IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川澄化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

<図1>
  • 特開-送液デバイス 図1
  • 特開-送液デバイス 図2
  • 特開-送液デバイス 図3
  • 特開-送液デバイス 図4
  • 特開-送液デバイス 図5
  • 特開-送液デバイス 図6
  • 特開-送液デバイス 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119788
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】送液デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/11 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
A61B17/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022845
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】宮久 優子
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160CC22
4C160CC39
4C160DD02
4C160DD03
(57)【要約】
【課題】留置時において管腔臓器との位置ずれを抑制し、抜去時の侵襲性を低減できる送液デバイスを提供する。
【解決手段】管腔臓器2を連通し、一方側から管腔臓器2内に留置される他方側に体液を流す送液デバイス1は、一方側に体液の流入部15,15aを有する筒状の本体部10と、本体部10の他方側に設けられる弁部13と、本体部10の外周に取り付けられる基端側に対して先端側が径方向に突出し、本体部10が貫通した管腔臓器2の壁2aに係止される係止部30と、を備える。係止部30は、基端側に対して先端側を管腔臓器2の壁2aに向けた第1形状から、抜去時に基端側に対して先端側を管腔臓器2の壁2aと本体部10の軸方向反対側に向けた第2形状に変形する。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管腔臓器を連通し、一方側から前記管腔臓器内に位置する他方側に体液を流す送液デバイスであって、
一方側に前記体液の流入部を有する筒状の本体部と、
前記本体部の他方側に設けられる弁部と、
前記本体部の外周に取り付けられる基端側に対して先端側が径方向に突出し、前記本体部が貫通した前記管腔臓器の壁に係止される係止部と、を備え、
前記係止部は、前記基端側に対して前記先端側を前記管腔臓器の壁に向けた第1形状から、抜去時に前記基端側に対して前記先端側を前記管腔臓器の壁と前記本体部の軸方向反対側に向けた第2形状に変形する
送液デバイス。
【請求項2】
前記第1形状は、前記係止部が前記管腔臓器の壁に向けてテーパー状に拡径した形状であり、
前記第2形状は、前記係止部が前記管腔臓器の壁に向けてテーパー状に縮径した形状である
請求項1に記載の送液デバイス。
【請求項3】
前記係止部は、弾性変形可能な線材で形成された骨格を有する
請求項2に記載の送液デバイス。
【請求項4】
前記係止部は、前記骨格の隙間を覆うカバーを有する
請求項3に記載の送液デバイス。
【請求項5】
前記カバーは、前記係止部の径方向外側の部位に環状をなすように形成され、
前記係止部の前記基端側では前記骨格が露出している
請求項4に記載の送液デバイス。
【請求項6】
前記係止部から軸方向に間隔をあけて前記本体部の外周に設けられ、前記係止部とで前記壁を挟みこんで前記本体部を軸方向に位置決めする位置決め部をさらに備える
請求項1に記載の送液デバイス。
【請求項7】
一方側が腹腔内に留置され、他方側が腹腔臓器内に留置され、
前記腹腔内の体液を前記腹腔臓器に還流させる請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の送液デバイス。
