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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119944
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】熱処理炉及び熱処理炉の使用方法。
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/74 20060101AFI20230822BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20230822BHJP
   F27B 9/30 20060101ALI20230822BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20230822BHJP
   F27B 9/04 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
C21D1/74 R
C21D1/00 D
F27B9/30
F27D17/00 104G
F27B9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023090
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】591114102
【氏名又は名称】大同プラント工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小澤 浩介
【テーマコード(参考)】
4K034
4K050
4K056
【Fターム(参考)】
4K034AA05
4K034AA11
4K034AA16
4K034AA19
4K034DA08
4K034DB02
4K034DB03
4K034DB04
4K034DB08
4K034EA01
4K034EA12
4K034EB01
4K034FA01
4K034FA02
4K034FB12
4K034GA15
4K050AA02
4K050BA01
4K050CA13
4K050CC07
4K050CC10
4K050DA07
4K050EA08
4K056AA09
4K056CA01
4K056DB04
4K056DB05
(57)【要約】
【課題】炉内を汚す潤滑油を効率良く回収することができる熱処理炉及びその使用方法を提供する。
【解決手段】潤滑油Lが付着したワークWを熱処理する熱処理炉10であって、ワークを収容する炉体11と、炉体に接続されて炉内へ雰囲気ガスを供給するガス供給系12と、炉体に設けられ、炉内を昇温してワークを加熱し、かつ潤滑油を気化させる加熱器13と、炉体に接続され、炉内で雰囲気ガスに潤滑油Lが混入してなる排ガスを、炉外へ排気するガス排気系14と、ガス排気系に接続され、排ガスを冷却し、潤滑油Lを液化させて排ガスから分離するガスクーラ15と、ガスクーラに接続され、液化させた潤滑油を回収する潤滑油回収系16と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉であって、
前記ワークを収容する炉体と、
前記炉体に接続されて炉内へ雰囲気ガスを供給するガス供給系と、
前記炉体に設けられ、炉内を昇温して前記ワークを加熱し、かつ前記潤滑油を気化させる加熱器と、
前記炉体に接続され、炉内で前記雰囲気ガスに前記潤滑油が混入してなる排ガスを、炉外へ排気するガス排気系と、
前記ガス排気系に接続され、前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離するガスクーラと、
前記ガスクーラに接続され、液化させた前記潤滑油を回収する潤滑油回収系と、を備えることを特徴とする熱処理炉。
【請求項2】
前記炉体は炉内に、前記ワークを挿入する置換室、前記ワークを加熱する加熱室、及び前記ワークを冷却する冷却室を有しており、
前記ガス排気系は、前記加熱室に接続されており、
前記ガス供給系は、
前記置換室へ雰囲気ガスを供給する第1供給系路と、
前記加熱室へ雰囲気ガスを供給する第2供給系路と、
前記冷却室へ雰囲気ガスを供給する第3供給系路と、
前記第3供給系路と前記第2供給系路との間に接続され、前記第3供給系路による雰囲気ガスの供給先を前記冷却室から前記加熱室へと切り換える第1切換系路と、
前記第1切換系路を開閉する第1切換バルブと、を備える請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記冷却室に接続されて、前記冷却室の排ガスを炉外へ排気する第2ガス排気系をさらに備えており、
前記ガス供給系は、
前記第1供給系路と前記第3供給系路との間に接続され、前記第1供給系路による雰囲気ガスの供給先を前記置換室から前記冷却室へ切り換える第2切換系路と、
前記第2切換系路を開閉する第2切換バルブと、をさらに備える請求項2に記載の熱処理炉。
【請求項4】
請求項1に記載の熱処理炉を用い、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉の使用方法であって、
雰囲気ガスで満たされた炉体の炉内を加熱器により昇温する昇温作業と、
前記昇温作業で昇温された炉内において、前記ワークに付着した前記潤滑油を気化させる気化作業と、
前記気化作業の後、ガス供給系から前記炉体の炉内に雰囲気ガスを供給することにより、気化させた前記潤滑油を前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、炉内からガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する排気作業と、
前記排気作業の後、前記ガス排気系を介して前記排ガスをガスクーラへ送り込み、前記ガスクーラで前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離する分離作業と、
前記分離作業の後、潤滑油回収系を介することにより、液化させた前記潤滑油を回収する回収作業と、を備えることを特徴とする熱処理炉の使用方法。
【請求項5】
請求項2に記載の熱処理炉を用い、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉の使用方法であって、
雰囲気ガスで満たされた加熱室を加熱器により昇温する昇温作業と、
前記昇温作業で昇温された前記加熱室において、前記ワークに付着した前記潤滑油を気化させる気化作業と、
前記気化作業の後、ガス供給系の第1切換系路を開き、第2供給系路及び第3供給系路から前記加熱室へ雰囲気ガスを供給することにより、気化させた前記潤滑油を前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、前記加熱室からガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する排気作業と、
前記排気作業の後、前記ガス排気系を介して前記排ガスをガスクーラへ送り込み、前記ガスクーラで前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離する分離作業と、
前記分離作業の後、潤滑油回収系を介することにより、液化させた前記潤滑油を回収する回収作業と、を備えることを特徴とする熱処理炉の使用方法。
【請求項6】
請求項3に記載の熱処理炉を用い、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉の使用方法であって、
雰囲気ガスで満たされた加熱室を加熱器により昇温する昇温作業と、
前記昇温作業で昇温された前記加熱室において、前記ワークに付着した前記潤滑油を気化させる気化作業と、
前記気化作業の後、ガス供給系の第1切換系路を開き、第2供給系路及び第3供給系路から前記加熱室へ雰囲気ガスを供給することにより、気化させた前記潤滑油を前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、前記加熱室からガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する排気作業と、
