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特開2023-119862メラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119862
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】メラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9706 20170101AFI20230822BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230822BHJP
   A61K 35/748 20150101ALI20230822BHJP
【FI】
A61K8/9706
A61Q19/02
A61K48/00
A61P43/00 111
A61P17/00
A61K35/748
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022966
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】593206964
【氏名又は名称】マイクロアルジェコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593171592
【氏名又は名称】学校法人玉川学園
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一臣
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕行
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕司
(72)【発明者】
【氏名】榊 節子
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083EE16
4C083FF01
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZC201
4C084ZC202
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC80
4C087CA11
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZC20
(57)【要約】
【課題】新規なメラニン生成抑制用組成物を提供する。
【解決手段】メラニン生成抑制用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有するメラニン生成抑制用組成物。
【請求項2】
メラノサイト刺激ホルモンの刺激により促進されるメラニンの生成を抑制するメラニン生成抑制用組成物であって、
有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有するメラニン生成抑制用組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のメラニン生成抑制用組成物を含有する美白用組成物。
【請求項4】
チロシナーゼの遺伝子発現を抑制する発現抑制用組成物であって、
有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する発現抑制用組成物。
【請求項5】
MC1Rの遺伝子発現を抑制する発現抑制用組成物であって、
有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する発現抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日焼け等による色素沈着、しみ、そばかす等の原因の一つとして、メラノサイトにおけるメラニンの過剰な生成が挙げられる。メラニンの生成を抑制する美白用組成物としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されるものが知られている。特許文献1は、チロシンからのメラニンの生成に関与する酵素であるチロシナーゼの活性を抑制する美白用組成物を開示する。特許文献2は、メラノサイト刺激ホルモン受容体であるMC1R(melanocortin-1 receptor)の発現を抑制する皮膚外用剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-088856号公報
【特許文献2】特開2021-004215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、微細藻類が有する作用についての様々な研究が行われている。本発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、藍藻綱ネンジュモ目ネンジュモ科ネンジュモ属に属する藻体であるノストック・ヴェルコスム(Nostoc verrucosum)の抽出物が、メラニン生成を抑制する作用、及びメラニン生成に関わる遺伝子の発現を抑制する作用を発揮することを新たに見出したことに基づいてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するメラニン生成抑制用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
