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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023120036
(43)【公開日】2023-08-29
(54)【発明の名称】車載システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20230822BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20230822BHJP
【FI】
G08G1/16 F
A61B5/00 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022023205
(22)【出願日】2022-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】坂本 秀樹
【テーマコード(参考)】
4C117
5H181
【Fターム(参考)】
4C117XA05
4C117XB18
4C117XC06
4C117XC11
4C117XD01
4C117XE06
4C117XE13
4C117XE18
4C117XE23
4C117XJ45
4C117XJ46
4C117XQ11
4C117XR02
5H181AA01
5H181CC04
5H181FF27
5H181LL07
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】ドライバの状態を運転に適した状態に確実に誘導する「車載システム」を提供する。
【解決手段】ドライバ状態誘導制御部10は、ドライバ生体センサ9で検出した生体情報から算定したドライバの状態に応じて、バイノーラルビート生成部2が、オーディオソース機器1が出力するRチャネルの音声RAとLチャネルの音声LAの少なくとも一方の周波数をシフトして、左右のスピーカに出力する音声RBと音声LBの周波数差|Δf|を制御し、音声RAと音声LAから運転者に所望周波数のバイノーラルビートを認知させ、その状態を誘導する。音声RBと音声LBは、運転席に着座したドライバの耳の近くの位置に配置した左右のスピーカから出力される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車に搭載される車載システムであって、
運転席に着座したドライバの右耳近くとなる位置に配置された右チャネル用スピーカと、
運転席に着座したドライバの左耳近くとなる位置に配置された左チャネル用スピーカと、
オーディオコンテンツの、右チャネルの音声と左チャネルの音声を含む複数チャネルの音声を出力するオーディオソース機器と、
ドライバの感情の状態を検出し、検出したドライバの感情の状態に応じて現用周波数差を設定する状態誘導制御部と、
オーディオソース機器が出力する右チャネルの音声から右チャネル出力音声を生成して生成した右チャネルの出力音声を前記右チャネル用スピーカに出力し、オーディオソース機器が出力する左チャネルの音声から左チャネル出力音声を生成して生成した左チャネルの出力音声を前記左チャネル用スピーカに出力するバイノーラルビート生成部とを有し、
前記バイノーラルビート生成部は、オーディオソース機器が出力する右チャネルの音声と左チャネルの音声の少なくとも一方の、可聴帯域内の所定の周波数帯域の音声成分の周波数を少なくともシフトして、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声とを、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声との間の少なくとも前記所定の周波数帯域内の音声成分の周波数差が、前記状態誘導制御部が設定した現用周波数差となるように生成することを特徴とする車載システム。
【請求項2】
自動車に搭載される車載システムであって、
運転席に着座したドライバの右耳近くとなる位置に配置された右チャネル用スピーカと、
運転席に着座したドライバの左耳近くとなる位置に配置された左チャネル用スピーカと、
同じ音声成分を可聴帯域内の所定周波数帯域に含む右チャネルの音声と左チャネルの音声を出力する音源装置と、
ドライバの感情の状態を検出し、検出したドライバの感情の状態に応じて現用周波数差を設定する状態誘導制御部と、
音源装置が出力する右チャネルの音声から右チャネル出力音声を生成して生成した右チャネルの出力音声を前記右チャネル用スピーカに出力し、音源装置が出力する左チャネルの音声から左チャネル出力音声を生成して生成した左チャネルの出力音声を前記左チャネル用スピーカに出力するバイノーラルビート生成部とを有し、
