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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119848
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】電気回路
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20230822BHJP
【FI】
H02J50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022946
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚弥
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】岩本 藤行
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】水谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】碓井 優希
(57)【要約】
【課題】小さな部品体格、少ない部品数で広い整合範囲を得られる可変リアクタを備えた電気回路を提供する。
【解決手段】可変リアクタ10は、インダクタL及びコンデンサCを直列接続すると共に所定周波数にて共振特性を有するLC直列共振回路14と、LC直列共振回路14にドレインソース間を直列に接続したFET_Q1と、FET_Qのドレインソース間と並列接続されたダイオードD及びシャントコンデンサCと、を有している。位相制御回路12により可変リアクタの制御端子を駆動するゲート駆動電圧vgsは、可変リアクタ10の入出力端子間10a-10cに通電される信号の入力電流iに対して位相が遅れる位相差φを有し当該位相差φを可変可能に構成している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振インダクタ(L)及び共振コンデンサ(C)を直列接続すると共に所定周波数にて共振特性を有するLC直列共振回路(14)と、
前記LC直列共振回路にドレインソース間を直列に接続したFET(Q)と、
前記FETのドレインソース間と並列接続されたダイオード(D)及びシャントコンデンサ(C)と、を有し、
前記LC直列共振回路及び前記FETのドレインソース間の直列接続回路を入出力端子の間に接続すると共に前記FETのゲートを制御端子に接続して構成された可変リアクタ(10)を備え、
前記LC直列共振回路の共振周波数と前記可変リアクタの入出力端子間に通電される信号の周波数とゲート駆動回路(12)により前記制御端子を駆動するゲート駆動電圧の周波数とは前記所定周波数にて同一に設定されると共に、前記ゲート駆動電圧のデューティ比は所定値に固定されており、
前記ゲート駆動電圧は、前記可変リアクタの入出力端子間に通電される信号の入力電流に対して位相が遅れる位相差を有するように駆動し、当該位相差を可変可能にする電気回路。
【請求項2】
前記位相差は、前記可変リアクタの入出力端子間のインピーダンスの実部が予め定められた所定の値以下となる条件を満たす範囲で可変可能に設定される請求項1記載の電気回路。
【請求項3】
前記位相差は、最小値が270°、且つ、最大値が360°の間で可変可能に設定される請求項2記載の電気回路。
【請求項4】
前記可変リアクタを複数備え、
複数の前記可変リアクタは、前記入出力端子間が直列接続されている請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項5】
前記可変リアクタを複数備え、
複数の前記可変リアクタは、前記入出力端子間が並列接続されている請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項6】
前記可変リアクタの入出力端子間と並列にインダクタを接続して構成される請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項7】
前記可変リアクタの入出力端子間と並列にコンデンサを接続して構成される請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項8】
前記可変リアクタの入出力端子に直列にインダクタを接続して構成される請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項9】
前記可変リアクタの入出力端子に直列にコンデンサを接続して構成される請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項10】
インピーダンスが変動する負荷(22)を駆動するように構成され、
