(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119840
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】グリス圧入充填用具
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20230822BHJP
F16B 39/02 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
F16H57/04 E
F16B39/02 P
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022931
(22)【出願日】2022-02-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】522064074
【氏名又は名称】株式会社安藤設備
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 創
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA06
3J063AB21
3J063BA11
3J063BB21
3J063BB23
3J063CD41
3J063XD02
3J063XD38
3J063XD42
3J063XD72
3J063XE12
(57)【要約】
【課題】簡易な構成にてスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーの内部にグリスを精度よく注入することが可能なグリス圧入充填用具の提供を課題とする。
【解決手段】内周面にねじ切り部11を備える円筒状部材で構成される基台10と、ねじ切り部21を外周面に備えると共に、上面に回転用治具係合部22を備える円柱状部材で構成される螺合押圧板20とを備え、基台10の内側底面には、固定用ねじ受け止め用座面12を設けてあると共に、螺合押圧板20には、基台10に螺合押圧板20を螺合させた際に固定用ねじ受け止め用座面12と対向する面の任意の位置にねじ切り貫通孔23を設けてあり、ねじ切り貫通孔23に固定用ねじ30を固定用ねじ受け止め用座面12と当接する位置まで螺合させることで、基台10に対して螺合押圧板20が閉まる方向に回転する回転が阻止可能となるロック機構を備えることをグリス圧入充填用具1である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二輪自動車のエンジンから突出するスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーにおける前記スプラインシャフトが露出する凹所に圧入固定して使用するグリス圧入充填用具であって、グリスを充填可能で、充填されたグリスが前記スプラインシャフトの側へと流出可能な貫通孔を備えると共に、内周面にねじ切り部を備える円筒状部材で構成される基台と、上面に回転用治具を係合可能な回転用治具係合部を備えると共に、前記基台のねじ切り部と螺合するねじ切り部を外周面に備える円柱状部材で構成され、且つ前記基台に対して閉まる方向に螺合固定されることで、前記基台に充填されたグリスを前記スプラインシャフトの側への押圧する螺合押圧板とを備え、前記螺合押圧板の外周面に備えるねじ切リ部は、前記スプラインシャフトの回転方向と同じ回転方向に前記螺合押圧板を回転させた際に、前記基台に対して前記螺合押圧板が閉まる方向に回転するようにねじ切り加工を施してあり、前記基台の内側底面には、前記貫通孔に向かって一定面積の段差があるように陥没形成された座面を設けてあると共に、前記螺合押圧板には、前記基台に前記螺合押圧板を螺合させた際に前記座面と対向する面の任意の位置に、内面にねじ切り部を備えるねじ切り貫通孔を設けてあり、前記ねじ切り貫通孔に、ねじ切り貫通孔のねじ切り部と螺合する固定用ねじを前記座面と当接する位置まで螺合させることで、前記基台に対して前記螺合押圧板が閉まる方向に回転する回転が阻止可能となるロック機構を備えることを特徴とするグリス圧入充填用具。
【請求項2】
螺合押圧板の任意の位置に貫通孔を設けてあると共に、前記貫通孔に穴あきボルトとナットとを螺合させてあり、前記穴あきボルトによって回転用治具係合部が構成されることを特徴とする請求項1に記載のグリス圧入充填用具。
【請求項3】