前記バイノーラルビート生成部は、音源装置が出力する右チャネルの音声と左チャネルの音声の少なくとも一方の、可聴帯域内の所定の周波数帯域の音声成分の周波数を少なくともシフトして、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声とを、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声との間の少なくとも前記所定の周波数帯域内の音声成分の周波数差が、前記状態誘導制御部が設定した現用周波数差となるように生成することを特徴とする車載システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の車載システムであって、
前記状態誘導制御部は、検出したドライバの感情の状態が、予め定めた許容範囲にあるときに、前記現用周波数差として0を設定し、予め定めた許容範囲に対して過剰であるときに、ドライバの感情の状態を許容範囲内の状態に誘導するバイノーラルビートの周波数を、前記現用周波数差として設定することを特徴とする車載システム。
【請求項4】
請求項3記載の車載システムであって、
前記状態誘導制御部は、前記ドライバの感情の状態として覚醒の状態と非覚醒の状態を検出し、覚醒の状態が、許容範囲に対して過剰である期間中、前記現用周波数差の値を、θ波の周波数帯域内の周波数と等しい値に設定し、非覚醒の状態が、許容範囲に対して過剰である期間中、前記現用周波数差の値を、β波の周波数帯域内の周波数と等しい値に設定することを特徴とする車載システム。
【請求項5】
請求項3記載の車載システムであって、
前記状態誘導制御部は、前記ドライバの感情の状態として不快の状態を検出し、不快の状態が、許容範囲に対して過剰である期間中、前記現用周波数差の値をα波の周波数帯域内の周波数と等しい値に設定することを特徴とする車載システム。
【請求項6】
請求項1、2または3記載の車載システムであって、
ドライバの脳波を検出値として検出するセンサを備え、
前記状態誘導制御部は、前記センサの検出値から、前記ドライバの感情の状態を検出することを特徴とする車載システム。
【請求項7】
請求項4記載の車載システムであって、
ドライバの心拍もしくは脈拍を検出値として検出するセンサを備え、
前記状態誘導制御部は、前記センサの検出値から、前記ドライバの感情の状態として覚醒の状態と非覚醒の状態を検出することを特徴とする車載システム。
【請求項8】
請求項5記載の車載システムであって、
ドライバの体温と発汗レベルを検出値として検出するセンサを備え、
前記状態誘導制御部は、前記センサの検出値から、前記ドライバの感情の状態として不快の状態を検出することを特徴とする車載システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転を支援する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転を支援する技術としては、ドライバの心拍や脈拍や脳波や呼吸や眼球運動などの生体情報を検出し、検出した生体情報からドライバの眠気を推定し、眠気の程度が所定のレベルを超えたならば、注意喚起音の出力や覚醒作用のある芳香の噴出を行う技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
また、本発明に関連する技術として、ユーザの就寝時のリラックスや入眠を誘導するために、バイノーラルビートを出力する技術が知られている(たとえば、特許文献2)。
ここで、バイノーラルビートとは、左の耳聞こえる音と右耳に聞こえる音に僅かな周波数差を持たせることにより、ユーザの脳内で認識される周波数差に等しい周波数音であり、この技術では、周波数差をα波やθ波の周波数帯域の周波数とすることによりユーザのリラックスや入眠を誘導している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-202130号公報
【特許文献2】特開2017-119159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した検出した生体情報からドライバの眠気を推定し、注意喚起音の出力や芳香の噴出を行う技術によれば、注意喚起音や芳香が、ドライバ以外の他の搭乗者にも認知され、注意喚起音や芳香による覚醒作用を与える必要の無い他の搭乗者にとっての車内環境を乱す外乱となる。
【0006】
また、注意喚起音や芳香によっては、眠気の程度が所定のレベルを超えたドライバが、覚醒した状態に確実に遷移することが担保できない。
そこで、本発明は、他の搭乗者にとっての車内環境を乱すことなく、自動車のドライバの状態を、運転に適した状態に、より確実に誘導することを課題とする
