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特開2023-119936破断予測方法、装置、及びプログラム
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  • 特開-破断予測方法、装置、及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119936
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】破断予測方法、装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/20 20060101AFI20230822BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20230822BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20230822BHJP
【FI】
G01N3/20
G06F30/23
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023076
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相藤 孝博
(72)【発明者】
【氏名】大石 拓哉
【テーマコード(参考)】
2G061
5B146
【Fターム(参考)】
2G061AA07
2G061AB01
2G061BA04
2G061CA01
2G061CB01
2G061CB07
2G061DA11
2G061EA02
2G061EC02
5B146AA05
5B146AA06
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】手間や工数を抑えて、金属材料の薄板の曲げ破断を精度よく予測する。
【解決手段】破断予測装置は、特定の板厚である複数の試験片の各々についての穴広げ率λ、曲げ破断限界の曲げ角度αh、及び母材の曲げ破断限界の曲げ角度αbに基づいて、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得し、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板についての穴広げ率λ’と、母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得し、予測対象の金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αと比較して、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ破断を予測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測方法であって、
特定の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する工程と、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する工程と、
前記特定の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する工程と、
前記試験片の各々についての前記穴広げ率λ、前記曲げ角度αh、及び前記曲げ角度αbに基づいて、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する工程と、
前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する工程と、
前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する工程と、
前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、並びに前記穴広げ率λ’及び前記曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する工程と、
予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する工程と、
を含む破断予測方法。
【請求項2】
有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測方法であって、
任意の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する工程と、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する工程と、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換する工程と、
前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する工程と、
前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、前記曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する工程と、
前記試験片の各々についての前記破断限界ひずみεt、前記破断限界ひずみεb、前記曲げ角度αb、及び前記曲げ角度αhに基づいて、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する工程と、
前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する工程と、
前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換する工程と、
前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する工程と、
前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する工程と、
前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、前記破断限界ひずみεt’及び前記破断限界ひずみεb’の比、並びに前記曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する工程と、
予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する工程と、
を含む破断予測方法。
【請求項3】
前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換する工程では、
前記穴広げ率λと前記打ち抜き穴の穴縁要素の引張破断限界ひずみεtとの関係を表す以下の式1を用いて、前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換し、
前記曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する工程では、
前記曲げ角度αbと有限要素モデルのメッシュサイズとから、曲げ頂部の曲げ外表層の破断限界ひずみεbを求めるための以下の式2を用いて、前記破断限界ひずみεbに変換し、
前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換する工程では、
以下の式1を用いて、前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換し、
前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する工程では、
以下の式2を用いて、前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する請求項2記載の破断予測方法。
εt=a*LN(1+λ/100)+c ・・・(式1)
εb =d*S+f ・・・(式2)
ただし、a,b,cは、フィッティング係数であり、Sは、前記有限要素モデルのメッシュサイズであり、d,e,fは、板厚t及びεsに応じて定まる値であり、εsは、εs=g・ln(αb)+hであり、g、hは、板厚tに応じて定まる値である。
【請求項4】
前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する工程では、
前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係として、以下の式3を用いて、前記破断限界ひずみεt’及び前記破断限界ひずみεb’の比と、前記曲げ角度αb’とから、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する請求項1~請求項3の何れか1項記載の破断予測方法。
y1=m*LN(n+x2) ・・・(式3)
ただし、m,n,pは、フィッティング係数であり、y1≧1の場合は、y1=1とする。
【請求項5】
前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する工程では、
前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’と、変形解析で用いる有限要素モデルのメッシュサイズとを、以下の式4に代入して、曲げ外側表層の破断限界ひずみεcを求め、
前記変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ外表層の最大主ひずみεと、前記破断限界ひずみεcとを比較することにより、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する請求項1~請求項4の何れか1項記載の破断予測方法。
εc=q*M+s ・・・(式4)
ただし、Mは、変形解析で用いる有限要素モデルのメッシュサイズであり、q,r,sは、板厚t及びεsに応じて定まる値であり、εsは、εs=t・ln(αh)+uであり、t、uは、板厚tに応じて定まる値である。
【請求項6】
強度クラス980MPa以上の鋼板を、前記金属材料の薄板とする請求項1~請求項5の何れか1項記載の破断予測方法。
