(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119793
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】路面氷雪状態予測プログラム、情報処理装置及び路面氷雪状態予測システム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20230822BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20230822BHJP
G08G 1/13 20060101ALI20230822BHJP
E01H 5/00 20060101ALN20230822BHJP
【FI】
G01W1/10 B
G08G1/00 J
G08G1/13
E01H5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022857
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180758
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 利之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 明宏
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA07
5H181EE12
5H181EE13
5H181FF05
5H181FF12
5H181FF13
5H181FF22
5H181FF32
(57)【要約】
【課題】除雪車の稼働状況を考慮して雪氷層の状態を予測する路面氷雪状態予測プログラム、情報処理装置及び路面氷雪状態予測システムを提供する。
【解決手段】情報処理装置1は、各地点の除雪の履歴と予定、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて各時刻の路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測手段103と、雪氷状態予測手段103が算出した前記各地点の雪氷状態予測データを時刻毎に地図上に表示した表示情報を生成する表示情報生成手段105とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
各地点の除雪の履歴と予定、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて各時刻の路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測手段と、
前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データを時刻毎に地図上に表示した表示情報を生成する表示情報生成手段として機能させる路面氷雪状態予測プログラム。
【請求項2】
前記除雪予定を、除雪車の性能及び前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データに基づいて決定する除雪予定予測手段としてさらに機能させる請求項1に記載の路面氷雪状態予測プログラム。
【請求項3】
各地点、各時刻の前記雪氷状態予測データから路面すべり摩擦係数を算出し、当該路面すべり摩擦係数に基づいて車両がスタックする危険率を算出するスタック危険率算出手段としてさらに機能させる請求項1又は2に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
【請求項4】
前記表示情報生成手段は、前記算出されたスタック危険率が予め定めたしきい値を超えた地点が存在する場合、当該地点について次回除雪の必要性又は予定を表示する表示情報を生成する請求項3に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
【請求項5】
前記表示情報生成手段は、前記算出されたスタック危険率が予め定めたしきい値を超えた地点が存在する場合、当該地点について通行止めの必要性又は予定を表示する表示情報を生成する請求項3に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
【請求項6】
前記表示情報生成手段は、前記雪氷状態予測データから算出される路面すべり摩擦係数が予め定めたしきい値より小さい地点が存在する場合、当該地点について凍結防止剤散布の必要性又は散布の予定を表示する表示情報を生成する請求項1から5のいずれか1項に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
【請求項7】