基台の内面の任意の位置の水平方向に、内面にねじ切り部を備えるねじ切り貫通孔を一乃至複数設けてあると共に、前記ねじ切り貫通孔に、ねじ切り貫通孔のねじ切り部と螺合する固定用ねじをホルダーと当接する位置まで螺合させることで、前記ホルダーに対して前記基台が抜け出ることを阻止可能となるロック機構を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のグリス圧入充填用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪自動車のスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダー、特にヤマハ発動機株式会社製のTMAX(登録商標)シリーズの二輪自動車に備えるフロントスプロケットを保持するホルダーに圧入固定して使用するのに有用なグリス圧入充填用具に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪自動車には、円滑な動作を行うためにグリスが塗布されている箇所(例えば、ブレーキレバー、ステアリングベアリング等の各種ベアリング、クラッチケーブル、フロントスプロケット内等)が多数存在する。使用年数を経てグリスが古くなったり、グリスが不足したりすると、各所の円滑な動作が阻害され、また錆も発生することから、定期的に新しいグリスの塗布が必要となる。前記各所にグリスを塗布する場合、常に外部に露出している箇所へのグリスの塗布は容易に行えるものの、例えばフロントスプロケット内に露出するスプラインシャフトにグリスを塗布する場合等、常に外部に露出しておらず多数の部品を分解しないとグリスを塗布することができない箇所へグリスを塗布する場合には、二輪自動車の所有者は二輪自動車の販売店又は修理整備工場にグリスの塗布の依頼を行うことが一般的である。
しかしながら、このように二輪自動車の販売店又は修理整備工場にグリスの塗布の依頼を行う場合、二輪自動車を一時的に預ける必要があること等から、作業完了までに日数がかかると共に、有資格者による分解組み立てに伴う整備工費が高額となることから、常に外部に露出していない箇所へのグリスの塗布作業を簡略化できる技術の開発が望まれるところである。
このような二輪自動車へのグリスの塗布作業を簡略化できる従来技術として、例えば下記特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】公開実用新案第昭51-78551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、オートバイのステアリングシャフトベアリングの潤滑装置に関する考案で、ステアリングシャフトの下部に底蓋を溶着し、ステアリングシャフトのベアリングの位置する箇所に貫通孔を穿設し、ステアリングシャフト内にグリスを充填すると共に、ステアリングシャフト上部にキャップを取着することで、ステアリングシャフトを分解してグリスを再塗布する必要がなく、グリスの塗布作業を大幅に短縮できるというメリットがある。
しかしながら、あくまでステアリングシャフトへのグリスの塗布に有用なものであり、スプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーの内部にグリスを注入できるものではないという問題があった。また、グリス自体の重量及びオートバイの走行中の上下振動等により貫通孔からベアリングにグリスが供給される構成であることから、グリスの注入精度が悪く、グリスの注入が不確実になるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は上記従来における問題点を解決し、簡易な構成にてスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーの内部にグリスを精度よく注入することが可能なグリス圧入充填用具の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため、本発明のグリス圧入充填用具は、二輪自動車のエンジンから突出するスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーおける前記スプラインシャフトが露出する凹所に圧入固定して使用するグリス圧入充填用具であって、グリスを充填可能で、充填されたグリスが前記スプラインシャフトの側へと流出可能な貫通孔を備えると共に、内周面にねじ切り部を備える円筒状部材で構成される基台と、上面に回転用治具を係合可能な回転用治具係合部を備えると共に、前記基台のねじ切り部と螺合するねじ切り部を外周面に備える円柱状部材で構成され、且つ前記基台に対して閉まる方向に螺合固定されることで、前記基台に充填されたグリスを前記スプラインシャフトの側への押圧する螺合押圧板とを備え、前記螺合押圧板の外周面に備えるねじ切リ部は、前記スプラインシャフトの回転方向と同じ回転方向に前記螺合押圧板を回転させた際に、前記基台に対して前記螺合押圧板が閉まる方向に回転するようにねじ切り加工を施してあり、前記基台の内側底面には、前記貫通孔に向かって一定面積の段差があるように陥没形成された座面を設けてあると共に、前記螺合押圧板には、前記基台に前記螺合押圧板を螺合させた際に前記座面と対向する面の任意の位置に、内面にねじ切り部を備えるねじ切り貫通孔を設けてあり、前記ねじ切り貫通孔に、ねじ切り貫通孔のねじ切り部と螺合する固定用ねじを前記座面と当接する位置まで螺合させることで、前記基台に対して前記螺合押圧板が閉まる方向に回転する回転が阻止可能となるロック機構を備えることを第1の特徴としている。