前記排気作業の後、前記ガス排気系を介して前記排ガスをガスクーラへ送り込み、前記ガスクーラで前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離する分離作業と、
前記分離作業の後、潤滑油回収系を介することにより、液化させた前記潤滑油を回収する回収作業と、を備え、
前記ワークを前記加熱室から冷却室に移送する移送作業と、
前記移送作業の後、ガス供給系の第2切換系路を開き、第1供給系路及び第3供給系路から前記冷却室へ雰囲気ガスを供給し、前記加熱室から前記ワークとともに前記冷却室へ流入した気化させた前記潤滑油を、前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、前記冷却室から第2ガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する第2排気作業と、
前記第2排気作業の後、前記冷却室で前記ワークを冷却する冷却作業と、をさらに備えることを特徴とする熱処理炉の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉及び熱処理炉の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属線材等といった金属成形品であるワークは、熱処理炉を用いた焼なまし等の熱処理をする際、伸線液等の潤滑油が付着したままで熱処理されるケースが多々ある。潤滑油は、熱処理時の加熱過程で気化して炉内の雰囲気中に散らばり、熱処理時の冷却過程や熱処理後の炉温の低下等により再液化(タール化)する。再液化(タール化)した潤滑油は、炉壁に付着して炉内を汚したり、ワークに付着してワークを汚したりするため、炉内の清掃に手間が掛かる、ワークの品質低下を招く等が問題となっている。
こうした問題について、例えば、特許文献1には、前駆体から発生する揮発性のタールを、水や油に溶け込ませて除去する焼成装置が記載されている。特許文献2には、熱処理炉の排気に含まれるタールを、タール除去チャンバー内の油に、溶け込ませて回収、除去する熱処理炉が記載されている。特許文献3には、ホワイトパウダーを含む雰囲気ガスをフィルタの吸熱等により放熱し、フィルタでホワイトパウダーを捕集する連続焼鈍炉が記載されている。特許文献4には排ガスに含まれるダストを捕集するオイルトラップ式フィルターが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-109180号公報
【特許文献2】特許第6942274号公報
【特許文献3】特開2003-247787号公報
【特許文献4】特開2020-195951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2のように、水や油にタールを溶け込ませて回収する技術は、タール化した潤滑油を効率良く回収できず、排気ガスの十分なクリーン化を図ることができない。
特許文献3、4のように、フィルタでホワイトパウダーやダストを捕集する技術は、フィルタの交換、清掃等を頻繁に行う必要がある。
また、既存の熱処理炉には、処理効率の向上等のため、炉内を加熱室、冷却室等の複数室に区分けし、各室に雰囲気ガスを供給する構成としたものがある。こうした熱処理炉は、雰囲気ガスの使用量を抑制しつつ、雰囲気ガスの供給量を適切なタイミングで適量に振り分けることがなされておらず、近時の熱処理炉に要求されている省エネルギー化を達成することができない。
【0005】
本発明は、このような従来技術が有していた問題点を解決しようとするものであり、炉内を汚す潤滑油を効率良く回収することができる熱処理炉及び熱処理炉の使用方法を提供することを目的とするものである。
本発明は、上記目的に加えて、雰囲気ガスの供給量を適切なタイミングで適量に振り分けることができる熱処理炉及び熱処理炉の使用方法を提供することを他の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、請求項1に記載の発明は、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉であって、
前記ワークを収容する炉体と、
前記炉体に接続されて炉内へ雰囲気ガスを供給するガス供給系と、
前記炉体に設けられ、炉内を昇温して前記ワークを加熱し、かつ前記潤滑油を気化させる加熱器と、
前記炉体に接続され、炉内で前記雰囲気ガスに前記潤滑油が混入してなる排ガスを、炉外へ排気するガス排気系と、
前記ガス排気系に接続され、前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離するガスクーラと、
前記ガスクーラに接続され、液化させた前記潤滑油を回収する潤滑油回収系と、を備えることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記炉体は炉内に、前記ワークを挿入する置換室、前記ワークを加熱する加熱室、及び前記ワークを冷却する冷却室を有しており、
前記ガス排気系は、前記加熱室に接続されており、
前記ガス供給系は、
前記置換室へ雰囲気ガスを供給する第1供給系路と、
前記加熱室へ雰囲気ガスを供給する第2供給系路と、
前記冷却室へ雰囲気ガスを供給する第3供給系路と、
前記第3供給系路と前記第2供給系路との間に接続され、前記第3供給系路による雰囲気ガスの供給先を前記冷却室から前記加熱室へと切り換える第1切換系路と、
前記第1切換系路を開閉する第1切換バルブと、を備える要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記冷却室に接続されて、前記冷却室の排ガスを炉外へ排気する第2ガス排気系をさらに備えており、
前記ガス供給系は、
前記第1供給系路と前記第3供給系路との間に接続され、前記第1供給系路による雰囲気ガスの供給先を前記置換室から前記冷却室へ切り換える第2切換系路と、
前記第2切換系路を開閉する第2切換バルブと、をさらに備えることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の熱処理炉を用い、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉の使用方法であって、
雰囲気ガスで満たされた炉体の炉内を加熱器により昇温する昇温作業と、
前記昇温作業で昇温された炉内において、前記ワークに付着した前記潤滑油を気化させる気化作業と、
前記気化作業の後、ガス供給系から前記炉体の炉内に雰囲気ガスを供給することにより、気化させた前記潤滑油を前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、炉内からガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する排気作業と、
前記排気作業の後、前記ガス排気系を介して前記排ガスをガスクーラへ送り込み、前記ガスクーラで前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離する分離作業と、
前記分離作業の後、潤滑油回収系を介することにより、液化させた前記潤滑油を回収する回収作業と、を備えることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の熱処理炉を用い、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉の使用方法であって、
雰囲気ガスで満たされた加熱室を加熱器により昇温する昇温作業と、
前記昇温作業で昇温された前記加熱室において、前記ワークに付着した前記潤滑油を気化させる気化作業と、
前記気化作業の後、ガス供給系の第1切換系路を開き、第2供給系路及び第3供給系路から前記加熱室へ雰囲気ガスを供給することにより、気化させた前記潤滑油を前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、前記加熱室からガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する排気作業と、
前記排気作業の後、前記ガス排気系を介して前記排ガスをガスクーラへ送り込み、前記ガスクーラで前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離する分離作業と、