【請求項8】
2つの管腔臓器を連通して留置され、一方側の第1の管腔臓器から他方側の第2の管腔臓器に前記体液を流す請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の送液デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送液デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食道、胃、十二指腸、大腸、膵臓、胆道、胆嚢等の腫瘍、周囲のリンパ節、血管等の検査や治療を、超音波内視鏡(EUS:Endoscopic Ultrasonography)を用いて経口的に行う手技が知られている。
【0003】
また、特許文献1には、超音波内視鏡下で行われるドレナージ術に適用されるステントとして、逆流を防止して管腔臓器に体液を一方向に流すことができる構成が開示されている。特許文献1のステントは、管腔臓器の内壁を貫通して管腔臓器に留置される本体部と、本体部における体液の逆流を防止する弁部を備えている。また、特許文献1のステントは、管腔臓器の壁に本体部を係止させるために、骨格で形成されたフランジ状のアンカーを本体部の外周部に有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2021/044837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のステントは、本体部のアンカーにより留置時に管腔臓器からの位置ずれが抑制される。しかしながら、ステントを管腔臓器から抜去するときにはアンカーが管腔臓器の壁に引っ掛かり、管腔臓器に負荷を与えることや抜去の手術が長引くことなどで患者への侵襲性が高くなることが懸念される。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、留置時において管腔臓器との位置ずれを抑制し、抜去時の侵襲性を低減できる送液デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、管腔臓器を連通し、一方側から管腔臓器内に留置される他方側に体液を流す送液デバイスである。送液デバイスは、一方側に体液の流入部を有する筒状の本体部と、本体部の他方側に設けられる弁部と、本体部の外周に取り付けられる基端側に対して先端側が径方向に突出し、本体部が貫通した管腔臓器の壁に係止される係止部と、を備える。係止部は、基端側に対して先端側を管腔臓器の壁に向けた第1形状から、抜去時に基端側に対して先端側を管腔臓器の壁と本体部の軸方向反対側に向けた第2形状に変形する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、留置時において管腔臓器との位置ずれを抑制し、抜去時の侵襲性を低減できる送液デバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の送液デバイスの構成例を示す図である。
図2】送液デバイスの留置状態の一例を示す概略図である。
図3】送液デバイスの他方側の弁部を示す図である。
図4図1のIV-IV線断面を示す図である。
図5】第2係止部の第1形状から第2形状への変形を示す図である。
図6】(a)は留置状態の送液デバイスを部分的に示す図であり、(b)は抜去状態の送液デバイスを部分的に示す図である。
図7】(a)は送液デバイスの留置状態の別例を示す概略図であり、(b)は留置状態の別例における送液デバイスの他方側を部分的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る送液デバイスの構成例について説明する。本実施形態では、送液デバイスの一例として、腹腔内に貯留された体液を腹腔臓器に還流する送液デバイスについて説明する。
【0011】
ここで、図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。図面において、送液デバイスの軸方向Axを必要に応じて矢印で示す。また、軸方向Axと略直交する方向を径方向と定義する。なお、必要に応じて、図面において送液デバイスの一方側を符号Bで示し、他方側を符号Fで示す。
