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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119939
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61D 17/12 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
B61D17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023081
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】供田 和恵
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳寛
(57)【要約】
【課題】
艤装用の空間を確保するとともに、配線の作業性の向上を図ることが可能な鉄道車両を提供すること。
【解決手段】
車両構体2の屋根部を形成する屋根構体24を備え、屋根構体24は、屋根外板32と、車両構体2の枕木方向に沿って延在し、屋根外板32を支持する垂木34と、垂木34の下方で車両構体2の軌道方向に沿って延在する内骨部材36と、を備える鉄道車両1において、内骨部材36は、車両構体2の軌道方向の両端部のうちの一方の端部から他方の端部まで連続した、艤装を行うための艤装用空間364と、車両構体2の内方に向かって開口する開口部363と、を備えること、艤装用空間364は、開口部363からアクセス可能であること。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両構体の屋根部を形成する屋根構体を備え、前記屋根構体は、屋根外板と、前記車両構体の枕木方向に沿って延在し、前記屋根外板を支持する垂木と、前記垂木の下方で前記車両構体の軌道方向に沿って延在する内骨部材と、を備える鉄道車両において、
前記内骨部材は、
前記車両構体の軌道方向の両端部のうちの一方の端部から他方の端部まで連続した、艤装を行うための艤装用空間と、
前記車両構体の内方に向かって開口する開口部と、
を備えること、
前記艤装用空間は、前記開口部からアクセス可能であること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記内骨部材は、前記枕木方向の両側面部の所定の位置に、前記内骨部材の外部と前記艤装用空間とを連通する貫通孔を備えること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄道車両において、
前記内骨部材の開口部の枕木方向の両端を接続する部材を、軌道方向において連続または断続的に設けること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
請求項1または2または3に記載の鉄道車両において、
前記内骨部材は、前記開口部の下端部に、前記艤装用空間とは反対側の外方に延伸するフランジ部を備えること、
前記フランジ部は 内装部材を結合可能な結合部であること、
前記結合部は、少なくとも前記軌道方向に浮動可能な浮動部材を備えること、
前記内装部材は、前記浮動部材を介して、前記結合部に結合されること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道車両において、
前記内骨部材は、前記枕木方向に切断した断面が、前記開口部と前記フランジ部とによりハット形に形成された、ハット形材であること、
を特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両構体の屋根部を形成する屋根構体を備え、屋根構体は、屋根外板と、車両構体の枕木方向に沿って延在し、屋根外板を支持する垂木と、垂木の下方で車両構体の軌道方向に沿って延在する内骨部材と、を備える鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、台車と、台車に支持される車両構体を有しており、車両構体は、鉄道車両の床部をなす台枠と、台枠の軌道方向の両端部に立設されることで車両構体の連結部を形成する一対の妻構体(例えば切妻構体)と、台枠の枕木方向の両端部に立設されることで車両構体の側面部を形成する一対の側構体と、一対の妻構体の上端部および一対の側構体の上端部に結合されることで車両構体の屋根部を形成する屋根構体とにより6面体をなすように構成されることが一般的である。
【0003】
そして、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されるように、屋根構体と客室の天井との間の空間を利用して、電子機器類や空調用ダクトの配設、電源用電線や通信用電線の配線等の艤装が行われる。