前記分離作業の後、潤滑油回収系を介することにより、液化させた前記潤滑油を回収する回収作業と、を備えることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の熱処理炉を用い、潤滑油が付着したワークを熱処理する熱処理炉の使用方法であって、
雰囲気ガスで満たされた加熱室を加熱器により昇温する昇温作業と、
前記昇温作業で昇温された前記加熱室において、前記ワークに付着した前記潤滑油を気化させる気化作業と、
前記気化作業の後、ガス供給系の第1切換系路を開き、第2供給系路及び第3供給系路から前記加熱室へ雰囲気ガスを供給することにより、気化させた前記潤滑油を前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、前記加熱室からガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する排気作業と、
前記排気作業の後、前記ガス排気系を介して前記排ガスをガスクーラへ送り込み、前記ガスクーラで前記排ガスを冷却し、前記潤滑油を液化させて前記排ガスから分離する分離作業と、
前記分離作業の後、潤滑油回収系を介することにより、液化させた前記潤滑油を回収する回収作業と、を備え、
前記ワークを前記加熱室から冷却室に移送する移送作業と、
前記移送作業の後、ガス供給系の第2切換系路を開き、第1供給系路及び第3供給系路から前記冷却室へ雰囲気ガスを供給し、前記加熱室から前記ワークとともに前記冷却室へ流入した気化させた前記潤滑油を、前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、前記冷却室から第2ガス排気系を介して炉外へ圧し出して排気する第2排気作業と、
前記第2排気作業の後、前記冷却室で前記ワークを冷却する冷却作業と、をさらに備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炉内を汚す潤滑油を効率良く回収することができる熱処理炉及び熱処理炉の使用方法を提供できる。
本発明によれば、雰囲気ガスの供給量を適切なタイミングで適量に振り分けることができる熱処理炉及び熱処理炉の使用方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の焼処理炉の一例を示す概略説明図。
図2】実施形態のガスクーラの一例を示す概略説明図。
図3】実施形態の熱処理炉の使用方法の一例を示す概略説明図である。
図4】実施形態の熱処理炉の使用方法の一例を示す概略説明図である。
図5】実施形態の熱処理炉の使用方法の一例を示す概略説明図である。
図6】実施形態の熱処理炉の使用方法の一例を示す概略説明図である。
図7】実施形態の熱処理炉の使用方法の一例を示す概略説明図である。
図8】実施形態の冷却室を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
[1]熱処理炉
本発明の熱処理炉は、潤滑油Lが付着したワークWを熱処理する熱処理炉10であって、
前記ワークWを収容する炉体11と、
前記炉体11に接続されて炉内へ雰囲気ガスを供給するガス供給系12と、
前記炉体11に設けられ、炉内を昇温して前記ワークWを加熱し、かつ前記潤滑油Lを気化させる加熱器13と、
前記炉体11に接続され、炉内で前記雰囲気ガスに前記潤滑油Lが混入してなる排ガスを、炉外へ排気するガス排気系14と、
前記ガス排気系14に接続され、前記排ガスを冷却し、前記潤滑油Lを液化させて前記排ガスから分離するガスクーラ15と、
前記ガスクーラ15に接続され、液化させた前記潤滑油Lを回収する潤滑油回収系16と、を備えることを特徴とする(図1参照)。
【0011】
(1)炉体
炉体11は、ワークWを収容して熱処理するためのものである(図1参照)。熱処理の種類としては、焼入れ、焼もどし、焼なまし(焼鈍)、焼ならし(焼準)等が挙げられる。
炉体11は、熱処理に適用可能であれば、ワークWの処理・搬送方式、構成、使用材料、形状、大きさ、炉内の容積、加熱・冷却方式等は、特に問わない。
炉体11の処理・搬送方式は、例えば、熱処理に係るワークWの加熱と冷却を連続的に処理することができる連続式のもの、ワークWの加熱と冷却を断続的に処理することができるバッチ式のものが挙げられる。
【0012】
炉体11は、炉内へのワークWの出し入れを行いやすくするため、炉内でワークWを搬送する搬送装置116を備えることができる(図1参照)。
搬送装置116は、ワークWを搬送することが可能であれば、その構成等について、特に限定されない。搬送装置116の具体例としては、ベルトコンベア、ローラコンベアが挙げられる。
【0013】
炉体11は、ワークWを挿入する置換室111、ワークWを加熱する加熱室112、及びワークWを冷却する冷却室113を備えるものとすることができる(図1参照)。
即ち、炉体11は、炉内が置換室111、加熱室112及び冷却室113に区画されている。
置換室111は、炉外からワークWを挿入する際にワークWとともに流入した外気を、雰囲気ガスへ置換する室である。
加熱室112は、室内を雰囲気ガスで満たすことにより、目的とする熱処理に適応した雰囲気として、ワークWを加熱する室である。
冷却室113は、雰囲気ガスを冷媒として用いることにより、室内を目的とする熱処理に適応した雰囲気にして、ワークWを冷却する室である。
なお、置換室111、加熱室112及び冷却室113の各室は、内部の構成、構造等について、特に限定されず、それぞれ目的に応じたものとすることができる。
【0014】
炉体11は、ワークWを置換室111に入れるための開口部114Aと、置換室111からワークWを加熱室112に移送するための開口部114Bと、加熱室112からワークWを冷却室113に移送するための開口部114Cと、冷却室113からワークWを炉外へ出すための開口部114Dと、を有する構成とすることができる(図1参照)。
炉体11には、開口部114A~114Dを開閉する扉115を設けることができる。
炉体11は、置換室111、加熱室112及び冷却室113以外に、例えば予熱室、徐冷室、スロート室が設けられている等、室を4つ以上有していてもよい。
【0015】
(2)ガス供給系
ガス供給系12は、炉体11に接続されて炉内へ雰囲気ガスを供給するものである(図1参照)。
雰囲気ガスの種類は、炉内をワークWの熱処理に適した雰囲気とするガスであれば、特に問わない。具体的な雰囲気ガスとしては、窒素(N)ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスなどの不活性ガス、水素(H)ガスなどの還元性ガスを挙げることができる。雰囲気ガスには、不活性ガス又は還元性ガスの何れか一方のみ、あるいは不活性ガス及び還元性ガスの両方を使用することができる。
【0016】
炉体11に接続されるガス供給系12の系路の数は、特に問わない。つまり、ガス供給系12の系路の数は、1つのみとすることができ、あるいは2以上とすることができる。
例えば、雰囲気ガスとして窒素(N)ガスと水素(H)ガスを用いる等のように、2種以上のガスを用いる場合、ガス供給系12を雰囲気ガスとして窒素(N)ガスを供給するものとし、ガス供給系12とは別のガス供給系を雰囲気ガスとして水素(H)ガスを供給するものとすることができる。
つまり、熱処理炉10は、雰囲気ガスに複数種のガスを用いる場合、炉体11に接続される複数系路のガス供給系を備えるものとすることができる。例えば、特に図示はしないが、炉体11の加熱室112には、雰囲気ガスとして水素(H)ガスを炉内に供給する第2のガス供給系が接続されている構成とすることができる。
また、ガス供給系の系路の数を複数とする場合、複数系路のガス供給系は、それぞれが独立して炉体11に接続されてもよく、あるいは途中で合流して1つのみ又は2以上が炉体11に接続されてもよい。
炉体11に対するガス供給系12の接続場所は、特に問わず、ガス供給系12は、炉体11の何れの場所にも接続することができる。
【0017】
ガス供給系12は、置換室111へ雰囲気ガスを供給する第1供給系路21と、加熱室112へ雰囲気ガスを供給する第2供給系路22と、冷却室113へ雰囲気ガスを供給する第3供給系路23と、を備えるものとすることができる(図1参照)。
