(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120009
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】高分子複合薄膜、この高分子複合薄膜を備えるガス分離装置、並びに高分子複合薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20230822BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20230822BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230822BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230822BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20230822BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20230822BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D53/22
B01D69/00
B01D69/12
B01D71/70 500
C01B32/168
B32B27/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023169
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】510022336
【氏名又は名称】株式会社ナノメンブレン
(74)【代理人】
【識別番号】100186510
【弁理士】
【氏名又は名称】豊村 祐士
(72)【発明者】
【氏名】国武 豊喜
(72)【発明者】
【氏名】藤川 茂紀
(72)【発明者】
【氏名】有吉 美帆
【テーマコード(参考)】
4D006
4F100
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006JA51Z
4D006KA02
4D006KB14
4D006MA03
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4G146AA11
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4G146AD17
4G146AD40
4G146CB10
4G146CB17
4G146CB19
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】柔軟な機能性を備えるナノ膜と機械的強度に優れたナノ支持体を組み合わせる(複合化する)といったより簡易な構成により、極めて薄く構成されることで高機能性であり且つ実用的な構造安定性(自立性)を有する高分子複合薄膜を提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブ5を含む第1の層(補強層3)と、主に高分子材料で構成され前記第1の層と接するように重畳された第2の層(高分子薄膜2)と、を備え、前記第2の層は、所定のガスに対する選択透過性を有するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料とカーボンナノチューブとを含み、所定のガスに対する選択透過性を有することを特徴とする高分子複合薄膜。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブを含む第1の層と、
主に前記高分子材料で構成され前記第1の層と接するように重畳された第2の層と、を備え、
前記第2の層は、所定のガスに対する選択透過性を有することを特徴とする請求項1に記載の高分子複合薄膜。
【請求項3】
重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を1700nm以下としたことを特徴とする請求項2に記載の高分子複合薄膜。
【請求項4】
重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を120nm以下としたことを特徴とする請求項2に記載の高分子複合薄膜。
【請求項5】
重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を50nm以下としたことを特徴とする請求項2に記載の高分子複合薄膜。
【請求項6】
重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を30nm以下としたことを特徴とする請求項2に記載の高分子複合薄膜。
【請求項7】
前記第1の層は、その平面内Aにおいて、
前記第1の層の厚み方向に、
複数の前記カーボンナノチューブが存在する第1の領域A1と、
単一の前記カーボンナノチューブが存在する第2の領域A2と、
前記カーボンナノチューブが不在である第3の領域A3と、
を備えることを特徴とする請求項2~請求項6のいずれか一項に記載の高分子複合薄膜。
【請求項8】
前記第2の層が、二酸化炭素及び酸素を選択的により透過することを特徴とする請求項2~請求項7のいずれか一項に記載の高分子複合薄膜。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブが前記高分子材料に分散されており、所定のガスに対する選択透過性を有することを特徴とする請求項1に記載の高分子複合薄膜。
【請求項10】
前記高分子複合薄膜は、その平面内Aにおいて、
前記高分子複合薄膜の厚み方向に、
複数の前記カーボンナノチューブが存在する第1の領域A1と、
単一の前記カーボンナノチューブが存在する第2の領域A2と、
前記カーボンナノチューブが不在である第3の領域A3と、
を備えることを特徴とする請求項9に記載の高分子複合薄膜。
【請求項11】
前記第1の領域A1の面積をS1、前記第2の領域A2の面積をS2、前記第3の領域A3の面積をS3とするとき、S1<S2<S3となるように構成されていることを特徴とする請求項7または請求項10に記載の高分子複合薄膜。
【請求項12】
前記高分子材料として、主にポリシロキサンを用いたことを特徴とする請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の高分子複合薄膜。
【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれか一項に記載の高分子複合薄膜と、
前記高分子複合薄膜に対してガスを供給するガス供給部と、
を備えるガス分離装置。
【請求項14】
請求項2~請求項8のいずれか一項に記載の高分子複合薄膜と、
前記高分子複合薄膜に対してガスを供給するガス供給部と、
