(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119809
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】CO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法及びこの方法により溶接された接合管
(51)【国際特許分類】
B23K 9/028 20060101AFI20230822BHJP
B23K 9/16 20060101ALI20230822BHJP
B23K 10/02 20060101ALI20230822BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20230822BHJP
B23K 9/035 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B23K9/028 M
B23K9/16 K
B23K10/02 A
B23K9/12 331F
B23K9/035 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022888
(22)【出願日】2022-02-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(74)【代理人】
【識別番号】100090044
【弁理士】
【氏名又は名称】大滝 均
(72)【発明者】
【氏名】高松 大樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 景子
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 博允
(72)【発明者】
【氏名】林 一成
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001BB09
4E001BB11
4E001CA01
4E001DD04
4E001DF05
4E001DG02
4E081BA02
4E081BA28
4E081CA10
4E081CA14
4E081DA11
4E081EA24
4E081FA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】管接合溶接におけるCO2溶接に先立ち、プラズマ溶接にて管溶接接合を行うCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法を提供する。
【解決手段】被処理管1にエルボ2の管端を密着して仮付けし、溶接ロボットの取り付け用チャックに固定する工程と、プラズマ溶接機で被処理管1とこれに接合するエルボ2の溶接線全周に、プラズマ溶接機の溶接トーチでシーリング溶接5を行う工程と、被処理管1とエルボ2との間のシーリング溶接5部分の全周をキーホール溶接6を行う工程と、被処理管1とエルボ2との間のキーホール溶接6箇所を全周に渡りCO2溶接による盛り上げ溶接7,8を行う工程と、を有するCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理管(パイプ)に予めカイサキ加工されたエルボの管端を密着して仮付けし、その密着仮付け断面がカタカナ文字の「レ」字状のレカイサキ状態で被処理管(パイプ)を溶接ロボットの取り付け用チャック(爪)に固定する工程と、
取りつけられた管(パイプ)の開放端を封入し、バックシールドガスを封入充填する工程と、
管を取りつけた溶接ロボットのレーザーで接合溶接する溶接線の状態をティーチングする工程と、
プラズマ溶接機で被処理管(パイプ)とこれに接合するエルボの溶接線全周についてシーリング溶接を行う工程と、
プラズマ溶接機で被処理管(パイプ)とエルボとの間のシーリング溶接部分の全周についてキーホール溶接を行う工程と、
被処理管(パイプ)とエルボとの間の溶接箇所を全周に渡りCO2溶接による盛り上げ溶接を行う工程と、
を有することを特徴とするCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法。
【請求項2】
シーリング溶接を行う工程、キーホール溶接を行う工程、CO2溶接を行う工程を自動溶接ロボットで行うようにしたことを特徴とする請求項1に記載のCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法。
【請求項3】