【0012】
図1は、本実施形態の送液デバイス1の構成例を示す図である。図2は送液デバイス1の留置状態の一例を示す概略図である。図3は、送液デバイスの他方側の弁部を示す図である。
図4は、図1のIV-IV線断面を示す図である。図5は、第2係止部30の第1形状から第2形状への変形を示す図である。図6(a)は、留置状態の送液デバイスを部分的に示す図である。図6(b)は、抜去状態の送液デバイスを部分的に示す図である。
【0013】
送液デバイス1は、全体形状が筒状のデバイスである。送液デバイス1は、腹腔に過剰に貯留され、白血球やタンパク質等の有用な成分を含む腹水(体液)を腹腔臓器2(例えば、胃)に還流させるために使用される。図2図6(a)に示すように、送液デバイス1は、腹腔臓器2の壁2aに形成された開口2bに挿入されて留置される。送液デバイス1の一方側は、体液の流れ方向の上流側であり、腹腔3内に配設される。送液デバイス1の他方側は、体液の流れ方向の下流側であり、腹腔臓器2内に配設される。
腹腔臓器2としては、例えば、胃、十二指腸、小腸、大腸などの消化器、消化管が挙げられるが、一例であってこれに限られるものではない。
【0014】
図1に示すように、送液デバイス1は、軸方向Axの一方側と他方側が連通する筒状の本体部10と、第1係止部20および第2係止部30を備える。図2図6(a)の留置状態において、本体部10の内部空間は、一方側から他方側に向けて体液が通過可能な流路を形成する。なお、本体部10の軸方向Axおよび径方向の寸法は、患者の体に必要以上の負荷をかけずに、腹腔3内に貯留された体液を腹腔臓器2内に導くことができる範囲で適宜決定される。
【0015】
本体部10は、筒状の骨格部11と、骨格部11に固定された被膜部12とを有している。また、本体部10は、軸方向Axの他方側に弁部13を有し、軸方向Axの一方側の端部が開口している。また、本体部10の一方側の側面部には、本体部10への体液の流入を補助するために、被膜部12を内外に貫通する複数の流入補助孔15aが設けられている。これにより、本体部10には、一方側の開口15と流入補助孔15aから体液が流入する。なお、流入補助孔15aは本体部10に必ずしも設けられていなくてもよい。
【0016】
本実施形態での骨格部11は、弁部13の先端部分(後述する平坦部13b)を除く本体部10に配設されている。
骨格部11は、拡張状態の形状が記憶されたいわゆる自己拡張型の構成であって、径方向内側に収縮した収縮状態から径方向外側に拡張する拡張状態へと拡縮可能である。送液デバイス1は、図示は省略するが、径方向内側に収縮された状態(不図示)でシースに収納され、超音波内視鏡(EUS:Endoscopic Ultrasonography)を介して患者の体内に導入される。
【0017】
骨格部11は、一例として、金属素線からなる線材をフェンス状に編み込んで構成されている。骨格部11の線材の材料としては、例えば、Ni-Ti合金、ステンレス鋼、チタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金等が挙げられる。なお、骨格部11は、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されていてもよい。
【0018】
また、骨格部11の線材にはX線造影性を有する合金材料を用いてもよく、あるいはX線造影性を有する合金材料で形成されたマーカ片(不図示)を線材に適宜取り付けてもよい。これらの場合、送液デバイス1の位置を体外から確認できるようになる。
【0019】
骨格部11を構成する材料としてNi-Ti合金を用いる場合、骨格部11を拡張状態の形状に整えた後、所定の熱処理を施すことにより、拡張状態の形状を骨格部11に記憶させることができる。
【0020】
なお、骨格部11の構成は、上記に限定されるものではない。例えば、金属素線を他の編み方で格子状または螺旋状に編み込んで骨格部11を形成してもよい。あるいは、上記の各種金属からなる薄肉円筒体をレーザーカットし、金属細線がジグザグに折り返されながら螺旋状に巻回されるパターン等の骨格部11を形成してもよい。