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載される車載システムに、運転席に着座したドライバの右耳近くとなる位置に配置された右チャネル用スピーカと、運転席に着座したドライバの左耳近くとなる位置に配置された左チャネル用スピーカと、オーディオコンテンツの、右チャネルの音声と左チャネルの音声を含む複数チャネルの音声を出力するオーディオソース機器と、ドライバの感情の状態を検出し、検出したドライバの感情の状態に応じて現用周波数差を設定する状態誘導制御部と、オーディオソース機器が出力する右チャネルの音声から右チャネル出力音声を生成して生成した右チャネルの出力音声を前記右チャネル用スピーカに出力し、オーディオソース機器が出力する左チャネルの音声から左チャネル出力音声を生成して生成した左チャネルの出力音声を前記左チャネル用スピーカに出力するバイノーラルビート生成部とを備えたものである。ここで、前記バイノーラルビート生成部は、オーディオソース機器が出力する右チャネルの音声と左チャネルの音声の少なくとも一方の、可聴帯域内の所定の周波数帯域の音声成分の周波数を少なくともシフトして、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声とを、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声との間の少なくとも前記所定の周波数帯域内の音声成分の周波数差が、前記状態誘導制御部が設定した現用周波数差となるように生成する。
【0008】
また、前記課題達成のために、本発明は、自動車に搭載される車載システムに、運転席に着座したドライバの右耳近くとなる位置に配置された右チャネル用スピーカと、運転席に着座したドライバの左耳近くとなる位置に配置された左チャネル用スピーカと、同じ音声成分を可聴帯域内の所定周波数帯域に含む右チャネルの音声と左チャネルの音声を出力する音源装置と、ドライバの感情の状態を検出し、検出したドライバの感情の状態に応じて現用周波数差を設定する状態誘導制御部と、音源装置が出力する右チャネルの音声から右チャネル出力音声を生成して生成した右チャネルの出力音声を前記右チャネル用スピーカに出力し、音源装置が出力する左チャネルの音声から左チャネル出力音声を生成して生成した左チャネルの出力音声を前記左チャネル用スピーカに出力するバイノーラルビート生成部とを備えたものである。ここで、前記バイノーラルビート生成部は、音源装置が出力する右チャネルの音声と左チャネルの音声の少なくとも一方の、可聴帯域内の所定の周波数帯域の音声成分の周波数を少なくともシフトして、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声とを、右チャネルの出力音声と左チャネル出力音声との間の少なくとも前記所定の周波数帯域内の音声成分の周波数差が、前記状態誘導制御部が設定した現用周波数差となるように生成する。
【0009】
また、以上の車載システムは、前記状態誘導制御部において、検出したドライバの感情の状態が、予め定めた許容範囲にあるときに、前記現用周波数差として0を設定し、予め定めた許容範囲に対して過剰であるときに、ドライバの感情の状態を許容範囲内の状態に誘導するバイノーラルビートの周波数を、前記現用周波数差として設定するように構成してもよい。
【0010】
この場合、前記状態誘導制御部において、前記ドライバの感情の状態として覚醒の状態と非覚醒の状態を検出し、覚醒の状態が、許容範囲に対して過剰である期間中、前記現用周波数差の値を、θ波の周波数帯域内の周波数と等しい値に設定し、非覚醒の状態が、許容範囲に対して過剰である期間中、前記現用周波数差の値を、β波の周波数帯域内の周波数と等しい値に設定してもよい。
【0011】
または、前記状態誘導制御部において、前記ドライバの感情の状態として不快の状態を検出し、不快の状態が、許容範囲に対して過剰である期間中、前記現用周波数差の値をα波の周波数帯域内の周波数と等しい値に設定してもよい。
ここで、以上の車載システムに、ドライバの脳波を検出値として検出するセンサを備え、前記状態誘導制御部において、前記センサの検出値から、前記ドライバの感情の状態を検出してもよい。
また、車載システムに、ドライバの心拍もしくは脈拍を検出値として検出するセンサを設け、前記状態誘導制御部において、前記センサの検出値から、前記ドライバの感情の状態として覚醒の状態と非覚醒の状態を検出してもよい。
また、車載システムに、ドライバの体温と発汗レベルを検出値として検出するセンサを備え、前記状態誘導制御部は、前記センサの検出値から、前記ドライバの感情の状態として不快の状態を検出してもよい。