前記自動溶接ロボットは、プラズマ溶接電源とCO2溶接電源を共有する自動溶接ロボットであることを特徴とする請求項2に記載のCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかの方法により溶接された溶接接合管であって、レカイサキ状態の形状に対応する溶接痕を有することを特徴とする溶接接合管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法及びこの方法により溶接された接合管、特に、造船配管の内作の管の突合せ溶接における造船配管製作方法及びこの方法による接合管に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマ溶接とCO2溶接を併用する溶接方法に関しては、例えば、特開2004-130346号公報に開示のものが知られている。特開2004-130346号公報の開示は、発明名称「溶接方法及び溶接装置」に係り、「溶接部の疲労強度を確実に向上できる溶接方法及び溶接装置を提供することを目的とする」発明解決課題において(同公報明細書段落番号0005参照)、「前記第1被溶接金属と前記第2被溶接金属とが接合される部分に溶接ビードを形成する際に、ArガスとCO2ガスの混合ガスをシールドガスとして用いるMAG溶接、CO2ガス100%のガスをシールドガスとして用いるCO2溶接、及び不活性ガスをシールドガスとして用いるMIG溶接のうちのいずれかの溶接によって前記溶接ビードを形成する」構成とすることによって(同公報特許請求の範囲請求項2の記載等参照)、「再溶融部分と第1被溶接金属の表面との境界における応力集中を緩和できるので、溶接部の疲労強度を確実に向上でき、・・・前記溶接ビードを形成する場合は、溶接ビードを比較的容易に形成できる」等の効果を奏するものである(同公報明細書段落番号0047及び0048等参照)。
【0003】
しかしながら、特開2004-130346号公報の開示は、管どうしの突合せ溶接における溶接ではなく、管どうしの突合せ溶接にそのまま適用することはできない。
本願出願人会社においては、この種の造船配管における管どうしの突合せ溶接については,従来よりCO2溶接により行っている。
【0004】
図3(a)~(c)は、本願出願人会社が従来から行うCO2溶接による造船配管製作方法の概略を示す図であり、
図3(a)~(c)において、符号101は、被処理配管(パイプ)、102は、既製品配管金物であるエルボ、103は、被処理配管101と既製品金物102との間のギャップである。
本願出願人会社が従来から行うCO2溶接による管接合溶接方法(被処理鋼管:100A、S-40、肉厚6.0mm)の概略を説明すると、次のとおりである。
まず、自動切断装置(図示外)で使用する管101を製作ロット分まとめて切断し、次いで、管端を30°削るカイサキ加工を行う(
図3(a)参照)。これは、管内側への溶込みを確保するための突合せ部分のカイサキ加工であり、具体的には、グラインダで管端を30°削り、研磨(バリ取り)を行う。なお、相手先被処理配管102は、既製品金物であるエルボ102を使用し、同様のカイサキ加工済みのものを使用することを前提としているためその説明は省略する。
【0005】
次に、溶接接合の事前組み立て工程として、被処理配管101とエルボ102との突合せ部分を2.4±0.5の公差でギャップ(隙間)103をあけて仮付けする(
図3(b)参照)。突合せ部分を2.4±0.5の公差でギャップ(隙間)103をとってCO2溶接を行うのは、被処理管(パイプ)101とエルボ102との外側から溶接して突合せ部分の管内側に「ウラナミ」と称する適度なビードを形成するためであり、日本海事協会鋼船規則が要求する突合せ部分の両端の完全溶け込み条件に適合させるためである。
ギャップ103の間隔を2.4±0.5の公差とするのは、上記のサイズ、肉厚の被処理鋼管101及びエルボ102を使用するギャップ103であり、使用する管(パイプ)101及びエルボ102のサイス等により異なる。要は、両端の完全溶け込みに必要な間隙を意味する。。
【0006】
次に、実際の溶接工程として、CO2溶接を行う(
図3(c)参照)。
ここに、CO2溶接とは、シールドガスとして二酸化炭素(=CO2)を用いたアーク溶接をいい、アークをシールドガス(二酸化炭素ガス)で取り囲んで、アークとシールドガスの間に反発力を働かせアークを細く絞って精度良く溶接する溶接方法である。
【0007】
パイプ101と既製品金物エルボ102との間のCO2溶接においては、パイプ口径やパイプの肉厚により、1回の溶接パスで充分でない場合が生じ、そのような場合には、適宜の必要なパス数で溶接を行うこととなる。
図3(c)は、No.1~No.3の3回のパスを行うことを示す図であり、第1回目のNo.1の溶接パスは、初層パスであり、その後、順次必要な2回目のパス(No.2)、3回目のパス(No.3)を行うことを示している。
しかしながら、
図3(a)~(c)に示すようなCO2溶接による管接合溶接方法においては、CO2溶接の前処理として、突合せ部どうしのカイサキ加工を行わなければならず(
図3(a))、また、CO2溶接に先立ち、所定の公差のギャップ(隙間)103を空けた仮付け作業が必要であり、突合せ部分を2.4±0.5の公差でギャップ(隙間)103を精度を保ちつつ行う仮付け作業が難しい。特に、この作業においては、かなりの熟練を必要とする。
【0008】