前記表示情報生成手段は、前記雪氷状態予測データ、前記雪氷状態予測データから算出される路面すべり摩擦係数、前記雪氷状態予測データ及び前記路面すべり摩擦係数から算出されるスタック危険率の少なくともいずれかに基づいて交通渋滞情報を表示する表示情報を生成する請求項1から6のいずれか1項に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
【請求項8】
各地点の除雪の履歴と予定、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて各時刻の路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測手段と、
前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データを時刻毎に地図上に表示した表示情報を生成する表示情報生成手段とを有する情報処理装置。
【請求項9】
各地点の除雪の履歴と予定、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて各時刻の路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測手段と、
前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データを時刻毎に地図上に表示した表示情報を生成する表示情報生成手段とを有する情報処理装置と、
前記表示情報を表示する端末とを備えた路面雪氷状態予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面氷雪状態予測プログラム、情報処理装置及び路面氷雪状態予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、路面の雪氷層を熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルによりモデル化して各モデルの同時連成解析による定量評価を行うことで路面のすべり摩擦係数を予測する雪氷状態予測プログラムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された雪氷状態予測プログラムは、気象条件及び交通条件に関する予測データを取得し、雪氷層についての熱収支モデルに基づいて熱収支を計算するとともに、雪氷層についての氷・水・空気収支モデルに基づいて氷・水・空気収支を計算し、これらにより積雪路面、圧雪路面、凍結路面、シャーベット路面のいずれであるか及び雪氷層の厚さ等の雪氷状態予測データを算出して、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を予測する。なお、積雪路面、圧雪路面、凍結路面、シャーベット路面のいずれであるかは氷・水・空気の体積割合により決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した特許文献1の雪氷状態予測プログラムは、気象条件及び交通条件に関する予測データを取得して、雪氷状態予測データを算出して、算出された雪氷状態予測データに基づいて路面のすべり摩擦係数を予測するものの、除雪車の稼働状況を考慮して路面の雪氷状態及びすべり摩擦係数を予測するものではないし、予測値がある地点についてのものであり、ある地域を俯瞰して提示するものではない、という問題がある。
【0006】
本発明の目的は、除雪車の稼働状況を考慮して雪氷層の状態を予測する路面氷雪状態予測プログラム、情報処理装置及び路面氷雪状態予測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の路面氷雪状態予測プログラム、情報処理装置及び路面氷雪状態予測システムを提供する。
【0008】
[1]コンピュータを、
各地点の除雪の履歴と予定、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて各時刻の路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測手段と、
前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データを時刻毎に地図上に表示した表示情報を生成する表示情報生成手段として機能させる路面氷雪状態予測プログラム。
[2]前記除雪予定を、除雪車の性能及び前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データに基づいて決定する除雪予定予測手段としてさらに機能させる前記[1]に記載の路面氷雪状態予測プログラム。
[3]各地点、各時刻の前記雪氷状態予測データから路面すべり摩擦係数を算出し、当該路面すべり摩擦係数に基づいて車両がスタックする危険率を算出するスタック危険率算出手段としてさらに機能させる前記[1]又は[2]に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
