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特開2023-119945マイクロレンズアレイ、拡散板及び照明装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119945
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】マイクロレンズアレイ、拡散板及び照明装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20230822BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G02B3/00 A
G02B5/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023094
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安原 良
(72)【発明者】
【氏名】岸本 真紀
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042BA04
2H042BA13
2H042BA16
2H042BA18
(57)【要約】
【課題】より容易に、より均一な放射照度分布を得ることが可能な技術を提供する。
【解決手段】平面部材の少なくとも片面に複数のレンズ要素が配列されたマイクロレンズアレイであって、前記マイクロレンズアレイにおける各々の前記レンズ要素のピッチDが、±ΔDの範囲でランダムにばらつき、前記ΔDは、λを入射光の波長、n2をマイクロレンズアレイの屈折率、αを入射光のマイクロレンズアレイ内の伝搬角度としたときに、0≦ΔD≦λ/(n1×sinβ)を満たす。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部材の少なくとも片面に複数のレンズ要素が配列されたマイクロレンズアレイであって、
前記マイクロレンズアレイにおける各々の前記レンズ要素のピッチDが、±ΔDの範囲でランダムにばらつき、
前記ΔDは、λを入射光の波長、n2をマイクロレンズアレイの屈折率、βを、マイクロレンズアレイを透過した光の出射角度(光軸に対する角度)としたときに、

0≦ΔD≦λ/(n1×sinβ)

を満たすことを特徴とする、マイクロレンズアレイ。
【請求項2】
平面部材の少なくとも片面に複数のレンズ要素が配列されたマイクロレンズアレイであって、
前記マイクロレンズアレイにおける各々の前記レンズ要素のピッチDが、±ΔDの範囲でランダムにばらつき、
前記D及びΔDは、

0≦ΔD/D≦22%

を満たすことを特徴とする、マイクロレンズアレイ。
【請求項3】
平面部材の少なくとも片面に複数のレンズ要素が配列されたマイクロレンズアレイであって、
前記マイクロレンズアレイにおける各々の前記レンズ要素のピッチDが、±ΔDの範囲でランダムにばらつくとともに、前記レンズ要素の高さHが、ΔHの範囲でランダムにばらつき、
前記ΔD及び前記ΔHは、
【数1】


を満たすことを特徴とする、マイクロレンズアレイ。
【請求項4】
同一の材料で一体的に形成された、請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロレンズアレイ。
【請求項5】
導電性物質を含む配線を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロレンズアレイ。
【請求項6】
前記配線は、前記レンズ要素の表面または前記レンズ要素の周囲に形成された、請求項5に記載のマイクロレンズアレイ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロレンズアレイを用いた、拡散板。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のマイクロレンズアレイと、
前記マイクロレンズアレイに光を入射する光源と、
を備えた照明装置。
【請求項9】
前記マイクロレンズアレイにおける前記レンズ要素が前記光源側の面に配列された、請求項8に記載の照明装置。
【請求項10】
前記光源は、近赤外線光を発光するレーザー光源である請求項8または9に記載の照明装置。
【請求項11】
距離測定装置に用いられる、請求項8から10のいずれか一項に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロレンズアレイ、拡散板及び照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば照明もしくは計測、顔認証、空間認証等のための装置に用いられ、複数のレンズ要素を配置したマイクロレンズアレイが公知である(例えば、特許文献1等参照。)。このマイクロレンズアレイは、光源からの光を光学的に均一化する目的で用いられる場合があるが、レンズ要素のピッチが狭すぎると各レンズ要素の透過光の干渉に起因する干渉縞が顕在化し、光源光の均一化の妨げになる場合があった。一方、レンズ要素のピッチが広すぎると光源からの照射光がマイクロレンズアレイに偏って入射することによってモアレ縞が発生し、照射分布が不均一になる場合があった。その結果、マイクロレンズアレイを用いてスクリーン等に光源光を照射した場合に、放射照度分布が不均一になる場合があった。図15(a)には干渉縞やモアレ縞が無い場合の放射照度分布、図15(b)には干渉縞が発生した場合の放射照度分布、図15(c)にはモアレ縞が発生した場合の放射照度分布の例を示す。
【0003】
上述した干渉縞による放射照度分布の不均一化を抑制するために、各レンズ要素の位置や形状等をランダムに分布させる対策が考えられた(例えば、特許文献2等参照)。しかしながら、過剰にランダム化を進めてしまうと、所望の配光特性が得られず、特に照射プロファイルのエッジをシャープにするのが困難になる場合があった。また、各レンズ要素の配列が複雑化してしまうために、作製時間や費用がかかるなどの不都合が生じる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/103795号
【特許文献2】国際公開第2015/182619号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の技術は上記の事情に鑑みて発明されたもので、その目的は、マイクロレンズアレイによって、より容易に、より均一な放射照度分布を得ることが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示に係るマイクロレンズアレイは、平面部材の少なくとも片面に複数のレンズ要素が配列されたマイクロレンズアレイであって、
前記マイクロレンズアレイにおける各々の前記レンズ要素のピッチDが、±ΔDの範囲でランダムにばらつき、
前記ΔDは、λを入射光の波長、n2をマイクロレンズアレイの屈折率、βを、マイクロレンズアレイを透過した光の出射角度(光軸に対する角度)としたときに、

