図15に示したように、本実施形態に係る演算処理部203は、温度算出部211と、結果出力部213と、を備える。
【0098】
温度算出部211は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。温度算出部211は、検出装置100により検出された、自発光の強度に対応する電気信号と、予め特定された電気信号の大きさと温度との関係と、を利用して、被計測体の温度を算出する。
【0099】
より詳細には、検出装置100で、冷却機構131によって冷却された光学フィルタ121を介して被計測体から輻射される自発光を検出し、温度算出部211は、検出した自発光の強度に対応する電気信号の大きさ(例えば、電圧値)を、予め特定しておいた被計測体の実効放射率εで除して、着目している被計測体からの自発光の真の強度を算出する。ここで、被計測体の実効放射率εは、予め被計測体を公知の方法で測定することで特定してもよいし、先だって利用したようなレイトレーシングシミュレーションをはじめとする各種のシミュレーションにより算出してもよいし、各種の文献値を利用してもよい。このような被計測体の実効放射率εに関する情報は、例えば記憶部207に放射率データとして格納されることが好ましい
【0100】
その後、温度算出部211は、得られた真の強度と、予め特定された電気信号の大きさと温度との関係と、を利用して、被計測体の温度を算出する。温度算出部211が利用する、電気信号の大きさと温度との関係の一例として、例えば図16に模式的に示したような、出力電圧値と温度との関係を表した温度校正グラフを挙げることができる。図16は、出力電圧値と温度との関係を表した温度校正グラフの一例である。図16に示したような温度校正グラフは、温度が既知である物体(例えば、特定の温度に設定された黒体炉)からの自発光を、光検出器110を用いて検出し、光検出器110から出力された電気信号の電圧値をプロットすることで、予め準備することが可能である。図16に示した温度校正グラフは、温度が75~225℃に設定された黒体炉を、図4Aに示したような光検出部110で検出した場合の、光検出部110からの電気信号の電圧値をプロットしたものである。
【0101】
図16に示したように、出力電圧値と温度とは、極めて良い相関を示しており(R=0.9985)、出力電圧値と、関係式((温度)=152.32×(出力電圧)0.3094)とを用いて、温度を算出可能であることがわかる。このような関係式は、例えば記憶部207に関係式データとして格納されることが好ましい。
【0102】
ここで、先だって言及したように、被計測体の温度の計測精度を向上させるためには、検出部111として、電子冷却型の検出器を用いることが好ましい。これは、本実施形態では、赤外波長帯域の自発光を検出するために、検出する自発光によって検出器そのものが加熱されてしまい、検出精度が低下する可能性があるからである。図17は、電子冷却型の検出器の機構について説明するための模式図である。図17に示したように、電子冷却型の検出器では、自発光を検出する光検出素子141と、印加される冷却電圧に応じて光検出素子141を冷却する素子冷却機構143と、が設けられている。ペルチェ素子等の素子冷却機構143に対して、検出器の設置環境に応じた冷却電圧が印加されることで、素子冷却機構143は光検出素子141を冷却して、光検出素子141の検出精度を担保することが可能となる。
【0103】
本発明者らは、更なる計測精度の向上を求めて、かかる電子冷却型の検出器について検討を行ったところ、計測環境の変化に伴う冷却電圧の変化が、計測誤差の要因の一つであることに想到した。そこで、本発明者らは、電子冷却型の検出器を用いて、温度が既知である黒体炉について温度を一定に保持したままで、冷却電圧を変化させながら自発光を検出した。得られた結果を、図18に示した。図18は、光検出素子に印加される冷却電圧と光検出素子から出力される電圧の出力比との関係を示したグラフ図である。
【0104】
この際、既知の温度となっている黒体炉からの自発光を、かかる温度に対応する冷却電圧が素子冷却機構に印加されている状態で、光検出素子で検出したときの電気信号の出力電圧を、基準出力電圧a(単位:V)とする。また、既知の温度となっている黒体炉からの自発光を、冷却電圧を変えて光検出素子で検出したときの電気信号の出力電圧を、a’(単位:V)とする。上記の出力比Rは、基準出力電圧aに対する出力電圧a’の比率(a’/a)として規定されるものである。なお、基準出力電圧aを印加した際の光検出素子の出力比Rは、1とする。図18に関係を示した電子冷却型の検出器を、周囲温度が25℃である環境に設置した場合、冷却電圧は1.545Vであった。かかる1.545Vが、図18に示したときの基準出力電圧aに対応する。
【0105】
図18から明らかなように、同じ温度に保持されている黒体炉からの自発光を、冷却電圧を変えながら検出した結果、出力比Rは、(出力比)=1.6958×(冷却電圧)-1.6338という関係が得られ、冷却電圧に対して線形に変化していることがわかる。従って、実際の温度計測において、かかる関係を用いて素子冷却機構に印加された冷却電圧に基づき出力比Rを特定し、得られた出力比Rを用いて真の強度を補正することで、周囲の温度環境に影響されずに、より精度の良い温度計測が可能となる。
【0106】
例えば、放射率がεである鋼板の温度を計測するものとする。この際に、光検出素子からの出力電圧値がa”(V)であり、そのときの冷却電圧がV’(V)であったとする。上記のような補正を行わない場合の温度T1は、図16に示した関係式を用いて、T1=152.32×(a”/ε)0.3094となるが、図18に示した関係式を用いて補正を行った場合、得られる温度T2は、T2=152.32×(a”/εR)0.3094となる。
【0107】