[4]前記表示情報生成手段は、前記算出されたスタック危険率が予め定めたしきい値を超えた地点が存在する場合、当該地点について次回除雪の必要性又は予定を表示する表示情報を生成する前記[3]に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
[5]前記表示情報生成手段は、前記算出されたスタック危険率が予め定めたしきい値を超えた地点が存在する場合、当該地点について通行止めの必要性又は予定を表示する表示情報を生成する前記[3]に記載の路面雪氷状態予測プログラム。
[6]前記表示情報生成手段は、前記雪氷状態予測データから算出される路面すべり摩擦係数が予め定めたしきい値より小さい地点が存在する場合、当該地点について凍結防止剤散布の必要性又は散布の予定を表示する表示情報を生成する前記[1]から[5]のいずれかに記載の路面雪氷状態予測プログラム。
[7]前記表示情報生成手段は、前記雪氷状態予測データ、前記雪氷状態予測データから算出される路面すべり摩擦係数、前記雪氷状態予測データ及び前記路面すべり摩擦係数から算出されるスタック危険率の少なくともいずれかに基づいて交通渋滞情報を表示する表示情報を生成する前記[1]から[6]のいずれかに記載の路面雪氷状態予測プログラム。
[8]各地点の除雪の履歴と予定、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて各時刻の路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測手段と、
前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データを時刻毎に地図上に表示した表示情報を生成する表示情報生成手段とを有する情報処理装置。
[9]各地点の除雪の履歴と予定、気象条件及び交通条件に関する予測データを用いて、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて各時刻の路面雪氷層中の雪氷状態予測データを算出する雪氷状態予測手段と、
前記雪氷状態予測手段が算出した前記各地点の雪氷状態予測データを時刻毎に地図上に表示した表示情報を生成する表示情報生成手段とを有する情報処理装置と、
前記表示情報を表示する端末とを備えた路面雪氷状態予測システム。
【発明の効果】
【0009】
請求項1、8、9に係る発明によれば、除雪車の稼働状況を考慮して雪氷層の状態を予測することができる。
請求項2に係る発明によれば、除雪予定を、除雪車の性能及び雪氷状態予測手段が算出した各地点の雪氷状態予測データに基づいて決定することができる。
請求項3に係る発明によれば、各地点、各時刻の雪氷状態予測データから路面すべり摩擦係数を算出し、当該路面すべり摩擦係数に基づいて車両がスタックする危険率を算出することができる。
請求項4に係る発明によれば、算出されたスタック危険率が予め定めたしきい値を超えた地点が存在する場合、当該地点について次回除雪の必要性又は予定を表示する表示情報を生成することができる。
請求項5に係る発明によれば、算出されたスタック危険率が予め定めたしきい値を超えた地点が存在する場合、当該地点について通行止めの必要性又は予定を表示する表示情報を生成することができる。
請求項6に係る発明によれば、雪氷状態予測データから算出される路面すべり摩擦係数が予め定めたしきい値より小さい地点が存在する場合、当該地点について凍結防止剤散布の必要性又は散布の予定を表示する表示情報を生成することができる。
請求項7に係る発明によれば、雪氷状態予測データ、雪氷状態予測データから算出される路面すべり摩擦係数、雪氷状態予測データ及び路面すべり摩擦係数から算出されるスタック危険率の少なくともいずれかに基づいて交通渋滞情報を表示する表示情報を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る雪氷状態予測システムの構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る情報処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、雪氷層の状態を解析するためのモデル概念を示す図である。
【
図4】
図4(a)及び(b)は、スタック判定動作を説明するための概略図及びフローチャートである。
【
図6】
図6は、路面雪氷状態予測動作、スタック危険率算出動作及び表示情報生成動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
(雪氷状態予測システムの構成)
図1は、実施の形態に係る雪氷状態予測システムの構成の一例を示す概略図である。
【0012】