0≦ΔD≦λ/(n1×sinβ)

を満たすように構成した。
【0007】
これによれば、マイクロレンズアレイの各レンズ要素に入射する光の光路差における波
数Kの差ΔKを0~1の間でランダムに変化させることができ、マイクロレンズアレイを通過した後の光の放射照度分布において、干渉縞の顕在化を抑制することができる。なお、αを、マイクロレンズアレイ内の入射光の伝搬角度(光軸に対する角度)とすると、スネルの法則より、n2×sinα=n1×sinβが成り立つことから、上記の式を、

0≦ΔD≦λ/(n2×sinα)

としてもよい。
【0008】
また、平面部材の少なくとも片面に複数のレンズ要素が配列されたマイクロレンズアレイであって、
前記マイクロレンズアレイにおける各々の前記レンズ要素のピッチDが、±ΔDの範囲でランダムにばらつき、
前記ΔDは、

0≦ΔD/D≦22%

を満たすように構成してもよい。
【0009】
また、平面部材の少なくとも片面に複数のレンズ要素が配列されたマイクロレンズアレイであって、
前記マイクロレンズアレイにおける各々の前記レンズ要素のピッチDが、±ΔDの範囲でランダムにばらつくとともに、前記レンズ要素の高さHが、ΔHの範囲でランダムにばらつき、θをマイクロレンズアレイの各レンズ要素に入射する光の、光軸に対する角度としたときに、
前記ΔD及び前記ΔHは、
【数1】


を満たすように構成してもよい。
【0010】
これらによっても、マイクロレンズアレイの各レンズ要素に入射する光の光路差における波数Kの差ΔKを0~1の間でランダムに変化させることができ、マイクロレンズアレイを通過した後の光の放射照度分布において、干渉縞の顕在化を抑制することができる。なお、αを、マイクロレンズアレイ内の入射光の伝搬角度(光軸に対する角度)とすると、スネルの法則より、n2×sinα=n1×sinβが成り立つことから、上記の式を、
【数2】


