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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119892
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】操船システム及び船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/46 20060101AFI20230822BHJP
   B63H 25/02 20060101ALI20230822BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B63H25/46
B63H25/02 B
B63H21/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023011
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】村山 卓弥
(57)【要約】
【課題】船舶の旋回時の乗り心地を改善する。
【解決手段】船舶1の操船システムは、ジェット推進機である船舶推進機4L,4Rと、船舶推進機4L,4Rにおける前進用噴射口19L,19Rの向きを変更するステアリング装置14のホイール部37と、前進用噴射口19L,19Rを開閉するリバースバケット10L,10Rと、ホイール部37の回転角度に応じて前進用噴射口19L,19Rの向きを変更するコントローラ21と、を備え、船舶1が低速航行モードに設定されている際、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θを超えると、リバースバケット10L,10Rが前進用噴射口19L,19Rを覆う量が減らされ、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θよりも大きいエンジン回転数上昇角度θを超えると、船舶推進機4L,4Rのエンジン3L,3Rの回転数が上昇される。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、
前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、
前記噴射口を開閉するリバースバケットと、
前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備える操船システムであって、
前記リバースバケットが前記噴射口の少なくとも一部を覆う状態において、前記ハンドル部の回転角度が第一の閾値を超えると、前記制御部は、前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減らす旋回補助制御を実行する、操船システム。
【請求項2】
前記旋回補助制御では、前記制御部が前記噴射口を全く覆わないように前記リバースバケットを移動させる、請求項1に記載の操船システム。
【請求項3】
前記旋回補助制御において、前記制御部は、前記ハンドル部の回転角度が増加するほど前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減少させる、請求項1に記載の操船システム。
【請求項4】
前記ジェット推進機は水流を生じさせる動力源を有し、
前記推進力は前記動力源が有する回転体の回転数が上昇すると増加し、
前記旋回補助制御において、前記ハンドル部の回転角度が前記第一の閾値よりも大きい第二の閾値を超えると、前記制御部は前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項5】
前記旋回補助制御において、前記ハンドル部の回転角度が前記第二の閾値を超えると、前記制御部は、前記ハンドル部の回転角度が増加するほど前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる、請求項4に記載の操船システム。
【請求項6】
前記旋回補助制御において、前記制御部は、前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる際、前記回転数を前記動力源が有する回転体の最大回転数まで上昇させない、請求項4又は5に記載の操船システム。
【請求項7】
前記ジェット推進機は水流を生じさせる動力源を有し、
前記推進力は前記動力源が有する回転体の回転数が上昇すると増加し、
前記旋回補助制御において、前記ハンドル部の回転角度が前記第一の閾値を超えると、前記制御部は、前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減らすとともに前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる、請求項1に記載の操船システム。
【請求項8】
前記制御部は、船舶が前進する際に前記旋回補助制御を実行する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の操船システム。
【請求項9】
水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、
前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、
前記噴射口を開閉するリバースバケットと、
前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備える操船システムであって、
船舶が低速航行モードに移行した状態において、前記ハンドル部の回転角度が第一の閾値を超えると、前記制御部は、前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減らす、操船システム。
【請求項10】
前記低速航行モードでは、前記リバースバケットの移動範囲が所定の範囲に制限されている、請求項9に記載の操船システム。
【請求項11】
前記ジェット推進機は水流を生じさせる動力源を有し、
前記推進力は前記動力源が有する回転体の回転数が上昇すると増加し、
前記船舶が前記低速航行モードに移行した状態において、前記ハンドル部の回転角度が前記第一の閾値よりも大きい第二の閾値を超えると、前記制御部は前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる、請求項9又は10に記載の操船システム。
【請求項12】
前記低速航行モードでは、前記動力源が有する回転体の回転数の上限が最大回転数とは異なる所定の回転数に設定されている、請求項11に記載の操船システム。
【請求項13】
水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、
前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、
前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備える操船システムであって、
前記ジェット推進機は水流を生じさせる動力源を有し、
前記推進力は前記動力源が有する回転体の回転数が上昇すると増加し、
前記ハンドル部の回転角度が所定の閾値を超えると、前記制御部は前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる、操船システム。
【請求項14】
前記ハンドル部の回転角度が前記所定の閾値を超えると、前記制御部は、前記ハンドル部の回転角度が増加するほど前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる、請求項13に記載の操船システム。
【請求項15】
複数の前記動力源を備え、
前記制御部は、船舶の速度に応じて、前記ハンドル部の回転角度が前記所定の閾値を超えたときに回転数を上昇させる前記ジェット推進機の数を変更する、請求項13又は14に記載の操船システム。
【請求項16】
水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、
前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、
前記噴射口を開閉するリバースバケットと、
前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備える船舶であって、