雪氷状態予測システムは、道路40の路面雪氷状態を予測するとともに予測結果を出力する情報処理装置1と、情報処理装置1の出力する情報を表示する端末2及び端末3と、道路40の積雪41を除雪する除雪車4とをネットワーク5で互いに接続することで構成される。端末2は除雪車4及び道路40の管理者6によって操作されるものであり、端末3は道路40の利用者7によって操作されるものである。除雪車4はGPS(Global Positioning System)等の位置情報送受信システムを備えて自己の位置を情報処理装置1へ定期的に送信する。
【0013】
(情報処理装置の構成)
図2は、実施の形態に係る情報処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【0014】
この情報処理装置1は、与えられた情報を処理して予測位置の雪氷状態及びスタック危険率を算出するものであって、サーバ型の情報処理装置であり、外部から入力される要求に応じて動作し、本体内に情報を処理するための機能を有するCPU(Central Processing Unit)やフラッシュメモリ等の電子部品を備える。なお、ここで「雪氷状態」とは、少なくとも雪氷温度、雪氷厚さ、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合を含むものとする。
【0015】
情報処理装置1は、CPU等から構成され、各部を制御するとともに、各種のプログラムを実行する制御部10と、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶媒体から構成され情報を記憶する記憶部11と、ネットワーク5を介して外部と通信する通信部12とを備える。
【0016】
制御部10は、後述する路面氷雪状態予測プログラム110を実行することで、気象情報取得手段100、設定手段101、除雪予定予測手段102、雪氷状態予測手段103、スタック危険率算出手段104、表示情報生成手段105、出力手段106等として機能する。
【0017】
気象情報取得手段100は、通信部12を介して外部から気象情報を取得し、気象情報111として記憶部11に格納する。気象情報111は、気温、相対湿度、風速、日射量、大気放射量、降水量の実測値及び予報値を含むものとするが、大気放射量については気温、相対湿度、蒸気圧、雲量より推定してもよい。
【0018】
設定手段101は、計算条件及び雪氷状態を予測するための初期条件を設定し、設定値情報112として記憶部11に格納する。設定値情報112の内容は後述する。また、設定手段101は、外部から交通条件に関する予測データを取得して設定値情報112として記憶部11に格納する。
【0019】
除雪予定予測手段102は、過去の除雪車4のGPSによる位置情報を含む除雪情報116を解析し、除雪車4の標準作業能力、雪氷状態及び道路条件(車線数や車線幅)、交通条件(交通量や走行速度)、気象条件(降水量、風速、気温)、時刻(視認性)に対する除雪速度や効率、障害物や駐車車両等の除雪遅延因子等に基づいて除雪車4の能力を判定して除雪情報116に記録する。また、除雪予定予測手段102は、除雪車4の能力に基づいて道路40が通行止めにならないように除雪予定を計画し、除雪情報116に記録する。なお、通行止めとなる判断はスタック危険率算出手段104の算出するスタック危険率に基づいて行う。
【0020】
雪氷状態予測手段103は、気象情報111、設定値情報112を用い、路面雪氷層の熱収支モデル及び氷・水・空気収支モデルに基づいて温度変化に伴う雪氷層内の水、氷及び空気の体積変化が計算可能となり、これにより雪氷温度、雪氷厚さ及び雪氷層中の水、氷及び空気の混合割合を算出でき、これらの雪氷状態及びその時間推移を予測し、雪氷状態情報113を生成する。雪氷状態は、例えば、少なくとも雪氷層の厚さ、路面雪氷層中の氷、水及び空気の混合割合を含むものである。なお、雪氷状態情報113の算出方法及び次に言及する路面すべり摩擦係数の算出方法の詳細は特開2008-102006号公報に記載の内容に基づくものとする。また、雪氷状態は、複数の地点についてそれぞれ予測される。また、雪氷状態予測手段103は、除雪情報116を参照し、除雪の履歴を考慮して雪氷状態情報113を生成するものとする。
【0021】
また、雪氷状態予測手段103は、さらに除雪情報116を参照して、除雪車4によって除雪がなされる場合の雪氷状態を考慮して雪氷状態情報113を予測する。具体的には、一例として、積雪量が除雪車4の能力に応じて減少するものとする。また、雪氷状態予測手段103は、さらに凍結防止剤の散布、融雪装置の稼働状態等も考慮してもよい。
【0022】
スタック危険率算出手段104は、設定値情報112及び雪氷状態情報113に基づいて路面すべり摩擦係数を算出した後、これらの数値及びスタック判定基本原理(