前記可変リアクタは、前記負荷に直列接続されている請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項11】
インピーダンスが変動する負荷(22)を駆動するように構成され、
前記可変リアクタは、前記負荷に並列接続されている請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項12】
前記所定周波数の高周波を電源供給する高周波電源(21)を用いてインピーダンスが変動する負荷(22)を駆動するように構成され、
前記高周波電源と前記負荷との間に挿入されたπ型自動整合回路を備え、
前記可変リアクタは、前記π型自動整合回路を構成する請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【請求項13】
前記所定周波数の高周波を電源供給する高周波電源(21)を用いてインピーダンスが変動する負荷(22)を駆動するように構成され、
前記高周波電源から前記負荷の側を見た時の入力インピーダンスを検出する検出回路(11)と、
前記検出回路の前記入力インピーダンスの検出結果に基づいて前記可変リアクタの入出力端子間インピーダンス(Z)を制御する前記ゲート駆動回路(12)と、
を備える請求項1から3の何れか一項に記載の電気回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変リアクタを備えた電気回路に関する。
【背景技術】
【0002】
送電システムが、例えば送電電極上を走行する電動走行車に送電電極から電界又は磁界により非接触給電する場合、電動走行車側で負荷変動する。この種の送電システムは負荷変動しても所望の出力を保つことが重要である。
【0003】
従来、変動する負荷に対してアダプティブに整合する自動整合技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。非接触給電技術では、送受電電極の位置ズレ等により負荷にリアクタンス成分を生じた場合、バッテリへの供給電力が低下する。この原因は、2通り考えられており、第1にシステム全体の力率の低下、第2に入力(負荷)インピーダンスが最適値から外れることによる送電電力の低下、が挙げられる。特に、第2の原因は、送電電極に投入する交流電力を作り出す送電回路が共振型インバータの場合に生じる現象である。
【0004】
このような問題に対し、例えば特許文献1の技術では、スイッチング素子とコンデンサで構成された自動整合回路を搭載することで、送電回路の出力端子から見た自動整合回路と負荷の合計インピーダンスのリアクタンスをゼロにする、つまり自動整合回路により負荷のリアクタンス成分を相殺することが提案されている。
【0005】
従来、モータ制御の可変コンデンサ、いわゆるトリマコンデンサや、多数のインダクタの接続数をスイッチ切替制御するリアクタアレーが主に使われている。しかし、これらの技術は、部品体格が大きい、もしくは部品数が多いという問題がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1記載の技術においては、FETとその駆動回路、コンデンサのみで構成されたATACやMERSと称される回路が提案されている。この特許文献1記載の技術では、従来よりも小さな部品体格、少ない部品数でリアクタンスを相殺できるが、送電電力と相殺するリアクタンスが大きい程、FETにかかる電圧が増える。このため、FET耐圧が制約となり、その従来技術よりも、相殺できるリアクタンスが小さくなり整合範囲が狭くなるという問題を生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/057896号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】成末義哲、“共振結合方式ワイヤレス電力伝送向け可変リアクタ”、電子情報通信学会ソサイエティマガジン、no.57、June 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、小さな部品体格、少ない部品数で広い整合範囲を得られる可変リアクタを備えた電気回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、LC直列共振回路と、ダイオード及びシャントコンデンサと、を有した可変リアクタを備える。LC直列共振回回路は、共振インダクタ及び共振コンデンサを直列接続すると共に所定周波数にて共振特性を有する。FETは、LC直列共振回路にドレインソース間を直列に接続している。ダイオード及びシャントコンデンサは、FETのドレインソース間と並列接続されている。可変リアクタは、LC直列共振回路及びFETのドレインソース間の直列接続回路を入出力端子の間に接続すると共にFETのゲートを制御端子に接続して構成されている。