第1~第3供給系路21、22、23は、雰囲気ガス供給源(図示省)と接続される主供給系路124から分岐して設けることができる。
第1~第3供給系路21、22、23は、各供給系路21、22、23を流れる雰囲気ガスの流量を設定する流量設定バルブ122を備えるものとすることができる。
流量設定バルブ122としては、グローブバルブ、バタフライバルブ等の流量調整可能な仕切弁やボールバルブ、ゲートバルブ等の流量調整不能な仕切弁などを採用できる。
【0018】
熱処理炉10において、熱処理炉10(炉体11)全体における雰囲気ガスの供給量の調整は、流量設定バルブ122によって第1~第3供給系路21、22、23への流量を決定し、その上で、流量設定バルブ122よりも下流に設けられた弁体の開閉操作や開度調節により、行うことができる。
なお、流量設定バルブ122よりも下流に設けられた弁体には、後述する第1切換バルブ25A、第2切換バルブ27A、他の切換バルブ25B,27B等を用いることができる。
【0019】
流量設定バルブ122による第1~第3供給系路21、22、23の雰囲気ガスの設定流量は、特に限定されないが、雰囲気ガスの供給量を適量に抑える、各供給系路が雰囲気ガスを供給する各室の機能に応じた量とする等の目的に応じた量とすることができる。
置換室111へ雰囲気ガスを供給する第1供給系路21について、置換室111は、外気を雰囲気ガスへ置換することを目的とした室であり、第1供給系路21は、その目的に応じた設定流量とすることができる。
例えば、流量設定バルブ122による第1供給系路21の雰囲気ガスの設定流量は、外気の雰囲気ガスへの置換が可能な程度の量として、小流量(10m/h未満)~中流量(10m/h以上20m/h未満)とすることができ、好ましくは5m/h~15m/h、より好ましくは7m/h~13m/h、さらに好ましくは8m/h~12m/hとすることができる。
【0020】
加熱室112へ雰囲気ガスを供給する第2供給系路22について、加熱室112は、ワークWの熱処理のための加熱を目的とした室であり、第2供給系路22は、その目的に応じた設定流量とすることができる。
例えば、流量設定バルブ122による第2供給系路22の雰囲気ガスの設定流量は、熱処理に適応した雰囲気を維持することが可能な程度の量として、小流量とすることができ、好ましくは1m/h以上10m/h未満、より好ましくは2m/h~9m/h、さらに好ましくは3m/h~8m/hとすることができる。
冷却室113へ雰囲気ガスを供給する第3供給系路23について、冷却室113は、ワークWの熱処理のための冷却を目的とした室であり、第3供給系路23は、その目的に応じた設定流量とすることができる。
例えば、流量設定バルブ122による第3供給系路23の雰囲気ガスの設定流量は、ワークWを冷却することが可能な程度の量として、大流量(20m/h以上)とすることができ、好ましくは20m/h以上50m/h未満、より好ましくは25m/h~45m/h、さらに好ましくは30m/h~40m/hとすることができる。
【0021】
本発明の熱処理炉10は、省エネルギーの観点から、雰囲気ガスの供給過多を抑制する等して、雰囲気ガスの使用量を抑制しつつ、置換室111、加熱室112及び冷却室113に対する雰囲気ガスの供給量を適切なタイミングで適量に振り分けるために、特定構成のガス供給系12を備えるものとすることができる(図1参照)。
また、本発明の熱処理炉10は、炉内で雰囲気ガスに潤滑油が混入してなる排ガスを、ガス排気系14から炉外へ排気する構成を備えている。特定構成のガス供給系12は、置換室111、加熱室112及び冷却室113に対する雰囲気ガスの供給量を適切なタイミングで適量に振り分けることができる。
【0022】
つまり、特定構成のガス供給系12は、上述のように調整された熱処理炉10(炉体11)全体における雰囲気ガスの供給量を大きく変動させることなく、各室111~113への雰囲気ガスの供給量の振り分けを適時変更することにより、置換室111、加熱室112及び冷却室113に対する雰囲気ガスの供給量を変動させることができる。このため、特定構成のガス供給系12は、不必要に雰囲気ガスが供給過多となることを防止するのに有用な構成とすることができる。
特に、特定構成のガス供給系12は、熱処理炉10(炉体11)全体における雰囲気ガスの供給量を変えることなく、各室111~113への雰囲気ガスの供給量の振り分けを変更することで、例えば、加熱室112への雰囲気ガスの供給量を一時的に増加させることができる。この場合、加熱室112において、不必要に雰囲気ガスを供給し過ぎることなく、潤滑油が混入した排ガスをガス排気系14へ圧し出すのに有用な構成とすることができる。
以下、特定構成のガス供給系12について説明する。
【0023】
特定構成のガス供給系12は、第1切換系路24と、第1切換系路24を開閉する第1切換バルブ25Aと、を備えることができる。
第1切換系路24は、第3供給系路23と第2供給系路22との間に接続され、第3供給系路23による雰囲気ガスの供給先を冷却室113から加熱室112へと切り換えることができる。
第1切換バルブ25Aにより第1切換系路24を閉じた場合、第2供給系路22から加熱室112へ雰囲気ガスG2Aを供給することができる(図3図4図6及び図7参照)。
第1切換バルブ25Aにより第1切換系路24を開いた場合、第2供給系路22及び第3供給系路23から加熱室112へ雰囲気ガスG2Bを供給することができる(図5参照)。
第1切換系路24を開閉するタイミングは、特に問わない。
例えば、加熱室112内で潤滑油Lが気化した後の適宜タイミングで第1切換系路24を開くことができる。
また、加熱室112での昇温が完了した適宜タイミングで第1切換系路24を閉じることができる。特に、加熱室の雰囲気ガスが冷却室へ流れ込むのを抑制する観点から、冷却室113へワークWを移送する前の適宜タイミングで第1切換系路24を閉じることが好ましい。
【0024】
第1切換バルブ25Aが第1切換系路24の途中に設けられている場合、ガス供給系12は、第3供給系路23の第1切換系路24との接続点よりも下流部23Aを開閉する他の切換バルブ25Bを備えることができる(図1参照)。
第1切換バルブ25Aにより第1切換系路24を閉じ、他の切換バルブ25Bにより第3供給系路23の下流部23Aを閉じることで、第2供給系路22から加熱室112へ雰囲気ガスG2Aを供給することができる(図3図4図6及び図7参照)。
第1切換バルブ25Aにより第1切換系路24を開き、他の切換バルブ25Bにより第3供給系路23の下流部23Aを閉じることで、第2供給系路22及び第3供給系路23から加熱室112へ雰囲気ガスG2Bを供給することができる(図5参照)。
【0025】
第1切換バルブ25Aが第1切換系路24と第3供給系路23の接続点に設けられている場合、第1切換バルブ25Aは、第1切換系路24を閉じ且つ第3供給系路23を開いた状態と、第1切換系路24を開き且つ第3供給系路23を閉じた状態と、第1切換系路24及び第3供給系路23を閉じた状態と、に切り換え可能に構成することができる。
第1切換バルブ25Aや他の切換バルブ25Bの種類等について、特に問わず、電磁弁、電動弁、エア作動弁、手動弁等で構成することができる。
第1切換バルブ25Aや他の切換バルブ25Bは、制御装置(図示略)と電気的に接続されており、制御装置により熱処理時間などに基づいて切り換え制御や開度調節されることができる。
【0026】
特定構成のガス供給系12は、第2切換系路26と、第2切換系路26を開閉する第2切換バルブ27Aと、を備えることができる(図1参照)。
第2切換系路26は、第1供給系路21と第3供給系路23との間に接続され、第1供給系路21による雰囲気ガスの供給先を置換室111から冷却室113へと切り換えることができる。
第2切換バルブ27Aにより第2切換系路26を閉じた場合、第1供給系路21から置換室111へ雰囲気ガスG1を供給することができる(図3参照)。
第2切換バルブ27Aにより第2切換系路26を開いた場合、第1供給系路21及び第3供給系路23から冷却室113へ雰囲気ガスG3を供給することができる(図7参照)。
第2切換系路26を開閉するタイミングは、特に問わない。
例えば、冷却室113内にワークWが移送された後の適宜タイミングで第2切換系路24を開くことができる。
また、冷却室113での冷却が完了した後の適宜タイミングで第2切換系路26を閉じることができる。