図4(a)及び(b))に基づいてスタック危険率を算出し、スタック危険率情報114として記憶部11に格納する。なお、スタック危険率の算出方法の詳細については後述する。
【0023】
表示情報生成手段105は、除雪予定予測手段102の予測する(及び管理者6が設定する)除雪予定、雪氷状態予測手段103が予測する雪氷状態情報113、スタック危険率算出手段104が算出するスタック危険率情報114に含まれる情報を時刻毎に地図上に表示した表示情報115を生成し、記憶部11に格納する。さらに、表示情報生成手段105は、除雪を実施するタイミング、通行止めを実施するタイミング等をさらに表示情報115に含めることができる。なお、表示情報115は、利用者7と管理者6とでそれぞれ異なる情報を有するようにしてもよい。例えば、利用者7に対して除雪の予定を示すのに対し、管理者6に対して(通行止めが生じないようにするための)除雪すべき時刻を示すようにしてもよい。
【0024】
出力手段106は、表示情報115を端末2、3に対して出力する。また、出力手段106は、表示情報115に加え、除雪予定予測手段102の予測する除雪予定、雪氷状態予測手段103が予測した雪氷状態情報113及びスタック危険率算出手段104が算出したスタック危険率情報114を端末2、3に対して出力してもよい。
【0025】
記憶部11は、制御部10を上述した各手段100-105として動作させる路面氷雪状態予測プログラム110、気象情報111、設定値情報112、雪氷状態情報113、スタック危険率情報114及び表示情報115等を記憶する。
【0026】
(情報処理装置の動作)
次に、本実施の形態の作用を、(1)基本原理、(2)路面雪氷状態予測動作、(3)スタック判定基本原理、(4)スタック危険率算出動作及び(5)表示情報生成動作に分けて説明する。
【0027】
(1)基本原理
図3は、雪氷層の状態を解析するためのモデル概念を示す図である。
【0028】
まず、雪氷層の状態予測の前提としてのモデルを説明する。
図3は、路面雪氷層に影響を及ぼす熱収支成分を図解した説明図である。まず、舗装された路面上に積雪により雪氷層が形成されて積雪路面となる。形成された雪氷層は、主に車両の走行によって圧雪されて圧密状態となり、圧雪路面となるが、車両の走行により、車両底面輻射熱、タイヤによる摩擦熱、車両通過により誘発される風に基づく顕熱といった熱収支成分が発生すると考えられる(車両熱)。そして、圧密状態の雪氷層の車両通過領域において融解した状態になる。また、車両の走行により路面雪氷から飛散が生じる。
【0029】
こうした人為的因子による熱収支成分の他に、自然的因子による熱収支成分が考えられる。
図3では、舗装面から雪氷層に伝えられる舗装熱、自然風による風顕熱、降雨・除雪による顕熱、凍結に伴う凝固潜熱、雪氷層から放射される長波放射熱(さらに天空から雪氷層に放射される放射熱)が発生すると考えられる。そして、主に夜間において雪氷層表面で融解した水が凝固(凍結)して凍結路面となる。また、日中においては、日射による太陽熱(雪氷層への吸収、大気への反射、舗装路面への透過を含む。)、蒸発・凝結による潜熱が発生すると考えられ、雪氷層全体で融解し、雪氷層全体がシャーベット状に緩んだ状態のシャーベット路面となる。また、融解の結果、水は舗装路面へ浸透し、又は雪氷層外へ排水される。さらに、雪氷層が凍結することを防止するために凍結防止剤が散布される。
【0030】
上記した熱収支モデル、氷・水・空気収支モデルを組み合わせた路面雪氷状態モデルに基づいて同時連成解析を行うことで、温度変化に伴う雪氷層内の水、氷及び空気の体積変化(融解・凍結)が計算可能となり(計算の詳細は特開2008-102006号公報参照。)、雪氷厚さ及び雪氷層中の水、氷及び空気の混合割合(体積又は質量)が算出できる。雪氷状態は、この混合割合で表現できる。例えば、体積割合が水:氷:空気=1:0:0で湿潤状態、水:氷:空気=0.3:0.7:0でシャーベット状態、水:氷:空気=0:0.7:0.3で圧雪状態となる。
【0031】
(2)路面雪氷状態予測動作
図6は、路面雪氷状態予測動作、スタック危険率算出動作及び表示情報生成動作を説明するためのフローチャートである。
【0032】
まず、予測する時刻をt=t0(例えば、現在時刻)にセットし(S10)、気象情報取得手段100は、外部より気象情報を取得して記憶部11に気象情報111として格納する。また、設定手段101は、外部端末より計算条件及び雪氷状態を予測するための初期条件を受け付けて、設定値情報112として記憶部11に格納する(S11)。設定値情報112は、例えば、交通混雑度、初期値としての路面雪氷厚、路面雪氷含水率等を含む。
【0033】