【請求項7】
前記金属材料の薄板の打抜き端は、金型で打抜くことにより形成されたものである請求項1~請求項6の何れか1項記載の破断予測方法。
【請求項8】
有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測装置であって、
特定の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、
前記特定の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部と、
前記試験片の各々についての前記穴広げ率λ、前記曲げ角度αh、及び前記曲げ角度αbに基づいて、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部と、
前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、
前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部と、
前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、並びに前記穴広げ率λ’及び前記曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部と、
予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部と、
を含む破断予測装置。
【請求項9】
有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測装置であって、
任意の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、
前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部と、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換し、
前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、前記曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する第1変換部と、
前記試験片の各々についての前記破断限界ひずみεt、前記破断限界ひずみεb、前記曲げ角度αb、及び前記曲げ角度αhに基づいて、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部と、
前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、
前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部と、
前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換し、
前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する第2変換部と、
前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、前記破断限界ひずみεt’及び前記破断限界ひずみεb’の比、並びに前記曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部と、
予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部と、
を含む破断予測装置。
【請求項10】
有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測するための破断予測プログラムであって、
特定の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、
前記特定の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部、
前記試験片の各々についての前記穴広げ率λ、前記曲げ角度αh、及び前記曲げ角度αbに基づいて、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部、
前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、
前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部、
前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、並びに前記穴広げ率λ’及び前記曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部、及び
予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部
としてコンピュータを機能させるための破断予測プログラム。
【請求項11】
有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測するための破断予測プログラムであって、
任意の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、
前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部、
前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換し、
前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、前記曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する第1変換部、
前記試験片の各々についての前記破断限界ひずみεt、前記破断限界ひずみεb、前記曲げ角度αb、及び前記曲げ角度αhに基づいて、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部、
前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、
前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部、
前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換し、
前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する第2変換部、
前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、前記破断限界ひずみεt’及び前記破断限界ひずみεb’の比、並びに前記曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部、及び
予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部
としてコンピュータを機能させるための破断予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破断予測方法、装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、引っ張り曲げ変形を伴うようなフランジ変形が生じるせん断縁からの破断を判定する方法が示されており、穴広げ試験の実験から変形限界を求め、穴広げ成形解析からせん断縁でのひずみ勾配を求め、成形可能領域を決定し、プレス成形解析において、板表裏面のひずみ量の差が規定値以上の場合は、ひずみ量が大きい側の表面でのひずみ量及びひずみ勾配を用いて引張曲げ破断を予測する方法が開示されている。
【0003】
特許文献2、3、4では、プレス成形によって金属板のせん断加工面近傍に発生する応力分布のうち、評価位置における、板厚方向の表面応力分布の勾配とせん断加工面から離れる方向の表面応力分布の勾配との2つの表面応力分布の勾配から求めた指標値によって、変形限界を評価することを特徴とする変形限界の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-1754号公報
【特許文献2】特許第6769561号
【特許文献3】特許第6558515号
【特許文献4】特許第6547920号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術では、一般に曲げ変形は、板の曲げ外側表面のみ高いひずみが発生する変形形態であり、穴広げ試験のように穴縁が引張られて伸びる変形とは変形形態が異なるため、穴広げ試験で作成した変形限界を用いて、引張曲げ変形の破断を予測することはできない。
【0006】
また、上記特許文献2、3、4に記載の技術では、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いた解析において応力分布の勾配を得るには、隣接する要素間の情報を得る必要があるが、逐次変化する変形解析中の応力勾配を取得することは困難である。
【0007】