【0027】
第2切換バルブ27Aが第2切換系路26の途中に設けられている場合、ガス供給系12は、第1供給系路21の第2切換系路26との接続点よりも下流部21Aを開閉する他の切換バルブ27Bを備えることができる(図1参照)。
第2切換バルブ27Aにより第2切換系路26を閉じ、他の切換バルブ27Bにより第1供給系路21の下流部21Aを開くことで、第1供給系路21から置換室111へ雰囲気ガスG1を供給することができる(図3参照)。
第2切換バルブ27Aにより第2切換系路26を開き、他の切換バルブ27Bにより第1供給系路21の下流部21Aを閉じることで、第1供給系路21及び第3供給系路23から冷却室113へ雰囲気ガスG3を供給することができる(図7参照)。
【0028】
第2切換バルブ27Aが第2切換系路26と第1供給系路21の接続点に設けられている場合、第2切換バルブ27Aは、第2切換系路26を閉じ且つ第1供給系路21を開いた状態と、第2切換系路26を開き且つ第1供給系路21の第2切換系路26との接続点よりも下流部21Aを閉じた状態と、第2切換系路26及び第1供給系路21を閉じた状態と、に切り換え可能に構成することができる。
第2切換バルブ27Aや他の切換バルブ27Bの種類等について、特に問わず、電磁弁、電動弁、エア作動弁、手動弁等で構成することができる。
第2切換バルブ27Aや他の切換バルブ27Bは、制御装置(図示略)と電気的に接続されており、制御装置により熱処理時間などに基づいて切り換え制御や開度調節されることができる。
【0029】
なお、ガス供給系12としては、加熱室112へ小流量の雰囲気ガスを供給する小流量用の第2供給系路と、加熱室112へ大流量の雰囲気ガスを供給する大流量用の第2供給系路と、を備える形態を採用してもよい。ただし、この形態では、炉体11において第2供給系路の接続口を増設する等の大幅な変更が必要となる。
【0030】
(3)加熱器
加熱器13は、炉体11に設けられ、炉内を昇温してワークWを加熱するものである(図1参照)。また、ワークWに付着した潤滑油Lは、加熱器13による炉内の昇温とワークWの加熱とによって気化する。
加熱器13は、熱処理に要する高温度を得ることができるとともに、炉内の温度を調整することができるのであれば、その構成等について、特に限定されない。
加熱器13としては、具体的には、熱交換式のヒータ装置31、燃焼式のバーナー装置等が挙げられる。
【0031】
ヒータ装置31は、管状のラジアントチューブ(熱交換チューブ)の内部に、例えば燃焼ガス等の熱媒を通し、熱交換によって、炉体11の炉内をみたす雰囲気ガスを加熱するものである(図1参照)。ヒータ装置31としては、具体的に、ラジアントチューブ型バーナー、電熱器等を例示することができる。
ヒータ装置31は、温度調節計と電気的に接続されており、温度調節計には、熱電対等の炉内の温度を計測可能な計測器が電気的に接続されている。温度調節計は、計測器によって計測された炉内の温度に応じて、ヒータ装置31の出力を上昇又は低下させるように調整する。
【0032】
(4)ガス排気系
ガス排気系14は、炉体11に接続され、炉内で雰囲気ガスに潤滑油Lが混入してなる排ガスを炉外へ排気するものである(図1参照)。
炉体11に接続されるガス排気系14の系路の数は、特に問わない。つまり、ガス排気系14の系路の数は、1つのみとすることができ、あるいは2以上とすることができる。
炉体11に対するガス排気系14の接続場所は、特に問わず、ガス排気系14は、炉体11の何れの場所にも接続することができる。
ガス排気系14は、ガス供給系12から炉内へ雰囲気ガスを供給することで、炉内で雰囲気ガスに潤滑油Lが混入してなる排ガスを炉外へ排気することができる。
具体的に、ガス排気系14は、加熱室112に接続されており、第1切換バルブ25Aにより第1切換系路24を開いて、第2供給系路22及び第3供給系路23から大流量の雰囲気ガスG2Bを供給することで、加熱室112内で雰囲気ガスに潤滑油Lが混入してなる排ガスを炉外へ排気することができる(図5参照)。
ガス排気系14は、排気用真空ポンプを備えていてもよい。この場合、ガス供給系12からの雰囲気ガスの供給に代えて又は加えて、真空ポンプの作動により、炉内で雰囲気ガスに潤滑油Lが混入してなる排ガスを炉外へ排気することができる。
【0033】
(5)第2ガス排気系
本発明の熱処理炉10は、冷却室113に接続されて、冷却室113の排ガスを炉外へ排気する第2ガス排気系17をさらに備えていることができる(図1参照)。
冷却室113に接続される第2ガス排気系17の系路の数は、特に問わない。つまり、第2ガス排気系17の系路の数は、1つのみとすることができ、あるいは2以上とすることができる。
冷却室113に対する第2ガス排気系17の接続場所は、特に問わず、第2ガス排気系17は、冷却室113の何れの場所にも接続することができる。
【0034】
第2ガス排気系17は、第2切換バルブ27Aにより第2切換系路26を開いて、第1供給系路21及び第3供給系路23から雰囲気ガスG3を供給することで、冷却室113内のガスを排ガスとして炉外へ排気することができる(図7参照)。
冷却室113内のガスは、主に雰囲気ガスであるが、加熱室112から冷却室113へのワークWの移送に伴って加熱室112内の排ガスが冷却室113に入り込むことがある。加熱室112内の排ガスは、上述したように、雰囲気ガスに潤滑油Lが混入してなるものであるから、つまり、冷却室113内のガスには潤滑油Lが混入する場合がある。
そして、第2ガス排気系17は、潤滑油Lが混入した冷却室113内のガスもまた、排ガスとして炉外へ排気することができる。
【0035】
第2ガス排気系17は、外気に開放された排気ダクトを備えていてもよいし、ガスクーラ15に接続さていてもよい。
第2ガス排気系17は、排気用真空ポンプを備えていてもよい。この場合、ガス供給系12からの雰囲気ガスの供給に替えて又は加えて、真空ポンプの作動により、冷却室113内のガスを排ガスとして炉外へ排気することができる。
【0036】
(6)ガスクーラ
ガスクーラ15は、ガス排気系14に接続され、排ガスを冷却し、潤滑油Lを液化させて排ガスから分離するものである(図1参照)。
ガスクーラ15は、水冷式であってもよいし、空冷式であってもよい。潤滑油Lの分離性の観点から、水冷式であることが好ましい。
ガスクーラ15としては、多管式ガスクーラ、プレート式ガスクーラなどを採用できる。清掃性の観点から、多管式ガスクーラであることが好ましい。
多管式ガスクーラ15は、外管51と、外管51の内側に外管51の軸方向と平行に複数配置される冷却管52と、を備えていることができる(図2参照)。外管51内に冷却媒体を流し、複数の冷却管52内に排ガスを流すことで、冷却管52の内外での熱交換により排ガスを冷却することができる。
外管51の軸方向の一端部は、ガス排気系14に接続される入側配管53に着脱可能に取り付けられており、外管51の軸方向の他端部は、潤滑油回収系16に接続される出側配管54に着脱可能に取り付けられていることができる。各配管53、54から外管51を取り外すことで、エアブロー等により冷却管52内を容易に清掃することができる。
【0037】
(7)潤滑油回収系
潤滑油回収系16は、ガスクーラ15に接続され、液化させた潤滑油Lを回収するものである(図1参照)。
潤滑油回収系16は、潤滑油Lを回収するオイルパン等の回収容器61を備えていることができる。
ガスクーラ15に接続される潤滑油回収系16の系路の数は、特に問わない。つまり、潤滑油回収系16の系路の数は、1つのみとすることができ、あるいは2以上とすることができる。
【0038】
(8)ワーク
ワーク(被処理物)Wは、潤滑剤が塗布又は付着されたものであれば、材質、形状、大きさ等は、特に問わない。
このワークWは、例えば、鉄、アルミニウム、銅などの金属や、鉄鋼、ステンレス鋼等の鉄合金、ジュラルミン等のアルミニウム合金、インコネル、ハステロイ等のニッケル合金、真鍮、白銅等の銅合金などの合金からなる線材、管材、柱材等を挙げることができる。
潤滑剤の種類、組成、用途、形態等は、特に問わない。この潤滑剤は、例えば、粉状や固形状でワークWの表面に付着させて使用する固形潤滑剤、液状やゲル状でワークWを浸漬させたり、ワークWの表面に塗工したりして使用する液体潤滑剤を挙げることができる。
