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特開2023-119937リスク評価システム、リスク評価方法、及びリスク評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119937
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】リスク評価システム、リスク評価方法、及びリスク評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/00 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
A61C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023077
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇杉 真一
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA20
4C052PP00
(57)【要約】
【課題】再作製に係る器具の適合性に関するリスク評価を適切に行うことができる。
【解決手段】患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスク評価システムであって、記憶部と、演算部と、を備える。記憶部には、以下の(a)、(b)、及び(c)の少なくとも一つを含むリスク情報に基づいて器具に関するリスクを評価するためのデータが記憶されている。演算部は、リスク情報と、記憶部に記憶されているデータとに基づいて、再作製となった器具の適合性に関するリスクを評価し、リスクの評価結果を出力する。(a)器具のサイズを含む設計情報に対する、設計情報に基づいて作製された器具の作成精度。(b)作製された器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ。(c)作製された器具の患者の装着時におけるサイズのずれ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスク評価システムであって、
記憶部と、演算部と、を備え、
前記記憶部には、以下の(a)、(b)、及び(c)の少なくとも一つを含むリスク情報に基づいて前記器具に関するリスクを評価するためのデータが記憶されており、
前記演算部は、前記リスク情報と、前記記憶部に記憶されている前記データとに基づいて、再作製となった前記器具の適合性に関する前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する、
リスク評価システム。
(a)前記器具のサイズを含む設計情報に対する、前記設計情報に基づいて作製された前記器具の作成精度。
(b)作製された前記器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ。
(c)作製された前記器具の患者の装着時におけるサイズのずれ。
【請求項2】
再作製となった前記器具の適合性に関する前記リスクを、前記設計情報を作成した歯科医院、及び前記作成された前記器具を作製した技工所ごとに評価する請求項1に記載のリスク評価システム。
【請求項3】
前記リスク情報は、更に以下(d)を含む、請求項1又は請求項2に記載のリスク評価システム。
(d)その他の前記作製された前記器具に対する不適合の理由。
【請求項4】
前記記憶部には、前記器具を再作製するための再設計情報と、作製された前記器具の作製に用いた前記設計情報と、作製された前記器具の実物のスキャンデータと、を更に含み、
前記演算部は、前記再設計情報と、前記設計情報と、前記スキャンデータとを比較し、再作製する前記器具の変更に係るフィードバック情報を出力する請求項1~請求項3の何れか1項に記載のリスク評価システム。
【請求項5】
前記フィードバック情報として下記(e)及び(f)を含む、請求項4に記載のリスク評価システム。
(e)再作製する前記器具に係る造形時の角度及びサポートピンの立て方の変更箇所。
(f)再作製する前記器具に係る形状変更箇所。
【請求項6】
前記設計情報、及び前記再設計情報は、所定の技巧指示書と前記患者の口腔内の印象データに基づいた情報を用いる請求項4又は請求項5に記載のリスク評価システム。
【請求項7】
患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスク評価方法であって、
以下の(a)、(b)、及び(c)の少なくとも一つを含むリスク情報と、記憶部に記憶されている、前記器具に関するリスクを評価するためのデータとに基づいて、再作製となった前記器具の適合性に関する前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とするリスク評価方法。
(a)前記器具のサイズを含む設計情報に対する、前記設計情報に基づいて作製された前記器具の作成精度。
(b)作製された前記器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ。
(c)作製された前記器具の患者の装着時におけるサイズのずれ。
【請求項8】
