(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119922
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合の評価方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230822BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B23K20/12 310
B23K20/12 344
B23K31/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023054
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 綾人
(72)【発明者】
【氏名】河野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祥平
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167BG04
4E167BG22
(57)【要約】
【課題】摩擦攪拌接合における被接合部材の変形の評価を短時間でかつ精度良く行えるようにする。
【解決手段】二つの被接合部材を摩擦攪拌接合により接合したときの各被接合部材の変形を、CAE解析により評価する摩擦攪拌接合の評価方法は、摩擦攪拌接合において攪拌される部分の断面形状である攪拌断面を定義するステップS2と、攪拌による熱により被接合部材に発生する攪拌温度を定義するステップS3と、CAEモデルの被接合部に対して、定義した攪拌断面に定義した攪拌温度を入熱したときの各CAEモデルの変形を算出する変形算出ステップS7と、を含み、被接合部に沿って入熱箇所を順次変更して、該被接合部の全体への入熱が完了するまで変形算出ステップS7を順次実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するプローブによって、二つの被接合部材を摩擦攪拌接合により接合したときの該各被接合部材の変形を、CAE解析により評価する摩擦攪拌接合の評価方法であって、
前記各被接合部材のCAEモデルをそれぞれ設定するモデル設定ステップと、
摩擦攪拌接合において攪拌される部分の断面形状である攪拌断面を定義する断面定義ステップと、
前記攪拌による熱により前記被接合部材に発生する攪拌温度を定義する攪拌温度定義ステップと、
前記各CAEモデルにおける摩擦攪拌接合により接合される被接合部に対して、定義した前記攪拌断面に定義した前記攪拌温度を入熱したときの前記各CAEモデルの変形を算出する変形算出ステップと、を含み、
前記被接合部に沿って入熱箇所を順次変更して、該被接合部の全体への入熱が完了するまで前記変形算出ステップを順次実行することを特徴とする摩擦攪拌接合の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合の評価方法において、
単位時間当たり接合される長さである攪拌長を定義する攪拌長定義ステップと、
前記被接合部のうち前記変形算出ステップが完了した箇所に、当該被接合部を構成する前記各CAEモデルに接合された接合部モデルを追加するモデル追加ステップと、を更に含み、
前記変形算出ステップは、前記被接合部に対して、定義した前記攪拌断面と定義した前記攪拌長とを有する領域に入熱したときの前記CAEモデルの変形を算出するステップであるとともに、n+1回目(nは1以上の自然数)の入熱による前記CAEモデルの変形を算出するときには、n回目までに追加された接合部モデルを考慮して、前記各CAEモデルの変形を算出するステップであることを特徴とする摩擦攪拌接合の評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摩擦攪拌接合の評価方法において、
実際の摩擦攪拌接合において前記各被接合部材の相対位置を固定するために、前記各被接合部材がクランプされる位置であるクランプ位置を、前記各CAEモデルに対して定義するクランプ条件設定ステップを更に含み、
前記変形算出ステップは、前記クランプ位置を考慮して前記CAEモデルの変形を算出するステップであることを特徴とする摩擦攪拌接合の評価方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の摩擦攪拌接合の評価方法において、
前記変形算出ステップにより前記被接合部の全体が接合された状態での前記CAEモデルの変形を算出した後、所定温度になるまで放熱されたときの該CAEモデルの変形を算出する第2変形算出ステップを更に含むことを特徴とする摩擦攪拌接合の評価方法。
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦攪拌接合の評価方法において、
前記第2変形算出ステップは、前記被接合部が複数あるときには、該複数の被接合部の全てについて前記変形算出ステップが完了した後に実行されるステップであることを特徴とする摩擦攪拌接合の評価方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の摩擦攪拌接合の評価方法において、
前記プローブは軸状をなしているとともに、前記被接合部材に接触するピン部と、該ピン部に対して軸方向における前記被接合部材とは反対側に位置しかつ該ピン部よりも大径なショルダー部とを有し、