また、CO2溶接による造船配管接合製作においては、初層(No.1)溶接の際にギャップ103を有するが故に、溶接スパッタが,このギャップ103から管の内側に発生しやすく、さらに、カイサキ加工部分の全面を溶接ビードで埋め合わせる際の初層(No.1)のビード形成時に管内側にスパッタが発生しないようにするには熟練を要し、熟練者であっても、時間を要する作業となる等の問題点がある。また、ギャップ103の全面を埋めるため数回のパスを行う必要がある。すなわち、造船配管におけるCO2溶接においては、カイサキ加工に時間がかかり、また、組立作業でギャップを設ける技術を要し、溶接作業者が金属の溶け込みの感覚を得るまでに習熟を要し、溶接難易度が高く、溶接品質も不安定である等、精度の高い造船配管製作には熟練を必要とし、また、作業時間も長くなる等の問題があった。
【0009】
そこで,本願出願人は、これらの問題点を解消する目的で、種々工夫することにより、CO2溶接の初層(No.1)溶接がギャップ103から漏れ出て内側にスパッタが発生することなく内部突出のない優れたウラナミを形成することができ、また、母材どうしが溶け込んで完全溶け込み溶接を可能とするCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法を案出するに至ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
管接合溶接において、CO2溶接の初層(No.1)溶接がギャップ103から漏れ出て内側にスパッタが発生することなく内部突出のない優れたウラナミを形成することができ、また、母材の間で母材どうしが溶け込んで完全溶け込み溶接を可能とするCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の発明解決課題を解決するために、本願請求項1に係る発明は、CO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法において、被処理管(パイプ)に予めカイサキ加工されたエルボの管端を密着して仮付けし、その密着仮付け断面がカタカナ文字の「レ」字状のレカイサキ状態で被処理管(パイプ)を溶接ロボットの取り付け用チャック(爪)に固定する工程と、取りつけられた管(パイプ)の開放端を封入し、バックシールドガスを封入充填する工程と、管を取りつけた溶接ロボットのレーザーで接合溶接する溶接線の状態をティーチングする工程と、プラズマ溶接機で被処理管(パイプ)とこれに接合するエルボの溶接線全周についてシーリング溶接を行う工程と、プラズマ溶接機で被処理管(パイプ)とエルボとの間のシーリング溶接部分の全周についてキーホール溶接を行う工程と、被処理管(パイプ)とエルボとの間の溶接箇所を全周に渡りCO2溶接による盛り上げ溶接を行う工程と、を有することを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載のCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法において、シーリング溶接を行う工程、キーホール溶接を行う工程、CO2溶接を行う工程を自動溶接ロボットで行うようにしたことを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、請求項2に記載のCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法において、前記自動溶接ロボットは、プラズマ溶接電源とCO2溶接電源を共有する自動溶接ロボットであることを特徴とする。
そして、本願請求項4に係る発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかの方法により溶接された接合管であって、レカイサキ状態の形状に対応する溶接痕を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
CO2溶接に先立ちプラズマ溶接を適用することで、精緻な事前配置を要するCO2溶接に必要なギャップを必要としない組立を溶接に先立って行う溶接が可能となり、加えて母材どうしを溶融して完全溶け込み溶接も実現できるので、品質の安定、作業の簡略化を図ることができる。
また、手溶接にて熟練を要していたギャップ配置等作業を省略し、さらに、母材どうしの溶込みを可能とした完全溶け込み溶接がロボットで施工できることとなる等の効果を有することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)~(d)は、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法の効果の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法をロボットでの自動溶接施工を可能とするロボットの概略図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、本願出願人会社が従来から行うCO2溶接による造船配管製作方法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法を実施するための一実施例を詳細に説明する。
【実施例0016】
本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては、被処理鋼管として、100A、S-40、肉厚6.0mmのものを使用し、これにカイサキ加工されたエルボ(100A、S-40、肉厚6.0mm)をCO2溶接に先立ちプラズマ溶接にて溶接接合する実施例に基づき説明する。