前記リバースバケットが前記噴射口の少なくとも一部を覆う状態において、前記ハンドル部の回転角度が第一の閾値を超えると、前記制御部は、前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減らす旋回補助制御を実行する、船舶。
【請求項17】
水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、
前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、
前記噴射口を開閉するリバースバケットと、
前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備える船舶であって、
船舶が低速航行モードに移行した状態において、前記ハンドル部の回転角度が第一の閾値を超えると、前記制御部は、前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減らす、船舶。
【請求項18】
水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、
前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、
前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備える船舶であって、
前記ジェット推進機は水流を生じさせる動力源を有し、
前記推進力は前記動力源が有する回転体の回転数が上昇すると増加し、
前記ハンドル部の回転角度が所定の閾値を超えると、前記制御部は前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる、船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェット推進機を備える操船システム及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船体の後方へ向けて水をノズルから噴射し、その反動で前進方向への推進力を得るジェット推進機を備える比較的小型の船舶が知られている。このような船舶にはジェット推進機が左右の両舷に配置されるものがあり、各ジェット推進機が噴射する水(噴流)の方向をノズルに取り付けられたデフレクタによって左方向又は右方向へ変更することでヨーモーメントを生じさせ、このヨーモーメントによって船舶は進行方向を左方向又は右方向へ変更する。また、ジェット推進機にはリバースバケットが設けられ、リバースバケットはデフレクタを覆うことによってノズルからの噴流の向きを船体の前方へ変更し、これにより、ジェット推進機は後進方向への推進力を得る。
【0003】
ところで、ヨーモーメントは噴流の反動で生じる推進力に依存するため、推進力が小さい場合、すなわち、船速が低い場合には、ヨーモーメントが小さくなり、船舶の旋回性が低下する。そこで、船速が低い場合、一方のジェット推進機の噴流の方向をデフレクタによって左方向又は右方向へ変更するとともに、他方のジェット推進機の噴流の方向をリバースバケットによって前方へ変更することにより、船体に作用するヨーモーメントを高め、船舶の旋回性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-11178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、2つのジェット推進機のうち一方のジェット推進機の推進力の作用方向が後進方向へ変更される。また、噴流の方向を前方へ変更するためにリバースバケットがデフレクタを覆うように移動する際には、一旦、噴流を停止する必要があり、推進力の発生が途切れる。すなわち、特許文献1に記載の技術では、船舶の旋回時において、乗船者が感じる減速感が大きくなる。したがって、船舶の旋回時の乗り心地には改善の余地がある。
【0006】
本発明は、船舶の旋回時の乗り心地を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一態様による操船システム及び船舶は、水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、前記噴射口を開閉するリバースバケットと、前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備え、前記リバースバケットが前記噴射口の少なくとも一部を覆う状態において、前記ハンドル部の回転角度が第一の閾値を超えると、前記制御部は、前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減らす旋回補助制御を実行する。
【0008】
また、この発明の一態様による操船システム及び船舶は、水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、前記噴射口を開閉するリバースバケットと、前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備え、船舶が低速航行モードに移行した状態において、前記ハンドル部の回転角度が第一の閾値を超えると、前記制御部は、前記リバースバケットが前記噴射口を覆う量を減らす。
【0009】
さらに、この発明の一態様による操船システム及び船舶は、水流を噴射口から噴出し、反動で推進力を得るジェット推進機と、前記噴射口の向きを変更するためのハンドル部と、前記ハンドル部の回転角度に応じて前記噴射口の向きを変更する制御部と、を備え、前記ジェット推進機は水流を生じさせる動力源を有し、前記推進力は前記動力源が有する回転体の回転数が上昇すると増加し、前記ハンドル部の回転角度が所定の閾値を超えると、前記制御部は前記動力源が有する回転体の回転数を上昇させる。
【0010】
この構成によれば、リバースバケットが水流を噴出する噴射口の少なくとも一部を覆う状態又は船舶が低速航行モードに移行した状態において、ハンドル部の回転角度が第一の閾値を超えると、リバースバケットが噴射口を覆う量が減らされ、若しくは、ハンドル部の回転角度が所定の閾値を超えると、動力源が有する回転体の回転数が上昇されるため、ハンドル部の回転角度に応じて向きが変更された噴射口から噴出する水流が増加して推進力が増加する。その結果、推進力の船体の左右方向に関する分力も増加してヨーモーメントが増す。すなわち、船体を旋回させるためのヨーモーメントを増すために、一方のジェット推進機の推進力の作用方向を後進方向へ変更する必要がないため、乗船者が感じる減速感を低減することができ、もって、船舶の旋回時の乗り心地を改善することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、船舶の旋回時の乗り心地を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る船舶の平面図である。
図2】第1の実施の形態に係る船舶の側面図である。
図3】第1の実施の形態における船舶推進機の構成を説明するための図である。
図4】第1の実施の形態に係る操船システムを有する船舶の制御系のブロック図である。
図5】スロットルレバーの操作に応じた船舶推進機におけるリバースバケットの回動について説明するための図である。
図6】第1の実施の形態におけるステアリング装置の構成を説明するための図である。
図7】ジェット推進艇である船舶の進行方向の変更について説明するための図である。
図8】第1の実施の形態で実行される旋回補助制御を説明するための図である。
図9】第1の実施の形態の旋回補助制御におけるホイール部の回転角度、バケット開度及びエンジンの回転数の関係を示すグラフである。
図10】第1の実施の形態の旋回補助制御の第1の変形例におけるホイール部の回転角度、バケット開度及びエンジンの回転数の関係を示すグラフである。
図11】第1の実施の形態の旋回補助制御の第2の変形例におけるホイール部の回転角度、バケット開度及びエンジンの回転数の関係を示すグラフである。
図12】第1の実施の形態におけるステアリング装置の変形例の構成を説明するための図である。
図13】本発明の第2の実施の形態で実行される旋回補助制御を説明するための図である。
図14】第2の実施の形態の旋回補助制御におけるホイール部の回転角度及びエンジンの回転数の関係を示すグラフである。