患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスク評価プログラムであって、
以下の(a)、(b)、及び(c)の少なくとも一つを含むリスク情報と、記憶部に記憶されている、前記器具に関するリスクを評価するためのデータとに基づいて、再作製となった前記器具の適合性に関する前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する、
処理をコンピュータに実行させるリスク評価プログラム。
(a)前記器具のサイズを含む設計情報に対する、前記設計情報に基づいて作製された前記器具の作成精度。
(b)作製された前記器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ。
(c)作製された前記器具の患者の装着時におけるサイズのずれ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リスク評価システム、リスク評価方法、及びリスク評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医療においては、入れ歯やマウスピースといった患者の口腔内に装着する器具が患者に提供される。このような歯科用の器具は、歯科医院で歯科医師がマウスピースなどの口腔内に装着する器具を設計し、歯科技工所がその設計に基づいて口腔内に装着する器具を作製していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-091402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、作製された器具が患者に適合せず、再作製が必要となるケースが生じている。このような器具の再作製は、より適合性の高い口腔内に装着する器具の設計も必要となってくるため、再作製に係るコストが大きくなる。そのため、歯科技工所、歯科医院、及び患者などにとって非常に負担が大きいことから、再作製に関する保険の適用が求められている。このような場合に、再作製に係るコストの補償を担保するため、歯科医療用の患者の口腔内に装着する口腔用の器具の適合性に関するリスク評価を行うニーズがある。
【0005】
従来、対象システムに対するリスク評価に関する技術がある(特許文献1参照)。この技術では、リスク評価モデルを所定の推論アルゴリズムに適用して、対象システムにおける脆弱性がもたらすリスク評価を行っている。
【0006】
もっとも、口腔用の器具の適合性に関するリスク評価の技術は開示されていない。従って、これら再作製に係るコストの保険の適用や、適合性の高い口腔内に装着する器具の設計などに活用可能な、適合性に関するリスク評価を適切に行うことが必要である。
【0007】
本開示の課題は、再作製に係る器具の適合性に関するリスク評価を適切に行うことができるリスク評価システム、リスク評価方法、及びリスク評価プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のリスク評価システムは、患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスク評価システムであって、記憶部と、演算部と、を備え、前記記憶部には、以下の(a)、(b)、及び(c)の少なくとも一つを含むリスク情報に基づいて前記器具に関するリスクを評価するためのデータが記憶されており、前記演算部は、前記リスク情報と、前記記憶部に記憶されている前記データとに基づいて、再作製となった前記器具の適合性に関する前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する、リスク評価システムである。
(a)前記器具のサイズを含む設計情報に対する、前記設計情報に基づいて作製された前記器具の作成精度。
(b)作製された前記器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ。
(c)作製された前記器具の患者の装着時におけるサイズのずれ。
【0009】
本開示のリスク評価方法は、患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスク評価方法であって、以下の(a)、(b)、及び(c)の少なくとも一つを含むリスク情報と、記憶部に記憶されている、前記器具に関するリスクを評価するためのデータとに基づいて、再作製となった前記器具の適合性に関する前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する、処理をコンピュータが実行することを特徴とするリスク評価方法である。
(a)前記器具のサイズを含む設計情報に対する、前記設計情報に基づいて作製された前記器具の作成精度。
(b)作製された前記器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ。
(c)作製された前記器具の患者の装着時におけるサイズのずれ。
【0010】
