(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119834
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】目盛付探査器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20230822BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
A61B17/00
A61B17/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022922
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】307014555
【氏名又は名称】北海道公立大学法人 札幌医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】391011456
【氏名又は名称】株式会社 田中医科器械製作所
(71)【出願人】
【識別番号】598155966
【氏名又は名称】株式会社アクトメント
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】田中 駿
(72)【発明者】
【氏名】小川 明
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL21
4C160NN09
4C160NN21
(57)【要約】
【課題】病変部分の面積を正確に測定できる目盛付探査器具を提供する。
【解決手段】目盛付探査器具1は、プローブ部2と、これを進退方向に移動自在に支持する外筒部3と、これが固定される支持部5と、プローブ部2の後端部に固定され、これをスライドさせるための操作部8を支持部5において構成するスライド部7とを備える。プローブ部2は、直線状の先端部9と、進退方向に延びた基端側部分10と、先端これらの間に設けられ、無負荷時に該基端側部分10に対して先端部9が90°を成すように曲折し、負荷時に直線状に変形し得る曲折部11とを備える。先端部9には、第1目盛12が設けられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド状のプローブ部と、
前記プローブ部を進退方向に移動自在に支持する外筒部と、
前記外筒部の基端側を支持し、前記進退方向に延びたスロット部を有する支持部と、
前記スロット部により前記進退方向に前側位置と後側位置との間でスライド可能に案内され、該スロット部の内側において前記プローブ部の後端部に固定され、該スロット部の外側において前記前側位置と前記後側位置との間で該プローブ部をスライドさせるための操作部を構成するスライド部とを備え、
前記プローブ部は、
直線状の先端部と、
前記進退方向に延びた基端側部分と、
前記先端部と前記基端側部分との間に設けられ、無負荷時に該基端側部分に対して該先端部が所定の角度を成すように曲折し、負荷時に直線状に変形し得る曲折部とを備え、
前記プローブ部は、前記前側位置に位置するとき、前記先端部及び前記曲折部が前記外筒部の先端から突出し、前記後側位置に位置するとき、該先端部の少なくとも一部及び該曲折部が該外筒部に収納される寸法を有し、
前記先端部には、第1目盛が設けられることを特徴とする目盛付探査器具。
【請求項2】
前記曲折部は、体温閾で無負荷時に前記所定の角度を成すように曲折する形状記憶合金で構成されることを特徴とする請求項1に記載の目盛付探査器具。
【請求項3】
前記曲折部は、該曲折部が前記外筒部に収納され又は該外筒部から突出している度合いに応じた角度を、前記基端側部分に対して成すことを特徴とする請求項1又は2に記載の目盛付探査器具。
【請求項4】
前記外筒部の先端部に第2目盛を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の目盛付探査器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節軟骨等の手術治療に適した目盛付探査器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、関節鏡視下での手術等で使用されるデプスゲージとして、引用文献1には、半月板断裂の外科的修復を行う装置に使用される深さゲージが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の装置は、シース近位駆動部から遠位にそれぞれ延伸する移動針及び捕獲針、並びにこれらを被覆するシースを含む。シースは、近位駆動部において、そのスロットに沿ってスライド可能に設けられる。スロットに沿って設けられた目盛より深さゲージが構成される。
【0003】