次に、雪氷状態予測手段103は、上記した「(1)基本原理」に基づいて除雪情報116を考慮し、気象情報111及び設定値情報112から、路面雪氷の熱・物質収支解析及び舗装・地盤の熱収支解析を行い(S12)、その結果として雪氷温度、路面雪氷厚Hs、路面雪氷含水率Θs、さらにこれらから路面すべり摩擦係数μを算出して出力する(S13)。なお、雪氷状態予測手段103は、除雪情報116を参照し、除雪の履歴も考慮して上記ステップS12、S13を実行する。路面すべり摩擦係数μの具体的な算出方法は、以下のとおりである。まず、雪氷層中の水、氷及び空気の体積割合(体積含水率θw、体積含氷率θi及び体積含空率θa)とすべり摩擦係数μとの間の相関関係を予め求めておき、これらの値を対応させた設定テーブルとして登録しておく。次に、算出された雪氷状態予測データに基づいて設定テーブルから対応するすべり摩擦係数を読み出してすべり摩擦係数が決定される。
【0034】
次に、スタック危険率算出手段104は、スタック危険率Rを算出する(S14)が、スタック危険率の算出の前にスタック判定の基本原理を説明する。
【0035】
(3)スタック判定基本原理
まず、窪みや凹凸のある圧雪路面は以下のように形成されると考えられる。(ア)大雪時には吹雪による視界不良、堆雪による道路有効幅員の低下、路面状態の悪化などによって、次第に走行速度が低下し、渋滞が発生し始める。(イ)車両が停止すると、停車試験で示したように、タイヤからの熱移動や輪荷重によってタイヤが圧雪内に沈むとともに、すべり摩擦係数が低下する。また、発進時のアクセルワークによってはタイヤが空転し、タイヤの空転は上記の圧雪の変化を促進させる。(ウ)こうして発生した窪みに後続車両のタイヤが嵌ると、その度にタイヤを空転させ、益々窪みを深める。このように窪みが一旦発生するとその窪みは成長し易く、深い圧雪窪みが形成される。(エ)圧雪窪みは走行性をさらに悪化させ、車両滞留を深刻化させる。車両滞留の時間や区間が広がれば、窪みの発生エリアも広がる。(オ)滞留時に強い降雪が伴えば、車両が存在しない箇所にだけ積雪し、路面の圧雪厚さは益々不均一となり、波状の荒い凹凸のある圧雪路面が形成される。さらに、タイヤから圧雪への熱移動、車両底面からの輻射熱が、圧雪を融解・軟化させ、凹凸のある圧雪路面の形成に寄与すると考えられる。
【0036】
図4(a)及び(b)は、スタック判定動作を説明するための概略図及びフローチャートである。
【0037】
まず、
図4(a)に示すように、車両のタイヤが圧雪の窪みに落ちた状態において、車両が前進しようとし、タイヤを回転させる力が生じた際、タイヤと圧雪の窪みとの接触面においてタイヤを駆動する駆動力と、タイヤが受ける摩擦力と、輪荷重による登坂抵抗力とが働く。
【0038】
駆動力に対して摩擦力が小さい場合はタイヤが空転し、スタックの状態となる。また、駆動力が摩擦力以下である場合であっても、駆動力が登坂抵抗力より小さい場合はタイヤが空転し、スタックの状態となる。
【0039】
一方、駆動力が摩擦力以下であって、駆動力が登坂抵抗力より大きい場合はタイヤがグリップし、車両が前進する。
【0040】
以降、上記判定のフローを、
図4(b)を用いて詳細に説明する。
【0041】
車両のタイヤが圧雪の窪みに落ちた状態において(0)、圧雪にはタイヤの輪荷重が作用し(i)、タイヤの熱が伝わる(ii)。また、アクセルを踏むとタイヤが回転する(iii)。これらを考慮しつつ、まずタイヤの回転から駆動力と摩擦力とを比較する(iv)。摩擦力は、垂直抗力とタイヤの材質、パターン等から算出され、アクセルの踏み込みが強いと駆動力が摩擦力より大きくなり(iv;Yes)、タイヤが空転することとなる(b-vi)。
【0042】
一方、アクセルがゆっくり踏まれ、駆動力が摩擦力以下となった場合(iv;No)、駆動力と登坂抗力を比較し(v)、駆動力が登坂抗力より大きい場合(v;Yes)、車両は前進し(a-vi)、駆動力が登坂抗力以下の場合(v;No)、タイヤが空転することとなる(b-vi)。
【0043】
次に、タイヤが空転すると(b-vi)、タイヤと圧雪との間に摩擦が発生する(b-vii)とともに、タイヤが発熱する(b-viii)。この結果、圧雪が融解し(b-ix)、タイヤが沈降する(b-x)。
【0044】
一方、タイヤの空転、圧雪の融解により圧雪表面の平滑化(b-xiv)及びすべり摩擦係数の低下(b-xv)が生じ、ひいては摩擦力の低下(b-xvi)につながる。
【0045】
タイヤが沈降(b-x)すると、圧雪表面の傾斜角が増大し(b-xi)、垂直抵抗が減少(b-xii)した結果、摩擦力の低下(b-xvi)につながる。また、圧雪表面の傾斜角の増大は(b-xi)、登坂抵抗力の増大となる(b-xiii)。
【0046】
摩擦力の低下(b-xvi)は、駆動力と摩擦力の比較(iv)に影響し、登坂抵抗力の増大(b-xiii)は、駆動力と登坂抵抗力の比較(v)に影響する。
【0047】
また、車両が前進し(a-vi)、圧雪窪みから脱出した場合(a-vii;Yes)、スタックの回避となる(a-viii)。
【0048】
