(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023119950
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】ゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置
(51)【国際特許分類】
A63B 69/36 20060101AFI20230822BHJP
【FI】
A63B69/36 541P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023103
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】南家 健太
(72)【発明者】
【氏名】平 和樹
(57)【要約】
【課題】 ミスショットも含め、ゴルファの個々のスイングに対応する複数のシャフトを提案可能としつつ、決定された複数のシャフト指標に基づいて、ゴルファのスイングを分析する。
【解決手段】 ゴルファに適したシャフトを選定するためのフィッティング装置200であって、スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得する取得部201と、第1計測値に基づいて、複数のスイングそれぞれのスイング特徴量を算出する算出部202と、スイングごとに、それぞれのスイング特徴量に基づいて、ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定する決定部203と、決定された複数のシャフト指標に基づいて、スイングを分析するスイング分析部204とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルファに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティング装置であって、
スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得する取得部と、
前記第1計測値に基づいて、複数の前記スイングそれぞれのスイング特徴量を算出する算出部と、
前記スイングごとに、前記それぞれのスイング特徴量に基づいて、前記ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定する決定部と、
決定された複数の前記シャフト指標に基づいて、前記スイングを分析するスイング分析部とを含む、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
【請求項2】
前記スイング分析部は、
決定された複数の前記シャフト指標を、出現数で順位付けする順位付け部と、
前記差分として、順位付けられた前記シャフト指標において、上位のシャフト指標と最下位のシャフト指標との差分を計算する差分抽出部と、
前記差分に基づいて、前記スイングを分析する判別部をさらに含む、請求項1に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
【請求項3】
前記シャフト指標は、前記シャフトのチップ端側の曲げ剛性に対応する指標と、前記シャフトのバット端側の曲げ剛性に対応する指標とを含み、
前記差分抽出部は、前記差分として、前記チップ端側の前記指標の差分である第1差分と、前記バット端側の前記指標の差分である第2差分とを算出する、請求項2に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
【請求項4】
前記判別部は、前記チップ端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも小さいときに、打球が第1方向に飛びやすいスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、請求項3に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
【請求項5】
前記判別部は、前記チップ端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも大きいときに、打球が第2方向に飛びやすいスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、請求項3又は4に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
【請求項6】
前記判別部は、前記バット端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも小さいときに、切り返しが遅いスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、請求項3ないし5のいずれか1項に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
【請求項7】
前記判別部は、前記バット端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも大きいときに、切り返しが早いスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、請求項3ないし6のいずれか1項に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載された前記フィッティング装置を含む、ゴルフクラブのシャフトのフィッティングシステムであって、
前記第1計測値を計測するための前記スイングセンサと、
前記シャフト指標及び/又は前記分析された結果を表示するための表示部とを含む、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティングシステム。
【請求項9】
ゴルファに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティング方法であって、
スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得するステップと、
前記第1計測値に基づいて、複数の前記スイングそれぞれのスイング特徴量を算出するステップと、
前記スイングごとに、前記それぞれのスイング特徴量に基づいて、前記ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定するステップと、