【0021】
被膜部12は、上述の流路を形成する筒状の可撓性の膜体であって、骨格部11の隙間部分を閉塞するように骨格部11に取り付けられている。本実施形態では、図4に示すように、被膜部12は、骨格部11の外周側に取り付けられている。骨格部11に対する被膜部12の固定方法は、例えば、ディッピングによる被膜の形成、糸による縫着、接着、溶着、テープ等による貼着等のいずれでもよい。
【0022】
被膜部12は、腹腔臓器2内で腹腔臓器の消化液(例えば胃液)にさらされる環境下で使用されるため、耐酸性および生体適合性を有する材料で形成される。被膜部12の材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂などが挙げられる。超高分子量ポリエチレンは、分子量が100~700万のポリエチレンである。
なお、留置される腹腔臓器2の種類や状態によってpH値が高い場合や、留置期間が比較的短い場合等には、被膜部12は必ずしも耐酸性を有していなくてもよい。
【0023】
送液デバイス1では、本体部10が被膜部12の膜体によって連続的に覆われている。これにより、留置時に腹腔臓器2の壁2aの開口2bに臨み、腹腔臓器2の壁2aを通過する部位(例えば、第1係止部20と第2係止部30の間の領域)と、その下流側で腹腔臓器2内に配設される部位(第1係止部20から弁部13までの領域)は、いずれも耐酸性および生体適合性を有する膜体で流路が一体に構成される。
【0024】
なお、被膜部12は、送液デバイス1の部位ごとに膜体の物性を異ならせてもよい。例えば、腹腔臓器2の壁2aを通過する部位とその下流側の部位(腹腔臓器2内に配設される部位)には、耐酸性を有する膜体を配設し、これら以外の部位には耐酸性を有しない膜体を配設してもよい。
【0025】
弁部13は逆流防止弁であって、一方側から他方側に体液を流すとともに、他方側からの体液の逆流を防止する機能を担う。
弁部13は、本体部10の他方側に設けられ、全体として一方側の流路断面積よりも他方側の流路断面積が小さい先細り形状に形成されている。弁部13は、一方側から他方側に向けて順にテーパー部13aと、弾性変形可能な平坦部13bとを有する。また、平坦部13bの他方側には流出口13cが形成されている。
【0026】
テーパー部13aは、軸方向Axに直交する第1方向D1の寸法がほぼ一定であり、軸方向Axおよび第1方向D1に対して略直交する第2方向D2の寸法が一方側から他方側に向かうにつれて狭くなる形状に形成されている。つまり、テーパー部13aでは、一方側から他方側に向けて流路断面積が徐々に小さくなる。なお、第1方向D1、第2方向D2は図3に示す。
【0027】
また、弁部13のテーパー部13aには、流出口13cに向けて延びる一対の延出部11a,11aが配置されている。一対の延出部11a,11aは、骨格部11を構成する金属素線の一部からなり、本体部10の管軸を挟んで向かい合うように配置され、本体部10の径方向に対向する2つの山部の高さが、他の山部の高さよりも高くなっている。
【0028】
また、平坦部13bは、第1方向D1及び第2方向D2の寸法が軸方向Axに沿って保持され、第2方向D2では膜体がほぼ密着する扁平状に形成されている。また、平坦部13bの他方側には、腹腔臓器2内に体液を流出させる流出口13cが形成されている。なお、平坦部13bの第1方向D1の寸法は、例えば、軸方向Axに沿って変化してもよい。
【0029】
平坦部13bは、弁部13の一方側で体液の内圧が所定未満のときには、第1方向D1に直線状に延びるとともに、第2方向D2において膜体が密着する。これにより、弁部13の一方側での体液の内圧が所定未満のときの平坦部13bは、流出口13cが閉塞された状態に維持され、体液を流しにくくなる。
【0030】
一方、平坦部13bは、一方側から弁部13に流入する体液の内圧が所定以上になると、膜体が体液の内圧で押し広げられて第2方向D2に離間する。これにより、弁部13の一方側での体液の内圧が所定以上のときの平坦部13bは、流出口13cが開口した状態となり、他方側に体液を流す。