【0011】
LC直列共振回路の共振周波数と可変リアクタの入出力端子間に通電される信号の周波数とゲート駆動回路により制御端子を駆動するゲート駆動電圧の周波数とは所定周波数にて同一に設定されると共に、ゲート駆動電圧のデューティ比は所定値に固定されている。
【0012】
ゲート駆動回路により可変リアクタの制御端子を駆動するゲート駆動電圧は、可変リアクタの入出力端子間に通電される信号の入力電流に対して位相が遅れる位相差を有するように駆動し、当該位相差を可変可能にしている。
【0013】
請求項1記載の発明によれば、ゲート駆動電圧が入力電流に対して位相差を可変可能になっているため、当該位相差を変更することでリアクタンスを可変できる。前述したように可変リアクタは、LC直列共振回路と、ダイオード及びシャントコンデンサにより構成でき、この結果、小さな部品体格、少ない部品数で広い整合範囲を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態において示す可変リアクタの回路構成図
図2】可変リアクタの使用方法と制御構成を概略的に示すブロック図
図3】制御方法の説明図
図4】入力電流とFETの駆動電圧の位相差とインピーダンスの実部、虚部との関係性を表す図
図5】位相差に対する各部波形の変化を模式的に示す図
図6】第2実施形態において示す位相制御回路の回路構成例
図7】位相制御回路の動作を示す図
図8】位相検出回路の電気的構成図
図9】第3実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図10】第4実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図11】第5実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図12】第6実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図13】第7実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図14】第7実施形態における可変リアクタのリアクタンスの変化とダイオードの導通損の関係性を示す図
図15】第8実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図16】第9実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図17】第10実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
図18】第11実施形態について示す可変リアクタを用いた電気回路の構成例
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、可変リアクタを使用した電気回路に係る幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において実質的に共通する部位には同一符号又は類似符号を付して説明する。
【0016】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1から図5を参照しながら説明する。図1に可変リアクタ10の基本構成を示している。可変リアクタ10は、入力端子10a、出力端子10c、及び、制御端子10bを備える。可変リアクタ10は、これらの端子10a~10cの間にLC直列共振回路14、FET_Q、ダイオードDi及びシャントコンデンサCsを備える。本願においては、入力端子10a及び出力端子10cを「入出力端子10a、10c」と称することもある。また入力端子10a及び出力端子10cの間を「入出力端子間10a-10c」と称することもある。LC直列共振回路14は、共振インダクタL及び共振コンデンサCを直列接続して構成され、例えばMHz帯の所定周波数にて共振特性を有している。FET_Qは、LC直列共振回路14にドレインソース間を直列に接続して構成されている。
【0017】
ダイオードDi及びシャントコンデンサCsは、FET_Qのドレインソース間と並列接続されている。本実施形態におけるダイオードDiは、FET_Qに対し外付けして構成されている例を示すが、FET_Qに内蔵のボディダイオードにより代用していても良い。
【0018】
またシャントコンデンサCsについても、FET_Qに対し外付けして構成されている例を示すが、FET_Qに寄生する寄生容量により代用しても良いし、前述のダイオードDiに寄生する寄生容量により代用しても良い。また、シャントコンデンサCsとしての機能は、これらの外付けのコンデンサや前記した寄生容量の成分を組み合わせて構成されていても良い。