また、本発明のグリス圧入充填用具は、上記第1の特徴に加えて、螺合押圧板の任意の位置に貫通孔を設けてあると共に、前記貫通孔に穴あきボルトとナットとを螺合させてあり、前記穴あきボルトによって回転用治具係合部が構成されることを第2の特徴としている。
また、本発明のグリス圧入充填用具は、上記第1又は第2の特徴に加えて、基台の内面の任意の位置の水平方向に、内面にねじ切り部を備えるねじ切り貫通孔を一乃至複数設けてあると共に、前記ねじ切り貫通孔に、ねじ切り貫通孔のねじ切り部と螺合する固定用ねじをホルダーと当接する位置まで螺合させることで、前記ホルダーに対して前記基台が抜け出ることを阻止可能となるロック機構を備えること第3の特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
上記第1の特徴によるグリス圧入充填用具によれば、エンジンから突出するスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーにおける前記スプラインシャフトが露出する凹所に基台を圧入固定し、螺合押圧板を基台に対して閉まる方向に螺合固定させるだけで、基台に充填されたグリスを螺合押圧板にてスプラインシャフトの側へと押圧させ、確実に注入させることが可能となる。
また、螺合押圧板の外周面に備えるねじ切リ部の構成として、スプラインシャフトの回転方向と同じ回転方向に螺合押圧板を回転させた際に、基台に対して螺合押圧板が閉まる方向に回転するようにねじ切り加工を施してある構成とすることで、グリス自体の粘性によって、例え螺合押圧板がスプラインシャフトの回転に追従して回転してしまった場合であっても、基台から螺合押圧板が外れることを確実に防止することができる。
加えて、基台の座面と螺合押圧板のねじ切り貫通孔と固定用ねじとで構成されるロック機構を備えることで、所望の位置にて螺合押圧板が閉まる方向へ回転することを阻止できると共に、例え螺合押圧板がスプラインシャフトの回転に追従して回転するような事態が生じても、螺合押圧板が閉まる方向へ回転することを確実に阻止することができる。
以上より、簡易な構成にてエンジンから突出するスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーの内部にグリスを精度よく注入することが可能なグリス圧入充填用具とすることができる。
【0008】
また、上記第2の特徴によるグリス圧入充填用具によれば、上記第1の特徴による作用効果に加えて、穴あきボルトという独立した部材にて回転用治具係合部を螺合押圧板に設ける構成とすることで、螺合押圧板自体の損傷や摩耗を防止できると共に、回転用治具係合部だけを交換することが可能となり、耐久性が高く、一段と使い易いグリス圧入充填用具とすることができる。
【0009】
また、上記第3の特徴によるグリス圧入充填用具によれば、上記第1又は第2の特徴による作用効果に加えて、ホルダーから基台が抜け出ることを効果的に防止可能なグリス圧入充填用具とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具を示す図で、(a)はグリス圧入充填用具の取り付け位置を示す分解斜視図、(b)はスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーにグリス圧入充填用具を取り付けた状態を示す正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具を示す図で、(a)は斜視図、(b)は分解図、(c)は平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具を、スプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーに取り付ける状態を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具の変形例を示す図で、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図面を参照して、本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具を説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものではない。
