(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120033
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】MEMSセンサ
(51)【国際特許分類】
G01P 15/125 20060101AFI20230822BHJP
G01P 15/08 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G01P15/125 Z
G01P15/08 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023202
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】紙西 大祐
(57)【要約】 (修正有)
【課題】固定電極と可動電極との間隔が狭く、かつ作製も容易な高感度のMEMSセンサを提供する。
【解決手段】MEMSセンサは、基板に設けられた空洞部の上に、スペース部40を挟んで平行に配置された1組の可動電極20と、可動電極の、スペース部と反対側に溝部30を挟んで平行に配置された固定電極10とを含み、スペース部は第1スペース幅Z1を有する中央部と、第2スペース幅Z2を有する終端部とを含み、第1スペース幅Z1は第2スペース幅Z2より短い。第1スペース部のスペース幅Z1と、溝部の溝幅Xは、以下の式:3.4≦(Z1/X)≦4.9を満たす。1組の可動電極は、例えばスペース部側にそれぞれフィンガ部を備え、第1スペース幅Z1はフィンガ部の間隔となる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に設けられた空洞部の上に、スペース部を挟んで平行に配置された1組の可動電極と、前記可動電極の、前記スペース部と反対側に溝部を挟んで平行に配置された固定電極とを含むMEMSセンサであって、
前記スペース部は第1スペース幅Z1を有する中央部と、第2スペース幅Z2を有する終端部とを含み、
前記第1スペース幅Z1は前記第2スペース幅Z2より短いMEMSセンサ。
【請求項2】
前記第1スペース部のスペース幅Z1と、前記溝部の溝幅Xが、以下の式(1):
3.4≦(Z1/X)≦4.9......(1)
を満たす請求項1に記載のMEMSセンサ。
【請求項3】
前記1組の可動電極は、前記スペース部側にそれぞれフィンガ部を備え、前記スペース幅Z1は、前記フィンガ部の間隔である請求項1に記載のMEMSセンサ。
【請求項4】
基板に設けられた空洞部の上に、スペース部を挟んで平行に配置された1組の可動電極と、前記可動電極の、前記スペース部と反対側に溝部を挟んで平行に配置された固定電極と、を含み、前記1組の可動電極の、前記スペース部側にそれぞれフィンガ部を備えたMEMSセンサであって、
前記溝幅Xが、2.0μm以上、かつ2.8μm以下の場合に、以下の式(2):
0≦b/((Z1/2)+(Y+b)+X)<0.125......(2)
ただし、Z1はフィンガ部の間隔、Yは可動電極の幅、bはフィンガ部の幅
を満たすMEMSセンサ。
【請求項5】
基板に設けられた空洞部の上に、スペース部を挟んで平行に配置された1組の可動電極と、前記可動電極の、前記スペース部と反対側に溝部を挟んで平行に配置された固定電極と、を含み、前記1組の可動電極の、前記スペース部側にそれぞれフィンガ部を備えたMEMSセンサであって、
前記溝幅Xが、1.5μm以上、かつ2.0μm未満の場合に、以下の式(3):
0.027≦b/((Z1/2)+(Y+b)+X)≦0.054......(3)
ただし、Z1はフィンガ部の間隔、Yは可動電極の幅、bはフィンガ部の幅
を満たすMEMSセンサ。
【請求項6】
前記フィンガ部は、矩形形状の突出部である請求項4または5に記載のMEMSセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSセンサに関し、特にMEMS構造を用いた静電容量型加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