としてもよい。
【0011】
また、マイクロレンズアレイにおける平面部材とレンズ要素は、同一の材料で一体的に形成されるようにしてもよいし、異なる材質で形成されてもよい。
【0012】
また、上記のマイクロレンズアレイを用いて拡散板を構成してもよい。
【0013】
また、上記のマイクロレンズアレイと、前記マイクロレンズアレイに光を入射する光源と、によって、照明装置を構成してもよい。その際、さらにマイクロレンズアレイを保持するホルダーが用いられてもよい。
【0014】
また、上記の照明装置は、前記マイクロレンズアレイにおける前記レンズ要素が前記光源側の面に配列されるようにしてもよい。
【0015】
また、前記光源は、近赤外線光を発光するレーザー光源としてもよい。
【0016】
また、上記の照明装置は、Time Of Flight方式の距離測定装置に用いられてもよい。
【0017】
なお、本発明においては、可能な限り、上記の課題を解決するための手段を組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、マイクロレンズアレイによって、より容易に、より均一な放射照度分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、Time Of Flight方式の距離測定装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、光源から発光された光にマイクロレンズアレイを通過させ、スクリーン上に照射する評価系を示す図である。
図3図3は、マイクロレンズアレイの断面と入射光の光路の拡大図である。
図4図4は、マイクロレンズアレイを通過した光についてスクリーン上で確認される干渉縞の例である。
図5図5は、出射角度と、波数(位相差)の間の関係を示すグラフである。
図6図6は、入射光の位相差と、スクリーン上の強度との関係を示すグラフである。
図7図7は、様々なΔKにおける、出射光角度β(deg)と、ピッチ変化ΔD(μm)の関係を示すグラフである。
図8図8は、各ΔKの値の場合における、ピッチDと、ピッチ変化率ΔD/Dとの関係を示すグラフである。
図9図9は、各ΔKの値の場合における、ピッチDと、ピッチ変化率ΔD/Dとの関係を示す第2のグラフである。
図10図10は、重ね合わせの数N=10の場合のスクリーン上における光強度の予測値を示すグラフである。
図11図11は、スクリーン上における光強度のピーク部分の強度が、ΔK=0~1の範囲内で光線Bの光路差(位相差)をランダムに配置することで低減することを示すグラフである。
図12図12は、マイクロレンズアレイの断面と入射光の光路の拡大図である。
図13図13は、可撓性シートの表面にマイクロレンズアレイを形成した拡散板の斜視図である。
図14図14は、照明装置の概略構成を示す図である。
図15図15は、マイクロレンズアレイを通過した光についてスクリーン上で干渉縞、モアレ縞が発生しない場合と、発生した場合の放射照度分布の例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係るマイクロレンズアレイについて説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0021】
<実施形態1>
図1には、実施形態におけるマイクロレンズアレイの使用用途の一例としての、TOF(Time Of Flight)方式の距離測定装置100の概略図を示す。TOF方式の距離測定装置100は、照射光の飛行時間を測定することで、測定対象Oの表面の各部までの距離を測定する装置であり、光源制御部101、照射光源102、照射光学系103、測定対象Oからの反射光を集光する受光光学系104、受光素子105、信号処理回路106を有する。
【0022】
光源制御部101からのドライブ信号に基づいて照射光源102がパルス状の光を発光すると、そのパルス状の光が照射光学系103を通過して測定対象Oに照射される。そして、測定対象Oの表面で反射した反射光は受光光学系104を通過して受光素子105で受光され、信号処理回路106で適切な電気信号に変換される。そして、演算部(不図示)において、照射光源102が照射光を発光してから受光素子105で反射光が受光されるまでの時間、つまり光の飛行時間を測定することにより、測定対象Oにおける各場所までの距離を測定する。
【0023】
このTOF方式の距離測定装置100における照射光学系103、または受光光学系104として、マイクロレンズアレイが使用される場合がある。マイクロレンズアレイとは、直径が10μm~数mm程度の微小なレンズ要素の群からなるレンズアレイである。マイクロレンズアレイは、レンズアレイを構成する各々のレンズ要素の形状(球面、非球面、シリンドリカル、六方等)、レンズ要素の大きさ、レンズ要素の配置、レンズ要素間のピッチ等によって、その機能や精度が変化する。
【0024】
そして、マイクロレンズアレイが、上述のTOF方式の距離測定装置100に使用されるような場合には、測定対象Oに均一な強度分布の光を照射することが求められる。すなわち、マイクロレンズアレイを通過後の光の使用可能な広がり角である画角θFOI(FOI:Field Of Illumination)は、測定対象Oの大きさや測定距離に応じて決定されるが、この画角θFOIの範囲においては、マイクロレンズアレイを通過後の光の放射照度分布の均一性が求められる。
【0025】
次に、図2を示すような、光源2から発光された光にマイクロレンズアレイ1を通過させ、スクリーン3上に照射する評価系について考える。ここで、光源2は、例えば、VCSELレーザ光源(Vertical Cavity Surface Emitting LASER:垂直共振器面発光レーザ)であり、光源2の指向性としては、±5度、±10度、±20度程度のものを選択することが可能であるが特に制限はない。そして、マイクロレンズアレイ1は、平面部材である基材の片側または両側の表面に、レンズ要素1aを2次元的に配列させたアレイが構成されたものであり、このマイクロレンズアレイ1を通過した光は、光軸に対して拡散する拡散光となり、測定対象Oに模したスクリーン3上に照射される。
【0026】
図3には、光源2側にレンズ要素1aが形成された場合のマイクロレンズアレイ1の断面の拡大図を示す。図3に示すように、マイクロレンズアレイ1は、基本的に各レンズ要素1aの曲面形状と、各レンズ要素1aの幅(ピッチ)Dによって特徴づけられる。なお、マイクロレンズアレイ1の素材としては樹脂材料やガラス材料が用いられるが、特に限定されない。ここでは、空気中の屈折率n1=1、マイクロレンズアレイ1の材質の屈折率n2=1.51とする。
【0027】
図3に示すように、マイクロレンズアレイ1の光軸に対して角度をもって入射した光は、より大きな角度でマイクロレンズアレイ1から出射する。よって、前述のように、マイクロレンズアレイ1によって、光源2からの光を光軸に対して拡散する拡散光とすることができる。一方で、ある条件下においてはマイクロレンズアレイ1から出射した拡散光において干渉縞が生じてしまう場合がある。以下、この干渉縞の発生について説明するために、隣り合うレンズ要素1aに斜めに入射した2本の光線Bについて考える。これらの光線Bは、隣り合うレンズ要素1aにおける同じ場所に入射すると仮定する。この場合、2つの光線Bは、レンズ要素1aへの入射角度に応じてマイクロレンズアレイ1内を法線方向に対して角度α(以下、光線Bの伝搬角度αともいう。)の方向に進む。そして、レンズ要素1aが設けられた入射面の反対面である出射面において、さらに屈折して法線方向に対して角度βの方向に進む。この場合、レンズ要素1aの間のピッチDによる光路差Lと、光路差Lにおける波数Kは、以下の式(1)で表される。