前記断面定義ステップは、前記ピン部の前記軸方向の長さと、前記ピン部の径及び前記ショルダー部の径の少なくとも一方とに基づいて前記攪拌断面を定義するステップであることを特徴とする摩擦攪拌接合の評価方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の摩擦攪拌接合の評価方法において、
前記攪拌温度定義ステップは、前記プローブの回転数及び並走速度に基づいて設定されることを特徴とする摩擦攪拌接合の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、摩擦攪拌接合の評価方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、二つの被接合部材を接合する方法として、プローブの回転により生じた塑性流動によって、被接合部材を個体のまま攪拌して接合させる摩擦攪拌接合が知られている。摩擦攪拌接合の出来映えを評価する方法としては、摩擦攪拌接合を行った後の接合部を画像解析する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、接合部のカラー画像情報を取得し、カラー画像情報のRGB値を算出し、当該RGB値をグレースケール変換してグレースケール値を算出し、該グレースケール値に基づいて画像情報を二値化して、接合部におけるバリの存在領域及びバリの存在レベルを決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、摩擦攪拌接合において評価すべき項目の1つに、被接合部材の変形量がある。すなわち、摩擦攪拌接合では、熱の影響で被接合部材が多少なり変形するため、被接合部材の変形量を出来る限り小さくすることが求められる。被接合部材の変形量を小さくするには、プローブの回転数や並進速度などの接合条件を適切に設定する必要がある。
【0006】
接合条件を設定するには、特許文献1のように、実際に被接合部材同士を摩擦攪拌接合により接合させて、被接合部材の変形量を評価することで接合条件を設定する必要があった。しかしながら、このような実機による検証では、被接合部材の変形に影響を与えるパラメータを検証するために、接合時の温度を随時モニタリングする必要があるため検証自体がかなり大掛かりになるとともにとともに、多数の接合条件で摩擦攪拌接合を行うためにかなり時間がかかってしまう。
【0007】
そこで、本願発明者らは、流体解析により被接合部材の変形を机上で評価することを試みた。しかしながら、本願発明者らの検討したところ、流体解析による評価では、数百時間の非常に長い解析時間が必要であることが分かった。このため、より短い時間で、摩擦攪拌接合における被接合部材の変形を評価する方法が求められている。
【0008】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、摩擦攪拌接合における被接合部材の変形の評価を短時間でかつ精度良く行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、回転するプローブによって、二つの被接合部材を摩擦攪拌接合により接合したときの該各被接合部材の変形を、CAE解析により評価する摩擦攪拌接合の評価方法を対象として、前記各被接合部材のCAEモデルをそれぞれ設定するモデル設定ステップと、摩擦攪拌接合において攪拌される部分の断面形状である攪拌断面を定義する断面定義ステップと、前記攪拌による熱により前記被接合部材に発生する攪拌温度を定義する攪拌温度定義ステップと、前記各CAEモデルにおける摩擦攪拌接合により接合される接合部に対して、定義した前記攪拌断面に定義した前記攪拌温度を入熱したときの前記各CAEモデルの変形を算出する変形算出ステップと、を含み、前記被接合部に沿って入熱箇所を順次変更して、該接合部の全体への入熱が完了するまで前記変形算出ステップを順次実行する、という構成とした。
【0010】
この構成によると、攪拌断面と攪拌温度とが定義されているため、摩擦攪拌接合時の接合箇所の流体変形及び変形箇所の温度分布を計算する必要がない。また、攪拌断面と攪拌温度とが一定であるため、攪拌による熱に伴うCAEモデルの変形も比較的容易に算出することができる。そして、被接合部の全体への入熱が完了するまでCAEモデルの変形を算出するため、摩擦攪拌接合が完了したときの各CAEモデルの変形を算出することができる。これにより、摩擦攪拌接合における被接合部材の変形の評価を簡素でかつ短時間で行うことができるようになる。
【0011】
また、実際の摩擦攪拌接合において入熱される部分は、攪拌される部分であるため、定義した攪拌断面に定義した攪拌温度を入熱するという状況は、実際の摩擦攪拌接合に対応する状況といえる。このため、前述の構成によれば、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデルの変形が算出されるため、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデルで精度良く再現することができる。
【0012】
前記摩擦攪拌接合の評価方法の一実施形態では、単位時間当たり接合される長さである攪拌長を定義する攪拌長定義ステップと、前記被接合部のうち前記変形算出ステップが完了した箇所に、当該被接合部を構成する前記各CAEモデルに接合された接合部モデルを追加するモデル追加ステップと、を更に含み、前記変形算出ステップは、前記被接合部に対して、定義した前記攪拌断面と定義した前記攪拌長とを有する領域に入熱したときの前記CAEモデルの変形を算出するステップであるとともに、n+1回目(nは1以上の自然数)の入熱による前記CAEモデルの変形を算出するときには、n回目までに追加された接合部モデルを考慮して、前記各CAEモデルの変形を算出するステップである。