固定電極と可動電極を対向配置し、両電極間の静電容量の変化を検出することにより加速度を検出する静電容量型加速度センサが知られている。このような静電容量型加速度センサとしては、半導体微細加工技術を用いてシリコン基板を加工して固定電極および可動電極を作製したMEMS(Micro Electro Mechanical System)構造を利用したセンサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電容量型加速度センサでは、固定電極に対して可動電極の位置が変わることに伴う両電極間の静電容量の変化を検出し、加速度を検出する。このため、固定電極と可動電極との間隔を狭くして静電容量を大きくすることにより、加速度センサの感度を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、一方で、MEMS構造では、固定電極や可動電極の下方をエッチングして空洞部を作製し、半導体基板から電極を浮かせた構造とする必要がある。このため、固定電極と可動電極との間隔が狭くなると、両電極の間から半導体基板中にエッチャントが回り込みにくくなり、電極形成が難しくなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、固定電極と可動電極との間隔を狭く、かつ作製も容易な高感度のMEMSセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本開示の1つの態様は、
基板に設けられた空洞部の上に、スペース部を挟んで平行に配置された1組の可動電極と、可動電極の、スペース部と反対側に溝部を挟んで平行に配置された固定電極とを含むMEMSセンサであって、
スペース部は第1スペース幅Z1を有する中央部と、第2スペース幅Z2を有する終端部とを含み、
第1スペース幅Z1は第2スペース幅Z2より短いMEMSセンサである。
【0008】
本開示の他の態様は、
基板に設けられた空洞部の上に、スペース部を挟んで平行に配置された1組の可動電極と、可動電極の、スペース部と反対側に溝部を挟んで平行に配置された固定電極と、を含み、1組の可動電極の、スペース部側にそれぞれフィンガ部を備えたMEMSセンサであって、
溝幅Xが、2.0μm以上、かつ2.8μm以下の場合に、以下の式(2):
0≦b/((Z1/2)+(Y+b)+X)<0.125......(2)
ただし、Z1はフィンガ部の間隔、Yは可動電極の幅、bはフィンガ部の幅
を満たすMEMSセンサである。
【0009】
本開示の他の態様は、
基板に設けられた空洞部の上に、スペース部を挟んで平行に配置された1組の可動電極と、可動電極の、スペース部と反対側に溝部を挟んで平行に配置された固定電極と、を含み、1組の可動電極の、スペース部側にそれぞれフィンガ部を備えたMEMSセンサであって、
溝幅Xが、1.5μm以上、かつ2.0μm未満の場合に、以下の式(3):
0.027≦b/((Z1/2)+(Y+b)+X)≦0.054......(3)
ただし、Z1はフィンガ部の間隔、Yは可動電極の幅、bはフィンガ部の幅
を満たすMEMSセンサである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明にかかるMEMSセンサでは、スペース部の第1スペース幅Z1や、第1スペース幅Z1と溝部の溝幅Xとのバランスを調整することにより、高感度でかつ作製の容易なMEMSセンサの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの平面図である。
【
図2】
図1の加速度センサの領域Aの拡大図である。
【
図3A】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極作製工程の断面図である。
【
図3B】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極作製工程の断面図である。
【
図3C】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極作製工程の断面図である。
【
図3D】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極作製工程の断面図である。
【
図3E】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極作製工程の断面図である。
【
図3F】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極作製工程の断面図である。
【
図3G】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極作製工程の断面図である。
【
図4A】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極構造の平面図である。
【
図4B】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極構造の概略図である。
【
図5】本発明の実施の形態にかかる加速度センサの電極構造の平面図である。
【