また、有限要素法を用いた解析において、ひずみが集中して局所的な変形が生じている部位においては、用いるメッシュサイズによって、計算されるひずみが異なるため、仮に上記方法で破断限界ひずみを定めることができたとしても、異なるメッシュサイズのモデルを用いた変形解析においては、十分な精度は得られない。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、手間や工数を抑えて、金属材料の薄板の曲げ破断を精度よく予測することができる破断予測方法、装置、及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様に係る破断予測方法は、有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測方法であって、特定の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する工程と、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する工程と、前記特定の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する工程と、前記試験片の各々についての前記穴広げ率λ、前記曲げ角度αh、及び前記曲げ角度αbに基づいて、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する工程と、前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する工程と、前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する工程と、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、並びに前記穴広げ率λ’及び前記曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する工程と、予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する工程と、を含む。
【0010】
第2態様に係る破断予測方法は、有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測方法であって、任意の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する工程と、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する工程と、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換する工程と、前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する工程と、前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、前記曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する工程と、前記試験片の各々についての前記破断限界ひずみεt、前記破断限界ひずみεb、前記曲げ角度αb、及び前記曲げ角度αhに基づいて、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する工程と、前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する工程と、前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換する工程と、前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する工程と、前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する工程と、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、前記破断限界ひずみεt’及び前記破断限界ひずみεb’の比、並びに前記曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する工程と、予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する工程と、を含む。
【0011】
第3態様に係る破断予測装置は、有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測装置であって、特定の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、前記特定の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部と、前記試験片の各々についての前記穴広げ率λ、前記曲げ角度αh、及び前記曲げ角度αbに基づいて、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部と、前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部と、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、並びに前記穴広げ率λ’及び前記曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部と、予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部と、を含む。
【0012】
第4態様に係る破断予測装置は、有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測する破断予測装置であって、任意の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部と、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換し、前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、前記曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する第1変換部と、前記試験片の各々についての前記破断限界ひずみεt、前記破断限界ひずみεb、前記曲げ角度αb、及び前記曲げ角度αhに基づいて、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部と、前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部と、前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換し、前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する第2変換部と、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、前記破断限界ひずみεt’及び前記破断限界ひずみεb’の比、並びに前記曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部と、予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部と、を含む。
【0013】
第5態様に係る破断予測プログラムは、有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測するための破断予測プログラムであって、特定の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、前記特定の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部、前記試験片の各々についての前記穴広げ率λ、前記曲げ角度αh、及び前記曲げ角度αbに基づいて、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部、前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、前記特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部、前記穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、並びに前記穴広げ率λ’及び前記曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部、及び予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部としてコンピュータを機能させるための破断予測プログラムである。
【0014】
第6態様に係る破断予測プログラムは、有限要素法を用いて、金属材料の薄板の打抜き端部からの曲げ破断を予測するための破断予測プログラムであって、任意の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する第1実験結果取得部、前記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、前記穴広げ率λを、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換し、前記任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、前記曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する第1変換部、前記試験片の各々についての前記破断限界ひずみεt、前記破断限界ひずみεb、前記曲げ角度αb、及び前記曲げ角度αhに基づいて、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係を取得する関係取得部、前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き端を有する前記金属材料の薄板について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、前記任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない前記金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する第2実験結果取得部、前記穴広げ率λ’を、前記打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換し、前記曲げ角度αb’を、前記曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する第2変換部、前記破断限界ひずみεt及び前記破断限界ひずみεbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、前記破断限界ひずみεt’及び前記破断限界ひずみεb’の比、並びに前記曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する曲げ破断限界取得部、及び予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する前記金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、前記打抜き端部の要素の曲げ角度αと、前記曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、前記打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する破断予測部としてコンピュータを機能させるための破断予測プログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様である破断予測方法、装置、及びプログラムによれば、手間や工数を抑えて、金属材料の薄板の曲げ破断を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施形態に係る破断予測装置の概略構成を示す模式図である。