を備え、
前記ガス供給部は、前記第2の層、前記第1の層の順にガスが透過するようにガスを供給することを特徴とするガス分離装置。
【請求項15】
カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ水分散液を調製するとともに、高分子材料を含む高分子材料含有溶液を調製する第1工程と、
犠牲層が形成された基材上に前記犠牲層を被覆するように前記カーボンナノチューブ水分散液を塗布・乾燥させて主に前記カーボンナノチューブで構成された第1の層を形成する第2工程と、
前記第1の層を被覆するように前記高分子材料含有溶液を塗布・硬化させて第2の層を形成する第3工程と、
前記犠牲層を溶解させて、前記第1の層及び前記第2の層で構成される高分子複合薄膜を前記基材から剥離する第4工程と、
を含むことを特徴とする高分子複合薄膜の製造方法。
【請求項16】
前記第1工程は、前記カーボンナノチューブ水分散液を濾過して濾過後分散液を生成する濾過工程を含み、前記濾過工程によって、前記カーボンナノチューブ水分散液から前記カーボンナノチューブの凝集物の少なくとも一部を除去するとともに、前記濾過後分散液に含まれる前記カーボンナノチューブのサイズを制限することを特徴とする請求項15に記載の高分子複合薄膜の製造方法。
【請求項17】
カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ水分散液を第1溶剤で希釈して水-第1溶剤分散液を調製する第1工程と、
前記水-第1溶剤分散液に高分子材料の主剤を加えて混錬した後に、前記高分子材料を硬化させる硬化剤を加え、これを混錬して混合溶液を得る第2工程と、
前記混合溶液を第2溶剤で希釈して希釈後混合溶液を得る第3工程と、
犠牲層が形成された基材上に前記犠牲層を被覆するように前記希釈後混合溶液を塗布・硬化させて高分子複合薄膜を製膜する第4工程と、
前記犠牲層を溶解させて、前記高分子複合薄膜を前記基材から剥離する第5工程と、
を有することを特徴とする高分子複合薄膜の製造方法。
【請求項18】
前記第1溶剤をエタノールとし、前記第2溶剤をヘキサンとしたことを特徴とする請求項17に記載の高分子複合薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に高分子材料を含む高分子複合薄膜に関し、特に高い機能性を備えるとともに膜強度を大幅に向上させた高分子複合薄膜、この高分子複合薄膜を備えるガス分離装置、並びに高分子複合薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のIPCCのレポート(IPCC, 2021, AR6 Climate Change 2021: The Physical Science Basis)においても強調されているように、気候変動と地球温暖化の要因として大気中のCO2濃度の上昇が指摘されている。CO2の人為的排出を抑制するために、さまざまな緩和アプローチが提案されているが、いわゆるゼロエミッションアプローチだけでは、2050年までに地球の気温の上昇を1.5℃未満に保つには不十分であるとされている。このような状況に鑑み、空気中のCO2濃度の正味の削減が達成されるように、大気中のCO2を直接捕捉し、それを安全かつ永久に貯留する直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)技術の進展が強く望まれている。
【0003】
DAC技術においては、CO2を主に溶媒に吸収させる手法、固体に吸着させる手法、ガス分離膜によって分離する手法が知られているが、特にガス分離膜を用いる手法は、エネルギー集約的な相分離ステップを含まないため、他の手法と比較して魅力的であると考えられている。
【0004】
ガス分離膜に関連して、昨今、有機・無機ナノ膜への関心が高まっている。無機系においては無機の炭素化合物である例えばGrapheneの特異な物性が世界的に注目され、国際的な開発競争は一挙に激しくなった。この傾向は更にMoS2など他のナノ厚みを持つ無機材料にも広がり、現在では2次元材料として新しい研究分野を生み出すに至っている。
【0005】
一方、有機系では、ナノオーダの厚みを持つ生体膜について、生化学的、生物物理学的な立場からの研究が膨大である。また産業資材としての有機ナノ膜については2次元材料としてのユニークな特性が期待できるが、実用化を推し進めるうえでは、大面積化、無欠陥、自立性、構造安定性などの実現が必須となる。
【0006】
産業資材としての有機ナノ膜の一例として、ナノオーダの厚みを活かしての優れた分離膜の開発に期待が寄せられている。分離膜による分離機能を最大限に発揮するには、高い透過性を確保する観点からできるだけ膜厚を薄くすることが望ましい。しかしその場合、機械的強度が低下して膜として脆弱となり実用に耐えない可能性が大きい。即ち機能的観点に基づき分離膜を薄く構成することと機械的強度との間にはトレードオフの関係がある。この課題を解決するには、膜厚を限界まで薄く構成した機能膜を、その機能を妨げることのない強靭な支持および骨格構造と組み合わせることが有効と考えられる。
【0007】
さて、このようなガス分離膜に関する技術に関し、Kimらはポリ(イミドシロキサン)ブロック共重合体に単層カーボンナノチューブを埋め込んだ複合膜の選択透過性を評価し、O2、N2、及びCH4の透過性は、ポリマーマトリックス内のオープンエンドカーボンナノチューブの量に比例して増加し、これらのガスに対する透過性がPDMS(ポリジメチルシロキサン)よりも若干向上すると報告している。(非特許文献1)
【0008】
また、Nourらは多層カーボンナノチューブ(MWNT)の含有量を異ならせたPDMS複合材料を厚み100μmの膜として作成し、ガス分離特性を評価し、MWNT濃度が1%の膜は、H2ガスへの選択性を94.8%増加させること、更にCH4については、MWNT濃度が5%を超える膜ではほぼ完全にブロックされると報告している。(非特許文献2)
【0009】
また最近では、Ashtianiらは、自立型カーボンナノチューブネットワーク上に結晶性金属有機フレームワークを成長させ、続いてPDMS層で覆うことにより、MOF(metal-organic framework)層、CNT層、PDMS層で構成された三層複合材料を提案し、この三層複合材料が優れた選択透過性を示すと報告している。(非特許文献3)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kim, S.; Pechar, T. W.; Marand, E.; Desalination, Poly(imide siloxane) and carbon nanotube mixed matrix membranes for gas separation, Desalination, 2006, 192, 330-339.