以上のような車載システムによれば、ドライバが明瞭に聴取できる可聴帯域内の音声間の音声成分間の周波数差によってドライバにバイノーラルビートを生成するので、ドライバに良好にバイノーラルビートを認知せしめ、ドライバの状態を効果的に適正な状態に誘導することができる。
【0012】
また、このようにバイノーラルビートを生み出す出力音声が出力されるスピーカは、運転席に着座したドライバの耳の近くとなる位置に配置されており、その出力音は基本的にドライバにのみ聞こえるので、ドライバの状態の誘導のために、他の搭乗者にとっての車内環境を乱す外乱が発生することも抑止される。
【0013】
また、オーディオソース機器が出力するオーディオコンテンツの音声を周波数シフトしてバイノーラルビートを生み出す出力音声として、ドライバに対するオーディオコンテンツの音声の出力に用いているスピーカから出力する場合には、状態誘導時にも、ドライバが、状態誘導を行っていないときと、おおよそ等しいオーディオコンテンツの音声を聴取し続けることができるようになる。よって、ドライバに特段の違和感を与えることなく、より自然な形態でドライバの状態を誘導することができると共に、バイノーラルビートの生成のための別途のスピーカを設ける必要を排除することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、他の搭乗者にとっての車内環境を乱すことなく、自動車のドライバの状態を、運転に適した状態に、より確実に誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る車載システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るスピーカの配置を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るドライバ生体センサの配置を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るバイノーラルビート生成部の構成例を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態に係るバイノーラルビート生成部の構成例を示すブロック図である。
図6】本発明の実施形態に係るドライバ状態とバイノーラルビートの対応を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係るドライバ状態の算定例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係るドライバ状態誘導処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る車載システムの構成を示す。
車載システムは、自動車に搭載されるシステムであり、図示するように、車載システムは、オーディオソース機器1、バイノーラルビート生成部2、Rチャネル用D/A3、Rチャネル用アンプ4、Rチャネル用スピーカ5、Lチャネル用D/A6、Lチャネル用アンプ7、Lチャネル用スピーカ8、ドライバ生体センサ9、ドライバ状態誘導制御部10、システム制御部11を備えている。
【0017】
Rチャネル用スピーカ5とLチャネル用スピーカ8は、自動車のドライバ用のスピーカであり、たとえば、図2a、bに示すように、Rチャネル用スピーカ5は、運転席のヘッドレストの右側の、運転席に着座したドライバの右耳近くとなる位置にドライバの右耳に向かって音を放射するように配置され、Lチャネル用スピーカ8は、運転席のヘッドレストの左側の運転席に着座したドライバの左耳近くとなる位置にドライバの左耳に向かって音を放射するように配置される。したがって、Rチャネル用スピーカ5とLチャネル用スピーカ8の出力音は、基本的には、ドライバのみが聴取でき他の搭乗者には聞こえない。
【0018】
図1に戻り、ドライバ生体センサ9は、ドライバの生体情報を検出するセンサであり、生体センサとしては、たとえば、図3に示すような、ドライバの脳波を測定し生体情報として出力する、ドライバの頭部に装着された脳波計91や、ドライバを撮影しドライバの温度分布生体情報として出力するサーモグラフカメラ92や、ドライバの脈拍や体温や発汗状態を測定し生体情報として出力する、ドライバの腕に装着されたセンサ93や、ドライバの脈拍や体温や発汗状態を測定し生体情報として出力する、ステアリングホイールに組み込まれたセンサ94や、ドライバの心拍を測定し生体情報として出力する、運転席に埋め込まれたセンサ95等を用いることができる。
【0019】
図1に戻り、オーディオソース機器1は、オーディオプレイヤやラジオ受信機などのステレオのオーディオコンテンツの音声を出力する機器であり、R(右)チャネルの音声RAと、L(左)チャネルの音声LAとよりなるステレオ音声をバイノーラルビート生成部2に出力する。