図15】第2の実施の形態の旋回補助制御の変形例におけるホイール部の回転角度及びエンジンの回転数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る船舶の平面図である。この船舶1に、第1の実施の形態に係る操船システムが適用される。図1では、船舶1の内部の構成の一部が示される。図2は、船舶1の側面図である。船舶1は、一例としてのジェット推進艇であり、ジェットボート又はスポーツボートと呼ばれるタイプの船である。
【0015】
船舶1は、船体2と、エンジン3L,3R(動力源)と、船舶推進機4L,4Rとを有する。船体2は、デッキ11とハル12とを有する。ハル12はデッキ11の下方に配置される。デッキ11には操船席13が配置される。また、操船席13には、船舶1の進行方向を左右に変更するためのステアリング装置14と、船舶1の進行方向や速度を制御するためのリモコンユニット15とが配置される。
【0016】
エンジン3Lは船体2の左舷側に配置され、エンジン3Rは船体2の右舷側に配置される。また、船舶推進機4Lはエンジン3Lに対応するように船体2の左舷側に配置され、船舶推進機4Rはエンジン3Rに対応するように船体2の右舷側に配置される。エンジン3Lの出力軸は船舶推進機4Lに接続され、エンジン3Rの出力軸は船舶推進機4Rに接続される。船舶推進機4L,4Rは、それぞれエンジン3L,3Rによって駆動され、船体2を移動させる推進力を発生させる。船舶1において、エンジンの数は2つに限らず、3つ以上であってもよく、また、船舶推進機の数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。なお、以降の説明において、符号の「L」が船体2の左舷側に配置されることを示し、符号の「R」が船体2の右舷側に配置されることを示す。
【0017】
図3は、船舶推進機4Lの構成を説明するための図であり、図3(A)は模式的側面図であり、図3(B)は船舶推進機4Lが有するデフレクタ9Lの断面図である。図3(A)では船舶推進機4Lの一部が断面で示される。船舶推進機4Lは、船体2のまわりの水を吸い込み、その水を船体2の後方に向けて噴射するジェット推進機である。図中の左方向が船体2の前方向に該当し、図中の右方向が船体2の後方向に該当する。また、図中の奥行き方向が船体2の右方向に該当し、図中の手前方向が船体2の左方向に該当する。なお、船舶推進機4Rは、船舶推進機4Lと同様の構成を有するため、その構成の説明を省略する。
【0018】
図3(A)に示すように、船舶推進機4Lは、インペラシャフト5Lと、インペラ6Lと、インペラハウジング7Lと、ノズル8Lと、デフレクタ9Lと、リバースバケット10Lと、水吸引部16Lとを有する。インペラシャフト5Lは船体2の前後方向に延びるように配置される。インペラシャフト5Lの前部は、カップリング17Lを介してエンジン3Lの出力軸に接続される。インペラシャフト5Lの後部はインペラハウジング7L内に配置され、インペラハウジング7Lは開口部である水吸引部16Lの後方に配置される。ノズル8Lはインペラハウジング7Lの後方に配置される。
【0019】
インペラ6Lは、インペラシャフト5Lの後部に取り付けられてインペラハウジング7L内に配置される。インペラ6Lは、回転軸線CLのまわりに放射状に配置された複数の羽根(図示せず)を有し、インペラシャフト5Lとともに回転して、水吸引部16Lから水を吸引する。インペラ6Lは、吸引した水をノズル8Lの噴射口から後方に噴射させる。
【0020】
デフレクタ9Lはノズル8Lの後方に配置され、ノズル8Lから噴射された水の噴射方向を船体2に関して左右方向に転換する。また、デフレクタ9Lは中空状に形成されるケース状体であり、船体2の前方に向けて開口し、ノズル8Lの噴射口を収容する水流導入口18Lと、船体2の後方に向けて開口した前進用噴射口19Lと、船体2の前方に向けて開口した後進用噴射口20Lとを有する。
【0021】
前進用噴射口19Lは、例えば、円筒状に形成され、後進用噴射口20Lは、例えば、断面矩形の管状に形成され、図3(B)に示すように、水流導入口18L、前進用噴射口19L及び後進用噴射口20Lは互いに連通する。デフレクタ9Lでは、ノズル8Lの噴射口から噴射された水が水流導入口18Lへ導入され、後述のリバースバケット10Lの位置に応じて、導入された水が前進用噴射口19Lから船体2の後方へ向けて噴射され、若しくは、後進用噴射口20Lから船体2の前方へ向けて噴射される。
【0022】
デフレクタ9Lは、船体2の上下方向に延伸する回動軸線DL回りに船体2に関して左右に回動可能となるように、ノズル8Lへ取り付けられる。また、デフレクタ9Lにはステアリングアクチュエータ22L(後述する)が接続され、ステアリング装置14のホイール部37(後述する)の回転操作に応じてステアリングアクチュエータ22Lがデフレクタ9Lの向きを左右方向に変更する。これにより、デフレクタ9Lは、前進用噴射口19Lや後進用噴射口20Lから噴射される水の方向を左右に変更することができ、結果として、船舶1の進行方向を変更することができる。
【0023】
リバースバケット10Lはデフレクタ9Lの後方に配置される。また、リバースバケット10Lは、船体2の左右方向に延伸する回動軸線EL回りに船体2に関して上下に回動可能となるように、デフレクタ9Lへ取り付けられる。なお、リバースバケット10Lは、デフレクタ9Lへ取り付けられるため、デフレクタ9Lとともに左右に回動可能である。
【0024】
リバースバケット10Lは、全開位置と全閉位置の間で上下に回動可能である。全開位置は、リバースバケット10Lがデフレクタ9Lの前進用噴射口19Lよりも上方に退避したときの位置である。この全開位置が図3(A)に実線で示される。リバースバケット10Lが全開位置に位置する場合、前進用噴射口19Lを船体2の後方から眺めると、リバースバケット10Lは前進用噴射口19Lを全く覆わない。一方、全閉位置は、リバースバケット10Lがデフレクタ9Lの前進用噴射口19Lに対向するときの位置である。この全閉位置が図3(A)に二点鎖線で示される。リバースバケット10Lが全閉位置に位置する場合、前進用噴射口19Lを船体2の後方から眺めると、リバースバケット10Lは前進用噴射口19Lの全体を覆う。このとき、前進用噴射口19Lから水は噴射されなくなるため、後進用噴射口20Lから前方に向けて水が噴射される。すなわち、リバースバケット10Lは、ノズル8Lからデフレクタ9Lを経由して後方へ噴射された水の流れの方向を前方へ変更する。そして、後進用噴射口20Lは前下方に向けて開口するため、実際には、後進用噴射口20Lから水が前下方に向けて噴射されるが、この噴射される水の反動で生じる推進力の後方向の成分が船舶1を後方へ移動させる。
【0025】
なお、前進用噴射口19Lは下方や上方を指向すること無く、噴射される水の方向が船体2の前後方向と平行となるように後方へ向けて開口するが、前進用噴射口19Lは後方且つ下方に向けて開口してもよい。また、後進用噴射口20Lは前下方に向けて開口するが、後進用噴射口20Lが下方や上方を指向すること無く、噴射される水の方向が船体2の前後方向と平行となるように前方へ向けて開口してもよい。
【0026】
次に、船舶1の制御系について説明する。図4は、本実施の形態に係る操船システムを有する船舶1の制御系のブロック図である。
【0027】
図4において、操船システムは、ステアリング装置14と、リモコンユニット15と、コントローラ21(制御部)とを有する。コントローラ21は、CPU等の演算装置と、RAM,ROM等の記憶装置を有し(図示せず)、記憶されたプログラムを実行して船舶1を制御する。コントローラ21は、単一のコントロールユニットによって構成されてもよく、複数のコントロールユニットによって構成されてもよい。コントローラ21は、ステアリング装置14と通信可能に接続される。
【0028】
また、船舶1の操船システムは、ステアリングアクチュエータ22Lとシフトアクチュエータ23Lを有する。コントローラ21は、エンジン3L、ステアリングアクチュエータ22L及びシフトアクチュエータ23Lと通信可能に接続される。ステアリングアクチュエータ22Lは、船舶推進機4Lのデフレクタ9Lに接続され、デフレクタ9Lを回動軸線DL回りに回動させる。ステアリングアクチュエータ22Lは、例えば、電動モータや油圧シリンダ等の他のアクチュエータからなる。シフトアクチュエータ23Lは、船舶推進機4Lのリバースバケット10Lに接続される。シフトアクチュエータ23Lは前後に移動することにより、リバースバケット10Lを全開位置と全閉位置の間で上下に回動させる。シフトアクチュエータ23Lは、例えば、電動モータや油圧シリンダ等の他のアクチュエータからなる。