【0013】
すなわち、実際の摩擦攪拌接合では、プローブを被接合部に沿って並進移動させて、少しずつ被接合部材同士を接合する。このため、被接合部材同士が接合された接合部が少しずつ増加していく。この接合部の熱伝導や変形も被接合部材の変形に影響するため、被接合部材の変形を精度良く算出するためには、前記接合部を考慮する必要がある。前述の構成では、入熱された部分に接合部モデルを追加して、次の入熱箇所に入熱されたときのCAEモデルの変形を、該接合部モデルを考慮して算出するため、実際の被接合部材の変形に対応したCAEモデルの変形を算出することができる。したがって、摩擦攪拌接合の評価精度を向上させることができる。
【0014】
前記摩擦攪拌接合の評価方法において、実際の摩擦攪拌接合において前記各被接合部材の相対位置を固定するために、前記各被接合部材がクランプされる位置であるクランプ位置を、前記各CAEモデルに対して定義するクランプ条件設定ステップを更に含み、前記変形算出ステップは、前記クランプ位置を考慮して前記CAEモデルの変形を算出するステップである、という構成でもよい。
【0015】
この構成によると、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデルの変形が算出されるため、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデルで精度良く再現することができる。これにより、摩擦攪拌接合の評価精度をより向上させることができる。
【0016】
前記摩擦攪拌接合の評価方法の一実施形態において、前記変形算出ステップにより前記被接合部の全体が接合された状態での前記CAEモデルの変形を算出した後、所定温度になるまで放熱されたときの該CAEモデルの変形を算出する第2変形算出ステップを更に含む。
【0017】
この構成でも、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデルの変形が算出されるため、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデルで精度良く再現することができる。これにより、摩擦攪拌接合の評価精度をより向上させることができる。
【0018】
前記一実施形態において、前記第2変形算出ステップは、前記被接合部が複数あるときには、該複数の被接合部の全てについて前記変形算出ステップが完了した後に実行されるステップである、という構成でもよい。
【0019】
すなわち、実際の摩擦攪拌接合では、被接合部が複数あるときには、全ての被接合部の接合が完了してから冷却が行われる。このため、前述の構成よると、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデルの変形が算出されることになって、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデルで精度良く再現することができる。これにより、摩擦攪拌接合の評価精度をより向上させることができる。
【0020】
前記摩擦攪拌接合の評価方法において、前記プローブは軸状をなしているとともに、前記被接合部材に接触するピン部と、該ピン部に対して軸方向における前記被接合部材とは反対側に位置しかつ該ピン部よりも大径なショルダー部とを有し、前記断面定義ステップは、前記ピン部の前記軸方向の長さと、前記ピン部の径及び前記ショルダー部の径の少なくとも一方とに基づいて前記攪拌断面を定義するステップである、という構成でもよい。
【0021】
すなわち、実際の摩擦攪拌接合では、ピン部が被接合部に押し付けられて、ピン部が被接合部に進入する。このとき、攪拌された被接合部は、ショルダー部に沿ってプローブの径方向に広がる。このため、攪拌断面の幅は、ピン部の径だけでなく、ショルダー部の径にも依存することがある。また、ショルダー部と被接合部とが接触すると、ショルダー部と被接合部との摩擦熱が生じるため、入熱される範囲もショルダー部の径に依存するようになる。一方で、ピン部の被接合部に対する進入量が小さい場合には、ショルダー部と被接合部と接触範囲が小さく被接合部材の変形の計算においては無視できる。したがって、前述のようにして、攪拌断面を定義することにより、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデルの変形が算出されることになって、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデルで精度良く再現することができる。また、攪拌断面として単純な形状が定義されるため、被接合部材の変形の算出が容易になる。これにより、被接合部材の変形の評価をより簡素でかつより短時間で行うことができるようなる。
【0022】
前記摩擦攪拌接合の評価方法において、前記攪拌温度定義ステップは、前記プローブの回転数及び並走速度に基づいて設定される、という構成でもよい。
【0023】