【0004】
図7および図8を用いて具体的に説明すると、屋根構体240は、屋根部の外表面を形成する屋根外板320と、車両構体200の枕木方向に沿って延在し、屋根外板320を支持する垂木340と、車両構体200の軌道方向に沿って延在する一対の内骨部材360と、からなる。なお、内骨部材360は 車両構体200の外方側に開口する断面ハット形に形成されており、内骨部材360の下方には客室の吊り手棒400や灯具420が位置している。
【0005】
この屋根構体240と客室280の天井290との間の空間を利用して、艤装が行われるわけであるが、例えば、一対の内骨部材360の間の空間や、内骨部材360の車両構体200の外方側の空間に、空調用ダクト410A,410B,410Cが配設されている。さらに、空調用ダクト410Cの車両構体200の外方側の空間や、内骨部材360の側壁に沿って、電線W100,W110等が配線されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-52746号公報
【特許文献2】特開2012-236496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、行先表示やニュース等の表示を行う車内情報画面や、防犯カメラ、通信機器等、鉄道車両に設置する電子機器が増加している。また、設置する機器の増加に伴い、配線が必要な電線の本数も増加する。そのため、電子機器や、配線のための艤装用の空間をより大きく確保することが望まれている。
例えば、空調用ダクト410を小さくすることで、艤装用の空間を確保することが可能とも考えられるが、ダクトを小さくすると、空調の動作効率に悪影響を及ぼすおそれがあるため望ましくない。また、客室280の天井290を低くするなどして、屋根構体240と天井290との間の空間を拡大することで、艤装用の空間を確保することが可能とも考えられるが、客室空間を狭くすることになり、居住性の低下に繋がるおそれがあるため、望ましくない。よって、いかに艤装用の空間を確保するかが課題となっている。
【0008】
また、図7図8に示すように、内骨部材360の下方に灯具420が配置されるため、内骨部材360の側面に配線された電線W110と灯具420とを接続するために、電線W110を内骨部材360の側面から内骨部材360の内部に通す必要があり、電線W110の取り回しが容易でない。つまり、配線の作業性が悪く、鉄道車両の製造効率に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、艤装用の空間を確保するとともに、配線の作業性の向上を図ることが可能な鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の鉄道車両は、次のような構成を有している。
(1)車両構体の屋根部を形成する屋根構体を備え、前記屋根構体は、屋根外板と、前記車両構体の枕木方向に沿って延在し、前記屋根外板を支持する垂木と、前記垂木の下方で前記車両構体の軌道方向に沿って延在する内骨部材と、を備える鉄道車両において、前記内骨部材は、前記車両構体の軌道方向の両端部のうちの一方の端部から他方の端部まで連続した、艤装を行うための艤装用空間と、 前記車両構体の内方に向かって開口する開口部と、を備えること、前記艤装用空間は、前記開口部からアクセス可能であること、を特徴とする。
【0011】
(1)に記載の鉄道車両によれば、内骨部材は、車両構体の軌道方向の両端部のうちの一方の端部から他方の端部まで連続した、艤装を行うための艤装用空間を備えるため、この艤装用空間に、電子機器類の配設や電線の配線を行うことが出来る。つまり、従来、内骨部材360が位置しており、艤装用の空間として用いることが出来なかった箇所を艤装用の空間として確保することが可能である。
【0012】
また、艤装用空間は、車両構体の内方に向かって開口する開口部からアクセス可能であるため、内骨部材の下方側(車両構体の内方側)に灯具等の電線の接続が必要な設備が位置した場合でも、当該設備用の電線を艤装用空間に配線し、当該電線を開口部から当該設備に接続可能である。よって、従来行っていた、内骨部材の側面に配線される電線を内骨部材の内部に通すという作業が必要ないため、従来に比べ配線の作業性の向上を図ることが出来る。
【0013】
(2)(1)に記載の鉄道車両において、前記内骨部材は、前記枕木方向の両側面部の所定の位置に、前記内骨部材の外部と前記艤装用空間とを連通する貫通孔を備えること、を特徴とする。
【0014】