【0029】
さらに、船舶1の操船システムは、ステアリングアクチュエータ22Rとシフトアクチュエータ23Rを有する。コントローラ21は、エンジン3R、ステアリングアクチュエータ22R及びシフトアクチュエータ23Rと通信可能に接続される。ステアリングアクチュエータ22Rやシフトアクチュエータ23Rは、それぞれステアリングアクチュエータ22Lやシフトアクチュエータ23Lと同様の構成、機能を有する。
【0030】
リモコンユニット15は、スロットルレバー15Lとスロットルレバー15Rを有する。スロットルレバー15Lとスロットルレバー15Rは、それぞれゼロ操作位置(ニュートラル位置)から前進方向と後進方向のそれぞれに向けて移動操作可能である。
【0031】
コントローラ21は、スロットルレバー15Lやスロットルレバー15Rの操作量をリモコンユニット15のセンサを用いて検知し、スロットルレバー15L,15Rのそれぞれの操作量に応じてエンジン3L,3Rのそれぞれのクランクシャフト(回転体)の回転数を制御する。エンジン3L,3Rのクランクシャフトの回転数(以下、「エンジン3L,3Rの回転数」と略す)が上昇すると、インペラ6L,6Rの回転数も上昇してノズル8Lの噴射口から噴射される水の量が増加し、結果として、デフレクタ9L,9Rの前進用噴射口19L,19Rから噴射される水の反動で生じる推進力が増加する。これにより、船舶1の速度が調整される。
【0032】
また、コントローラ21は、スロットルレバー15L,15Rのそれぞれの操作量、操作方向に応じてシフトアクチュエータ23L,23Rのそれぞれを制御してリバースバケット10L,10Rのそれぞれを全開位置と全閉位置の間で上下に回動させる。これにより、船舶1の前後進が切り換えられる。なお、スロットルレバー15L,15Rの操作に応じたリバースバケット10L,10Rの回動については後ほど詳細に説明する。
【0033】
さらに、船舶1の操船システムは、表示部24及び設定操作部25を有する。表示部24はディスプレイを備え、コントローラ21からの指示に基づき各種情報を表示する。設定操作部25は、操船者が操作する操作子の他、各種設定を行うための設定操作子や各種指示を入力するための入力操作子を有する(いずれも図示せず)。設定操作部25で入力された信号はコントローラ21に送信される。
【0034】
また、操船システムにおいて、ステアリング装置14は、左横移動スイッチ26、右横移動スイッチ27、その場回頭スイッチ28、RPM調整スイッチ29、左パドル部30、右パドル部31、有効/無効切替スイッチ32、左押付スイッチ33及び右押付スイッチ34を有する。これらは操船者によって操作され、操作信号がコントローラ21に供給される。各スイッチやパドル部の機能や配置については後述する。
【0035】
ここで、船舶1における各種の操船モードについて説明する。操船モードには、大別して「高速航行モード」と「低速航行モード」がある。低速航行モードには、「横推力発生モード」と「その場回頭モード」が含まれる。横推力発生モードには、「横移動モード」と「押し付けモード」がある。詳細には、横移動モードには、左横移動モードと右横移動モードがあり、押し付けモードには、左押し付けモードと右押し付けモードがある。
【0036】
高速航行モードは、外洋において船舶1を比較的高速で航行させるために用いられるモードである。高速航行モードでは、各エンジン3L,3Rの回転数が最大回転数まで許容される。また、高速航行モードでは、リバースバケット10Lが、全開位置に位置して前進用噴射口19Lを全く覆わない。
【0037】
低速航行モードは、港湾内の移動や釣りを行う際に船舶1を比較的低速で航行させるために用いられるモードである。低速航行モードでは、各エンジン3L,3Rの回転数の上限が最大回転数よりも低い所定の回転数に制限される。また、低速航行モードでは、リバースバケット10Lが、全開位置と全閉位置の間に位置して前進用噴射口19Lの少なくとも一部を覆う。
【0038】
高速航行モードと低速航行モードの切り替えは、有効/無効切替スイッチ32の操作に応じて行われる。例えば、操船者が有効/無効切替スイッチ32を操作すると、有効/無効切替スイッチ32はその旨を知らせる操作信号をコントローラ21へ送信し、操作信号を受信したコントローラ21は、エンジン3L,3Rを制御することにより、高速航行モードと低速航行モードの切り替えを行う。なお、本実施の形態では、有効/無効切替スイッチ32が操作される度に高速航行モードと低速航行モードが切り替わる。
【0039】
図5は、スロットルレバー15Lの操作に応じた船舶推進機4Lにおけるリバースバケット10Lの回動について説明するための図である。なお、以降の説明において、前進用噴射口19Lを船体2の後方から眺めたときにリバースバケット10Lが前進用噴射口19Lを覆う量の指標として「バケット開度」を用いる。具体的に、全閉位置においてリバースバケット10Lが前進用噴射口19Lの全体を覆うときにバケット開度は0%となり、全開位置においてリバースバケット10Lが前進用噴射口19Lを全く覆わないときにバケット開度は100%となる。また、全閉位置と全開位置の間において、バケット開度はリバースバケット10Lの全回動角度範囲を100等分したときのリバースバケット10Lの回動角度の指標として表され、例えば、リバースバケット10Lが全閉位置と全開位置の中間に位置する場合、バケット開度は50%となる。また、図5(A)~図5(D)の各図において、左側にリバースバケット10Lの断面図を簡略的に示し、右側にリバースバケット10Lを船体2の後方から眺めたときの様子を簡略的に示す。
【0040】
図5(A)は、操船者がスロットルレバー15Lを後進方向に移動させた場合を示す。この場合、リバースバケット10Lは下方へ回動して全閉位置へ移動し、前進用噴射口19Lを船体2の後方から眺めたときに、前進用噴射口19Lの全体を覆う。すなわち、バケット開度は0%である。このとき、デフレクタ9は、後進用噴射口20Lから船体2の前下方に向けて水を噴射する一方、船体2の後方へ水を全く噴射しない。したがって、船舶1は後方へ移動(後進)する。
【0041】
図5(B)は、操船者がスロットルレバー15Lをニュートラル位置へ移動させた場合を示す。この場合、リバースバケット10Lは全閉位置からやや上方へ回動し、前進用噴射口19Lを船体2の後方から眺めたときに、前進用噴射口19Lの一部を露出させる。このときのバケット開度は35%であり、この例では、前進用噴射口19Lの開口面積の65%がリバースバケット10Lによって覆われる。このとき、前進用噴射口19Lにおいてリバースバケット10Lに覆われていない領域から船体2の後方に向けて水が噴射される。また、後進用噴射口20Lからも船体2の前下方に向けて水が噴射される。船体2の前下方へ噴射される水の量は、バケット開度が0%のときよりも少なく、船体2の後方及び前下方のそれぞれへ向けて噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力と後進方向の推進力がほぼ均衡する。これにより、スロットルレバー15Lがニュートラル位置に位置する場合、船体2の位置がその場に保持される。
【0042】
図5(C)は、低速航行モードにおいて、操船者がスロットルレバー15Lを前進方向に移動させた場合を示す。この場合、リバースバケット10Lは、バケット開度が35%のとき(すなわち、スロットルレバー15Lをニュートラル位置に移動させたとき)よりも、さらに上方へ回動し、前進用噴射口19Lを船体2の後方から眺めたときに、前進用噴射口19Lの一部を覆う。このときのバケット開度は、例えば、70%であり、この例では、前進用噴射口19Lの開口面積の30%がリバースバケット10Lによって覆われる。また、このときも、前進用噴射口19Lにおいてリバースバケット10Lに覆われていない領域から船体2の後方に向けて水が噴射され、後進用噴射口20Lから船体2の前下方に向けて水が噴射されるが、船体2の後方へ噴射される水の量はバケット開度が35%のときよりも増加し、船体2の前下方へ噴射される水の量はバケット開度が35%のときよりも減少する。したがって、船体2の後方へ向けて噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力が、船体2の前下方へ向けて噴射される水の反動で生じる後進方向の推進力を上回る。これにより、低速航行モードにおいて、スロットルレバー15Lが前進方向に移動されると、船舶1は比較的低速で前方に移動(前進)する。