【非特許文献2】Nour, M.; Berean, K.; Balendhran, S.; Zhen Ou, J.; Du Plessis, J.; McSweeney, C.; Bhaskaran, M.; Sriram, S.; Kalantar-zadeh, K.; CNT/PDMS composite membranes for H2 and CH4 gas separation, Inter. J. Hydrogen Energy, 2013, 38, 10494-10501.
【非特許文献3】Ashtiani, S.; Sofer, Z.; Pr??a, F.; Friess, K.; Molecular-level fabrication of highly selective composite ZIF-8-CNT-PDMS membranes for effective CO2/N2, CO2/H2 and olefin/paraffin separations, Separation and Purification Technology, 2021, 274, 119003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、PDMSといった高分子材料は薄く形成するほど、ガス透過性が向上することが知られているが、高分子材料を薄くするほど機械的強度が低下する。ここで、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3に記載された技術によれば、カーボンナノチューブは膜のガス透過性を改善あるいはコントロールする機能材料として採用されているものの、高分子材料で構成されるガス分離膜を薄く形成するための材料として、カーボンナノチューブを使用することは示唆されていない。
【0012】
また、非特許文献1、非特許文献2に記載された技術においては、高分子材料中にカーボンナノチューブを埋め込むことで高分子複合薄膜を構成している。このような構成においては、高分子材料中でカーボンナノチューブは三次元のネットワークを形成すると考えられる。しかしながら、カーボンナノチューブが高分子材料中に均一に分散されているという前提で、三次元のネットワークによって膜の機械的強度を確保しようとすると、膜中のカーボンナノチューブの含有量(濃度)がおのずと増大することとなる。これによって高分子薄膜自体が本来的に備えるガス透過性が低下することが懸念される。
【0013】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するべく案出されたものであり、柔軟な機能性を備えるナノ膜と機械的強度に優れたナノ支持体を組み合わせる(複合化する)といったより簡易な構成により、極めて薄く構成されることで高機能性であり且つ実用的な構造安定性(自立性)を有する高分子複合薄膜、この高分子複合薄膜を備えるガス分離装置、並びに高分子複合薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するためになされた本発明は、高分子材料とカーボンナノチューブとを含み、所定のガスに対する選択透過性を有する高分子複合薄膜である。
【0015】
これによって、高分子薄膜自体に自立性がない場合であっても、高い機能性と高い機械的強度とを兼ね備える高分子複合薄膜を得ることが可能となる。
【0016】
また本発明は、カーボンナノチューブを含む第1の層と、主に高分子材料で構成され前記第1の層と接するように重畳された第2の層と、を備え、前記第2の層は、所定のガスに対する選択透過性を有する高分子複合薄膜である。
【0017】
これによって、高分子薄膜自体に自立性がない場合であっても、補強層と重畳することで高い機能性と高い機械的強度とを兼ね備える高分子複合薄膜を得ることが可能となる。
【0018】
また本発明は、重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を1700nm以下としたものである。
【0019】
これによって、極めて機械的強度が高い高分子複合薄膜を得ることができる。
【0020】
また、本発明は、重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を120nm以下としたものである。
【0021】
これによって、自立性を備えるとともにCO2透過度が3000[GPU]を越える高分子複合薄膜1を得ることができる。
【0022】
また、本発明は、重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を50nm以下としたものである。
【0023】
これによって、自立性を備えるとともに、CO2透過度が20000[GPU]を越える高分子複合薄膜1を得ることができる。
【0024】
また、本発明は、重畳された前記第1の層と前記第2の層とを合計した平均膜厚を30nm以下としたものである。
【0025】
これによって、自立性を備えるとともに、CO2透過度が40000[GPU]を越える高分子複合薄膜1を得ることができる。