図2】(A)試験片の一例を示す上面図、(B)曲げ試験を説明するための側面図、及び(C)穴縁から破断が発生したタイミングにおける曲げ角度を説明するための斜視図である。
図3】穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を表す近似曲線の一例を示すグラフである。
図4】破断予測装置として機能するコンピュータの一例の概略ブロック図である。
図5】本発明の第1の実施形態における事前処理の一例のフローチャートである。
図6】本発明の第1、第2の実施形態における破断予測処理の一例のフローチャートである。
図7】破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を表す近似曲線の一例を示すグラフである。
図8】本発明の第2の実施形態に係る破断予測装置の概略構成を示す模式図である。
図9】本発明の第2の実施形態における事前処理の一例のフローチャートである。
図10】実施例における各メッシュサイズの曲げ角度の予測結果と実験結果とを比較した結果を示すグラフである。
図11】実施例における各メッシュサイズの破断予測時の最大主ひずみ分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る破断予測装置について説明する。
【0018】
<本発明の実施の形態の概要>
自動車業界では、衝突時の衝撃を低減し得る車体構造の開発が急務の課題となっている。この場合、自動車の構造部材により衝突エネルギーを吸収させることが重要である。衝突エネルギーを吸収するためには、衝突時に構造部材が狙ったモードで変形することが重要であり、仮に変形過程で材料破断が発生した場合は、狙った変形モードとならず、十分なエネルギー吸収性能が得られない場合がある。一般に鋼板の高強度化に伴って延性が低下することが知られており、自動車車体の衝突変形時の材料破断の可能性は高くなると考えられる。特に引張強度が980MPaを超える超ハイテン材と呼ばれる鋼板においては、衝突変形時の面内引張力による破断に加え、座屈によって生じる曲げ変形による材料破断(以下、「曲げ破断」と称する。)が発生する場合があることが知られている。
【0019】
自動車部品には、各種目的に応じた穴が設定されており、一般にはプレス型による打ち抜き穴が設定されている。この、打ち抜き穴の縁や部材の周縁のトリムエッジは、型により打抜かれた際にダメージを受けており、当該部分が曲げ変形を受けた際には、他の部分に比べより低いひずみで亀裂が発生し、早期に破断が発生する場合がある。そのため、FEM解析を用いて、自動車の衝突変形時に発生する材料破断を予測する際には、上記打ち抜き穴縁やトリムエッジから早期に発生する曲げ破断も含めた予測技術が求められる。
【0020】
本実施形態では、自動車の衝突変形シミュレーションなどの変形解析において、任意の材質、板厚を予測対象として、特に980MPaを超える超高強度鋼板の穴縁又はエッジからの曲げ破断を精度良く予測する。
【0021】
[第1の実施形態]
<破断予測装置の構成>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る破断予測装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る破断予測装置100は、有限要素法を用いて金属材料の薄板の打ち抜き穴の穴縁からの曲げ破断を予測する装置であって、第1実験結果取得部10と、関係取得部12と、第2実験結果取得部14と、曲げ破断限界取得部16と、変形解析部18と、破断予測部20とを備えている。
【0022】
本実施形態に係る破断予測装置100には、各種鋼種における特定の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αhが入力される。
【0023】
例えば、金型の打抜きクリアランスを変化させて打ち抜き穴をあけ、穴広げ試験を実施した場合、打ち抜きクリアランスに応じて、穴広げ率λが変化することが知られている。そのため、図2(A)に示すように、幅30mm×長さ60mmの試験片30の中央に打抜きクリアランスを8~22%の間で変化させた直径10mmの打ち抜き穴32をあける。そして、打ち抜きによって発生したバリが曲げ外側となる方向で試験片30をセットして、図2(B)に示すように曲げ試験を実施し、図2(C)に示すように、穴縁から破断が発生したタイミングにおける試験片30の曲げ角度を測定する。
【0024】
また、破断予測装置100には、各種鋼種における上記の複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により得られた打ち抜き穴の穴広げ率λが入力される。
【0025】
例えば、上記の曲げ試験と同様に、試験片の中央に打抜きクリアランスを8~22%の間で変化させた、直径10mmの打ち抜き穴をあけ、穴縁から破断が発生するまで引張り試験を実施し、破断が発生したタイミングにおける標点間伸びを測定して、穴広げ率λとの関係を得る。
【0026】
また、破断予測装置100には、各種鋼種における、特定の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αbが入力される。
【0027】
例えば、上記の曲げ試験の試験片と同じ特定の板厚で、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験を実施し、曲げ頂部で破断が発生したタイミングにおける曲げ角度を測定し、曲げ破断限界の曲げ角度αbとする。
【0028】
また、破断予測装置100には、予測対象となる材質(S-Sカーブ)、板厚、穴広げ率λ’(%)、及び母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αb’が入力される。本実施形態では、主に強度クラス980MPa以上の鋼板を、予測対象の金属材料の薄板とする。
【0029】
例えば、上記の曲げ試験の試験片と同じ特定の板厚で、打ち抜き穴を有する予測対象となる材料について、穴広げ試験により打ち抜き穴の穴広げ率λを測定する。
【0030】
また、特定の板厚で、打ち抜き穴を有しない予測対象となる材料である母材について、曲げ試験を実施し、曲げ頂部で破断が発生したタイミングにおける曲げ角度αb’を測定し、曲げ破断限界の曲げ角度とする。
【0031】
第1実験結果取得部10は、入力された、特定の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打ち抜き穴を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する。
【0032】
第1実験結果取得部10は、入力された、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により得られた打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する。
【0033】
また、第1実験結果取得部10は、入力された、特定の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する。
【0034】
関係取得部12は、実験結果取得部10により取得した、試験片の各々についての穴広げ率λ、曲げ角度αb、及び曲げ角度αhに基づいて、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得する。
【0035】
本発明者らは、図3に示すように、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比とを横軸及び縦軸の指標にしてプロットすると一定の相関が得られることを知見した。
【0036】
そこで、本実施形態では、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を表す近似曲線を導出する。図3では、実線の曲線が、近似曲線を示し、白丸が、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比とを横軸及び縦軸の指標にしてプロットした点を示す。
【0037】
第2実験結果取得部14は、入力された、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板について、穴広げ試験により得られた、打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する。
【0038】
また、第2実験結果取得部14は、入力された、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有しない金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により得られた、曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する。
【0039】