(2)に記載の鉄道車両によれば、内骨部材は、枕木方向の両側面部の所定の位置に、内骨部材の外部と艤装用空間とを連通する貫通孔を備えるため、あらゆる電線を艤装用空間に集約して配線し、艤装用空間に配線した電線を、所定の位置で、貫通孔から内骨部材の外部に取り出すことが可能となる。ここで、所定の位置とは、鉄道車両の備える電子機器類等の設備の位置に応じて定められるものであり、例えば、客室の枕木方向の両端部に設置される車内情報画面に、電線の接続が必要であれば、その接続が可能なように内骨部材に貫通孔を設け、艤装用空間から、貫通孔を介し、当該車内情報画面に向けて電線を延伸させる。電線を艤装用空間に集約して配線可能とすることで、配線作業を一箇所で集中して行えるようになるため、作業性の向上を図ることが可能である。
【0015】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両において、前記内骨部材の開口部の枕木方向の両端を接続する部材を、軌道方向において連続または断続的に設けること、を特徴とする。
【0016】
(3)に記載の鉄道車両によれば、内骨部材の開口部の枕木方向の両端を接続する部材(補強材)により、内骨部材が車両構体の内方に向かって開口していることにより発生する内骨部材の曲げ強度の低下を軽減できる。
【0017】
(4)(1)または(2)または(3)に記載の鉄道車両において、前記内骨部材は、前記開口部の前記枕木方向の下端部に、前記艤装用空間とは反対側の外方に延伸するフランジ部を備えること、前記フランジ部は 内装部材を結合可能な結合部であること、前記結合部は、少なくとも前記軌道方向に浮動可能な浮動部材を備えること、前記内装部材は、前記浮動部材を介して、前記結合部に結合されること、を特徴とする。
【0018】
(5)(4)に記載の鉄道車両において、前記内骨部材は、前記枕木方向に切断した断面が、前記開口部と前記フランジ部とによりハット形に形成された、ハット形材であること、を特徴とする。
【0019】
従来、内装部材(例えば吊り手棒400等)を内骨部材360に取り付ける際、鉄道車両の組み立て現場で、内装部材の取付位置の調整を行い、取付位置の決定を行っていた。そして、内骨部材360の、上記決定した取付位置に対応する箇所に、穴あけを行い、ボルトによる締結を行っていた。取付位置の調整や穴あけ作業には時間がかかるため、鉄道車両の製造効率の低下に繋がるおそれがある。また、穴あけ作業により切り粉が発生し、飛散する。そうすると、切り粉の除去作業に時間がかかり、鉄道車両の製造効率が低下する。また、飛散した切り粉を完全に除去することは困難であり、車内空間に残留すると、乗客の怪我に繋がるおそれがある。さらに、切り粉が配線を傷つけて配線が地絡する、切り粉が機器の接点を短絡する、など車内に残留した切り粉は機器誤動作の原因となりうる。
【0020】
(4)または(5)に記載の鉄道車両によれば、少なくとも前記軌道方向に浮動部材(例えば、吊り溝やフローティングナット等)により取付位置の調整を容易に行うことが出来るため、鉄道車両の製造効率の低下を防ぐことが出来る。また、浮動部材を介して内骨部材の結合部に内装部材を結合可能であるため、切り粉の発生原因である穴あけ作業を要することなく内装部材を内骨部材に取り付け可能である。よって、切り粉の除去作業による鉄道車両の製造効率の低下を防止することが出来る。また、切り粉の残留によって、機器の誤動作や乗客の怪我に繋がるおそれがない。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鉄道車両によれば、艤装用の空間を確保するとともに、配線の作業性の向上を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る鉄道車両の構成を示す側面図である。
図2】車両構体を枕木方向に切断した部分断面図である。
図3図2の部分Aの部分拡大図である。
図4図3のB-B断面図である。
図5】本実施形態に係る鉄道車両の変形例を示す図である。
図6】本実施形態に係る鉄道車両の変形例を示す図である。
図7】従来技術に係る車両構体を枕木方向に切断した部分断面図である。
図8図7の部分Cの部分拡大図である。
図9】内骨部材に補強材を適用した例を示す図である。
図10】内骨部材に補強材を適用した例を示す図である。
図11】内骨部材に補強材を適用した例を示す図である。
図12】内骨部材に補強材を適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る鉄道車両の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る鉄道車両1の構成を示す側面図である。図2は、車両構体2を枕木方向に切断した部分断面図である。図3は、図2の部分Aの部分拡大図である。図4は、図3のB-B断面図である。
【0024】