L=n2×D・sinα ・・・・・・・・・(1)

L/λ=K ・・・・・・・・・・・・・・・(2)

ここでλは入射光の波長である。
【0028】
そして、波数K=N(整数)の場合に、2つの光線Bは強め合い、波数K=0.5+N
の場合に、2つの光線Bは弱め合う。このことにより、スクリーン3上には干渉縞が生じることとなる。
【0029】
図4には、マイクロレンズアレイ1を通過した光の画角θFOIが52deg、ピッチDが28μmの場合にスクリーン3上で確認される干渉縞の例を示す。また、図5には、出射角度βと、波数(位相差)Kの間の関係を示す。図5に示すとおり、出射角度βが大きくなると、波数Kは多くなる。図4の例では、マイクロレンズアレイ1の画角θFOIが52deg(=2β)であるので、傾き角βの最大値は画角θFOIの半分の26degと考えられる。そして、ピッチD=28の場合には、グラフより波数(位相差)K=13と読めるので、画角52degに対して縞が13×2=26本程度、確認されることが予想できる。この数値は図4の写真で確認される結果と整合する。また、図5に示すとおり、ピッチDが28μmの場合より、ピッチDが35μmの場合の方が、確認される縞の数が多くなることが理解できる。
【0030】
次に、図6(a)には、図3における2つの光線Bの位相差と、2つの光線Bの干渉により得られる光強度の関係の例を示す。図6(a)では、例として、二つの光線Bの光路差における位相差が3.14rad(波数K=0.5に相当)である場合について示す。この場合には、二つの光線Bは常に弱め合うため、スクリーン3上における出射角度βに対応する場所には縞の暗線が確認されることになる。
【0031】
これに対し、図6(b)に示すように、マイクロレンズアレイ1における様々なレンズ要素1aに入射する光線Bの組み合わせについて、位相差が、波数K=0~1に相当する値の範囲でランダムに分布するようにすれば、スクリーン3上における出射角度βに対応する場所には、様々な位相差に係る光線Bが重なることにより、強度は平均化され干渉縞が目立たなくなる。
【0032】
ここで、ランダム化をピッチDを用いて実行した場合、ピッチDの変化ΔDによる光路差Lの変化ΔLは、以下の式(3)で表される。