【0019】
可変リアクタ10は、LC直列共振回路14及びFET_Qのドレインソース間の直列接続回路を入出力端子間10a-10cに接続すると共に、FET_Qのゲートを制御端子10bに接続して構成されている。
【0020】
可変リアクタ10の制御端子10bには位相制御回路12が接続されている。位相制御回路12は、可変リアクタ10の制御端子10bに接続されるFET_Qのゲート駆動電圧vgsを生成し、FET_Qのゲートを駆動するゲート駆動回路として動作する。位相制御回路12が、FET_Qのゲートを駆動する際のゲート駆動電圧vgsのデューティ比は所定値(例えば、50%)に固定されている。所定値は50%と例示しているが、50%を超えて設定されても、50%未満に設定されていても良い。
【0021】
位相制御回路12は、FET_Qのゲート駆動電圧vgsとして可変リアクタ10の入力端子10a及び出力端子10cの間に通電される信号の入力電流iに対して位相が遅れる位相差φを有するように駆動する。本実施形態では、位相制御回路12の機能により位相差φが可変可能になっている。
【0022】
可変リアクタ10の入出力端子間10a-10cに入力される電圧v、電流iの周波数、及び、FET_Qのゲート駆動電圧vgsの周波数は、前述のLC直列共振回路14の共振周波数と所定周波数(MHz帯)にて同一に設定される。本願でいう同一とは、可変リアクタ10の構成素子が理想的な動作をする場合の設定値を示すものであり、当該構成素子に誤差が存在する場合にはその誤差の影響を許容範囲内で含むことは当業者間の技術常識である。
【0023】
可変リアクタ10を使用するときに、入出力端子間10a-10cに高周波の信号が入力される。この信号は、LC直列共振回路14に通電されると共にFET_Q、シャントコンデンサC、及びダイオードDに与えられる。位相制御回路12は、FET_Qのゲートを駆動することでシャントコンデンサC及びダイオードDに流れる電流を制御する。
【0024】
図2に示す電気回路20は可変リアクタ10を用いると共に、所定周波数の高周波を電源供給する高周波電源21を用いてインピーダンスが変動する負荷22を駆動する構成例である。この図2に示す電気回路20の構成例によれば、可変リアクタ10に高周波電源21から交流電源を入力させると共に、可変リアクタ10をインピーダンスが変動する負荷22に接続している。
【0025】
電気回路20は、可変リアクタ10と共に、位相検出回路11、及び位相制御回路12を備える。位相検出回路11は、高周波電源21から負荷22の側を見た時の入力インピーダンスZinのリアクタンスを検出するためのもので、例えば,高周波電源21の出力電流ioutと高周波電源21の出力電圧voutの位相差θとしてリアクタンス成分を検出する。
【0026】
位相検出回路11は、この検出結果を位相制御回路12に出力する。位相制御回路12は、位相検出回路11の入力インピーダンスZinのリアクタンス成分の検出結果に基づいて可変リアクタ10の入出力端子間10a-10cのインピーダンスZを制御する。
【0027】
図3に示すように、位相制御回路12は、位相検出回路11により検出された高周波電源21の出力電圧voutと出力電流ioutとの位相差をゼロ(=入力インピーダンスZinのリアクタンス成分がゼロ)とする条件となるように可変リアクタ10の入出力端子間10a-10cのリアクタンスXを制御する。このとき、位相制御回路12はFET_Qのゲート駆動電圧vgsを制御するが、このゲート駆動電圧vgsは入力端子10aに流れる入力電流iに対して位相差φを有するように制御される。
【0028】
位相差φは、可変リアクタ10の入出力端子間10a-10cのインピーダンスZrの実部Re(Z)が予め定められた所定値以下となる条件を満たす範囲で虚部Im(Z)が可変可能に設定されることが望ましい。ここで、虚部Im(Z)が、可変リアクタ10の入出力端子間10a-10cのリアクタンスXに相当する。実部Re(Z)が所定値以下、例えば極力ゼロに近い条件を満たす範囲を考慮すると、ゲート駆動電圧vgsが、入力電流iに対して位相が遅れる位相差φを最小値270°且つ最大値360°の間で可変可能に設定することが望ましい。
【0029】
図4の中には、位相差φの変化に伴う可変リアクタ10のインピーダンスZrの実部Re(Zr)と虚部Im(Zr)の変化を示している。発明者らは、位相差φが270°~360°の範囲にあるとき、FET_Qはソフトスイッチングすることを明らかにしている。また、この時LC直列共振回路14が所定周波数で共振していることを考慮すると、可変リアクタ10のインピーダンスZはドレインソース間インピーダンスZds1と等しくなり、下記の(1)式にて表現できることを明らかにしている。
【0030】
【数1】
【0031】