【0043】
なお、低速航行モードでは、通常、バケット開度(リバースバケット10Lの移動範囲)が、所定の範囲、例えば、70%までの範囲に制限されるため、バケット開度が100%となること、すなわち、リバースバケット10Lが前進用噴射口19Lを全く覆わなくなることは無い。
【0044】
図5(D)は、高速航行モードにおいて、操船者がスロットルレバー15Lを前進方向に移動させた場合を示す。この場合、リバースバケット10Lは、全開位置まで上方へ回動し、前進用噴射口19Lを船体2の後方から眺めたときに、前進用噴射口19Lを全く覆わない。すなわち、バケット開度は100%となる。このとき、水流導入口18Lへ導入された水は殆ど前進用噴射口19Lから船体2の後方に向けて噴射され、後進用噴射口20Lから船体2の前下方に向けて殆ど水が噴射されない。したがって、船体2には、船体2の後方へ向けて噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力のみが作用し、これにより、高速航行モードにおいて、スロットルレバー15Lが前進方向に移動されると、船舶1は比較的高速で前方に移動(前進)する。
【0045】
また、船舶推進機4Rにおいても、リバースバケット10Rはスロットルレバー15Rの操作に応じて、リバースバケット10Lと同様に回動するため、リバースバケット10Rの動作の説明を省略する。
【0046】
図6は、ステアリング装置14の構成を説明するための図であり、ステアリング装置14を操船者側から真向かいに眺めた場合を示す。なお、図6の上下方向及び左右方向は、船舶1の上下方向及び左右方向と一致し、図の奥行き側が船舶1の船首側であり、図の手前側が船舶1の船尾側である。
【0047】
図6において、ステアリング装置14は、コラム部(図示せず)に対して回転支点35を中心に回転可能に支持された中央部36と、円環状のホイール部37(ハンドル部)と、中央部36及びホイール部37を接続する、例えば、3つのスポーク部38~40とを有する。
【0048】
ステアリング装置14において、スポーク部38は、ホイール部37が船舶1を直進させる位置にあるとき、すなわち、ホイール部37の回転角度が0°である(以下、「直進状態」という。)とき、回転支点35を通り左右方向に平行な仮想面41より下に位置し、回転支点35から延長下方に延伸する。また、スポーク部39は、ホイール部37が直進状態にあるとき、仮想面41より上に位置し、且つ、回転支点35を中心とする円周方向において仮想面41に対して時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように、好ましくは、仮想面41に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように、中央部36から延伸する。さらに、スポーク部40は、ホイール部37が直進状態にあるとき、仮想面41より上に位置し、且つ、回転支点35を中心とする円周方向において仮想面41に対して反時計回りに0°以上且つ60°以下の角度を成すように、好ましくは、仮想面41に対して時計回りに20°以上且つ40°以下の角度を成すように、中央部36から延伸する。
【0049】
ステアリング装置14では、スポーク部39に、左横移動スイッチ26、左押付スイッチ33及びその場回頭スイッチ28が配置される。また、スポーク部40に、右横移動スイッチ27、右押付スイッチ34及びRPM調整スイッチ29が配置される。さらに、スポーク部38に有効/無効切替スイッチ32が配置される。
【0050】
左パドル部30は、操船者から眺めたときに、スポーク部39に重なるように、スポーク部39よりも船首側に配置される。右パドル部31は、操船者から眺めたときに、スポーク部40に重なるように、スポーク部40よりも船首側に配置される。また、左パドル部30及び右パドル部31は、前後方向に回動自在であり、左パドル部30及び右パドル部31は、操船者が操作することで初期位置に対して手前(船体2の後方)に回動し、操作する手を離すと初期位置に復帰する。左パドル部30及び右パドル部31は、回転支点35を中心にホイール部37と一体に回転する。
【0051】
高速航行モードにおいて、コントローラ21は、ホイール部37の回転操作に応じて、船舶1の進行方向を変更する。ステアリング装置14は、ホイール部37の操作位置を示す操作信号をコントローラ21に出力する。コントローラ21は、ホイール部37の操作に応じてステアリングアクチュエータ22L,22Rを制御する。すなわち、コントローラ21は、ホイール部37の回転角度に応じてリバースバケット10L、10Rの前進用噴射口19L,19Rや後進用噴射口20L,20Rの向きを変更する。また、低速航行モードにおいて、コントローラ21は、スイッチ26~29,33,34の操作信号やパドル部30,31の操作信号に基づいて、船舶推進機4L,4Rを制御する。
【0052】
左パドル部30や右パドル部31はそれぞれ、後方、前方への推進力を船体2に対して付与するように指示するための操作子である。コントローラ21は、低速航行モードにおいて、左パドル部30や右パドル部31の操作量に応じた推進力を船体2に作用させる。このとき、コントローラ21は、左パドル部30や右パドル部31の操作量に応じてエンジン3L,3Rの回転数を変動させる。また、スイッチ26~29,33,34やパドル部30,31の機能は、低速航行モードにおいて有効となる。
【0053】
左横移動スイッチ26、右横移動スイッチ27、左押付スイッチ33や右押付スイッチ34は、横推力発生モードの実施を指示するためのモードスイッチである。特に、左横移動スイッチ26や右横移動スイッチ27は、横移動モードの実施を指示するためスイッチ群であり、操作されている間中に船体2に対し横方向への推進力を発生させ続けるためのスイッチである。コントローラ21は、左横移動スイッチ26や右横移動スイッチ27への操作入力に応じて船舶推進機4L,4Rを制御し、横移動モードを実施する。
【0054】
左押付スイッチ33や右押付スイッチ34は、押し付けモードの実施を指示するためのスイッチ群であり、操作されたことに応じて船体2に対し横方向への推進力を発生させるためのスイッチである。コントローラ21は、左押付スイッチ33や右押付スイッチ34への操作入力に応じて船舶推進機4L,4Rを制御し、押し付けモードを実施する。
【0055】
RPM調整スイッチ29は、エンジン3L,3Rの回転数を少なくとも2段階(例えば、ローとハイ)に切り替える。エンジン3L,3Rの回転数の切り替えは、低速航行モードにおける各モードに適用される。切り替え可能なエンジン3L,3Rの回転数の段階は、モードごとに予め設定される。
【0056】
有効/無効切替スイッチ32は、操作に応じて高速航行モードと低速航行モードの切り替えを行うためのスイッチである。したがって、有効/無効切替スイッチ32は、低速航行モードにおいて有効となるスイッチ26~29,33,34やパドル部30,31の機能の有効/無効を切り替えるスイッチである。
【0057】
また、ステアリング装置14では、高速航行モードにおけるホイール部37の操作可能な回転角が比較的大きな回転角θに設定され、高速航行モードにおいて、ホイール部37は直進状態から、図中の時計回り及び反時計回りのそれぞれに関し、例えば、135°まで回転操作可能に設定される。一方、低速航行モードにおけるホイール部37の操作可能な回転角は比較的小さな回転角θに設定され、低速航行モードにおいて、ホイール部37は直進状態から、図中の時計回り及び反時計回りのそれぞれに関し、例えば、67.5°まで回転操作可能に設定される。
【0058】
図7は、ジェット推進艇である船舶1の進行方向の変更について説明するための図である。まず、ホイール部37が回転操作されずに直進状態にある場合、コントローラ21はステアリングアクチュエータ22L,22Rを作動させず、デフレクタ9L,9Rの向きを変更しないため、前進用噴射口19L,19Rから噴射される水の方向が左右に変更されず、図7(A)に示すように、噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力Fは船体2の前後方向と平行に作用し、これにより、船舶1は前方へ直進する(図中の白抜き矢印参照)。