決定された複数の前記シャフト指標に基づいて、前記スイングを分析するステップとを含む、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティング方法。
【請求項10】
前記シャフト指標及び/又は前記分析された結果を表示するステップをさらに含む、請求項9に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング方法。
【請求項11】
ゴルファに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティングプログラムであって、
スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得するステップと、
前記第1計測値に基づいて、複数の前記スイングそれぞれのスイング特徴量を算出するステップと、
前記スイングごとに、前記それぞれのスイング特徴量に基づいて、前記ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定するステップと、
決定された複数の前記シャフト指標に基づいて、前記スイングを分析するステップとをコンピュータに実行させる、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティングプログラム。
【請求項12】
前記シャフト指標及び/又は前記分析された結果を表示するステップをさらに含む、請求項11に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティングプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1及び2は、ゴルファのスイングに基づいて当該ゴルファにマッチしたシャフトを選定するためのシャフトのフィッティング方法や装置を提案している。このフィッティング方法では、センサがグリップに取り付けられたゴルフクラブでゴルフボールを打撃して取得される前記センサからの計測値を、コンピュータの受信手段で得る工程と、前記計測値から得られるスイング特徴量を用いてゴルファにマッチしたシャフトを、前記コンピュータの演算処理手段で選定する工程とを含む。
【0003】
また、特許文献1及び2では、フィッティングを希望するゴルファに所定数(例えば5球)のボールを試打させ、各打球時に算出したスイング特徴量の平均を当該ゴルファのスイング特徴量として設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6087132号公報
【特許文献2】特許第6911298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゴルファ(とりわけアベレージゴルファ)は、常に同じスイングができるわけではない。特に、ラウンド時には、ミスショットもしばしば発生する。したがって、ミスショット時のスイングも含め、ゴルファの個々のスイングに適する複数のシャフト指標を選択肢として提供することは重要である。
【0006】
また、フィッティングシステムが推奨するシャフト指標は、特定のスイングに適合するものと考えられるから、シャフト指標から当該ゴルファのスイングを分析し、その結果をゴルファにフィードバックすることは、ゴルファのスコアアップに有効と考えられる。
【0007】
本開示は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、ミスショットも含め、ゴルファの個々のスイングに対応する複数のシャフトを提案可能としつつ、決定された複数のシャフト指標に基づいて、ゴルファのスイングを分析することが可能なゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、ゴルファに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティング装置であって、スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得する取得部と、前記第1計測値に基づいて、複数の前記スイングそれぞれのスイング特徴量を算出する算出部と、前記スイングごとに、前記それぞれのスイング特徴量に基づいて、前記ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定する決定部と、決定された複数の前記シャフト指標に基づいて、前記スイングを分析するスイング分析部とを含む、ゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置である。
【発明の効果】
【0009】
本開示のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置は、上記の構成を採用することにより、ミスショットも含め、ゴルファの個々のスイングに対応する複数のシャフトを提案可能としつつ、決定された複数のシャフト指標に基づいて、ゴルファのスイングを分析することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態のゴルフクラブのシャフトのフィッティングシステムを示す全体構成図である。
【
図2】本実施形態のフィッティングシステムのブロック図である。
【
図3】本実施形態のフィッティング方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【
図4】スイング中のシャフトの撓みの挙動を説明する図である。
【
図5】スイングにおける時間経過とコック方向の角速度との関係を示すグラフである 。
【
図6】第1ないし第4特徴量と、それに適したEI値との関係を示すグラフである。
【
図9】1回のスイングから取得される情報を視覚化して示すブロック図である。
【
図10】スイング分析処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】本実施形態のチップ端側に関するアラートの読み込み処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】スイング分析処理を模式化して示す線図である。
【
図13】本実施形態のバット端側に関するアラートの読み込み処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】表示部に表示されたフィッティング結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の一形態が図面に基づき説明される。