曲げ破断限界取得部16は、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係、並びに穴広げ率λ’及び曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する。
【0040】
具体的には、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を表す近似曲線から、穴広げ率λ’及び曲げ角度αb’の比に対応する、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比を求める。そして、求められた曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αb’とから、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を求める。
【0041】
変形解析部18は、予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析を行う。例えば、変形解析部18は、打ち抜き穴を有する予測対象の材料を表す有限要素モデルを用いて、衝突変形シミュレーションなどの曲げ変形解析を行う。
【0042】
破断予測部20は、変形解析部18による変形解析中の逐次変化する、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αと、曲げ破断限界取得部16によって取得した曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較し、穴縁要素の曲げ破断を予測する。
【0043】
具体的には、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αと、曲げ破断限界取得部16によって取得した曲げ破断限界の曲げ角度αh’の比率α/αhを逐次計算し、α/αh=1となった場合に当該要素は曲げ破断したと判定する。このとき、曲げ破断と判定した場合には当該要素を消去しても良い。
【0044】
なお、有限要素モデルにおいて、解析効率化のために、予め穴縁要素のみを抽出し、変形解析中の逐次変化する、抽出した穴縁要素のみを対象として、曲げ角度αと、穴縁要素について取得した、曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、穴縁要素の曲げ破断を予測するようにしてもよい。
【0045】
破断予測装置100は、一例として、図4に示すコンピュータ64によって実現される。コンピュータ64は、CPU66、メモリ68、破断予測プログラム76を記憶した記憶部70、モニタを含む表示部26、及びキーボードやマウスを含む入力部28を含んでいる。CPU66、メモリ68、記憶部70、表示部26、及び入力部28はバス74を介して互いに接続されている。
【0046】
記憶部70はHDD、SSD、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶部70には、コンピュータ64を破断予測装置100として機能させるための破断予測プログラム76が記憶されている。CPU66は、破断予測プログラム76を記憶部70から読み出してメモリ68に展開し、破断予測プログラム76を実行する。
【0047】
<破断予測装置の作用>
次に本実施形態の作用を、図5図6を参照して説明する。まず、オペレータが、各種鋼種における特定の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き穴を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験を行い、曲げ破断限界の曲げ角度αhを測定する。
【0048】
また、オペレータが、各種鋼種における上記複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験を行い、打ち抜き穴の穴広げ率λを測定する。
【0049】
また、オペレータが、各種鋼種における特定の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験を行い、曲げ破断限界の曲げ角度αbを測定する。
【0050】
そして、オペレータが、試験片の各々についての曲げ破断限界の曲げ角度αh、打ち抜き穴の穴広げ率λと、打ち抜き穴を有しない試験片である母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αbを、破断予測装置100に入力する。
【0051】
また、オペレータが、上記の曲げ試験の試験片と同じ特定の板厚で、打ち抜き穴を有する予測対象となる材料について、穴広げ試験を行い、打ち抜き穴の穴広げ率λ’を測定する。
【0052】
また、オペレータが、特定の板厚で、打ち抜き穴を有しない予測対象となる材料である母材について、曲げ試験を実施し、曲げ頂部で破断が発生したタイミングにおける曲げ角度αb’を測定し、曲げ破断限界の曲げ角度とする。
【0053】
そして、オペレータが、予測対象となる材質(S-Sカーブ)、板厚、穴広げ率λ’(%)、及び母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αb’を、破断予測装置100に入力する。そして、事前処理の開始を指示する等の操作を行ったことを契機として破断予測装置100で実行される事前処理を説明する。
【0054】
図5に示す事前処理のステップS102において、第1実験結果取得部10は、入力された、特定の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により得られた、曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する。
【0055】
ステップS104において、第1実験結果取得部10は、入力された、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により得られた打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する。
【0056】
ステップS106において、第1実験結果取得部10は、入力された、特定の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する。
【0057】
ステップS108において、関係取得部12は、実験結果取得部10により取得した、試験片の各々についての穴広げ率λ、曲げ角度αb、及び曲げ角度αhに基づいて、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を表す近似曲線を導出する。
【0058】
ステップS112において、第2実験結果取得部14は、入力された、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板について、穴広げ試験により得られた、打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する。
【0059】
ステップS114において、第2実験結果取得部14は、入力された、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有しない金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により得られた、曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する。
【0060】
ステップS116において、曲げ破断限界取得部16は、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係、並びに穴広げ率λ’及び曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得して、事前処理を終了する。
【0061】
そして、破断予測処理の開始を指示する等の操作を行ったことを契機として破断予測装置100で実行される破断予測処理を説明する。
【0062】
図6に示す破断予測処理のステップS120において、変形解析部18は、予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析を開始する。
【0063】
ステップS122において、破断予測部20は、変形解析部18による変形解析中の現時点の打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αを取得する。
【0064】
ステップS124において、破断予測部20は、上記ステップS122で取得した打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αと、曲げ破断限界取得部16によって取得した曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較し、穴縁要素の曲げ破断を予測する。
【0065】
ステップS126において、変形解析部18は、変形解析を終了するか否かを判定する。例えば、変形解析の終了を指示する入力を受け付けた場合、又は、予め定められた終了条件を満たした場合に、変形解析を終了すると判定し、破断予測処理を終了する。一方、変形解析を終了しないと判定した場合には、上記ステップS122へ戻り、次の時刻について上記ステップS122以降の各処理を繰り返す。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係る破断予測装置100によれば、特定の板厚である複数の試験片の各々についての穴広げ率λ、曲げ破断限界の曲げ角度αh、及び母材の曲げ破断限界の曲げ角度αbに基づいて、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得し、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板についての穴広げ率λ’と、母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得し、予測対象の金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αと比較して、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ破断を予測する。これにより、手間や工数を抑えて、金属材料の薄板の曲げ破断を精度よく予測することができる。