図6】フィンガ部の大きさを変えた場合の加速度センサの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は全体が100で表される、本発明の実施の形態にかかるMEMS構造の静電容量型加速度センサの平面図であり、
図2は
図1の領域Aの拡大図である。加速度センサ100では、Y軸方向に直線状に延びる固定電極10の両側に可動電極20が平行に設けられている。固定電極10および可動電極20は、一定の幅でストライプ状に延び、それらの間は溝部30となっている。
【0013】
隣り合う2つの可動電極20は、接続部23により接続され、その内部がスペース部40となっている。2つの可動電極20は接続部23の中央に設けられたアイソレーションジョイント(IJ)25で互いに絶縁されている。
【0014】
固定電極10、可動電極20、アイソレーションジョイント25を備えた接続部23は、シリコン基板に設けられた空洞部の上に、シリコン基板に対して浮いた状態で保持されている。このため、加速度センサ100が一定の加速度を受けた場合、固定電極10と可動電極20との間隔が変化し、これに応じて両電極10、20の間の静電容量も変化する。この静電容量の変化を検出することで、加速度の検出が可能となる。
【0015】
固定電極10と可動電極20とは平行平板のコンデンサを形成するため、固定電極10と可動電極20との間隔(X軸方向の距離)が狭いほど静電容量が大きくなり、加速度の検出精度も向上する。このため、MEMS構造の加速度センサ100では、半導体微細加工技術を用いて固定電極10と可動電極20との間隔を狭くすることで検出精度の向上を図っている。
【0016】
図3A~
図3Gは、半導体微細加工技術を用いた加速度センサ100の電極作製工程の概略図である。電極作製は以下の工程1~6で行われる。
【0017】
工程1:
図3Aに示すように、シリコン基板1の上にシリコン酸化膜2を熱酸化で全面に形成した後、リソグラフィ技術を用いてパターニングする。
図3Aでは、シリコン酸化膜2が紙面に垂直方向に一定の幅で直線状に延びている。
【0018】
工程2:
図3Bに示すように、例えばSF
6とC
4F
8の混合ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)で、シリコン酸化膜2をマスクに用いてシリコン基板1をエッチングし、溝部を形成する。溝部の深さは、例えば30μmである。
【0019】
工程3:
図3Cに示すように、CVD法を用いて、TEOS(tetra ethoxy silane)膜3を全面に形成する。
【0020】
工程4:
図3Dに示すように、例えばCF系ガスを用いたスパッタで全面エッチングを行い、TEOS膜3を除去する。この結果、シリコン基板1に形成された溝部の側壁上にのみTEOS膜3が残る。
【0021】
工程5:
図3Eに示すように、シリコン基板1の追加エッチングを行って、溝部を深くする。追加エッチングは、工程2と同様に、SF
6とC
4F
8の混合ガスを用いたRIEで、シリコン酸化膜2をマスクに用いて行う。この結果、溝部の深さは約5μmとなる。また溝部の上端から途中までの側壁上にはTEOS膜3が残っている。
【0022】
工程6:
図3Fに示すように、例えばSF
6ガスを用いたプラズマ等方性エッチングで、シリコン酸化膜2およびTEOS膜3をエッチングマスクに用いてシリコン基板1をエッチングする。この結果、シリコン酸化膜2およびTEOS膜3で覆われた部分の下方でシリコン基板1がエッチングされて空洞部となり、シリコン基板1から浮いた電極構造が形成される。ここでは、左側が可動電極20、右側が固定電極10となり、その間に溝部30が形成される。
【0023】
しかし、可動電極20と固定電極10との間隔(溝部30の幅)が狭くなった場合、工程6で溝部30にSF
6ガスが入りにくくなる。この結果、
図3Gに示すように、電極下方のエッチングが不十分となり、例えばBで示すような脆弱な突起部が残る(脆弱構造)。このような突起部は、可動電極20が動いた場合に折れて、加速度センサの不具合の原因となる。また溝部30の幅が更に狭くなり、等方性エッチングが不十分になると、可動電極20とシリコン基板1との間が完全にエッチングされず、可動電極20がシリコン基板1から浮いた構造にならない場合(リリース不可)もある。
【0024】
図3Gでは記載していないが、このようなエッチングの不具合は、固定電極10の下方のシリコン基板1のエッチングでも同様に発生し、固定電極10の近傍に突起部が残ったり、固定電極10がシリコン基板1から浮いた構造にならない場合がある。
【0025】
本発明の実施の形態では、
図2に示すように、固定電極10と可動電極20との間隔(溝部30の幅)を狭くした場合でも、2つの可動電極20の間のスペース部40から供給されるエッチャント量を調整することにより、