実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本開示の内容理解のためのものであって、本開示は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。また、複数の実施形態については、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。
【0012】
図1は、本実施形態のゴルフクラブのシャフトのフィッティングシステム1を示す全体構成図を示す。また、
図2は、本実施形態のフィッティングシステム1のブロック構成図を示す。本実施形態のフィッティングシステム1及びフィッティング方法は、フィッティングを希望するゴルファ3のスイングを計測し、このスイングに適したゴルフクラブ2のシャフト22の仕様を選定することができる。したがって、本開示のフィッティングシステム1は、ゴルファ3のスイングに対応するシャフト22を提案し、ひいては、ゴルファ3の打球の飛距離や方向性を改善する。
【0013】
図1及び2に示されるように、本実施形態のフィッティングシステム1は、例えば、ゴルフクラブ2に装着可能なスイングセンサ100と、フィッティング装置200と、表示部300とを含む。
【0014】
[ゴルフクラブ]
ゴルフクラブ2は、例えば、グリップ21、シャフト22及びヘッド23を有する。本実施形態では、ゴルフクラブ2として、ウッド型のゴルフクラブが示される。他の実施形態では、ゴルフクラブ2は、アイアン型やパター型であっても良い。
【0015】
[スイングセンサ]
スイングセンサ100は、例えば、
図1に示されるように、ゴルフクラブ2に装着可能に構成される。本実施形態のスイングセンサ100は、ゴルフクラブ2のグリップ21又はシャフト22に着脱自在とされる。スイングセンサ100は、ゴルファ3のスイング動作を妨げないように、小型かつ軽量に構成されるのが望ましい。
【0016】
本実施形態のスイングセンサ100は、スイング中のゴルフクラブ2から、所定の物理量である第1計測値を計測することができる。
図2に示されるように、本実施形態のスイングセンサ100は、角速度計測部101を含み、第1計測値がスイング中のゴルフクラブ2の角速度である場合を示す。好ましい態様では、スイングセンサ100は、ゴルフクラブ2に関連付けられた3次元の局所座標系の少なくとも1軸回りの角速度を計測することができる。他の態様では、特許文献2に記載されるように、上記物理量は、ゴルフクラブ2の加速度、及び/又は地磁気であっても良い。
【0017】
図1に示されるように、局所座標系は、例えば、z軸がゴルフクラブ2のシャフト22の軸方向、x軸がヘッド23のトウ・ヒール方向、y軸がゴルフクラブ2のアドレス時の目標飛球方向に沿う方向とされても良い。本実施形態のスイングセンサ100は、スイング中の上記3軸それぞれの周りの角速度を所定のサンプリング周期(例えば、1ミリ秒)で計測することができる。
【0018】
したがって、ゴルファ3が、スイングセンサ100が取り付けられたゴルフクラブ2で、複数回、ゴルフボール4を打撃するスイングを行うと、前記第1計測値がスイングセンサ100でそれぞれ計測され得る。スイング回数は、2回以上であれば特に制限されないが、好ましくは3回以上、さらに好ましくは5回以上とされても良い。
【0019】
図2に示されるように、本実施形態のスイングセンサ100は、さらに、計測された第1計測値をフィッティング装置200に提供するための通信部102を備える。通信部102は、スイング動作の妨げないように、無線方式が望ましい。他の態様では、通信部102は、有線方式であっても良い。また、スイングセンサ100は、通信部102に代えて、又は、通信部102とともに、取り外し可能な記憶媒体(図示省略)を備えていても良い。この場合、第1計測値は、記憶媒体に一旦記憶され、この記憶媒体を介して、フィッティング装置200に取り込まれても良い。
【0020】
[フィッティング装置]
本実施形態のフィッティング装置200は、スイングセンサ100から第1計測値を取得し、予め定められた処理を実行する。フィッティング装置200は、例えば、コンピュータであって、とりわけ、汎用性のある様々なパーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、さらには専用端末として実現され得る。
【0021】
図2に示されるように、フィッティング装置200は、スイングセンサ100から第1計測値を取得する取得部201と、第1計測値に基づいて、複数のスイングのスイング特徴量を算出する算出部202と、スイング特徴量に基づいて、ゴルファ3に推奨すべきシャフト22の仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定する決定部203と、決定された複数のシャフト指標に基づいて、ゴルファ3のスイングを分析するスイング分析部204と含む。
【0022】
また、本実施形態のフィッティング装置200は、記憶部206(後述)と、入力部207と、制御部208とをさらに含む。記憶部206は、例えば、フィッティングプログラムや各種マスターデータ等が記憶される不揮発性の第1記憶部206A(詳細は後述する)と、作業用メモリとしての役割を果たす揮発性の第2記憶部206Bとを含む。フィッティングプログラムの処理手順は、例えば、
図3のフローチャートに表示されており、以後、このフローチャートが適宜参照される。
【0023】
入力部207は、例えば、キーボード、マウス、タブレットの仮想キーボード等で構成される。制御部208は、前記プログラムにしたがって、前記各部を動作させるもので、例えば、セントラルプロセッサ(CPU)で構成される。
【0024】
[取得部]
取得部201は、無線方式により、スイングセンサ100の通信部102と通信可能に構成されている。したがって、取得部201は、スイングセンサ100で計測された第1計測値を、通信部102を介して取得するステップを実行できる(
図3のステップS1)。取得部201は、取得した第1計測値を記憶部206に記憶させる。
【0025】
[算出部]
算出部202は、取得部201で取得された第1計測値に基づいて、複数のスイングそれぞれのスイング特徴量を算出するステップを実行することができる(
図3のステップS2)。スイング特徴量は、ゴルファ3のスイング動作を定量的に特徴づける特徴量である。スイング特徴量は、このような特徴量であれば、特に限定されない。本実施形態では、特許文献1及び2で既に詳述されているスイング特徴量が採用される。以下、このスイング特徴量が簡単に説明される。
【0026】
一般に、ゴルファ3のスイングは、アドレス、トップ、インパクトと推移する。その際、ゴルフクラブ2のシャフト22には、ヘッド23の慣性により、曲げが生じる。この曲げは、スイングの過程において、トップからインパクトに向けてシャフト22の手元側から先端側に伝わる。