上記課題を解決するメラニン生成抑制用組成物は、メラノサイト刺激ホルモンの刺激により促進されるメラニンの生成を抑制するメラニン生成抑制用組成物であって、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0006】
上記課題を解決する美白用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
上記課題を解決する発現抑制用組成物は、チロシナーゼの遺伝子発現を抑制する発現抑制用組成物であって、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0007】
上記課題を解決する発現抑制用組成物は、MC1Rの遺伝子発現を抑制する発現抑制用組成物であって、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規なメラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】試験1におけるヘキサン抽出物処理時のメラニン生成量を示すグラフ。
図2】試験1におけるメタノール抽出物処理時のメラニン生成量を示すグラフ。
図3】試験2におけるヘキサン抽出物処理時のチロシナーゼのmRNA発現レベルを示すグラフ。
図4】試験2におけるヘキサン抽出物処理時のMC1RのmRNA発現レベルを示すグラフ。
図5】試験3におけるヘキサン抽出物処理時のチロシナーゼ及びMC1Rの各mRNA発現レベルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の組成物(以下、本組成物と記載する。)は、ノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0011】
[原料]
ノストック・ヴェルコスム(Nostoc verrucosum、和名:アシツキ)は、藍藻綱ネンジュモ目ネンジュモ科ネンジュモ属の藻体である。ノストック・ヴェルコスム(以下、上記藻体と記載する。)は、天然に自生する藻体であってもよいし、人工的に培養した藻体であってもよい。なお、安定供給が可能である点や品質保持が容易である点から、人工的に培養した藻体を用いることが工業的に好適である。
【0012】
本組成物に含有される上記抽出物は、上記藻体を原料として抽出処理を行うことにより得ることができる。
原料としての上記藻体は、採取したままの状態、採取後に破砕処理した状態、採取後に乾燥処理した状態、又は採取後に破砕処理及び乾燥処理した状態のいずれであってもよい。抽出処理時における効率化の観点から、上記藻体を破砕したものを原料として用いることが好ましい。
【0013】
[抽出物]
上記藻体から抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、例えば、有機溶媒、及び有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができる。上記有機溶媒としては、例えば、低級アルコール、ヘキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1~5のアルコールが挙げられる。
【0014】
有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。抽出溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合には、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、好ましくは50体積%以上、より好ましくは80体積%以上である。また、抽出溶媒中に、添加剤、例えば、有機塩、無機塩、緩衝剤、及び乳化剤等が溶解されていてもよい。
【0015】
上記藻体から抽出物を抽出する抽出方法としては、公知の抽出方法、例えば冷却抽出、常温抽出、及び加熱抽出のいずれの方法を用いてもよい。また、抽出温度は溶媒の種類、抽出効率、成分の劣化等に応じ適宜設定できる。
【0016】
抽出操作としては、抽出溶媒中に原料である上記藻体を所定時間浸漬させることにより行われる。その際、抽出溶媒中における上記藻体の濃度は、注出溶媒の種類、抽出効率、抽出後の濃縮処理の効率等に応じ適宜設定できる。こうした抽出操作において、抽出効率を高めるべく、必要に応じて還流処理、攪拌処理、加圧処理、及び超音波処理等の処理をさらに行ってもよい。
【0017】
抽出操作及び固液分離操作は、同一の上記藻体に対して一回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。また、抽出操作を複数回行う場合、同一の抽出操作を繰り返し行ってもよいし、異なる抽出操作を組み合わせて行ってもよい。例えば、有機溶媒を用いた抽出操作及び固液分離操作を行った後、それらの操作が行われた上記藻体に対して別の有機溶媒を用いた抽出操作を行ってもよい。異なる抽出操作を組み合わせて行った場合、各抽出操作により得られた抽出物は、混合して一つの抽出物として用いてもよいし、別々の異なる抽出物として用いてもよい。
【0018】
[作用及び適用分野]
本組成物を摂取することにより、メラニンの生成が抑制される。したがって、本組成物は、メラニン生成の抑制作用の発揮を目的としたメラニン生成抑制用組成物、及びメラニン生成の抑制に基づく美白作用の発揮を目的とした美白用組成物として適用できる。
【0019】
また、本組成物を摂取することにより、チロシンからのメラニン生成に関与する酵素であるチロシナーゼの遺伝子発現が抑制される。したがって、本組成物は、チロシナーゼの遺伝子発現の抑制作用の発揮を目的とした発現抑制用組成物として適用できる。なお、チロシナーゼの遺伝子発現の抑制作用の発揮を目的とした発現抑制用組成物に含まれる上記抽出物は、ヘキサンを含む抽出溶媒を用いて抽出されたヘキサン抽出物であることが好ましい。この場合には、チロシナーゼの遺伝子発現を抑制する作用がより顕著に得られる。