【0020】
システム制御部11は、ユーザの操作を受け付け、受け付けたユーザ操作等に応じて、オーディオソース機器1の、出力の有無や、出力するオーディオコンテンツの切り替えや、出力するステレオ音声の音質/音量調整等の動作を制御する。
バイノーラルビート生成部2は、Rチャネル用周波数シフト処理部21とLチャネル用周波数シフト処理部22を備えており、ドライバ状態誘導制御部10の制御に従って、オーディオソース機器1が出力するR(右)チャネルの音声RAとL(左)チャネルの音声LAの双方、もしくは、一方の周波数をシフトし、R(右)チャネルの音声RBとL(左)チャネルの音声LBとして出力する。ここで、この周波数シフトは、音声RBの音声成分と|Δf|の周波数差のある音声成分が音声LBに含まれるように行う。
【0021】
周波数のシフトは、可聴帯域内の所定の周波数帯域(たとえば、400Hz-1500Hz)についてのみ行うことが望ましいが、音声RA、音声LA周波数帯域の全てに対して行ってもよい。
可聴帯域内の所定の周波数帯域について、音声RAと音声LAの双方の周波数シフトを行う場合、Rチャネル用周波数シフト処理部21とLチャネル用周波数シフト処理部22は、たとえば、図4aに示すように構成する。
図4aに示す構成において、Rチャネル用周波数シフト処理部21は、入力を音声RA、出力を音声RBとしている。そして、Rチャネル用周波数シフト処理部21は、周波数シフトを行う帯域を対象帯域として音声RAの対象帯域の成分を抽出する対象帯域BPF211、対象帯域BPF211の出力を入力とするピッチシフタ212、音声RAの対象外帯域の成分を抽出する対象外帯域BPF213、対象外帯域BPF213の出力を遅延しピッチシフタ212の出力に遅延時間を揃える遅延部214、ピッチシフタ212の出力と遅延部214の出力を加算し音声RBとして出力する加算器215を備えている。ここで、ピッチシフタ212は、入力の周波数をシフトして出力する装置である。
【0022】
また、Lチャネル用周波数シフト処理部22も、入力が音声RAではなく音声LAである点と、出力が音声RBではなく音声LBである点を除き、Rチャネル用周波数シフト処理部21と同様に構成する。
可聴帯域内の所定の周波数帯域について、音声RAと音声LAのうちの一方のみの周波数シフトを行うときには、図4bに音声RAの周波数シフトを行う場合について示したように、Rチャネル用周波数シフト処理部21とLチャネル用周波数シフト処理部22のうちの周波数シフトを行う方(図4bの場合はRチャネル用周波数シフト処理部21)の構成を図4aと同様の構成とし、他方(図4bの場合はLチャネル用周波数シフト処理部22)を音声RBと音声LBの遅延時間を揃えるための遅延部216のみから構成する。
【0023】
次に、音声RA、音声LA周波数帯域の全てに対して、音声RAと音声LAの双方の周波数シフトを行う場合、Rチャネル用周波数シフト処理部21とLチャネル用周波数シフト処理部22は、たとえば、図5aに示すようにピッチシフタ212によって構成する。
また、音声RA、音声LA周波数帯域の全てに対して、音声RAと音声LAのうちの一方のみの周波数シフトを行うときには、図5bに音声RAの周波数シフトを行う場合について示したように、Rチャネル用周波数シフト処理部21とLチャネル用周波数シフト処理部22のうちの周波数シフトを行う方(図5bの場合はRチャネル用周波数シフト処理部21)の構成を図5aと同様の構成とし、他方(図5bの場合はLチャネル用周波数シフト処理部22)を音声RBと音声LBの遅延時間を揃えるための遅延部217のみから構成する。
【0024】
ここで、音声RAと音声LAの双方の周波数をシフトして、音声RBの音声成分と|Δf|の周波数差のある音声成分を音声LBに含ませる場合、Rチャネル用周波数シフト処理部21とLチャネル用周波数シフト処理部22において、周波数を|Δf/2|正負について反対方向にシフトする。たとえば、Rチャネル用周波数シフト処理部21で周波数を+Δf/2シフトし、Lチャネル用周波数シフト処理部22で周波数を-Δf/2シフトする。
【0025】
また、音声RAと音声LAの一方の周波数をシフトして、音声RBの音声成分と|Δf|の周波数差のある音声成分を音声LBに含ませる場合、シフトする一方の音声の周波数を+Δfまたは-Δfシフトする。たとえば、Rチャネル用周波数シフト処理部21で音声RAの周波数を+Δfシフトする。
【0026】
なお、オーディオソース機器1が出力する音声RAと音声LAは、ステレオ音声の場合、完全に同じ音声ではないが、一般的には、音声RAと音声LAには、同じ音声の成分が多く含まれているため、音声RAと音声LAに|Δf|の周波数差を与えることにより、音声RBの音声成分と|Δf|の周波数差のある音声成分が音声LBに充分に含まれることとなる。