図18に関係を示した電子冷却型の検出器を、周囲温度が35℃である環境に設置した場合、冷却電圧は、1.500Vとなった。従って、かかる場合の出力比R1は、図18に示した関係式から、R1=0.91となった。この出力比R1は、出力が9%減少したことを意味している。
【0108】
温度150℃、放射率ε=0.25である冷延鋼板の自発光を検出して温度を算出したとする。上記のような補正を行わないとすると、図16に示した関係式を逆に用いて、光検出素子からの出力電圧a1は、150=152.32×(a1/0.25)0.3094の関係から、a1=0.238Vとなる。しかしながら、上記の出力比R1=0.91を用いた補正を考慮すると、補正後の出力値a2=a1×R1=0.216Vとなる。この補正後の電圧値を用いて図16に示した関係式から温度を算出すると、145.6℃となる。
【0109】
同様に、温度200℃、放射率ε=0.25である冷延鋼板の自発光を検出して温度を算出したとする。上記のような補正を行わないとすると、図16に示した関係式を逆に用いて、光検出素子からの出力電圧a3は、200=152.32×(a3/0.25)0.3094の関係から、a3=0.601Vとなる。しかしながら、上記の出力比R1=0.91を用いた補正を考慮すると、補正後の出力値a4=a3×R1=0.548Vとなる。この補正後の電圧値を用いて図16に示した関係式から温度を算出すると、194.1℃となる。
【0110】
このように、上記のような冷却電圧を用いた補正を考慮しない場合には、計測誤差が生じるようになるが、上記のような冷却電圧を用いた補正を行うことで、上記のような計測誤差を抑制することができ、より正確な温度計測を実現することが可能となる。
【0111】
温度算出部211は、以上のようにして被計測体の温度を算出すると、得られた温度の算出結果を示す情報を、後述する結果出力部213へと出力する。
【0112】
結果出力部213は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。結果出力部213は、温度算出部211により算出された、被計測体の温度に関する温度情報を、例えば表示制御部205に出力する。表示制御部205における温度の表示方法については、特に限定されるものではなく、被計測体の温度を、数値として表示しても良いし、温度を色相に変換して、被計測体の温度を色で表示してもよい。また、結果出力部213は、インターネットやローカルエリアネットワーク等の各種ネットワークを介して、外部の装置に対して算出された温度情報を出力してもよい。また、結果出力部213は、算出された温度情報を、プリンタ等を利用して印刷物として出力してもよい。
【0113】
また、結果出力部213は、算出された温度情報を示したデータに、当該データが算出された日時等に関する時刻情報を関連づけて、履歴情報として記憶部207に記録してもよい。
【0114】
以上、本実施形態に係る演算処理装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0115】
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータやプロセスコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0116】
(温度計測方法について)
続いて、図13図15に示したような構成を有する温度計測装置10を用いた温度計測方法の流れの一例について、図19を参照しながら説明する。図19は、本実施形態に係る温度計測方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0117】
図19に示したように、本実施形態に係る温度計測方法では、まず、図13に示したような構成を有する検出装置を、被計測体からの自発光を検出可能な位置に設置する(ステップS101)。
【0118】
その後、被計測体からの自発光が、検出装置内に設けられた多重反射ミラーと、被計測体との間で多重反射している状態で、検出装置内に設けられた検出部により自発光を検出する(ステップS103)。この際、検出装置の筐体内にパージ用エアを供給して、光路中に外乱が存在しない状態とし、冷却機構131によって冷却された光学フィルタ121を介して被計測体から輻射される自発光の検出を行うことが好ましい。
【0119】
その後、温度計測装置が有する演算処理装置に設けられた温度算出部は、検出装置により検出した自発光の強度に対応する電気信号に基づき、被計測体の温度を算出して、着目している被計測体の温度計測結果とする。
【0120】
より詳細には、温度算出部は、図17及び図18を参照しながら説明したような、印加される冷却電圧と出力比との関係を利用しながら、自発光の強度に対応した電気信号の大きさ(より詳細には、検出部から出力される電圧値)を補正することが好ましい(ステップS105)。その後、温度算出部は、補正後の電気信号の大きさを利用して、図16に示したような関係式に基づき、被計測体の温度を算出する(ステップS107)。温度算出部は、このようにして被計測体の温度を算出すると、得られた結果を、結果出力部へと出力する。
【0121】
その後、演算処理装置の結果出力部は、算出した温度を、着目する被計測体の温度計測結果として出力する(ステップS109)。これにより、温度計測装置の使用者は、着目する被計測体の温度を把握することが可能となる。
【0122】
冷延プロセス中の冷延ラインを搬送される冷延鋼板の温度を、一般的な放射温度計を用いて計測した場合の計測結果を、図20Aに示すとともに、上記のような温度計測方法に即して計測された冷延鋼板の温度の計測結果を、図20Bに示した。図20A及び図20Bは、冷延プロセス中の冷延ラインを搬送される冷延鋼板の温度計測結果を示したグラフ図である。図20A及び図20Bにおいて、横軸は、計測を開始してからの経過時間(単位:秒)であり、縦軸は、計測結果から算出した平均温度との差分(単位:℃)である。