【0012】
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具1は、二輪自動車の車体100に備えるエンジンから突出するスプラインシャフト2を介して回転するフロントスプロケット3を保持するホルダー4におけるスプラインシャフト2が露出する嵌合用凹所4aに圧入固定して使用することで、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間にグリスGを圧入充填できるものである。
なお、本発明のグリス圧入充填用具1を使用可能な二輪自動車としては、ヤマハ発動機株式会社製のTMAX(登録商標)シリーズが特に有用であるが、これに限るものではなく、ヤマハ発動機株式会社製のTMAX(登録商標)シリーズと同様に、
図1に示すスプラインシャフト2を介して回転し、ベルト9やチェーン(図示しない)を介して後輪に回転力を伝達するフロントスプロケット3を、ボルトB等を介して保持するホルダー4よりも外側に、オイルシール5、ベアリング6、サークリップ7、ドライブプーリーカバー8をこの順で備える二輪自動車であれば適用可能である。
【0013】
このグリス圧入充填用具1は、
図2、
図3に示すように、基台10と、螺合押圧板20と、固定用ねじ30とで構成される。
【0014】
前記基台10は、グリス圧入充填用具1の骨格を構成すると共に、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間に圧入充填させるグリスGを充填するためのいわゆる容器を構成するものである。
本実施形態においては、基台10として、グリスGを充填可能で、充填されたグリスGがスプラインシャフト2の側へと流出可能な貫通孔Kを備えると共に、内周面にねじ切り部11を備える円筒状部材を用いる構成としてある。なお、本実施形態においては、ねじ切り部11として、雌ねじ加工を施す構成としてある。
また、
図2(b)、
図2(c)に示すように、基台10の内側底面には、貫通孔Kに向かって一定面積の段差があるように陥没形成された固定用ねじ受け止め用座面12を設けてある。
また、
図2(b)に示すように、ねじ切り部11は、基台10の内周面の全面に設けてあるのではなく、基台10に螺合押圧板20を最後まで螺合させた際に、螺合押圧板20と固定用ねじ受け止め用座面12との間に所定の間隔が空くように、基台10の内周面の下方側には所定の幅だけねじ切り部11を設けない領域を有する構成としてある。
なお、本実施形態においては、基台10の材質として、A2017ジュラルミン(硬質アルマイトジュラルミン)を用いる構成としてある。勿論、このような材質に限るものではなく、一定の強度を備えると共に、ホルダー4の嵌合用凹所4aに温度差を利用して圧入固定可能な金属部材であれば、他の素材を用いる構成としてもよいが、好適にはA2017ジュラルミンを用いることが望ましい。
【0015】
前記螺合押圧板20は、基台10に対して閉まる方向に螺合固定されることで、基台10に充填させたグリスGをスプラインシャフト2の側へと押圧するための押圧板を構成するものである。
本実施形態においては、螺合押圧板20として、基台10のねじ切り部11と螺合するねじ切り部21を外周の全面に備えると共に、上面に六角ヘキサゴンレンチ等の回転用治具を係合可能な回転用治具係合部22を備える円柱状部材を用いる構成としてある。なお、本実施形態においては、ねじ切り部21として、雄ねじ加工を施す構成としてある。更に、スプラインシャフト2の回転方向と同じ回転方向に螺合押圧板20を回転させた際に、基台10に対して螺合押圧板20が閉まる方向に回転するようにねじ切り加工を施してある。
また、本実施形態においては
図2に一部を示すように、螺合押圧板20の任意の位置に貫通孔を設けてあると共に、この貫通孔に六角ヘキサゴンレンチを係合可能な穴あきボルトとナットとを螺合させてあり、前記穴あきボルトによって回転用治具係合部22を構成してある。なお、この回転用治具係合部22は、螺合押圧板20を回転させるための起点となると共に、螺合押圧板20を介してグリスGに負荷する圧力を調整するための圧力調整部ともなるものである。
更に、
図2(b)、
図2(c)に示すように、螺合押圧板20には、基台10に螺合押圧板20を螺合させた際に固定用ねじ受け止め用座面12と対向する面の任意の位置に、内面にねじ切り部を備えるねじ切り貫通孔23を1つ設けてある。