この(1)式の中で、Vds1は、FET_Qのドレインソース間電圧vdsをフーリエ級数展開した場合のn=1の複素フーリエ係数であり、Ir1は、入力電流iをフーリエ級数展開した場合のn=1の複素フーリエ係数を示している。また位相差φは、入力電流irとFET_Qのゲート駆動電圧vgsの位相差を示している。
【0032】
(1)式の成立するφ=270°~360°の範囲では、可変リアクタ10のインピーダンスZrは、その実部Re(Zr)が極めてゼロに近く、その虚部Im(Zr)のみで表すことができ、これにより、可変リアクタ10は容量性の純リアクタンスと見做すことができる。この(1)式が成立する範囲内にて位相差φを変化させることで、図4の下図に示すように容量性のリアクタンスの大きさを制御すると良い。
【0033】
なお図4中に示される結果は、FET_Qにおけるゲートソース間、ゲートドレイン間の寄生容量や抵抗が存在せず、LC直列共振回路14は理想的な共振フィルタとして動作をすると見做した条件下の理想的なスイッチングをした場合の結果を示している。実際のFET_Qに適用した場合、寄生容量の大きさによって位相差φにオフセットを加減算することで調整することが望ましい。また、実際のFETやLC直列共振回路14を適用した場合は、FETやLC直列共振回路14の抵抗が可変リアクタの実部Re(Z)として現れるため,実際に使用する部品は、出来るだけ抵抗が少ないことが望ましい。
【0034】
図5に位相差φの変化に伴う各部の波形のシミュレーション結果を示している。特に、FET_Qのゲート駆動電圧vgs、入力電流i、シャントコンデンサCに流れる電流i、ダイオードDに流れる電流iDi、ドレイン電流ids、FET_Qのドレインソース間電圧vds、の関係を示している。
【0035】
位相制御回路12は、FET_Qのゲートに所定のデューティ比のゲート電圧を印加して準E級動作にてFET_Qを駆動する。このとき、FET_Qのゲート駆動電圧vgsがFET_Qの閾値電圧を超える区間では、FET_Qにドレイン電流idsが流れる。φ=260°のt0~t1、φ=270°のt0a~t1a、φ=310°のt0b~t1b、φ=360°のt0c~t1cの区間参照。このとき、入力電流iがFET_Qのドレインに流れ込むため、FET_Qのドレイン電流idsは、所定周波数の入力電流iと同様に変化する。シャントコンデンサCの端子間電圧はゼロとなるため電流iは流れない。
【0036】
その後、ゲート駆動電圧vgsがFET_Qの閾値電圧を下回る区間では、FET_Qのドレイン電流idsが遮断される。このため、入力電流iは、シャントコンデンサCに流れ込み、電流iが変化する。φ=260°のt1~t0、φ=270°のt1a~t0a、φ=310°のt1b~t0b、φ=360°のt1c~t0cの区間参照。
【0037】
270°≦位相差φ<360°とされている場合、位相差φが比較的小さい場合でも大きい場合でも、ゲート駆動電圧vgsが正値からゼロとなるタイミングt1a、t1bでは、入力電流iが正値となる。
【0038】
シャントコンデンサCに電流iが正方向に流れると、当該シャントコンデンサCの電圧が上昇し、FET_Qのドレインソース間電圧vdsが上昇する。その後も入力電流irが正値で低下し続けると、シャントコンデンサCに流れる電流iも低下するが、これに伴い、FET_Qのドレインソース間電圧vdsが上昇し続ける。φ=270°のt1a以降、φ=310°のt1b以降参照。
【0039】
入力電流iがゼロに達して負値になると、電流iも同様にゼロに達して負値になり、その後も低下し続ける。入力電流iが負値になれば、FET_Qのドレインソース間電圧vdsは下降する。その後、FET_Qのドレインソース間電圧vdsが低下しゼロに達すると電流iはゼロになる。φ=270°のt1a→t0a、φ=310°のt1b→t0b参照。
【0040】
位相差φ=310°の例の場合、タイミングt2b→t0bにおいてFET_Qのゲート駆動電圧vgsはFET_Qの閾値電圧を下回っており、FET_Qはオフしている。この間、ダイオードDに順方向電流が流れる。位相差φ=360°の例の場合でも同様に、タイミングt1c→t0cにおいてFET_Qのゲート駆動電圧vgsはFET_Qの閾値電圧を下回っており、FET_Qはオフしている。この間、ダイオードDに順方向電流が流れる。
【0041】
位相差φ=270°~360°の条件の場合、その後、位相制御回路12が、ゲート駆動電圧vgsを再度上昇させてFET_Qをターンオンする際には、ドレイン電流idsもドレインソース間電圧vdsもゼロになっている。このため、FET_Qをソフトスイッチングでき、FET_Qのターンオン時の損失を限りなくゼロに近づけることができる。
【0042】