【0123】
図20Aに示したように、一般的な放射温度計を用いた温度計測では、計測誤差は±10℃であった。一方、図20Bに示したように、本実施形態に係る温度計測方法を用いて、出力値の補正を行いながら実施した温度計測では、計測誤差は±1.8℃であった。すなわち、本実施形態に係る温度計測装置を用いた温度計測により、一般的な放射温度計を用いた温度計測と比べて、計測誤差を約1/5まで抑制できたことがわかる。
【0124】
(冷延プロセスにおける通板速度制御について)
以上説明したような温度計測装置を用いることで、冷延プロセスにおいて、以下のような通板速度制御を実現することが可能となる。この通板速度制御について、図21を参照しながら具体的に説明する。図21は、冷延プロセスにおける通板速度制御について説明するための説明図である。
【0125】
図21に示したグラフ図は、冷延プロセスにおいて、基準となる通板速度(単位:mpm)から通板速度を変化させた場合に、鋼板温度が基準となる温度(単位:℃)からどのように変化するかを検討した際の結果をプロットしたものである。図21において、横軸は、基準となる通板速度からの差分を示しており、縦軸は、基準となる鋼板温度からの差分を示している。
【0126】
図21のプロットから明らかなように、通板速度の変化と鋼板温度の変化とは、線型関係となっており、通板速度が速くなるにつれて、鋼板温度も高くなっていくことがわかる。また、各プロットで表される状態の鋼板について、その表面の状態をそれぞれ確認したところ、通板速度350mpm超の領域において、ヒートスクラッチが発生していたことが判明した。
【0127】
冷延プロセスにおける通板速度制御では、製造される冷延鋼板にヒートスクラッチが絶対に発生しないように、通板速度が制御される。ヒートスクラッチは、鋼板温度が高くなって、冷延鋼板とワークロールとの間に存在する油膜が消失することで発生する欠陥である。そのため、ヒートスクラッチの発生を防止するためには、鋼板温度がヒートスクラッチ発生領域に属する温度とならないように、通板速度を制御する必要がある。そこで、実際の操業では、ヒートスクラッチが発生する領域と発生しない領域との境界となる鋼板温度を閾値温度とし、かかる閾値温度から十分な安全マージンを設けた温度を、管理温度として取り扱う。
【0128】
従来の一般的な放射温度計を用いた鋼板温度計測では、図20Aに例示したように、計測誤差が±10℃程度存在した。そのため、閾値温度からの安全マージンとしては、計測誤差±10℃を考慮して、10℃以上の安全マージンを確保せざるを得ない。そのため、図21に模式的に示したように、基準となる通板速度から通板速度を増加させようとしても、増速域の幅は小さくせざるをえなかった。
【0129】
一方、本実施形態に係る温度計測装置を用いた鋼板温度計測では、図20Bに例示したように、計測誤差は±1.8℃まで抑制される。そのため、閾値温度からの安全マージンの幅を従来よりも小さくすることが可能となり、結果として、基準となる通板速度からの増速域の幅は、より大きなものとすることができる。このように、本実施形態に係る温度計測装置を用いることで、冷延ラインの通板速度をより精密に制御して、冷延ラインの更なる高速化を図ることが可能となる。
【0130】
(通板速度制御装置について)
上記のような通板速度制御を実現するための通板速度制御装置の構成の一例について、図22を参照しながら説明する。図22は、本実施形態に係る通板速度制御装置の構成の一例を示した模式図である。
【0131】
本実施形態に係る通板速度制御装置は、複数の冷延スタンドで構成される冷延ラインを通板される、被圧延材の一例である冷延鋼板の温度を、冷延鋼板から輻射される自発光を検出することで冷延鋼板の温度を計測する温度計測装置を用いて計測し、冷延鋼板の温度計測結果に応じて、冷延ラインの通板速度を制御する装置である。
【0132】
図22に示したように、かかる通板速度制御装置1は、本実施形態に係る温度計測装置10と、通板速度制御部20と、を有している。
【0133】
ここで、温度計測装置10の詳細な構成とその機能については、先だって説明した通りであるので、以下では詳細な説明は省略する。なお、温度計測装置10が有する検出装置は、冷延鋼板からの自発光を検出するために、図22に示したように、隣り合う冷延スタンドの間に設けられる。
【0134】
温度計測装置10は、搬送されている冷延鋼板からの自発光を検出し、かかる自発光に基づき、冷延鋼板の温度を計測する。冷延鋼板の温度計測結果に関するデータは、通板速度制御部20に出力される。
【0135】
通板速度制御部20は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。通板速度制御部20は、予め特定されている、図21に例示したような冷延鋼板の温度と通板速度との関係を用いて、温度計測装置10による冷延鋼板の温度計測結果が所定の閾値温度以下となるように、通板速度を制御する。より詳細には、通板速度制御部20は、冷延プロセス中の冷延ラインを構成する搬送ロール等の回転数等を制御することで、冷延鋼板の通板速度を制御する。
【0136】
ここで、図21を参照しながら説明したように、本実施形態に係る温度計測装置10を用いているために、冷延鋼板の温度をより精度よく計測することが可能となる。その結果、従来よりも通板速度の増速域を大きく確保することが可能となり、冷延ラインの更なる高速化を図ることが可能となる。
【0137】