また、車両が前進したものの(a-vi)、圧雪窪みから脱出しない場合(a-vii;No)、及び上記のようにタイヤが圧雪窪みに嵌まった後(0)、車両が前進して圧雪窪みから脱出するまでは「スタックの状態」にある。
【0049】
上記スタック判定基本原理に基づくと、路面雪氷厚Hsがタイヤの沈降深さに、路面雪氷含水率Θsが沈降し易さに、路面すべり摩擦係数μがタイヤの空転し易さに影響し、これらが総合的にスタックの危険の程度に寄与することがわかる。また、路面雪氷厚Hsは気温、交通混雑度、降雪量によって寄与の程度が変化し、路面雪氷含水率Θsは気温、交通混雑度によって寄与の程度が変化し、路面すべり摩擦係数μは気温、交通混雑度によって寄与の程度が変化する。さらに、スタックの危険の程度をスタック危険率という語で表現し、これらのパラメータを反映した以降説明する数式を定義してスタック危険率算出手段104により算出するようにした。
【0050】
(4)スタック危険率算出動作
【0051】
スタック危険率算出手段104は、ステップS12で得られた路面雪氷厚Hs、路面雪氷含水率Θs、路面すべり摩擦係数μを用い、下記のように第1~第3の関数の線形結合で定義された計算式に基づきスタック危険率Rを算出し、記憶部11にスタック危険率情報114として格納する(S14)。
【数1】
【0052】
なお、上記において、
J1=F1(Ta)と表され、気温Taと正の相間を持つ関数である(Ta増大→J1増大、第1の係数。)。
J2=F2(Tr)と表され、交通混雑度Trと正の相間を持つ関数である(Tr増大→J2増大、第2の係数。)。
J3=F3(Is)と表され、時間降雪量Isと正の相間を持つ関数である(Is増大→J3増大、第3の係数。)。
R1=F4(Hs)と表され、路面雪氷厚Hsと正の相間を持つ関数である(Hs増大→R1増大、第1の関数。)。
R2=F5(Θs)と表され、路面雪氷含水率Θsによって変化する関数である(第2の関数。)。
R3=F6(μ)と表され、路面すべり摩擦係数μと負の相間を持つ関数である(μ低下→R3増大、第3の関数。)。
なお、これらの各関数はあらかじめ予備実験等で求めておくことができる。
【0053】
また、上記で用いられた変数の説明は以下の通りである。
Ji :0~1.0の間を変化する重み変数(i=1、2、3、4)
Ri :各説明変数によって0~1.0の間を変化するスタック危険率(i=1、2、3、4)
Ta :気温(℃)
Tr :交通混雑度
Is :時間降雪量(mm/h)
Hs :路面雪氷厚(mm)
Θs :路面雪氷含水率
【0054】
(5)表示情報生成動作
次に、上記した「(2)路面雪氷状態予測動作」、「(4)スタック危険率算出動作」に説明したように、時刻毎に(S10、S21、S22)ステップS11~S14を実行し、得られた雪氷状態情報113及びスタック危険率情報114に基づき通行止めや除雪予定を作成して、これらの情報を地図上に示した表示情報115を生成する。以下、表示情報115の生成方法について説明する。
【0055】
まず、表示情報生成手段105は、スタック危険率Rが予め定めた値以下かどうか確認し(S15)、予め定めた値以下の場合(S15;Yes)は通行止め不要と判断する(S19)。また、予め定めた値より大きかった場合(S15;No)は、除雪予定予測手段102により除雪車4の除雪能力と雪氷状態情報113に基づいてスタック危険率を予め定めた値以下とするための次回の除雪予定(除雪の稼働条件を含む。)を作成する(S16)。
【0056】
なお、当該除雪予定は、表示情報115に含めて表示してもよいし、管理者6限定で参照可能な表示情報115に含めて表示してもよいし、管理者6に直接通知されるものであってもよい。
【0057】
管理者6は、提示された除雪予定に基づいて除雪を行う場合は除雪時刻(少なくとも除雪開始時刻)と除雪エリア(又は除雪ルート)等の稼働条件を、端末2を介して情報処理装置1の除雪情報116に登録する。管理者6によって除雪時刻の設定が行われると(S17;Yes)、除雪情報116を考慮し、設定された除雪時刻で除雪がなされる場合の路面の雪氷状態及びスタック危険率の算出を行う(S12~S14)。
【0058】
また、除雪能力が足りない場合や積雪が除雪能力を超える場合等、管理者6が除雪時刻の設定ができない場合(S17;No)、立ち往生が発生する可能性が高くなるため通行止めが必要となる(S18)。通行止めは、表示情報115では通行止めの可能性があることを表示し、管理者6によって通行止めが設定された場合は決定された通行止めであることを表示する。
【0059】
表示情報生成手段105は、得られた雪氷状態情報113及びスタック危険率情報114、設定された除雪予定、通行止め及び通行止めの可能性等の情報を地図上に示した表示情報115を生成する(S20)。上記した動作S11~S20は設定した時刻t=tend(例えば、18時間後)まで予め定めた時刻毎(例えば、1時間毎)に行われる(S21、S22)。
【0060】