図3Fに示すような良好なエッチングを可能とするものである。
【0026】
図4Aは、加速度センサ100の電極構造の平面図、
図4Bは、
図4Aに対応する加速度センサ100の電極構造の概略図である。
図4Aにおいて、10は固定電極、20は可動電極、30は固定電極10と可動電極20との間の溝部、40は2つの可動電極20の間のスペース部を示す。また27は可動電極20に設けられた矩形のフィンガ部を示す。
【0027】
上述のように、加速度センサ100の高感度化のために固定電極10と可動電極20との間隔、即ち溝部30の溝幅Xを小さくすると、溝部30から入ってシリコン基板1をエッチングするエッチャント(例えばSF6)の量が少なくなる。一方で、2つの可動電極20の間隔(スペース部の幅)は溝部30の溝幅Xに比較して十分に大きいため、スペース部40から入ってシリコン基板1をエッチングするエッチャントの量も多くなる。このため、溝部30の溝幅Xを小さくすると、スペース部40から供給されるエッチャントの量と、溝部30から供給されるエッチャントの量のバランスが崩れる。この結果、例えば2つの溝部30に囲まれた領域Cのエッチングが不十分となり、脆弱な突起部がエッチングされずに残る。
【0028】
そこで、本発明の実施の形態では、可動電極20に、スペース部40に向かって突出するフィンガ部27を設けることでスペース部40の中央の第1スペース幅Z1を狭くしてスペース部40から供給されるエッチャントの量を制限することで、溝部30から供給されるエッチャントの量とのバランスを調整して、良好なエッチングが得られるようにしている。
図4Aに示すように、スペース部40は、第1スペース幅Z1を有する中央部と、その両側の第2スペース幅Z2を有する終端部を含み、第1スペース幅Z1は第2スペース幅Z2より短くなっている。
【0029】
図5は、本発明の加速度センサ100の電極構造の寸法を表す平面図と、単位セルの半分についてのエッチング説明図(右下)である。加速度センサ100では、固定電極10と可動電極20は、一定の幅でY軸方向にストライプ状に延び、溝幅Xの溝部30を挟んで互いに平行に配置されている。隣り合った2つの可動電極20は接続部23で接続されると共に、アイソレーションジョイント25で互いに電気的に絶縁されている。2つの可動電極20と接続部23に囲まれた部分は開口してスペース部40となっている。固定電極10、可動電極20、アイソレーションジョイント25を備えた接続部23は、シリコン基板に設けられた空洞部の上に、シリコン基板から浮いた状態で保持されている。
【0030】
また、加速度センサ100では、可動電極20からスペース部40に向かって、矩形のフィンガ部27が設けられている。フィンガ部27は長さ(Y軸方向)はa、幅(X軸方向)はbで、可動電極20と同じ厚さ(Z軸方向)となっている。2つの接続部23の間隔(Y軸方向)はcとなっている。スペース部40の幅(X軸方向)は、フィンガ部27が設けられた中央部で第1スペース幅Z1、その両側の終端部で第2スペース幅Z2となっている。Wは単位セルの幅を表す。
【0031】
フィンガ部27は、2つの可動電極20の内側の、対向する位置に配置されるのが好ましい。
図5では、フィンガ部27を接続部23からY軸方向に離して終端部を設けることにより、接続部23の下方がエッチングされやすくしている。X-Y平面において、フィンガ部27は矩形形状であることが好ましいが、エッチャント量を制御できる限り半円形等の他の形状であっても構わない。
【0032】
フィンガ部27は、可動電極20と一体形成され、例えば
図3Aの工程で、シリコン酸化膜2を
図5のような形状にパターニングすることで形成できる。
【0033】
以下の表1に、溝幅Xが1.5μmと2.0μmの電極構造に対してフィンガ幅bを変えた場合のエッチング結果を示す。No.1~4は溝幅Xが1.5μmの場合、No.5~9は溝幅Xが2.0μmの場合である。全てのサンプルで単位セル幅Wは一定なので、可動電極20の幅Yは、No.1~4の5.2μmに比較して、No.5~9では4.7μmと狭くなっている。Z1は対向するフィンガ部27の間隔(第1スペース幅Z1)であり、Sは対向するフィンガ部27に挟まれた領域の面積である。
【0034】
【0035】
図6は、表1の電極のエッチング結果を示す概略図であり、図中の番号(No.1等)は、表1の番号に対応する。エッチングには、上述の電極作製工程1~6のエッチング条件を用いた。溝幅Xが1.5μmの場合、可動電極20の幅Yは5.2μm(一定)で、フィンガ幅bを0μm、0.3μm、0.6μm、0.9μmと変化させた。可動電極20とフィンガ部27を合わせた幅Y+bは、5.2μm(No.1)、5.5μm(No.2)、5.8μm(No.3)、6.1μm(No.4)となる。
【0036】