【0026】
また、本発明は、前記第1の層は、その平面内Aにおいて、前記第1の層の厚み方向に、複数の前記カーボンナノチューブが存在する第1の領域A1と、単一の前記カーボンナノチューブが存在する第2の領域A2と、前記カーボンナノチューブが不在である第3の領域A3と、を備えるものである。
【0027】
これによって、カーボンナノチューブを含む第1の層を、チューブネットワークで構成して、高分子複合薄膜の機械的強度とガス透過性をともに高い水準で両立させることが可能となる。
【0028】
また、本発明は、前記第2の層が、二酸化炭素及び酸素を選択的により透過するようにしたものである。
【0029】
これによって、高分子薄膜で構成されたガス分離体を用いることで、通常の空気よりも酸素濃度が高い酸素富化空気、空気よりも二酸化炭素が濃縮された二酸化炭素濃縮空気、空気よりも窒素濃度が高い窒素富化空気を得ることが可能となる。
【0030】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブが前記高分子材料に分散されており、所定のガスに対する選択透過性を有するものである。
【0031】
これによって、分子薄膜自体に自立性がない場合であっても、カーボンナノチューブを分散することで高い機能性と高い機械的強度とを兼ね備える高分子複合薄膜を得ることが可能となる。
【0032】
また、本発明は、前記高分子複合薄膜は、その平面内Aにおいて、前記高分子複合薄膜の厚み方向に、複数の前記カーボンナノチューブが存在する第1の領域A1と、単一の前記カーボンナノチューブが存在する第2の領域A2と、前記カーボンナノチューブが不在である第3の領域A3と、を備えるものである。
【0033】
これによって、高分子薄膜の膜内に形成されたカーボンナノチューブのチューブネットワークにより、高分子複合薄膜の機械的強度とガス透過性をともに高い水準で両立させることが可能となる。
【0034】
また、本発明は、前記第1の領域A1の面積をS1、前記第2の領域A2の面積をS2、前記第3の領域A3の面積をS3とするとき、前記第1の層は、S1<S2<S3となるように構成されているものである。
【0035】
これによって、カーボンナノチューブで構成されるチューブネットワークを極めて疎に構成して、高分子複合薄膜の機械的強度とガス透過性をともに高い水準で両立させることが可能となる。
【0036】
また、本発明は、前記高分子材料として、主にポリシロキサンを用いたものである。
【0037】
これによって、入手が容易な一般的な材料を用いて、高分子複合薄膜をより低コストで製造することが可能となる。
【0038】
また、本発明は、前記高分子複合薄膜と、前記高分子複合薄膜に対してガスを供給するガス供給部と、を備えるガス分離装置である。
【0039】
これによって、高分子複合薄膜1を用いて酸素富化空気、二酸化炭素濃縮空気、窒素富化空気を得ることが可能となる。
【0040】
また、本発明は、前記高分子複合薄膜と、前記高分子複合薄膜に対してガスを供給するガス供給部と、を備え、前記ガス供給部は、前記第2の層、前記第1の層の順にガスが透過するようにガスを供給するガス分離装置である。
【0041】
これによって、高分子複合薄膜1を用いて高い効率で酸素富化空気、二酸化炭素濃縮空気、窒素富化空気を得ることが可能となる。
【0042】
また、本発明は、カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ水分散液を調製するとともに、高分子材料を含む高分子材料含有溶液を調製する第1工程と、犠牲層が形成された基材上に前記犠牲層を被覆するように前記カーボンナノチューブ水分散液を塗布・乾燥させて主に前記カーボンナノチューブで構成された第1の層を形成する第2工程と、前記第1の層を被覆するように前記高分子材料含有溶液を塗布・硬化させて第2の層を形成する第3工程と、前記犠牲層を溶解させて、前記第1の層及び前記第2の層で構成される高分子複合薄膜を前記基材から剥離する第4工程と、を含む高分子複合薄膜の製造方法である。
【0043】
これによって、自立性を備えるとともに、高い機能性を有する高分子複合薄膜を製造することが可能となる。
【0044】
また、本発明は、前記第1工程は、前記カーボンナノチューブ水分散液を濾過して濾過後分散液を生成する濾過工程を含み、前記濾過工程によって、前記カーボンナノチューブ水分散液から前記カーボンナノチューブの凝集物の少なくとも一部を除去するとともに、前記濾過後分散液に含まれる前記カーボンナノチューブのサイズを制限するようにしたものである。
【0045】
これによって、高分子複合薄膜1の欠陥を大幅に抑制し、自立性を備えるとともに、高い機能性を有する高分子複合薄膜を製造することが可能となる。
【0046】