図4には、スイング過程における、テイクバック(トップ)からインパクトまでのゴルファ3の手とシャフト22の一部が示される。
図4では、シャフト22の曲げの大きな箇所が仮想線で囲まれている。
【0027】
図4において、スイングのトップに至った時点1では、シャフト22の手元付近げに曲が生じる。次に、切り返しからダウンスイング初期の時点2に至ると、曲げはシャフト22の先端側にやや移動する。さらに、ゴルファ3の腕が水平になる時点3では、曲げはシャフト22の中央よりも先端側に移動する。さらに、インパクト直前の時点4では、曲げはシャフト22の先端付近まで移動する。
【0028】
上述のようなスイング中のシャフト22の曲げの位置の変化を考慮し、本実施形態では、スイングの特徴として、トップ付近からインパクトに至るダウンスイング中のコック方向の角速度ωyに着目している。具体的には、スイングの時間経過にしたがって、いくつかの時点での角速度ωyに着目している。ここで、スイングの「トップ付近」とは、トップ直前の所定時間及びトップ直後の所定時間を含む時間帯を意味しており、具体的には、例えばトップ-50msから、トップ+50msまでの100msの時間帯を意味する。
【0029】
図5は、あるスイングについてアドレスからインパクトまでの時間(s)とスイング中のゴルフクラブ2のコック方向の角速度ωy(deg/s)との関係を示す。本実施形態では、
図5に示されるように、1スイングあたりのスイング特徴量は、次の4つの第1ないし第4特徴量F1~F4を含む。
【0030】
第1特徴量F1は、トップ付近のコック方向の角速度ωyの傾きである。第1特徴量F1は、例えば、トップから50ms前の角速度ωyと、トップから50ms後の角速度ωyとの和で求めることができる。なお、トップを境として、スイング中のゴルフクラブ2の角速度の向きが変わる。したがって、上記和を求める際には、事前に、トップよりも前の角速度にマイナスを乗じ、正の値へと変換される。
【0031】
第2特徴量F2は、トップから、角速度ωyが最大となる時点までの当該角速度ωyの平均値である。第2特徴量F2は、トップからインパクトまでの角速度ωyにおける最大値を求め、トップから、この最大値となる時点までの角速度ωyの累積値を、トップから、前記最大値となる時点までの時間で除すことにより求めることができる。
【0032】
第3特徴量F3は、角速度ωyが最大となる時点からインパクトまでの当該角速度ωyの平均値である。第3特徴量F3は、前記最大値となる時点からインパクトまでの角速度ωyの累積値を、前記最大値となる時点からインパクトまでの時間で除すことにより求めることができる。
【0033】
第4特徴量F4は、トップからインパクトまでの角速度ωyの平均値である。この第4特徴量F4は、トップからインパクトまでの角速度ωyの累積値を、トップからインパクトまでの時間で除すことにより求めることができる。
【0034】
本実施形態では、スイングが複数回行われることから、スイング毎のスイング特徴量、すなわち、複数のスイング特徴量が記憶部206に記憶される。各スイング特徴量は、それぞれ第1ないし第4特徴量F1~F4を含むのは上述のとおりである。
【0035】
[決定部]
決定部203は、スイングごとに、それぞれのスイング特徴量に基づいて、ゴルファ3に推奨すべきシャフト22の仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定するステップを実行することができる(
図3のステップS3)。シャフト指標は、シャフト22を具体的に特定するのに役立つ指標である。
【0036】
既に特許文献1で開示されるように、多数の打撃試験の結果の分析を通して、ゴルファのスイング特徴量が分かれば、そのスイングに適したシャフト指標を決定することができる。ここで、あるスイングに適したシャフト(又はシャフト指標)は、事前に特定されたヘッド23を有するゴルフクラブ2でスイングをしたときに、打球の飛距離がより大きく、かつ、左右のずれがより小さくなるようなシャフト(又はシャフト指標)を意味する。特に、本実施形態では、打球の左右のずれに関して、打球がある方向(例えば、右方向)に飛びやすい場合、それとは逆方向(すなわち、左方向)に打球が飛びやすいシャフトを提案することで、打球の左右のずれを減少させ得る。また、特定のヘッド23は、例えば、ゴルファ3が既に使用しているヘッド23でも良いし、使用を予定しているヘッドでも良い。
【0037】
本実施形態の決定部203は、スイング特徴量に基づいて、まず、シャフト22の各位置の理想的な曲げ剛性値(以下、「EI値」という場合がある。)を決定し(第1決定ステップ)、次いで、このEI値に基づいて、シャフト指標の一つである「IFC」を決定する(第2決定ステップ)。以下、第1決定ステップ及び第2決定ステップが詳細に説明される。ただし、決定部203は、他の態様として、スイング特徴量に基づいて、直接、「IFC」を決定しても良いし、シャフト指標としてEI値を用いても良い。
【0038】
[第1決定ステップ]
図6は、算出部202で算出された第1ないし第4特徴量F1~F4と、それに適したEI値との関係式を示す。これらの関係式は、予め定められた複数のヘッド速度帯(
図6において、「HS」で示され、単位はm/sである。)ごとに定められている。本実施形態では、ヘッド速度帯は、3つ又は4つに区分されている。また、これらの関係式は、マスターデータとして、予め第1記憶部206Aに記憶されている。なお、フィッティング対象のゴルファ3のヘッド速度は、事前に測定されているものとする。
【0039】
特許文献1及び2で開示されているように、多数の打撃試験の結果の分析を通して、ゴルファ3の第1ないし第4特徴量F1~F4と、そのスイングに適したシャフト22の軸方向の所定の位置でのEI値の分布との関係は大凡特定することができる。以下、この点について簡単に説明する。
【0040】
図7は、シャフト22の平面図である。
図7に示されるように、シャフト22のEI値の軸方向の分布は、シャフト22を4つの領域a~dに仮想区分したときに、各領域a~dの代表的なEI値として特定することができる。具体的には、領域aないしdのEI値は、それぞれ、シャフト22のチップ端22aから軸方向に36インチ、26インチ、16インチ及び6インチの位置P1~P4で測定される。これらの各位置P1~P4でのEI値は、それぞれ第1ないし第4特徴量F1~F4と相関関係があることが判明している。なお、チップ端22aにはヘッド23が、バット端22bにはグリップ21がそれぞれ装着される。
【0041】