【0039】
(9)熱処理炉の具体例
本発明の熱処理炉10を更に具体化した具体例を、図1に示す。
熱処理炉10は、潤滑剤が付着したワークWを熱処理するものである。
熱処理炉10は、ワークWを収容する炉体11と、炉体11に接続されて炉内へ雰囲気ガスを供給するガス供給系12と、炉体11に設けられ、炉内を昇温してワークWを加熱し、かつ潤滑油Lを気化させる加熱器13と、炉体11に接続され、炉内で雰囲気ガスに潤滑油Lが混入してなる排ガスを、炉外へ排気するガス排気系14と、ガス排気系14に接続され、排ガスを冷却し、潤滑油Lを液化させて排ガスから分離するガスクーラ15と、ガスクーラ15に接続され、液化させた潤滑油Lを回収する潤滑油回収系16と、を備えている。
熱処理炉10は、後述の冷却室113に接続されて、冷却室113の排ガスを炉外へ排気する第2ガス排気系17をさらに備えている。
熱処理炉10は、後述の置換室111に接続されて、置換室111の雰囲気ガスを炉外へ排気する第3ガス排気系18をさらに備えている。
【0040】
炉体11は炉内に、ワークWを挿入する置換室111、ワークWを加熱する加熱室112、及びワークWを冷却する冷却室113を有している。具体的に、炉体11の炉内は、置換室111、加熱室112及び冷却室113に区画されている。
炉体11は、ワークWを置換室111に入れるための開口部114Aと、置換室111からワークWを加熱室112に移送するための開口部114Bと、加熱室112からワークWを冷却室113に移送するための開口部114Cと、冷却室113からワークWを炉外へ出すための開口部114Dと、を有している。
さらに、炉体11は、各開口部114A~114Dを開閉する扉115を有している。
即ち、炉体11は、置換室111での置換中、加熱室112での昇温中、及び冷却室113での冷却中において各扉115で各開口部114A~114Dを塞ぐことで、ワークWを連続的に処理する連続式のものである。
また、炉体11は、置換室111、加熱室112及び冷却室113においてワークWを搬送するローラコンベア等の搬送装置116を有している。なお、図3図7中の符号Aは、搬送装置16によるワークWの搬送方向を示す。
【0041】
ガス供給系12は、炉体11に接続されて雰囲気ガスとして窒素(N)ガスを炉内に供給するものである。
ガス供給系12は、置換室111へ雰囲気ガスを供給する第1供給系路21と、加熱室112へ雰囲気ガスを供給する第2供給系路22と、冷却室113へ雰囲気ガスを供給する第3供給系路23と、を備えている。
第1~第3供給系路21、22、23は、雰囲気ガス供給源(図示省)と接続される主供給系路124から分岐している。
第1~第3供給系路21、22、23は、各供給系路21、22、23を流れる雰囲気ガスの流量を設定する仕切弁等の流量設定バルブ122を備えている。
流量設定バルブ122による第1供給系路21を流れる雰囲気ガスの設定流量は、例えば10m/hとされている。
流量設定バルブ122による第2供給系路22を流れる雰囲気ガスの設定流量は、例えば5m/hとされている。
流量設定バルブ122による第3供給系路23を流れる雰囲気ガスの設定流量は、例えば35m/hとされている。
なお、第1~第3供給系路21、22、23のそれぞれは、流量設定バルブ122の上流側に流量計123を備えている。また、主供給系路124は、減圧弁125を備えている。
【0042】
ガス供給系12は、第3供給系路23と第2供給系路22との間に接続され、第3供給系路23による雰囲気ガスの供給先を冷却室113から加熱室112へと切り換える第1切換系路24と、第1切換系路24を開閉する電磁弁等の第1切換バルブ25Aと、第3供給系路23の第1切換系路24との接続点よりも下流部23Aを開閉する電磁弁等の他の切換バルブ25Bと、を備えている。
第1切換バルブ25A及び他の切換バルブ25Bは、制御装置(図示略)と電気的に接続されており、制御装置により熱処理時間などに基づいて切り換え制御される。
【0043】
ガス供給系12は、第1供給系路21と第3供給系路23との間に接続され、第1供給系路21による雰囲気ガスの供給先を置換室111から冷却室113へと切り換える第2切換系路26と、第2切換系路26を開閉する電磁弁等の第2切換バルブ27Aと、第1供給系路21の第2切換系路26との接続点よりも下流部21Aを開閉する電磁弁等の他の切換バルブ27Bと、を備えている。
第2切換バルブ27A及び他の切換バルブ27Bは、制御装置(図示略)と電気的に接続されており、制御装置により熱処理時間などに基づいて切り換え制御される。
なお、第2供給系路22は常時開いた状態とされる。
【0044】
ガス供給系12は、第1供給系路21を開け、第1切換系路24、第2切換系路26及び第3供給系路23の下流部23Aを閉じることで、第1供給系路21から置換室111へ中流量(例えば、10m/h)の雰囲気ガスG1を供給するとともに、第2供給系路22から加熱室112へ小流量(例えば、5m/h)の雰囲気ガスG2Aを供給することができる(図3参照)。
ガス供給系12は、第1切換系路24、第2切換系路26、第1供給系路21の下流部21A及び第3供給系路23の下流部23Aを閉じることで、第2供給系路22から加熱室112へ小流量(例えば、5m/h)の雰囲気ガスG2Aを供給することができる(図4及び図6参照)。
ガス供給系12は、第1切換系路24を開け、第2切換系路26、第1供給系路21の下流部21A及び第3供給系路23の下流部23Aを閉じることで、第2供給系路22から加熱室112へ大流量(例えば、5+35=40m/h)の雰囲気ガスG2Bを供給することができる(図5参照)。
ガス供給系12は、第2切換系路26及び第3供給系路23の下流部23Aを開け、第1切換系路24及び第1供給系路21の下流部21Aを閉じることで、第2供給系路22から加熱室112へ小流量(例えば、5m/h)の雰囲気ガスG2Aを供給するとともに、第3供給系路23から冷却室113へ大流量(例えば、10+35=45m/h)の雰囲気ガスG3を供給することができる(図7参照)。
【0045】
加熱器13は、熱交換式のヒータ装置31により構成されている。
ヒータ装置31は、管状のラジアントチューブ(熱交換チューブ)の内部に、例えば燃焼ガス等の熱媒を通し、熱交換によって、炉体11の炉内をみたす雰囲気ガスを加熱するものである。
【0046】
ガス排気系14は、加熱室112に接続されているとともに、ガスクーラ15に接続されている。
第2ガス排気系17は、冷却室113に接続されているとともに、外気に開放された排気ダクト(図示略)を備えている。
第3ガス排気系18は、置換室111に接続されているとともに、外気に開放された排気ダクト(図示略)を備えている。
【0047】
ガスクーラ15は、多管式ガスクーラにより構成されている。
ガスクーラ15は、図2に示すように、冷却水の流入口51A及び流出口51Bを有する外管51と、外管51の内側に外管51の軸方向と平行に複数配置される冷却管52と、を備えている。
外管51の軸方向の一端部は、ガス排気系14と接続される入側配管53に着脱可能に取り付けられている。外管51の軸方向の他端部は、潤滑油回収系16と接続される出側配管54に着脱可能に取り付けられている。
外管51は、軸方向の両端側が仕切板55で仕切られている。各仕切板55には、冷却管52の軸方向の両端側が取り付けられており、冷却管52が配管53、54に連通している。
ガスクーラ15は、外管51の軸心が上下方向を向くように設置されている。
流入口51Aから外管51内に冷却水を流し、複数の冷却管52内に排ガスを流すことで、冷却管52の内外での熱交換により排ガスが冷却される。これにより、排ガスに含まれる潤滑油Lが液化されて排ガスから分離される。
出側配管54には、潤滑油Lが分離された排ガスが流れる第4排気系19が接続されている。
第4排気系19は、外気に開放された排気ダクト(図示略)を備えている。
【0048】
潤滑油回収系16は、ガスクーラ15の出側配管54に接続されている。
潤滑油回収系16は、潤滑油Lを回収するオイルパン等の回収容器61を備えている。
潤滑油回収系16は、手動式の仕切弁62を備えている。
【0049】
(10)冷却室の具体例