すなわち、プローブの並走速度が遅いときには入熱時間が長くなるため攪拌温度が高くなる。したがって、プローブの並走速度まで考慮して攪拌温度を定義することで、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデルの変形が算出されることになって、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデルで精度良く再現することができる。これにより、摩擦攪拌接合の評価精度をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、摩擦攪拌接合における被接合部材の変形の評価を短時間でかつ精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】
図2は、CAE解析により摩擦攪拌接合を評価するフローチャートである。
【
図3】
図3は、CAEモデルの変形を算出するフローチャートである。
【
図6】
図6は、攪拌断面を定義する際に用いられるプローブの形状を示す模式図である。
【
図7A】
図7Aは、CAEモデルに対して入熱を行った際の温度分布を示す図であり、最初の攪拌位置に入熱した状態を示す。
【
図7B】
図7Bは、CAEモデルに対して入熱を行った際の温度分布を示す図であり、3番目の攪拌位置に入熱した状態を示す。
【
図8】
図8は、被接合部材の変形量を評価するための評価位置を示す図である。
【
図9】
図9は、上下方向の変形量を、本実施形態に係るCAE解析と実測とで比較したグラフである。
【
図10A】
図10Aは、被接合部材に形成された小径穴の前後方向の変位量を、本実施形態に係るCAE解析と実測とで比較したグラフである。
【
図10B】
図10Bは、被接合部材に形成された小径穴の左右方向の変位量を、本実施形態に係るCAE解析と実測とで比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
(摩擦攪拌接合)
図1は、摩擦攪拌接合によって、金属製の第1被接合部材W1と第2被接合部材W2とを接合する様子を模式的に示す。
図1に示す例では、第1被接合部材W1の端部と第2被接合部材W2の端部とを突き合わせて、突き合わせられた部分を被接合部101として摩擦攪拌接合により接合する。摩擦攪拌接合では、プローブ10を回転させながら被接合部101に当接させることで、第1及び第2被接合部材W1、W2の組織に塑性流動を発生させ、それによって攪拌する。そして、第1被接合部材W1と第2被接合部材W2との組織を攪拌することによって、第1被接合部材W1と第2被接合部材W2とを接合させる。摩擦攪拌接合では、プローブ10を回転させつつ、被接合部101に沿ってプローブ10を並進移動させることで、被接合部101全体を接合させる。摩擦攪拌接合を実行するときには、第1被接合部材W1と第2被接合部材W2との相対位置を固定するために、第1被接合部材W1及び第2被接合部材W2が共にクランプされる。
【0028】
図1に示すように、プローブ10は、実際に第1及び第2被接合部材W1,W2に当接するピン部11と、ピン部11に対して軸方向における第1及び第2被接合部材W1,W2とは反対側に位置しかつピン部11よりも大径なショルダー部12と、ショルダー部12に対してピン部11とは反対側に位置するロッド部13と、を有する。ピン部11、ショルダー部12、及びロッド部13は、同軸である。ピン部11、ショルダー部12、及びロッド部13は、単一部材で構成されている。
【0029】
摩擦攪拌接合による断面形状については、回転数とプローブ形状によって決まる。ただし、被接合部101において摩擦攪拌接合により攪拌される部分の幅は、ピン部11の直径以上でかつショルダー部12の直径未満の幅であり、攪拌される部分の深さは、ピン部11の突き入れ深さを少し超える程度となる。
【0030】
ここで、摩擦攪拌接合では、発生する熱の影響で被接合部材が多少なり変形するため、被接合部材の変形量を出来る限り小さくすることが求められる。被接合部材の変形量を小さくするには、プローブ10の形状、プローブの回転数や並進速度、被接合部材のクランプ位置などの接合条件を適切に設定する必要がある。
【0031】
接合条件の設定において、従来は、実際に被接合部材同士を摩擦攪拌接合により接合させて、被接合部材の変形量を評価することで接合条件を設定する必要があった。しかしながら、このような実機による検証では、被接合部材の変形に影響を与えるパラメータを検証するために、接合時の温度を随時モニタリングする必要があるため検証自体がかなり大掛かりになるとともに、多数の接合条件で摩擦攪拌接合を行う必要があるため、かなりの時間を要してしまう。
【0032】
流体解析により机上で被接合部材の変形量を見積もる方法も考えられる。しかしながら、本願発明者らが検討したところ、流体解析による検証では非常に時間がかかり、特に、被接合部材が複雑な形状を有している場合には、数百時間の解析時間が必要であることが分かった。このため、本願発明者らは、各被接合部材の変形量をCAE解析により評価する方法を工夫することで、摩擦攪拌接合における被接合部材の変形量の評価を短時間でかつ精度良く行うことができるようにした。以下、本実施形態に係る摩擦攪拌接合の評価方法について詳細に説明する。
【0033】
(CAE解析による摩擦攪拌接合の評価)
図2及び
図3は、CAE解析により、摩擦攪拌接合における被接合部材の変形を評価するプロセスを示すフローチャートである。
【0034】
〈ステップS1〉
まず、ステップS1において、プロセスは、各被接合部材のCAEモデルをそれぞれ設定する。CAEモデルとしては、実際の各被接合部材を模したモデルを設定する。
【0035】