【0031】
以上のように、弁部13は、流出口13cが開口した状態で当該流出口13cから腹腔臓器2内への体液の排出を許容する一方で、流出口13cが閉塞された状態で当該流出口13cを介して消化液を含む体液が腹腔臓器2から送液デバイス1に逆流することを抑制する。なお、流出口13cは、体液を排出するときに例えば楕円形状や矩形状に開口するが、流出口13cの開口形状は体液が通過可能な形状であれば特に限定されるものではない。
【0032】
弁部13は、生体適合性を有するとともに、弾性変形可能な薄膜材料で形成される。弁部13の材料としては、例えば、シリコン樹脂や、PTFE等のフッ素樹脂、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂などが挙げられる。
弁部13をシリコン樹脂で形成する場合、ディッピングにより本体部10の他方側に弁部13を形成できる。また、弁部13は、被膜部12の膜体によって本体部10と一体に形成されてもよい。
【0033】
第1係止部20および第2係止部30は、いずれも本体部10の外周に環状に設けられ、本体部10の外周に取り付けられる基端側に対して先端側が径方向に突出する形状をなしている。第1係止部20は、留置時に腹腔臓器2内に配置され、本体部10が貫通した腹腔臓器2の壁2aに内側から係止される。第2係止部30は、留置時に腹腔3内に配置され、本体部10が貫通した腹腔臓器2の壁2aに外側から係止される。
【0034】
第1係止部20は、位置決め部の一例であって、本体部10の軸方向において他方側の弁部13と一方側の第2係止部30の間に配置されている。第1係止部20は、一方側の第2係止部30に対して腹腔臓器2の壁2aが入り込める寸法の間隔をあけて本体部10に設けられている。
【0035】
第1係止部20は、送液デバイス1に対して一方側へ変位させる外力が作用したときに腹腔臓器2の壁2aの内面に引っかかることで送液デバイス1を腹腔臓器2から抜け止めして腹腔3への逸脱を抑制する。また、第1係止部20は、第2係止部30とで腹腔臓器2の壁2aを挟みこんで本体部10を軸方向に位置決めする。
【0036】
第1係止部20は、骨格部21を有する。骨格部21は、基端側から先端側に向かうにつれて金属骨格が外周側に広がって突出し、一方側に位置する腹腔臓器2の壁2aに向けてテーパー状に拡径する形状をなしている。骨格部21は、例えば、金属素線をフック編みして本体部10の外周に環状に形成されている。骨格部21は、本体部10の骨格部11とは別体で構成され、縫着やかしめ等によって本体部10に取り付けられる。
【0037】
第2係止部30は、図4図5に示すように、骨格部31と、骨格部31に取り付けられるカバー32を有する。
骨格部31は、弾性変形可能な線材で形成された金属骨格を有する。骨格部31の金属骨格は、基端側から先端側に向かうにつれて外周側に広がって突出する形状をなし、例えば、金属素線をフック編みして本体部10の外周に環状に形成されている。骨格部31は、例えば、本体部10の骨格部11とは別体で形成され、縫着やかしめ等によって本体部10に取り付けられる。なお、金属素線をフック編みして骨格部31を形成することで、後述する第1形状と第2形状のいずれでも骨格の形状を維持しやすくなる。
【0038】
第2係止部30の骨格部31は、図5中実線(図5の左側)で示すように、留置時の第1形状から抜去時の第2形状に弾性変形可能である。第1形状での骨格部31は、基端側に対して先端側が他方側に向いており、他方側に位置する腹腔臓器2の壁2aに向けてテーパー状に拡径する形状をなす。
【0039】
一方、第2形状での骨格部31は、図5中一点鎖線(図5の右側)で示すように、基端側を中心として先端側が第1形状の位置から一方側へ回動するように変形し、基端側に対して先端側が一方側に向いた状態となる。
これにより、第2形状での骨格部31は、第1形状から反転し、他方側に位置する腹腔臓器2の壁2aに向けてテーパー状に縮径する形状をなす。また、第2形状の骨格部31は、他方側からの力を受けると先端側が本体部10に近づき、第2係止部30全体がさらに内側に窄まるように変形する。
【0040】