【0020】
また、本組成物を摂取することにより、MC1R(melanocortin-1 receptor)の遺伝子発現が抑制される。したがって、本組成物は、MC1Rの発現の抑制作用の発揮を目的とした発現抑制用組成物として適用できる。MC1Rは、メラノサイト又はメラノーマの細胞膜上に存在する受容体である。なお、MC1R遺伝子の発現の抑制作用の発揮を目的とした発現抑制用組成物に含まれる上記抽出物は、ヘキサンを含む抽出溶媒を用いて抽出されたヘキサン抽出物であることが好ましい。この場合には、MC1R遺伝子の発現を抑制する作用がより顕著に得られる。
【0021】
本組成物を摂取した場合にメラニンの生成が抑制される作用機序は以下のように推測できる。生体内においてメラニンは、下記のステップ1~4を経て生成される。
ステップ1:紫外線や活性酸素による刺激を受ける。
【0022】
ステップ2:メラノサイト刺激ホルモンが分泌される。
ステップ3:メラノサイト刺激ホルモンがMC1Rに結合すること等に基づいて、チロシナーゼ等のメラニン合成に関与する酵素の生成が促進される。
【0023】
ステップ4:酵素によりメラニンが合成される。
本組成物は、ステップ2のメラノサイト刺激ホルモンが分泌された場合に、ステップ3における酵素の生成を抑制する。その結果、ステップ4におけるメラニン合成が抑制される。したがって、本組成物は、メラノサイト刺激ホルモンの刺激により促進されるメラニンの生成を抑制するためのメラニン生成抑制用組成物として利用できる。具体的には、本組成物は、ステップ2において、メラノサイト刺激ホルモンが分泌されて、メラノサイト刺激ホルモンの濃度の上昇が見られる又は当該濃度が上昇する可能性が高い投与対象に対して選択的に利用できる。
【0024】
本組成物からなるメラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物はそれぞれ、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品等の各分野に適用できる。
飲食品としては、例えば、各種飲料類(果汁又は野菜汁入り飲料、清涼飲料、ミネラル飲料、スポーツドリンク、茶類飲料、コーヒー、炭酸飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品等)、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、各種菓子類が挙げられる。飲食品には、ペクチンやカラギーナンなどのゲル化剤、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の糖類・甘味料、香料等の食品添加剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を適宜含有させることができる。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用できる。
【0025】
医薬品、医薬部外品、化粧品として使用する場合の投与方法は特に限定されるものではない。具体的な投与方法としては、例えば、服用(経口摂取)による投与、血管内投与、経腸投与、経皮投与、腹腔内投与が挙げられる。また、医薬品、医薬部外品、化粧品として使用する場合の剤形は特に限定されるものではない。具体的な剤形としては、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤が挙げられる。また、添加剤として、例えば、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を含有してもよい。
【0026】
次に、上記実施形態の効果について説明する。
(1)メラニン生成抑制用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0027】
上記構成によれば、メラニンの生成を抑制する効果が得られる。
(2)メラニン生成抑制用組成物は、メラノサイト刺激ホルモンの刺激により促進されるメラニンの生成を抑制する。メラニン生成抑制用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0028】
上記構成によれば、メラノサイト刺激ホルモンが分泌されて、メラノサイト刺激ホルモンの濃度の上昇が見られる又は当該濃度が上昇する可能性が高い投与対象に対して選択的に利用できる。
【0029】
(3)美白用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を含有する。
上記構成によれば、メラニンの生成が抑制されることにより、肌の美白効果が得られる。
【0030】
(4)チロシナーゼの遺伝子発現を抑制する発現抑制用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
上記構成によれば、チロシナーゼの遺伝子発現を抑制する効果が得られる。
【0031】
(5)MC1R遺伝子の発現を抑制する発現抑制用組成物は、有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
上記構成によれば、MC1R遺伝子の発現を抑制する効果が得られる。
【0032】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・メラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物は、それぞれの目的とする作用を損なわない範囲において、他の成分を含有していてもよい。