【0059】
一方、ホイール部37が反時計回りに回転操作される場合、コントローラ21はステアリングアクチュエータ22L,22Rを作動させてデフレクタ9L,9Rの向きを変更する。具体的には、前進用噴射口19L,19Rが左後方を指向するように、デフレクタ9L,9Rを回動軸線DL回りに回動させる。このとき、前進用噴射口19L,19Rから噴射される水の方向も左後方に変更され、図7(B)に示すように、噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力Fは船体2に対して右斜め前方に作用し、推進力Fの船体2の右方向に関する分力f(以下、「右方向分力f」という。)が、船体2の重心回りに船体2を左へ回転させるヨーモーメントを生じさせる。これにより、船舶1の進行方向が左に変更される(図中の白抜き矢印参照)。
【0060】
なお、図7では、船舶1の進行方向が左に変更される場合について説明したが、船舶1の進行方向が右に変更される場合においても同様の処理が行われるため、船舶1の進行方向が右へ変更される場合についての説明を省略する。
【0061】
ところで、上述したように、ジェット推進艇では推進力Fの左右方向に関する分力に起因して生じるヨーモーメントによって進行方向が変更される(旋回する)ため、推進力Fが小さい場合、特に、低速航行モードにおいて、ヨーモーメントが小さくなり、旋回性において改善の余地がある。そこで、第1の実施の形態では、これに対応して、船舶1が低速航行モードで前進する際、所定の条件が満たされると、コントローラ21が、推進力Fを増加してヨーモーメントを大きくする旋回補助制御を実行して船舶1の旋回性を向上させる。そのために、ホイール部37の低速航行モードにおける回転操作可能な範囲に推進力Fが増加される領域が設けられる。具体的には、時計回り及び反時計回りのそれぞれに関し、ホイール部37の低速航行モードにおける回転操作可能な範囲に、バケット全開角度θ(第一の閾値)が設定され、さらに、エンジン回転数上昇角度θ(第二の閾値)が設定される。ここで、エンジン回転数上昇角度θは、バケット全開角度θよりも大きく、且つ低速航行モードにおける操作可能な回転角θよりも小さい。
【0062】
図8は、本実施の形態で実行される旋回補助制御を説明するための図である。なお、図中では、ホイール部37の回転角度を理解し易くするために、直進状態にあるホイール部37の12時方向を示す位置(以下、「基準位置」という。)42に黒線を付している。また、図8では、船舶1が低速航行モードに設定されてバケット開度が70%(図5(C))に設定され、ホイール部37が時計回りに回転操作されていることを前提とする。
【0063】
まず、図8(A)に示すように、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θ以下の場合、ホイール部37がさほど大きく回転操作されていないため、操船者の船舶1の進行方向を変更したいという意志がそこまで強くないと考えられる。したがって、特に、旋回性を向上させるために推進力Fは増加されない。具体的に、コントローラ21は、ホイール部37の回転操作に応じてステアリングアクチュエータ22L,22Rを作動させて、前進用噴射口19L,19Rが右後方を指向するようにデフレクタ9L,9Rの向きを変更するものの、バケット開度を低速航行モードにおける開度である70%のままに維持し、エンジン3L,3Rの回転数もスロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Aに維持する。したがって、前進用噴射口19L,19Rから船体2の後方へ噴射される水の量は特に増加せず、噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力Fも増加しないため、推進力Fの船体2の左方向に関する分力f(以下、「左方向分力f」という。)も増加しない。その結果、船体2を右へ旋回させるヨーモーメントも特に大きくはならず、船舶1の進行方向は緩やかに右へ変化する。
【0064】
一方、ホイール部37がさらに回転操作されて、図8(B)に示すように、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θよりも大きくなった場合、操船者の船舶1の進行方向を変更したいという意志が強くなったと考えられるため、旋回性を向上させるために推進力Fが増加される。具体的に、コントローラ21は、ホイール部37の回転操作に応じて前進用噴射口19L,19Rがさらに右後方を指向するようにデフレクタ9L,9Rの向きを変更するとともに、バケット開度を100%に変更し、シフトアクチュエータ23L,23Rを作動させてデフレクタ9L,9Rを全開位置まで上方へ回動させる。したがって、前進用噴射口19L,19Rから船体2の後方へ噴射される水の量が増加し、噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力Fも増加するため、左方向分力fが増加する。その結果、船体2を右へ旋回させるヨーモーメントが大きくなり、船舶1の進行方向は右へ勢いよく変化する。
【0065】
なお、ホイール部37の回転角度がエンジン回転数上昇角度θ以下であるうちは、コントローラ21はエンジン3L,3Rの回転数をスロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Aのままに維持する。
【0066】
さらに、ホイール部37が時計回りにさらに回転操作されて、図8(C)に示すように、ホイール部37の回転角度がエンジン回転数上昇角度θよりも大きくなった場合、操船者の船舶1の進行方向を変更したいという意志がさらに強くなったと考えられるため、旋回性をより向上させるために推進力Fがさらに増加される。具体的に、コントローラ21は、ホイール部37の回転操作に応じて前進用噴射口19L,19Rがより右後方を指向するようにデフレクタ9L,9Rの向きを変更するとともに、バケット開度を100%を維持したまま、エンジン3L,3Rの回転数をスロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Aよりも高い回転数Bまで上昇させる。これにより、前進用噴射口19L,19Rから船体2の後方へ噴射される水の量がさらに増加し、噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力Fもさらに増加するため、左方向分力fがより増加する。その結果、船体2を右へ旋回させるヨーモーメントがさらに大きくなり、船舶1の進行方向は右へさらに勢いよく変化する。
【0067】
なお、図8では、ホイール部37が時計回りに回転操作される場合について説明したが、ホイール部37が反時計回りに回転操作される場合も同様の処理が行われる。
【0068】
図9は、本実施の形態の旋回補助制御におけるホイール部37の回転角度、バケット開度及びエンジン3L,3Rの回転数の関係を示すグラフである。図9では、実線がバケット開度を示し、破線がエンジン3L,3Rの回転数を示す。
【0069】
図9に示すように、ホイール部37の回転角度が(時計回り及び反時計回りのいずれにおいても)、バケット全開角度θ以下の場合、バケット開度が70%のままに維持され、エンジン3L,3Rの回転数もスロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Aに維持される。
【0070】
その後、ホイール部37の回転角度が大きくなってバケット全開角度θを超えると、バケット開度が100%に変更される。そして、ホイール部37の回転角度がさらに大きくなってエンジン回転数上昇角度θを超えると、エンジン3L,3Rの回転数が、スロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Aよりも高い回転数Bまで上昇される。
【0071】
なお、船舶1は低速航行モードに設定されているため、上昇した回転数Bはエンジン3L,3Rの最大回転数Maxよりも低い。これにより、波を切る音や風の音が比較的小さくなる低速航行モードにおいて、エンジン3L,3Rの運転音が相対的に大きくなり、船舶1の乗船者が不快な思いをするのを避けることができる。
【0072】