なお、位相差φが270°~360°の条件の場合、位相差φが比較的小さいときには、入力電流iの1周期あたり、シャントコンデンサCに通電される時間が長くなり、ドレインソース間電圧vdsの振幅が比較的大きくなる。逆に位相差φが比較的大きいときには、入力電流iの1周期あたり、シャントコンデンサCに通電される時間が短くなり、ドレインソース間電圧vdsの振幅が比較的小さくなる。
【0043】
位相差φが270°~360°から外れた260°の条件の場合、図5の最左図のタイミングt0に示すように、ドレインソース間電圧vdsが低下しきる前にFET_Qにドレイン電流idsが流れることになる(タイミングt0)。このとき、ドレインソース間電圧vdsがゼロに達する前にターンオンするため、ドレイン電流idsには正の突入電流が発生し、ソフトスイッチングさせることができないが、ドレインソース間電圧vdsが所定以下に低下していれば損失を低減できる。
【0044】
このため、位相差φは必ずしも270°~360°の範囲でなくても良く、位相差φを0°~30°、0°~45°の範囲としても良いし、270°~30°、270°~45°の範囲としても良い。なお、位相差φが270°~360°の範囲内でも位相差φを大きくすればするほど、シャントコンデンサCに流れる電流iの振幅を小さくでき、可変リアクタ10のリアクタンスXを低下させることができる。
【0045】
本実施形態によれば、入力電流iに対するゲート駆動電圧vgsの位相差φを可変可能にしているため、当該位相差φを変更することで可変リアクタ10のリアクタンスXを可変できる。可変リアクタ10は、LC直列共振回路14とダイオードDi及びシャントコンデンサCsとにより構成でき、この結果、少ない部品数で構成できる。モータのような機械部品もないため体格を小さく構成できる。
【0046】
FET_Qを準E級動作させることでソフトスイッチングできるため低損失化できる。LC直列共振回路14を使用することでFET_Qのスイッチングに伴う高調波の発生を抑制できる。例えば、位相差φが270°~360°、又は0°~45°程度の範囲に調整しても、可変リアクタ10のインピーダンスZの実部Re(Z)を低くできるようになり、広い整合範囲を得られる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態について図6から図8を参照しながら説明する。第2実施形態は、位相制御回路12、及び、位相検出回路11の具体例を説明する。図6に例示したように、位相制御回路12は、矩形波発振器30、抵抗Rtr及びコンデンサCtr、直流遮断用のコンデンサC、バッファbf1、Dフリップフロップ31、Dフリップフロップ31のQ出力により駆動するドライバ32、抵抗Rb1及びRb2を直列接続して構成される抵抗分圧回路33、その他、抵抗Rch1、Rch2、ダイオードDch、コンデンサCchからなる周辺回路、を備えて構成される。抵抗Rtr及びコンデンサCtrは積分器34を構成する。ドライバ32の出力はFET_Qのゲートに接続される。
【0048】
積分器34は、矩形波発振器30により出力される矩形波を入力し、所定の時定数に応じて電圧の位相を遅相することで電圧波形を鈍らせ、直流遮断用のコンデンサCを通じてDフリップフロップ31のクロック端子Cに入力させる。
【0049】
Dフリップフロップ31は、D端子を電源Vccにプルアップして構成される。抵抗Rb1、Rb2の分圧回路による分圧電圧は、バッファbf1を通じてDフリップフロップ31のクロック端子Cに入力されている。また、Dフリップフロップ31の/Q端子及び/CLR端子には周辺回路が接続されている。周辺回路は、抵抗Rch1、Rch2、ダイオードDch、及びコンデンサCchなどを図示形態に組み合わせて構成される。
【0050】
図7に示すように、Dフリップフロップ31は、クロック端子Cの入力電圧に同期して矩形波電圧をQ端子から出力することになり、積分器34から出力される矩形波電圧を鈍した三角波がバッファbf1を介してクロック端子Cに入力される。また三角波は抵抗分圧回路33によりバイアス調整される。これにより、三角波の電圧がバッファbf1の入力閾値を超えるタイミングを変化させることができ、入力信号に対する出力信号の位相を変化させることができる。φ=φ、φ=φの出力波形参照。
【0051】
これに伴い、Dフリップフロップ31のQ端子の立上りタイミングを進み側/遅れ側の両方に調整できる。この結果、位相制御回路12は、積分器34による積分結果に基づいて位相制御した結果を出力できる。
【0052】
図8に位相検出回路11の構成例を示している。位相検出回路11は、高周波電源21の出力電流ioutをトランスTrcの一次側コイルTrc1に電流Iとして入力すると共に、高周波電源21の出力電圧voutをトランスTrvの一次側コイルTrv1に電圧Vとして入力して検出すると共に、これらの電流I及び電圧V間の位相差φを直流電圧Vに変換して検出するダブルバランスドミキサにより構成されている。