第2係止部30のカバー32は、図4に示すように、第2係止部30の径方向外側の部位に環状をなすように形成され、骨格部31の先端側の隙間部分を閉塞するように骨格部31に取り付けられている。そのため、第2係止部30の基端側では、骨格部31がカバー32で覆われずに露出している。
【0041】
また、カバー32は、生体適合性を有するとともに、骨格部31の変形に追従して弾性変形可能な薄膜材料で形成されている。カバー32の材料としては、例えば、シリコン樹脂が挙げられる。カバー32は、シート状の材料を用いて形成されてもよく、ディッピング等で形成されてもよい。シート状の材料を用いる場合、骨格部31に対するカバー32の固定方法は、例えば、縫着、接着、溶着等のいずれでもよい。
【0042】
カバー32は、骨格部31の内側への細胞組織の侵入(イングロース)を抑制し、治療後における送液デバイス1の抜去を容易にする機能を担う。また、カバー32は、第1形状から第2形状への変形のときに他方側から一方側へ屈曲する基端側を覆っていないため、第2係止部30の変形を阻害することもない。
【0043】
また、カバー32は、骨格部31の他方側の面に取り付けられている。骨格部31の他方側の面にカバー32を取り付けると、第1形状のときにカバー32が骨格部31よりも腹腔臓器2側に位置するので、留置時に骨格部31が腹腔臓器2により食い込みにくくなる。また、第2形状のときには骨格部31の反転でカバー32が骨格部31の外側に位置するので、送液デバイス1の抜去時に腹腔臓器2の開口2bと骨格部31の接触が減少し、腹腔臓器2が傷つきにくくなる。
なお、カバー32は、骨格部32の一方側の面に取り付けられていてもよい。骨格部31の一方側の面にカバー32を取り付けると、シースへの装填時および放出時にカバー32が骨格部31よりも外側に位置するので、シースへの装填および放出の際の抵抗を低減でき、送液デバイス1のスムーズな留置が可能となる利点がある。
【0044】
次に、送液デバイス1を腹腔臓器2に留置する手順と、送液デバイス1を腹腔臓器2から抜去する手順についてそれぞれ説明する。送液デバイス1を留置する手技は、例えば経内視鏡的に行われるが、一例であってこれに限られるものではない。
まず、送液デバイス1を挿入するために、例えば、超音波内視鏡を用いて切開や穿刺等により腹腔臓器2の壁2aに開口2bが形成される。腹腔臓器2の開口2bの大きさは、送液デバイス1の本体部10の寸法に応じて適宜調整される。
【0045】
そして、上記の開口2bに対して、径方向内側に収縮された送液デバイス1を筒状のシース内に収容したカテーテル(不図示)が挿通される。その後、軸方向Axにおいて送液デバイス1の第1係止部20と第2係止部30の間に腹腔臓器2の壁2aが位置する状態で、カテーテルのシースを引き抜くように移動させる。すると、シースから送液デバイス1が放出される。このとき、送液デバイス1の他方側は腹腔臓器2内に配設され、送液デバイス1の一方側は腹腔3内に配設される。
【0046】
送液デバイス1は、シースから放出されることで径方向外側に自己拡張する。これにより、拡張した本体部10は腹腔臓器2の開口2bを押し広げるようにして壁2aに密着し、腹腔臓器2と送液デバイス1の隙間は塞がれる。なお、送液デバイス1の内側に留置用のカテーテルとは異なる拡張用カテーテル(不図示)を挿通し、拡張用カテーテルの膨張によって送液デバイス1を径方向外側に拡張させてもよい。
【0047】
また、送液デバイス1の第1係止部20は腹腔臓器2の内側で開口2bよりも径方向に拡がるように拡張し、第2係止部30は腹腔臓器2の外側で開口2bよりも径方向に拡がるように拡張する。これにより、腹腔臓器2の壁2aは第1係止部20と第2係止部30で内外から挟みこまれた状態となる。
【0048】
ここで、留置時の第2係止部30は第1形状である。第2係止部30は、送液デバイス1に対して他方側へ変位させる外力が作用した場合、当該外力が所定値以下であれば、腹腔臓器2の開口2bよりも外周側に広がっている先端側が腹腔臓器2の壁2aの外面に引っかかった状態で、第1形状を維持する。第1形状での第2係止部30は、送液デバイス1の腹腔臓器2内への逸脱を抑制する。