この深さゲージは、患者に対する装置の挿入の深度を制御するために用いられる。また、シース内を通されて半月板断裂を縫合する縫合針を捕獲する捕獲針に、上記目盛に対応して設けられた別の目盛により別の深さゲージが構成される。この深さゲージは、装置による処置の間に関節鏡で見ることができる。
【0004】
また、引用文献2には、関節鏡視下での手術等で使用される引込みプロービング装置が記載されている。このプロービング装置は、遠位端を有する内部シャフトを含むプローブを備える。プローブの遠位端の少なくとも一部はニチノールで形成される。プローブは、直線的な近位端と、直線的な遠位端と、これらの間の湾曲した部分を含む。プローブの遠位端は、初期位置においては、外側チューブの内側通路内に位置され、使用時には外側チューブの先端から突出され、直線的な近位端に対してほぼ90°の角度をなすようにして拡がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012-525237号公報
【特許文献2】国際公開2018-063818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、関節軟骨の手術治療は病変部分の面積によって術式が選択されるところ、上記特許文献1の深さゲージによれば、挿入の深度を制御するために用いられるので、病変部分の面積を正確に計測することができない。また、上記特許文献2のプロービング装置によれば、ゲージを構成するための目盛りを有していないので、病変部分の面積を測定することができない。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、病変部分の面積を正確に測定できる目盛付探査器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目盛付探査器具は、
ロッド状のプローブ部と、
前記プローブ部を進退方向に移動自在に支持する外筒部と、
前記外筒部の基端側を支持し、前記進退方向に延びたスロット部を有する支持部と、
前記スロット部により前記進退方向に前側位置と後側位置との間でスライド可能に案内され、該スロット部の内側において前記プローブ部の後端部に固定され、該スロット部の外側において前記前側位置と前記後側位置との間で該プローブ部をスライドさせるための操作部を構成するスライド部とを備え、
前記プローブ部は、
直線状の先端部と、
前記進退方向に延びた基端側部分と、
前記先端部と前記基端側部分との間に設けられ、無負荷時に該基端側部分に対して該先端部が所定の角度を成すように曲折し、負荷時に直線状に変形し得る曲折部とを備え、
前記プローブ部は、前記前側位置に位置するとき、前記先端部及び前記曲折部が前記外筒部の先端から突出し、前記後側位置に位置するとき、該先端部の少なくとも一部及び該曲折部が該外筒部に収納される寸法を有し、
前記先端部には、第1目盛が設けられることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、関節軟骨の手術に際し、病変部位に筒部を挿入し、操作部によりスライドさせて、外筒部に収納されているプローブ部の先端部及び曲折部を外筒部の先端から突出させることにより、先端部及び曲折部が無負荷状態となるので、先端部が基端側部分に対して所定の角度を成すように曲折部が曲折する。
【0010】
このとき、先端部には第1目盛が設けられているので、先端部のみを外筒部から突出させることにより第1目盛を外筒部に沿った方向に向けて病変部位の上に配置し、さらに曲折部まで突出させることにより外筒部に交差する方向、例えば垂直な方向に向けて病変部位の上に第1目盛を配置することができる。この両方向にそれぞれ配置されたときの第1目盛を関節鏡で目視し、読み取ることにより、病変部位の面積を正確に測定することができる。この測定結果に基づいて、病変部位に適用すべき適切な術式を選択することができる。
【0011】
本発明において、前記曲折部は、体温閾で無負荷時に前記所定の角度を成すように曲折する形状記憶合金で構成されてもよい。これによれば、病変部位に外筒部を挿入し、外筒部の先端からプローブ部の先端部及び曲折部を突出させる際に、曲折部が体温閾まで温度が上昇し、曲折部が記憶している曲折状態となるので、この突出と曲折をスムーズに行わせることができる。
【0012】
前記曲折部は、該曲折部が前記外筒部に収納され又は該外筒部から突出している度合いに応じた角度を、前記基端側部分に対して成すものであってもよい。これによれば、曲折部が外筒部に対して収納され又は外筒部から突出している度合いを調整することにより、先端部が基端側部分に対して成す角度を調整することができる。
【0013】