なお、ここに、プラズマ溶接とは、電極と母材との間に発生するプラズマアークを利用して行う溶接をいい、エネルギー密度の高いアークとノズル孔から噴出するガス流量の増減により、キーホール溶接(片面突合せ裏波形成溶接)ができ、CO2溶接の欠点を解決し、コストダウン、生産性向上、品質向上、作業環境の改善に寄与する溶接方法をいう。
【0017】
図1(a)~(d)は、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法の効果の概略を示す図である。
図1(a)~(d)において、符号1は、被処理管(パイプ)、2は、被処理管(パイプ)1に接合する既製品管金物であるエルボ、3は、エルボ2の管端に形成されるカイサキ、4は、被処理管(パイプ)1とエルボ2のカイサキ3が密着されることによって形成されるレカイサキ、5は、シーリング溶接によるなめ付け溶接部分、6は、キーホール溶接部分及び管の内側に形成されるウラナミ、7は、CO2溶接の1回目のパスによる盛り上げ溶接部分、8は、同2回目のパスによる盛り上げ溶接部分である。
【0018】
すなわち、
図1(a)は、被処理管(パイプ)にカイサキ3を有するエルボ2を密着仮付けの概略を示す図であり、突合せ部分にギャップ(間隙)がないことを示している。
また、
図1(b)は、被処理管(パイプ)1の管端にカイサキ3を有するエルボ2とを密着して仮付けすることにより、被処理管(パイプ)の管端とエルボ2のカイサキ3との間がレカイサキ状態に形成されることを示す図であり、
図1(c)は、プラズマ溶接機でシーリング溶接を行うことにより、レカイサキ4に沿ったなめ付け溶接部分5が形成されること示す図であり、
図1(d)は、プラズマ溶接機でキーホール溶接を行うことによりキーホール溶接部分6及び管内側にスパッタのない優れたウラナミ6が形成され、その後に同一部分に2回のCO2溶接を行うことにより、2層の盛り上げ溶接部分7、8が形成されることを示す図である。
【0019】
(CO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合ステップ)
図1(a)~(d)に基づき、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法の各ステップを説明する。
(1)自動切断装置で製作ロット分をまとめて被処理管(パイプ)1を切断し、グラインダ研磨でバリ取りを行う。
(2)被処理管(パイプ)1に予めカイサキ3加工されたエルボ2の管端を密着して仮付け(例えば、90度間隔の4箇所の仮付け)し、レカイサキ状態4の被処理管(パイプ)を溶接ロボットの取付け用チャック(爪)に固定する。
【0020】
ここに、「レカイサキ状態」とは、先端がカイサキ加工された既製品金物であるエルボ2の管端(例えば、従来例で示した30°のカイサキ加工)を直角に切断された被処理管(パイプ)1の管端に密着仮付けされた状態をいい、その断面形状がカタカナ文字の「レ」字状を呈するので、その状態を言う。
ここで使用する溶接ロボットは、ダイドー株式会社製溶接ロボットを使用した。
【0021】
(3)次いで、接合溶接する溶接線をまっすぐにするため水平器により取りつけられた管(パイプ)1の水平を確認する。
(4)固定したチャックから溶接線までの距離を計測する。
(5)溶接ロボットに計測した距離を入力する。
(6)管(パイプ)1の開放端にスポンジを挿入し、バックシールドガス(アルゴンガス)を封入充填する。溶接部の裏側を不活性ガスでシールドし、溶接部裏側の酸化をを防ぎ、「ウラナミ」を形成しやすくするためである。
(7)管内の酸素濃度がゼロとなったことを酸素濃度計で確認する。
(8)接合すべき溶接線をレーザーサーチ、すなわち、レーザーで溶接線の状態をティーチングする。溶接線の起伏等の状態をロボットに認識させ、溶接トーチをより深く位置せしめ深い溶け込みを確保するためである。
【0022】
(9)プラズマ溶接機で被処理管(パイプ)1とエルボ2の溶接線全周について、プラズマ溶接機の溶接トーチをエルボ2のレカイサキ方向に5度傾けてシーリング溶接を行う。
ここに使用するプラズマ溶接機は、日鉄溶接工業株式会社製プラズマ溶接機(型番NW-350AH-V)を使用し、シーリング溶接とは、突合せ部分の溶接線に沿ったなめ付溶接をいう。なお、溶接トーチを5度傾けたシーリング溶接を行うのは、レカイサキの最深部を溶かして浸透しやすくして管内側にウラナミを形成するためである。
【0023】
(10)プラズマ溶接機で被処理管(パイプ)1のシーリング溶接部分の全周について、シーリング溶接と同様にプラズマ溶接機の溶接トーチをエルボ2のカイサキ方向に5度傾けてキーホール溶接を行う。ここにキーホール溶接とは、プラズマ流が母材を貫通してキーホールを形成し、溶融金属がキーホール壁面を伝わって内部に移動する溶接方法をいう(https://www.weld.nipponsteel.com/techinfo/weldqa/detail.php?id=27TLL3P参照)。
