(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119863
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】発現調整用組成物及び細胞保護用組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20230822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230822BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230822BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230822BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20230822BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230822BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20230822BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230822BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20230822BHJP
A61K 8/9706 20170101ALI20230822BHJP
A61K 35/748 20150101ALI20230822BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230822BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230822BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230822BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20230822BHJP
【FI】
C12N1/12 Z
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P3/00
A61P43/00 111
A61P35/04
A61P17/00
A61P17/18
A61P39/06
A61Q19/08
A61K8/9706
A61K35/748
C12N5/071
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022967
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】593206964
【氏名又は名称】マイクロアルジェコーポレーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593171592
【氏名又は名称】学校法人玉川学園
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一臣
(72)【発明者】
【氏名】竹中 裕行
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕司
(72)【発明者】
【氏名】榊 節子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4B065
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD89
4B018ME13
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4B063QA01
4B063QA13
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4B065CA46
4C083AA111
4C083AA112
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4C087AA01
4C087AA02
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4C087CA11
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC20
4C087ZC21
4C087ZC54
(57)【要約】
【課題】新規な発現調整用組成物を提供する。
【解決手段】発現調整用組成物は、ノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。発現調整用組成物は、nrf-2遺伝子、sirt-1遺伝子、及びMMP-1遺伝子から選ばれる少なくとも一種の細胞保護関連遺伝子の発現を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
nrf-2遺伝子、sirt-1遺伝子、及びMMP-1遺伝子から選ばれる少なくとも一種の細胞保護関連遺伝子の発現を調整する発現調整用組成物であって、
ノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する発現調整用組成物。
【請求項2】
nrf-2遺伝子の発現を促進させる請求項1に記載の発現調整用組成物。