【0053】
ダブルバランスドミキサは、トランスTrcの二次側コイルTrc2、及び、トランスTrvの二次側コイルTrv2に接続された全波整流器Dを備えており、全波整流器Dにより二次側コイルTrc2、Trv2から出力される電圧Vr、Vlを混合し、二次側コイルTrc2の中点に接続された抵抗R及びコンデンサCの平滑回路により直流電圧Vを検出する。
【0054】
検出される直流電圧Vは、二次側コイルTrc2、Trv2の電圧の位相差θに依存して変化することから、直流電圧Vbを検出することで、電流I及び電圧Vの位相差を検出できる。このような位相制御回路12及び位相検出回路11の構成例を適用することで第1実施形態の構成を実現できる。なお、位相制御回路12及び位相検出回路11は、本実施形態に示した回路構成例に限定されるものではなく、他の回路構成例でも適用可能である。
【0055】
(第3実施形態)
第3実施形態の電気回路320について図9を参照しながら説明する。図9の右図に示すように、可変リアクタ10を複数備えるように構成しても良い。このとき複数の可変リアクタ10はそれらの入出力端子間10a-10cを直列接続して構成しても良い。このように接続することで、可変リアクタ10に印加される電圧Vr1、Vr2をそれぞれ低減でき、FET_Qのドレインソース間耐圧による設計条件を緩和できる。
【0056】
(第4実施形態)
第4実施形態の電気回路420について図10を参照しながら説明する。図10の右図に示すように、可変リアクタ10を複数備えるように構成しても良い。このとき複数の可変リアクタ10は、それらの入出力端子間10a-10cを並列接続して構成しても良い。このように接続することで、それぞれの可変リアクタ10に流れる電流ir1、ir2を低減でき、FET_Qのドレインソース間に流れる電流idsの許容電流の設計条件を緩和できる。
【0057】
(第5実施形態)
第5実施形態の電気回路520について図11を参照しながら説明する。図11に示すように、可変リアクタ10の入出力端子10a、10cと並列にインダクタLを接続して構成しても良い。このとき、並列共振回路を構成するため、インダクタLのリアクタンスは、可変リアクタ10の最大リアクタンスと同等のリアクタンスを有するように構成すると良い。
【0058】
インダクタLのリアクタンスをXとし、可変リアクタ10のリアクタンスをXとした場合、これらの並列共振回路のインピーダンスZは、下記の(2)式のように表すことができる。
【0059】
【数2】
【0060】
原理的には、可変リアクタ10のリアクタンスX=0に調整したときに、インピーダンスZの虚部(リアクタンス成分)はゼロとなり、可変リアクタ10のリアクタンスX=Xに調整したときには、並列共振回路のインピーダンスの虚部は無限大となる。すなわち、このような電気回路520の構成によればインピーダンスZの虚部の可変範囲を無限大にできる。
【0061】
(第6実施形態)
第6実施形態の電気回路620について図12を参照しながら説明する。図12に示すように、可変リアクタ10の入出力端子10a、10cと並列にコンデンサCを接続して構成しても良い。このとき、コンデンサCのリアクタンスXは、1/ωCa(ω=2×π×電流irの周波数)により表すことができ、並列接続回路のインピーダンスZの虚部は下記の(3-1)式のように表すことができる。
【0062】
【数3】
【0063】
この(3-1)式において、可変リアクタ10のインピーダンスZの虚部の調整可能範囲を0~-j(1/2ωC)とすれば、並列接続回路のインピーダンスZの虚部の調整可能範囲を下記の(3-2)式のように表すことができ、インピーダンスZの虚部の可変範囲を適当な範囲に調整できる。
【数4】
【0064】
本実施形態によれば、可変リアクタ10と並列にコンデンサCを追加することで可変リアクタ10に流れる電流を低減できる。
【0065】
(第7実施形態)
第7実施形態の電気回路720について図13及び図14を参照しながら説明する。図13に示すように、可変リアクタ10の入出力端子10a-10c間に直列にインダクタLを接続して構成するようにしても良い。すなわち、図13に示す電気回路720によれば、可変リアクタ10の入力端子10aを通じて共振インダクタLを接続しているが、共振インダクタLに直列に追加して別途インダクタLを接続している。
【0066】
このように構成することで、図14に示すように、インダクタL追加後の位相差φの可変範囲を狭くしており、インダクタLのリアクタンスX分だけ入出力端子10a-10c間のインピーダンスZr’の虚部(リアクタンス成分)の可変範囲の最小値を大きくしている。共振インダクタLに対し直列にインダクタLを追加すると、ダイオードDに多くの電流が流れる位相差φの条件を使用せずに済む。このため、ダイオードDの導通損が高まる範囲内での位相差φの調整をせずに済むことになる。