また、本発明は、カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ水分散液を第1溶剤で希釈して水-第1溶剤分散液を調製する第1工程と、前記水-第1溶剤分散液に高分子材料の主剤を加えて混錬した後に、前記高分子材料を硬化させる硬化剤を加え、これを混錬して混合溶液を得る第2工程と、前記混合溶液を第2溶剤で希釈して希釈後混合溶液を得る第3工程と、犠牲層が形成された基材上に前記犠牲層を被覆するように前記希釈後混合溶液を塗布・硬化させて高分子複合薄膜を製膜する第4工程と、前記犠牲層を溶解させて、前記高分子複合薄膜を前記基材から剥離する第5工程と、を有する高分子複合薄膜の製造方法である。
【0047】
これによって、自立性を備えるとともに、高い機能性を有する高分子複合薄膜を製造することが可能となる。
【0048】
また、本発明は、前記第1溶剤をエタノールとし、前記第2溶剤をヘキサンとしたものである。
【0049】
これによって、容易に入手可能な溶剤を用いて、高分子複合薄膜を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0050】
このように本発明によれば、極めて薄く構成されることで高機能性であり且つ実用的な構造安定性(自立性)を有する高分子複合薄膜、この高分子複合薄膜を備えるガス分離装置を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】(a),(b)は、第1実施形態に係る高分子複合薄膜1及び高分子複合薄膜1で構成されるガス分離体6の構成を示す説明図
【
図2】0.5v/v%PDMS/0.1wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図3】0.5v/v%PDMS/0.02wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図4】0.5v/v%PDMS/0.01wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図5】0.12v/v%PDMS(×2)/0.005wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図6】0.12v/v%PDMS(×2)/0.001wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図7】(a),(b)は、1回目の吸引濾過後のポリカーボネートフィルタ上の残渣を示すSEM像
【
図9】0.12v/v%PDMS(×2)/濾過後0.005wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図10】10v/v%PDMS/0.01wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図11】5v/v%PDMS/0.01wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図12】3v/v%PDMS/0.01wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図13】第2の3v/v%PDMS/0.01wt%CNTフィルムの断面のSEM像
【
図14】(a),(b)は、比較例2及び実施例11で得られたフィルムに対して同一負荷を加えた際のフィルムの撓みを示す写真
【
図15】比較例2及び実施例11で得られたフィルムにおける応力(σ)及びたわみ(ε)の関係を示すグラフ
【
図16】第2実施形態に係る高分子複合薄膜1及び高分子複合薄膜1で構成されるガス分離体6の構成を示す説明図
【
図17】2v/v%PDMS-CNTフィルムの断面のSEM像
【
図18】0.5v/v%PDMS-CNTフィルムの断面のSEM像
【
図19】ガス分離体6を応用したガス分離装置10の構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0052】
(第1実施形態)
図1(a),(b)は、本発明に係る高分子複合薄膜1及び高分子複合薄膜1で構成されるガス分離体6の構成を示す説明図である。以降、
図1を用いて本発明の第1実施形態について説明する。
【0053】
ガス分離体6は、高分子複合薄膜1と支持体4とで構成されている。
図1に示すように、高分子複合薄膜1は、カーボンナノチューブ5を含む補強層3(第1の層)と、主に高分子材料で構成され補強層3と接するように重畳された高分子薄膜2(第2の層)とを備える。即ち、高分子複合薄膜1においてカーボンナノチューブ5は局所的に(偏在して)配置されている。そして第2の層は、所定のガスに対する選択透過性を有している。高分子複合薄膜1を支持体4に重畳することでガス分離体6が構成される。
【0054】
後に説明するように、高分子複合薄膜1は、第1の層としての補強層3を形成した後に、補強層3を被覆するように第2の層としての高分子薄膜2を形成することから、補強層3においてはカーボンナノチューブ5と高分子材料とが混在している(即ち、補強層3は少なくともカーボンナノチューブ5を含む)。
【0055】
この観点において、本発明に係る高分子複合薄膜1は、高分子薄膜2にカーボンナノチューブ5を包含する構成を有している、あるいは高分子複合薄膜1は高分子薄膜2とカーボンナノチューブ5とが複合化された構成を備えるとも言うことができる。カーボンナノチューブ5は材料としての機械的強度が高く、高分子薄膜2と複合化することで、高分子複合薄膜1は極めて高い機械的強度を発現する。