一方、溝幅Xが2.0μmの場合、可動電極20の幅Yは4.7μm(一定)で、フィンガ幅bを0μm、0.5μm、0.8μm、1.1μm、1.4μmと変化させた。可動電極20とフィンガ部27を合わせた幅Y+bは、4.7μm(No.5)、5.2μm(No.6)、5.5μm(No.7)、5.8μm(No.8)、6.1μm(No.9)となる。
【0037】
図6の概略図から分かるように、溝幅Xが1.5μm、2.0μmの双方において、Y+bが5.5μm、5.8μmの場合(No.2、No.3、No.7、No.8)に、良好なエッチングが得られている。フィンガ部27の幅bを大きくしてY+bを6.1μmとした場合、溝幅Xが1.5μm(No.4)、2.0μm(No.9)の双方においてエッチングが不十分となり、可動電極20をシリコン基板1からリリースできなくなっている(リリース不可)。一方、フィンガ部27の幅bを小さくしてY+bを5.2μmとした場合、溝幅Xが1.5μm(No.1)の構造でエッチングし過ぎとなり、固定電極10の下方に脆弱な突起部が残った(脆弱)。
【0038】
表2は、
図1の結果をまとめたもので、良好なエッチング結果が得られた場合の寸法を示す。
【0039】
【0040】
このように、溝幅Xを2.0μm以下、例えば2.0μmや1.5μmのように狭くした電極構造において、第1スペース幅Z1を6.8μm~7.4μmの範囲にすることで、換言すれば第1スペース幅Z1と溝幅Xとの比Z1/Xの値を3.4~4.9の範囲に設定することで、溝部30から入るエッチャント量とスペース部40から入るエッチャント量とのバランスを良好に調整でき、良好な電極のエッチング結果が得られる。
【0041】
ここで、エッチングのメカニズムを考えると、
図5の電極構造では、一対の固定電極10および可動電極20のエッチングに寄与するエッチャントは、スペース部40の半分の領域(幅:Z1/2)と、1つの溝部30(幅:X)から供給されるエッチャントとなる。
図5のエッチング説明図(右下)において、白色部分はエッチャントが供給される領域、ハッチング部分はマスク領域で、全長は単位セル幅Wの1/2(以下において「半セル幅」と呼ぶ。)となる。溝部30の溝幅Xが小さくなるほど、2つの白色部分から供給されるエッチャントのバランスが取りにくくなる。
【0042】
最初に、溝部30の溝幅Xが2.0μm以上、かつ2.8μm以下のように比較的大きな場合を考える。この場合、表1のNo.5のようにb=0μm(フィンガ部なし)でもエッチングは良好となり、一方でNo.9のようにb=1.4μmではエッチングはNGとなる。つまり、半セル幅(W/2)11.2μmに対して、溝幅Xが占める割合が0.18(2.0μm/11.2μm)~0.25(2.8μm/11.2μm)の場合、フィンガ部27の幅bの占める割合は0(0μm/11.2μm)以上、0.125(1.4μm/11.2μm)未満で良好なエッチングが得られる。
【0043】
これに対して、溝部30の溝幅Xが1.5μm以上、かつ2.0μm未満のように小さくなった場合、表1のNo.2~No.3の範囲、即ちbが0.3μmから0.6μmの範囲でエッチングは良好となり、それ以外のNo.1やNo.4ではエッチングはNGとなった。つまり、半セル幅(W/2)11.2μmに対して、溝幅Xが占める割合が0.13(1.5μm/11.2μm)~0.18(2.0μm/11.2μm)の場合、フィンガ部の幅bの占める割合は0.027(0.3μm/11.2μm)以上、0.054(1.4μm/11.2μm)以下で良好なエッチングが得られる。
【0044】
ここでは、半セル幅(W/2)に対するフィンガ幅bの比率でエッチングが良好となる範囲を示したが、スペース部の面積の半分(S/2)に対するフィンガ面積(a×b)も同様の比率でエッチングが良好となる。従って、フィンガ部27の形状が矩形以外の場合でも、面積が所定の比率を満足すれば良好なエッチングが得られる。例えば、フィンガ部27は、半円形、波形状等であっても良い。
【0045】
以上で述べたように、本発明の実施の形態にかかるMEMSセンサでは、例えば可動電極にフィンガ部を設けてエッチャント量の供給を制御することにより、高感度でかつ作製の容易なMEMSセンサ、特に静電容量型の加速度センサの提供が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明にかかる電極構造を備えたMEMSセンサは、小型の加速度センサ等に適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 シリコン基板
10 固定電極
20 可動電極
23 接続部
25 アイソレーションジョイント
27 フィンガ部
30 溝部
40 スペース部
100 加速度センサ