また、本実施の形態では、低速航行モードでのみ、バケット全開角度θやエンジン回転数上昇角度θが設定され、高速航行モードではバケット全開角度θやエンジン回転数上昇角度θは設定されない。したがって、操船者は、船舶1の旋回性の向上を望まない場合、有効/無効切替スイッチ32を操作することにより、船舶1を高速航行モードへ移行させて、強制的にバケット全開角度θやエンジン回転数上昇角度θを消滅させることができる。
【0073】
本実施の形態によれば、船舶1が低速航行モードに移行してバケット開度が70%となった状態において、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θよりも大きくなった場合、バケット開度が100%に変更されてデフレクタ9L,9Rが全開位置まで回動し、さらに、ホイール部37の回転角度がエンジン回転数上昇角度θよりも大きくなった場合、エンジン3L,3Rの回転数が上昇される。その結果、ホイール部37の回転角度に応じて向きが変更されたデフレクタ9L,9Rの前進用噴射口19L,19Rから噴出する水の量が増加して前進方向の推進力Fが増加するため、推進力Fの右方向分力fや左方向分力fも増加して船体2の重心回りに回転させるヨーモーメントが増す。すなわち、船舶1を旋回させるためのヨーモーメントを増すために、船舶推進機4L,4Rのうちの一機の推進力Fの作用方向を後進方向へ変更する必要がないため、乗船者が感じる減速感を低減することができ、もって、船舶1の旋回時の乗り心地を改善することができる。
【0074】
また、本実施の形態では、推進力Fを増加させるために、エンジン3L,3Rの回転数の上昇よりも先にデフレクタ9L,9Rの上方への回動(バケット開度の増加)が行われる。したがって、操船者が船舶1の旋回性が向上することを期待してホイール部37の回転角度を増加させていく際に、いきなり、エンジン3L,3Rの運転音が大きくなるのを防ぐことができ、船舶1の乗船者が不快に思うのを避けることができる。
【0075】
本実施の形態では、図9に示すように、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θを超えると、バケット開度が70%から100%へ一気に増加され、ホイール部37の回転角度がエンジン回転数上昇角度θを超えると、エンジン3L,3Rの回転数が回転数Aから回転数Bへ一気に上昇される。しかしながら、バケット開度やエンジン3L,3Rの回転数は徐々に変更されてもよい。
【0076】
図10は、本実施の形態の旋回補助制御の第1の変形例におけるホイール部37の回転角度、バケット開度及びエンジン3L,3Rの回転数の関係を示すグラフである。図10でも、実線がバケット開度を示し、破線がエンジン3L,3Rの回転数を示す。
【0077】
例えば、図10(A)に示すように、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θを超えると、コントローラ21は、ホイール部37の回転角度が増加するほどバケット開度が大きくし(リバースバケット10L,10Rが前進用噴射口19L,19Rを覆う量を減少させ)、ホイール部37の回転角度がエンジン回転数上昇角度θを超えると、コントローラ21は、ホイール部37の回転角度が増加するほどエンジン3L,3Rの回転数を上昇させてもよい。
【0078】
また、図10(B)に示すように、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θを超えると、コントローラ21は、ホイール部37の回転角度が増加するほどバケット開度を大きくするが、ホイール部37の回転角度がエンジン回転数上昇角度θを超えると、コントローラ21は、エンジン3L,3Rの回転数を回転数Aから回転数Bへ一気に上昇させてもよい。
【0079】
さらに、図10(C)に示すように、ホイール部37の回転角度がバケット全開角度θを超えると、コントローラ21は、バケット開度を70%から100%へ一気に増加させるが、ホイール部37の回転角度がエンジン回転数上昇角度θを超えると、コントローラ21は、ホイール部37の回転角度が増加するほどエンジン3L,3Rの回転数を上昇させてもよい。
【0080】
図10(A)~図10(C)では、バケット開度及びエンジン3L,3Rの回転数の少なくとも一方が一気に変化しないため、推進力Fも穏やかに増加して船体2を旋回させるヨーモーメントも穏やかに増加する。その結果、船舶1の旋回時の乗り心地をより改善することができる。
【0081】
また、本実施の形態では、バケット開度の増加と回転数の上昇が異なるタイミングで行われるが、バケット開度の増加と回転数の上昇を同じタイミングで行ってもよい。
【0082】
図11は、本実施の形態の旋回補助制御の第2の変形例におけるホイール部37の回転角度、バケット開度及びエンジン3L,3Rの回転数の関係を示すグラフである。図11でも、実線がバケット開度を示し、破線がエンジン3L,3Rの回転数を示す。
【0083】
例えば、図11(A)に示すように、ホイール部37の回転角度が推力増加角度θ(第一の閾値)を超えると、コントローラ21は、バケット開度を70%から100%へ一気に増加させるとともに、エンジン3L,3Rの回転数を回転数Aから回転数Bへ一気に上昇させてもよい。
【0084】
また、図11(B)に示すように、ホイール部37の回転角度が推力増加角度θを超えると、コントローラ21は、ホイール部37の回転角度が増加するほどバケット開度を大きくするが、エンジン3L,3Rの回転数を回転数Aから回転数Bへ一気に上昇させてもよい。
【0085】
さらに、図11(C)に示すように、ホイール部37の回転角度が推力増加角度θを超えると、コントローラ21は、バケット開度を70%から100%へ一気に増加させるが、ホイール部37の回転角度が増加するほどエンジン3L,3Rの回転数を上昇させてもよい。
【0086】
なお、上述した、スロットルレバー15Lをニュートラル位置へ移動させた場合のバケット開度(35%)、低速航行モードにおいてスロットルレバー15Lを前進方向に移動させた場合のバケット開度(70%)、並びに、高速航行モードにおいてスロットルレバー15Lを前進方向に移動させた場合のバケット開度(100%)はそれぞれ一例に過ぎず、船舶1の仕様に応じてそれぞれ異なる値を取り得る。
【0087】
また、本実施の形態では、ステアリング装置14が円環状のホイール部37を有するが、円環状のホイール部の代わりに左右それぞれに配置されたハンドルバー43R,43Lを備えていてもよい(図12)。この場合、ハンドルバー43Rはスポーク部44Rによって中央部36と連結され、ハンドルバー43Lはスポーク部44Lによって中央部36と連結される。このステアリング装置にも、ステアリング装置14と同様にバケット全開角度θ3やエンジン回転数上昇角度θが設定される。なお、図12において、スイッチ26~29,32~34やパドル部30,31の図示は省略される。
【0088】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態は、低速航行モードではなく高速航行モードにおいて旋回補助制御が実行され、当該旋回補助制御では、バケット開度が変更されず、エンジン3L,3Rの回転数のみが変更される点で第1の実施の形態と異なるが、それ以外の構成、作用が上述した第1の実施の形態と基本的に同じであるので、重複した構成、作用については説明を省略し、以下に異なる構成、作用についての説明を行う。
【0089】
第2の実施の形態では、船舶1が高速航行モードで前進する際、旋回補助制御を実行するために、ホイール部37の高速航行モードにおける回転操作可能な範囲に推進力Fが増加される領域が設けられる。具体的には、図6に示すように、時計回り及び反時計回りのそれぞれに関し、ホイール部37の高速航行モードにおける回転操作可能な範囲に、他のエンジン回転数上昇角度θ(所定の閾値)が設定される。ここで、他のエンジン回転数上昇角度θは、高速航行モードにおける操作可能な回転角θよりも小さい。
【0090】
図13は、本実施の形態で実行される旋回補助制御を説明するための図である。なお、図13では、船舶1が高速航行モードに設定されてバケット開度が100%(図5(D))に設定され、ホイール部37が時計回りに回転操作されていることを前提とする。
【0091】