図4は、CAEモデル20の一例を示す。このCAEモデル20で表された被接合部材は、車載部品の一部である。被接合部材は、本体部、本体部に接合される第1パーツ、及び第2パーツである。本体部はアルミニウム合金で構成された平板であって、略L字状をなしている。本体部は、外周部分に設けられた複数の大径穴と、外周部分よりも内側寄りの部分に設けられた複数の小径穴とを有する。第1パーツは、本体部のL字の内側に沿って、本体部の左後部分から左前部分に配置される。第2パーツは、第1パーツよりも小面積であり、本体部の右前部分に配置される。
図4に示すように、CAEモデル20としては、本体部を表す本体モデル21と、第1パーツを表す第1パーツモデル22と、第2パーツを示す第2パーツモデル23とが作成される。本体モデル21では、本体部全体の形状、各大径穴の位置及び大きさ、並びに各小径穴の位置及び大きさが再現されている。第1パーツモデル22では、第1パーツの形状及び配置が再現されている。第2パーツモデル23では、第2パーツの形状及び配置が再現されている。尚、
図4における、前後方向及び左右方向は、説明を簡単にするために便宜上示したものであり、実際の使用状態を限定したものではない。
【0036】
本体モデル21と第1パーツモデル22との境界部分及び本体モデル21と第2パーツモデル23との境界部分は、それぞれ、摩擦攪拌接合により接合される被接合部24として定義されている。つまり、このCAEモデル20では、複数の被接合部24を有している。
【0037】
〈ステップS2〉
次に、ステップS2において、プロセスは、摩擦攪拌接合において攪拌される部分の断面形状である攪拌断面を定義する。この攪拌断面は、
図1でいう第1被接合部材W1と第2被接合部材W2との溶接部分の断面形状に相当する。
【0038】
本実施形態では、攪拌断面は、
図5に示すように、最大幅がWでかつ深さがDの三角形で定義される。摩擦攪拌接合においては、プローブ10のピン部11が接触する表面部分が発生する熱の入熱範囲が最も広く、表面から離れるに連れて入熱範囲が狭くなる。このため、攪拌断面としては、三角形状を定義しておけば、実際の摩擦攪拌接合における攪拌断面をおおよそ再現したことになる。
【0039】
最大幅Wと深さDは、プローブ10の形状に基づいて定義される。具体的には、
図6に示すように、最大幅Wは、プローブ10のピン部11の直径L1とショルダー部12の直径L2とに基づいて、直径L1以上でかつ直径L2未満の範囲で設定される。深さDは、ピン部11の高さHに基づいて、高さHと同じか又は高さHよりも僅かに大きい値に設定される。
【0040】
尚、攪拌断面を設定する際に、同じプローブ10を用いて、実際に摩擦攪拌接合を行ったときの溶接部分の断面形状を参考にしてもよい。
【0041】
〈ステップS3〉
次に、ステップS3において、プロセスは、攪拌による熱により被接合部材に発生する攪拌温度を定義する。本実施形態では、攪拌温度は、プローブ10の回転数及び並走速度に基づいて設定される。これは、プローブ10の並走速度が遅いときには入熱時間が長くなって、攪拌温度が高くなるためである。ここで定義される攪拌温度は、プローブ10と被接合部材との当接位置における温度であり、該当接位置から広がる温度分布は、後述するステップS7で算出される。
【0042】
〈ステップS4〉
次いで、ステップS4において、プロセスは、単位時間当たり接合される長さである攪拌長を定義する。攪拌長は、プローブ10の並走速度に基づいて定義される。例えば、プローブ10の並進速度が10mm/sであれば、攪拌長は10mmに定義される。
【0043】
〈ステップS5〉
続いて、ステップS5において、プロセスは、接合部モデル25(
図7B参照)及び攪拌位置を定義する。接合部モデル25は、後述するステップS7において、攪拌による熱が入熱されたとみなされたときに、被接合部24を構成する2つのCAEモデルの両方に接合された新たな部材を示すモデルであって、実際の摩擦攪拌接合における溶接部分に相当する。接合部モデル25の形状は、断面として前記ステップS2で設定した攪拌断面を有し、かつ被接合部24に沿った長さとして前記ステップS4で設定した攪拌長を有する形状である。攪拌位置は、後述するステップS7において、攪拌による熱が入熱されたとみなされる位置であって、前記接合部モデル25が配置される位置である。攪拌位置は、点で設定される位置ではなく、ある程度範囲を有している。具体的には、攪拌位置の断面形状は、前記ステップS2で定義した攪拌断面の形状であり、前記攪拌位置の被接合部24に沿った長さは、前記ステップS4で定義した攪拌長である。
【0044】
〈ステップS6〉
次に、ステップS6において、プロセスは、CAEモデル20の境界条件を設定する。境界条件は、被接合部材の拘束条件や被接合部材の物性に関するパラメータである。
【0045】
前述したように、実際の摩擦攪拌接合では、各被接合部材の相対位置を固定するために、被接合部材がどちらもクランプされる。そこで、クランプ位置及びクランプ力を拘束条件としてCAEモデル20に対して設定するが、CAE上は攪拌による外力は解析条件に含めないため、ここでは本体モデル21のクランプ条件のみ拘束条件として設定する。第1及び第2パーツモデル22、23の変形に対してクランプしている場合などは、どちらも拘束条件として設定される。
【0046】
また、被接合部材の熱物性に関するパラメータとして、熱伝導率や線膨張係数を設定する。ここでは、被接合部材はアルミニウム合金であるため、当該アルミニウム合金の熱伝導率や線膨張係数が設定される。また、被接合部材の応力に関するパラメータとしてヤング率等が設定される。被接合部材の物性に関するパラメータ(以下、単に物性パラメータという)は、被接合部材の材料が変更されれば、変更後の材料における物性パラメータに変更される。