なお、本実施形態においては、螺合押圧板20の材質として、基台10と同様にA2017ジュラルミン(硬質アルマイトジュラルミン)を用いる構成としてある。勿論、このような材質に限るものではなく、一定の強度を備えると共に、基台10のねじ切り部11に螺合可能な金属部材であれば、他の素材を用いる構成としてもよいが、好適にはA2017ジュラルミンを用いることが望ましい。
【0016】
前記固定用ねじ30は、基台10の固定用ねじ受け止め用座面12と螺合押圧板20のねじ切り貫通孔23と合わさって、基台10に対して螺合押圧板20が閉まる方向に回転する回転が阻止可能となるロック機構を構成するためのものである。
本実施形態においては
図2(b)に示すように、固定用ねじ30として、外周の全面にねじ切り貫通孔23のねじ切り部と螺合可能なねじ切り部31を備える細長い円柱状部材を用いる構成としてある。
また、固定用ねじ30の上面に、回転用治具(本実施形態においては六角棒スパナ)を係合可能な回転用治具係合部32を設けてある。なお、回転用治具係合部32の構成は本実施形態のものに限るものではなく、回転用治具の構成(例えば、ねじ回し等)に合わせて適宜変更可能である。
更に、固定用ねじ30の全長を、基台10に螺合押圧板20を螺合させると共に、螺合押圧板20にて基台10に充填されるグリスGを押圧可能な圧力が負荷された状態において、ねじ切り貫通孔23に螺合させた固定用ねじ30が固定用ねじ受け止め用座面12に当接可能な長さとしてある。
なお、本実施形態においては、固定用ねじ30として、鉄ねじ(いわゆるホーローねじ)を用いる構成としてある。勿論、このような材質に限るものではなく、一定の強度を備えると共に、ねじ切り貫通孔23のねじ切り部に螺合可能な金属部材であれば、他の素材を用いる構成としてもよいが、整備上幾度となく締め付けや緩める作業を繰り返す事での耐久性を考慮すると好適には鉄ねじを用いることが望ましい。
【0017】
次に、
図3を参照して、このような構成からなるグリス圧入充填用具1の使用方法を説明する。
なお、
図3においては説明の便宜上、オイルシール5、ベアリング6、サークリップ7の図示を省略するものとする。
【0018】
まず
図3(a)、
図3(b)を参照して、ホルダー4の嵌合用凹所4aに基台10を圧入固定させる。この際、アルミ鋳造で形成されるホルダー4を熱し、常温の基台10を嵌合用凹所4aに打ち込むことで、ホルダー4と基台10の温度差を利用して、基台10を嵌合用凹所4aに圧入固定させる。
次に、基台10内に所定量のグリスGを充填する。なおここで「所定量」とは、基台10内にグリスGを充填した状態において、基台10の上面とグリスGとが面一となる量(いわゆるすりきり一杯分となる量)のことを意味するものである。
その状態にて、螺合押圧板20を基台10に螺合させる。より具体的には、基台10に対して螺合押圧板20が閉まる方向に所定量だけ締め付ける。ここで、「所定量」とは、基台10内に充填されているグリスGが螺合押圧板20によって押圧され、基台10の貫通孔Kからスプラインシャフト2の側へ流出するだけの圧力をグリスGに負荷できる量を意味するものである。具体的には、螺合押圧板20を締め付ける際の締め付けトルクが0.1~0.6N/m程度となることが望ましい。
その後、
図3(b)、
図3(c)を参照して、固定用ねじ30をねじ切り貫通孔23に螺合させ、固定用ねじ30が基台10の固定用ねじ受け止め用座面12と当接するまで、固定用ねじ30を締め付ける。
以上により、ホルダー4に対するグリス圧入充填用具1の装着が完了する。その後、ボルトBを用いて、図示していないドライブプーリーカバー8をホルダー4に固定する。
これによって、螺合押圧板20を介して発生する押圧力によってグリスGが基台10の貫通孔Kからフロントスプロケット3の側へと流出し、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間に注入される。なお、グリスGの流出は、グリスGに負荷される押圧力が0(ゼロ)になるまで継続的に維持される。その際、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間にそれまであった古いグリスGやスラッジは車体100の側へと自動的に押し出されて排出され、古いグリスGと新しいグリスGとが置き換わることとなる。
【0019】
このような構成からなる本発明のグリス圧入充填用具1は、以下の効果を奏する。
【0020】
エンジンから突出するスプラインシャフト2を介して回転するフロントスプロケット3を保持するホルダー4におけるスプラインシャフト2が露出する凹所に基台10を圧入固定し、螺合押圧板20を基台10に対して閉まる方向に螺合固定させるだけで、基台10に充填されたグリスGを螺合押圧板20にてスプラインシャフト2の側へと押圧させ、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間に確実に注入させることが可能となる。