本実施形態では、打撃試験の結果を回帰(単回帰)することにより、特定のヘッド23を前提として、
図6に示したように、ヘッド速度帯毎に、各第1ないし第4特徴量F1~F4と、それに適するシャフト22の軸方向の各位置P1~P4でのEI値との関係を示す関係式(近似式)が予め算出され、これが第1記憶部206Aに記憶されている。なお、測定点であるシャフト22の軸方向の位置P1~P4は、上記の態様に限定されるわけではなく、上記の位置を基準に±2インチ程度で変更されても良い。また、各位置でのEI値は、特許文献1に記載された方法で測定される。
【0042】
図6から明らかなように、各関係式は、第1ないし第4特徴量F1~F4が大きくなると、それに比例してシャフト22の各位置P1~P4でのEI値も大きくなる(シャフト22が硬くなる)関係を示す。また、各関係式は、ヘッド速度が大きくなるほど、それに適するシャフト22の各位置P1~P4でのEI値も大きくなる(シャフト22が硬くなる)関係を示す。本実施形態の各関係式は、いずれも一次式が採用されているが、これに限定されるものではない。また、
図6の各関係式において、上記ヘッド速度帯の区分は例示であり、区分の数や具体的なヘッド速度の範囲は、適宜変更されても良い。
【0043】
以上のとおり、決定部203は、第1ないし第4特徴量F1~F4と、ゴルファの平均のヘッド速度と、上記関係式とに基づいて、複数のスイングにそれぞれに適したEI値を決定することができる。より具体的には、本実施形態では、1スイングあたり、1つのシャフト指標が決定され、この1つのシャフト指標は、軸方向の各位置P1~P4での4つのEI値を含む。
【0044】
[第2決定ステップ]
本実施形態の決定部203は、第1決定ステップで決定されたEI値に基づいて、「IFC」を決定する。IFCは、International Flex Cord(インターナショナル・フレックス・コード)の略であり、シャフト22の軸方向の各位置P1~P4でのEI値の範囲をより汎用化ないし一般化した指標である。
【0045】
シャフトの各位置P1~P4でのEI値は、
図8に示されるようなEI値-IFC変換表によって、IFCの値(0~9の整数)へと変換される。そして、IFCは、シャフト22の各領域aないしdのIFCの値を4つ順番に並べた4桁の数字(例えば、「5655」等)で、ある曲げ剛性の分布を有するシャフト22を特定することができる。より具体的には、IFCの各桁の数値が大きいほど、その桁に対応するシャフトの軸方向位置P1ないしP4でのEI値が大きいことを示す。したがって、本実施形態のシャフト指標であるIFCは、シャフトの曲げ剛性に対応する指標である。
【0046】
以上述べたように、本実施形態の決定部203は、スイングごとに、それぞれのスイング特徴量に基づいて、ゴルファ3に推奨すべきシャフト22の仕様を特定するための複数のシャフト指標(この実施形態ではIFC)を決定することができる。
【0047】
図9は、以上の処理によって、1回のスイングによって取得されるデータを視覚化して示す。1回のスイングにより、第1計測値が取得される。第1計測値からは、スイング特徴量、シャフト22の複数位置でのEI値及びシャフト指標(IFC)が順次算出される。本実施形態では、複数のスイングそれぞれについて、これらのデータが取得ないし算出される。
【0048】
[種類数判別部]
次に、本実施形態では、決定部203で決定された複数のシャフト指標(IFC)の種類数を判別するステップが実行される(
図3のステップS4)。この処理は、例えば、
図2に示されるように、種類数判別部205によって実行される。種類数判別部205は、複数のシャフト指標(IFC)を比較し、それらの種類数(パターン数)を判別する。もし、全てのシャフト指標が同じ4桁の数字である場合、種類数判別部205は、種類数として1を出力し、それ以外の場合には、シャフト指標の種類数に応じた数を出力する。種類数判別部205の出力値は、記憶部206に記憶される。
【0049】
制御部208は、ステップS4で判別されたシャフト指標が複数あるか否かを判断し(ステップS5)、その結果が肯定的である場合(ステップS5でY)、スイング分析処理を実行する(ステップS6)。一方、ステップS5の結果が否定的である場合(ステップS5でN)、算出されたシャフト指標(これは、1種類である)を表示部300に表示させる(ステップS7)。
【0050】
[スイング分析部]
スイング分析処理(ステップS7)は、スイング分析部204によって実行される。
図10は、スイング分析処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10に示されるように、本実施形態のスイング分析処理では、先ず、複数種類のスイング指標が出現数で順位付けされる(ステップS61)。この処理は、
図2に示されるように、スイング分析部204の順位付け部204Aにより実行される。
【0051】
順位付け部204Aは、例えば、出現数が多いシャフト指標を上位に順位付けし、出現数が少ないシャフト指標を下位に順位付けする。本明細書において、「順位付け」は、フィッティング対象のゴルファへの推奨度を意味し、順位付けが上位のものほど推奨度が高いことを意味する。
【0052】
ここで、順位付けが、具体的な例にしたがって説明される。今、5回のスイングで決定されたシャフト指標(IFC)が、次のようなものであったとする。
[5回のスイングの例]
スイング1に決定されたIFC:5655
スイング2に決定されたIFC:5644
スイング3に決定されたIFC:5655
スイング4に決定されたIFC:5655
スイング5に決定されたIFC:5655
上記のような場合、順位付け部204Aは、「5655」の出現数4と、「5644」の出現数1とをそれぞれカウントし、IFCを出現数でソートする。そして、順位付け部204Aは、その出現数が多いIFC「5655」をシャフト指標の第1位(上位のシャフト指標)に順位付けする。また、順位付け部204Aは、IFC「5644」をシャフト指標の第2位(下位のシャフト指標)に順位付けする。これらの情報は、記憶部206に記憶される。
【0053】
ここで、上位のシャフト指標は、出現数が多いことから、ゴルファ3の標準的なスイングである蓋然性が高いと推定できる。一方、下位のシャフト指標は、出現数が少ないことから、ゴルファ3のいわゆるミスショット(ミススイング)であると推定できる。したがって、これらのシャフト指標から、ゴルファのスイング、とりわけミスショットのスイング傾向を分析することができる。
【0054】