【請求項3】
sirt-1遺伝子の発現を促進させる請求項1又は請求項2に記載の発現調整用組成物。
【請求項4】
MMP-1遺伝子の発現を抑制する請求項1~3のいずれか一項に記載の発現調整用組成物。
【請求項5】
nrf-2遺伝子、sirt-1遺伝子、及びMMP-1遺伝子から選ばれる少なくとも一種の細胞保護関連遺伝子の発現を調整することに基づいて細胞を保護する細胞保護用組成物であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の発現調整用組成物を含有する細胞保護用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発現調整用組成物及び細胞保護用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細藻類が有する作用についての様々な研究が行われている。例えば、特許文献1には、藍藻綱ネンジュモ目ネンジュモ属の藻体に含まれる成分が、脳由来神経栄養因子の発現を促進する作用を発揮することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、藍藻綱ネンジュモ目ネンジュモ科ネンジュモ属の藻体であるノストック・ヴェルコスム(Nostoc verrucosum)の抽出物が、細胞保護に関わる遺伝子の発現を促進又は抑制する作用を発揮することを新たに見出したことに基づいてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する発現調整用組成物は、nrf-2遺伝子、sirt-1遺伝子、及びMMP-1遺伝子から選ばれる少なくとも一種の細胞保護関連遺伝子の発現を調整する発現調整用組成物であって、ノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0006】
上記発現調整用組成物の一形態は、nrf-2遺伝子の発現を促進させる。
上記発現調整用組成物の一形態は、sirt-1遺伝子の発現を促進させる。
上記発現調整用組成物の一形態は、MMP-1遺伝子の発現を抑制する。
【0007】
上記課題を解決する細胞保護用組成物は、nrf-2遺伝子、sirt-1遺伝子、及びMMP-1遺伝子から選ばれる少なくとも一種の細胞保護関連遺伝子の発現を調整することに基づいて細胞を保護する細胞保護用組成物であって、上記発現調整用組成物を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な発現調整用組成物及び細胞保護用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】試験1におけるアルコール抽出物処理時のnrf-2遺伝子のmRNA発現レベルを示すグラフ。
【
図2】試験1における熱水抽出物処理時のnrf-2遺伝子のmRNA発現レベルを示すグラフ。
【
図3】試験2におけるアルコール抽出物処理時のsirt-1遺伝子のmRNA発現レベルを示すグラフ。
【
図4】試験2における熱水抽出物処理時のsirt-1遺伝子のmRNA発現レベルを示すグラフ。
【
図5】試験3におけるヘキサン抽出物処理時のMMP-1遺伝子のmRNA発現レベルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の組成物(以下、本組成物と記載する。)は、ノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0011】
[原料]
ノストック・ヴェルコスム(Nostoc verrucosum、和名:アシツキ)は、藍藻綱ネンジュモ目ネンジュモ科ネンジュモ属の藻体である。ノストック・ヴェルコスム(以下、上記藻体と記載する。)は、天然に自生する藻体であってもよいし、人工的に培養した藻体であってもよい。なお、安定供給が可能である点や品質保持が容易である点から、人工的に培養した藻体を用いることが工業的に好適である。
【0012】
本組成物に含有される上記抽出物は、上記藻体を原料として抽出処理を行うことにより得ることができる。
原料としての上記藻体は、採取したままの状態、採取後に破砕処理した状態、採取後に乾燥処理した状態、又は採取後に破砕処理及び乾燥処理した状態のいずれであってもよい。抽出処理時における効率化の観点から、上記藻体を破砕したものを原料として用いることが好ましい。
【0013】
[抽出物]
上記藻体から抽出物を抽出するための抽出溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、及び有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができる。上記有機溶媒としては、例えば、低級アルコール、ヘキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1~5のアルコールが挙げられる。
【0014】
有機溶媒としては、単独種を用いてもよいし、複数種を混合した混合溶媒を用いてもよい。抽出溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を用いる場合には、混合溶媒中における有機溶媒の含有量は、例えば、25体積%以上75体積%以下、40体積%以上60体積%以下である。また、抽出溶媒中に、添加剤、例えば、有機塩、無機塩、緩衝剤、及び乳化剤等が溶解されていてもよい。
【0015】