【0027】
図1に戻り、Rチャネル用D/A3は、バイノーラルビート生成部2が出力したR(右)チャネルの音声RBをアナログ信号に変換し、Rチャネル用アンプ4はアナログ信号に変換された音声RBを増幅しRチャネル用スピーカ5に出力する。また、Lチャネル用D/A6は、バイノーラルビート生成部2が出力したL(左)チャネルの音声LBをアナログ信号に変換し、Lチャネル用アンプ7はアナログ信号に変換された音声LBを増幅しLチャネル用スピーカ8に出力する
そして、ドライバ状態誘導制御部10は、ドライバ生体センサ9で検出したドライバの生体情報からドライバの状態を算定し、算定したドライバの状態に応じてバイノーラルビート生成部2の動作を制御する。
【0028】
以下、ドライバ状態誘導制御部10の動作について説明する。
ドライバ状態誘導制御部10は、ドライバ生体センサ9で検出したドライバの生体情報から、たとえば、図6aに示す、覚醒-非覚醒の軸と、快-不快の軸の2軸で感情を分類したRussellの感情円環モデル上の感情状態を、ドライバの状態として算定する。
具体的には、ドライバの生体情報として、ドライバ生体センサ9でドライバの脳波を検出する場合には、脳波中の4Hz-8Hzのθ波(シータ)の成分比が大きくなるほど、ドライバは、よりリラックスし眠りに近づいていると推定されるので、θ波(シータ)の成分比が大きくなるほど、ドライバの状態として、より非覚醒(眠気)の程度が大きい状態を算定する。
【0029】
また、脳波中の14Hz-30Hzのβ波(ベータ)の成分比が大きくなるほど、ドライバの状態は、より緊張していると推定されるので、β波(ベータ)の成分比が大きくなるほど、ドライバの状態として、より覚醒と不快の程度が大きい状態を算定する。
また、ドライバの生体情報として、ドライバ生体センサ9で、ドライバの体温と発汗を検出する場合には、体温がより高く発汗がより多いほど、より覚醒と不快の程度が大きい状態を算定する。
また、ドライバの生体情報として、ドライバ生体センサ9で、ドライバの心拍や脈拍を検出する場合には、心拍の高周波成分(HF)と低周波成分(LF)の比からドライバの状態を算定する。
ここで、高周波成分(HF)としては、0.15Hz-0.40Hzの帯域のパワースペクトルの積分値を用い、低周波成分(LF)としては、0.04Hz-0.15Hzの帯域の周波数分布スペクトルの積分値を用いる。
図7の実線は覚醒状態のときの心拍のパワースペクトル密度(PSD)の例を、図7の点線は眠気があるときの心拍のパワースペクトル密度(PSD)の例を示しており、図示の例のように、HFは副交感神経の活動指標であるため対象者がリラックスしていると大きくなり、LFは交感神経の活動指標であるため緊張感が高まると大きくなる。
【0030】
そこで、ドライバ状態誘導制御部10は、高周波成分(HF)の低周波成分(LF)に対する比が、より大きくなるほど、ドライバの状態として、より非覚醒(眠気)の程度が大きい状態を算定し、低周波成分(LF)の高周波成分(HF)のに対する比が、より大きくなるほど、ドライバの状態として、より覚醒の程度が大きい状態を算定する。
【0031】
さて、ドライバ状態誘導制御部10は、以上のようにして算定したドライバの状態に応じて、上述のようにバイノーラルビート生成部2における周波数のシフトによって実現する、音声RBの音声成分と音声LBの音声成分との周波数差|Δf|を制御する。
周波数差|Δf|の制御は、図6bに示すテーブルに従って、算定したドライバの状態が、予め定めた覚醒の許容範囲に対して覚醒が過剰な状態であれば、周波数差|Δf|を、θ波(シータ)の帯域である4Hz-8Hzの帯域中の周波数とし、算定したドライバの状態が、予め定めた非覚醒(眠気)の許容範囲に対して非覚醒(眠気)が過剰な状態であれば、周波数差|Δf|を、β波(ベータ)の帯域である14Hz-30Hzの中の周波数とし、算定したドライバの状態が、予め定めた不快の許容範囲に対して不快が過剰な状態であれば、周波数差|Δf|を、α波(ベータ)の帯域である8Hz-14Hzの中の周波数とし、その他の場合は、周波数差|Δf|を0とすることにより行う。
【0032】
より具体的には、ドライバ状態誘導制御部10は、図8に示すドライバ状態誘導処理により周波数差|Δf|の制御を行う。
図示するように、ドライバ状態誘導処理において、ドライバ状態誘導制御部10は、まず、上述のようにドライバの状態を算定する(ステップ802)。
そして、許容範囲に対して過剰な状態が算定されたかどうかを判定し(ステップ804)、算定されてなければ、バイノーラルビート生成部2における周波数のシフト量を0として、音声RBの音声成分と音声LBの音声成分との周波数差|Δf|を0に制御する(ステップ806)。