本発明において、前記外筒部の先端部に第2目盛を備えてもよい。これによれば、患者に対する外筒部の挿入深さを第2目盛で測定することができるので、病変部位が位置する適切な深さまで外筒部を挿入し、第1目盛による病変部位についての測定を適切に行うことができる。また、第1目盛と第2目盛とを用いて病変部位の14の2方向についての寸法を速やかに測定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る目盛付探査器具の平面図であり、
図1Bはその正面図である。
【
図3】
図1の目盛付探査器具により病変部位の面積を図る際の関節鏡写真の一例である。
【
図4】
図1の目盛付探査器具により病変部位の面積を図る際の関節鏡写真の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1A及び
図1Bは、本発明の一実施形態に係る目盛付探査器具の平面図及び正面図である。これらの図に示すように、この目盛付探査器具1は、直径が0.7mm程度の円形の断面を有するロッド状のプローブ部2と、プローブ部2を進退方向に移動自在に支持する外筒部3と、外筒部3の基端側を支持し、前記進退方向に延びたスロット部4を有する支持部5とを備える。
【0016】
プローブ部2の先端は、1mm程度の径を有する半球状にトリミングされる。外筒部3は、外径が1.66mm程度で長さが80mm程度である。支持部5は、13mm程度の外径を有し、長さが99mm程度の中空円筒状であり、その先端部に外筒部3の後端が固定される。支持部5の後端部は着脱可能なキャップ6により閉塞される。支持部5には、スロット部4により前記進退方向に前側位置Fと後側位置Rとの間でスライド可能に案内されるスライド部7が設けられる。
【0017】
スライド部7は、支持部5におけるスロット部4の内側においてプローブ部2の後端部に固定される。スライド部7は、スロット部4の外側において前側位置Fと後側位置Rとの間でプローブ部2をスライドさせるための操作部8を構成する。
【0018】
図2は、
図1Bの一部分を拡大して示す。
図2に示すように、プローブ部2は、直線状の先端部9と、前記進退方向に延びた基端側部分10と、先端部9と基端側部分10との間に設けられた曲折部11とを備える。
【0019】
曲折部11は、無負荷時に基端側部分10に対して先端部9が所定の角度θを成すように曲折し、負荷時に直線状に変形し得るものである。本実施形態では、角度θは、90°であり、このとき、基端側部分10の延長線と先端部9の延長線との交点から先端部9の先端までの長さは、13mm程度である。
【0020】
プローブ部2は、前側位置Fに位置するとき、先端部9及び曲折部11が外筒部3の先端から突出し、後側位置Rに位置するとき、先端部9の大部分及び曲折部11が外筒部3に収納される寸法を有する。先端部9には、第1目盛12が設けられる。第1目盛12として、本実施形態では0.2mm幅のラインを1mmピッチで形成したものが採用される。この第1目盛12の形成は、レーザマーカを用いて行われる。
【0021】
外筒部3の先端部には、先端から1mmピッチで、0.15mm幅及び0.3mm幅のラインを、先端を除いて形成して構成した第2目盛13が設けられる。0.3mm幅のラインは先端から5mmごとに20mmまで4本設けられ、0.15mm幅のラインは、0.3mm幅のライン以外の部分に設けられる。この第2目盛13の形成も、レーザマーカを用いて行われる。
【0022】
曲折部11は、体温閾で無負荷時に基端側部分10に対して先端部9が所定の角度θ(本実施形態では90°)を成すように曲折する形状記憶合金で構成される。本実施形態では、プローブ部2全体が、形状記憶合金としてのニチノール(N-Ti)で構成される。また、曲折部11は、曲折部11が外筒部3に収納され又は外筒部3から突出している度合いに応じた角度を、先端部9が基端側部分10に対して成すように構成される。曲折部11の曲率半径は、例えば5mmである。
【0023】
支持部5、キャップ6、スライド部7、及び外筒部3は、ステンレス(SUS304)で構成される。支持部5、キャップ6、及びスライド部7にはビーズブラスト処理が施される。
【0024】
この構成において、関節軟骨の手術に際して、術者は、目盛付探査器具1の外筒部3を病変部位まで挿入する。このとき、挿入深さを第2目盛13でチェックする。次に、操作部8を後側位置Rから前側位置Fの方へスライドさせて、プローブ部2を、その曲折部11の開始位置が外筒部3の先端に位置するまで送る。
【0025】
このとき、曲折部11が、体温閾に達して、記憶している曲折状態に従って曲折しようとするので、やや曲がった状態となる。すなわち、先端部9が外筒部3に対して例えば30°程度の角度を成す。これに応じ、術者は、
図3に示すように、先端部9を病変部14上に配置し、関節鏡で第1目盛12を読み取ることによって、病変部14の寸法を測定する。
【0026】