【0056】
第1実施形態においては、カーボンナノチューブ5として単層カーボンナノチューブ(SWNT:single-walled carbon nanotube)、多層カーボンナノチューブ(MWNT:multi-walled carbon nanotube)のいずれを用いてもよい。カーボンナノチューブ5は、そのアスペクト比の高さから(SWNTにおいては直径0.5~3nm、長さ~10μm,MWNTにおいては直径5~100nm、長さ~20μm)チューブのネットワークを形成することが可能であり、その機械的特性は、剛性、強度、引張強度の組合せによって得られる。
【0057】
高分子薄膜2を構成する材料としては、例えばビニル高分子、ポリシロキサン、架橋性高分子を好適に用いることができる。ここでビニル高分子やポリシロキサンは、例えばガス分離性といった機能性を有効に発揮しうる膜厚(例えば100nm以下)において、材料単独では機械的強度(自立性)を確保することが困難とされている。この場合、ビニル高分子やポリシロキサンを主成分とする高分子薄膜2とカーボンナノチューブ5とを複合化することで、高分子複合薄膜1の機能性と自立性とを両立することが可能となる。
【0058】
高分子薄膜2を主にビニル高分子、あるいは主にポリシロキサンで構成した場合、ガス分離体6は
図1(a)で示す構成とすることが好ましく、この場合、ガス分離体6は、支持体4と高分子薄膜2との間に、少なくとも高分子薄膜2と密着するように形成された補強層3を備える。あるいは、
図1(b)に示すように、支持体4と補強層3との間に、少なくとも補強層3と密着するように形成された高分子薄膜2を備える構成としてもよい。
【0059】
即ち、ガス分離体6は、支持体4に、高分子薄膜2と密着するように形成された補強層3と、高分子薄膜2とを重畳したものである。なお、後述するガス分離体6の製造工程の第4工程(転写工程)において、支持体4に補強層3を接触させることで
図1(a)の構成が選択され、また支持体4と高分子薄膜2とを接触させることで、
図1(b)の構成が選択されうる。
【0060】
他方架橋性高分子は、機能性を有効に発揮しうる膜厚(例えば100nm以下)においても材料単独で自立性を備えるとされている。ここで、架橋性高分子(架橋高分子)とは、複数の線状高分子鎖を化学反応で結合させることで三次元的な網目構造(架橋構造)を備える高分子をいい、例えば官能基としてのエポキシ基とアミノ基とが化学反応によって架橋したエポキシ樹脂を含む。
【0061】
なお、エポキシ樹脂については、膜厚を20nmに構成した自立性を備える高分子薄膜の例が、A Large, Freestanding, 20nm Thick Nanomembrane Based on an Epoxy Resin, H. Watanabe T.Kunitake, ADVANCED MATERIALS Volume19, Issue7, Pages 909-912, 2007
(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/adma.200601630)
に掲載されている。
【0062】
もちろん架橋性高分子を主成分とする高分子薄膜2とカーボンナノチューブ5を含む補強層3とを複合化して高分子複合薄膜1を構成してもよく、この高分子複合薄膜1は、機能性とともに更に強靭な機械的強度を確保することが可能となる。
【0063】
さて、第1実施形態では、高分子複合薄膜1の厚み、即ち重畳された補強層3と高分子薄膜2との厚みを合計した平均膜厚を1700nm以下としている。工業プラント用途等、高分子複合薄膜1に特に高い機械的強度が要求される場合においては、高分子複合薄膜1の平均膜厚を1700nm~1000nm(1000nmより大きく、1700nm以下)程度にするとよい。このようにすることで、極めて機械的強度が高い高分子複合薄膜1を得ることができる。また、ガス透過性・機械的強度のいずれをより優先すべきかの観点に基づき、高分子複合薄膜1の平均膜厚は、1000nm~120nm(120nmより大きく、1000nm以下)の範囲で適宜選択されうる。
【0064】
ガス透過性と機械的強度とをバランスよく両立させる場合は高分子複合薄膜1の平均膜厚を120nm以下にすればよい。平均膜厚を120nm~50nm(50nmより大きく、120nm以下)とすることで、自立性を備えるとともにCO2透過度が3000[GPU]を越える高分子複合薄膜1を得ることができる。
【0065】
高いガス透過性が要求される場合は、高分子複合薄膜1の平均膜厚を50nm以下とすることが好ましい。平均膜厚を50nm~30nm(30nmより大きく、50nm以下)とすることで、自立性を備えるとともに、CO2透過度が20000[GPU]を越える高分子複合薄膜1を得ることができる。
【0066】