図8は、冷却室113の具体例について、ワークWの搬送方向と直交する断面を概略的に描いた、概略縦断面図である。図8に示した冷却室113において、ワークWは、搬送方向を紙面直交方向とする。また、特に図示しないが、冷却室113の内部は、上述した第3供給系路23からの雰囲気ガスの供給により、雰囲気ガスで満たされているものとする。
冷却室113において、室内の底面(炉床)から離れた上方位置には、搬送装置116が敷設されている。この搬送装置116には、ローラコンベアが採用されている。
搬送装置116上には、格子状のトレイ41を介してワークWが載せられて、冷却室113内を搬送される。
【0050】
冷却室113の天面で中央には、冷却室113内の雰囲気ガスを撹拌する撹拌扇42が設けられている。
搬送装置116の上面には、左右一対の整流板43が、互いの間でワークW及び撹拌扇41を囲むように配設されている。
冷却室113の天面で左右の両側部には、それぞれクーラ44が設けられている。これらクーラ44は、冷却室113の内側壁面と整流板43との間へ突出するように取り付けられている。また、クーラ44には、水流式のフィンクーラが採用されている。
【0051】
撹拌扇42は、左右一対の整流板43の間で雰囲気ガスを上方へ吸い上げ、その吸い上げた雰囲気ガスを整流板43の外側へ散らすことにより、左右一対の整流板43の内側の雰囲気ガスを、下方から上方へ向かって流動させることができる(図8中の上側の弧状の矢印を参照)。
クーラ44は、撹拌扇42によって整流板43の外側へ散らされた雰囲気ガスを、熱交換によって冷やすことができ、その冷やされた雰囲気ガスは、整流板43の外側で上方から下方へ向かって流動することができる。
【0052】
下方へ流動した雰囲気ガスは、搬送装置116(具体的には、ローラコンベアのローラ間)を通過して、冷却室113の底部に至ることができ、左右一対の整流板43の内側において、撹拌扇42によって上方へ吸い上げられることで、冷却室113の底部から搬送装置116及び格子状のトレイ41を介して冷却室113の上方へ向かって流動することができる(図8中の下側の弧状の矢印を参照)。
冷却室113は、上述のように、撹拌扇42によって雰囲気ガスを流動させるとともに、流動する雰囲気ガスをクーラ44によって冷やし、その冷やした雰囲気ガスをワークWに接触させることにより、ワークWを冷却することができる。
【0053】
また、上述のように冷却室113で雰囲気ガスを流動させることで、液化した潤滑油Lを冷却室113の炉床上に滴下させることができ、その潤滑油Lを回収することができる。
即ち、加熱室112から冷却室113にワークWを移送する際、その移送に伴い、加熱室112で気化した潤滑油Lが冷却室113に流れ込む場合がある。
気化した潤滑油Lは、冷却室113に流れ込んだ際に雰囲気ガスに混じるが、その雰囲気ガスとともに流動させ、クーラ44によって冷やして液化させることで、冷却室113の炉床上へ滴下させることができる。
冷却室113の底部には、炉床上へ滴下された潤滑油Lを室外へ排出するための潤滑油排出系46を接続することができる。潤滑油排出系46は、潤滑油Lを集めて回収するオイルパン47と、潤滑油排出系46を開閉する仕切弁48と、を備えることができる。
【0054】
上述の冷却室113のように、ワークWの周縁の雰囲気ガスをそのワークWから引き剥がすように上方へ吸い上げ、ワークWから離れた位置で下方へ流し、ワークWの下方から再び上方へ吸い上げて、雰囲気ガスを流動させる方式は、アップフロー方式とも称することができる。
アップフロー方式は、冷却室113の雰囲気ガスについて、気化した潤滑油Lを含む雰囲気ガスをワークWから一旦引き剥がし、潤滑油Lを取り除いた後に、その雰囲気ガスをワークWと接触させるように流動させる。このため、アップフロー方式は、潤滑油Lが冷却中のワークWに付着することを抑制することができ、潤滑油LによるワークWの汚れを抑制するのに有用である。
【0055】
(11)熱処理炉の作用
本熱処理炉10の作用について説明する。
なお、本熱処理炉10では、加熱室112及び冷却室113において炉内ガス(例えば、酸素ガス)を炉外に放出する初期パージが完了した状態で、置換室111へワークWが挿入されるものとする。また、ガスクーラ15には常時冷却水が供給されるものとする。
【0056】
図3に示すように、置換室111にワークWが挿入された状態で、第1供給系路21から置換室111へ中流量(例えば、10m/h)の雰囲気ガスG1が供給される。さらに、加熱室112の炉圧保持のために、第2供給系路22から加熱室112へ小流量(例えば、5m/h)の雰囲気ガスG2Aが供給される。この第2供給系路22から加熱室112への雰囲気ガスG2Aの供給は、大流量の雰囲気ガスG2Bの供給時を除き、ワークWの熱処理中、常時行われているものとする。
【0057】
置換室111での置換が完了すると、第1供給系路21の下流部21Aが閉じられて置換室111への雰囲気ガスの供給が停止される。その後、図4に示すように、搬送装置116によりワークWが置換室111から加熱室112へ移送される。
ワークWが加熱室112へ移送された後、加熱器13による加熱室112内の昇温によりワークWの温度が上昇される。
【0058】
図5に示すように、ワークWの温度上昇中に潤滑油Lが気化し始めたら、第1切換系路24が開かれて第2供給系路22及び第3供給系路23から加熱室112へ大流量(例えば、40m/h)の雰囲気ガスG2Bが供給される。この大流量の雰囲気ガスG2Bの供給により、気化した潤滑油Lを含む雰囲気ガス(排ガス)がガス排気系14を介してガスクーラ15に送られる。
【0059】
ガスクーラ15に送られた排ガスが冷却水との熱交換により冷却されることで、潤滑油Lが液化されて排ガスから分離される。この分離された潤滑油Lは潤滑油回収系16に送られて回収容器61内に回収される。また、潤滑油Lが分離されたクリーンな排気ガスは第4排気系19を介して外気に放出される。
【0060】
加熱室112の昇温が完了すると、第1切換系路24が閉じられて第2供給系路22から加熱室112へ小流量の雰囲気ガスG2Aが供給される。その後、図6に示すように、搬送装置116によりワークWが加熱室112から冷却室113へ移送される。
この移送の際、加熱室112に残留した、気化した潤滑油Lを含む雰囲気ガス(排ガス)が冷却室113へ流れ込む(図中破線で示す。)。これに対応するため、図7に示すように、第2切換系路26が開かれて第1供給系路21及び第3供給系路23から冷却室113へ大流量(例えば、45m/h)の雰囲気ガスG3が供給される。この大流量の雰囲気ガスG3の供給により、潤滑油Lを含む雰囲気ガス(排ガス)が第2ガス排気系17を介して炉外に排気される。よって、冷却室113内に移送されたワークWに液化した潤滑油Lが再付着することが抑制される。
冷却室113での冷却が完了して冷却室113からワークWが出されると、新たなワークWに対して上述の作用が繰り返し行われる。
なお、加熱室112から冷却室113に流れ込む潤滑油Lは、加熱室112の昇温中に気化する量と比べると極僅かな量であるため、冷却室113では、その極僅かな量の潤滑油Lを雰囲気ガスに含ませて排ガスとして炉外に排気している。この冷却室113からの排ガスは、ガスクーラ15に送るようにして、含まれる潤滑油Lを回収してもよい。
【0061】
[2]熱処理炉の使用方法
本発明の熱処理炉の使用方法は、上述の本発明の熱処理炉10を用い、潤滑油Lが付着したワークWを熱処理する熱処理炉の使用方法であって、
雰囲気ガスで満たされた炉体11の炉内に前記ワークWを収容して、加熱器13により炉内を昇温する昇温作業と、
前記昇温作業で炉内を昇温することにより、前記ワークWに付着した前記潤滑油Lを気化させる気化作業と、
前記気化作業の後、ガス供給系12から前記炉体11の炉内に雰囲気ガスを供給することにより、気化させた前記潤滑油Lを前記雰囲気ガスとともに排ガスとして、炉内からガス排気系14を介して炉外へ圧し出して排気する排気作業と、
前記排気作業の後、前記ガス排気系14を介して前記排ガスをガスクーラ15へ送り込み、前記ガスクーラ15で前記排ガスを冷却し、前記潤滑油Lを液化させて前記排ガスから分離する分離作業と、
前記分離作業の後、潤滑油回収系16を介することにより、液化させた前記潤滑油Lを回収する回収作業と、を備えることを特徴とする。
【0062】
即ち、本発明の熱処理炉の使用方法は、炉内を汚す潤滑油Lを効率良く回収するために、昇温作業、気化作業、排気作業、分離作業及び回収作業を備えている。