上記藻体から抽出物を抽出する抽出方法としては、公知の抽出方法、例えば冷却抽出、常温抽出、及び加熱抽出のいずれの方法を用いてもよい。また、抽出温度は溶媒の種類、抽出効率、成分の劣化等に応じ適宜設定できる。
【0016】
抽出操作としては、抽出溶媒中に原料である上記藻体を所定時間浸漬させることにより行われる。その際、抽出溶媒中における上記藻体の濃度は、注出溶媒の種類、抽出効率、抽出後の濃縮処理の効率等に応じ適宜設定できる。こうした抽出操作において、抽出効率を高めるべく、必要に応じて還流処理、攪拌処理、加圧処理、及び超音波処理等の処理をさらに行ってもよい。
【0017】
そして、抽出操作の後に固液分離操作が行われることで、抽出物としての抽出液と上記藻体の残渣とを分離する。固液分離操作の方法としては、例えば、ろ過や遠心分離等の公知の分離法を用いることができる。得られた抽出液は、必要に応じて濃縮又は乾燥処理を行ってもよい。
【0018】
抽出操作及び固液分離操作は、同一の上記藻体に対して一回のみ行ってもよいし、複数回行ってもよい。また、抽出操作を複数回行う場合、同一の抽出操作を繰り返し行ってもよいし、異なる抽出操作を組み合わせて行ってもよい。例えば、有機溶媒を用いた抽出操作及び固液分離操作を行った後、それらの操作が行われた上記藻体に対して水を用いた抽出操作を行ってもよい。異なる抽出操作を組み合わせて行った場合、各抽出操作により得られた抽出物は、混合して一つの抽出物として用いてもよいし、別々の異なる抽出物として用いてもよい。
【0019】
[作用及び適用分野]
本組成物を摂取することにより、nrf-2遺伝子、sirt-1遺伝子、及びMMP-1遺伝子から選ばれる少なくとも一種の細胞保護関連遺伝子の発現が促進又は抑制される。したがって、本組成物は、細胞保護関連遺伝子の発現の調整作用の発揮を目的とした発現調整用組成物として適用できる。また、本組成物は、細胞保護関連遺伝子の発現を調整することに基づいて細胞を保護する作用の発揮を目的とした細胞保護用組成物として適用できる。
【0020】
nrf-2(NF-E2 related factor-2)は、抗酸化遺伝子群の転写促進に関与する転写因子である。nrf-2遺伝子の転写を促進することによって、発癌、生活習慣病などを軽減させる効果があることが知られている。本組成物を摂取することにより、nrf-2遺伝子の発現が促進される。したがって、本組成物は、nrf-2遺伝子の発現を促進させる発現調整用組成物及び細胞保護用組成物として適用できる。
【0021】
本組成物を、nrf-2遺伝子の発現を促進させる発現調整用組成物及び細胞保護用組成物として適用する場合、上記抽出物は、メタノール等の低級アルコールを含む抽出溶媒を用いて抽出されたアルコール抽出物を含むことが好ましい。また、本組成物を、nrf-2遺伝子の発現を促進させる発現調整用組成物又は発現促進用組成物として適用する場合、上記抽出物は、熱水を用いて抽出された熱水抽出物を含むことが好ましい。これらの場合には、nrf-2遺伝子の発現を促進させる作用がより顕著に得られる。なお、上記熱水抽出物は、例えば、90℃以上の熱水を用いて抽出された抽出物である。
【0022】
sirt-1(Sirtuin-1)遺伝子は、老化や寿命の制御に関与する抗老化遺伝子である。sirt-1遺伝子の発現量の増加により寿命延長の効果があること、及び老化によってsirt-1遺伝子の発現量が低下することが知られている。本組成物を摂取することにより、sirt-1遺伝子の発現が促進される。したがって、本組成物は、sirt-1遺伝子の発現を促進させる発現調整用組成物及び細胞保護用組成物として適用できる。
【0023】
本組成物を、sirt-1遺伝子の発現を促進させる発現調整用組成物及び細胞保護用組成物として適用する場合、上記抽出物は、上記アルコール抽出物を含むことが好ましい。また、本組成物を、sirt-1遺伝子の発現を促進させる発現調整用組成物及び細胞保護用組成物として適用する場合、上記抽出物は、上記熱水抽出物を含むことが好ましい。これらの場合には、sirt-1遺伝子の発現を促進させる作用がより顕著に得られる。
【0024】
MMP-1(Matrix metalloproteinase-1)は、細胞外マトリックスの分解、特にコラーゲンの分解に関与するタンパク質分解酵素である。MMP-1は、ガン転移、しわ、たるみの形成に関与することが知られている。本組成物を摂取することにより、MMP-1遺伝子の発現が抑制される。したがって、本組成物は、MMP-1遺伝子の発現を抑制する発現調整用組成物及び細胞保護用組成物として適用できる。
【0025】
本組成物を、MMP-1遺伝子の発現を抑制する発現調整用組成物及び細胞保護用組成物として適用する場合、上記抽出物は、ヘキサンを含む抽出溶媒を用いて抽出されたヘキサン抽出物であることが好ましい。この場合には、MMP-1遺伝子の発現を抑制する作用がより顕著に得られる。
【0026】
[用途]
本組成物からなる発現調整用組成物及び細胞保護用組成物はそれぞれ、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品等の各分野に適用できる。
【0027】