鉄道車両1は、軌道(不図示)を走行することが可能な、例えば通勤車両であり、図1に示すように、車両構体2と、枕ばね4を介して車両構体2の前後を支持する一対の台車5(一方の図示を省略)と、を有している。なお、鉄道車両としては、通勤車両に限定されるものではなく、特急車両等でも良い。
【0025】
車両構体2は、鉄道車両の床部をなす台枠21と、台枠の軌道方向の両端部に立設されることで車両構体の連結部を形成する一対の妻構体22(例えば先頭妻構体や切妻構体)と、台枠21の枕木方向の両端部に立設されることで車両構体2の側面部を形成する一対の側構体23と、一対の妻構体22の上端部および一対の側構体23の上端部に結合されることで車両構体2の屋根部を形成する屋根構体24と、により6面体をなすように構成されている。
【0026】
車両構体2の内部は客室28(図2参照)や乗務員室を有しており、車両構体2には、客室28に通じる乗客乗降口25および窓26、乗務員室に通じる乗務員乗降口27が設けられている。また、客室28の天井29には、図2に示すように、吊り手棒40や灯具42が固定されている。
【0027】
屋根構体24は、図2に示すように、屋根外板32と、垂木34と、内骨部材36と、を備えている。屋根外板32には、板厚が0.6~2.5mm程度のステンレス鋼等が用いられており、枕木方向に切断した断面が、枕木方向の中央部が上方に膨出したアーチ状に形成されている。
【0028】
垂木34は、炭素鋼、ステンレス鋼やアルミ合金などの金属により形成されたZ形材である。垂木34は、鉄道車両1の枕木方向に沿って、一対の側構体23を横架するように延在するとともに、枕木方向に切断した断面が、屋根外板32の形状に沿ったアーチ状に形成されることで、屋根外板32を内面側から支持している。また、垂木34は、車両構体2の軌道方向に所定の間隔(例えば1mの間隔)を持って、複数本設けられている。そして、垂木34の、屋根外板32とは反対側の下端面341には、一対の内骨部材36が結合されている。
【0029】
内骨部材36は、枕木方向に切断した断面がハット形に形成され、軌道方向に沿って延在する長尺部材である。なお、この内骨部材36は、例えば、厚み約2mmのステンレス鋼等からなる板材を曲げ成形することにより得られるものである。また、内骨部材36の軌道方向の長さは車両構体2の軌道方向の長さとほぼ同一であり、例えば約20mである。
【0030】
内骨部材36は、垂木34とは反対側の車両構体2の内方側に開口する開口部363を備えるコの字状の本体部361を備えている。この本体部361の、垂木34側の閉塞部361aは、枕木方向の両端部において、溶接(例えばフレア溶接や、隅肉溶接)により垂木34に対し固定されている。これにより、内骨部材36が垂木34に結合されている。なお、内骨部材36が垂木34に結合する手段としては、溶接に限定するものでなく、ボルト等の固定具を用いることとしても良い。
【0031】
内骨部材36の本体部361の内部空間は、開口部363により車両構体2の内方側に開放された艤装用空間364とされている。内骨部材36の軌道方向の長さが車両構体2の軌道方向の長さとほぼ同一であるため、艤装用空間364は車両構体2の軌道方向のおおよそ全長に渡って設けられている。
【0032】
この艤装用空間364によって、従来、内骨部材が位置しており、艤装用の空間として用いることが出来なかった箇所を艤装用の空間として確保することが可能となっている。例えば、艤装用空間364には、軌道方向に沿って延在する配線用の配管44が、クリップ部材46により、艤装用空間364の車両構体2の軌道方向中央側の内壁に固定されている。配管44は、複数本が同軸上に並べられることで、艤装用空間364の軌道方向の全長に渡って延在しており、例えば、車両構体2の軌道方向の長さが20m程度であれば、5m程度の長さの配管44を、4本同軸上に並べて配設する。そして、複数本並べられた配管44の継ぎ目は、配管44内に配線される電線W11を、配管44の外部に取り出して、電子機器類や灯具42等に向けて配線することが可能な程度の隙間を有する。なお、配管44の長さ、本数は上記に限定されない。
【0033】
配管44の内部に電線W11を通すことで、艤装用空間364内において、軌道方向に沿って配線を行うことが可能である。配管44内を用いて配線される電線W11は、例えば通信系の電線であり、配管44内に配線されることで、ノイズの影響を受けにくくなる。また、通信系以外の電線W12は、例えば、後述する貫通孔365(図4参照)に通した結束バンド48を用いることで、複数本が結束されるとともに、艤装用空間364の配管44が配設されている内壁に向かい合う内壁に、軌道方向に沿って配線されている。なお、電線を配管44内に配線する電線とそうでない電線は、必ずしも通信系か否かにより判断されるものでない。例えば、電流が交流か直流かにより、配管44内に配線する電線とそうでない電線を区別するものとしても良い。また、艤装用空間364内における、配管44と結束バンド48の配設位置は上に説明した態様に限定されず、任意に選択可能である。なお、艤装用空間364内では、配線を行う以外にも、電子機器類(電源装置や通信機器等)を配設することも可能である。