【0067】
(第8実施形態)
第8実施形態の電気回路820について図15を参照しながら説明する。図15に示すように、可変リアクタ10の入出力端子10a、10cに直列にコンデンサCa2を追加接続して構成しても良い。このとき、コンデンサCa2のリアクタンスXC2は1/ωCa2により表すことができ、直列接続回路のインピーダンスZの虚部は下記の(4-1)式のように表すことができる。
【0068】
【数5】
【0069】
この(4-1)式において、可変リアクタ10のインピーダンスZの虚部の調整可能範囲を0~-j(1/2ωC)とすれば、直列接続回路のインピーダンスZの虚部の調整可能範囲を(4-2)式のように調整でき、インピーダンスZの可変範囲を適当な範囲に調整できる。
【0070】
【数6】
【0071】
本実施形態によれば、可変リアクタ10と直列にコンデンサCa2を追加することで可変リアクタ10にかかる電圧を低減できる。
【0072】
(第9実施形態)
第9実施形態の電気回路920について図16を参照しながら説明する。図16に示す電気回路920は、インピーダンスが変動する負荷22を駆動するように構成される。図16に示す電気回路920は、可変リアクタ10を高周波電源21と負荷22の間に直列に挿入するように構成している。負荷22のインピーダンスをR+jXとすると、高周波電源21から負荷22の側を見た入力インピーダンスZinは、下記の(5)式のように示すことができる。
【0073】
【数7】
【0074】
またX=Xとなるように、可変リアクタ10のリアクタンスXを制御することで、入力インピーダンスZinの虚部(リアクタンス成分)をゼロにすることで電力整合を図ることができ供給電力の低下を防ぐことができる。
【0075】
(第10実施形態)
第10実施形態の電気回路1020について図17を参照しながら説明する。図17に示す電気回路1020は、インピーダンスが変動する負荷22を駆動するように構成される。図17に示す電気回路1020は、可変リアクタ10を負荷22と並列に挿入するように構成している。負荷22のインピーダンスをR+jXとすると、入力インピーダンスZinは、下記の(6)式のように示すことができる。
【0076】
【数8】
【0077】
ここで、下記の(7)式の条件を満たすように,可変リアクタ10のリアクタンスXを制御することで、入力インピーダンスZinの虚部(リアクタンス成分)をゼロにして電力整合を図ることができ、負荷22への供給電力の低下を防ぐことができる。
【0078】
【数9】
【0079】
(第11実施形態)
第11実施形態について図18を参照しながら説明する。図18に示すように、2つの可変リアクタ10とインダクタLとをπ型に構成することでπ型自動整合回路50を構成しても良い。π型自動整合回路50は、入力インピーダンスZinを如何なるインピーダンスにも調整できる。ただし、π型自動整合回路50の構成素子の発熱や耐圧の制約内に限る。
【0080】
高周波電源21の出力インピーダンスと入力インピーダンスZinを一致させるように可変リアクタ10のインピーダンスZを制御することで、負荷22への供給電力の低下を防ぐことができる。リアクタンスをゼロにするだけより実用的に構成できる。
【0081】
(他の実施形態)
前述実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に示す変形又は拡張が可能である。
前述したように、負荷22が変動する送電システムなどへの適用が好適であり、例えば、非接触給電、誘導加熱システム、プラズマプロセス用の送電システムへの適用が考えられる。
【0082】
ゲート駆動電圧vgsは、矩形波のパルス電圧に限られず正弦波でも良い。矩形波のパルス電圧のゲート駆動波形のデューティ比はゲート電圧の閾値電圧に達する時間から決定されることが望ましいが、このデューティ比は50%であっても良いし、50%とは異なるデューティ比であっても良い。
【0083】
本発明は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本発明は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0084】
図面中、10は可変リアクタ、11は位相検出回路(検出回路)、12は位相制御回路(ゲート駆動回路)、14はLC直列共振回路、20、320、420、520、620、720、820、920、1020、1120は電気回路、QはFET、Lは共振インダクタ、Cは共振コンデンサ、Diはダイオード、Csはシャントコンデンサ、QはFET、を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図16
図17
図18