まず、図13(A)に示すように、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θ以下の場合、旋回性を向上させるために推進力Fは増加されない。具体的に、コントローラ21は、前進用噴射口19L,19Rが右後方を指向するようにデフレクタ9L,9Rの向きを変更するものの、エンジン3L,3Rの回転数をスロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Cに維持する。したがって、前進用噴射口19L,19Rから船体2の後方へ噴射される水の量は特に増加せず、噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力Fも増加しないため、推進力Fの左方向分力fも増加しない。その結果、船体2を右へ回転させるヨーモーメントも特に大きくはならず、船舶1の進行方向は緩やかに右へ変化する。
【0092】
一方、ホイール部37がさらに回転操作されて、図13(B)に示すように、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θよりも大きくなった場合、操船者の船舶1の進行方向を変更したいという意志が強くなったと考えられるため、旋回性を向上させるために推進力Fが増加される。具体的に、コントローラ21は、ホイール部37の回転操作に応じて前進用噴射口19L,19Rがさらに右後方を指向するようにデフレクタ9L,9Rの向きを変更するとともに、エンジン3L,3Rの回転数をスロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Cよりも高い回転数Dまで上昇させる。これにより、前進用噴射口19L,19Rから船体2の後方へ噴射される水の量が増加し、噴射される水の反動で生じる前進方向の推進力Fも増加するため、左方向分力fが増加する。その結果、船体2を右へ回転させるヨーモーメントが大きくなり、船舶1の進行方向は右へ効率よく変化する。
【0093】
なお、図13では、ホイール部37が時計回りに回転操作される場合について説明したが、ホイール部37が反時計回りに回転操作される場合も同様の処理が行われる。
【0094】
図14は、本実施の形態の旋回補助制御におけるホイール部37の回転角度及びエンジン3L,3Rの回転数の関係を示すグラフである。図14では、破線がエンジン3L,3Rの回転数を示す。
【0095】
図14に示すように、ホイール部37の回転角度が(時計回り及び反時計回りのいずれにおいても)、他のエンジン回転数上昇角度θ以下の場合、エンジン3L,3Rの回転数はスロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Cに維持される。
【0096】
その後、ホイール部37の回転角度が大きくなって他のエンジン回転数上昇角度θを超えると、エンジン3L,3Rの回転数が、スロットルレバー15L,15Rの操作量に応じた回転数Cよりも高い回転数Dまで上昇される。
【0097】
本実施の形態によれば、船舶1が高速航行モードに移行してバケット開度が100%となった状態において、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θよりも大きくなった場合、エンジン3L,3Rの回転数が上昇される。その結果、ホイール部37の回転角度に応じて向きが変更されたデフレクタ9L,9Rの前進用噴射口19L,19Rから噴出する水の量が増加して前進方向の推進力Fが増加するため、推進力Fの右方向分力fや左方向分力fも増加して船体2の重心回りに回転させるヨーモーメントが増す。すなわち、船舶1を旋回させるためのヨーモーメントを増すために、船舶推進機4L,4Rの推進力Fの作用方向を後進方向へ変更する必要がないため、乗船者が感じる減速感を低減することができ、もって、船舶1の旋回時の乗り心地を改善することができる。
【0098】
なお、本実施の形態では、船舶1が高速航行モードに設定されており、波を切る音や風の音が比較的大きくなっているため、エンジン3L,3Rの運転音が大きくなっても、船舶1の乗船者の不快な思いが増すことがない。したがって、回転数Dとしてエンジン3L,3Rの最大回転数Maxが設定されてもよい。
【0099】
本実施の形態では、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θを超えると、エンジン3L,3Rの回転数が回転数Cから回転数Dへ一気に上昇される。しかしながら、エンジン3L,3Rの回転数は徐々に変更してもよい。
【0100】
図15は、本実施の形態の旋回補助制御の変形例におけるホイール部37の回転角度及びエンジン3L,3Rの回転数の関係を示すグラフである。図15でも、破線がエンジン3L,3Rの回転数を示す。図15では、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θを超えると、コントローラ21は、ホイール部37の回転角度が増加するほどエンジン3L,3Rの回転数を上昇させる。
【0101】
図15では、エンジン3L,3Rの回転数が一気に変化しないため、推進力Fも穏やかに増加して船体2を旋回させるヨーモーメントも穏やかに増加する。その結果、船舶1の旋回時の乗り心地をより改善することができる。
【0102】
また、本実施の形態では、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θを超えると、エンジン3L,3Rの両方の回転数が上昇されるが、エンジン3L,3Rの一方の回転数のみを上昇させてもよい。
【0103】
例えば、船舶1が高速航行モードであっても、高速ではなく中速、例えば、20ノット前後の速度で航行する場合、船舶推進機4L,4Rの推進力Fはそこまで大きくないため、この時点で生じるヨーモーメントもそこまで大きくなく、船舶1の旋回性は高くない。したがって、旋回補助制御において船舶1の旋回性を向上するためにはヨーモーメントの増加代を大きくする必要があり、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θを超えると、エンジン3L,3Rの両方の回転数を上昇させて、船舶推進機4L,4Rの両方の推進力Fを高めることにより、ヨーモーメントの増加代を大きくするのが好ましい。
【0104】
一方、船舶1が高速、例えば、30ノット前後の速度で航行する場合、船舶推進機4L,4Rの推進力Fが大きく、この時点で生じるヨーモーメントも大きくなり、船舶1の旋回性は元々高い。したがって、旋回補助制御においてもヨーモーメントの増加代をそこまで大きくする必要がないため、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θを超えると、エンジン3L,3Rの一方のみ回転数を上昇させる。この場合、ヨーモーメントを必要十分以上に増加させることができ、船舶1の旋回性を十分に向上することができる。
【0105】
さらに、本実施の形態の旋回補助制御は高速航行モードで前進する船舶1に適用されるが、低速航行モードで前進する船舶1に適用してもよい。この場合、ホイール部37の回転角度が他のエンジン回転数上昇角度θを超えて、エンジン3L,3Rの回転数が上昇しても、バケット開度は70%のままに維持される。
【0106】
以上、本発明の好ましい各実施の形態について説明したが、本発明は上述した各実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0107】
例えば、船舶1は動力源として、エンジン3L,3Rを備えるが、船舶1が、エンジン3L,3Rの代わりに動力源として電気モータを有してもよく、若しくは、動力源としてエンジン及び電気モータの両方を有してもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 船舶、2 船体、3L,3R エンジン、4L,4R 船舶推進機、8L,8R ノズル、9L,9R デフレクタ、10L,10R リバースバケット、19L,19R 前進用噴射口、21 コントローラ、θ バケット全開角度、θ エンジン回転数上昇角度、θ 推力増加角度、θ 他のエンジン回転数上昇角度、F 推進力、f 左方向分力、f 右方向分力
図1
図2
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図6
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図10
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図15