飲食品としては、例えば、各種飲料類(果汁又は野菜汁入り飲料、清涼飲料、ミネラル飲料、スポーツドリンク、茶類飲料、コーヒー、炭酸飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品等)、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、各種菓子類が挙げられる。飲食品には、ペクチンやカラギーナンなどのゲル化剤、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の糖類・甘味料、香料等の食品添加剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を適宜含有させることができる。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用できる。
【0028】
医薬品、医薬部外品、化粧品として使用する場合の投与方法は特に限定されるものではない。具体的な投与方法としては、例えば、服用(経口摂取)による投与、血管内投与、経腸投与、経皮投与、腹腔内投与が挙げられる。また、医薬品、医薬部外品、化粧品として使用する場合の剤形は特に限定されるものではない。具体的な剤形としては、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤が挙げられる。また、添加剤として、例えば、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を含有してもよい。
【0029】
次に、上記実施形態の効果について説明する。
(1)発現調整用組成物及び細胞保護用組成物は、ノストック・ヴェルコスムの抽出物を有効成分として含有する。
【0030】
上記構成によれば、nrf-2遺伝子、sirt-1遺伝子、及びMMP-1遺伝子から選ばれる少なくとも一種の細胞保護関連遺伝子の発現を調整する効果が得られる。また、上記の細胞保護関連遺伝子の発現を調整することに基づいて細胞を保護する効果が得られる。
【0031】
(2)ノストック・ヴェルコスムの抽出物は、低級アルコールを含む抽出溶媒を用いて抽出されたアルコール抽出物、及び熱水抽出物の一方又は両方を含む。
上記構成によれば、nrf-2遺伝子の発現を促進させる効果が顕著に得られる。また、上記構成によれば、sirt-1遺伝子の発現の発現を促進させる効果が顕著に得られる。
【0032】
(3)ノストック・ヴェルコスムの抽出物は、ヘキサンを含む抽出溶媒を用いて抽出されたヘキサン抽出物を含む。
上記構成によれば、MMP-1遺伝子の発現を抑制する効果が顕著に得られる。
【0033】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・発現調整用組成物及び細胞保護用組成物は、それぞれの目的とする作用を損なわない範囲において、他の成分を含有していてもよい。
【0034】
・発現調整用組成物及び細胞保護用組成物の摂取量及び摂取期間は、特に限定されず、摂取者の身体機能の状態、年齢、性別、及びその他の条件を考慮し、適宜、決定される。
・発現調整用組成物及び細胞保護用組成物は、ヒトを対象として適用することができるのみならず、家畜等の飼養動物に対する飼料、薬剤等に適用してもよい。
【0035】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)ノストック・ヴェルコスムから抽出物を得る抽出工程を有する発現調整用組成物及び細胞保護用組成物の製造方法。
【0036】
[不可能・非実際的事情の説明]
本願の特許請求の範囲における「ノストック・ヴェルコスムの抽出物」の記載は、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(『不可能・非実際的事情』)が存在する」場合に該当する。
【0037】
ノストック・ヴェルコスムの構成成分には、抽出溶媒に溶出する成分が無数に含有されている。これらの無数の成分から細胞保護関連遺伝子の発現を調整する作用を有する有効成分を単離して、その構造を解析する作業には、著しく過大な経済的支出や時間を要する。また、製剤にあたって、特定の有効成分を単離精製した状態で含有させるのではなく、抽出物やその粗精製物の状態で含有させることは一般的に行われている。特に、生物由来の物質は、化学合成された物質と比較して、未精製状態や粗精製状態における安全性が高い傾向があり、未精製状態や粗精製状態で含有させることが積極的に行われている。
【0038】
したがって、技術の急速な進展と国際規模での競争の激しい特許取得の場面において、ノストック・ヴェルコスムの抽出物から、細胞保護関連遺伝子の発現を調整する作用を有する有効成分を単離して、その構造を解析する作業を出願人に要求することは余りにも酷である。よって、本願の特許請求の範囲における「ノストック・ヴェルコスムの抽出物」の記載については、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(『不可能・非実際的事情』)が存在する」場合に該当する。
【実施例0039】
以下に試験例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
[抽出物の調製]
ノストック・ヴェルコスムの乾燥粉体(10g)にヘキサン(2000mL)を加えて、室温にて60分間攪拌した。その後、遠心分離処理及びろ過処理により得られた液を減圧濃縮することにより、16.3mgの濃縮物を得た。得られた濃縮物をジメチルスルホキシドに溶解させることにより、固形分濃度100μg/mLのヘキサン抽出物を調製した。
【0040】
上記のヘキサンによる抽出処理後のろ過処理にて回収した固形分であるノストック・ヴェルコスムの残渣にメタノール(2000mL)を加えて、室温にて60分間攪拌した。その後、遠心分離処理及びろ過処理により得られた液を減圧濃縮することにより、999.7mgの濃縮物を得た。得られた濃縮物をジメチルスルホキシドに溶解させることにより、固形分濃度100μg/mLのメタノール抽出物を調製した。