なお、図22では、便宜上、温度計測装置10とは異なる構成として通板速度制御部20を図示しているが、かかる通板速度制御部20は、温度計測装置10が有する演算処理装置200の一機能として実現されてもよい。また、温度計測装置10が有する演算処理装置200や通板速度制御部20は、冷延プロセスの動作を統括的に制御する上位演算装置である、プロセスコンピュータの一機能として実現されていてもよい。
【0138】
(演算処理装置のハードウェア構成について)
次に、図23を参照しながら、本発明の実施形態に係る温度計測装置が有する演算処理装置200のハードウェア構成について、詳細に説明する。図23は、本発明の実施形態に係る演算処理装置200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0139】
演算処理装置200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理装置200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0140】
CPU901は、中心的な処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、又はリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理装置200内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0141】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0142】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理装置200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。更に、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。ユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理装置200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0143】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置及びランプなどの表示装置や、スピーカ及びヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を、テキスト又はイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0144】
ストレージ装置913は、演算処理装置200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、及び外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0145】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理装置200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu-ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、又は、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)又は電子機器等であってもよい。
【0146】
接続ポート917は、機器を演算処理装置200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS-232Cポート、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)ポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理装置200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0147】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線もしくは無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又はWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、又は、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、社内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信又は衛星通信等であってもよい。
【0148】
以上、本発明の実施形態に係る演算処理装置200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0149】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0150】
1 通板速度制御装置
10 温度計測装置
20 通板速度制御部
100 検出装置
101 筐体
103 エア導入口
105 アパーチャー
110 光検出器
111 検出部
113 筐体
115 検出ユニット
121 光学フィルタ
123 光学フィルタ筐体
131 冷却機構
133 ペルチェ素子
135 ヒートシンク
141 光検出素子
143 素子冷却機構
151 多重反射ミラー
153 開口部
161 エア衝突板
200 演算処理装置
201 検出制御部
203 演算処理部
205 表示制御部
211 温度算出部
213 結果出力部
図1
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