さらに、術者は、操作部8を前側位置Fまで移動させ、プローブ部2の先端部9及び曲折部11を外筒部3の先端から突出させる。これにより、曲折部11は、ほぼ完全に無負荷状態となるので、記憶している曲折状態に達する。これにより、先端部9が外筒部3に対してほぼ90°の角度を成す。
【0027】
これに応じ、術者は、
図4に示すように、先端部9を病変部14上に配置し、関節鏡で第1目盛12を読み取ることによって、病変部14の寸法を測定する。このようにして、術者は、病変部14の異なる方向についての寸法の測定を完了する。これらの寸法に基づいて、術者は、病変部14の面積を正確に求め、求めた面積に応じた適切な術式を選択し、病変部14に対して適切な手術や治療を行うことができる。
【0028】
なお、病変部14の寸法の測定後は、術者は、操作部8を前側位置Fから後側位置Rまで移動させることにより、プローブ部2の先端部9及び曲折部11を外筒部3内に収納することができる。外筒部3からの負荷荷重により、先端部9が直線状になるからである。この後、プローブ部2を患者から容易に引き抜くことができる。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、プローブ部2の先端部9に設けられた第1目盛12によって、病変部14の面積を正確に測定できるので、病変部位に適用すべき適切な術式を選択することができる。
【0030】
すなわち、足関節軟骨損傷の手術治療では、病変部位の面積によって術式が選択される。足関節軟骨損傷の病変面積を評価する方法として画像診断がある。この場合、レントゲン、CT、MRIで病変面積を計測可能であるが、レントゲンやCTでは軟骨が描出されず、MRIでは周囲の浮腫や関節液の影響から正確な面積を計測できないことがある。
【0031】
一方、手術において関節鏡下に病変の大きさを計測する方法も行われている。しかし、単純な目盛り付きプローベによって目視で計測するため、正確な面積の計測は不能である。100mm2以上の病変部位についてはマイクロフラクチャー法の成績が不良と報告されており、術式選択のためには1mm単位での正確な面積計測が求められる。また、マイクロフラクチャー法は骨孔の深さと間隔が治療成績に影響を及ぼすため、正確な手技が要求される。
【0032】
この点、本実形態の目盛付探査器具によれば、病変部位の縦横両方向について、1mm単位で病変部位の前後径と内外側径を計測することができる。これにより、正確な手技により手術を行うことができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、プローブ部2がニチノール等の形状記憶合金で構成されるので、外筒部3の先端からのプローブ部2の先端部9及び曲折部11の突出と曲折をスムーズに行わせることができる。
【0034】
また、曲折部11は、それが外筒部3に収納され又は外筒部3から突出している度合いに応じた角度を、基端側部分10に対して成すものでああるため、曲折部11が外筒部3に対して収納され又は外筒部から突出している度合いを調整することにより、先端部9が基端側部分10に対して成す角度を調整することができる。
【0035】
また、外筒部3の先端部に、外筒部3の挿入深さを測定するための第2目盛13を備えるので、患者に対する外筒部3の挿入深さを第2目盛13で測定することができる。これにより、病変部14が位置する適切な深さまで外筒部3を挿入し、第1目盛12による病変部14についての測定を適切に行うことができる。
【0036】
なお、第2目盛13は、患者に対する外筒部3の挿入深さに限らず、他の寸法の測定、例えば病変部14の寸法の測定に使用することもできる。例えば、病変部14がやや大きい場合に、先端部9及び曲折部11を
図2のように外筒部3から突出させた状態でそれぞれ病変部14の周囲における縦及び横方向に沿うように配置し、病変部14の2方向についての寸法を把握することもできる。
【0037】
このとき、第1目盛12及び第2目盛13を一度に読み取ることにより、あるいは第1目盛12を読み取ってから目盛付探査器具1を第2目盛13の目盛方向に少しずらして第2目盛を読み取ることにより、病変部14の2方向についての寸法を計測し、病変部14の面積を求めることができる。
【0038】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、プローブ部2をニチノールで構成する場合、少なくとも曲折部11をニチノールで構成すればよく、全体をニチノールで構成する必要はない。また、外筒部3の先端部の第2目盛13は無くてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…目盛付探査器具、2…プローブ部、3…外筒部、4…スロット部、5…支持部、6…キャップ、7…スライド部、8…操作部、9…先端部、10…基端側部分、11…曲折部、12…第1目盛、13…第2目盛、14…病変部、F…前側位置、R…後側位置。