【0034】
開口部363により車両構体2の内方側に開放された艤装用空間364に
配線を行うことで、例えば、内骨部材36の下方に位置する灯具42に電線を接続する場合に、灯具42用の電線を艤装用空間364に配線し、当該電線を開口部363から灯具42に接続可能である。よって、従来行っていた、内骨部材の側面に配線される電線を内骨部材の内部に通すという作業が必要ないため、従来に比べ配線の作業性の向上を図ることが出来る。
【0035】
さらに、内骨部材36の本体部361は、枕木方向の両側面部の所定の位置に、内骨部材36の外部と艤装用空間364とを連通する貫通孔365(図4参照)を備えている。貫通孔365の形状は特に限定されないが、例えば、図4に示すように、軌道方向に長手方向を有する長円形状とされる。
【0036】
上記した所定の位置とは、本実施形態では図4に示すように、軌道方向に沿って等間隔に、複数の長円形状の穴を上下2列に並べて設けているが、鉄道車両1の備える電子機器類等の設備の位置に応じて定められるものであってもよく、例えば、客室28の側天井30付近に、行先表示やニュース等の表示を行う車内情報画面を設置する場合、この車内情報画面に電線の接続をするために、その接続が可能なように内骨部材36に貫通孔365を設け、艤装用空間364から、貫通孔365を介し、当該車内情報画面に向けて電線を延伸させる。
【0037】
鉄道車両1は、車内情報画面の他にも、乗客と乗員の間の連絡手段としての非常通報機や、客室28内の防犯カメラ、空調機等を備えることが考えられる。これら設備の設置される位置に応じて、内骨部材36に貫通孔365を設けることで、それぞれの設備に接続が必要な電線を、艤装用空間364に配線した上、艤装用空間364から、貫通孔365を介し、当該車内情報画面等の設備に向けて電線を延伸させることが出来る。なお、貫通孔365に通す電線は、例えば、同軸上に並ぶ配管44と配管44との継ぎ目から取り出した電線や、結束バンド48により結束された電線の束から取り出した電線である。
【0038】
以上のように、内骨部材36の貫通孔365により、鉄道車両1が備える様々な設備に必要な電線を艤装用空間364に集約して配線することが可能となる。よって、配線作業を一箇所で集中して行えるようになるため、作業性の向上を図ることが可能である。なお、上記の通り、貫通孔365は艤装用空間364内に配線された電線を通すものであるため、貫通孔365の大きさは、艤装用空間364内に配線された電線を通すことが出来る程度の大きさに設定される。
【0039】
また、一対の内骨部材36の間の空間や、内骨部材36の車両構体2の外方側の空間に、空調用ダクト410A,410B,410Cが配設されている。従来、図7に示すように、空調用ダクト410Cの車両構体200の外方側の空間に、電線W100等が配線されていたが、本実施形態においては、内骨部材36の艤装用空間364に配線することが可能であるため、空調用ダクト410Cの車両構体2の外方側の空間に配線する電線の本数を減らすことが出来る。これにより、空調用ダクト410Cの車両構体2の外方側の空間に、車内情報画面等の設備を設置するスペースを確保することが出来る。
【0040】
内骨部材36は下側に向かって開口しているため、図8のような開口していない従来形状と比べて、曲げ剛性が低い。これを補うために、例えば、図9に示すような補強材601,602,603(部材の一例)を追加することができる。補強材601,602,603は、内骨部材36の開口部363の枕木方向の両端を接続するための部材であり、例えば厚さ2mmのステンレス板により構成される。補強材601,602,603は、締結・溶接などの手段で内骨部材36に取り付ける。補強材601,602,603により開口部363の枕木方向の両端が互いに拘束されるため、内骨部材36に曲げ荷重が負荷された時の、開口が開く・閉じる方向の変形を抑止でき、剛性が向上する。
【0041】
補強材601は、枕木方向に長手方向を有する矩形状の平板であり、当該長手方向の長さが、開口部363の枕木方向の端部同士(フランジ部362同士)を横架可能な長さとされている。また、枕木方向の両端部には、厚み方向に貫通する通し孔601aが設けられている。補強材601は、通し孔601aを利用して、ボルト384およびナット385により、開口部363の枕木方向の両端(フランジ部362)にそれぞれ1か所ずつ、合計2か所を固定する形態の補強材である。
【0042】