ΔL=n2×ΔD・sinα ・・・・・・・・・(3)

また、波数Kの変化ΔKは以下の式(4)、(5)で表される。

ΔL/λ=ΔK ・・・・・・・・・(4)
(n2×ΔD・sinα)/λ=ΔK ・・・・・・・・・(5)

そうすると、波数Kの変化ΔKの最大値と、ピッチDの変化ΔDの最大値との関係は以下の式(6)のように表される。

ΔDmax=(ΔKmax×λ)/(n2×sinα)・・・(6)
【0033】
ここで、ΔKmax=1、マイクロレンズアレイ1中における光線Bの伝搬角度αを17deg、光源光の波長を0.94μmとすると、ピッチDの変化ΔDの最大値ΔDmaxは以下の(7)に示す値となる。

ΔDmax=(1×0.94)/(1.51×sin(17deg))
≒2.13μm ・・・・・・・・・(7)

ピッチの基準値をD=28μmとすると、変化量の比率は、以下の(8)に示す値となる。
ΔDmax/D≒2.13/28=±3.8% ・・・・・(8)
【0034】
ここで、後述するように、2つの光線Bの間の光路差における波数差ΔKが0~1となるように、ピッチDをランダムにばらつかせることで、干渉縞が抑えられることが想定される。
従って、式(6)より、ΔDを、

0≦ΔD≦λ/(n2×sinα) ・・・・・(9)

の範囲でランダムにばらつかせることで、干渉縞を抑制することが可能となる。
なお、スネルの法則より、n2×sinα=n1×sinβが成り立つことから、上記
の式を、

0≦ΔD≦λ/(n1×sinβ) ・・・・・(9B)

としてもよい。
【0035】
図7には、様々なΔKにおける、出射光角度β(deg)と、ピッチ変化ΔD(μm)の関係を示す。図7に示す関係によれば、例えば出射光角度βを25degとすると、ΔK=1とするためのピッチ変化ΔDは、2.2μmとなる。また、図8には、出射光角度βを25degの場合の各ΔKの値における、ピッチDと、ピッチ変化率ΔD/Dとの関係を示す。ピッチD=28μmとすると、ΔK=1とするためのピッチ変化率ΔD/Dは約7.5%に相当する。また、図8-のグラフより、ΔK≦1となるピッチ変化率ΔD/
Dの範囲は、一般的なピッチDの範囲においてΔD/D≦11%であることが分かる。また、図9には、出射光角度βを15degの場合の各ΔKの値における、ピッチDと、ピッチ変化率ΔD/Dとの関係を示す。ピッチD=25μm以上の範囲で考慮すると、ΔK≦1となるピッチ変化率ΔD/Dの範囲はΔD/D≦15%であることが分かる。
【0036】
すなわち、ピッチΔDを、

0≦ΔD/D≦15% ・・・・・・・・・(10)

の変化率の範囲でランダムにばらつかせることで、干渉縞を抑制することが可能と想定できる。
さらに、出射光角度βを10degまで考慮し、ピッチD=25μm以上の範囲で考慮すると、同様の検討により、ΔK≦1となるピッチ変化率ΔD/Dの範囲はΔD/D≦22%となる。このように、ピッチD、出射光角度β、波長λの様々なパターンに対応可能とするには、ピッチΔDを、

0≦ΔD/D≦22% ・・・・・・・・・(10B)

の変化率の範囲でランダムにばらつかせることが望ましいと言える。また、干渉対策としてΔD/Dの範囲を広げることと、マイクロレンズアレイ1を透過した照射画像のエッジのシャープネスとはトレードオフの関係となることから、例えば、干渉対策重視の場合には、0≦ΔD/D≦22%の範囲、照射画像の画質重視の場合には0≦ΔD/D≦11%の範囲、両者のバランスを考慮する場合には0≦ΔD/D≦15%といった使い分けをしても構わない。
【0037】
次に、本実施例において、ΔK=0~1の範囲内で光線Bの光路差(位相差)をランダムに配置することで、干渉縞を抑制できる理由について説明する。ここで、光は以下のように複素振幅Eとして表すことが出来る。