更に高いガス透過性が要求される場合は、高分子複合薄膜1の平均膜厚を30nm以下とすることが好ましい。平均膜厚を30nm以下(27nm以上)とすることで、自立性を備えるとともに、CO2透過度が40000[GPU]を越える高分子複合薄膜1を得ることができる。
【0067】
カーボンナノチューブ5は高分子複合薄膜1の膜厚よりも小さい直径を備える。直径が高分子複合薄膜1の膜厚より小さいカーボンナノチューブ5を選択することにより、高分子複合薄膜1の機能性が十分に発揮される。逆に高分子複合薄膜1に、高分子複合薄膜1の膜厚以上の直径を有するカーボンナノチューブ5が混在すると、高分子薄膜2に欠陥等が生じやすくなり、機能性を十分に発揮することが困難となる。
【0068】
なお、
図1では、同一の繊維長をなすカーボンナノチューブ5が特定の方向に整列しているように記載されているが、あくまでも模式的に記載したにすぎない。カーボンナノチューブ5の長さは様々(~20μm)であり、更にカーボンナノチューブ5はあらゆる方向に配向し、絡み合った状態(チューブネットワーク)となって高分子複合薄膜1に包含されている。ただし、後述の実施例にて詳細に説明するように、補強層3におけるチューブネットワークは、カーボンナノチューブ5の密度が疎となるように分布が制限(制御)され、これによって高分子複合薄膜1の機能性を大幅に高めている。
【0069】
ここで支持体4は、例えばポリアクリロニトリル(以降、「PAN」と称することがある。)で構成される。PANはアクリロニトリルを50%以上含む基ポリマーを主成分とするプラスチックであり、ガスバリヤー性や高剛性といった特徴を備える。他方、PANで構成した膜(PAN膜)に張力を加えることで、微細な空隙を無数に有し、高いガス透過度を備える多孔質PAN膜を得ることができる。第1実施形態では高いガス透過度を有する多孔質PAN膜(PANサポート膜)を支持体4として用いている。
【0070】
さて、分離対象のガス(分離しようとする気体分子を含むガス)を支持体4の側から供給すると、高分子複合薄膜1と支持体4が剥離することがあり得るため、
図1(a),(b)に示すように、ガス分離体6のうち高分子複合薄膜1の側から分離対象のガスを供給することが好ましい。
【0071】
以下、高分子複合薄膜1及び高分子複合薄膜1を備えるガス分離体6の製造工程について概要を説明する。
<第1工程>
高分子複合薄膜1を製造するにあたり、予めカーボンナノチューブ5(以降、「CNT」と称することがある。)を純水に分散させ、カーボンナノチューブ水分散液(以降、「CNT水分散液」と称することがある。)を調製しておく。CNTとしては、例えばOCSiAl製,TUBALL BATT H2O(TUBALLは登録商標)を好適に用いることができる。CNT水分散液は後述する第2工程で使用される。通常、カーボンナノチューブ5は水に分散しにくいため、CNT水分散液を調製する際には、いわゆる分散剤が用いられる。
【0072】
分散剤としては、例えば、N-ヨードスクシンイミド(NIS)、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム(SDBS)、コール酸ナトリウム(SC)、デオキシコール酸ナトリウム(DOC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができるが、補強層3に重畳した際の高分子材料(ここではPDMS)の硬化性や、カーボンナノチューブ5の分散性の観点ではSDBSあるいはPVPを用いることが好ましい。
【0073】
第1工程においては、CNT水分散液を濾過して濾過後分散液を生成する濾過工程を含ませることが好ましい。この濾過工程によって、CNT水分散液からカーボンナノチューブ5の凝集物の少なくとも一部を除去するとともに、濾過後分散液に含まれるカーボンナノチューブ5のサイズが実質的に制限される。即ち、濾過工程を追加することによって、濾過後分散液に含まれるカーボンナノチューブ5のサイズあるいはサイズ分布を制御することができる。
【0074】
もちろん濾過工程によってCNT水分散液に含まれるすべての凝集物が除去される訳ではなないが、濾過後分散液を用いることで、高分子複合薄膜1の欠陥が大幅に抑制され、ガスに対する選択透過性(ここではO2/N2選択比、CO2/N2選択比)が向上する(後述の実施例6を参照)。また、濾過工程を経たCNT水分散液は、時間が経過しても凝集等が発生しにくいことも分かった。
【0075】
第1工程においては、高分子材料(前駆体)を水溶性が低いヘキサン等の溶媒に溶解させて、高分子材料含有溶液を調製しておく。高分子材料含有溶液は後述する第3工程で使用される。
【0076】
<第2工程>
次に犠牲層が形成されたガラス基板(以降、「基材」と称することがある。)上に、犠牲層を被覆するようにCNT水分散液を塗布し、その後乾燥させて、主にカーボンナノチューブ5で構成された補強層3(第1の層)を形成する。
【0077】
基材上へのCNT水分散液の塗布は、スピンコート法あるいはディップコーティング法を用いることができる。特にスピンコート法を採用することにより、CNT水分散液に含まれるカーボンナノチューブ5に強力な外力が作用し、実質的に剛体であるカーボンナノチューブ5は立体的、即ち膜の厚み方向にチューブネットワークを構成することができない。結果的にカーボンナノチューブ5は水によって押し流されて平面上に配置され、二次元チューブネットワークが形成される。