【0067】
また、例えば自動車部材の衝突変形予測をコンピュータ上で行う場合において、打ち抜き穴縁を含む部位から発生する材料破断予測を高精度に行うことができる。そのため、実際の自動車部材での衝突試験を省略、又は衝突試験の回数を大幅に削減することができる。また、衝突時の破断を防止する部材設計をコンピュータ上で正確に行うことができるため、大幅なコスト削減、開発期間の短縮に寄与することが可能となる。
【0068】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る破断予測装置について説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0069】
<概要>
各種鋼種、各板厚、各打ち抜き穴毎に穴広げ試験及び曲げ試験を実施し、破断発生時の破断部のひずみを測定することで、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt及び母材の破断限界ひずみεbを得ることができる。これは、当該曲げ実験を再現した有限要素モデルを用いた解析により、実験と同じパンチストロークを与えた時の、破断が発生した位置の要素の最大主ひずみを計算することでも、得ることができる。
【0070】
上記図3と縦軸の値は同じとして、横軸の穴広げ率λを破断限界ひずみεtに、母材の曲げ破断限界の曲げ角度αbを破断限界ひずみεbに置き換えたグラフが図7である。本発明者らは、図7に示すように、縦軸、横軸の指標に一定の相関が得られることを知見した。
【0071】
また、穴広げ率λ及びそれを破断限界ひずみに変換したεtは、板厚による変化が小さいことが知られている。一方、母材の曲げ破断限界の曲げ角度αbは同一鋼種でも板厚によって大きく変化することが知られている。ただし、曲げ外表層が材料固有の破断限界ひずみに達することで曲げ破断が発生することが知られていることから、曲げ破断限界の曲げ角度αb到達時の曲げ頂部の曲げ外表層のひずみεbを調査した結果、板厚によって曲げ角度αbは異なるが、曲げ頂部の曲げ外表層のひずみεbは板厚によらずほぼ同じ値を示すことを知見した。
【0072】
そのため、図7の縦軸、横軸の指標の関係を表す近似曲線を使うことで、変形解析に用いる任意の鋼種、任意の板厚における穴広げ率と母材の曲げ破断限界の曲げ角度のみから打ち抜き穴における曲げ破断限界の曲げ角度αhを得ることが可能となり、変形解析中の打ち抜き穴の要素の曲げ角度がαhに到達するか否かで曲げ破断予測が可能である。
【0073】
<破断予測装置の構成>
図8は、本発明の第2の実施形態に係る破断予測装置の概略構成を示す模式図である。図8に示すように、本実施形態に係る破断予測装置200は、有限要素法を用いて金属材料の薄板の打ち抜き穴の穴縁からの曲げ破断を予測する装置であって、第1実験結果取得部210と、第1変換部212、関係取得部214と、第2実験結果取得部216と、第2変換部218と、曲げ破断限界取得部220と、変形解析部222と、破断予測部224とを備えている。
【0074】
本実施形態に係る破断予測装置200には、各種鋼種における任意の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αhが入力される。
【0075】
また、破断予測装置200には、各種鋼種における上記の複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により得られた打ち抜き穴の穴広げ率λが入力される。
【0076】
また、破断予測装置200には、各種鋼種における任意の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αbが入力される。
【0077】
また、破断予測装置200には、予測対象となる材質(S-Sカーブ)、板厚、穴広げ率λ’(%)、及び母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αb’が入力される。本実施形態では、主に強度クラス980MPa以上の鋼板を、予測対象の金属材料の薄板とする。
【0078】
第1実験結果取得部210は、入力された、任意の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する。
【0079】
第1実験結果取得部210は、入力された、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により得られた打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する。
【0080】
また、第1実験結果取得部210は、入力された、任意の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験により得られた、曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する。
【0081】
第1変換部212は、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ率λを、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換する。
【0082】
具体的には、穴広げ率λと打ち抜き穴の穴縁要素の引張破断限界ひずみεtとの関係を表す以下の式1を用いて、穴広げ率λを、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換する。
【0083】
εt=a*LN(1+λ/100)+c ・・・(式1)
【0084】
ただし、a,b,cは、予め用意された、穴広げ率λと打ち抜き穴の穴縁要素の引張破断限界ひずみεtとの複数ペアに基づいて決定されたフィッティング係数である。
【0085】
また、第1変換部212は、任意の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する。
【0086】
具体的には、曲げ角度αbと有限要素モデルのメッシュサイズSから、曲げ頂部の曲げ外表層の破断限界ひずみεbを求めるための以下の式2を用いて、破断限界ひずみεbに変換する。
【0087】
εb =d*S+f ・・・(式2)
【0088】
ただし、Sは、有限要素モデルのメッシュサイズであり、d,e,fは、予め用意された、板厚t、曲げ角度αb、有限要素モデルのメッシュサイズS、及び曲げ頂部の曲げ外表層の破断限界ひずみεbの複数の組み合わせに基づいて決定された、板厚t及びεsに応じて定まる値である。εsは、εs=g・ln(αb)+hであり、g、hは、板厚tに応じて定まる値である。
【0089】
関係取得部214は、第1変換部212により得られた、試験片の各々についての破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbと、第1実験結果取得部210により取得した、試験片の各々についての曲げ角度αb、及び前記曲げ角度αhに基づいて、破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得する。
【0090】
本実施形態では、上記図7に示すような、破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を表す近似曲線を取得する。具体的には、以下の(3)式に示す近似式を導出する。
【0091】
y1=m*LN(n+x2) ・・・(式3)
【0092】
ただし、y1はαh/αb、x2はεt/εbであり、m,n,pは、フィッティング係数である。y1≧1の場合は、y1=1とする。
【0093】
第2実験結果取得部216は、入力された、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板について、穴広げ試験により得られた、打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する。また、第2実験結果取得部216は、入力された、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有しない金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により得られた、曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する。
【0094】
第2変換部218は、入力された穴広げ率λ’を、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換する。
【0095】
具体的には、上記の式1を用いて、穴広げ率λ’を、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換する。
【0096】
また、第2変換部218は、入力された曲げ角度αb’を、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する。
【0097】
具体的には、上記の式2を用いて、曲げ角度αb’を、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する。
【0098】
曲げ破断限界取得部220は、穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、前記曲げ角度αh及び前記曲げ角度αbの比との関係、並びに穴広げ率λ’及び曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する。
【0099】
具体的には、穴広げ率λ’及び曲げ角度αb’の比を、横軸の値x2として求め、上記式3に代入して、得られたy1の値と、曲げ角度αb’の値から、予測対象の材料における曲げ破断限界の曲げ角度αh’を算出する。
【0100】
変形解析部222は、予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた曲げ変形解析を行う。例えば、変形解析部222は、打ち抜き穴を有する予測対象の材料を表す有限要素モデルを用いて、衝突変形シミュレーションなどの曲げ変形解析を行う。