本開示のリスク評価プログラムは、患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスク評価プログラムであって、以下の(a)、(b)、及び(c)の少なくとも一つを含むリスク情報と、記憶部に記憶されている、前記器具に関するリスクを評価するためのデータとに基づいて、再作製となった前記器具の適合性に関する前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する、処理をコンピュータに実行させるリスク評価プログラムである。
(a)前記器具のサイズを含む設計情報に対する、前記設計情報に基づいて作製された前記器具の作成精度。
(b)作製された前記器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ。
(c)作製された前記器具の患者の装着時におけるサイズのずれ。
【発明の効果】
【0011】
本開示のリスク評価システム、リスク評価方法、及びリスク評価プログラムによれば、再作製に係る器具の適合性に関するリスク評価を適切に行うことができる、という効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】リスク評価システムの適用対象とする概要を示す図である。
図2】本実施形態のリスク評価システムの構成の一例を示すブロック図である。
図3】本実施形態のリスク評価装置として機能するコンピュータの概略ブロック図である。
図4】リスクの評価結果の出力の一例を示す図である。
図5】リスク評価装置によって実行されるリスク評価処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態について詳細に説明する。本実施の形態のリスク評価システムは、患者の口腔内に装着する器具の適合性に関するリスクを評価する。図1は、リスク評価システムの適用対象とする概要を示す図である。リスク評価システムでは、リスク評価の主体を担う管理会社50が、歯科医院40及び技工所42から必要な種々の収集データからリスク情報を取得し、リスク情報に基づいてリスク評価を行う。収集データとしては、器具の作製に必要な設計情報、作製された器具自体(補綴物現物)のスキャンデータ等が得られる。設計情報は、法律に定められた技巧指示書と患者の口腔内の印象データを含む情報である。歯科医院40からは再作製依頼の際に、再設計情報として、再設計用の技術指示書と、上顎と下顎及び噛み合わせを再取得した印象データが技工所42へ送られる。また、再設計情報としての技巧指示書には、「少しきつめ」、「少し緩め」などの再設計のために必要な情報が含まれる。管理会社50は、保険会社60と保険料と保険金の契約を行っており、リスク評価を元に、再作製に係るコストの保険料を受け取る。管理会社50は、リスク評価に基づいて保険料の分配を行い、必要に応じてフィードバックを行う。
【0014】
リスク評価では、歯科医院40及び技工所42ごとに適合性のリスクを評価する。リスク評価は、個別のリスク情報が基準を満たすか否かに応じて個別のリスク評価を行い、総合的なリスク評価を求める。個別のリスク情報は、(a)器具のサイズを含む設計情報に対する、設計情報に基づいて作製された器具の作成精度、(b)作製された器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ、(c)その他の作製された器具に対する具体的な不適合の理由、等がある。リスク評価では、上記(a)、(b)、(c)から、歯科医院40及び技工所42ごとに、総合的な適合性スコアを求め、リスク評価結果として出力する。
【0015】
なお、本開示において、器具の作製及び再作製は、ミリングマシン、3Dプリンタ(DLP形式、SLA形式等)などのCAM装置を用いて行われる。
【0016】
<リスク評価システムの構成>
【0017】
図2は、本実施形態のリスク評価システムの構成の一例を示すブロック図である。リスク評価システム100は、リスク評価装置110と、複数の端末120とがネットワークNを介して接続されている。
【0018】
リスク評価装置110のハードウェアとしての構成を図3に示す。CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0019】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、解析処理のためのプログラムが格納されている。
【0020】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0021】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボード又は音声入力用のマイクを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0022】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能してもよい。
【0023】
通信インタフェース17は、端末等の他の機器と通信するためのインタフェースである。当該通信には、例えば、イーサネット(登録商標)若しくはFDDI等の有線通信の規格、又は、4G、5G、若しくはWi-Fi(登録商標)等の無線通信の規格が用いられる。
【0024】
端末120は、技工所42を管轄する管理会社50に設置されている端末である。端末120は、器具の再作製に係るデータをリスク評価装置110に送信する。器具の再作製に係るデータは、設計情報、スキャンデータ、再設計情報や、噛み合わせのずれといった情報である。また、端末120に、再作製に係るデータからリスク情報を自動取得するソフトウェアを予めインストールしておき、取得したリスク情報をリスク評価装置110に送信してもよい。