E=A・exp(-i(Kx-ωt)) ・・・・・・・(11)

ここでAは振幅、Kは波数、xは位置、ωは角振動数、tは時間であり、Kxが空間による位相の進み、ωtは時間による位相の進みを表す。
また、光の強度IはEとEの複素共役Eの積に比例し

I=|E|=E・E=A・exp(-i(Kx-ωt))
×A・exp(i(Kx-ωt))=A ・・(12)

となる。
【0038】
そして、複数の光の重ね合わせを考える場合は

E1=A1・exp(-i(K1x-ωt))
E2=A2・exp(-i(K2x-ωt))
=A2・exp(-i(K1x-ωt+φ2))
E3=A3・exp(-i(K3x-ωt))
=A3・exp(-i(K1x-ωt+φ3))
....... ・・・・・・・・・・・・・・・・(13)

となり、これらを重ね合わせた場合の強度Itotalは、以下の式(14)のようになる。

total=|E1+E2+E3+・・・・| ・・・・・(14)
【0039】
そして、全ての光の振幅がAで等しく、便宜的にE1の初期位相をφ1とすると、上記の光の重ね合わせは、

E1=A・exp(-i(K1x-ωt+φ1))
E2=A・exp(-i(K2x-ωt))
=A・exp(-i(K1x-ωt+φ2))
E3=A・exp(-i(K3x-ωt))
=A・exp(-i(K1x-ωt+φ3))
....... ・・・・・・・・・・・・・・・・(15)

となる。
【0040】
これらを重ね合わせた場合の強度Itotalは、

total=(E1+E2+E3+・・En)・(E1+E2+E3+・・En)
=(A・exp(-i(K1x-ωt+φ1))+A・exp(-i(K1x-ωt+φ2))+・・・・)・(A・exp(i(K1x-ωt+φ1))+A・exp(i(K1x-ωt+φ2))+・・・・) ・・・・・(16)

となり、最終的に次の式(17)のように定義できる。

【数3】


式(17)において、全てのφn-φmが2nπの時、光は最も強め合いItotalは(N・A)となる。また、φn-φmがランダムとなり、弱め合う時にゼロとなる。
【0041】
図10には、重ね合わせの数N=10の場合の光強度の予測値を示す。上述のように多重干渉することで、スクリーン3上の特定の位置で光線Bの顕著な強め合いが特定の位置
で生じており、光線Bの強度のピークから位置がずれることで、光線Bの強度が急峻に低下していることが理解できる。図11は、図10において強め合いが生じているピーク部分の強度が、ΔK=0~1の範囲内で光線Bの光路差(位相差)をランダムに配置することで低減することを示すグラフである。
【0042】
重ね合わせの数N=10の場合に、ΔK=0~1の範囲内で光線Bの光路差(位相差)をランダムに配置することでピーク強度は1/10程度に低減していることが分かる。すなわち、ΔK=0~1の範囲内で光線Bの光路差(位相差)をランダムに配置することで、干渉縞による強度ムラを略解消することが可能である。
【0043】
<実施形態2>
次に、マイクロレンズアレイにおける各レンズ要素のピッチDの他に、レンズ要素の高さについてもランダムに配置させることで干渉縞を抑制する例について説明する。図12には、マイクロレンズアレイ11の断面の拡大図を示す。図12に示すように、マイクロレンズアレイ11は、各レンズ要素11a、11bの曲面形状と、各レンズ要素11a、11bの幅(ピッチ)Dの他、各レンズ要素11a、11bの高さによって特徴づけられる。ここでは、レンズ要素11aと、レンズ要素11bとは、曲面形状とピッチDは同じで、高さのみが異なるとする。
【0044】
図12に示すように、隣り合うレンズ要素11a、11bに斜めに入射した2本の光線B1、B2について考える。これらの光線B1、B2は、隣り合い高さの異なるレンズ要素11a、11bにおける同じ場所に入射するとする。この場合、2つの光線B1、B2は、レンズ要素11a、11bへの入射角度に応じてマイクロレンズアレイ11内を光軸に対して伝搬角度αの方向に進む。そして、レンズ要素11a、11bが設けられた入射面の反対面である出射面において、さらに屈折して光軸に対して出射角度βの方向に進む。この場合、レンズ要素11aとレンズ要素11bの間のピッチD及び高さHによる光路差L´は、以下の式(18)で表される。