【0101】
破断予測部224は、変形解析部222による曲げ変形解析中の逐次変化する、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αと、曲げ破断限界取得部220によって取得した曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較し、穴縁要素の曲げ破断を予測する。
【0102】
なお、有限要素モデルにおいて、穴縁要素のみを抽出し、変形解析中の逐次変化する、穴縁要素の曲げ角度αと、穴縁要素について取得した、曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、穴縁要素の曲げ破断を予測するようにしてもよい。
【0103】
破断予測装置200は、一例として、上記図4に示すコンピュータ64によって実現される。コンピュータ64は、CPU66、メモリ68、破断予測プログラム76を記憶した記憶部70、モニタを含む表示部26、及びキーボードやマウスを含む入力部28を含んでいる。CPU66、メモリ68、記憶部70、表示部26、及び入力部28はバス74を介して互いに接続されている。
【0104】
記憶部70はHDD、SSD、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶部70には、コンピュータ64を破断予測装置200として機能させるための破断予測プログラム76が記憶されている。CPU66は、破断予測プログラム76を記憶部70から読み出してメモリ68に展開し、破断予測プログラム76を実行する。
【0105】
<破断予測装置の作用>
次に本実施形態の作用を、図6図9を参照して説明する。まず、オペレータが、各種鋼種における任意の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打ち抜き穴を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験を行い、曲げ破断限界の曲げ角度αhを測定する。
【0106】
また、オペレータが、各種鋼種における上記の複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験を行い、打ち抜き穴の穴広げ率λを測定する。
【0107】
また、オペレータが、各種鋼種における任意の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験を行い、曲げ破断限界の曲げ角度αbを測定する。
【0108】
そして、オペレータが、試験片の各々についての曲げ破断限界の曲げ角度αh、打ち抜き穴の穴広げ率λと、打ち抜き穴を有しない試験片である母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αbを、破断予測装置100に入力する。
【0109】
また、オペレータが、上記の曲げ試験の試験片と同じ任意の板厚で、打ち抜き穴を有する予測対象となる材料について、穴広げ試験を行い、打ち抜き穴の穴広げ率λを測定する。
【0110】
また、オペレータが、任意の板厚で、打ち抜き穴を有しない予測対象となる材料である母材について、曲げ試験を実施し、曲げ頂部で破断が発生したタイミングにおける曲げ角度αb’を測定する。
【0111】
そして、オペレータが、予測対象となる材質(S-Sカーブ)、板厚、穴広げ率λ’(%)、及び母材についての曲げ破断限界の曲げ角度αb’を、破断予測装置200に入力する。そして、事前処理の開始を指示する等の操作を行ったことを契機として破断予測装置200で実行される事前処理を説明する。
【0112】
図9に示す事前処理のステップS202において、第1実験結果取得部210は、入力された、任意の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打ち抜き穴を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により得られた、曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得する。
【0113】
ステップS204において、第1実験結果取得部210は、入力された、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により得られた打ち抜き穴の穴広げ率λを取得する。
【0114】
ステップS206において、第1変換部212は、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ率λを、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換する。
【0115】
ステップS208において、第1実験結果取得部10は、入力された、任意の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ試験により得られた曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する。
【0116】
ステップS210において、第1変換部212は、任意の板厚であり、打ち抜き穴を有しない試験片である母材について、曲げ破断限界の曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する。
【0117】
ステップS212において、関係取得部214は、第1変換部212により得られた、試験片の各々についての破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbと、第1実験結果取得部210により取得した、試験片の各々についての曲げ角度αb、及び曲げ角度αhに基づいて、破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を表す上記式3の近似式を導出する。
【0118】
ステップS216において、第2実験結果取得部216は、入力された、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板について、穴広げ試験により得られた、打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得する。
【0119】
ステップS218において、第2変換部218は、入力された穴広げ率λ’を、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換する。
【0120】
ステップS220において、第2実験結果取得部216は、入力された、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有しない金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により得られた、曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する。
【0121】
ステップS222において、第2変換部218は、曲げ破断限界の曲げ角度αb’を、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する。
【0122】
ステップS224において、曲げ破断限界取得部220は、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係、並びに穴広げ率λ’及び曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得して、事前処理を終了する。
【0123】
そして、破断予測処理の開始を指示する等の操作を行ったことを契機として破断予測装置200で上記図6に示す破断予測処理と同様の処理が実行される。
【0124】
以上説明したように、本実施形態に係る破断予測装置200によれば、任意の板厚である複数の試験片の各々についての破断限界ひずみεt、曲げ破断限界の曲げ角度αh、母材についての破断限界ひずみεb、及び曲げ破断限界の曲げ角度αbに基づいて、破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得し、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板についての破断限界ひずみεt’及び破断限界ひずみεb’の比、並びに曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得し、予測対象の金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析中の逐次変化する、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ角度αと比較して、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ破断を予測する。これにより、手間や工数を抑えて、金属材料の薄板の曲げ破断を精度よく予測することができる。
【0125】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態に係る破断予測装置について説明する。なお、第3の実施形態に係る破断予測装置は、第2の実施形態と同様の構成であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0126】
<破断予測装置の構成>
第3の実施形態に係る破断予測装置の曲げ破断限界取得部220は、任意の板厚である複数の試験片の各々についての破断限界ひずみεt、曲げ破断限界の曲げ角度αh、母材についての破断限界ひずみεb、及び曲げ破断限界の曲げ角度αbに基づいて、破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得し、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き穴を有する金属材料の薄板についての破断限界ひずみεt’及び破断限界ひずみεb’の比、並びに曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する。