【0033】
・メラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物の摂取量及び摂取期間は、特に限定されず、摂取者の身体機能の状態、年齢、性別、及びその他の条件を考慮し、適宜、決定される。
【0034】
・メラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物は、ヒトを対象として適用することができるのみならず、家畜等の飼養動物に対する飼料、薬剤等に適用してもよい。
【0035】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)有機溶媒を含む抽出溶媒を用いてノストック・ヴェルコスムから抽出物を得る抽出工程を有するメラニン生成抑制用組成物、美白用組成物、及び発現抑制用組成物の製造方法。
【0036】
[不可能・非実際的事情の説明]
本願の特許請求の範囲における「有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物」の記載は、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(『不可能・非実際的事情』)が存在する」場合に該当する。
【0037】
ノストック・ヴェルコスムの構成成分には、有機溶媒を含む抽出溶媒に溶出する成分が無数に含有されている。これらの無数の成分からメラニン生成抑制等の作用を有する有効成分を単離して、その構造を解析する作業には、著しく過大な経済的支出や時間を要する。また、製剤にあたって、特定の有効成分を単離精製した状態で含有させるのではなく、抽出物やその粗精製物の状態で含有させることは一般的に行われている。特に、生物由来の物質は、化学合成された物質と比較して、未精製状態や粗精製状態における安全性が高い傾向があり、未精製状態や粗精製状態で含有させることが積極的に行われている。
【0038】
したがって、技術の急速な進展と国際規模での競争の激しい特許取得の場面において、ノストック・ヴェルコスムの抽出物から、メラニン生成抑制等の作用を有する有効成分を単離して、その構造を解析する作業を出願人に要求することは余りにも酷である。よって、本願の特許請求の範囲における「有機溶媒を含む抽出溶媒を用いて抽出されたノストック・ヴェルコスムの抽出物」の記載については、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(『不可能・非実際的事情』)が存在する」場合に該当する。
【実施例0039】
以下に試験例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
[抽出物の調製]
ノストック・ヴェルコスムの乾燥粉体(10g)にヘキサン(2000mL)を加えて、室温にて60分間攪拌した。その後、遠心分離処理及びろ過処理により得られた液を減圧濃縮することにより、16.3mgの濃縮物を得た。得られた濃縮物をジメチルスルホキシドに溶解させることにより、固形分濃度100μg/mLのヘキサン抽出物を調製した。
【0040】
上記のヘキサンによる抽出処理後のろ過処理にて回収した固形分であるノストック・ヴェルコスムの残渣にメタノール(2000mL)を加えて、室温にて60分間攪拌した。その後、遠心分離処理及びろ過処理により得られた液を減圧濃縮することにより、999.7mgの濃縮物を得た。得られた濃縮物をジメチルスルホキシドに溶解させることにより、固形分濃度100μg/mLのメタノール抽出物を調製した。
【0041】
上記のメタノールによる抽出処理後のろ過処理にて回収した固形分であるノストック・ヴェルコスムの残渣に水(2000mL)を加えて、90~95℃にて60分間攪拌した。その後、遠心分離処理及びろ過処理により得られた液を減圧濃縮することにより、2350gの濃縮物を得た。得られた濃縮物を超純水に溶解させることにより、固形分濃度100μg/mLの熱水抽出物を調製した。
【0042】
[培地の調製]
低グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM:シグマアルドリッチ社製D6046)に、熱不活化ウシ胎児血清を最終濃度5%、ペニシリンを最終濃度50units/mL、ストレプトマイシンを最終濃度50μg/mLとなるように添加し、これを後述する試験に用いる培地とした。
【0043】
[試験1:メラニンの生成量の測定]
α-MSH(メラノサイト刺激ホルモン)の刺激により促進されるメラニン生成について、各抽出物を添加した場合の影響を評価した。α-MSHは、メラノサイト又はメラノーマの細胞膜上に存在するMC1Rのリガンドとして機能する生理活性物質である。α-MSHは、細胞内シグナル伝達系を活性化し、チロシナーゼ発現を誘導することで最終的にメラニン生成を誘導する。
【0044】
B16F1細胞(マウス由来メラノーマ培養細胞)を、1.0×10cells/60mm dishとなるように播種し、上記培地を用いて、37℃、5%COの条件下にて24時間、培養した。その後、培地を交換して、α-MSHを最終濃度0,10nMとなるように培地に添加するとともに、ヘキサン抽出物又はメタノール抽出物を培地に添加した。
【0045】