そのため、例えば、腹腔臓器2のぜん動や患者の寝返りなどの姿勢変化による外力が送液デバイス1に作用しても、腹腔臓器2に対して送液デバイス1が軸方向Axに位置ずれしにくい。
【0049】
以上のようにして、図6(a)に示すように、他方側が腹腔臓器2内に配設され、一方側が腹腔3に配設された状態で送液デバイス1を患者の体内に留置できる。
体液で膨張した腹腔3の内圧よりも腹腔臓器2内の圧力が小さくなる場合、本体部10の一方側の開口15と流入補助孔15aから体液が本体部10内に流入する。本体部10に流入した体液は、弁部13を通過して腹腔臓器2内に排出される。なお、弁部13は逆流防止弁であるので、消化液を含む体液が腹腔3に逆流することは抑制される。
【0050】
また、送液デバイス1を腹腔臓器2から抜去するときには、超音波内視鏡に設けられたスネアや鉗子などを用いて腹腔臓器2の内側で送液デバイス1を把持し、腹腔臓器2の内側に向けて送液デバイス1を引き抜く。すると、第2係止部30には他方側に向けて所定値を超える外力が作用し、図6(b)に示すように、第2係止部30は第1形状から第2形状に変形する。
【0051】
第2形状での第2係止部30は、腹腔臓器2の壁2aに向けてテーパー状に縮径しているため、送液デバイス1に対して他方側へ変位させる外力が作用したときに、骨格部31の傾斜した部分が腹腔臓器2の開口2bに入りこみやすい。また、第2形状での第2係止部30は、骨格部31の傾斜した部分が腹腔臓器2の開口2bに入りこむと、腹腔臓器2の壁2aに外側から押されてさらに窄まるように変形する。これにより、第2形状での第2係止部30は腹腔臓器2の壁2aに先端側が引っ掛かりにくく、患者に大きな負荷を与えずに送液デバイス1を容易に抜去できる。
【0052】
以下、本実施形態の送液デバイス1の効果を述べる。
送液デバイス1は、腹腔臓器2(管腔臓器)を連通し、一方側から腹腔臓器2内に留置される他方側に体液を流す。送液デバイス1は、一方側に開口15、流入補助孔15a(体液の流入部)を有する筒状の本体部10と、本体部10の他方側に設けられる弁部13と、本体部10の外周に取り付けられる基端側に対して先端側が径方向に突出し、本体部10が貫通した腹腔臓器2の壁2aに係止される第2係止部30(係止部)と、を備える。
送液デバイス1は、腹腔3内に貯留される体液を腹腔臓器2内に流出させるので、腹腔3の体液は腹腔臓器2の消化作用で体内に吸収される過程を経て還流される。したがって、送液デバイス1によれば、腹腔3の体液を血管内に直接還流する場合と比べて心不全や血栓の形成などの重篤な合併症を発症するリスクを大幅に抑制できる。
また、第2係止部30は、基端側に対して先端側を腹腔臓器2の壁2aに向けた第1形状から、抜去時に基端側に対して先端側を一方側(腹腔臓器2の壁2aと本体部10の軸方向反対側)に向けた第2形状に変形する。これにより、第1形状での第2係止部30は、先端側が腹腔臓器2の壁2aに引っかかって留置時に送液デバイス1の逸脱を抑制する。一方で、第2形状での第2係止部30は、変形により反対側を向いた先端側が腹腔臓器2の壁2aに引っ掛かりにくくなり、抜去時の侵襲性を低減できる。
【0053】
また、第1形状は、第2係止部30が腹腔臓器2の壁2aに向けてテーパー状に拡径した形状であり、第2形状は、第2係止部30が腹腔臓器2の壁2aに向けてテーパー状に縮径した形状である。そのため、第1形状から反転した第2形状では、第2係止部30が腹腔臓器2の開口2bに入りこみやすいので、送液デバイス1の抜去がより容易となる。
【0054】
また、第2係止部30は、弾性変形可能な線材で形成された骨格部31を有している。そのため、骨格部31の弾性変形により、抜去時に第1形状から第2形状への変形を容易に行うことが可能となる。
【0055】
また、第2係止部30は、骨格部31の隙間を覆うカバー32を有している。そのため、骨格部31の内側への細胞組織の侵入がカバー32で抑制されるので、治療後における送液デバイス1の抜去が容易となる。また、カバー32は、第2係止部30の径方向外側の部位に環状をなすように形成され、第2係止部30の基端側では骨格部31が露出している。そのため、カバー32は、第1形状から第2形状への変形のときに屈曲する基端側を覆っていないため、第2係止部30の変形を阻害しない。