補強材602は、軌道方向に長手方向を有する矩形状の平板であり、枕木方向に平行な短手方向の長さが、開口部363の枕木方向の端部同士(フランジ部362同士)を横架可能な長さとされている。また、補強材602は、枕木方向の両端部には、厚み方向に貫通する通し孔602aが設けられている。補強材602は、通し孔602aを利用して、ボルト384およびナット385により、開口部363の枕木方向の両端(フランジ部362)において、それぞれ複数個所で固定する形態の補強材である。
【0043】
補強材603は、補強材602と同等の形状で、厚み方向に貫通する通し孔603aが枕木方向の両端で互い違いに設けられている。つまり、補強材603は、固定箇所を開口部363の枕木方向の両端で互い違いにすることにより、固定箇所を減らしつつ広範囲を接続できるようにした形態の補強材である。なお、図9においては、補強材602,603を固定するためのボルト384およびナット385を省略しているが、ボルト384およびナット385は、すべての通し孔602a,603aに対して用いられる。
【0044】
補強材601,602,603のいずれを使用するかは、内骨部材36に求められる強度に応じて選択可能であり、例えば、図10のように補強材601を軌道方向において断続的に設けても良いし、または図11のように、補強材603(または補強材602)を軌道方向に隣接して並べて、軌道方向において連続的に、開口部363に蓋をするように設けても良い。なお、図10,11においても、一部のボルト384およびナット385のみ表示しているが、省略しているが、すべての通し孔601a,602a,603aに対して用いられる。
【0045】
さらに、内骨部材36は、開口部363の下端部であって、枕木方向の両端部のそれぞれに、艤装用空間364とは反対側の外方に延伸するフランジ部362を備えている。フランジ部362には、車両構体2内方側の端面に吊り溝38(浮動部材の一例)が結合されており、この吊り溝38を介して、吊り手棒40が結合されている。吊り溝38は、フランジ部362の、車両構体2の内方側の端面に結合されている。この吊り溝38は、レール部材381と、ボルト382を備えている。
【0046】
レール部材381は、車両構体2の内方側にレール開口部381aを備えることで、枕木方向に切断した断面がC形に形成された押出成形品であり、軌道方向に沿って延在する長尺部材である。また、ボルト382は、頭部382aがレール部材381の内部に保持されており、頭部382aに対し直角に立設されるねじ部382bは、レール部材381のレール開口部381aから、車両構体2の内方側に突出している。これにより、ボルト382は、ねじ部382bをレール部材381から突出させた状態で、レール部材381に沿って(すなわち軌道方向に沿って)、スライド移動(浮動)することが可能となっている。
【0047】
吊り手棒40は、直方体状の台座401と、台座401に立設される吊り手棒受402と、を備え、吊り手棒受402によって、吊革(不図示)が吊るされる棒状部材403が支持されている。そして、吊り手棒40は、台座401に、レール部材381から突出しているボルト382のねじ部382bをナット383と螺合することで、内骨部材36に固定されている。なお、吊り手棒40の台座401と吊り溝38との間には任意の厚みのライナ50が挟みこんであり、台座401が水平となるよう角度調整がなされている。台座401の、ねじ部382bを螺合する箇所は、例えば、直方体状の台座401の四隅である。ただし、四隅に限定されず、台座401の軌道方向の長さが長い場合は、四隅の他、軌道方向中央部でも螺合される。また、フランジ部362に吊り溝38を介して結合する内装部材は、吊り手棒40に限定されない。
【0048】
従来、内装部材(例えば吊り手棒400等)を内骨部材360に取り付ける際、鉄道車両の組み立て現場で、内装部材の取付位置の調整を行い、取付位置の決定を行っていた。そして、内骨部材360の、上記決定した取付位置に対応する箇所に、穴あけを行い、ボルトによる締結を行っていた。取付位置の調整や穴あけ作業には時間がかかるため、鉄道車両の製造効率の低下に繋がるおそれがある。また、穴あけ作業により切り粉が発生し、飛散する。そうすると、切り粉の除去作業に時間がかかり、鉄道車両の製造効率が低下する。また、飛散した切り粉を完全に除去することは困難であり、車内空間に残留すると、乗客の怪我に繋がるおそれがある。さらに、切り粉が配線を傷つけて配線が地絡する、切り粉が機器の接点を短絡する、など車内に残留した切り粉は機器誤動作の原因となりうる。
【0049】