出力手段106は、端末2又は端末3に対して表示情報115を出力し、端末2又は端末3は受け付けた表示情報を、一例として、以下の
図5に示すように表示部に表示する。
【0061】
【0062】
画面105aは、端末2又は端末3の表示部に表示される画面例であり、除雪車4の運行履歴及び予定や道路40の状態を表す凡例105a1と、表示する時刻を変更する時間軸スライダー105a2と、地図を拡大縮小するボタン105a3と、凡例の線や模様(実際には色分けされた表示)が地図上に重畳された路面雪氷マップ105a4とを有する。
【0063】
凡例105a1は、除雪情報116の除雪履歴である「除雪車が通った路線」、除雪予定である「除雪車が通る予定の路線」、道路の積雪の状態である「道路の状態」が表示される。「道路の状態」は、雪の有無、雪の状態(凍結、シャーベット、圧雪)と、スタック危険率と、通行止予定とを含む。
【0064】
路面氷雪マップ105a4は、地図上の道路上に上記判例105a1を表示する他、現在(過去、未来)の除雪車4の位置等をさらに表示してもよい。
【0065】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態によれば、除雪車4の能力を考慮し、スタック危険率が予め定めた値以上とならないように除雪予定を予測し、除雪予定が設定された場合は除雪予定を考慮して雪氷状態予測を行い、さらにこれらの動作を各地点で複数の時刻において行うようにしたため、除雪車4の稼働状況を考慮して雪氷層の状態を予測することができる。また、表示情報115を生成し、表示情報115に基づいて地図上に上記した情報を表示するようにしたため、各地点の情報を俯瞰して確認することができる。
【0066】
また、除雪で対応できない場合は通行止めとなることを予測し、通行止めの予定、通行止めの決定を地図上にさらに表示するようにし、除雪車が通った路線、除雪車が通る予定の路線を表示するようにしたため、積雪に関するさらに多くの情報を俯瞰して確認することができる。
【0067】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。
【0068】
例えば、表示情報生成手段105は、路面すべり摩擦係数、雪氷状態予測データ及びスタック危険率の少なくともいずれかに基づいて交通渋滞を予測し、交通渋滞情報として表示情報115に表示するようにしてもよい。交通情報の予測方法は、例えば、過去の路面すべり摩擦係数、雪氷状態予測データ及びスタック危険率の少なくともいずれかと渋滞の生じる確率で学習する。
【0069】
また、表示情報生成手段105は、雪氷状態予測データから算出される路面すべり摩擦係数が予め定めたしきい値より小さい地点が存在する場合、当該地点について凍結防止剤散布の必要性を管理者6に表示する又は管理者6によって設定された凍結防止剤散布の予定を表示する表示情報115を生成してもよい。
【0070】
また、例えば、上記実施の形態及び変形例では、スタック危険率算出手段103はスタック危険率を予め定めた数式に基づいて算出したが、他の方法で求めるものであってもよい。つまり、スタック危険率としては、あらかじめ定めたしきい値と比較することができ、当該比較結果に基づいて、次回除雪、通行止め、凍結防止剤散布の必要性又は予定を求めることができ、もしくは交通渋滞情報を表示できるものであればよい。当該条件を満たす方法としては、例えば、スタック判定基本原理で説明した「スタックの状態」を数式から求める方法以外に、ある条件が与えられた場合における発生確率として求める方法が挙げられる。当該発生確率として求める方法としては以下を例示できる。すなわち多変量解析の手法を用いて求めてもよいし、決定木、ニューラルネットワーク等の手法を用いて学習を行い、学習結果を用いて求めてもよい。
【0071】
上記実施の形態では制御部10の各手段100~106の機能をプログラムで実現したが、各手段の全て又は一部をASIC等のハードウエアによって実現してもよい。また、上記実施の形態で用いたプログラムをCD-ROM等の記録媒体に記憶して提供することもできる。また、上記実施の形態で説明した上記ステップの入れ替え、削除、追加等は本発明の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 :情報処理装置
2、3 :端末
4 :除雪車
5 :ネットワーク
6 :管理者
7 :利用者
10 :制御部
11 :記憶部
12 :通信部
40 :道路
41 :積雪
100 :気象情報取得手段
101 :設定手段
102 :除雪予定予測手段
103 :雪氷状態予測手段
104 :スタック危険率算出手段
105 :表示情報生成手段
106 :出力手段
110 :路面氷雪状態予測プログラム
111 :気象情報
112 :設定値情報
113 :雪氷状態情報
114 :スタック危険率情報
115 :表示情報