ヘキサン抽出物は、最終濃度0~25μL/mLとなるように培地に添加した。メタノール抽出物は、最終濃度0~20μL/mLとなるように培地に添加した。なお、最終濃度0μL/mLとするコントロールには、等量のジメチルスフホキシドを添加した。37℃、5%COの条件下にて72時間、培養した後、培地を除去し、トリプシン/EDTAで細胞を処理することにより細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を採取しFuchs-Rosenthal細胞計算盤で細胞数を計測した。
【0046】
次に、細胞懸濁液に対して、1000rpm、5分間の遠心分離処理を行い、PBSで再懸濁した後、さらに1000rpm、5分間の遠心分離処理を行うことにより、細胞ペレットを得た。1×10cellsあたり100μLとなるように2MNaOHを細胞ペレットに注ぎこみ、100℃の湯浴上で20分間の処理を行った。メラニンが完全に溶解したことを確認して、405nmにおける吸光度を測定した。測定された数値をメラニン含有量とし、α-MSHのみを添加した場合のメラニン含有量を100%としたときの各抽出物を添加した場合における相対値を求めた。その結果を図1及び図2のグラフに示す。
【0047】
図1及び図2のグラフから、ヘキサン抽出物又はメタノール抽出物を添加することによって、α-MSHの刺激により促進されたメラニン生成が顕著に抑制されていることが分かる。特にヘキサン抽出物は、メラニン生成を抑制する効果が高い結果であった。また、試験の詳細は省略するが、ヘキサン抽出物及びメタノール抽出物に代えて熱水抽出物を添加した場合には、メラニンの生成量の変化は確認できなかった。
【0048】
[試験2:メラニン合成に関与する遺伝子の発現レベルの測定(72時間処理)]
α-MSHの刺激により促進されるチロシナーゼ及びMC1Rの遺伝子発現について、各抽出物を添加した場合の影響を評価した。
【0049】
B16F1細胞を、1.0×10cells/60mm dishとなるように播種し、上記培地を用いて、37℃、5%COの条件下にて24時間、培養した。その後、培地を交換して、α-MSHを最終濃度0,10nMとなるように培地に添加するとともに、ヘキサン抽出物を、最終濃度0~25μL/mLとなるように培地に添加した。なお、最終濃度0μL/mLとするコントロールには、等量のジメチルスフホキシドを添加した。
【0050】
37℃、5%COの条件下にて72時間、培養した後、培地を除去し、RNA抽出試薬(ニッポンジーン社製ISOGEN2)を用いて細胞を溶解し、全RNAを抽出した。そして、RT-PCR用キット(タカラバイオ社製RNA PCR kit (AMV) Ver.3.0)を用いてcDNAを作成した。得られたcDNA、プライマー、PCR試薬(TOYOBO社製Thunderbird SYBR qPCR mix)を混合し、リアルタイムPCR反応を行った。2-ΔΔCt法を用いて、チロシナーゼのmRNA発現量、MC1RのmRNA発現量、及び内部標準としてのGAPDHのmRNA発現量を測定した。
【0051】
なお、リアルタイムPCR反応には、リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社製Quant Studio 3)を用いた。リアルタイムPCR反応の反応条件は、95℃で10秒、60℃で30秒を1サイクルとして、計40サイクルとした。
【0052】
測定されたチロシナーゼのmRNA発現量をGAPDHのmRNA発現量で補正するとともに、α-MSHを添加し、ヘキサン抽出物を添加していない場合のチロシナーゼのmRNA発現量の補正値を「1」としたチロシナーゼのmRNA発現レベルを求めた。その結果を図3のグラフに示す。同様に、測定されたMC1RのmRNA発現量をGAPDHのmRNA発現量で補正するとともに、α-MSHを添加し、試験液を添加していない場合のMC1RのmRNA発現量の補正値を「1」としたMC1RのmRNA発現レベルを求めた。その結果を図4のグラフに示す。
【0053】
図3のグラフに示すように、チロシナーゼのmRNA発現レベルについては、α-MSHの非存在下においては、ヘキサン抽出物の添加による発現レベルの減少は確認できなかった。一方、α-MSHの存在下においては、ヘキサン抽出物の添加により発現レベルが顕著に減少した。図4のグラフに示すように、MC1RのmRNA発現レベルについては、α-MSHの非存在下及び存在下の両方において、ヘキサン抽出物の添加により発現レベルが顕著に減少した。また、試験の詳細は省略するが、ヘキサン抽出物に代えてメタノール抽出物を用いて同様の試験を行った結果、ヘキサン抽出物の添加によるMC1RのmRNA発現レベルの減少を確認できた。
【0054】
[試験3:メラニン合成に関与する遺伝子の発現レベルの測定(24時間処理)]
試験2におけるα-MSH及びヘキサン抽出物の添加後の培養時間を24時間に変更して試験2と同様の試験を行うことにより、チロシナーゼのmRNA発現レベル及びMC1RのmRNA発現レベルを求めた。その結果を図5のグラフに示す。
【0055】
図5のグラフに示すように、チロシナーゼのmRNA発現レベルについては、α-MSHの非存在下及び存在下の両方において、ヘキサン抽出物の添加により発現レベルが顕著に減少した。図5のグラフに示すように、MC1RのmRNA発現レベルについては、α-MSHの非存在下及び存在下の両方において、ヘキサン抽出物の添加により発現レベルが顕著に減少した。
【0056】
試験2及び試験3の結果から、ノストック・ヴェルコスムの上記抽出物を添加した場合には、チロシナーゼ及びMC1Rの転写抑制に基づいて、チロシナーゼ及びMC1Rの遺伝子発現が抑制されることが分かる。そして、チロシナーゼ及びMC1Rの遺伝子発現が抑制される結果、メラニン生成が抑制されることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5