その点、本実施形態に係る鉄道車両1は、上に説明したように吊り溝38のボルト382により、吊り手棒40等の内装部材を内骨部材36に結合可能であるため、軌道方向にスライド可能なボルト382により、吊り手棒40等の内装部材の取付位置の調整を容易に行うことが可能である。よって、鉄道車両の製造効率の低下を防ぐことが出来る。さらに、切り粉の発生原因である穴あけ作業を要しないため、切り粉の除去作業による鉄道車両1の製造効率の低下を防止することが出来る。また、切り粉の残留によって、機器の誤動作や乗客の怪我に繋がるおそれがない。なお、吊り溝38は、内骨部材36の軌道方向の全長に渡って設けても良いし、吊り手棒40等の内装部材の固定を行う箇所にのみ設けても良い。
【0050】
また、吊り手棒40等の内装部材の固定には、吊り溝38以外にも、フローティングナットを用いることも可能である。フローティングナットを用いることによっても、吊り手棒40等の内装部材の取付位置の調整を容易に行うことが可能あるし、切り粉の発生を防ぐことも可能である。
【0051】
先述の補強材601,602,603は、吊り溝38のような浮動部材を使用する場合にも適用可能である。例えば、図12に示すように、補強材601を、レール部材381から突出しているボルト382およびナット383と螺合することで、開口部363の両端を接続し、内骨部材36の剛性を向上させることができる。なお、レール部材381から突出しているボルト382の本数を増やすことで、補強材602,603も適用可能である。
【0052】
次に、変形例について説明する。内骨部材36の艤装用空間364に配線を行う場合、図5に示すように、内骨部材36の開口部363の枕木方向の両端を接続する部材として配線用の台座部材52を用いることも可能である。
【0053】
台座部材52は、平板状の固定部521を備えている。この固定部521は、枕木方向の両端部が、吊り溝38のボルト382およびこれに螺合するナット383により固定されている。これにより、台座部材52は、内骨部材36の開口部363を塞ぐようにして、吊り溝38を介して、内骨部材36のフランジ部362に結合されている。固定部521の内骨部材36側の端面には壁部522が立設され、その両側面に、水平方向に平行な平面を形成する複数の受け部523が設けられている。そして、この受け部523の上に、配線することが可能となっている。例えば、受け部523の上に、配管44を固定し、その中に複数本の電線W21を配線しても良いし、結束バンド48で結束した複数本の電線W22を配線しても良い。
【0054】
また、吊り手棒40は、内骨部材36のフランジ部362に、吊り溝38を用いて結合されるものとして説明したが、図6に示すように、吊り溝38を用いずに、フランジ部362に結合するものとしても良い。
【0055】
具体的には、内骨部材36は、フランジ部362の車両構体2外方側の端面に、フローティングナット54を有している。このフローティングナット54は、一般的なフローティングナットである。そして、このフローティングナット54に、吊り手棒40の台座401の車両構体2の内方側の面から挿通させたボルト56を螺合することで、吊り手棒40が固定されている。吊り手棒40の固定を行う際には、フローティングナット54の有する浮動量の範囲内で、吊り手棒40の取付位置の調整を行うことが可能である。また、吊り手棒40の台座401とフランジ部362との間には任意の厚みのライナ50が挟みこんであり、台座401が水平となるよう角度調整がなされている。
【0056】
以上説明したように、第1の実施形態の鉄道車両1は、
(1)車両構体2の屋根部を形成する屋根構体24を備え、屋根構体24は、屋根外板32と、車両構体2の枕木方向に沿って延在し、屋根外板32を支持する垂木34と、垂木34の下方で車両構体2の軌道方向に沿って延在する内骨部材36と、を備える鉄道車両1において、内骨部材36は、車両構体2の軌道方向の両端部のうちの一方の端部から他方の端部まで連続した、艤装を行うための艤装用空間364と、車両構体2の内方に向かって開口する開口部363と、を備えること、艤装用空間364は、開口部363からアクセス可能であること、を特徴とする。
【0057】
(1)に記載の鉄道車両1によれば、内骨部材36は、車両構体2の軌道方向の両端部のうちの一方の端部から他方の端部まで連続した、艤装を行うための艤装用空間364を備えるため、この艤装用空間364に、電子機器類の配設や電線の配線を行うことが出来る。つまり、従来、内骨部材360が位置しており、艤装用の空間として用いることが出来なかった箇所を艤装用の空間として確保することが可能である。
【0058】
また、艤装用空間364は、車両構体2の内方に向かって開口する開口部363からアクセス可能であるため、内骨部材36の下方側(車両構体2の内方側)に灯具42等の電線の接続が必要な設備が位置した場合でも、当該設備(灯具42)用の電線を艤装用空間364に配線し、当該電線を開口部363から当該設備(灯具42)に接続可能である。よって、従来行っていた、内骨部材の側面に配線される電線を内骨部材の内部に通すという作業が必要ないため、従来に比べ配線の作業性の向上を図ることが出来る。