【0056】
また、送液デバイス1は、第2係止部30から軸方向に間隔をあけて本体部10の外周に設けられ、第2係止部30とで腹腔臓器2の壁2aを挟みこんで本体部10を軸方向に位置決めする第1係止部20(位置決め部)をさらに備える。腹腔臓器2の壁2aが第1係止部20と第2係止部30で挟みこまれることで、留置時の送液デバイス1の軸方向の位置ずれや逸脱がより生じにくくなる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0058】
上記実施形態では、腹腔内に貯留された体液を腹腔臓器に還流する送液デバイス1を説明した。しかし、本発明の送液デバイス1の用途は上記に限定されない。例えば、送液デバイス1は、2つの管腔臓器を連通して留置され、一方側の第1の管腔臓器から他方側の第2の管腔臓器に体液を流すものであってもよい。
【0059】
図7(a)は、送液デバイス1の留置状態の別例を示す概略図であり、図7(b)は留置状態の別例における送液デバイス1の他方側を部分的に示す図である。図7では、胆のうドレナージ術に適用される送液デバイス1の例を示している。
【0060】
図7に示すように、送液デバイス1は、一方側の胆のう4と他方側の十二指腸5を連通して留置され、胆のう4に貯留された胆汁を十二指腸5に流す。送液デバイス1の本体部10は胆のう4の壁4aと十二指腸5の壁5aをそれぞれ連通する。開口15および流入補助孔15aを有する本体部10の一方側と、第2係止部30が胆のう4内に配設される。また、弁部13と第1係止部20が十二指腸5内に配設される。そして、第1係止部20と第2係止部30によって胆のう4の壁4aと十二指腸5の壁5aが挟み込まれた状態で送液デバイス1が留置される。
図7の送液デバイス1によれば、胆のう4の胆汁を十二指腸5に直接流すことができるとともに、十二指腸5から胆のう4への体液の逆流を防ぐことができる。
【0061】
また、上記実施形態では、第1形状から第2形状に変形可能な第2係止部30が腹腔3側に配置された送液デバイス1の構成例を説明した。しかしながら、抜去時に送液デバイス1を腹腔3側に引き抜く場合、第2係止部30を他方側(腹腔臓器2の内側)に配置し、第1係止部20を一方側(腹腔3側)に配置してもよい。
【0062】
また、第2係止部30の骨格部31の構成は、金属素線をフック編みしてテーパー状をなしている上記実施形態の例に限定されない。例えば、第2係止部30の骨格部31は、留置時に先端部が腹腔臓器2の壁2aに向けて延在し、抜去時には先端部が軸方向の反対側に回動する棒状部材で構成されてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、被膜部12として、骨格部11の外周側に取り付けられているものを例示したが、一例であってこれに限られるものではなく、例えば、骨格部11の内周側に被膜部12が取り付けられていてもよい。
また、上記実施形態の本体部10は、複数の弁部を有していてもよい。例えば、弁部13の外側から薄膜製の筒状体の弁部を被せて二重にしてもよく、弁部13よりも一方側の本体部10内にさらに逆流防止弁(不図示)を設けてもよい。
また、上記実施形態において、腹腔臓器2の内側に配置される第1係止部20にも、骨格部21の隙間を覆うカバーを取り付けてもよい。
【0064】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1…送液デバイス、2…腹腔臓器、2a…壁、2b…開口、3…腹腔、4…胆のう、4a…壁、5…十二指腸、5a…壁、10…本体部、11…骨格部、11a…延出部、12…被膜部、13…弁部、13a…テーパー部、13b…平坦部、13c…流出口、15…開口(流入部)、15a…流入補助孔(流入部)、20…第1係止部(位置決め部)、21…骨格部、30…第2係止部(係止部)、31…骨格部、32…カバー

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7