【0025】
リスク評価装置110は、機能的には、図2に示されるように、収集部112と、演算部114と、記憶部116とを備えている。
【0026】
収集部112は、端末120から受け付けた再作製に係るデータを記憶部116に格納する。また、収集部112は、再作製に係るデータからリスク情報を取得し、記憶部116に格納する。再作製に係るデータは、器具を再作製するための再設計情報と、作製された器具の作製に用いた設計情報と、作製された器具の実物のスキャンデータとを、少なくとも含む。なお、リスク情報は、演算部114で演算して取得してもよいし、端末120で取得してもよい。
【0027】
記憶部116は、端末120から受け付けた再作製に係るデータ、及び取得したリスク情報を記憶している。また、記憶部116は、リスク情報に基づいて器具に関するリスクを評価するためのデータを予め記憶している。リスク情報は、上記に説明した(a)、(b)、(c)の情報である。(a)器具のサイズを含む設計情報に対する、設計情報に基づいて作製された器具の作成精度、(b)作製された器具の患者の装着時における噛み合わせのずれ、(c)作製された器具の患者の装着時におけるサイズのずれ、(d)その他の作製された器具に対する不適合の理由、がリンク情報として格納される。
【0028】
ここで、リスク評価装置110が記憶部116に記憶する、適合性のリスクを評価するためのデータについて説明する。データとしては、例えば、リスク評価の各基準、又は、学習済みモデルが利用できる。
【0029】
(a)の基準について説明する。作製精度は、設計情報の器具のデザインとスキャンデータとのサイズ、及び形状等によって一致度合いに関する適合性のスコアが求められる。一致度合いに関する適合性のスコアが閾値以上であれば作製精度が高く、閾値未満であれば作成精度は低くなる。作製精度は、閾値を段階的に定め、「高い」、「やや高い」、「通常」、「やや低い」、「低い」といった段階的な評価を求める。作製精度が高ければ、技工所42の作製工程には問題がなかったと想定される。そのため技工所42の適合性は高くなるようなリスク評価とする。一方、作成精度が高い場合は設計情報の内容が不十分であるとして、歯科医院40について適合性が低くなるようなリスク評価とする。逆に作製精度が低い場合は、技工所42の適合性は低く、歯科医院40の適合性は高くなる評価とする。
【0030】
(b)の基準について説明する。作製精度のほか、リスク評価の観点として噛み合わせのずれの大きさが問題となる。そのため、噛み合わせのずれの大きさについて閾値を設ける。「噛み合わせのずれ」とは、正しい噛み合わせ(上顎・下顎の前歯の噛み合わせの深さ、上顎・下顎の前歯の中心部の一致、上顎の歯と下顎の歯の前後の並びの位置など)に対して、「歯の位置の前後左右のずれ」、「歯の位置が高い」、「歯の位置が低い」などのずれが生じている状態を指す。閾値は段階的に、「ずれが大きい」、「ずれがやや大きい」、「通常」、「ずれがやや低い」、「ずれが低い」といった段階的な評価を求める。作製精度が通常以上で、噛み合わせのずれが大きい場合、歯科医院40の設計情報に問題があったと想定されるため、歯科医院40について適合性が低くなるようなリスク評価とする。作製精度が通常未満で、噛み合わせのずれが大きい場合、歯科医院40の設計情報に問題がなかったと想定されるため、技工所42について適合性が低くなるようなリスク評価とする。また、噛み合わせのずれ量に応じて、ずれ量が大きいほど、適合性が低くなるようにリスク評価してもよい。(b)の噛み合わせのずれについては、上記(a)の一致度合いに関する適合性のスコアを補正する係数として扱ってもよいし、ずれの大きさに関する適合性のスコアとして求めてもよい。
【0031】
(c)の基準について説明する。器具のずれ、噛み合わせのずれとは別に、実際の患者の口腔内に対する器具のサイズのずれ(例えば、小さすぎたり大きすぎたりするために患者に適切に装着できないなどの状況が生じる)も重要なリスク情報である。そのため、装着時のサイズのずれについて閾値を設ける。閾値は段階的に、「ずれが大きい」、「ずれがやや大きい」、「通常」、「ずれがやや低い」、「ずれが低い」といった段階的な評価を求める。サイズのずれの大きさに対するリスク評価は、噛み合わせ同様に、ずれが大きい場合、歯科医院40について適合性が低く、技工所42について適合性が高くなるようなリスク評価とする。
【0032】
(d)の基準について説明する。不適合の理由は、歯科医院40で歯科医師が再作製依頼時に記入するものである。例えば、上記(a)、(b)、及び(c)などの情報を含む具体的な不適合の理由として記載される。上記(a)、(b)、及び(c)以外の情報も適合性を考慮するため、(d)の基準は、上記(a)、(b)、及び(c)以外の情報について、不適合の理由を歯科医院40で歯科医師が再作製依頼時に記入するものに対する基準として設けたものである。(d)の基準については、不適合の理由のキーワードとの一致度で適合性を判定すればよい。不適合の理由が、患者に起因する理由や、設計情報の作成時に見つけることが困難な理由である等の場合には、歯科医院40について適合性の低減を緩和するようなリスク評価とする。(d)の作製された器具に対する不適合の理由については、上記(a)の一致度合いに関する適合性のスコアを補正する係数として扱ってもよいし、他の理由に関する適合性のスコアとして求めてもよい。また、(d)では、設計情報と、再設計情報とのずれを考慮した不適合の理由に関する適合性のスコアを求めてもよい。設計情報と、再設計情報とのずれが大きい場合は、歯科医院40での印象データの取得時に何らかの問題があったと想定されるからである。