L´=n2×D・sinα+H・(n2/cosα-n1/cosθ)・・・(18)
【0045】
ここで、θは、レンズ要素11a及びレンズ要素11bへ入射する光線B1と光線B2の入射角度(入射する光の法線に対する角度)である。そして、以下の式(19)において、波数K=N(整数)の場合に、光線B1と光線B2は強め合い、波数K=0.5+N
の場合に、光線B1と光線B2は弱め合うことになる。このことにより、スクリーン3上には干渉縞が生じることとなる。

L´=n2×D・sinα+H・(n2/cosα-n1/cosθ)
=K・λ ・・・・・・・(19)

ここでn2はマイクロレンズアレイ11の屈折率、λは入射光の波長である。
【0046】
そして、レンズ要素11a、11bのピッチDをランダムに配置させた場合のピッチ変化量ΔDに加え、レンズ要素11aとレンズ要素11bの間に高さの差ΔHを設けた場合の、光路差L´の変化量ΔLと波数差ΔKは、以下の式(20)及び式(21)のように表される。

ΔL=n2×ΔD・sinα
+ΔH・(n2/cosα-n1/cosθ) ・・・・(20)

ΔL/λ=ΔK ・・・・・・・・・・・・・・・・・(21)

この場合においても、隣り合うレンズ要素11a、11bのΔKを0~1の範囲で変化するように、ピッチDと高さHとをランダムにばらつかせることで、各光線B1、B2の強め合い及び、弱め合いは低減される。
【0047】
よって、式(20)及び式(21)より、ピッチDの変化ΔDと高さHの変化ΔHが、式(22)を満たすようにすることで、干渉縞を抑制することが可能である。
【数4】