本発明の熱処理炉の使用方法は、雰囲気ガスの供給量を適切なタイミングで適量に振り分けるために、移送作業、第2排気作業及び冷却作業をさらに備えていることができる。
【0063】
(1)昇温作業
昇温作業は、雰囲気ガスで満たされた炉体11の炉内を、加熱器13により昇温する工程である(図4参照)。
加熱器13による炉内の温度は、熱処理の種類やワークWの材質などに応じて適宜設定され、特に限定されない。
具体的に、昇温作業は、ワークWの挿入前に加熱室112を加熱器13により予め設定温度に昇温する第1作業と、加熱室112にワークWを挿入後、必要に応じて加熱室112を加熱器13により設定温度に昇温する第2作業と、を備える。
図4には、昇温作業が備える第1作業及び第2作業のうち、主に第2作業を示すものとする。
より具体的に、昇温作業(第2作業)において、置換室111から加熱室112へ移動されたワークWは冷えており、そのワークWへの抜熱により加熱室112の温度が下がるため、加熱室112を再び設定温度とするため、加熱器13による昇温が実行される。
【0064】
(2)気化作業
気化作業は、昇温作業で昇温された炉内において、ワークWに付着した潤滑油Lを気化させる工程である(図5参照)。
炉内の温度は、熱処理するワークWの材質などに応じて適宜設定され、特に限定されないが、通常、650℃~950℃とすることができる。
具体的に、気化作業は、昇温作業の第1作業で昇温された加熱室112にワークWを収容することにより、さらには昇温作業の第2作業で必要に応じて加熱室112を昇温することにより、ワークWに付着した潤滑油Lを気化させることで実行される(図5参照)。
なお、潤滑油は、ワークWを熱処理する温度で気化しないものであれば、炉内やワークを汚すことがなく、特に回収を要しない。つまり、本発明において回収の対象とされる潤滑油Lは、ワークWを熱処理する炉内の温度で気化するもの、ということができる。
【0065】
(3)排気作業
排気作業は、気化作業の後、ガス供給系12から炉体11の炉内に雰囲気ガスを供給することにより、気化させた潤滑油Lを雰囲気ガスとともに排ガスとして、炉内からガス排気系14を介して炉外へ圧し出して排気する工程である(図5参照)。
ガス供給系12による雰囲気ガスの供給量は、炉内の容積などに応じて適宜設定され、特に限定されない。
雰囲気ガスの供給量を適切なタイミングで適量に振り分けるために、排気作業は、気化作業の後、ガス供給系12の第1切換系路24を開き、第2供給系路22及び第3供給系路23から加熱室112へ雰囲気ガスを供給することにより、気化させた潤滑油Lを雰囲気ガスとともに排ガスとして、加熱室112からガス排気系14を介して炉外へ圧し出して排気することができる(図5参照)。
【0066】
具体的に、排気作業は、気化作業の後、ガス供給系12の第1切換系路24を開き、且つ第3供給系路23の第1切換系路24との接続点よりも下流部23Aを閉じ、第2供給系路22及び第3供給系路23から加熱室112へ雰囲気ガスを供給することにより、気化させた潤滑油Lを雰囲気ガスとともに排ガスとして、加熱室112からガス排気系14を介して炉外へ圧し出して排気することで実行される。
また、排気作業は、ワークWの熱処理における加熱処理の過程で実行することができ、あるいは加熱処理の後で実行することもできる。特に、排気作業は、ワークWの熱処理における加熱処理の過程で実行する場合、作業時間の短縮化を図ることができる。
例えば、排気作業は、加熱処理の過程で実行する場合、加熱処理の開始から所定時間が経過した後、加熱室112内の温度が、潤滑油Lが気化する温度以上になったとき、つまり、潤滑油Lが気化し始めたときを開始時とし、その開始時から排ガスを炉外へ十分に圧し出すのに要する時間が経過したときを終了時として、実行することができる。
【0067】
(4)分離作業
分離作業は、排気作業の後、ガス排気系14を介して排ガスをガスクーラ15へ送り込み、ガスクーラ15で排ガスを冷却し、潤滑油Lを液化させて排ガスから分離する工程である(図5図7参照)。
ガス排気系14を介するガスクーラ15への排ガスの送り込み量は、ガス供給系12による雰囲気ガスの供給量などに応じて適宜設定され、特に限定されない。
【0068】
(5)回収作業
回収作業は、分離作業の後、潤滑油回収系16を介することにより、液化させた潤滑油Lを回収する工程である(図5図7参照)。
潤滑油回収系16を介する潤滑油Lの回収量は、ガスクーラ15の冷却性能などに応じて適宜設定され、特に限定されない。
回収された潤滑液は、潤滑液や燃料などとして再利用してもよいし、廃棄してもよい。
【0069】
(6)移送作業
移送作業は、ワークWを加熱室112から冷却室113に移送する工程である(図6参照)。
移送作業は、排気作業を行って潤滑油Lを含む排ガスを加熱室112から圧し出した後の適宜タイミングで実行することができる。具体的には、ワークWの熱処理における加熱処理の過程で排気作業を実行する場合、移送作業は、加熱処理の完了後、搬送装置116により加熱室112からワークWを冷却室113に移送することで実行することができる。そして、移送作業は、排気作業の後に行うことで、ワークWに移送に伴い加熱室112から冷却室113に流入する排ガス(気化した潤滑油L)の量を減らすことができる。
【0070】
(7)第2排気作業
第2排気作業は、移送作業の後、ガス供給系12の第2切換系路26を開き、第1供給系及び第3供給系から冷却室113へ雰囲気ガスを供給し、加熱室112からワークWとともに冷却室113へ流入した気化させた潤滑油Lを、雰囲気ガスとともに排ガスとして、冷却室113から第2ガス排気系17を介して炉外へ圧し出して排気する工程である(図7参照)。
具体的に、第2排気作業は、移送作業の後、ガス供給系12の第2切換系路26を開き、且つ第1供給系路21の第2切換系路26との接続点よりも下流部21Aを閉じ、第1供給系路21及び第3供給系路23から冷却室113へ雰囲気ガスを供給し、加熱室112からワークWとともに冷却室113へ流入した潤滑油Lを、雰囲気ガスとともに排ガスとして、冷却室113から第2ガス排気系17を介して炉外へ圧し出して排気することで実行される。
【0071】
(8)冷却作業
冷却作業は、第2排気作業の後、冷却室113でワークWを冷却する工程である(図7図8参照)。
ワークWの冷却は、第3供給系路23から冷却室113へ供給される雰囲気ガスを冷媒として使用することにより行われる。
つまり、雰囲気ガスは、撹拌扇45によって冷却室113内を流動しており、その流動の際、加熱されたワークWを抜熱し、また抜熱後にクーラ44によって冷やされることで、熱交換によりワークWを冷却する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、金属部品、金属線材、金属工具、金具などの金属材料からなり、熱処理を必要とするワークについて、広範な製品で利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
10;熱処理炉、
11;炉体、111;置換室、112;加熱室、113;冷却室、114A~114D;開口部、115;扉、116;搬送装置、
12;ガス供給系、21;第1供給系路、21A;第1供給系路の下流部、22;第2供給系路、23;第3供給系路、23A;第3供給系路の下流部、24;第1切換系路、25A;第1切換バルブ、25B;他の切換バルブ、26;第2切換系路、27A;第2切換バルブ、27B;他の切換バルブ、122;流量設定バルブ、123;流量計、124;主供給系路、125:減圧弁、
13;加熱器、31;ヒータ装置、
14;ガス排気系、
15;ガスクーラ、51;外管、51A;流入口、51B;流出口、52;冷却管、53;入側配管、54;出側配管、55;仕切板、
16;潤滑油回収系、61;回収容器、62;仕切弁、
17;第2排気系、
18;第3排気系、
19;第4排気系、
41;トレイ、42;撹拌扇、43;整流板、44;クーラ、46;潤滑油排出系、47;オイルパン、48;仕切弁、
A;搬送方向、
G1;置換室へ供給される雰囲気ガス、G2A,G2B;加熱室へ供給される雰囲気ガス、G3;冷却室へ供給される雰囲気ガス、
L;潤滑油、
W;ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8