【0127】
そして、曲げ破断限界取得部220は、曲げ破断限界の曲げ角度αh’と、変形解析に用いているメッシュサイズとを、以下の式4に代入して、任意のメッシュサイズにおける曲げ外側表層の破断限界ひずみεcを求める。
【0128】
εc=q*M+s ・・・(式4)
【0129】
ただし、Mは、変形解析で用いる有限要素モデルのメッシュサイズであり、q,r,sは、板厚t及びεsに応じて定まる値であり、εsは、εs=t・ln(αh)+uであり、t、uは、板厚tに応じて定まる値である。
【0130】
破断予測部224は、変形解析部222による曲げ変形解析中の逐次変化する、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ外表層の最大主ひずみεと、曲げ破断限界取得部220によって取得した破断限界ひずみεcとを比較し、穴縁要素の曲げ破断を予測する。
【0131】
具体的には、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ外表層の最大主ひずみεと、曲げ破断限界取得部220によって取得した破断限界ひずみεcの比率ε/εcを逐次計算し、ε/εc=1となった場合に当該要素は曲げ破断したと判定する。このとき、曲げ破断と判定した場合には当該要素を消去しても良い。
【0132】
なお、解析効率化のために有限要素モデルにおいて、穴縁要素のみを抽出し、変形解析中の逐次変化する、穴縁要素の曲げ外表層の最大主ひずみεと、穴縁要素について取得した、破断限界ひずみεcとを比較して、穴縁要素の曲げ破断を予測するようにしてもよい。
【0133】
第3の実施形態に係る破断予測装置の他の構成及び作用については、第2の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0134】
<実施例>
上記第3の実施形態に係る破断予測装置の実施例について説明する。試験片サイズは幅30mm×長さ60mmで中央に直径10mmの打ち抜き穴を有しており、鋼種は980MPa級鋼板、板厚1.4mmとして、メッシュサイズは0.7mm、1.0mm、1.4mmの3種類の有限要素モデルを作成した。この試験片を予測対象として曲げ変形解析を行い、上記第3の実施形態で説明した方法を用いて、打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ外表層の破断限界最大主ひずみεcを計算し、クライテリアとした。各メッシュサイズでの打ち抜き穴の穴縁要素の曲げ外表層の破断限界最大主ひずみを表1に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
曲げ頂部の穴縁要素の曲げ外表層の最大主ひずみεが、破断限界最大主ひずみεcに到達した時点の曲げ角度を求め、実験において測定された、曲げ破断限界の曲げ角度と比較した。
【0137】
その結果、図10に示すように、いずれのメッシュサイズにおいても、実験で曲げ破断が確認された曲げ破断限界の曲げ角度とほぼ同じ曲げ角度において破断を予測できる結果となった。図10では、各メッシュサイズにおける、穴縁要素からの破断発生予測(クライテリア到達)時の曲げ角度と、実験での破断発生時の曲げ角度との比を示している。
【0138】
また、図11に、各メッシュサイズの有限要素モデルにおいて、クライテリア到達時の曲げ外表層の最大主ひずみのコンター図を示す。メッシュサイズが粗くなるほど、計算されるひずみがなまされることで、値が小さくなっているが、それに応じたクライテリア(表1)を導出できていることによって、破断を検知するための曲げ破断限界の曲げ角度は、いずれのメッシュサイズの有限要素モデルにおいてもほぼ同じ値となっていることが分かる。
【0139】
[変形例]
予測対象の金属材料の薄板や、試験片が打ち抜き穴を有している場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。予測対象の金属材料の薄板や、試験片は、金型で打抜くことにより形成された打抜き端を有していればよい。例えば、打抜き端の形状が直線的な形状であってもよい。金型で打抜くことにより、レーザーや切削加工に比べ、打抜きのダメージが端面に加えられており、上記実施形態と同様に、破断予測を行うことができる。この場合、金属材料の薄板の打抜き端部の曲げ破断を予測する。
【0140】
例えば、上記第1の実施形態と同様に、第1実験結果取得部10は、特定の板厚である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き端を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により前記打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、特定の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する。関係取得部12は、試験片の各々についての穴広げ率λ、曲げ角度αh、及び曲げ角度αbに基づいて、穴広げ率λ及び曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得する。第2実験結果取得部14は、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する金属材料の薄板について、穴広げ試験により打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、特定の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き穴を有しない金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する。曲げ破断限界取得部16は、穴広げ率λ及び前記曲げ角度αbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係、並びに穴広げ率λ’及び曲げ角度αb’の比から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する。変形解析部18は、予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析を行う。破断予測部20は、変形解析中の逐次変化する、打抜き端部の要素の曲げ角度αと、曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する。また、穴広げ試験は、打ち抜き穴を有する試験片に対して行う。また、入力される穴広げ率は、予測対象の金属材料の薄板の打抜き端のクリアランスと同じ打ち抜き穴を有する同じ金属材料の薄板について求めた穴広げ率とすればよい。
【0141】
また、上記第2の実施形態と同様に、第1実験結果取得部は、任意の板厚を有する金属材料の薄板である複数の試験片であって、各々打ち抜きクリアランスが異なる打抜き穴を有する複数の試験片の各々について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αhを取得し、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ試験により打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λを取得し、任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αbを取得する。第1変換部212は、複数の試験片と同一条件の試験片の各々について、穴広げ率λを、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεtに変換し、任意の板厚であり、打抜き端を有しない試験片である母材について、曲げ角度αbを、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεbに変換する。関係取得部214は、試験片の各々についての破断限界ひずみεt、破断限界ひずみεb、曲げ角度αb、及び曲げ角度αhに基づいて、破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係を取得する。第2実験結果取得部216は、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打ち抜き端を有する金属材料の薄板について、穴広げ試験により打抜き端に対応する打ち抜き穴の穴広げ率λ’を取得し、任意の板厚である予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有しない金属材料の薄板である母材について、曲げ試験により曲げ破断限界の曲げ角度αb’を取得する。第2変換部218は、穴広げ率λ’を、打ち抜き穴の穴縁要素の破断限界ひずみεt’に変換し、曲げ角度αb’を、曲げ頂部の要素の曲げ外表層の破断限界ひずみεb’に変換する。曲げ破断限界取得部220は、破断限界ひずみεt及び破断限界ひずみεbの比と、曲げ角度αh及び曲げ角度αbの比との関係、破断限界ひずみεt’及び破断限界ひずみεb’の比、並びに曲げ角度αb’から、曲げ破断限界の曲げ角度αh’を取得する。変形解析部222は、予測対象の金属材料の薄板であって、打抜き端を有する金属材料の薄板を表す有限要素モデルを用いた変形解析を行う。破断予測部224は、変形解析中の逐次変化する、打抜き端部の要素の曲げ角度αと、曲げ破断限界の曲げ角度αh’とを比較して、打抜き端部の要素の曲げ破断を予測する。
【符号の説明】
【0142】
10、210 第1実験結果取得部
12、214 関係取得部
14、216 第2実験結果取得部
16、220 曲げ破断限界取得部
18、222 変形解析部
20、224 破断予測部
26 表示部
28 入力部
30 試験片
32 打ち抜き穴
64 コンピュータ
66 CPU
68 メモリ
70 記憶部
76 破断予測プログラム
100、200 破断予測装置
212 第1変換部
218 第2変換部
図1
図2
図3
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図7
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図10
図11