次に、スイング分析部204は、複数のシャフト指標の中の2種類のシャフト指標の差分を抽出する(ステップS62)。本実施形態では、最も下位のスイング指標(本実施形態では第2位のスイング指標)から上位のスイング指標(第1位のスイング指標)の値を差し引いて差分が計算される。本実施形態では、前記差分として、シャフト指標(IFC)のチップ端側の指標の差分である第1差分と、シャフト指標(IFC)のバット端側の指標の差分である第2差分とがそれぞれ算出される。これらの処理は、
図2に示されるように、スイング分析部204の差分抽出部204Bにより実行される。
【0055】
第1差分は、IFCの先頭から1桁目同士の値の差分、及び、先頭から2桁目同士の値の差分の平均値である。前記各差分は、上で述べたとおり、最下位のシャフト指標の値から上位のシャフト指標の値を差し引いて求められる。上記の「5回のスイングの例」では、第1差分は、次のように0ポイントになる(以後、差分の単位を「ポイント」と称する。)。
IFCの1桁目同士の差分:5-5=0
IFCの2桁目同士の差分:6-6=0
第1差分(上記差分の平均値):(0+0)/2=0(ポイント)
【0056】
同様に、第2差分は、IFCの先頭から3桁目の値の差分、及び、先頭から4桁目の値同士の差分の平均値である。前記各差分は、上で述べたとおり、最下位のシャフト指標の値から上位のシャフト指標の値を差し引いて求められる。上記の「5回のスイングの例」では、第2差分は、次のように1ポイントになる。
IFCの3桁目同士の差分:4-5=-1
IFCの4桁目同士の差分:4-5=-1
第2差分(上記差分の平均値):(-1-1)/2=-1(ポイント)
【0057】
次に、スイング分析部204は、前記差分に基づいて、ゴルファ3のスイングを分析する。この処理は、
図2のスイング分析部204の判別部204Cにより実行される。
【0058】
判別部204Cは、まず、第1差分の絶対値又は第2差分の絶対値が予め定められた閾値以上であるかを判断する(ステップS63)。本実施形態では、この閾値は、1ポイントに設定されているが、具体的な値は適宜設定されれば良い。この処理により、上位のスイング指標と最下位のスイング指標との差の大きさが評価される。そして、この差が大きい場合には、最下位のシャフト指標に関連付けられたスイングは、ミスショットの蓋然性がより高いといえる。
【0059】
次に、本実施形態の判別部204Cは、ステップS63の結果が肯定的である場合(ステップS63でY)、第1差分又は第2差分のいずれが閾値以上であるかを判断する(ステップS64)。ステップS64において、第1差分が閾値以上であると判断された場合、判別部204Cは、チップ端側に関するアラートを読み込む(ステップS65)。一方、ステップS64において、第2差分が閾値以上であると判断された場合、判別部204Cは、バット端側に関するアラートを読み込む(ステップS66)。
【0060】
図11は、ステップS65のチップ端側に関するアラートの読み込み処理の一例を示すフローチャートである。
図11に示されるように、判別部204Cは、第1差分がマイナスか否かを判断し(ステップS651)、結果が肯定的であれば(ステップS651でY)、アラート1を読み込み(ステップS652)、結果が否定的であれば(ステップS651でN)、アラート2を読み込む(ステップS653)。
【0061】
本実施形態において、アラート1及び2は、ゴルファのスイングを分析した情報であって、マスターデータとして、予め第1記憶部206Aに記憶されている。アラート1及び2は、それぞれ
図12の右側に示されている。
図12は、ゴルファ3が右打ちの場合における、本実施形態のスイング分析処理の具体的な例を交えた模式図である。
図12に示されるように、本実施形態のアラート1は、打球の方向性に関するメッセージを含む。すなわち、アラート1は、打球がある方向(以下、「第1方向」という)に飛びやすいスイングをしていることをゴルファ3に認知させる情報を含む。また、アラート2も打球がある方向(以下、「第2方向」という)に飛びやすいスイングをしていることをゴルファ3に認知させる情報を含む。右打ちゴルファの場合、第1方向は右方向であり、第2方向は左方向である。以下、右打ちゴルファの例が説明されるが、左打ちゴルファの場合、第1方向及び第2方向は、右方向ゴルファとは逆になることに留意されたい。
【0062】
まず、第1差分がマイナス値であるということは、最下位のシャフト指標(
図12では「CD」の部分)は、上位のシャフト指標に比べて、チップ端側のEI値が相対的に小さい(すなわち、柔らかい)シャフト22を推奨していることを意味する。一般に、チップ端側が柔らかいシャフト22は、打撃時にゴルフボール4の掴まりがよく、打球が左に飛びやすい傾向がある。裏返せば、このような最下位のシャフト指標(これは、主としてミスショットのスイングに向けられており、以下同様である)が推奨されたということは、そのときのゴルファ3は、打球が右に飛びやすいスイングをしていたと推定できる。なぜなら、本実施形態のフィッティングシステム1は、ゴルファの打球の左右のずれをより小さくするようなシャフト指標を提案するからである。以上のような観点より、本実施形態の判別部204Cは、第1差分がマイナス値の場合(ステップS651でY)、「打球が右に飛びやすいスイングをしている」というアラート1を読み込み(ステップS652)、以後、表示部300にアラート1を表示可能なように準備する。
【0063】
逆に、第1差分がプラス値であるということは、下位のシャフト指標(
図12では「GH」の部分)は、上位のシャフト指標に比べて、チップ端側のEI値が相対的に大きい(すなわち、硬い)シャフト22を推奨していることを意味する。一般に、チップ端側が硬いシャフト22は、打撃時にゴルフボール4の掴まりが悪くなり、打球が右に飛びやすい傾向がある。裏返せば、このような下位のシャフト指標が推奨されたということは、そのときのゴルファ3は、打球が左に飛びやすいスイングをしていたと推定できる。以上のような観点より、本実施形態の判別部204Cは、第1差分がプラス値の場合(ステップS651でN)、「打球が左に飛びやすいスイングをしている」というアラート2を読み込み(ステップS653)、以後、表示部300にアラート2を表示可能なように準備する。
【0064】
図13は、ステップS66のバット端側に関するアラートの読み込み処理の一例を示すフローチャートである。
図13に示されるように、判別部204Cは、第2差分がマイナスか否かを判断し(ステップS661)、結果が肯定的であれば(ステップS661でY)、アラート3を読み込み(ステップS662)、結果が否定的であれば(ステップS661でN)、アラート4を読み込む(ステップS653)。
【0065】
本実施形態において、アラート3及び4も、ゴルファのスイングを分析した情報であって、予め第1記憶部206Aに記憶されているマスターデータである。アラート3及び4については、それぞれ