【0033】
データとして学習済みモデルを用いる場合について説明する。学習済みモデルは、例えば、深層学習の手法により、ニューラルネットワークモデルのパラメータの重みを学習したモデルであって、リスク情報を入力としてリスクの評価結果を出力するように予め学習されたモデルである。学習データは、実際に取得されたリスク情報(a)~(d)と、リスク評価の各基準を元にした正解となるリスク評価の結果とを用いる。モデルの学習は、例えば、リスク情報の各項目をニューラルネットワークのパラメータとして、実際に取得されたリスク情報が入力されたときに、正解となるリスクの評価結果を出力するように、パラメータの重みを学習する。深層学習は、他クラス分類問題に適用可能な任意の手法を用いればよい。
【0034】
演算部114は、歯科医院40及び技工所42ごとに、上記(a)~(d)のリスク情報と、リスク情報に対する各基準に基づいて、再作製となった器具の適合性に関するリスクを評価し、リスクの評価結果を端末120に出力する。
【0035】
演算部114によるリスク評価では、上記(a)~(d)のリスク情報をそれぞれの基準で個別のリスク評価を行う。演算部114は、個別のリスク評価を統合して、総合的な適合性スコアを求める。リスク評価では、適合性スコアに対する閾値を段階的に定めておき、判定結果を求め、適合性スコアと判定結果をリスク評価結果として出力する。判定結果は、「高い」、「やや高い」、「通常」、「やや低い」、「低い」の高低を示す何れかの結果や、「問題なし」、「概ね問題なし」、「やや問題あり」、「問題あり」の何れかの問題有無を示す結果を適宜設計に応じて出力すればよい。
【0036】
また、演算部114は、再設計情報と、設計情報と、スキャンデータとを比較し、再作製する器具の変更に係るフィードバック情報を生成して、端末120に出力する。フィードバック情報としては、(e)再作製する前記器具に係る造形時の角度及びサポートピンの立て方の変更箇所、(f)再作製する前記器具に係る形状変更箇所を出力する。なお、「サポートピン」とは、3Dプリンタを用いた造形の過程で造形対象物を支えるピン状の材料のことを指す。
【0037】
図4は、リスクの評価結果の出力の一例を示す図である。図4に示す例では、A歯科医院とB技工所のそれぞれについて適合性のリスクの評価結果を表示している。評価段階は、Aが問題なし、Bが概ね問題なし、Cがやや問題あり、Dが問題ありとしている。また、B技工所に対してフィードバックの詳細へのリンクを示している。このように、歯科医院40と技工所42のリスクの評価結果を比較できるように表示する。これにより、管理会社50及び保険会社60はリスクの評価結果を比較し、保険料の適切な分配を検討できる。
【0038】
<リスク評価システムの作用>
【0039】
次に、リスク評価システム100の作用を説明する。
【0040】
図5は、リスク評価装置110によって実行されるリスク評価処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14からリスク評価プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、リスク評価処理が行なわれる。
【0041】
ステップS100において、CPU11は収集部112として、端末120から受け付けた再作製に係るデータを記憶部116に格納する。
【0042】
ステップS102において、CPU11は収集部112として、再作製に係るデータからリスク情報を取得し、記憶部116に格納する。
【0043】
ステップS104において、CPU11は演算部114として、歯科医院40及び技工所42ごとに、リスク情報と、リスク情報に対する各基準に基づいて、再作製となった器具の適合性に関するリスクを評価し、リスクの評価結果を端末120に出力する。
【0044】
ステップS106において、CPU11は演算部114として、再設計情報と、設計情報と、スキャンデータとを比較し、再作製する器具の変更に係るフィードバック情報を生成して、端末120に出力する。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係るリスク評価システム100は、再作製に係る器具の適合性に関するリスク評価を適切に行うことができる。
【0046】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0047】
また、本願明細書中において、プログラムが予めインストールされている実施形態として説明したが、当該プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
100 リスク評価システム
110 リスク評価装置
112 収集部
114 演算部
116 記憶部
120 端末
図1
図2
図3
図4
図5