【0041】
上記のメタノールによる抽出処理後のろ過処理にて回収した固形分であるノストック・ヴェルコスムの残渣に水(2000mL)を加えて、90~95℃にて60分間攪拌した。その後、遠心分離処理及びろ過処理により得られた液を減圧濃縮することにより、2350gの濃縮物を得た。得られた濃縮物を超純水に溶解させることにより、固形分濃度100μg/mLの熱水抽出物を調製した。
【0042】
[培地の調製]
高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM:シグマアルドリッチ社製D0822)に、熱不活化ウシ胎児血清を最終濃度10%、ペニシリンを最終濃度50units/mL、ストレプトマイシンを最終濃度50μg/mLとなるように添加し、これを後述する試験に用いる培地とした。
【0043】
[試験1:nrf-2遺伝子の発現レベルの測定]
nrf-2遺伝子の発現について、上記の抽出物を添加した場合の影響を評価した。
ヒトケラチノサイト由来HaCaT細胞を、2.0×105cells/60mm dishとなるように播種し、上記培地を用いて、37℃、5%CO2の条件下にて24時間、培養した。その後、培地を交換して、アルコール抽出物又は熱水抽出物を培地に添加した。アルコール抽出物は、最終濃度0~20μg/mLとなるように培地に添加した。最終濃度0μg/mLとするコントロールには、等量のジメチルスフホキシドを添加した。熱水抽出物は、最終濃度0~200μg/mLとなるように培地に添加した。最終濃度0μg/mLとするコントロールには、等量の超純水を添加した。
【0044】
37℃、5%CO2の条件下にて48時間、培養した後、培地を除去し、RNA抽出試薬(ニッポンジーン社製ISOGEN2)を用いて細胞を溶解し、全RNAを抽出した。そして、RT-PCR用キット(タカラバイオ社製RNA PCR kit (AMV) Ver.3.0)を用いてcDNAを作成した。得られたcDNA、プライマー、PCR試薬(TOYOBO社製Thunderbird SYBR qPCR mix)を混合し、リアルタイムPCR反応を行った。2-ΔΔCt法を用いて、nrf-2遺伝子のmRNA発現量、及び内部標準としてのβ-actin遺伝子のmRNA発現量を測定した。
【0045】
なお、リアルタイムPCR反応には、リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社製Quant Studio 3)を用いた。リアルタイムPCR反応の反応条件は、95℃で10秒、60℃で30秒を1サイクルとして、計40サイクルとした。
【0046】
測定されたnrf-2遺伝子のmRNA発現量をβ-actin遺伝子のmRNA発現量で補正した。そして、抽出物を添加していない場合のnrf-2遺伝子のmRNA発現量の補正値を「1」としたnrf-2遺伝子のmRNA発現レベルを求めた。その結果を
図1及び
図2のグラフに示す。
【0047】
図1に示すように、アルコール抽出物を添加することによって、nrf-2遺伝子の発現レベルが約2倍に上昇した。また、
図2に示すように、熱水抽出物を添加することによって、nrf-2遺伝子の発現レベルが1.5倍以上に上昇した。これらの結果から、アルコール抽出物又は熱水抽出物を添加した場合には、nrf-2遺伝子の発現が促進されることが分かる。また、試験の詳細は省略するが、ヘキサン抽出物を添加した場合には、nrf-2遺伝子の発現レベルの変化は確認できなかった。
【0048】
[試験2:sirt-1遺伝子の発現レベルの測定]
sirt-1遺伝子の発現について、上記の抽出物を添加した場合の影響を評価した。
試験1で用いたプライマーをsirt-1遺伝子に対応するプライマーに変更して試験1と同様の試験を行うことにより、sirt-1遺伝子のmRNA発現レベルを求めた。その結果を
図3及び
図4のグラフに示す。
【0049】
図3のグラフに示すように、アルコール抽出物又は熱水抽出物を添加することによって、sirt-1遺伝子の発現レベルが1.5倍以上に上昇した。これらの結果から、アルコール抽出物又は熱水抽出物を添加した場合には、sirt-1遺伝子の発現が促進されることが分かる。また、試験の詳細は省略するが、ヘキサン抽出物を添加した場合には、sirt-1遺伝子の発現レベルの変化は確認できなかった。
【0050】
[試験3:MMP-1遺伝子の発現レベルの測定]
MMP-1遺伝子の発現について、上記の抽出物を添加した場合の影響を評価した。
試験1で用いたプライマーをMMP-1遺伝子に対応するプライマーに変更して試験1と同様の試験を行うことにより、MMP-1遺伝子のmRNA発現レベルを求めた。その結果を
図5のグラフに示す。なお、試験3では、上記の抽出物としてのヘキサン抽出物を最終濃度0~25μg/mLとなるように培地に添加した。最終濃度0μg/mLとするコントロールには、等量のジメチルスフホキシドを添加した。
【0051】
図5のグラフに示すように、ヘキサン抽出物を添加することによって、MMP-1遺伝子の発現レベルが10%以下まで減少した。この結果から、ヘキサン抽出物を添加した場合には、MMP-1遺伝子の発現が抑制されることが分かる。また、試験の詳細は省略するが、アルコール抽出物又は熱水抽出物を添加した場合には、MMP-1遺伝子の発現レベルの変化は確認できなかった。