【0047】
〈ステップS7〉
次いで、ステップS7において、プロセスは、被接合部24に攪拌による熱が入熱されたときのCAEモデル20の変形を算出する。ここでいう「CAEモデル20の変形」とは、CAEモデル20の各部位の熱変形による上下方向、前後方向、及び左右方向への変位を意味する。このステップS7により、各CAEモデル20の各部位の変位量、すなわち各CAEモデル20の変形量が算出される。つまり、「CAEモデル20の変形」を算出するとは「CAEモデル20の変形量」を算出することと同義といえる。
【0048】
以下、
図3を参照しながら、ステップS7の詳細を説明する。
【0049】
〈ステップS70〉
まず、このステップS7の初期において、前記ステップS1で設定したCAEモデル20に対して、
図7A及び
図7Bに示すように、被接合部24から部材が取り除かれる。取り除かれる部分の断面形状は、前記ステップS2で定義した攪拌断面に対応する。部材が取り除かれた被接合部24には、攪拌による熱が入熱された後で、後述するステップS74で接合部モデル25(
図7B参照)が順に追加される。
【0050】
〈ステップS71〉
次に、ステップS71において、プロセスは、1番目の攪拌位置に攪拌温度を割り当てる。すなわち、前記ステップS5で設定した攪拌位置に、攪拌による熱が入熱されたとみなす。
図7Aでは、1番目の攪拌位置に攪拌温度を割り当てた状態を示す。1番目の攪拌位置は、本体モデル21と第1パーツモデル22との間の被接合部24の位置である。この段階では、被接合部24には接合部モデル25は配置されていない。
【0051】
〈ステップS72〉
次に、ステップS72において、プロセスは、攪拌位置からの熱伝導及び各CAEモデル20の変形を算出する。各CAEモデル20の熱伝導及び変形を算出するときには、前記ステップS6で設定した物性パラメータが考慮される。また、各CAEモデル20の変形は、CAEモデル20、特に本体モデル21が、前記ステップS6で設定したクランプ位置で固定されているとみなした上で算出される。
【0052】
このステップS72では、
図7Aに示すような、攪拌位置を中心にして略放射状に広がる温度分布が算出される。そして、算出された温度分布に応じた熱膨張による各CAEモデル20の変形が算出される。前述したように、攪拌位置の範囲は、前記ステップS2で定義した攪拌断面及び前記ステップS4で定義した攪拌長により定義されるため、このステップS72は、定義した攪拌断面と定義した攪拌長とを有する領域に、前記ステップS3で定義した攪拌温度を入熱したときの各CAEモデル20の変形を算出するステップである。
【0053】
〈ステップS73〉
次いで、ステップS73において、プロセスは、被接合部24全体に攪拌温度の割り当てが完了したか否かを判定する。本実施形態では、被接合部24は、本体モデル21と第1パーツモデル22との間、及び本体モデル21と第2パーツモデル23との間にそれぞれ位置する。ここでいう「被接合部24全体」とは、このように被接合部24が複数あるときには、それぞれの被接合部24の全体に対して攪拌温度が割り当てられたことを意味する。
【0054】
プロセスは、被接合部24全体に攪拌温度の割り当てが完了したYESのときにはステップS76に進む一方で、被接合部24の少なくとも一部について攪拌温度の割り当てが完了していないNOのときには、ステップS74に進む。
【0055】
〈ステップS74〉
前記ステップS74では、プロセスは、攪拌温度を割り当てた攪拌位置に接合部モデル25を追加する。これにより、
図7Bに示すように、攪拌による熱の入熱が完了した位置に接合部モデル25が追加される。接合部モデル25が追加された位置は、被接合部24を構成する2つのCAEモデル20(ここでは、本体モデル21と第1パーツモデル22)と一体となった部材が存在するとみなされる。
【0056】
〈ステップS75〉
次に、ステップS75では、プロセスは、前記ステップS74で接合部モデルを追加した位置に対して、被接合部24の延びる方向に隣接する位置に攪拌位置に攪拌温度を割り当てる。
【0057】
ステップS75の後は、ステップS72に戻る。該ステップS75から戻って前記ステップS72を実行するときには、n番目(nは1以上の自然数)までの攪拌位置に追加された接合部モデル25を考慮して、各CAEモデル20の変形が算出される。つまり、n+1回目(nは1以上の自然数)の入熱によるCAEモデル20の変形を算出するときには、n回目までに追加された接合部モデル25が考慮される。
【0058】
例えば、
図7Bには、3番目の攪拌位置に攪拌温度が割り当てられて、熱伝導(すなわち温度分布)が算出された状態を示す。このとき、2番目までの攪拌位置には、それぞれ接合部モデル25が追加されている。前記ステップS72では、これらの各接合部モデル25に対しても熱伝導が発生して、各CAEモデル20の変形に寄与するとみなして、各CAEモデル20の変形を算出する。
【0059】
また、前記ステップS75から戻って前記ステップS72を実行するときには、これまでの攪拌位置に攪拌温度が入力されたことにより変形した各CAEモデル20を基準にして、各CAEモデル20の変形が算出される。例えば、2番目までの攪拌位置に攪拌温度が入力されたことにより、本体モデル21にねじれ変形が生じたときには、ねじれ変形した状態の本体モデル21を基準に本体モデル21の変形が算出される。