【0033】
一方、許容範囲に対して過剰な状態が算定されたならば、過剰が算定された状態(覚醒/非覚醒(眠気)/不快)に図6bに示したテーブルで対応づけられている周波数差|Δf|が実現されるように、バイノーラルビート生成部2における周波数のシフト量を設定する(ステップ808)。
【0034】
そして、現在、オーディオソース機器1がオーディオ出力中の状態、すなわち、音声RAと音声RBを出力中の状態にあるかどうかをシステム制御部11に問い合わせることにより調べ(ステップ810)、オーディオ出力中であれば、ステップ802からの処理に戻る。
【0035】
一方、オーディオソース機器1がオーディオ出力中の状態になければ、システム制御部11を介してオーディオソース機器1に、所定のディフォルト音の出力を開始させ(ステップ812)、ステップ802からの処理に戻る。このディフォルト音としては、可聴帯域の音(たとえば、400Hz-1500Hzの音)を含む音を用いる。また、ディフォルト音は、音声RAと音声RBが可聴帯域内の同じ音声成分を含む、もしくは、音声RAと音声RBが可聴帯域内の同じ音となるように設定する。
【0036】
以上、ドライバ状態誘導処理によれば、ドライバの感情の状態が過剰である場合、バイノーラルビートを生成し、当該過剰を解消することができる。
たとえば、ドライバが、覚醒が過剰な状態であれば、音声RBと音声LBの周波数差をθ波(シータ)の帯域内の周波数差として、θ波(シータ)の帯域内の周波数のバイノーラルビートをドライバに認識せしめ、これにより、ドライバの感情の状態を、θ波(シータ)がより多く発生する状態であるリラックスした状態に誘導することができる。
【0037】
また、ドライバが、非覚醒(眠気)が過剰な状態であれば、音声RBと音声LBの周波数差をβ波(ベータ)の帯域の帯域内の周波数差として、β波(ベータ)の帯域内の周波数のバイノーラルビートをドライバに認識せしめ、これにより、ドライバの感情の状態を、β波(ベータ)がより多く発生する状態である、より緊張し、より覚醒した状態に誘導することができる。
【0038】
また、ドライバが、不快が過剰な状態であれば、音声RBと音声LBの周波数差をα波(ベータ)の帯域の帯域内の周波数差として、α波(ベータ)の帯域内の周波数のバイノーラルビートをドライバに認識せしめ、これにより、ドライバの感情の状態を、α波(ベータ)がより多く発生する状態である、より集中した状態に誘導することができる。
【0039】
また、本実施形態においては、ドライバが明瞭に聴取できる可聴帯域内の音声RBと音声LBの音声成分間の周波数差によってドライバにバイノーラルビートを生成するので、ドライバに良好にバイノーラルビートを認知せしめ、ドライバの状態を効果的に適正な状態に誘導することができる。
【0040】
また、オーディオソース機器1が出力するオーディオコンテンツの音声RAとRBの一方もしくは双方を僅かに周波数シフトした音声を、バイノーラルビートを生み出す音声RBと音声LBとして、ドライバに対するオーディオコンテンツの音声の出力に用いているRチャネル用スピーカ5とLチャネル用スピーカ8から出力するので、状態誘導時にも、ドライバは、状態誘導を行っていないときと、おおよそ等しいオーディオコンテンツの音声を聴取し続けることができる。よって、ドライバに特段の違和感を与えることなく、より自然な形態でドライバの状態を誘導することができると共に、バイノーラルビートの生成のための別途のスピーカを設ける必要を排除することができる。
【0041】
また、このようにバイノーラルビートを生み出す音声RBと音声LBが出力されるRチャネル用スピーカ5とLチャネル用スピーカ8は、運転席に着座したドライバの耳の近くとなる位置に配置されており、その出力音は基本的にドライバにのみ聞こえるので、ドライバの状態の誘導のために、他の搭乗者にとっての車内環境を乱す外乱が発生することも抑止される。
【符号の説明】
【0042】
1…オーディオソース機器、2…バイノーラルビート生成部、3…Rチャネル用D/A、4…Rチャネル用アンプ、5…Rチャネル用スピーカ、6…Lチャネル用D/A、7…Lチャネル用アンプ、8…Lチャネル用スピーカ、9…ドライバ生体センサ、10…ドライバ状態誘導制御部、11…システム制御部、21…Rチャネル用周波数シフト処理部、22…Lチャネル用周波数シフト処理部、91…脳波計、92…サーモグラフカメラ、93…センサ、94…センサ、95…センサ、211…対象帯域BPF、212…ピッチシフタ、213…対象外帯域BPF、214…遅延部、215…加算器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8