図12の左側に示されている。
図12に示されるように、本実施形態のアラート3及び4は、スイング中の切り返しの速さに着目したメッセージを含む。具体的には、アラート3は、「切り返しが遅いスイングをしている」という旨のメッセージを含む。また、本実施形態のアラート4は、アラート3とは逆に、「切り返しが早いスイングをしている」というメッセージを含む。
【0066】
図12に示されるように、第2差分がマイナス値であるということは、下位のシャフト指標(「AB」の部分)は、上位のシャフト指標に比べて、バット端側のEI値が相対的に小さい(すなわち、柔らかい)シャフト22を推奨していることを意味する。一般に、バット端側が柔らかいシャフト22は、スイングの切り返し時にシャフト22が曲がりやすく、ひいては切り返しが早くなる傾向がある。裏返せば、このような下位のシャフト指標が推奨されたということは、そのときのゴルファ3は、切り返しが遅いスイングをしていたと推定できる。このような観点より、本実施形態のスイング分析部204は、第2差分がマイナス値の場合(ステップS661でY)、「切り返しが遅いスイングをしている」というアラート3を読み込み(ステップS662)、以後、表示部300にアラート3を表示可能なように準備する。
【0067】
逆に、第2差分がプラス値であるということは、下位のシャフト指標(「EF」の部分)は、上位のシャフト指標に比べて、バット端側のEIが相対的に多き(すなわち、硬い)シャフト22を推奨していることを意味する。一般に、バット端側が硬いシャフト22は、スイングの切り返し時にシャフト22が曲がりにくく、ひいては切り返しが遅くなる傾向がある。裏返せば、このような下位のシャフト指標が推奨されたということは、そのときのゴルファ3は、切り返しが早いスイングをしていたと推定できる。このような観点で、本実施形態の判別部204Cは、第2差分がプラス値の場合(ステップS661でN)、「切り返しが早いスイングをしている」というアラート4を読み込み(ステップS663)、以後、表示部300にアラート4を表示可能なように準備する。
【0068】
以上のように、本実施形態のフィッティングシステム1では、決定された複数のシャフト指標に基づいて、ゴルファ3のスイングを分析することができる。
【0069】
スイング分析処理が終わると、
図3のステップS7に戻る。このステップS7では、制御部208は、表示部300に、決定されたシャフト指標及び/又はスイング分析結果を表示させる。
【0070】
[表示部]
表示部300は、例えば、ディスプレイである。
図14は、表示部300に表示されたフィッティング結果の一例を示す。
図14に示されるように、本実施形態の表示部300には、推奨されるシャフト22のIFCが順位付けされて視覚的に表示される。例えば、表示部300の上部には、第1位の推奨シャフトとしてIFC「5655」が表示されており、その下部に第2位の推奨シャフトとしてIFC「5644」が表示される。他の態様では、表示部300には、IFCに代えて、第1シャフト指標に対応する情報として、シャフト軸方向の位置P1~P4の4箇所のEI値が表示されても良い。
【0071】
第1位の推奨シャフトは、上記の5回のスイング例において、スイング1、3ないし5のスイングに適したシャフトである。すなわち、推奨シャフト(第1位)は、スイング1、3ないし5をしたときに、打球の飛距離がより大きく、かつ、左右のずれがより小さくなる傾向を示す。一方、第2位の推奨シャフトは、上記スイング2に適したシャフトである。すなわち、第2位の推奨シャフトは、スイング2をしたときに、打球の飛距離がより大きく、かつ、左右のずれがより小さくなる傾向を示す。
【0072】
このように、シャフト指標をその出現数で順位付けして表示することにより、ゴルファのスイング傾向により沿ったシャフト指標をベストなもののみならず、いわゆるセカンドベストまで提案することができる。なお、
図14の例では、シャフト指標は、第2位までが表示されているが、フィッティング結果に応じて、第3位以降のシャフト指標が表示される場合があり得る。
【0073】
また、本実施形態では、制御部208は、表示部300に、スイング中の「コックの動き」を表示させることができる。この「コックの動き」は、スイング特徴量における第1ないし第4特徴量F1~F4の大きさに対応している。
【0074】
さらに、本実施形態では、制御部208は、表示部300に、推奨されるIFCを満足するシャフトの1ないし複数を一覧(適合シャフト一覧)として表示させることができる。このような適合シャフト一覧の表示は、IFCとそれに適合するシャフトの品番等とを関連付けたデータベースを予め第1記憶部206Aに記憶させておくことで容易に実現できる。
【0075】
また、本実施形態では、制御部208は、スイング分析部204で分析された結果を表示部300に表示させる。
図14の例では、第2位の推奨シャフトの表示部分に、アラート1、すなわち、「打球が右に飛びやすいスイングをしている」とのメッセージが表示されている。このような情報は、打球が右に飛びやすいスイングをしていることをゴルファ3に認知させることができる。
【0076】
以上のように、本実施形態のフィッティングシステム1、フィッティング装置200及びフィッティング方法によれば、上記の構成を採用することにより、ミスショットも含め、ゴルファの個々のスイングに対応する複数のシャフトを提案可能としつつ、決定された複数のシャフト指標に基づいて、ゴルファのスイングを分析することが可能になる。また、スイングの分析結果をゴルファに提供することは、ゴルファのミスショットを改善するのに役立つ。
【0077】
上記実施形態では、ゴルファ3に適したシャフト22を選定するために、シャフト指標として、シャフト22の曲げ剛性値に関する指標が用いられた。しかしながら、本開示は、シャフト指標として、曲げ剛性に関する指標に変えて、又は、曲げ剛性に関する指標とともに本件出願当時に既に知られている様々な指標を採用することができる。このような指標は、例えば、シャフト22(及び又はゴルフクラブ2)の重量や慣性モーメントであっても良い。これらのシャフト指標のフィッティングは、例えば、特許文献2のように公知の手法にしたがって、行われれば良い(なお、ここに、上記特許文献1及び2の全ての内容を参照により引用する。)。
【0078】
以上、本開示の実施形態が詳細に説明されたが、本開示は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【0079】
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
【0080】