また、螺合押圧板20の外周面に備えるねじ切リ部21の構成として、スプラインシャフト2の回転方向と同じ回転方向に螺合押圧板20を回転させた際に、基台10に対して螺合押圧板20が閉まる方向に回転するようにねじ切り加工を施してある構成とすることで、グリスG自体の粘性によって、例え螺合押圧板20がスプラインシャフト2の回転に追従して回転してしまった場合であっても、基台10から螺合押圧板20が外れることを確実に防止することができる。
加えて、基台10の固定用ねじ受け止め用座面12と螺合押圧板20のねじ切り貫通孔23と固定用ねじ30とで構成されるロック機構を備えることで、所望の位置(グリスGに所望の圧力を負荷させたい位置)にて螺合押圧板20が閉まる方向へ回転することを阻止できると共に、例え螺合押圧板20がスプラインシャフト2の回転に追従して回転するような事態が生じても、螺合押圧板20が閉まる方向へ回転することを確実に阻止することができる。
以上より、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間にグリスGを注入する際、ドライブプーリーカバー8、サークリップ7、ベアリング6、オイルシール5、ホルダー4、フロントスプロケット3の全てを分解する必要がなく、ホルダー4に基台10を圧入固定させて、グリスGを基台10内に充填し、螺合押圧板20を螺合させるだけの簡易な構成にて、エンジンから突出するスプラインシャフト2を介して回転するフロントスプロケット3を保持するホルダー4の内部、より具体的には、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間にグリスGを精度よく注入することが可能なグリス圧入充填用具1とすることができる。
また、ロック機構を備えることで、螺合押圧板20が基台10に対して閉まる方向に回転することを確実に阻止できる。これによって、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間にグリスGが不必要に圧入充填されることを確実に防止することができる。
【0021】
従って、一度グリス圧入充填用具1をホルダー4に装着すれば、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間にグリスGが適量圧入充填されると共に、グリスGに負荷される圧力が一定時間経過後に均衡状態を保つことから、その後はグリス圧入充填用具1を装着したままにすることができ、メンテナンスフリーなグリス圧入充填用具1とすることができる。
なお、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間に再びグリスGを注入させたい場合には、一度装着した状態にあるグリス圧入充填用具1において、固定用ねじ30を緩めて螺合押圧板20を閉まる方向へ所定量(グリスGに所望の圧力が負荷される量)回転させると共に、固定用ねじ30を固定用ねじ受け止め用座面12に再び当接するまで螺合するだけでよい。或いは、基台10に新たなグリスGを充填したい場合には、基台10から螺合押圧板20を取り外し、基台10にグリスGを所定量充填した後、既述した螺合方法にて基台10に螺合押圧板20を再び螺合させるだけでよい。
この点、従来は、
図1(a)に示すドライブプーリーカバー8、サークリップ7、ベアリング6、オイルシール5、ホルダー4、フロントスプロケット3の全てを分解した上で、スプラインシャフト2の軸回りやホルダー4の凹所にグリスGを塗布、充填するだけの構成であったことから、二輪自動車の走行中の駆動部の高速回転の遠心力によって塗布、充填したグリスGの自然散布が起こり、
図3に示す嵌合用凹所4aに本来充填させておくべきグリスGが消失した場合には、再びドライブプーリーカバー8、サークリップ7等の全ての部品を分解した上でグリスGを再塗布、再充填させなければならなかったことから、本発明の構成とすることで一段と利便性の高いグリス圧入充填用具1とすることができる。
更に、グリス圧入充填用具1をホルダー4に常時装着したままにできると共に、スプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間にグリスGを容易に再充填させることができることで、ホルダー4のスプラインシャフトが露出する凹所内及びスプラインシャフト2とフロントスプロケット3の軸受け部3aの内面との間に生じる隙間を常にグリスGで満たすことができ、スプラインシャフト2の走行時フリクションに伴う摩耗や大気に晒されることに伴う錆や腐食を防止できる。よって、スプラインシャフト2の耐久性を高めることが可能なグリス圧入充填用具1とすることができる。
【0022】