【0059】
(2)(1)に記載の鉄道車両1において、内骨部材36は、枕木方向の両側面部の所定の位置に、内骨部材36の外部と艤装用空間364とを連通する貫通孔365を備えること、を特徴とする。
【0060】
(2)に記載の鉄道車両1によれば、内骨部材36は、枕木方向の両側面部の所定の位置に、内骨部材36の外部と艤装用空間364とを連通する貫通孔365を備えるため、あらゆる電線を艤装用空間364に集約して配線し、艤装用空間364に配線した電線を、所定の位置で、貫通孔365から内骨部材36の外部に取り出すことが可能となる。ここで、所定の位置とは、鉄道車両1の備える電子機器類等の設備の位置に応じて定められるものであり、例えば、客室28の枕木方向の両端部に設置される車内情報画面に、電線の接続が必要であれば、その接続が可能なように内骨部材36に貫通孔365を設け、艤装用空間364から、貫通孔365を介し、当該車内情報画面に向けて電線を延伸させる。電線を艤装用空間364に集約して配線可能とすることで、配線作業を一箇所で集中して行えるようになるため、作業性の向上を図ることが可能である。
【0061】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両1において、内骨部材36の開口部363の枕木方向の両端を接続する部材(補強材601,602,603)を、軌道方向において連続または断続的に設けたこと、を特徴とする。
【0062】
(3)に記載の鉄道車両1によれば、内骨部材の開口部の枕木方向の両端を接続する部材(補強材601,602,603)により、内骨部材36が車両構体の内方に向かって開口していることにより発生する、内骨部材の曲げ強度の低下を軽減できる。
【0063】
(4)(1)または(2)または(3)に記載の鉄道車両1において、内骨部材36は、開口部363の下端部に、艤装用空間364とは反対側の外方に延伸するフランジ部362を備えること、フランジ部362は 内装部材(例えば吊り手棒40)を結合可能な結合部であること、前記結合部は、少なくとも軌道方向に浮動可能な浮動部材(例えば、吊り溝38やフローティングナット等)を備えること、内装部材(例えば吊り手棒40)は、浮動部材(例えば、吊り溝38やフローティングナット等)を介して、前記結合部に結合されること、を特徴とする。
【0064】
(5)(4)に記載の鉄道車両1において、内骨部材36は、枕木方向に切断した断面が、開口部363とフランジ部362とによりハット形に形成された、ハット形材であること、を特徴とする。
【0065】
従来、内装部材(例えば吊り手棒400等)を内骨部材360に取り付ける際、鉄道車両の組み立て現場で、内装部材の取付位置の調整を行い、取付位置の決定を行っていた。そして、内骨部材360の、上記決定した取付位置に対応する箇所に、穴あけを行い、ボルトによる締結を行っていた。取付位置の調整や穴あけ作業には時間がかかるため、鉄道車両の製造効率の低下に繋がるおそれがある。また、穴あけ作業により切り粉が発生し、飛散する。そうすると、切り粉の除去作業に時間がかかり、鉄道車両の製造効率が低下する。また、飛散した切り粉を完全に除去することは困難であり、車内空間に残留すると、乗客の怪我に繋がるおそれがある。さらに、切り粉が配線を傷つけて配線が地絡する、切り粉が機器の接点を短絡する、など車内に残留した切り粉は機器誤動作の原因となりうる。
【0066】
(4)または(5)に記載の鉄道車両1によれば、少なくとも軌道方向に浮動部材(例えば、吊り溝38やフローティングナット等)により取付位置の調整を容易に行うことが出来るため、鉄道車両1の製造効率の低下を防ぐことが出来る。また、浮動部材(例えば、吊り溝38やフローティングナット等)を介して内骨部材36の結合部に内装部材を結合可能であるため、切り粉の発生原因である穴あけ作業を要することなく内装部材を内骨部材に取り付け可能である。よって、切り粉の除去作業による鉄道車両の製造効率の低下を防止することが出来る。また、切り粉の残留によって、機器類や配線に障害が発生するおそれや、乗客の怪我に繋がるおそれがない。
【0067】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、本実施形態においては、内骨部材としてハット形材を用いているが、これに限定されず、内骨部材36を枕木方向の中央部で分割したような2部品構成の内骨部材としても良い。
【符号の説明】
【0068】
1 鉄道車両
2 車両構体
24 屋根構体
32 屋根外板
34 垂木
36 内骨部材
363 開口部
364 艤装用空間
601 補強材
602 補強材
603 補強材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12