【0060】
このステップS72~ステップS75は、被接合部24全体に対して攪拌温度の割り当てが完了するまで繰り返される。すなわち、ステップS7では、被接合部24に沿って入熱箇所を順次変更して、被接合部24全体への入熱が完了するまで熱伝導及び変形の計算が順次実行される。
【0061】
〈ステップS76〉
前記ステップS76では、プロセスは、最終の攪拌位置に接合部モデル25を追加する。ステップS76の後は、リターンする。
【0062】
〈ステップS8〉
図2に戻って、前記ステップS7の後のステップS8では、CAEモデル20の全体が所定温度まで放熱される際の、該CAEモデル20の変形を算出する。このステップS8では、被接合部24全体に接合部モデル25が配置されているため、本体モデル21、第1パーツモデル22、及び第2パーツモデル23が一体であるとして、CAEモデル20の変形が算出される。ステップS8でも、前記ステップS72で利用された物性パラメータが考慮される。また、このステップS8でも、CAEモデル20の変形は、本体モデル21が、前記ステップS6で設定したクランプ位置で固定されているとみなした上で算出される。所定温度は、所謂常温であり、例えば、5℃~35℃である。
【0063】
前記ステップS8の後は、CAE解析による摩擦攪拌接合の評価が完了する。
【0064】
(本実施形態に係るCAE解析と実験結果との比較)
次に、前述したCAE解析により算出された本体モデル21の変形量と、実際に摩擦攪拌接合を行った際に本体部に生じた変形量とを比較した結果を
図8~
図10Bを参照しながら説明する。
【0065】
図8は、比較対象となる測定点を表しており、測定点B1~B16は、上下方向の変位量を算出ための測定点である。測定点C1~C20は、前述した本体部の小径穴であり、前後方向及び左右方向の変形量を算出するために利用している。上下方向の変位量については、測定点B10の位置を基準にして算出している。前後方向及び左右方向の変形量については、右前部分に示す基準点の位置を原点として、測定点C1~C20のX座標(前後方向の座標)及びY座標(左右方向の座標)を求めて、摩擦攪拌接合の前後における各座標の変化から算出している。
【0066】
図9は、測定点B1~B16における上下方向の変位量を比較した結果である。実線は本実施形態のCAE解析により算出された結果であり、破線及び一点鎖線はそれぞれ実測値である。B10の位置は、基準であるため変位量は0となっている。
【0067】
図9に示すように、本実施形態に係るCAE解析により算出された本体モデル21の変位量は、変位量の大きさ自体は実測とずれがあるものの、その傾向は、実測と同等の傾向であることが分かる。変位量の大きさは、実測1と実測2とを比較して分かるように、実測の間でもずれが生じるため、本実施形態に係るCAE解析と実測との間のずれは、問題とならない程度であるといえる。
【0068】
また、
図10A及び
図10Bに示すように、前後方向及び左右方向の変位量についても、本実施形態に係るCAE解析と実測との間で同等の傾向にあることが分かる。前後方向及び左右方向の変位量についても、変位量の大きさは、実測の間でもずれが生じるため、本実施形態に係るCAE解析と実測との間のずれは、問題とならない程度であるといえる。
【0069】
したがって、本実施形態に係るCAE解析により、十分に実際の摩擦攪拌接合により生じる被接合部材の変形が再現できているといえる。このため、本実施形態に係るCAE解析を用いることによって、被接合部材の変形量をできるだけ小さくする接合条件、すなわち、プローブ10のピン部11の径、プローブ10の回転速度や並進速度、本体部のクランプ位置などを算出することができる。
【0070】
また、本願発明者らが、
図4に示すような被接合部材の変形を流体解析により評価しようと試みた際に、解析に必要とされる時間は500時間程度であった。一方で、本願発明者らが、本実施形態に係るCAE解析により被接合部材の変形を評価した時にかかった時間は50時間程度であった。つまり、本実施形態に係るCAE解析による評価は、流体解析により被接合部材の変形を評価する場合と比較して、約1/10の時間で評価が可能であることが分かった。
【0071】
(まとめ)
したがって、本実施形態では、各被接合部材のCAEモデル20をそれぞれ設定するモデル設定ステップ(ステップS1)と、摩擦攪拌接合において攪拌される部分の断面形状である攪拌断面を定義する断面定義ステップ(ステップS2)と、攪拌による熱により被接合部材に発生する攪拌温度を定義する攪拌温度定義ステップ(ステップS3)と、各CAEモデル20における摩擦攪拌接合により接合される被接合部24に対して、定義した攪拌断面に定義した攪拌温度を入熱したときの各CAEモデル20の変形量を算出する変形算出ステップ(ステップS7,S71~S76)と、を含み、被接合部24に沿って入熱箇所を順次変更して、被接合部24の全体への入熱が完了するまで変形算出ステップを順次実行する。このように、本実施形態では、攪拌断面と攪拌温度とが定義されているため、摩擦攪拌接合時の接合箇所の流体変形及び変形箇所の温度分布を計算する必要がない。また、攪拌断面と攪拌温度とが一定であるため、攪拌による熱に伴うCAEモデル20の変形も比較的容易に算出することができる。そして、被接合部24の全体への入熱が完了するまでCAEモデル20の変形を算出するため、摩擦攪拌接合が完了したときの各CAEモデル20の変形を算出することができる。これにより、摩擦攪拌接合における被接合部材の変形の評価を簡素でかつ短時間で行うことができるようなる。