また、穴あきボルトという独立した部材にて回転用治具係合部22を螺合押圧板20に設ける構成とすることで、螺合押圧板20自体の損傷や摩耗を防止でき、これによって螺合押圧板20自体の強度を確保できると共に、回転用治具係合部22だけを交換することが可能となり、耐久性が高く、一段と使いやすいグリス圧入充填用具1とすることができる。
【0023】
次に、
図4を参照して、本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具1の変形例を説明する。
図4を参照して、本変形例は、既述したグリス圧入充填用具1に対して、基台10の構成だけと変更したものである。よって、既述したグリス圧入充填用具1と同一部材、同一機能を果たすものには同一番号、同一符号を付し、以下詳細な説明は省略するものとする。
具体的には
図4を参照して、本変形例においては、基台10の内面の水平方向にねじ切り貫通孔13(本変形例においてはねじ切り貫通孔23と同じ形状、同じ直径のねじ切り貫通孔13)を2つ設ける構成としてある。より具体的には、基台10の内面の対向する位置にねじ切り貫通孔13を2つ設ける構成としてある。
そして、ホルダー4に基台10を圧入固定した後、ねじ切り貫通孔13に螺合する固定用ねじ30をホルダー4の内面と当接する位置まで螺合させることで、ホルダー4から基台10が抜け出ることを阻止可能なロック機構を備える構成としてある。なお、この際使用する固定用ねじ30は、基台10に螺合させる螺合押圧板20と干渉しない長さであることが必要である。
このような構成とすることで、圧入後にホルダー4から基台10が抜け出ることを効果的に防止可能なグリス圧入充填用具1とすることができる。特に、基台10の内面の対向する位置にねじ切り貫通孔13を2つ設ける構成とすることで、ホルダー4と基台10の温度差を利用して、基台10を嵌合用凹所4aに圧入固定させた後、熱せられたホルダー4が常温に戻る際に発生する基台10を押し戻す力を均一に分散させることが可能となり、ホルダー4と基台10との間にひずみが発生することを防止できる。よって、ねじ切り貫通孔13と固定用ねじ30とで構成されるロック機構を解除してホルダー4から基台10を取り外す必要が生じた場合に、ホルダー4から基台10が取り外せなくなることを効果的に防止することができる。
なお、ねじ切り貫通孔13の構成や配置位置、数は本変形例のものに限るものではなく、適宜変更可能であるが、基台10の内面の対向する位置にねじ切り貫通孔13を2つ設ける構成とすることが望ましい。
【0024】
なお、既述した本発明の実施形態に係るグリス圧入充填用具1においては、基台10のねじ切り部11を雌ねじ加工にて、螺合押圧板20のねじ切り部21を雄ねじ加工にて設ける構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、基台10のねじ切り部11を雄ねじ加工にて、螺合押圧板20のねじ切り部21を雌ねじ加工にて設ける構成としてもよい。
【0025】
また、本実施形態においては、螺合押圧板20の任意の位置に貫通孔を設けてあると共に、この貫通孔に六角ヘキサゴンレンチを係合可能な穴あきボルトとナットとを螺合させてあり、前記穴あきボルトによって回転用治具係合部22を形成する構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではない。つまり、回転用治具係合部22としては、六角棒スパナやスパナ、レンチ、ねじ回し等の回転用治具を係合可能なものであれば、如何なるものを用いてもよい。
【0026】
また、本実施形態においては、螺合押圧板20にねじ切り貫通孔23を1つ設ける構成としたが、螺合押圧板20に設けるねじ切り貫通孔23の位置や数、大きさなどは本実施形態のものに限るものではなく、固定用ねじ30の大きさ、数に合わせて適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、簡易な構成にてエンジンから突出するスプラインシャフトを介して回転するフロントスプロケットを保持するホルダーの内部にグリスを精度よく圧入充填することができることから、二輪自動車のグリス圧入充填用具の分野における産業上の利用性が高い。
【符号の説明】
【0028】
1 グリス圧入充填用具
2 スプラインシャフト
3 フロントスプロケット
3a 軸受け部
4 ホルダー
4a 嵌合用凹所
4b 内面
4c 軸挿通用孔
5 オイルシール
6 ベアリング
7 サークリップ
8 ドライブプーリーカバー
9 ベルト
10 基台
11 ねじ切り部
12 固定用ねじ受け止め用座面
13 ねじ切り貫通孔
20 螺合押圧板
21 ねじ切り部
22 回転用治具係合部
23 ねじ切り貫通孔
30 固定用ねじ
31 ねじ切り部
32 回転用治具係合部
100 車体
B ボルト
G グリス
K 貫通孔