【0078】
<第3工程>
基材上に形成された補強層3を更に被覆するように、高分子材料含有溶液を塗布・硬化させて高分子薄膜2(第2の層)を形成する。このとき高分子材料含有溶液は補強層3を構成するカーボンナノチューブ5を完全に覆うことで、補強層3はカーボンナノチューブ5と高分子材料とが混在する層を構成する。そして高分子薄膜2は、補強層3と重畳(複合化、あるいは事実上の一体化)されることで、それ自体が自立性を備えることができない極めて薄い膜厚であっても高分子複合薄膜1を構成することが可能となる。
【0079】
<第4工程>
所定の溶剤で犠牲層を溶解させて、補強層3及び高分子薄膜2で構成された高分子複合薄膜1を基材から剥離する。その後、剥離された高分子複合薄膜1を支持体4に転写してガス分離体6を得る。
【0080】
このように、第1実施形態の高分子複合薄膜1の製造方法は、カーボンナノチューブ5を含むカーボンナノチューブ水分散液を調製するとともに、高分子材料を含む高分子材料含有溶液を調製する第1工程と、犠牲層が形成された基材上に犠牲層を被覆するようにカーボンナノチューブ水分散液を塗布・乾燥させて主にカーボンナノチューブ5で構成された第1の層(補強層3)を形成する第2工程と、第1の層を被覆するように高分子材料含有溶液を塗布・硬化させて第2の層(高分子薄膜2)を形成する第3工程と、犠牲層を溶解させて、第1の層及び第2の層で構成される高分子複合薄膜1を基材から剥離する第4工程と、を有し、第1工程は、カーボンナノチューブ水分散液を濾過して濾過後分散液を生成する濾過工程を含んでいる。
【0081】
そして、第1工程に含まれる濾過工程によって、カーボンナノチューブ水分散液からカーボンナノチューブ5の凝集物を除去するとともに、濾過後分散液に含まれるカーボンナノチューブ5のサイズあるいはサイズ分布が制限されている。
【0082】
以下、第1実施形態に係る高分子複合薄膜1について実施例を説明する。
【実施例0083】
CNT0.2重量%に分散剤を加えたCNT水分散液を作成し、これをイオン交換水で希釈して0.1重量%CNT水分散液を調製した。これに対して超音波処理と遠心分離処理とを行って上澄み液(以降、「0.1wt%CNT」と称することがある。)を得た。ただし、カーボンナノチューブ5は遠心分離処理で殆ど沈殿しないことから、遠心分離処理は省略してもよい。(他の実施例でも同じ)
【0084】
別途シリコンポリマーの一つであるポリジメチルシロキサン(PDMS)樹脂(東レダウコーニング製,SYLGARD184(SYLGARDは登録商標))の主剤及び硬化剤を10:1の割合で混合し、これにヘキサンを加えて10体積%のPDMS/ヘキサン溶液を調製した。これに所定量のヘキサンを加え、0.5体積%のPDMS/ヘキサン溶液(以降、「0.5v/v%PDMS」と称することがある。)を調製し、これを以降の操作に用いた。
【0085】
高分子複合薄膜1の作製に先立ち、まずポリヒドロキシスチレン(PHS)/エタノール溶液(15重量%)を基材にスピンコート(3000rpm/1分)してPHS層(犠牲層)を形成した後に乾燥させ、更にこの基材表面を親水化した。更に、この基材上に、上述の操作で作製した0.1wt%CNTをスピンコートによって塗布し、加熱・乾燥させた。これによって補強層3を形成した。
【0086】
次いで補強層3を被覆するように、0.5v/v%PDMSをスピンコートし、その後、この基材を加熱してPDMSを硬化させた。これによって高分子薄膜2を形成した。
【0087】
室温まで放冷後、この基材をエタノールに浸漬して、補強層3と高分子薄膜2とが重畳された高分子複合薄膜1を基材より剥離した。その後、剥離した高分子複合薄膜1を支持体4に転写してガス分離体6を作成した。以降、実施例1で作成された高分子複合薄膜1を「0.5v/v%PDMS/0.1wt%CNTフィルム」と称する。
【0088】
図2は、0.5v/v%PDMS/0.1wt%CNTフィルムの断面のSEM像である。図示するように、高分子薄膜2と補強層3との境界は明瞭ではないが、高分子薄膜2と補強層3とを合計した高分子複合薄膜1の膜厚D1は120nm±30nm(平均膜厚(多点計測に基づく。以下同じ)=120nm)であった。また、得られたガス分離体6に対してガス透過性試験を行ったところ、CO
2透過度は3353[GPU]、N
2透過度は645[GPU]であった。
CNT0.2重量%に分散剤を加えたCNT水分散液を作製し、これをイオン交換水で希釈して0.02重量%CNT水分散液を調製した。これに対して超音波処理と遠心分離処理とを行って上澄み液(以降、「0.02wt%CNT」と称することがある。)を得た。
0.02wt%CNTを用いること以外は、実施例1と同様の条件で高分子複合薄膜1及びガス分離体6を作成した。以降、実施例2で作成された高分子複合薄膜1を「0.5v/v%PDMS/0.02wt%CNTフィルム」と称する。