【0024】
なお、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては、前述の「シーリング溶接」と「キーホール溶接」の2回のプラズマ溶接を適用するようにしたが、これは、「シーリング溶接」及び「キーホール溶接」に限るものではなく、レカイサキ最深部の溶接線に沿って管内表面にまで浸透するプラズマ溶接を意味する。溶接トーチをエルボ2のレカイサキ方向に5度傾けて溶接を行うのも同様に母材内部を深く溶融させる理由からであり、溶接名称等に限定されるものではない。
(11)次いで、キーホール溶接の全周に渡りCO2溶接の2パスによる盛り上げ溶接を行う。使用するCO2溶接機は、株式会社ダイヘン製溶接機(型番WB-M500)を使用した。
【0025】
本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては、上述するように、被処理管(パイプ)1とこれに接合されるエルボ2の管端間の接合において、最初にプラズマ溶接による管全周の第1回目の接合(シーリング溶接)を行い、その同じ箇所にプラズマ溶接による管全周の第2回目の溶接(キーホール溶接)を行い、最終的に同一箇所に管全周によるCO2溶接を行うようにしたものである。
【0026】
すなわち、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては、前記シーリング溶接(なめ付け)によりカイサキ部分を一度溶かして滑らかにし、その後、キーホール溶接で被処理管(パイプ)1とエルボ2の母材を溶融させることによって、母材どうしが溶け合って「完全溶け込み溶接」が実現することとなり、造船を始めとする配管製作の内作において鋼管の溶け込み溶接を従来の作業を簡略化し品質を安定させ実現することができ、これに加え、被処理管(パイプ)1のカイサキ加工と、被処理管(パイプ)1とエルボ2との間のギャップを設ける組立工程を省略できる。
さらに、被処理管にエルボ2のカイサキ加工部分を密着して仮付けし固定できるので、その点でも優位であり、また、溶接作業にプラズマ溶接によるシーリング溶接及びキーホール溶接を行い、次に盛り上げとしてCO2溶接を行うようにしたので、管内側に突出することのないウラナミ6を形成できると共に、母材どうしを溶融して完全溶け込み溶接を可能としたものである。
【0027】
本発明に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法における各溶接条件は、被処理管のサイズや肉厚により適宜の条件に委ねられなければならないが、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては以下のものである。
【0028】
【0029】
このような上述する(1)~(11)に渡る管接合の溶接方法としたので、CO2溶接に先だって精緻な配置が必要なギャップを設けることなく溶接することが可能になり、加えて突合せ部分の溶接線に沿ったなめ付溶接及びキーホール溶接による両部材の母材が溶融する完全溶け込み溶接も実現できるので、品質の安定、作業の簡略化を図ることができる等の効果を実現できることとなる。
なお、この結果、溶接された接合管は、レカイサキ状態の形状に対応する溶接痕を有することとなる。
【0030】
すなわち、従来の初層からCO2溶接を行う管どうしの突合せ溶接では、パイプの突合せ部分をカイサキ加工し、また、溶接を内面まで溶け込ませるために接合溶接する管どうしの間にギャップを取って組立するようにしていたため、ギャップにより初層のビード形成に特に時間と習熟を要し、また、カイサキ加工部分を溶接ビードで埋め合わせるため完全溶け込み溶接に難があったのを本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては、これらの難を解消することができるようになった。
【0031】
なお、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては、必ずしも2回のプラズマ溶接及び2回のCO2溶接を必須とするものではない。。被処理管(パイプ)1及びエルボ2のサイズ、肉厚によってはそれぞれ1回の各溶接又は2回以上の各溶接でも良いことは当然である。
また、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法においては、管1とエルボ管2の溶接接合を前提に説明したが、造船における配管製作において優れた利点を有することはいうまでもない。
上記の構成を有する自動溶接ロボットにおいて、本実施例1に係るCO2溶接に先んじるプラズマ溶接を併用する管接合溶接方法を実施するには、最初に、被処理管27を爪段替え式チャックユニット26に固定し、その後、溶接ロボット22ツールチェンジ式トーチユニット23及びトーチ切替ユニット25により適宜切り替えて被処理管(パイプ)27の溶接線28の全周について、プラズマシーリング溶接を行い、さらに、同部分をプラズマキーホール溶接を行う。また、続いて、溶接線28の全周に渡りCO2溶接による盛り上げ溶接を必要パス回数行うようにする。