なお、スネルの法則より、n2×sinα=n1×sinβが成り立つことから、上記の式を、
【数5】


としてもよい。
【0048】
ここで、上記の実施形態では、光源2から発光された光に、マイクロレンズアレイ1、11を通過させて、スクリーン3上に投影する用い方を前提とした場合について説明したが、マイクロレンズアレイ1、11は、光源2から発光された光を、マイクロレンズアレイ1上で反射させて、スクリーン3上に投影するような用い方をすることも可能である。
【0049】
また、本実施形態ではマイクロレンズアレイ1、11における各レンズ要素1a、11aが、光源2側の片面に配列された例について説明したが、各レンズ要素1a、11aが、光源2と反対側の片面に配列されるようにしても構わない。さらに、両面に配列されるようにしても構わない。
【0050】
また、各レンズ要素1a、11aの断面は、曲面形状が非連続的に並ぶ形状としたが、曲面形状を滑らかな曲線で連続的に繋げるような形状とすることも可能である。
【0051】
また、本実施形態におけるマイクロレンズアレイ1、11の材質については、基材と各レンズ要素1a、11aとを別材料で形成してもよいし、同じ材料で一体的に形成してもよい。基材とレンズ要素1a、11aとを別材料で形成する場合には、基材またはレンズ
要素1a、11aの一方を樹脂材料、他方をガラス材料で形成しても構わない。基材とレンズ要素1a、11aとを同じ材料で一体的に形成する場合には、屈折率界面を有さないため、透過効率を高めることが可能となる。また、基材と各レンズ要素1a、11aとの剥離が生じることもなく信頼性を向上させることが可能である。この場合には、マイクロレンズアレイ1、11は樹脂単体で形成されてもよいし、ガラス単体で形成されてもよい。
【0052】
また、図13に示すように、本実施形態において説明したマイクロレンズアレイ1、11と同等の機能を有するマイクロレンズアレイ21を、可撓性のシート22上に形成することによって、入射する光を拡散して均一化する拡散板20を構成することとしてもよい。マイクロレンズアレイ21を強固な平板上に形成して拡散板としてもよいことは当然である。
【0053】
また、図14に示すように、本実施形態において説明したマイクロレンズアレイ1と同等の機能を有するマイクロレンズアレイ31と、光源32と、光源制御部33とを組み合わせて、照明装置30を構成することとしてもよい。この照明装置30は、単体で照明用に使用されてもよいし、TOF方式の距離測定装置等の計測装置や他の装置に組み込まれて使用されてもよい。また、照明装置30において、マイクロレンズアレイ31のレンズ要素は、光源32側の片面に配置してもよいし、光源32の反対側の片面に配置してもよい。両面に配置してもよい。さらに、光源32として、指向性について特に制限はないが、例えば指向性が±20°以下のものを用いてもよい。より好ましくは、指向性が±10°以下のものを用いてもよい。光源32として、より指向性の高い光源を用いることで、画角θFOIの両端における放射照度分布を、よりエッジの立った形状とすることが可能である。
【0054】
また、本実施形態において説明したマイクロレンズアレイ1と同等の機能を有するマイクロレンズアレイを、画像撮影用、セキュリティ機器における顔認証用、車両やロボットにおける空間認証用の光学系として使用しても構わない。また、本実施形態において説明したマイクロレンズアレイ1を、回折光学素子や屈折光学素子を含む、他の光学素子と組み合わせて使用しても構わない。また、マイクロレンズアレイ1の表面には如何なるコーティングを施しても構わない。
【0055】
<導電性物質の配線について>
なお、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ1、11の表面または内部には、導電性物質を含む配線を施し、当該配線の通電状態をモニターすることにより、各レンズ要素1a、11aの損傷を検出できるようにしてもよい。そうすることで、各レンズ要素1a、11aのクラック、剥離などの損傷を簡便に検出することができるので、マイクロレンズアレイ1、11の損傷に起因する照明装置や距離測定装置の不具合、誤作動による被害を未然に防止することができる。例えば、各レンズ要素1a、11aのクラックの発生を、導電性物質の断線により検出し、光源の発光を禁止することで、当該クラックを介して光源からの0次光が直接マイクロレンズアレイ1、11を透過し、外部に照射されることを回避できる。その結果、装置のアイセーフティー性能を向上させることが可能である。
【0056】
上記の導電性物質の配線は、マイクロレンズアレイ1、11の周囲や、各レンズ要素1a、11a上に施しても良い。また、レンズ要素1a、11aが形成された方の面、反対側の面、両側の何れの面に施してもよい。導電性物質としては、導電性を有するものである限り特に限定されず、例えば、金属、金属酸化物、導電性ポリマー、導電性炭素系物質などを使用することができる。
【0057】
より具体的には、金属としては、金、銀、銅、クロム、ニッケル、パラジウム、アルミ
ニウム、鉄、白金、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉛、コバルト、チタン、ジルコニウム、インジウム、ロジウム、ルテニウム、及びこれらの合金等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、又は、これらの複合酸化物、例えば、酸化インジウムと酸化スズとの複合酸化物(ITO)、酸化スズと酸化リンとの複合酸化物子(PTO)等が挙げられる。導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等が挙げられる。導電性炭素系物質としては、カーボンブラック、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。これら導電性物質は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0058】
導電性物質としては、導電性に優れ、配線を形成しやすい、金属又は金属酸化物が好ましく、金属がより好ましく、金、銀、銅、インジウム等が好ましく、100℃程度の温度で相互に融着し、樹脂製のマイクロレンズアレイ1、11上でも導電性に優れた配線を形成することができる点で銀が好ましい。また、導電性物質による配線のパターン形状については特に限定されない。マイクロレンズアレイ1の周囲を囲うパターンでも良いし、よりクラック等の検出性を高めるためにパターンを複雑な形状としてもよい。さらに、透過性の導電性物質によってマイクロレンズアレイ1の少なくとも一部を覆うパターンでも良い。
【符号の説明】
【0059】
1、11、21、31・・・マイクロレンズアレイ
1a、11a、11b・・・レンズ要素
2・・・光源
3・・・スクリーン
20・・・拡散板
22・・・可撓性のシート
30・・・照明装置
32・・・光源
33・・・光源制御部
100・・・TOF距離測定装置
101・・・光源制御部
102・・・光源
103・・・照射光学系
104・・・反射光学系
105・・・受光素子
106・・・信号処理回路
図1
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