【0072】
また、実際の摩擦攪拌接合において入熱される部分は、攪拌される部分であるため、定義した攪拌断面に定義した攪拌温度を入熱するという状況は、実際の摩擦攪拌接合に対応する状況といえる。このため、前述の構成によれば、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデル20の変形が算出されるため、被接合部材の変形を精度良く算出することができる。
【0073】
特に本実施形態では、単位時間当たり接合される長さである攪拌長を定義する攪拌長定義ステップ(ステップS4)と、被接合部24のうち変形算出ステップが完了した箇所に、各CAEモデル20に接続された接合部モデル25を追加するモデル追加ステップ(ステップS74)と、を更に含み、変形算出ステップは、被接合部24に対して、定義した攪拌断面と定義した攪拌長とを有する領域に入熱したときのCAEモデル20の変形を算出するステップであるとともに、n+1回目(nは1以上の自然数)の入熱によるCAEモデル20の変形を算出するときには、n回目までに追加された接合部モデル25を考慮して、各CAEモデル20の変形を算出するステップである。これにより、被接合部材同士が接合された接合部における熱伝導や変形の影響を考慮して、CAEモデル20の変形が算出される。したがって、実際の被接合部材の変形に対応したCAEモデル20の変形を算出することができ、摩擦攪拌接合の評価精度を向上させることができる。
【0074】
また、本実施形態では、実際の摩擦攪拌接合において各被接合部材がクランプされる位置であるクランプ位置を、各CAEモデル20に対して定義するクランプ条件設定ステップ(ステップS6)を更に含み、変形算出ステップは、クランプ位置を考慮してCAEモデル20の変形を算出する。
【0075】
また、本実施形態では、変形算出ステップにより被接合部24の全体が接合された状態でのCAEモデル20の変形を算出した後、所定温度になるまで放熱されたときの該CAEモデル20の変形を算出する第2変形算出ステップ(ステップS8)を更に含む。
【0076】
特に、第2変形算出ステップは、被接合部24が複数あるときには、該複数の被接合部24の全てについて変形算出ステップが完了した後に実行される。
【0077】
これらのことにより、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデル20の変形が算出される。このため、実際の摩擦攪拌接合における被接合部材の変形をCAEモデル20で精度良く再現することができる。これにより、摩擦攪拌接合の評価精度をより向上させることができる。
【0078】
また、本実施形態では、断面定義ステップは、プローブ10のピン部11の軸方向の長さと、ピン部11の径及びショルダー部12の径の少なくとも一方とに基づいて攪拌断面を定義するステップである。このように、攪拌断面を定義することにより、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデル20の変形が算出されることになって、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデル20で精度良く再現することができる。また、攪拌断面として単純な形状が定義されるため、被接合部材の変形の算出が容易になる。これにより、被接合部材の変形の評価をより簡素でかつより短時間で行うことができるようなる。
【0079】
また、本実施形態では、攪拌温度定義ステップは、プローブ10の回転数及び並走速度に基づいて設定される。このように、プローブ10の並走速度まで考慮して攪拌温度を定義することで、実際の摩擦攪拌接合に対応した状況を考慮した上でCAEモデル20の変形が算出されることになって、実際の摩擦攪拌接合での被接合部材の変形を、CAEモデル20で精度良く再現することができる。これにより、摩擦攪拌接合の評価精度をより向上させることができる。
【0080】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0081】
例えば、前述の実施形態では、攪拌断面が三角形で定義されていた。これに限らず、攪拌断面は、上底が下底よりも長い台形で定義されてもよい。
【0082】
また、前述の実施形態では、攪拌断面を定義する際に、ピン部11の直径L1及び高さHと、ショルダー部12の直径L2とを考慮していた。これに限らず、攪拌断面は、ショルダー部12の直径L2を考慮せずに、ピン部11の直径L1と高さHのみから攪拌断面を定義されてもよい。
【0083】
また、前述の実施形態に対して、常温まで放熱した際のCAEモデル20の変形を算出した後、更に、CAEモデル20の拘束条件を解除したときの変形、すなわち、CAEモデル20に対するクランプを解除したときのCAEモデル20の変形を算出してもよい。これにより、実際に摩擦攪拌接合により接合される被接合部材の変形をより精度良く見積もることができる。
【0084】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0085】
ここに開示された技術は、回転するプローブを突き入れることによって、二つの被接合部材を摩擦攪拌接合により接合したときの該各被接合部材の変形量を、CAE解析により評価する際に有用である。
【符号の説明】
【0086】
10 プローブ
11 ピン部
12 ショルダー部
20 CAEモデル
24 被接合部
25 接合部モデル