[本開示1]
ゴルファに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティング装置であって、
スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得する取得部と、
前記第1計測値に基づいて、複数の前記スイングそれぞれのスイング特徴量を算出する算出部と、
前記スイングごとに、前記それぞれのスイング特徴量に基づいて、前記ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定する決定部と、
決定された複数の前記シャフト指標に基づいて、前記スイングを分析するスイング分析部とを含む、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
[本開示2]
前記スイング分析部は、
決定された複数の前記シャフト指標を、出現数で順位付けする順位付け部と、
前記差分として、順位付けられた前記シャフト指標の上位のシャフト指標と下位のシャフト指標との差分を計算する差分抽出部と、
前記差分に基づいて、前記スイングを分析する判別部をさらに含む、本開示1に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
[本開示3]
前記シャフト指標は、前記シャフトのチップ端側の曲げ剛性に対応する指標と、前記シャフトのバット端側の曲げ剛性に対応する指標とを含み、
前記差分抽出部は、前記差分として、前記チップ端側の前記指標の差分である第1差分と、前記バット端側の前記指標の差分である第2差分とを算出する、本開示2に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
[本開示4]
前記判別部は、前記チップ端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも予め定めた閾値以上に小さいときに、打球が第1方向に飛びやすいスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、本開示3に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
[本開示5]
前記判別部は、前記チップ端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも予め定めた閾値以上に大きいときに、打球が第2方向に飛びやすいスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、本開示3又は4に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
[本開示6]
前記判別部は、前記バット端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも予め定めた閾値以上に小さいときに、切り返しが遅いスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、本開示3ないし5のいずれかに記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
[本開示7]
前記判別部は、前記バット端側の前記指標に関して、前記下位のシャフト指標が、前記上位のシャフト指標よりも予め定めた閾値以上に大きいときに、切り返しが早いスイングをしていることを前記ゴルファに認知させる情報を準備する、本開示3ないし6のいずれかに記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング装置。
[本開示8]
本開示1ないし7のいずれか1項に記載された前記フィッティング装置を含む、ゴルフクラブのシャフトのフィッティングシステムであって、
前記第1計測値を計測するための前記スイングセンサと、
前記シャフト指標及び/又は前記分析された結果を表示するための表示部とを含む、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティングシステム。
[本開示9]
ゴルファに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティング方法であって、
スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得するステップと、
前記第1計測値に基づいて、複数の前記スイングそれぞれのスイング特徴量を算出するステップと、
前記スイングごとに、前記それぞれのスイング特徴量に基づいて、前記ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定するステップと、
決定された複数の前記シャフト指標に基づいて、前記スイングを分析するステップとを含む、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティング方法。
[本開示10]
前記シャフト指標及び/又は前記分析された結果を表示するステップをさらに含む、本開示9に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティング方法。
[本開示11]
ゴルファに適したゴルフクラブのシャフトを選定するためのフィッティングプログラムであって、
スイングセンサが取り付けられたゴルフクラブを用い、複数回、ゴルフボールを打撃するスイングを行って取得される前記スイングセンサからの第1計測値を取得するステップと、
前記第1計測値に基づいて、複数の前記スイングそれぞれのスイング特徴量を算出するステップと、
前記スイングごとに、前記それぞれのスイング特徴量に基づいて、前記ゴルファに推奨すべきシャフトの仕様を特定するための複数のシャフト指標を決定するステップと、
決定された複数の前記シャフト指標に基づいて、前記スイングを分析するステップとをコンピュータに実行させる、
ゴルフクラブのシャフトのフィッティングプログラム。
[本開示12]
前記シャフト指標及び/又は前記分析された結果を表示するステップをさらに含む、本開示11に記載のゴルフクラブのシャフトのフィッティングプログラム。
【符号の説明】
【0081】
1 フィッティングシステム
2 ゴルフクラブ
3 ゴルファ
4 ゴルフボール
5 スイング
22 シャフト
100 スイングセンサ
200 フィッティング装置
201 取得部
202 算出部
203 決定部
204 スイング分析部
204A 順位付け部
204B 差分抽出部
204C 判別部
205 種類数判別部
F1~F4 第1ないし第4特徴量